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一過性てんかん性健忘(Transient epileptic amnesia;TEA) [一過性てんかん性健忘(Transient epi]

一過性てんかん性健忘(Transient epileptic amnesia;TEA)
ひょっとして認知症.JPG

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第398回『さまざまな「急速に起きる健忘」─きのうのことは全く覚えていない』(2014年2月7日公開)
 「急速に起きる健忘」の代表疾患が、一過性全健忘(transient global amnesia;TGA)という病気です。比較的よく遭遇する疾患なのですが、意外と知られていない病気です。

 代表的な一例をご紹介しましょう。58歳女性。高血圧症にて通院加療中でした。2008年夏のある暑い日、いつものように外来を定期受診されました。診察を受けて帰られましたが、20分もしないうちに「診察に来ました」と言って戻ってこられました。四肢の麻痺などは無く、普通に会話もできました。念のため、脳出血・脳梗塞も考えて脳の断層撮影(CT)を施行しましたが、やはり何ら異常所見は確認されませんでした。「一過性全健忘だろうと思われますのであまり心配ないと思います」と説明してその日は帰って自宅で様子をみて頂きました。その日は家に帰ってからも、何度も同じ質問を家族に繰り返していたそうです。しかし翌日には、この症状は消失していました。しかしながら昨日のことを尋ねると、本人は「全く覚えていない」と話されました。
 以上は私の自験例の紹介であり、前述のような経過が一過性全健忘の典型的な経過です。

 一過性全健忘(Transient global amnesia;TGA)は、1958年にFisherとAdamsが命名した疾患であり、発生頻度は1年間に人口10万人あたり5人程度です。
 症状は、ある日突然生じる記憶の障害です。2~3分おきに同じことを聞きますし、同じ人に何度も同じ用件で電話を掛けたりします。発作中は新たな記憶の形成ができなくなります。これは前向健忘(メモ1参照)というタイプの記憶障害です。
 また発作前の数日~数週の記憶が消失します。これを逆向健忘(メモ2参照)と呼びます。場合によっては、数年間にさかのぼる逆向健忘を起こします。
 しばしば時間と場所の見当識が障害されます。しかし、人物の識別に関しては通常は障害されず、自分が誰であるかとか、身近な人の名前、自分との関係などは分かっていますので、決して「私は誰?」とは聞きません。
 記憶障害の時間は一般的には数時間以内であり、通常24時間以内に治ってしまいます。健忘は認められるものの、意識障害・運動麻痺などは認められませんので、発作中も車の運転などかなり複雑な行為が可能です。
 逆向健忘は発作後にかなり回復しますが、発作中の記憶はほぼ全部が欠落したままとなり、ほとんど回復しません。
 なお本症の診断に際しては、最近の頭部外傷や活動性てんかんのある患者さんは、診断から除外することになっています。

メモ1:前向(性)健忘:
 記憶障害の原因となった脳損傷が起きた時点以降の記憶が障害されるものです。例えば、記憶障害になった後で行った家族旅行をすっかり忘れてしまっているといった症状です。
 前向性健忘の評価に関しましては、シリーズ第18回『認知症の代表的疾患─アルツハイマー病 アルツハイマー病の症状』のコメント欄においてご紹介しましたように、ミニメンタルステート検査(MMSE)と改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)のなかの遅延再生課題が有用です。

メモ2:逆向(性)健忘(逆行性健忘):
 記憶障害の原因となった脳損傷が起きた時点から、それ以前にさかのぼる記憶が障害されるものです。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第399回『さまざまな「急速に起きる健忘」─なぜ起きる「一過全性健忘」』(2014年2月8日公開)
 海馬の虚血などが一過性全健忘(Transient global amnesia;TGA)の原因説として指摘されていますが、明確な原因は未だに不明です。脳血流検査の一つSPECT(スペクト)検査において、発作中には、海馬・帯状回など記憶に関連する部位での血流低下が認められたという報告もあります。
 大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の數井裕光講師は、TGAが起きる誘因に関して以下のように言及しております(數井裕光:瞬間人. こころの科学 通巻138号 22-28 2008)。
 「発作の数日~数週間前から精神的あるいは身体的に疲労した状態にあった人に、何らかの刺激が加わった直後に生じることが多い。刺激としては、ランニング、体操などの身体的な活動、性交、重要な会議、突然の配偶者の死への直面などの情動的な刺激、冷水との接触や水泳、急性の疼痛(腹痛、抜歯)などの感覚的な刺激などが報告されている。」
 上述の論文の中で數井裕光講師は、逆向健忘が古い出来事から徐々に回復していく様子を刻銘に報告しています。また、手続き記憶に関しても言及しており、「手続き記憶に関連する脳部位としては、基底核や小脳が重要であると考えられている。TGA、アルツハイマー病ではこの領域の障害は認めにくいので、両疾患では手続き記憶は保たれる。すなわち、TGAの発作中でも、発作前に習熟した車の運転、自転車の組み立て、ダンス、オルガンの演奏を行え、新たな手続き記憶も獲得できる。」と述べています。
 TGAは再発することはほとんどなく(再発率は4%弱)、また再発はすぐには起こらず、最初の発作から数年経ってから起こることが多いとされています。TGAと診断されましたら、基本的には継続的な治療の必要はありません。
 なお余談にはなりますが、今でこそ側頭葉の内側部(メモ3参照)が記憶障害と深い関係にあることは周知の事実となっております。しかしながら、1957年に発表されたH.M.(メモ4参照)の報告(Scoville WB, Milner B:Loss of recent memory after bilateral hippocampal lesions. J Neurol Neurosurg Psychiatry Vol.20 11-21 1957)以前は、記憶は脳に局在を持つとは考えられていなかったのです。

メモ3:側頭葉内側部
 内側側頭葉は、大きく分けて海馬(hippocampus)と海馬傍回の2つの領域があります。さらに海馬傍回は内嗅皮質(嗅内野皮質)や周嗅皮質を含む前方の海馬傍回と、後方の海馬傍回である海馬傍皮質とに分けられます。

メモ4:H.M.
 H.M.については、「ひょっとして認知症? Part1─記憶のメカニズム(第26回)」などにおいて詳しくお話しましたね。
 論文においてもH.M.に関する詳細が報告されておりますので、以下に抜粋してご紹介しましょう。
 「H.M.は10歳の時に小発作を初発した。16歳の誕生日、町へドライブに出かける途中で大発作を生じ、以後発作がたびたび起こるようになり、高校で中退し、入りなおした高校も卒業が遅れた。仕事も軽作業を転々とし、27歳のとき組立工をしていたが、中毒域の抗てんかん薬の内服でも大発作が頻繁となり、辞めざるをえなかった。何か治療法がないかとHartford病院のScovilleに紹介された。Scovilleは、精神疾患に施行していた側頭葉内側部の切除がてんかんにも有効かもしれないと、同僚の反対を押し切って、両側側頭極から8cmの範囲を吸引し取り除いた。そしてH.M.の重篤な前向性健忘が明らかとなった。」(海野聡子:症例H.M. 神経内科 Vol.78 433-440 2013)
 なお、前向性健忘だけではなく、部分的な逆向性健忘も呈しました。そして、Scovilleの報告では側頭極から8cmとなっているものの、MRIを用いて切除範囲を検討したところ、側頭極から5.1~5.4cmであり、側頭極、扁桃体、嗅内皮質のほとんどと、海馬の前方が切除されていたそうです。
 H.M.は、記憶以外の認知機能、知能や言語にはほとんど問題がなく、特筆すべきは、運動技術学習(motor skill learning)が保持されていたことでした。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第400回『さまざまな「急速に起きる健忘」─てんかん発作で起きる一過性の健忘』(2014年2月9日公開)
 一過性全健忘(Transient global amnesia;TGA)と非常によく似た症状を示すものに、一過性てんかん性健忘(Transient epileptic amnesia;TEA)があります。TEAは発作性の健忘を主症状とするてんかん発作です。
 国際医療福祉大学病院神経内科・難病部長の橋本律夫医師は、TEAの特徴として以下の8項目を指摘しています(橋本律夫:健忘症候群を呈するてんかん. 神経内科 Vol.72 245-251 2010)
1 中年から高齢者に発症し、男女比は約2:1で男性に多い
2 健忘発作は前向(性)健忘と逆向(性)健忘が併存していることが特徴で、患者はときに同じ質問を繰り返す
3 前向(性)健忘はしばしば不完全で、患者自ら「憶えることができなかったことを憶えている」と訴える
4 発作は一般に日中の覚醒時に起こる
5 幻臭、自動症、短時間無反応の状態が健忘発作に伴って、あるいは単独でみられることがある
6 健忘発作の持続時間は1時間以内のことが多いが、ときにそれよりも長い
7 比較的少量の抗てんかん薬によく反応する
8 発作間歇期にも多くの患者では健忘を訴える

 なお橋本律夫医師はTEAとTGAの鑑別に関しても言及しており、「TGAは発作を繰り返すことはほとんどなく、1回の発作時間がTEAに比べて長いという特徴がある。しかし、TGAの発症年齢はTEAのそれとほぼ同じであり、TEA初回発作でその発作時間が長く脳表脳波で異常が検出されなかった場合、鑑別はときに困難である」と述べています。

 てんかんに関する記載は相当古くからみられており、古代ギリシャの医師であるヒポクラテスは「神聖病」として記述しているそうです。
 てんかん発作による記憶障害は、①一過性てんかん性健忘(Transient epileptic amnesia;TEA)、②長期的な前向性健忘、③限局性焦点性逆向性健忘に分類されています。一過性てんかん性健忘は、短時間から数日にわたる健忘が主症状で、明らかな意識障害は伴わずに記憶が抜け落ちます(杉本あずさ、河村 満 他:てんかんと認知症. BRAIN and NERVE Vol.64 1399-1404 2012)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第401回『さまざまな「急速に起きる健忘」─隠れ脳梗塞について』(2014年2月10日公開)
 一過性てんかん性健忘は非常に特殊な疾患であると私自身は考えておりました。しかし2012年1月18日のNHK「ためしてガッテン」において、「まさかっ!! もの忘れに効く薬があったなんて 認知症診断の落とし穴 発想の転換で劇的回復」という過激なタイトルで放送されましたのでついつい食い入って観てしまいました。
 番組で放送された内容(http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20120118.html)を少しご紹介しましょう。
 番組においては、高齢発症のてんかんの要因の一つとして「無症候性脳梗塞」(俗称:隠れ脳梗塞)が挙げられることが指摘されました。
 無症候性脳梗塞について説明しておきましょう。
 脳深部の直径1.5cm以下の小さな脳梗塞は「ラクナ梗塞」と呼ばれます。ラクナ梗塞は一般的には症状は出にくいのですが、詰まった場所が悪ければ症状が出ますので「無症候」ではなくなります。
 ラクナ梗塞に関しては、「ひょっとして認知症? Part1─■100歳の美しい脳(その4) 脳の深い場所にある病変は実は多い(第523回)」において、「『アルツハイマーの脳』と診断されたシスターのうち、シスター・アグネスのように白質や視床などに最低ひとつのラクナ梗塞がある人は、93%の割合でdementia(痴呆)になっていた。『アルツハイマー脳』でありながら、梗塞のまったくなかった人は、57%しかdementiaになっていない。」という極めて興味深いデータをご紹介しましたので記憶に残っておられる方もおられるのではないでしょうか。国立循環器病研究センター脳神経内科の猪原匡史医師はこの研究結果を、「大脳基底核・視床・深部白質のラクナ梗塞があると、アルツハイマー病の顕性化率が20倍になるという報告(修道女を対象としたNun研究)がある(Snowdon DA, Greiner LH, Mortimer JA et al:Brain infarction and the clinical expression of Alzheimer disease. The Nun Study. JAMA Vol.277 813-817 1997)」(猪原匡史:認知症の診断と治療を目指した小血管病の管理. BRAIN and NERVE Vol.65 801-809 2013)と紹介しております。
 脳の「サイレントエリア」に起きた脳梗塞であれば、脳梗塞を発症しても症状が出ませんので、「無症候性脳梗塞」(俗称:隠れ脳梗塞)と呼ばれます。
 ラクナ梗塞と無症候性脳梗塞の関係はちょっと複雑です。古典的には無症候性ラクナ梗塞はラクナ梗塞に含まれません。このことはウィキペディアにおいても解説されております(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B3%E6%A2%97%E5%A1%9E)ので、詳しく知りたい方はウィキペディアの「ラクナ梗塞」についての記載をお読み下さい。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第402回『さまざまな「急速に起きる健忘」─ 一過性てんかん性健忘にも種類』(2014年2月11日公開)
 脳ドックなどを受けますと、無症候性脳梗塞が見つかるケースは多々あります。
 無症候性脳梗塞は、欧米では潜在性脳梗塞(silent cerebral infarction;SCI)と呼ばれており、韓国での報告では、40代2.4%、50代6.6%、60代14.7%、70代25%にSCIが認められたことが報告されております。なお、脳ドックを受診した健常成人(平均60歳)における無症候性脳梗塞の頻度は、60歳代から急激に増加し、70歳代以降では35%にも達するものの全体の頻度は約14%で、久山町の剖検による頻度12.9%とほぼ一致していることも報告されております(斎藤 勇:無症候性脳血管障害. 日本医師会雑誌・生涯教育シリーズ56─脳血管障害の臨床 S203-213 2001)。
 したがって70歳以上の方がCT・MRI検査を受けますと、およそ3人に1人の割合で「あなたは脳梗塞があります」と医師より告げられることになるわけですね。
 「無症候性脳梗塞」に関してもう少し詳しい情報を知りたい方は、大阪医療センターのウェブサイト(http://www.onh.go.jp/seisaku/circulation/kakusyu115.html)などご参照下さい。
 しかしながらここで注意しておくべきことがあります。隠れ脳梗塞による一過性てんかん性健忘かも…と思っていたら、そうではない場合もあるということです。2012年4月21日に開催されたアルツハイマー病研究会第13回学術シンポジウムにおいて、東京都健康長寿医療センター放射線診断科の徳丸阿耶部長は、「治りにくいてんかん性健忘として、海馬硬化症(メモ5参照)の存在を忘れてはならない」ことを指摘しました。

メモ5:海馬硬化性認知症(hippocampal sclerosis dementia;HSD)
 海馬硬化症は、てんかん・認知症などとの関連が示唆されている疾患です。高齢初発のてんかん患者さんを診察したときには、海馬硬化症も念頭におく必要があります。
 病変が海馬に限局しているときには、症状は記憶障害だけです。しかし病変が拡がってくると、その症状はアルツハイマー病と類似した症状を呈してきます。
 軽度認知障害、認知症疑いでMRIを施行した3,500例のうち、2%程度で「海馬硬化症」が確認されるそうです。海馬硬化症においては、MRI上は海馬の萎縮所見が目立つため、安易にアルツハイマー病と誤診される可能性があり注意が喚起されております(村山繁雄:認知症におけるMRI診断の可能性. 医学のあゆみ Vol.235 No.6 619-626 2010)。
 海馬は、低酸素や虚血に対して特に脆弱な部位です。心不全・呼吸不全などの内科疾患が重篤化した場合や、麻酔・手術などの際に脳が低酸素状態にさらされた場合に、海馬の神経細胞が脱落し海馬硬化症が生じうるのではないかと考えられています。
 海馬硬化症の画像診断の特徴として、両側ないしは片側の海馬の萎縮と、MRIでのT2強調画像やFLAIR画像でのシグナル上昇が指摘されています。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第403回『さまざまな「急速に起きる健忘」─高齢者のてんかんを見逃してはいけない』(2014年2月12日公開)
 日本神経治療学会では、65歳以上で発症するてんかん(高齢発症てんかん)の有病率を1~2%と推定しております。
 産業医大神経内科の赤松直樹准教授らの調査によると、高齢発症てんかんの病因としては、「病因・病変なし」が半数の50.0%であり、病因が明らかなものでは、脳血管障害が16.3%と最も多かったそうです。認知症は8.8%を占めていたそうです。
 高齢発症てんかんの発作型は、痙攣を生じる二次性全般化発作が45.0%と最も多く、次いで、痙攣を生じない複雑部分発作が43.8%を占めた そうです。
 複雑部分発作の典型的な症状は、1~2分間、目を開けたままぼ─っとしているといった症状であり、本人はこの発作中のことを覚えていないものの、意識が完全に消失しないため倒れることはありません。複雑部分発作では、口をもぐもぐさせたり、手をもぞもぞ動かす自動症が認められることもあります。
 東京医科歯科大生命機能情報解析学の松浦雅人教授は、高齢発症てんかんは薬物療法が効きやすく、カルバマゼピンを少量(例えば、入眠前に成人用量の3分の1に当たる200mg)投与すれば、約9割の患者で発作がコントロールできると指摘しております(第542号2013年1月号日経メディカル・トレンドビュー 高齢者てんかんを見逃すな 22-23)。
 関東労災病院神経内科部長の玉川聡医師は、「著者は、アルツハイマー型認知症として治療されていたが、入浴中の溺水を契機に意識減損発作が疑われ、側頭葉てんかんの診断に至った症例を経験している。妻から詳細な情報を聞くと、以前より口をクチャクチャいわせたり、枕をずっと回し続けたりといった症状を発作性に生じていたことが確認できた。」と報告しております(玉川 聡:認知症に潜むてんかん. Modern Physician Vol.33 110 2013)。

 2012年1月18日のNHK「ためしてガッテン」の放送日、私が夕方診療をした急患(50歳代・男性)は、偶然にも「ラクナ梗塞」の患者さんでした。
 お話をお伺いすると、以下のような経過でした。
 「一昨日の夜深酒をした。昨日の朝起きたら、呂律が回らなかった。その日の訪れた友達に『お前、呂律回ってないよ』と言われたが、そのうち治るだろうと思って様子を見ていた。今日になっても呂律が回らないので来院しました。」
 握力を測定してみると、右が36kg、左が35kgでした。ご本人に利き手を確認すると、左利きであり元々の左握力は50kgを超えていたことが確認され、また歩行に際しては、左足がもつれる様子が観察されました。構音障害と左半身の片麻痺が認められましたので、早速、脳の断層撮影(Magnetic Resonance Imaging;MRI)を実施しました。
 結果は、右橋部のラクナ梗塞でした。橋梗塞といえば脳幹梗塞の一つでありかなり重篤な病状となるケースもしばしばです。そこで、点滴治療のため緊急入院して頂きました。歩行障害は比較的短期間で軽快し退院することができました。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第404回『さまざまな「急速に起きる健忘」─若い人の脳梗塞の場合に』(2014年2月13日公開)
 比較的若年の方が、脳梗塞を発症した場合には、特殊な原因も念頭に置く必要があります。例えば、CADASIL (cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)などです。
 CADASILは、遺伝性の脳小血管病です。長岡赤十字病院神経内科の今野卓哉医師が論文(今野卓哉、小野寺 理:遺伝性脳小血管病. 医学のあゆみ Vol.235 745-748 2010)において、その特徴を以下のように解説しております。
 「20歳前後から前兆を伴う片頭痛発作が出現し、無症候性に白質病変が出現・拡大し、40歳前後で脳梗塞発作を起こす。白質病変の進行と脳梗塞を繰り返すことで運動機能の低下と認知症をきたし、60~70歳前後で死の転帰をとる。認知機能は、注意障害や遂行機能、語の流暢性が障害されやすい。MRIではT2強調画像で、両側大脳白質に斑状で融合傾向のある高信号病変を認める。」
 60歳までに7割が注意障害や遂行機能障害、記銘力障害を主体とする認知機能障害を呈する(他田正義、今野卓哉 他:遺伝性脳小血管病とHDLS. 神経内科 Vol.78 388-395 2013)そうです。片頭痛を既往歴に持つ患者さんのMRI検査において、白質病変が顕著に目立つ場合には、CADASILも念頭に置く必要があるということになりますね。
 また、亀田メディカルセンター神経内科の福武敏夫部長は、「CADASILのもっとも早期の症状は前兆を伴う片頭痛である。一般人口の4倍くらい多いが、家系や人種で異なり、有症状患者の20~30%にみられるに過ぎない。片頭痛の平均発症年齢は28~30歳であり、脳梗塞発症後に消失する。」(福武敏夫:遺伝性細小動脈症性脳症(CADASILとCARASIL)の身体症状と認知症状. Modern Physician Vol.33 82-85 2013)と指摘しております。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第405回『さまざまな「急速に起きる健忘」─てんかんは早い段階で診断を』(2014年2月14日公開)
 2012年1月18日放送のNHK「ためしてガッテン」(http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20120118.html)においては、脳梗塞によって脳の血流が滞り次第に「てんかん」が引き起こされやすくなる機序(燃え上がり現象)に関しても放送の中で説明がありました。
 むさしの国分寺クリニックの大沼悌一院長は、「早い段階できちんとてんかんの診断を受け然るべき治療を受けないと、発作症状がだんだん悪くなって取り返しがつかないというふうになる可能性がある。そういう恐れがあります。」と指摘しました。クリニックのホームページ(http://www.mkclinic.sakura.ne.jp/)には、「中高年の物忘れとてんかん」(http://www.mkclinic.sakura.ne.jp/monowasure.html)というコーナーもありますのでご参照下さい。
 そして「だんだん悪くなる」根拠として番組では、ラットの実験が紹介されました。「1日1回、ラットの脳に微弱な電流を流す程度では、けいれんは起きません。しかしこれを2週間続けたところ、けいれんが起きるようになった。」というもので、この現象は「燃え上がり現象」と呼ばれており、小さな発作がより大きな発作を引き起こすてんかん特有の現象であると番組内で紹介されました。
 そして番組では、「一過性てんかん性健忘」の事例が紹介されました。70歳代の男性患者さんです。奥様とともに実名で番組に出演されておりました。
 発症したのは5年前です。意識や記憶の障害が起こるようになりました。本人は発作中の出来事ですので、記憶が抜けていることに対する自覚がありません。
 実施された脳波検査では、「異常なし」と診断されます。しかしその後、奥様がつけていた詳細な症状の記録が契機となり、ようやく正しい診断が下されることになりました。
 いくつかの病院を経て辿り着いたのは、国立精神・神経医療研究センター病院精神科の渡辺雅子医長の外来でした。奥様の記録から、てんかん発作が夜に多いのではないかと気づいた渡辺雅子医師は、入院による「長時間ビデオ脳波検査」(メモ6参照)を実施しました。
 この検査により診断が確定し、抗てんかん薬による本格的な治療が始まりました。それから2カ月後、てんかん発作は消失しました。
 渡辺雅子医師は、「今後、高齢発症のてんかんは増加していくと思われる」と指摘します。また、「てんかんは、薬で約8割は発作をほぼコントロールできる」ため、てんかん症状の見分け方を正しく理解することが大切であると言及しました。
 渡辺雅子医師が指摘した「てんかん症状の見分け方」を以下に列記しましょう。
1 時間単位で、良い時と悪い時(何となくぼんやりしている)が出現する
2 記憶がまだら状に抜ける
3 短時間(3~5分程度)意識がとぎれる(返事をしなくなる)
4 身振り自動症(意識がなくなっている間に、自分の衣服をまさぐるなどの動作を無意識に行う)
 この他にも、一過性てんかん性健忘(Transient epileptic amnesia;TEA)の特徴として、中年・高齢者に多い(平均62歳)、起床時に起こりやすい(74%)、通常の記銘力検査は正常でも過去3週間にわたる記憶は有意に低下しているといった傾向がみられることも報告されております。なお脳波検査においては、てんかん性放電は37%において認められるものの、31%は正常であったことも指摘されており、頭蓋骨によって電位が1/7~1/10に減衰することもその一因となっております(編集/朝田 隆 著/池田昭夫、木下真幸子:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, pp112-113)。
 すなわち、通常の脳波検査だけでは診断が確定しないケースも随分と多いわけですね。

メモ6:ビデオ脳波同時記録
 脳波にてんかん性異常波が検出されても、それが臨床発作症状を説明し得るものでなければならない。発作および症候群が不明の場合、ビデオ脳波同時記録が参考になる(てんかん診断ガイドライン. てんかん研究 Vol.26 110-113 2008)。
 「てんかんの診断ガイドライン」はウェブサイト上(http://square.umin.ac.jp/jes/pdf/guideline0704.pdf)においても閲覧可能です。


Facebookコメント
ドキドキ感のない2月14日
 今日は特別な2月14日になりそうです。
 そう、遂に私にも「チョコ0」の日がやってきます。
 何故かって? 
ヒント
 義理だけじゃ…って時代になってきたのかな。
 かつて20代の絶頂期には70を超えるチョコをもらったこともあるのに…。
 認知症の人が抱える「喪失感」と共通の寂しさがそこにはあるような…。
正解
 実は、今年から職場が「義理禁止!」となったのです。
 一人くらい「本命」があっても良かったのに…。
 家に帰ってからの「義理」に期待します。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第406回『さまざまな「急速に起きる健忘」─79歳が起こした交通死亡事故が「不起訴」の理由』(2014年2月15日公開)
 「一過性てんかん性健忘」の発作中は、患者さんは一見すると正常な行動をしているように見えます。しかし、後になってある一定期間の記憶が抜け落ちていることに気づきます。脳波では側頭部に異常波を認めることがあります(伊藤ますみ:誤診されやすい高齢発症てんかん. 2012年3月10日発行日本医事新報No.4585 48-49)。
 物忘れが目立ってこられた方で、もしも上記に該当するような症状がありましたら、認知症ではなく「ひょっとして一過性てんかん性健忘かも?」と疑って脳波検査の可能な医療機関を受診することが正確な診断に結びつくわけです。
 東京都立神経病院脳神経外科の森野道晴部長は、「高齢者てんかんの原因は若年者と異なり、脳血管障害(30~40%)、次いで頭部外傷、アルツハイマー病、脳腫瘍などが挙げられるが、全体の1/3は原因が不明である。高齢者のてんかんでは非けいれん発作が多いため、診断が困難である。」と指摘しています(2012年2月18日発行日本医事新報No.4582 55-56)。
 2012年2月27日付中日新聞においては、この「一過性てんかん性健忘」に関わるニュースが1面トップ記事として報道されました。
 79歳男性の起こした交通死亡事故の原因が、捜査の過程で初めて「てんかん」と診断されたため、持病としての自覚がなく、発作の予見は困難で刑事責任は問えないと判断し、名古屋地検一宮支部は「不起訴」としました。
 記事のサブタイトルは、「高齢者、物忘れと勘違い」となっています。すなわち、「高齢者のてんかんの場合、数秒だけ意識を失って動作が止まる症状が目立ち、発作を記憶していない場合も多く、居眠りや物忘れと勘違いし、家族も気付きにくい。」と記事では解説されておりました。
 静岡てんかん・神経医療センターの井上有史院長(臨床てんかん学)も、「高齢者の症状は注意深く観察しないと発見が難しい」と指摘しております。
 なお、日本てんかん協会には、「相談専用ダイヤル」(TEL:03-3232-3811)もあり、病気のことや経済的な悩み、生活上の問題など、また福祉制度に関する手続きを含めて、てんかんに理解のある相談員が電話相談に応じております。平日の月曜・水曜・金曜の13:15~17:00が受付時間です(http://www.jea-net.jp/jea/jigyou_soudan.html)。

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 2014年1月号の「神経内科」雑誌は「症候性dementia」を特集しています。
 HIV脳症に関する論文の中で、とある感染症拠点病院における「感染経路」の%が報告されておりますので、抜粋して以下にご紹介しましょう(改変しております)。
 「約17年間のHIV感染者は1,263名で、そのうちAIDSは392名(31%)であった。男性1,140名、女性123名で、感染経路は男性同性間接触826名、異性間性的接触288名、輸血・凝固因子製剤30名、母子感染1名、不明118名である。」【○○ ○郎:HIV脳症(AIDS dementia complex)のdementia. 神経内科 Vol.80 77-84 2014】

 異性間性的接触も288名(288/1263=22.8%)と決して少なくないことが分かりますね。この数字を見て私は、「異性間性的接触」の内訳を示してほしいと感じました。すなわち、男性→女性の頻度(○○/288)、女性→男性の頻度(○/288)という内訳ですね。
 何故かと言いますと、「異性間性的接触でのHIV感染では男性が女性から感染する確率は、女性が男性から感染する確率の約10分の1」(http://homepage2.nifty.com/iwamuro/hivtoukei.html)であることが知られているにも関わらず、現実には平成17年4月25日のエイズ動向委員会委員長コメント(http://idsc.nih.go.jp/iasr/26/303/kj3033.html)でも指摘されておりますように「異性間性的接触によるものが49件(うち男性32件、女性17件)」という理屈に合わない結果となっているからです。
 その理由については上記報告の中でも「一人の女性から複数の男性が感染しているのか?」と考察されておりますが果たしてそれだけの理由なのでしょうか? 私は専門外でよく分かりませんが…。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第407回『さまざまな「急速に起きる健忘」─アルツハイマー病とけいれん発作』(2014年2月16日公開)
 アルツハイマー病においては、病状の進行につれてけいれん発作が出現しやすくなります。
 「アルツハイマー病:神経症状の合併は3%/年ずつ増加し、発語や表情障害(4%/年)、固縮(2.5%/年)、姿勢歩行障害(3.9%/年)、無動(3.8%/年)も毎年増加したが、振戦の増加はまれ(4~7%/2年)で、経過が進むとミオクローヌス(メモ7参照)や約10%にけいれんがみられる。」(東海林幹夫:アルツハイマー病の身体症状と認知症状─症候と検査所見のポイント. Modern Physician Vol.33 78-81 2013)
 大規模研究(Scarneas N, Honig LS, Choi H et al:Seizures in Alzheimer disease: Who, when, and how common? Arch Neurol Vol.66 992-997 2009)においては、アルツハイマー病の平均3.7年の経過中発作が生じたのは1.5%のみであった(シリーズ総編集/辻 省次 専門編集/河村 満 著/伊藤ますみ:アクチュアル脳・神経疾患の臨床─認知症・神経心理学的アプローチ 中山書店, 東京, 2012, pp309-312)ことも指摘されております。
 しかしながら、アルツハイマー病におけるけいれん発作は進行期だけではなく病初期においても認められるとする報告もあります。
 国立病院機構宇多野病院神経内科(関西てんかんセンター)の木下真幸子医師は、「アルツハイマー病において、ミオクローヌスやけいれん発作が出現するのは進行期になってからであるとされてきたが、病初期~中期においてもー般人口と比較しててんかん発作の合併率は高いとの報告(Irizarry MC et al:Incidence of new-onset seizures in mild to moderate Alzheimer disease. Arch Neurol Vol.69 368-372 2012)がある。」(木下真幸子:てんかんと認知症はどう鑑別すればよいでしょうか? 治療 Vol.94 1745-1747 2012)と指摘しております。

メモ7:ミオクローヌス
 筋肉が、急に激しくぴくつくもので、音や光などで誘発されることもあります。健常な人でも眠りかけた時などには、「ビクッ」とするミオクローヌスは時折あります。
 弧発性クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt Jakob disease;CJD)では、発症後数か月以内にほとんどのケースでミオクローヌスが認められます。ただし、アルツハイマー病やレビー小体型認知症においてもミオクローヌスが認められることがあります。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第408回『さまざまな「急速に起きる健忘」─特殊だけど「全生活史健忘」がある』(2014年2月17日公開)
 非常に特殊な健忘症に、「全生活史健忘」という病態があります。社会的な出来事に関する記憶が保たれているのに自己の生活史の記憶を失っている状態です。精神科疾患としての全生活史健忘は、非適応的性格や心理的葛藤、抑うつ状態を背景に出現し、全生活史健忘が防衛機制として機能するようです。一方、全生活史健忘が器質的脳疾患によっても出現することが稀にあり、軽微な頭部外傷後に発症するケースがあるようです(吉村菜穂子、大槻美佳:頭部外傷後の全生活史健忘. 脳神経 Vol.51 55-57 1999)。
 いずみの杜診療所(http://www.izuminomori.jp/area/izumi/izumi_cl.html)の山崎英樹医師は著書において、「さっきのことは思いだせても、昔のことが一定期間をさかのぼって思いだせないという純粋逆向健忘が、2~3年から10年以上にわたることがあり、全生活史をおおうときは全生活史健忘といいます。数年の純粋逆向健忘は単純ヘルペス脳炎や外傷後の内側側頭葉病変から生じることがあり、全生活史健忘には心因性と思われるものもあります。」と述べています(山崎英樹:認知症ケアの知好楽 雲母書房, 東京, 2011, p88)。
 全生活史健忘は、一定の期間を経てある程度は自然に回復する傾向が認められます。
 京都大学大学院人間・環境学研究科の大東祥孝教授は、全生活史健忘の発症・回復の過程に関して、実例(25歳・男性)も提示して詳しく報告しております(大東祥孝:記憶と意識─全生活史健忘. こころの科学 通巻138号 64-70 2008)。
 「全生活史健忘の典型例では、発症は、倒れて意識を失い、まもなく意識を回復した時点で、はたと自分が誰であるかわからない、ということに気づくことで始まる。時にこうした状態が長期に続く場合もあるが、多くは、数カ月以内にもとに戻る。…(中略)…回復時の過程は、短時間(数時間以内)のうちに急激に戻る場合もあれば、眠って覚醒するごとに徐々に回復してゆくこともある。急激に回復する場合でも、何か想い出しそうな予感が続いて、深く眠ったあとに、大きな変化に気づくことが多く、また、夢のなかで、いわば先取りして『想起できない過去』のシーンが現れることもある。」


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第409回『さまざまな「急速に起きる健忘」─ピアノマンは「全生活史健忘」だったのか?』(2014年2月18日公開)
 全生活史健忘においては、自己アイデンティティの喪失(メモ8参照)を来します。自伝的記憶(自身の体験に関するエピソード記憶)の取り出しには、右半球側頭葉前部から前頭葉眼窩部におよぶ領域が深く関わっていることが示唆されています。
 皆さん、「ピアノマン」の報道は記憶に新しいのではないでしょうか。2005年4月にイギリスの海岸で、びしょ濡れの黒いスーツとネクタイ姿の若い男性が彷徨っており保護されましたね。ひと言も話さないため、病院職員が紙と鉛筆を渡すと、グランドピアノの絵を描き、ピアノの前に連れて行くと「白鳥の湖」などを巧みに演奏したという報道です。診断名は明らかにされていませんが、「ピアノマン」は全生活史健忘だったのではなかろうかと私は推測しております。

メモ8:自己アイデンティティの喪失
 「心理的要因の大きな健忘は解離性健忘(dissociative amnesia)である。解離性障害とは、記憶、意識、人格の連続性に障害が生じ、記憶や意識の欠損、人格の交代などの症状を呈する疾患である。健忘が主症状の場合には解離性健忘と診断される。解離性健忘は、全般型解離性健忘と局在型解離性健忘に大きく分けることができる。
 全般型では、過去の記憶を広範囲にわたって想起できなくなる。健忘が人生のすべての記憶に及んだ場合は、全生活史健忘と呼ばれる。全生活史健忘では、自分がだれであるか、出身地、家族構成、学歴や職歴など、履歴書に記入するような情報を想起できない。この症状を自己アイデンティティの喪失という。全生活史健忘で場所の移動を伴う場合には、とん走(fugue)を伴うと診断される。とん走を伴う患者は、何の関係もない遠方の土地をぼんやりと徘徊して挙動不審のために、ときには、自殺企図や自殺未遂のために、警察に保護されることがある。名前が言えないために、医療機関に搬送され、脳器質的疾患を否定された上で精神科診察室に登場する。自己アイデンティティの喪失を伴う解離性健忘患者が、別の土地で別の名前で、自分がだれであるのかわからないまま、別の人生を歩んでいたという症例報告もなされている。
 全生活史健忘では、器質性の健忘症候群のように、記憶の欠損を作話で補うことはせず、『わからない』を連発する。前向性健忘の検査では、成績低下を認めたとしても軽度である。」(吉益晴夫:記憶. 精神科 Vol.23 147-151 2013)

家族が疲れ果てる夜間頻尿 & 尿と便の困りごと [夜間頻尿 昼夜逆転 弄便 過活動膀胱]

1)家族が疲れ果てる夜間頻尿 2)尿と便の困りごと

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1)家族が疲れ果てる夜間頻尿

朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第507回『■家族が疲れ果てる夜間頻尿(その1)―意外な対策があるものだ』(2012年8月24日公開)
 認知症患者さんを介護していくうえで、非常に困る症状の一つとして「夜間頻尿」があげられます。シリーズ第95回『シリーズ・家族が困惑する認知症患者さんの不眠・頻尿(1)』でも述べましたように、昼間の頻尿でしたらまだしも、夜間にフラフラしながらトイレに行くような状況ですと、転倒しないかと心配になり家族も起きてしまい、介護者も睡眠不足になってしまいます。
 このようなケースへの対応は非常に困難であるのが現状です。埼玉セントラル病院の鈴木智子認知症看護認定看護師がこのようなケースに対する興味深い対策を看護専門誌において報告しています。
 「Lさん(90歳代前半・男性)は、昼夜逆転で夜間不眠を呈しています。評価を進めると、Lさんの場合には、夜間の排泄が睡眠中断の原因であることが推測されました。夜間の排尿回数が増える原因も検討されました。日中は車椅子に長時間座っていることで血液循環が悪くなっています。しかし、夜間ベッドに臥床すると血液循環がよくなり、尿を生成しやすくなり排尿回数が増えているのではないかと考えました。そこで、午前と午後に1時間ずつ就床する時間をつくり血液循環を改善できるようにしたり、生活リズムを整えるため日中に光を浴びたり活動を促したりするうちに生活リズムが整っていき、Lさんは夜間にまとまった睡眠が取れるようになりました。」(月刊ナーシング Vol.31 No.13 56-59 2011)
 この「午前と午後に1時間ずつ就床する時間」という発想は私にはとっても意外なものでした。昼夜逆転への対応としては、昼間寝かさないことが基本原則とされてきました。試行錯誤の連続からこのような対策が功を奏したのでしょうか。パーソンセンタードケア実現のためには、介護スタッフの豊かな「想像力と創造性」が求められます。常識にとらわれない対策も時には必要ということですね。

 筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学の朝田隆教授は、著書の中で排尿全般に関するアドバイスを以下のように述べています(朝田 隆・編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, pp166-167)。
 「排泄介助において、手を出すべきタイミングをとらえるのは難しい。日時によってもタイミングは異なる。特に本人にさっき失敗した経験が残っていると容易に混乱してしまう。相手の好みと能力を知ることが対応の基本である。
 なお、失禁対策にはトイレ誘導という方法がある。これは介護者が率先してトイレへ導くことである。しかし一定時間ごとにトイレ誘導しても、空振りが多くて駄目らしい。抗利尿ホルモンの分泌パターンを考慮して、尿の生成が少ない午前中は数少なくても、多くなる午後に頻回に誘導するのが望ましい。なお、ウォシュレットなどのボタン系は操作が難しいので、誤操作(流すつもりがお尻に放水など)で本人がびっくりしてしまう。一緒にトイレに入って、『後は行為だけ』のところまで一緒にいてケアしてあげればよい。
 認知症が進行して施錠・開錠が怪しくなれば、鍵は外したりドアを開けたままにしたりしておけばよい。このようなステージでは、列車や飛行機であっても一緒にトイレに入るのが望ましい。」

入所も一つの選択肢
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/24 11:24
 先週の金曜日に、30分毎の夜間頻尿および不穏にて、かかりつけ医から相談を受けた事例(80代後半・女性)をご紹介しましょう。
 ご家族は、家で看たい!という想いと介護疲れが交錯している状況でした。ご家族も30分置きに起きている状況であり、私は「在宅介護の限界」と感じ、すぐに入所可能なサービス付き高齢者専用賃貸住宅(高専賃)への入居をお勧めしました。
 投薬は、SSRIを1錠だけ投薬しました(強迫性の頻尿に対して)。
 セロトニンは情動と行動を制御する重要な神経伝達物質であり、セロトニンの異常はうつ・強迫性障害・攻撃性などに関連します。脳のセロトニンを増加させる薬物療法(SSRI型の抗うつ薬)がこれらの状態の治療に用いられることがあるのです。
 さて、この患者さんは2~3日程前に入所され、本日再診されました。
 当直をされた高専賃の施設長の方のお話では、8月22日は夜間3回の排尿があったようです。しかし、23日には安定剤投与の効果もあったのか夜間一度も起きずに朝までぐっすり眠られたそうです。
 入居し、昼間しっかり覚醒していたことが良かったのか、SSRIが効果を発揮したのか、安定剤が効いたのか判定は難しいところですが、いずれにしても家族が困惑した頻回の夜間頻尿が短期間で、ものの見事に解消した事例です。
 高専賃の施設長の方も認知症ケアに理解のある方でしたのでホッとひと安心です。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第508回『■家族が疲れ果てる夜間頻尿(その2)―昼夜逆転には積極的に取り組む』(2012年8月25日公開)
 松本診療所ものわすれクリニックの松本一生院長(元大阪人間科学大学教授)は、心理教育アプローチも加味した家族支援を行ったところ、認知症の人の昼夜逆転が改善する傾向が確認された(松本一生:認知症と家族臨床. 家族療法研究 Vol.28 303-306 2011)と報告しております。
 松本一生先生が「昼夜逆転」に対して熱心に取り組む理由は、介護破綻に繋がりかねない危機的な状況となりうるからであることが共著において語られています(朝田 隆・編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, pp128-129)。以下にその部分をご紹介します。
 「幻覚・妄想だけにとどまらず、昼夜逆転や興奮などの行動障害が加わるとき、介護者の負担は頂点に達する。筆者のこれまでの経験から得たイメージでは、介護者が認知症の人の昼夜逆転と向き合うことでケアが破綻してしまうのにかかる時間は1週間ほどである。場合よっては2~3日で在宅ケアが破綻してしまうこともある。介護者が寝られないなかでケアをしなければならない状況は、それほどまでに介護者を追い詰める。介護者支援が最も緊急性を帯びてくるのはこの時期である。」
 そして松本一生先生は、心理教育アプローチも加味した家族支援の効果に関して次のように報告しております(一部改変)。
 「心理教育プログラムによる情報提供、共感のなかでの支え合いを行った群では、介護期間が長くなるにしたがって、たとえ認知症者が『認知症に伴う行動障害と精神症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)』を呈したとしても介護者の狼狽や混乱がなくなっているためか、『慌てずに』対応する介護者が増えてくる。その結果、介護者から無意識に出ていた否定的な表情や困惑といった『否定的な非言語的メッセージ』が軽減され、結果的には認知症の人自身の『BPSD(昼夜逆転など)』が改善する傾向にある。」(朝田 隆・編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, pp143-144)


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第509回『■家族が疲れ果てる夜間頻尿(その3)―何回トイレに行くと夜間頻尿』(2012年8月26日公開)
 さて夜間頻尿っていったい夜間に何回トイレに行ったら該当するのでしょうか。
 福井大学医学部医学科器官制御医学講座泌尿器科学の青木芳隆助教が論文において(青木芳隆,横山 修:“夜間頻尿は短命”の理由. medicina Vol.48 1980-1981 2011)、夜間頻尿について簡潔に説明し興味深いデータも紹介しております(一部改変)。
 「そもそも夜間頻尿とは、夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという訴えであり、それにより困っている状態をいいます。実際に治療の対象となっているのは、夜間排尿が2回以上の人が多いのです。最近の日本からの報告によると、5年間の経過観察において、夜トイレに2回以上起きる人は1回以下の人に比べて約2倍の死亡率だったと報告されております。」
 死亡率が高くなる要因としては、夜間頻尿に関連する基礎疾患、夜間頻尿に伴う転倒とそれによる骨折(大腿骨頸部骨折など)の影響が考えられています。関連する基礎疾患としては、加齢以外にも、高血圧・糖尿病・脳血管障害・腎泌尿器疾患・睡眠障害などが指摘されています。
 この指摘のように、内科的な疾患が夜間頻尿の原因となる場合もあるわけですね。
 高血圧においては、カテコラミン高値により腎血管抵抗が高いために腎血流が低下し、日中に尿産生量が低下します。この状態で夜間就寝中のカテコラミン血中濃度が日内変動によって若年健常者レベルに下がると、腎血管拡張による腎血流増加に伴い、夜間多尿となるのです(菅谷公男:排尿障害の新しい概念とその薬物治療─生活習慣病と排尿障害. 臨床薬理 Vol.40 207-211 2009)。
 さてこの夜間頻尿の頻度はいったいどの程度なのでしょうか。報告者対象者により異なりますが、「夜間頻尿診療ガイドライン」(ブラックウェルパブリッシング, 東京, 2009)によると、若年者で10~30%に対し、高齢者は40~80%であり、男女とも加齢とともに増加することが報告されています。
 また、「夜間頻尿診療ガイドライン」には以下のような記載もあります。
 「まず、問診が非常に重要である。症状を把握し、基礎疾患の有無、循環器疾患の有無、下肢浮腫の有無、水分・アルコール・カフェインなどの摂取状況を明らかにする。また、夜間多尿を来す薬(利尿薬、クロルプロマジン、カルシウム拮抗薬など)服用の有無を確認する必要がある。
 夜間頻尿以外の下部尿路症状(尿勢低下、尿線途絶、排尿遷延、腹圧排尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁、残尿感など)があれば、前立腺肥大症や過活動膀胱による膀胱蓄尿障害に対する対応を考え、泌尿器科専門医への紹介を検討する。」
 夜間多尿とは、夜間尿量÷1日尿量の割合が高齢者においては0.33以上(若年者では、0.20以上)の場合を指すそうです(内田陽子:尿失禁・認知症ケア マンガでリアルに対処法 日総研出版, 名古屋, 2011, p20)。
 なお昼間に関しては、成人の場合には、8回以上の排尿がある場合に頻尿と言います。


夜間頻尿といっても
投稿者:モンチャン 投稿日時:12/08/26 16:08
 私の場合は2回ですが、11時に寝て3時頃に第1回。そして其れからが眠れなくなって、うつらうつらで「エイもう一度小便するか」という感じの2回です。
 困るのは頻尿ではなく、一度目をさましたら、再度眠りにつけないという事です。
 昼寝をすると夜寝付きが悪いと同じ症状です。其の結果昼間には会議中でも居眠りしてしまうという睡眠不足の症状が出ます。
 夜中に排尿で目を覚ましたら、すぐに睡眠薬を飲んでまた眠りにつけるという事が理想です(ちなみに前立腺肥大です。前立腺がんの治療も行いました)。


Re:夜間頻尿といっても
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/26 16:40
モンチャンへ

 確かに中途覚醒しても、すぐに寝付ければ問題ないですよね。私も中途覚醒しますが(アルコール類を眠る寸前まで飲んでいるため、就寝4時間後くらい経つと膀胱がパンパンになってくるため)、トイレしてお茶を飲んでまたすぐに眠れます。

 参考になればと思いますので、シリーズ第96回『家族が困惑する認知症患者さんの不眠・頻尿(2) 治療手段が確立されていれば…頻尿と不眠』においてご紹介した話を以下に再掲しますね。

 川田誠一先生は、ご講演の中で、自分自身で薬を管理できる方であれば、「中途覚醒した際に、非ベンゾジアゼピン系で超短時間作用型のゾルピデム酒石酸塩(商品名:マイスリー)の半錠(高齢者では5mg錠の半分)を服用させるのがよい」と説明されました。


8月最後の日曜日
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/26 17:01
 今日は、いつものように5時過ぎに起きて、午前中は読書。
 午前中に読んだのは、岡田尊司さん(精神科医)が書かれた『愛着障害』(光文社発行, 2011)です。すぐ恋愛モードになりやすい人は「不安型愛着スタイル」かも・・などと興味深い記述が沢山ありました。巻末には、「愛着スタイル診断テスト」も付いています。

 お昼過ぎに買い物に行き、24時間TVの募金活動を子どもたちがしていたので、少しだけ募金してきました。

 昼からは、津のハーバーに行き、泳いできました。波が高かったです。
 ハーバーでは、カイトサーフィンの大会が行われていました。凄いスピードで海の上を走っており格好いい!
 大会終了後に、大会参加者は皆で、海岸のゴミ拾いをされていました。掃除しながら、お父さんが小学生の息子さんにこんな声を掛けていました。。
 「夏休みの思い出日記の宿題に、ビーチクリーンしましたって書いておきなよ!」


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第510回『■家族が疲れ果てる夜間頻尿(その4)―頻尿と尿失禁』(2012年8月27日公開)
 ちょうど良い機会ですので、頻尿と尿失禁の関連についてもお話しておきましょう。
 尿失禁は症状のパターンに基づいて、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁、溢流(いつりゅう)性尿失禁、機能性尿失禁、混合型尿失禁という5つの基本的な型に分類されます。腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の混在するタイプを混合型尿失禁と言います。
 切迫性尿失禁とは、抑えられない強い尿意が急に起こり、コントロールできずに尿が漏れてしまう状態です。突然強い尿意を覚えることはあっても普通はこれを抑えることができるものです。しかし、切迫性尿失禁の人はトイレまで我慢できず、尿が漏れてしまいます。
 切迫性尿失禁は、高齢者で起こる尿失禁の中で最も一般的なタイプです。切迫性尿失禁は、膀胱が勝手に収縮したり、膀胱が慢性的に過剰に活動する(過活動膀胱)ために起きるとされています。このタイプの尿失禁が持続する場合には、排尿を抑制する脳の前頭葉に生じた疾患が関連していることもあります。過活動膀胱は高齢者でよくみられ、突然の強い尿意が起こるだけでなく、昼夜を問わず頻尿になります。脳卒中など体の動きを制限する疾患があると、すぐにトイレへ行くのがさらに困難となり、頻尿と切迫性尿失禁が重なることになります。
 シリーズ第98回『介護の本にも頻尿の説明は多くない』においてもご紹介しましたように、過活動膀胱(Overactive Bladder;OAB)とは、急におしっこがしたくなりもれそうになる感じ(尿意切迫感)を必須症状とする排尿障害であり、頻尿や夜間頻尿を伴い、尿意切迫感が強いと我慢できずにおしっこをもらしてしまう(切迫性尿失禁)こともあります。
 腹圧性尿失禁は、せきやくしゃみをした瞬間や、力んだり重いものを持ち上げるなど、腹圧が急に高まるような動作をしたときに少量の尿が漏れてしまうものです。腹圧性尿失禁は、若い女性や中年の女性の尿失禁で最も一般的なタイプです。女性では、出産や加齢などの要因によって骨盤の筋肉が緩んでしまい腹圧性尿失禁を起こしやすくなるのです。
 溢流性尿失禁は、尿の流れが妨げられたり膀胱の筋肉が収縮できなくなったりするため膀胱が拡張し、そのため膀胱内の圧力が高まり、少量の尿が漏れ出てしまう状態です。代表例は、前立腺(メモ参照)の肥大によるものです。前立腺肥大の男性では、膀胱から尿道口に通じる部分が狭くなり尿の流れが妨げられます。男女ともに、便秘で直腸に便がたまると膀胱頸部や尿道が圧迫されて溢流性尿失禁を起こすこともあります。また、糖尿病など膀胱を麻痺させる神経障害(神経因性膀胱)も溢流性尿失禁の原因になります。
 メルクマニュアル医学百科家庭版の「尿失禁」の項(http://www.merckmanuals.jp/home/%E8%85%8E%E8%87%93%E3%81%A8%E5%B0%BF%E8%B7%AF%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E5%B0%BF%E5%A4%B1%E7%A6%81/%E5%B0%BF%E5%A4%B1%E7%A6%81.html?qt=%E5%B0%BF%E5%A4%B1%E7%A6%81%E3%80%80%E5%89%AF%E4%BD%9C%E7%94%A8&alt=sh)に記載されておりますように、種々の薬剤が尿失禁の発症や悪化の原因となります。抗コリン薬やオピオイドなど、脳や脊髄に影響を及ぼしたり神経伝達を妨げたりするさまざまな薬物は、膀胱の収縮を妨げ、溢流性尿失禁を引き起こします。

メモ:前立腺
 医療関係者にとっては常識的な医学用語である「前立腺」について、改めて分かりやすく説明するのは決して容易なことではありません。
 そんなことを思っていた折り、ちょうど「1分で知る豆医学」(2012年7月24日付朝日新聞・医療)において、前立腺について説明する文面がありましたので以下にご紹介しましょう。
 「前立腺は男性だけにある生殖器の一つ。膀胱の下で浮輪のように尿道を包み込んでいる。ホルモンバランスが崩れて大きくなると、尿道が圧迫されて(尿の)出が悪くなる。尿が膀胱に残って細菌が繁殖しやすくなり、感染症の原因にもなる。」


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第511回『■家族が疲れ果てる夜間頻尿(その5)―尿失禁の対策』(2012年8月28日公開)
 機能性尿失禁とは、トイレまで行くことができない、ときには行きたがらないために尿が漏れてしまう状態のことをいいます。機能性尿失禁の代表的な原因としては、脳卒中など体を動かせない状態になった場合や、アルツハイマー病により精神機能が低下した状態などが挙げられます。
 治療方法は原因によって異なります。ですから、泌尿器科を受診して原因を確認することが重要です。
 女性に多い腹圧性尿失禁の場合は、骨盤の筋肉を鍛える体操が対策として有効です。骨盤底筋訓練の施行方法を動画とナレーションにより分かりやすく説明しているサイトもありますので参考にして下さい。骨盤底筋トレーニングは、Kegelらが提唱したものであり、日本ではケーゲル体操として 知られています。
 切迫性尿失禁の場合には、尿意が起こる前に規則的な間隔で排尿することで予防できます。また、膀胱の筋肉の過剰な活動(収縮)をコントロールする薬も有効性が期待できます。この種の治療薬でよく用いられているものは、オキシブチニン(商品名:ポラキス)とトルテロジン(商品名:デトルシトール)などです。
 溢流性尿失禁のうち、前立腺肥大などが原因となっている場合には、手術などの検討も必要となります。
 機能性尿失禁への対策としては、誰かが手助けして定期的に排尿させることが必要になります。たとえば、3~4時間おきなど間隔を決めて排尿するように促し、失禁する前に膀胱が空っぽになるように留意するのです。
 群馬大学大学院保健学研究科の内田陽子准教授は、認知症による機能的尿失禁への対応として以下のような対策を挙げています(内田陽子:尿失禁・認知症ケア マンガでリアルに対処法 日総研出版, 名古屋, 2011, p26,30)。
1. 排尿日誌をつけて、1回の排尿量と時間間隔、どんな時に尿漏れがあるかをアセスメントする。
2. トイレ環境の整備(段差解消、手すりをつける)。
3. 日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)能力に応じて、起き上がり・衣服の着脱などを介助する。排尿間隔に合わせて時間を見計らってトイレ誘導する。
4. トイレで排泄できたら賞賛の言葉をかける。
5. 失禁の量を目安にして、適した尿漏れ専用のパンツを使用する(250mlまで吸収できるパンツもある)。
6. 薄型で吸収力が高く、肌触りの良い尿パッドを使用する。

 残尿とは、排尿したにもかかわらず、膀胱内に残っている尿のことを言い、正常であれば10ml以下です。残尿が50mlを超えると感染症が起こりやすくなります(内田陽子:尿失禁・認知症ケア マンガでリアルに対処法 日総研出版, 名古屋, 2011, p19)。この残尿は、ブラッダースキャン(http://products.sysmex.co.jp/pr2/products/physiology/bvi6100.html)という装置を下腹部に当てるだけで2~3秒で測定可能です。
 また、継続的に膀胱内の尿量を超音波で測定し数値で表示する定時測定機能と残尿測定機能(膀胱内の蓄尿量を数値で表す)という2つの機能を持った「ゆりりん(長時間尿動態データレコーダ,タケシバ電機)」という機器もあるそうです(月刊ナーシング Vol.31 No.13 109 2011)。排泄ケアが困難な事例に対して、新しい対応策を講じるきっかけとなるかも知れませんね。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第512回『■家族が疲れ果てる夜間頻尿(その6)―過活動膀胱と抗コリン剤』(2012年8月29日公開)
 なお、福井大学医学部医学科器官制御医学講座泌尿器科学の青木芳隆助教は、「脳卒中慢性期には、3~5割に過活動膀胱が認められる。…(中略)…過活動膀胱による蓄尿障害には抗コリン薬を用い、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞症状のために残尿量が増加した機能的膀胱容量低下に対しては、α1遮断薬を投与する。興味深いことに、α1遮断薬による夜間尿量減少、昼夜の尿量バランス改善、睡眠の質改善作用も最近報告されている。」(青木芳隆、横山 修:高齢者における夜間頻尿の病態と対処. Geriat Med Vol.50 581-584 2012)と述べています。
 抗コリン薬に関しては、シリーズ第130回『こんなにある治療可能な認知症』において記載しましたように、「薬剤誘発性認知症」(投薬された薬によって、認知障害が誘発される)を引き起こすことがありますので、投薬後には注意して経過を観察する必要があります。
 抗コリン薬を使用すると、マイネルト基底核から大脳皮質に投射するアセチルコリン系を抑制することによって認知障害が出現(杉山博通、數井裕光、武田雅俊:Treatable dementia─正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、薬剤性認知症の診断と治療. 綜合臨牀 Vol.60 1869-1874 2011)することがあります。抗コリン作用を有する代表的な薬剤には、抗パーキンソン病薬、消化器病薬、過活動膀胱治療薬などがあります。
 具体例を挙げましょう。シリーズ第99回『頻尿に抗うつ薬が効く場合も』において指摘しましたように、過活動膀胱の治療に用いられる抗コリン薬である塩酸オキシブチニン(商品名:ポラキス)は血液脳関門を通過し、認知障害を起こす可能性が指摘されていましたね。他にも多く該当薬剤があります。
 シリーズ第131回『認知症だと思っても・・・』にて述べましたように、『認知症疾患治療ガイドライン2010』には、「Anticholinergic Risk Scale」という表があり、抗コリン作用の有害事象のリスクが3点・2点・1点の3段階で一覧表示されています(医学書院発行, 日本神経学会監修, 東京 , 2010, pp38-43)。
 オキシブチニンは、3点に該当する21薬剤のうちの1つとして記載されております。消化器病薬としては、シメチジン(商品名:タガメットなど)が2点、ラニチジン(商品名:ザンタックなど)・メトクロプラミド(商品名:プリンペランなど)が1点として記載されています。2点該当薬は全14薬剤、1点該当薬剤も全14薬剤が一覧に記載されております。
 なお、過活動膀胱の治療に際しての抗コリン薬の選択に関しては、シリーズ第98回『介護の本にも頻尿の説明は多くない』のコメント欄「過活動膀胱診療ガイドライン」を参考にして下さいね。ソリフェナシン(商品名:ベシケア)は「Anticholinergic Risk Scale」一覧表には記載されておりません。しかし、トルテロジン(商品名:デトルシトール)は2点該当薬剤として記載されています。
 難解な説明が続き申し訳なく思いますが、絶好の機会ですので、「マイネルト基底核」「アセチルコリン系」について解説を加えておきます。
 「マイネルト基底核の大型の神経細胞によってアセチルコリンが産生され、神経細胞体から伸びた神経線維を通って大脳全体に送られる。マイネルト基底核の神経末端からアセチルコリンがシナプス間隙を通って受け手側の神経細胞上にあるアセチルコリン受容体に結合することで、情報が伝達される仕組みになっている。このようにアセチルコリンを神経伝達物質として用いる情報伝達系をアセチルコリン神経伝達系とよぶ」(水上勝義:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか医学書院, 東京, 2011, pp25-26)。
 ここで、シリーズ第85回『シリーズ・ほとんど進行しないアルツハイマー病?(1)』を少し復習しましょうね。
 アルツハイマー病の脳においてはアセチルコリンの減少により脳活動に障害が出てくるとする「コリン仮説」が1983年に唱えられ、それがアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の開発に繋がりました。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第513回『■家族が疲れ果てる夜間頻尿(その7)―薬で治るケースもある夜間頻尿』(2012年8月30日公開)
 なかなか対応の困難な「夜間頻尿」ですが薬剤投与によって解消するケースもあります。
 その実例をご紹介する前に、現在使用されているアルツハイマー型認知症の治療薬について復習しておきましょう。
 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)は、アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害するため、結果として、脳内のアセチルコリンが分解されにくくなります。それにより脳における神経伝達が改善します。
 ドネペジル(商品名:アリセプト及びその後発品)、ガランタミン(商品名:レミニール)、リバスチグミン(商品名:リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ)という3つの薬剤にはそれぞれ特徴があります。しかしながら結論的に言えば、「一部の臨床試験で、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の種類の違いによる治療効果の差異が報告されているものの、ドネペジル、ガランタミンおよびリバスチグミンの治療効果には明確な差はないとされている。」(認知症疾患治療ガイドライン2010 医学書院発行, 日本神経学会監修, 東京, 2010, pp238-241)ということになります。
 ドネペジルはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のなかで唯一、アルツハイマー病(AD)の軽度から高度に至るまでフルステージで使用可能な薬剤です。ドネペジル3mg錠と5mg錠は軽度および中等度アルツハイマー病に使用され、10mg錠は高度アルツハイマー病に対して使用されます。
 香川大学医学部精神神経医学講座の中村祐教授は、「10mgまでの用量であれば、『増量するほど臨床効果が高まる』と言い換えることが可能である。現在、わが国においては高度ADに対してドネペジル塩酸塩(アリセプト)の最大1日投与量は10mgまでであるが、アメリカでは軽度から10mgが処方可能であり、中等度~高度ADに対して23mgの投与が認められている。わが国および欧米におけるドネペジルの臨床試験の結果から考えると、わが国における高度ADに対する至適用量は10mg/日以上と推測され、なるべく早い時期での10mg/日への増量がドネペジルの臨床効果を引き出すためには必要であると考えられる。」(中村 祐:薬理学的視点に関する至適用量についての考察. 老年精神医学雑誌 第23巻増刊号-Ⅰ 71-75 2012)と述べています。
 2012年7月21日に順天堂大学医学部附属・順天堂東京江東高齢者医療センターの一宮洋介メンタルクリニック教授が第8回中勢認知症集談会の講演に来津され、「アルツハイマー型認知症の積極的治療戦略」という演題でお話されました。
 ちょうど良い機会でしたので、私が日頃から感じていた臨床的疑問点についてご質問させて頂きました。以下にその際の質疑応答についてご紹介します。
 笠間(質問):「2010年5月27日のアリセプトTVシンポジウムにおいて、アリセプトを5mgから10mgに増量するタイミングに関して私が質問しましたところ、一宮教授は、『悪化が目立ってきてから、あるいは5mgで長く維持した後に、10mgに増量しても期待した効果が得られないことが多い。5mgで効果が得られており(改善・進行を抑えられた)、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)が20点を切っていれば、治療開始後1年が経過する前に10mgに増量した方がよい。』と回答されております。そんななか米国においては、アリセプトの23mg錠が中等度・高度アルツハイマー病(AD)に対して2010年7月に承認(8月から販売)されている状況です。そういった状況も踏まえ、一宮教授が実践されている増量のタイミングにも何か変化はありますでしょうか?」
 一宮教授(回答):「現在も基本的に2010年5月時点の回答と変化はありません。ただ、非常に早期に診断できたケースの場合には、治療開始後1年を経てもなおHDS-Rが20点以上を保っているケースもあり、このような場合にどうすることが最良であるのかに関してはまだ手探りの状況であり、発表できる段階にはありません。いずれにしても、用量を上げるほど効果があがることも事実であり、そういった意味においてはドネペジルに限らずガランタミン(商品名:レミニール)においても16mg/日、24mg/日どちらがbetterかという議論がありますが、16mg/dayで効果が不十分、または症状の進行が認められた場合には速やかに24mg/日に増量すべきと思います。」


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第514回『■家族が疲れ果てる夜間頻尿(その8)―間頻尿とメマンチン』(2012年8月31日公開)
 現在使用されているアルツハイマー型認知症の治療薬には、もう一種類ありましたね。
 それは、グルタミン酸(脳内で働いている興奮性アミノ酸として主要な物質)の受容体の一つであるN-メチル-D-アスパラギン酸(エヌエムディーエー;NMDA)受容体に拮抗しグルタミン酸の働きを阻害し神経細胞を保護(神経細胞死を抑制)するというコンセプトで開発されたメマンチン(商品名:メマリー)という薬剤です。メマンチンに関しては、シリーズ第88回『ほとんど進行しないアルツハイマー病?(4)』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/rBv6PnTAp9)において詳しくご紹介しております。メマンチンの効能・効果は、「中等度及び高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」です。
 シリーズ第178回『物盗られ妄想の治療例』でお話しましたように、メマンチンは、興奮・攻撃性を認める患者さんに対して有効性が期待されています。メマンチンの代表的な副作用は、めまい、便秘、頭痛、傾眠、血圧上昇の5つです。日中に傾眠傾向が認められる場合には、服薬時間を「夕食後」に変更すると、日中の傾眠という問題が解消する場合もあります。メマンチンのTmax(服薬後最大血中濃度に達する時間)は5~6時間ですので、副作用が出現するのも主に5~6時間後ということを応用した服薬方法になるわけです。
 メマンチンの発売後、私は2012年4月までに23例に対してメマンチンを投薬してきました。その中には、今まで服薬していた睡眠薬が不要となる方もおられました。23例中2例においては、夜間頻尿が消失するという期待していなかった効果も確認されております。

 夜間頻尿が目立つ認知症患者さんにおいては、介護者も睡眠不足になってしまい介護困難に陥りがちです。ケアの方法、薬剤の調節など種々の試行錯誤によって症状が軽快するケースもありますので、主治医の先生としっかりご相談下さいね。


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2)尿と便の困りごと

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第510回『尿と便の困りごと―何とかしようとするのは意欲現れ』(2014年6月5日公開)
 ほんの数年前までは希少価値の高かった認知症ケアに関する書物ですが、この2~3年で随分多くの本が出版されました。ただ今回のシリーズにおいて取り上げます弄便・放尿・整容拒否などに関しては、多くの介護者が困っている症状にも関わらず、対処方法に関する記述はとても少ないのが現状です。
 認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)のなかでも、弄便(ろうべん)は最も介護者を悩ませる行動障害です。
 弄便とは、不潔行為の一つであり、排便後処理がわからない場合や便尿失禁後の不快感から、素手で便を処理しようとする行為です。そして場合によっては、体や衣類・ベッド柵・壁などにこすりつけたりします。
 頻度的には少ないように思われる弄便ですが実際にはかなり多く認められるという報告もあります。
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学の寺田整司准教授は、「弄便とは、便を弄ぶ行為であり、認知症の進んだ人にみられやすい。施設入所者246名を対象とした報告では、月数回以上の頻度で弄便がみられる人が23名(9.3%)を占めている。またBPSDを有する在宅認知症患者134名を対象とした調査では、5名(3.7%)で認められている。」(服部英幸編集:BPSD初期対応ガイドライン ライフ・サイエンス, 東京, 2012, pp58-59)と報告しています。
 精神科医の小澤勲さん(故人)は、弄便に至ってしまう認知症の人の心理状況について、自身の介護経験も回顧しながら次のように言及しております。
 「弄便はかなり認知症が進んだ人にみられるのだが、在宅介護では困り果てることの一つである。こんな成り立ちであろうか。
 『お尻のあたりに何かが挟まっているみたいで気持ち悪い。触ってみよう。何かグニョグニョしたものがある。何だろう。でも、これを取り除けばいいんだ。手に何か付いたなあ。布団にこすりつけたら、まあ、何とかなった。お尻のあたりも少しマシになったようだ。あれっ? すごい顔して嫁さんが飛んできた。怒ってる。何を怒ってるんだろう? ひどくまずいことを私はしたらしい。何をしたのだろう…』
 自分に起こった不具合を何とかしようとする人ほど周辺症状、なかでも妄想や徘徊などの陽性症状を招き寄せることが多い。何とかしようという意欲まで失ってしまうと、陽性症状はあまり見られなくなる。その意味では、陽性症状は認知症を生きる人のエネルギーの発露でもある。
 だから、弄便があっても受容せよ、などと無理なことを言っているのではない。ある行動の裏に広がる世界を知って対応することが必要であり、叱責してもまったく意味がないと言いたいだけである。
 ただ、ご家族はそんなことは百も承知で、それでもつい叱ってしまい、自責の念にかられるのである。私もかつて認知症をかかえる父親を自宅で介護していたことがある。ある日、帰宅すると、すさまじい臭いのなかで妻が泣きながら塗りたくられた便の始末をし、畳を拭いていた。つい厳しい叱責の言葉を、私は父に向けていた。妻に対する『すまない』という思いが、このような言動をとらせたに違いない。父はきょとんとした顔をし、それでも嫁のために自分が息子から叱られているらしいと感じたのだろう。妻をにらみつけ、しばらくはギクシャクした関係が続いた。」(小澤 勲:認知症とは何か 岩波新書出版, 東京, 2005, pp159-160)

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弄便:「排便に対する不潔行為のことです。介護者の心理的負担を増し、在宅介護を断念する理由として最も高く、アルツハイマー型認知症では約49%、血管性認知症では約32%で認められるとの報告もあります。一方で、施設入居者でも50%以上と、高頻度に認められています。」(羽田野政治:“根拠”に基づく 新しい認知症ケア─「キョウメーションケア」でBPSDが緩和する! 中央法規, 東京, 2013, p72)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第511回『尿と便の困りごと―あわてず手早く始末する』(2014年6月6日公開)
 さて、弄便への対応はどうすればよいのでしょうか。基本は、排便のコントロールにあります。食事と水分摂取をしっかり行い、便秘をコントロールして、本人が便を手にしないように予防することが大切です。
 大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の數井裕光講師は、「弄便をみつけたら、叱っても効果はありません。びっくりされるでしょうが、あわてず手早く始末しましょう。」(數井裕光、杉山博通、板東潮子:認知症 知って安心! 症状別対応ガイド メディカルレビュー社, 大阪, 2012, pp176-177)とアドバイスしています。
 須貝佑一先生らが書かれた『本人と家族のための認知症介護百科・改訂第2版』(永井書店発行, 大阪, 2010)のpp159-160には興味深いケースが紹介されています。
 「あるアルツハイマー型認知症の女性は、着衣失行の症状(衣類をちゃんと着られなくなる)に対して娘さんが着替えの訓練をするようになってから弄便が生じました。娘さんは手を貸す(援助)と、ますますダメになると思ってそばで注意するだけにとどめていたのですが1時間かかっても終わらなくなり、衣類を順番に手渡す(援助)ことにしたら5分で終わり、弄便もみられなくなりました。『認知症を進めない』という娘さんの取り組みが母親を追い詰めて異常行動に走らせた例です。」
 種々の工夫を凝らしても対応困難である場合には、物理的に大便に触れることができないようにする対応をせざるを得ない場合もあります。おむつを外せないように手袋をはめたり、「つなぎ」と呼ばれる特殊な衣類(拘束衣)を着せて本人が衣類を着脱できないようにするのです。
 認知症ケアに精力的に取り組まれた元岩手医科大学神経内科・老年科准教授の高橋智先生(故人)は、便であることがよくわからずにおむつの中に手を入れて便を手にしてしまう場合が多いので、「弄便行為のある人が排便したときは、介護する人ができるだけ早く便を処理しましょう」(別冊NHKきょうの健康─認知症 よりよい治療と介護のために 2011年3月25日NHK出版発行 pp85-97)と述べています。

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陽気な介護が大切!:
 2013年11月23日に放送されましたNHKスペシャル「母と息子 3000日の介護記録」(http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20131123)にゲスト出演されました新田國夫医師(在宅医の全国組織会長─20年以上在宅医療を実践し、認知症の人など千人近くを自宅で看取っている)は、番組内で流されました元NHKディレクター相田洋さんによるお母様の介護(1998年2月に認知症を発症、2011年に緊急入院するまで自宅で介護した)の様子(ホームビデオ)を見て、「『認知症の介護って普通は陰湿、だから家族はバテちゃってどこかに行かないと(入所)ならなくなっちゃう。』 でも相田さんの様子をみていると陽気です。この『陽気な介護が大切!』」と感想を述べておりましたね。
 番組では、弄便への対応で苦慮する相田洋さんの生々しい映像も流れました。こうした映像が流れることを許可した相田洋さんの信念(=認知症介護の状況をきちんと伝えたいという強い信念)には感服致しました。
 そして、番組のコメンテーターの方々も、「弄便に対しては、あわてず手早く始末する」ことが大切であると述べておられました。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第512回『尿と便の困りごと―プライドへの配慮、忘れるな!』(2014年6月7日公開)
 また高橋智先生は、「おむつ外し」に関して、「おむつを替えるときに、『今日はいっぱい出ましたね』など、排泄に関することを言われると、屈辱感が増します。排泄については触れず、おむつ替えなど特別なことではないという態度で、手早く淡々と行いましょう。恥ずかしさ以外にも、おむつに違和感を感じたり、排泄物が不快なために、おむつを外す場合もあります。」と指摘されています。
 日本大学文理学部心理学科の長嶋紀一教授の著書『認知症介護の基本』の第四章「認知症の人とのコミュニケーション」(中央法規, 東京, 2008, pp95-115)において、認知症ケアアドバイザーの五島シズさん(全国高齢者ケア協会監事、認知症介護研究・研修東京センター客員上級研究員)は、施設などでよく耳にする言葉の中にも、高齢者の尊厳を傷つける言葉があると指摘しています。
 スタッフが大きなおむつ交換車を引いてきて、部屋の入り口で「皆さん、おむつを替えさせていただきます」と挨拶しました。介護現場ではありがちな光景ですね。しかし、五島シズさんは、これは、「あなたは、おもらししているのよ」ということを周囲の人に知らせているようなものであり、スタッフは気づいていないが高齢者の尊厳を傷つける言葉であると指摘しているのです。
 大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の數井裕光講師も、プライドに配慮することが大切であると指摘しています。
 「『パンツが濡れているから着替えましょう』と声をかけたのでは、ご本人のプライドは傷ついてしまいます。
 『お父さん、汗がすごいですよ。着替えの準備できていますよ』とか『今ちょうど洗濯するところですから、着替えてくれると助かるわ』などと頼むと、あっさり聞き届けてくれるかもしれません。
 『汚い』『臭い』『汚れている』など、嫌な気持ちになる言葉はできるだけ避けて、『きれい』『気持ちいい』『さっぱり』など、聞いて快い言葉で声をかけましょう。」(數井裕光、杉山博通、板東潮子:認知症 知って安心! 症状別対応ガイド メディカルレビュー社, 大阪, 2012, p170)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第513回『尿と便の困りごと―さっと片付けで、患者が変わった!』(2014年6月8日公開)
 弄便に対しては、數井裕光講師、高橋智先生(故人)が指摘されておりますように、「弄便をみつけたら、叱っても効果はありません。びっくりされるでしょうが、介護する人ができるだけ手早く始末しましょう。」という対応に尽きるようです。そんなことをつくづく感じる事例をごく最近経験致しました。
 患者さんは、80歳代前半の男性患者さんです。2012年に入り意欲低下が目立ってきました。また、風呂での排便、弄便(カーテンなどにこすりつける)、便のついたティッシュをタンスに隠すなどの行動が目立ってくるとともに、怒りっぽくなってきたことに家族が苦慮し、榊原白鳳病院もの忘れ外来に受診されました。
 改訂長谷川式認知症スクリーニングテストは17/30点と低下しておりました。諸検査の結果、アルツハイマー型認知症と血管性認知症の混合型認知症と診断し、リバスチグミン(商品名:リバスタッチ[レジスタードトレードマーク]パッチ、イクセロン[レジスタードトレードマーク]パッチ)を開始しました。また認知症介護における基本的なアドバイス(否定しない、怒らない、患者さんの言葉や行動を受けとめる)を指導致しました。
 診察を終えた後、私は弄便・風呂での排便に関する情報を再収集し、次回の受診時にご家族にお渡しできるよう準備しておきました。例えばこのような資料(http://www.kaigo110.co.jp/dictionary/qa3.php?qano=24435)です。ただ、決め手となるような特別なケアの方法は確立されていない領域の問題でしたので、正直言いますと私も少々重たい気持ちで再診日を迎えました。
 しかしながら1か月後に再診されたときに、ご家族にその後の様子をお伺いしてみると、驚くほどの改善を示されておりました。
 以下は、初回再診日に娘さんが私に話してくれたことです。  「実は知人に相談し施設入所なども検討しましたが、父が可哀想だったのでやめました。そして母と相談し、覚悟を決めて、弄便があっても怒らずにさっさと片付けるようにしました。また風呂上がりに認知症の貼付剤を貼るときには十分なスキンシップにも心掛け、夜寝るときには子どもをあやすようにして頭をよしよし撫でるようにしました。そうしたら、本人の易怒性が数日で消失しました。お風呂での排泄行為はまだ時々あるものの、弄便行為は無くなりました。最近では本人が、『すまんな、すまんな』と言ってくれるようになりました。」
 これらの改善効果はわずか数日で出現しておりますので、認知症貼付剤の効果だけとは考えがたいです。貼付剤を貼るときなどに行われたスキンシップ、および認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)に対するご家族の対処法の変化によって、易怒性と弄便が短期間で著しく改善した事例と言えそうですね。すなわち、風呂での排泄行為に対してご家族から叱られたため、叱られないように便を隠そうとして弄便行為に結びつき、その行為に対してまた叱られたため本人の易怒性が誘発されていた状況であったものと推察されます。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第514回『尿と便の困りごと―タッチケアで「落ち着き効果」』(2014年6月9日公開)
 スキンシップが功を奏した事例をご紹介しましたので、それに関連して「タクティールケア」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB)についてもお話をしておきましょう。
 タクティールケアは、ラテン語の「タクティリス(taktilis)」に由来する言葉で「触れる」という意味です。スウェーデン発祥のソフトマッサージの一種であり、手や背中を優しく触れたり撫でたりします。近年では認知症ケアなどにも活用されており、認知症の人の不安が軽減し、良好な睡眠が取れるようになったり、行動が落ち着くなどの効果もあるようです(http://fukushi-sweden.net/welfare/kaigonosikata/2007/taktil07.01..html)。
 浜松医科大学地域看護学講座の鈴木みずえ教授らの研究によれば、重度認知症高齢者に対する6週間(1回約20分・週5回で合計30回)のタクティールケアの介入により、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)における攻撃性が有意に改善したと報告されております(Suzuki M et al:Physical and psychological effects of 6-week tactile massage on elderly patients with severe dementia. Am J Alzheimers Dis Other Demen Vol.25 680-686 2010)。この論文の要旨はウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21131675)において閲覧可能です。因みにタクティールケアにおいて撫でるように触れる際のスピードは、リラックス効果が期待される1秒5cm程度のスピードが好ましいようです(鈴木みずえ:タッチケア(タクティールケア)の現状と課題. 認知症の最新医療 Vol.2 185-190 2012)。

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 竹内孝仁先生(国際医療福祉大学大学院教授)は、認知症のタイプを3タイプ(葛藤型、回帰型、遊離型)に分類しております。
 葛藤型、回帰型、遊離型の3タイプについて紹介し、遊離型への対応方法について三好春樹さんが著書の中で解説しておりますので、以下に一部改変してご紹介しましょう(三好春樹:認知症介護─現場からの見方と関わり方 雲母書房, 東京, 2014, pp164,178-183)。
 「葛藤型:老いた自分を受け入れることができず、かつての若い自分に戻ろうとがんばるが、現実の老いた自分を見せつけられ、葛藤が起きる。
 回帰型:老いた自分を受け入れることができず、かつての自分らしかったころに帰ることで、自分を取り戻そうとする。
 遊離型:老いた自分を受け入れることができず、現実から遊離して自分の世界に閉じこもることで、自分を保とうとする。

 遊離型は、老化や障害を持って生きていくことをもはやあきらめ、現実との関係を遮断して、自分の世界に閉じこもることで自分を保とうとするタイプをいう。
 遊離型の問題行動の1つ目は、『無為、自閉』である。つまり、何もしなくなり、人と交わることなく自ら孤立していくことだ。だれかを困らせたりするわけではないから、『おとなしい老人』と思われて、問題行動だとは思われていないかもしれない。
 問題行動の2つ目は、『独語』、つまり独り言である。声をかけても反応せず、一人でブツブツ言って、一人で笑っているようすは、見ていて気持ちのいいものではない。また、遊離が深まると、出された食事にも興味を示さず、口に入れても噛もうとしなくなる。そうなると、生命にかかわることにもなる。
 私たちが老人の自閉に対して行うのは、無理やりの引き出しとは全く違う。むしろ、老人が引きこもったところにまで世界を拡張してしまうことなのだ。つまり、引きこもりを肯定した上で、そこから出発して、老人の回りに世界を形成するのだ。逃げなくていい世界をつくるのである。生きているという実感、生きていてよかったと感じられるような生活を再建するのだ。
 きっかけとなるのは刺激だ。
 …(中略)…
 スキンシップは遊離型の認知症老人に対する最後のアプローチ法だ、といってもよい。介護の上手い人は、上手にスキンシップを使っている。私が提案する『老人ケアのスキンシップ3段階』は次のとおりだ。
 まず握手だ。『また来週来ますから、それまでお元気で』とか、『明日また会いましょう』と言いながら、別れるときに握手をしてみてほしい。
 次が、肩に手を回す。これは、例えば久し振りに会ったときだ。『お元気でしたか?』とか、『どうしてたんですか、しばらく見なかったけど』と言いながら、肩に手をかけてほしい。握手に比べるともっと身体は近づき、心も近づくはずだ。
 そして最後が、頬をすり寄せる。これは急にやるものではないし、やっても気持ち悪がられるだろう。つまり、思わずそうしたくなるような、うれしい場面をつくってほしいのだ。何年も家から出なかった人が、初めてデイサービスにやってきて、幼なじみと出会って涙したときなど、思わず頬をすり寄せたくなるではないか。いくら仕事でもそこまではできない、という人は、もちろんやらなくてもいい。」

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 「ストレス反応の一部として、脳下垂体から分泌されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)は副腎を活性化し、副腎からアドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンを分泌させる(図9・1)。これらのホルモンは全身に作用し、身体は刺激に反応するための準備を整えるのである。アドレナリンは心拍数や血圧を上昇させ、身体は新たな刺激に対して反応するために備える。またコルチゾールは、ストレス因子への対応に必要なエネルギー源を供給するために血糖値(グルコース)を上昇させるが、その方法は、グルコース合成を促進したり、また、さらなるグルコース生成のために、脂質やタンパク質、炭水化物の代謝を促進するというものである。」(監訳/船田正彦 著/M・クーハー:溺れる脳─人はなぜ依存症になるのか 東京化学同人, 東京, 2014, p136)

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 2014年7月20日に放送されましたNHKスペシャル・認知症をくい止めろ(http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20140720)におきまして非常に興味深い研究結果が紹介されました。

 ワシントン大学のエライン ペスキンド教授は、BPSD発生のメカニズムについて研究しており、「私たちの研究で攻撃的な行動や介護の拒否、徘徊といった深刻なふるまいの多くは、ストレスホルモンが原因だと分かった」と述べておりました。
 ストレスホルモンのブレーキ役の一つが海馬なのであるが、アルツハイマー病においては海馬が萎縮しブレーキ役の機能が弱まり、ストレスホルモンが多くなりやすく、そのためBPSDが起きやすくなるとメカニズムが解説されておりました。

 アズサ パシフィック大学のリン ウッズ准教授は、ストレスホルモンが介護の力で抑えられないか研究に取り組んでおり、触れるケアの後、唾液に含まれるストレスホルモンの量を計測(アルツハイマー病患者54名)した結果、触れるケアでストレスホルモンが減っていることが分かったと述べておりました。
 浜松医科大学地域看護学講座の鈴木みずえ教授は、「週5回・6週間、優しく触れるケア」を実践したところ、攻撃性の低下(徘徊がおさまってきた人を含む)が71%で認められたと報告しておりました。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第515回『尿と便の困りごと―タクティールケアの根拠』(2014年6月10日公開)
 タクティールケアの有効性を裏づける科学的根拠として、体内におけるオキシトシンの関与などが指摘されております。日本スウェーデン福祉研究所(http://www.jsci.jp)の木本明恵看護師は、「タクティールケアを通して肌に触れることにより、皮膚にある触覚の受容体が刺激され、知覚神経を介して脳に伝達され、脳の視床下部から血液中にオキシトシンが分泌される。血流によってオキシトシンが体内に広がることにより、不安感のもととなるコルチゾールのレベルが低下し、安心感がもたらされる。」と作用機序について言及しております(木本明恵:認知症高齢者に寄り添うタクティールケア. 老年精神医学雑誌 Vol.22 62-69 2011)。
 またオキシトシンの吸入によって、マカクザルが他者への報酬を考慮して意思決定を行う(=他者顧慮的選択)頻度が増加することも報告(Chang SW et al, 2012)されております(磯田昌岐:マカクザルを用いた社会脳研究の最近の進歩. BRAIN and NERVE Vol.65 679-686 2013)。
 医療法人社団二山会宗近病院の八木喜代子ゆうなぎ病棟師長は、夕暮れ症候群を呈し帰宅願望の目立っていた患者さんに対して、タータン人形を抱いてもらい、手のタクティールケアを毎日行ったところ、安心感が得られ不眠が解消した事例があったと報告しております(八木喜代子:認知症患者へのダイバージョナルセラピー・園芸療法・タクティールケア. 精神科看護 Vol.39 No.11 24-30 2012)。
 認知症を患った高齢女性にタータン人形などのドールセラピーを行うと、子育てという役割の賦与により認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)が顕著に改善することは確かによく経験されます。
 ちょっと高額ではありますが、近年では、ドールセラピーにおいてアザラシ型介護ロボット「パロ」(http://www.daiwahouse.co.jp/release/20101021153530.html)を活用している施設もあるようです。

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コミュニケーション障害治療―愛情ホルモン点鼻(名大など臨床試験)
 愛情ホルモンともいわれる「オキシトシン」を、対人コミュニケーション障害の治療に用いる臨床試験が始まる。山末英典東京大医学部准教授と岡田俊名古屋大医学部准教授、それに金沢大、福井大のグループが三十日発表した。
 対象は、かつてアスペルガ一障害といわれた病気が主体。現在は自閉スペクトラム症と総称される。他人の気持ちを表情などから読み取ることができず、コミュニケーションが苦手。多くが男性で、百人に一人以上いるが、有効な治療法はない。オキシトシンは脳から分泌されるホルモンで、出産時に陣痛誘発のために使われている。最近、授乳の促進や他者との信頼関係の強化、さらに親子のきずなを強める働きがあることが分かってきた。
 金沢大の棟居俊夫特任教授と福井大の小坂浩隆特命准教授らは、これまで自閉スペクトラム症の人にオキシトシンを投与し、症状の改善を確認した。東大の小規模な試験でも効果があると分かった。男性に対しては目立った副作用は報告されていない。
 今回は四つの大学で計百二十人の成人男性患者を募集する。七週間にわたってオキシトシンを鼻から吸収させ、偽薬を与えた場合と比較する。効果は、他者の感情を読み取る力などを総合的に判定する。
 研究グループでは「薬として認められるための第一段階。将来は女性や子どもにも使えるようにしたい」と話している。
【2014年10月31日付中日新聞・総合3面】

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第516回『尿と便の困りごと―帰宅願望が消えたケース』(2014年6月11日公開)
 ちょうど良い機会ですので、激しい帰宅願望が解消した自験例をご紹介しておきましょう。患者さんは、90歳代の男性患者さんです。
 2~3年前より物忘れが目立つようになりました。最近になって、デイサービスを利用していても帰宅願望が激しく、杖を振り回す、椅子を持ち上げて暴れるなどの「認知症の行動・心理症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)が目立ってきたため、近くの精神科病院の外来を受診しました。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)を処方されましたが一向に症状が改善しなかったため、2013年の初春に榊原白鳳病院を初めて受診されました。
 ご家族より詳しく症状をお聞きしますと、便失禁があって便をサランラップで包んでいたり、尿失禁、食べたことを忘れてまた食べるなどの行動も確認されました。改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)は13/30点と低下しておりました。CT検査にて脳萎縮を認め、アルツハイマー型認知症と診断しました。
 私は、処方されておりましたアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を中止し、メマンチンによる治療を開始しました。ただし、メマンチンだけではBPSDを完全にコントロールすることが困難でしたので、抗不安薬も追加しました。具体的には、ロラゼパム(商品名:ワイパックス[レジスタードトレードマーク])0.5mgを1日1回朝、メマンチンとともに服薬して頂きました。ロラゼパムは、抗不安作用が強く、血中半減期が短く排泄も速やかで、高齢者には比較的使いやすい薬剤です。
 主たる介護者である娘さんは仕事をされており、在宅介護は限界を迎えている状況でしたので、グループホームの体験入所をすることになりました。薬剤の効果もあったのか無事に体験入所を済まされ、本格的に入所が決まりました。入所したグループホームでの対応が良かったのか、入所後はBPSDも目立たず穏やかに過ごされました。
 しかし、初秋を迎えた頃、「家に帰って年賀状を書きたい」と話されたそうです。デイサービス利用中の激しい帰宅願望が脳裏をよぎり、娘さんは迷って私にも相談されました。「家に連れて帰ったら、『帰らない』と言い張り大騒ぎになるのではないかと心配ですので躊躇します」と話されておりました。
 しかし結局、本人の気持ちにも配慮し、おそるおそる家に連れて帰ったそうです。そこで本人が発した言葉は意外なものでした。
 ほんの少しだけ家を改築したせいもあったのか、食事を済ませると、「ここは俺の家と違う! 帰る」と言ったそうです。そして本人が帰ると言った先は、何とグループホームだったのです。そしてその患者さんは、娘さんが帰った後で施設の職員に向かって、「一生、ここにおらせてくれ」と話したそうです。なお、家に帰ったときに、年賀状の話は一切しなかったそうです。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第517回『尿と便の困りごと―施設の居心地による解消』(2014年6月12日公開)
 施設の居心地が良いと、いとも簡単に帰宅願望が解消されてしまうケースはあるようですね。もしかするとそうした施設の共通点は、「丸ごと受け入れる空気」なのかも知れませんね。認知症患者さんを丸ごと受け入れる雰囲気がごく自然に空気のように備わっている「桃源の郷」(広島県三原市)を土本亜理子さんが訪れて取材しまとめた著書があります。そこには非常に重要な視点が述べられておりますので以下にご紹介したいと思います。  「実際、激しい徘徊も、もの集めも、重ね着も、入所して数日、長くても1か月もすれば、回数が激減し、症状が安定してくる。  ただ、事実、症状は安定してくるのだが、その理由がスタッフにも計りかねる場合がある。かくかくしかじかのケアによって良くなったと総括、分析できるケースがある一方で、スタッフ自身にも『よく分からない』ケースも少なくないのだ。  いつ頃からか、スタッフたちは、『ここには痴呆のお年寄りを丸ごと受け入れる空気が息づいているからではないか』と考えるようになった。」(小澤 勲、土本亜理子:物語としての痴呆ケア 三輪書店, 東京, 2004, p249)
 念のために申し上げておきますが、「痴呆」に替わる用語の検討がなされ(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0621-5b.html)、2004年12月24日に「痴呆」は「認知症」に改められております。しかし、『物語としての痴呆ケア』が出版(2004年9月20日第1版第1刷発行)された当時は「痴呆」が正式名称でありました。

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 理学療法士の三好春樹さんが『認知症介護─現場からの見方と関わり方(雲母書房)』という本を2014年5月15日に出版されました。この本は2003年に『痴呆論』として世に出され、その後、「認知症」という呼称が広がりつつあった2009年にあえて『痴呆論』のままで<増補版>として刊行されたものを、新たな題と本文中の「痴呆」の「認知症」への書き換え、および巻頭への新たな章の書きおろしを加えて、改訂新刊として刊行されたものです。
 私は、『痴呆論』は読んだことがありませんが『認知症介護─現場からの見方と関わり方』を読み進めております。その中に非常に印象深い一節がありましたので以下にご紹介したいと思います。

介護者は「最後の母」
 「認知症がもっとも深くなったとき、求めるのは親子関係だが、その極致は、自分が小さい子どもになって母を求めるに至る。
 Kさん(81歳、女性)は、嫁いびりがすさまじいことで近所で有名だった。特養ホームの職員の説得でやっとショートステイに行くことを承諾したのだが、介助して付き添ってきた嫁は、施設の相談員に1時間以上も泣きながら話を聞いてもらったくらいだ。
 しかし、次第に老いと認知症が深まり、気の強かったKさんもすっかり気弱になってしまった。『もうすぐご飯だから待ってなさい』と嫁に言われて、『ハイ』なんて言うようになったのだ。こうして、ショートステイにやってきた嫁は、相談員に悩みを聞いてもらう必要もなくなったらしく、ニコニコ笑いながら帰って行った。
 そのお嫁さんが、以前のような深刻な表情で相談員を訪ねてきた。第一声は『気持ちが悪いんですよ』だった。『何かあったんですか』と相談員が聞いている。『私のことを〝母ちゃん〟と言い出したんです』とお嫁さん。
 『最初は、子どもが私を呼ぶのを真似してるのかと思ったんですけど、そうじゃないんです。ほんとうの母親だと思ってるんですよ。女手ひとつで育ててきた一人息子を奪った憎っくき嫁だった私が、なんで〝母ちゃん〟なんでしょうね?』
 なぜだろうか。認知症は悲惨な世界だと思われている。なにしろ、自分がだれかも、ここがどこかもわからないのだから。しかし、それは赤ちゃんのときと同じである。赤ちゃんは自分がだれかわからないし、ここがどこかも知らない。果たして私たちは、赤ん坊のころは悲惨だっただろうか。
 よくは憶えていないけれど、泣いて訴えれば応えてくれる世界=母がいれば、あれはいい世界だったのではないか。あの時代に、世界との基本的な信頼関係をつくり上げてきたとさえ言われているではないか。ならば、自分がだれか、ここがどこか、がわからない認知症老人が、母を求めるのは当然だろう。  介護者の仕事は、老人の『最後の母』になることなのだ。もちろん男性でもかまわない。なにしろ介護の世界は『やり手の女と、お人好しの男』が支えていると言われているくらいだから、男性のほうが母性的だったりするのである。」(三好春樹:認知症介護─現場からの見方と関わり方 雲母書房, 東京, 2014, pp158-160)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第518回『尿と便の困りごと―物質と心の間の興味深い現象』(2014年6月13日公開)
 オキシトシンの話が出てきましたので、余談にはなりますがオキシトシンに関わる非常に興味深い研究成果をご紹介しましょう(開 一夫:赤ちゃんの不思議 岩波新書, 東京, 2011, pp162-165)。
 「オキシトシンは、脳の視床下部という場所で作られ、母乳を出やすくしたり分娩時に陣痛を促進したりするホルモンとして働きます。つまり出産と育児に大切な役割を演じています。しかし、オキシトシンは女性に特有の物質という訳ではありません。男性にもしっかり存在しており、『共感』や『信頼』との関連性を示唆するデータもあります。
 さらに、最近の研究では、『社会的な文脈』における学習能力にも関係していることが明らかにされつつあります。ドイツの研究者らは、健康な男性48人を対象として、学習課題におけるオキシトシンの効果について実験しています。被験者の男性半数には事前に鼻からオキシトシンを含む液体が噴霧され(オキシトシン群)、残りの半数には何も入っていない液体が噴霧されます(プラセボ群)。その後、各被験者は、3桁のランダムな数字がA、Bどちらに分類されるかを学習します。ただし、AとBどちらに属するのかはまったく規則がありません。従って最初のうちはでたらめに答えるしかなく、正答率は半分ぐらいです。しかしこれを数回繰り返すと、だんだんと数字がAとBどちらに属するかを正しく言い当てることができるようになってきます。
 実験のポイントは、被験者が答えたあとに出すフィードバックにあります。フィードバック刺激として、顔表情(正解ならにっこりとした顔、不正解なら怒った顔)を提示する場合と、色刺激(正解なら緑色、不正解なら赤色)を提示する場合を設定しました。つまり、『社会的な文脈』とそうでない状況を設定したわけです。
 実験の結果は非常に興味深いものでした。オキシトシン群とプラセボ群を比較すると、顔表情が正解不正解のフィードバック刺激として使われた場合のみオキシトシン群の学習成績がプラセボ群を上回っていたのです。この結果は、出産・育児で働く物質が、(男性の)社会的学習にも効果があったことを示唆します。まだまだ慎重に研究を進めていく必要がありますが、『物質』と『心』との間には多くの興味深い現象が存在します。」(一部改変)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第519回『尿と便の困りごと―男でも座ってオシッコの習慣を』(2014年6月14日公開)
 お風呂での排泄行為は、比較的多く観察されます。東京ふれあい医療生協梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司医師がその対処方法について言及しておりますので以下にご紹介しましょう。
 「認知症が重度となると、入浴時などリラックスして副交感神経が優位になることで反射的に排便してしまう場合もあります。この場合は、排便を促す座薬を使用した後、朝食をとり、朝食後30分後に便座に座ります。朝食後に起こる腸の大蠕動と座薬の作用で、自然な排便が促されます。このような方法で直腸を空にしておくと、便失禁が起こりにくくなります。」(安西順子編著:基礎から学ぶ介護シリーズ・気づいていますか─認知症ケアの落とし穴 中央法規, 東京, 2012, pp150-151)
 認知症ケアアドバイザーの五島シズさん(全国高齢者ケア協会監事、認知症介護研究・研修東京センター客員上級研究員)が2013年1月10日に来津され、第10回中勢認知症集談会において、「身近な人に認知症が始まったら」というタイトルでご講演されました。講演の際に私は、「洋式トイレに馴染めない高齢男性認知症患者さんにおいて、お風呂での排便行為が常習化した場合には、どのような対応が望ましいですか?」と質問致しました。
 五島シズさんの回答は、初めはまともなお話でしたが、とんでもない「オチ」が最後に待っておりました。その際の回答内容を私なりにまとめて以下にご紹介しますね。
 「お風呂での排便行為に対しては、便秘をコントロールし排便後に入浴させるというのが基本的な対応になります。
 その排便ですが、ソワソワし出すとか、おならが出るなど、排便前の個々のの兆候をつかみトイレに誘導する必要がありますね。
 夕方お風呂に入れるのであれば、夕方排便するために、朝のうちに下剤を飲ませるとうまく調節できるかも知れませんね。
 洋式トイレに馴染めるよう、男性においても若い頃から、座っておしっこする習慣を身につけてもらうのがよいと私は思っており、息子たちにもそう言っております。
 なお、五島シズさんは「認知症介護相談室」(http://www.sizusoudanroom.net/)というサイトを運営されており、「何なりと認知症介護相談をお寄せ下さい」と講演の際に話されておりました

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 排泄のサインについて興味深い記述をしている本がありますので以下にご紹介しましょう。著者は理学療法士の三好春樹さんです。
 「長い生活時間をともに過ごしている介護者、介護職には、何となく老人の気持ちがわかるのである。
 介護アドバイザーの下山名月さんがケアしていたアルツハイマー病のTさんは、いつも鼻歌をうたいながらウロウロしている。その歌が、長調から短調に変わるとおしっこだったという。ちょっと目の焦点が遠くなるとトイレを探していることがわかるGさん、歩いているコースが微妙に変わると尿意らしいNさんなど、いろいろである。
 …(中略)…
 果たして、老人はオムツ交換が屈辱なのだろうか。違う。オムツが屈辱的なのだ。70年も80年もの長い間やってきた、トイレで排泄するという当たり前の生活を、いまから断念させられることが屈辱なのだ。その上、そのオムツもなかなか替えてくれないのでは、もっと屈辱的ではないか。
 『排泄ケアに時間をとられるよりは、コミュニケーションを大事にしたい』などと書くに至っては、あきれてしまう。介護職はウンコ・シッコに関わってこそナンボだ、と私は思う。そもそも排泄ケアよりコミュニケーションのほうが価値があるという近代的人間観こそが、老人問題をつくり出し、認知症を意味のないものと見なすことになっているのである。
 食べたり、出したりといった欲求が低次元なものであり、コミュニケーションや自己実現のほうが高次の人間的欲求であるという、A・H・マズローの『欲求の階層論』に見られる人間観を、私は『関係障害論』(雲母書房)のなかで批判してきた。
 …(中略)…
 『コミュニケーション』という表現が好きなら、私たち排泄に関わる介護職こそが、それを大事にしているのだ。ことばではなくて非言語的な、意識よりは無意識の、そして老人が自分自身と行うコミュニケーションをこそ大切にしている。それは尿意、便意という、自分の身体の中からの声に耳を傾け、判断し、応えることである。」(三好春樹:認知症介護─現場からの見方と関わり方 雲母書房, 東京, 2014, pp124-127)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第520回『尿と便の困りごと―取り繕いや不快感をなくす努力の結果が……』(2014年6月15日公開)
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学の寺田整司准教授は、「弄便の背景となる因子としては、認知障害が高度であること以外に、怒りっぽいとか介護に抵抗するなどの陰性感情や陰性行動が目立つ場合に多いこと、不眠や徘徊(continuous wandering)と合併しやすく、夜間にみられやすいことが示されている。排便との関係では、便失禁が直接的な原因であり、排便行為とその後始末がうまく行えないことで発生するとされる。便秘が主要な原因であるとする報告もあれば、むしろ下痢気味のときに起こりやすいとの指摘もある。
 背景にある認知症疾患は様々であり、特定の疾患には限定されない。機序としては、便を認識できないとか、トイレの場所がわからないなど失認による場合もあるが、何とか処理しようとしてうまくできずに汚れを広げてしまったり隠してしまう場合や、不快感を取り除こうとして触ってしまう場合が多い。」(服部英幸編集:BPSD初期対応ガイドライン ライフ・サイエンス, 東京, 2012, pp58-59)と述べております。
 そして、直ちにできる弄便に対するケアとして、寺田整司准教授は以下の実践を推奨しております。
・自分で処理しようとしていたと考えられる場合、その気持ちを評価する。
・本人が精神的に不安定な場合、混乱を助長しないよう冷静に対応する。
・便通異常がある場合、食事内容の再検討や運動の実施を考慮する。
・トイレの場所をわかりやすくする。
・トイレに行く時間を決めたり、トイレ誘導の回数を増やす。
・トイレの徴候を見逃さず、誘導などの対応を行い、見守る。
・頻回にある場合や食べてしまうなど重度の場合には、簡単には触れない工夫をする。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第521回『尿と便の困りごと―放尿の隠された意味を考える』(2014年6月16日公開)
 認知症に伴う不潔行為としては、弄便の他には放尿も比較的頻度が高いと思われます。放尿に対してはどのように対応すればよいのでしょうか
 放尿も弄便と同様に、介護破綻に繋がりかねない重大な問題です。しかしながら効果的な解決策が乏しいのも現状であり、私も放尿に対して功を奏したアドバイスができた経験はほとんどありません。
 長野県看護大学の阿保順子学長が放尿への対応に関して言及しておりますので以下にご紹介しましょう。
 「さまざまな場所への放尿は、在宅から施設への転居による見当識の混乱によるものだろう。見当識障害への対策を講じても放尿が見られる場合には、見当識の問題ではなく別の問題であることを考えなくてはならないだろう。これも自分の生きてきた痕跡を残そうとする行為ではないのかという考えも浮かんでくる。放尿する場所が決まっていれば、そこにポータブル便器を置くとか、おしっこシートのようなものを置いておくことが功を奏するかもしれない。」(編著/阿保順子、編著/池田光穂、西川 勝、西村ユミ:認知症ケアの創造─その人らしさの看護へ 雲母書房, 東京, 2010, pp191-192)
 また、北海道医療大学看護福祉学部の山田律子教授は、「認知症の人は、環境の貧しさが、そのまま行動に直結しやすい。例えば、トイレから出た後、同じような部屋がたくさんあると、自分のよりどころを見つけられず、どこへ行ってよいのかわからなくなり、さまよい歩き続けたり、廊下の暗い片隅で排尿する行為は、認知症の人の持つ空間感覚で環境に反応した結果と考えることができる。」(編/中島紀惠子、太田喜久子、奥野茂代、水谷信子 著/山田律子:新版 認知症の人々の看護 医歯薬出版, 東京, 2013, pp110-132)と指摘しております。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第522回『尿と便の困りごと―「お地蔵さん」の役割』(2014年6月17日公開)
 浜松医科大学医学部看護学科の鈴木みずえ教授は、物体失認(ゴミ箱と尿器の区別がつかなくなってしまう)が原因にある場合には、「便所」「ゴミ箱」と書くことで理解できる場合もある(編集/鈴木みずえ 著/鈴木みずえ:パーソン・センタードな視点から進める急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア─入院時から退院後の地域連携まで 日本看護協会出版社, 東京, 2013, pp12-26)と指摘しております。なお、重度の認知症高齢者の場合は、言語的な表現はその人の本当のニーズを表していないこともあり注意が必要であると述べております。すなわち、「もぞもぞ」してズボンを触りだしたら排泄のサインなので、そのような動作がみられたら、すぐにトイレに誘導するといったケアは一般的によく行われています。こうしたことを繰り返すうちに、「おしっこ」と言うとスタッフがすぐに来てくれるので、不安になると「おしっこ」と叫ぶような事例もあったようです。言葉の裏に秘められた本人の気持ちを察することがスタッフには求められるわけですね。
 投薬により放尿が若干軽減することもあります。私が最近経験した事例は、70歳代の女性患者さんです。改訂長谷川式認知症スクリーニングテストは15/30点と低下しており、中等度アルツハイマー型認知症の状況にありました。この方は、施設入所をきっかけとして放尿が目立つようになりました。主に隣の入所者のベッド周りに放尿してしまいます。施設入所により易刺激性が亢進している様子でしたのでメマンチン(商品名:メマリー[レジスタードトレードマーク])を投薬してみたところ、やや放尿行為が軽減しました。
 群馬大学大学院保健学研究科の内田陽子准教授は、ピック病における放尿行為がある工夫によって改善した事例があったことを著書において報告しております(内田陽子:尿失禁・認知症ケア マンガでリアルに対処法 日総研出版, 名古屋, 2011, pp52-53)。
 さていったいどんな対処方法を試みられたのでしょうか。
 内田陽子准教授は、先ずは、ピック病であるKさん(65歳・男性)の常同行動を利用して行動パターンを把握し、放尿場所を同定したそうです。そのうえで、放尿場所にお地蔵様を置いてみたそうです。すると、Kさんはお地蔵様には放尿しなかったそうです。

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 トイレの場所、ポータブルトイレの「色」が放尿という問題を解決したことも報告されております。以下にご紹介致します。
 「特養ホームに入所してきたトヨノさん(83歳、女性)は、なかなかトイレの場所が覚えられない。部屋を出てきて廊下をウロウロしているのを、スタッフが気づいてトイレへ案内すればいいのだが、気がつかないと、廊下の隅でしゃがんで用を足してしまう。昼間はちゃんと行くことも多いのだが、夜になるとわからなくなるらしい。
 スタッフの話し合いの席で、入所前、彼女の自宅を訪問したスタッフが、あることを思い出した。家ではベッドから起きて部屋を出ると、枕元の方向にトイレがあったというのだ。しかし、現在の部屋のベッドの位置では、トイレは足元の方向になっている。
 『そういえば、(枕元にあたる)談話室のほうでウロウロしていることが多いわね』というスタッフの声もあり、同室の頭のしっかりしたTさんと、ベッドの位置を代わってもらうことにした。それなら、枕元の方向にトイレがあることになる。それ以来、トヨノさんの廊下の隅への放尿はほとんどなくなった。」(三好春樹:認知症介護─現場からの見方と関わり方 雲母書房, 東京, 2014, p102)
 「ヤスオさん(90歳、男性)が、初めてのショートステイでやってきた。認知症は深かったが、訪問看護の対象にもなっていたし、施設の行事に参加してもらったこともあった。本人も、顔見知りのスタツフがいるせいか、夜も落ちついて熟睡してくれた。
 ところが、朝になって、早出の職員が“異変”に気がついた。ヤスオさんのベッドサイドのポータブルトイレは全く使われておらず、代りに、ベッドサイドのゴミ箱に尿が溜まっていたのだ。
 スタッフは困惑した。というのも、先に挙げたトヨノさんのトイレの位置をめぐる経験があったため、入所前訪問の情報は全員が共有することになっていた。
 会議で報告された排泄についての情報は、次のとおりだった。尿意も便意もあり、トイレには歩いて行けるものの、夜はベッドサイドのポータブルトイレを使用している。ポータブルトイレの位置はベッドの右側に降りて右側、つまり頭の側である。
 施設に入所したら、介護力もあることだから夜もトイレまで同行したらどうか、という意見もあった。しかし、身体機能的には可能でも、急に生活習慣を変えないほうがいいだろうということで、しばらくは家と同じ位置にポータブルトイレを置くことにしたのだ。名前は覚えていないものの、顔見知りの訪問看護師が朝夕の2回は顔を出すことにしたし、受け入れ態勢に抜かりないはずだった。
 家族に電話をして、これまでにそんなことがあったか尋ねてみたが、『間に合わなくて漏らすことはいつものことですけど、ゴミ箱で用を足すなんてことは一度もありませんねえ。いったいどうしたんでしょうかねえ』と不思議そうだったという。
 その日の夜は、ポータブルトイレの位置を変えてみることにした。足元の、夕べ放尿したゴミ箱があったところにポータブルトイレを置き、ポータブルトイレのあった頭側にゴミ箱を置いてみたのだ。するとどうだろう、またしてもゴミ箱に放尿していたのだ。
 『これは、ポータブルトイレの位置の問題じゃないね』ということになった。この問題でも、やはり入所前の家庭訪問が役に立った。『ひょっとして』と、訪問したスタッフの一人が言った。『色のせいじゃないかしら』。
 彼女によると、家で使っていたポータブルトイレの色は青だった。施設のものは白で、ヤスオさんが放尿しているゴミ箱が青色だったのだ。
 すぐに青色のポータブルトイレ探しが始まったが、施設内にはなく、ヤスオさんの家まで行って借りてくることになった。青色のゴミ箱は木目調のものに替えられ、再びベッドサイドの頭側に青いポータブルトイレが置かれた。そして3日目の夜にしてやっと、ヤスオさんはポータブルトイレに放尿できたのだった。」(三好春樹:認知症介護─現場からの見方と関わり方 雲母書房, 東京, 2014, pp102-105)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第523回『尿と便の困りごと―夜間頻尿と切迫性尿失禁』(2014年6月18日公開)
 夜間頻尿と切迫性尿失禁(メモ1参照)が重なったような状況から、夜間に放尿が起きてしまうケースもあります。夜間頻尿や放尿の頻度が多いと介護者は十分な睡眠が取れなくなり、介護破綻に繋がりかねない危機的な状況となります。

メモ1:切迫性尿失禁
 切迫性尿失禁は、高齢者で起こる尿失禁の中で最も一般的なタイプです。切迫性尿失禁は、膀胱が勝手に収縮したり、膀胱が慢性的に過剰に活動する(過活動膀胱)ために起きるとされています。
 このタイプの尿失禁が持続する場合には、排尿を抑制する脳の前頭葉に生じた疾患が関連していることもあります。
 過活動膀胱(overactive bladder;OAB)は高齢者でよくみられ、突然の強い尿意が起こるだけでなく、通常これに頻尿および夜間頻尿を伴います。脳卒中など体の動きを制限する疾患があると、すぐにトイレへ行くのがさらに困難となり、尿意切迫感が強いと我慢できずにおしっこをもらしてしまう(切迫性尿失禁)こともあります。
 国際禁制学会の用語基準では、過活動膀胱は「尿意切迫感(urgency)を必須症状として、通常、頻尿と夜間頻尿を伴う症状症候群であり、切迫性尿失禁(urgency urinary incontinence)はあってもなくてもよい」と定義(吉田正貴:過活動膀胱と切迫性尿失禁の定義と使い分け. 日本医事新報No.4641 83-84 2013)されております。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第524回『尿と便の困りごと―トイレ誘導のノウハウ』(2014年6月19日公開)
 頻尿・尿失禁に関しては、『ひょっとして認知症? Part1』の第507~514回において詳しくご紹介しましたね。
 群馬大学大学院保健学研究科の内田陽子准教授らは、看護師の視点からみた排尿ケアに困難を要している認知症患者の問題点、成功したケア内容を明らかにし、アウトカムを高めるための排尿ケアについて検討するため、A協会が主催する講習会に参加し調査の同意を得た看護師93人のうち、認知症患者の排尿ケアの困難事例を記載した80人を対象として調査を行いました。そしてその結果について以下のように報告しております。
 「排尿ケア困難事例の記載があったのは80人であったのに対し、排尿ケア成功事例の記載は27人と少ないことから、多くの看護師は認知症患者の排尿ケアについて困難な場面に直面していると考えられる。成功した排尿ケアでは『トイレ誘導』がもっとも多く、認知症患者の排尿ケアに対して、多くはトイレ誘導で対応しているのが現状であるといえる。」(長竹沙耶子、内田陽子:看護師からみた認知症患者の排尿における問題点とアウトカムを高めるケア. 日本認知症ケア学会誌 Vol.11 788-795 2013)
 筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学の朝田隆教授は、著書の中で排泄行為の失敗に関して以下のように報告しております(朝田 隆編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, pp165-166)。
 「排泄行為は多くのプロセスからなる。尿意、着脱、排泄行為、後始末、施錠と開錠とある。概して患者は、個々の行為はなんとなく覚えていても全体の流れが次第にわからなくなるようである。
 まず次第に、ベルトのついたズボンは下げられなくなるので、ゴムベルトが望ましい。便器の蓋が開けられず、『トイレはどこだ?』とか、蓋への放尿・放便も珍しくない。大便では便座も上げて、便器に直接座ってしまうこともあれば、便器と自分の位置関係がわからなくなることもしばしばある。このように便器に対して自分のとるべき位置がわからなくなるので便器の外への排泄となり汚してしまう。
 このような状態に至った人への指示では、『前後』とか『左右』とかは言ってはならない。むしろ『こっち向いて』などと言って優しく、軽く体を回せばスムーズにいく。排尿に際して下着を下ろさせ、座らせれば周囲を汚さずにすむ。」(一部改変)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第525回『尿と便の困りごと―色の配慮も大切だ』(2014年6月20日公開)
 シリーズ第9回『認知症の中核症状に関する理解を深めましょう─視空間機能障害』において説明しましたように、視空間機能障害が出現してきますと、「お風呂の入り口に床の色と違うバスマットが敷いてあると、バスマットの部分が谷底のように見えてしまい、患者さんは『落ちてしまう』と感じ、渡れない(足が踏み出せない)と訴える」といった症状が出現してきます。
 東京ふれあい医療生協梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司医師は、このような状況に対するケアとして、認知症の人の色調への配慮も必要だと述べております。
 「認知症が進行すると、色の変化についても感知できなくなり、ちょっとした段差がわからず、転倒の原因になることもよくあります。壁と床の境目をくっきりさせる工夫や階段の縁に赤色のテープを貼ることによって、視覚の障害を助け、転倒の防止になります。AD(アルツハイマー病)では、赤色を感知する網膜の細胞は残りやすいといわれており、色調にも工夫が必要です。」(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, p28)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第526回『尿と便の困りごと―「まさか一晩に3回もの放尿」』(2014年6月21日公開)
 夜間頻尿・放尿により介護者が苦悩する様子を「認知症の人と家族の会」の岩手県支部世話人である立花美江さんが伝えておりますので以下にご紹介しましょう。
 立花美江さんは、若年性アルツハイマー病の診断を受けた夫の在宅介護を、家族・地域の協力を得ながら、約10年間続けました。その在宅介護の日々の様子を綴った著書の中に、「何もかも投げ出したい」と見出しされた日記があります。63歳の時に、アルツハイマー病と診断されてから8年の歳月が経過した2006年12月に書かれたものです(立花美江:手をつなぐ認知症介護 かもがわ出版, 京都, 2010, pp118-121)。
 「タ食後にりんごを食べさせたのに、すぐまた洗面所で隠れて食べていた。食べさせていないみたいなので『やめてください』と注意した。そのことがとても気になったのか、『ごめんなさい。今度から二度とやりませんから』と謝ってきた。
 そんなに強い言葉で言った訳ではなかったのに。コタツに入ってブツブツと言い訳がましいことをしゃべりはじめた。寝る時間が来ているので、ここでしゃべらせると気分がハイになって寝付かなくなると思い、『いいがら、いいがらその話は』と言ってやめさせた。
 まもなく床に入ったが、1時間ほどで起きてきた。それからは調子が狂ったのか、たびたび起きてくる。眠っていないのがわかる。洗面所に置いてあったペットボトルが入っているダンボール箱にじゃあじゃあとオシッコをかけたらしい。もう飲めないのでペットボトルを捨てる。
 夜10時、1回目の睡眠薬を飲ませる。効き目がなく、すぐ起き出して来る。夜中の1時になっても眠らない。2回目を飲ませたら、ますます眠らない。30分おきにガバッとベッドから起き上がる。全然眠っていない。私がウトウトしていたら、1人でトイレに行ったらしい。トイレが何処かわからない。探しているうちに、茶の間、台所、玄関、トイレと放尿して歩いたらしい。同じことが2回続いた。
 まさか3回もー晩に放尿されるとは思っていなかった。気が付くと、室中ダラダラ、玄関のタタキまでジャブジャブになっていた。これまでこんなにひどいことはなかった。それを拭きながら、『情けなくなってきた。泣きたい。こんな思いするなら、死んでしまいたい。何もかも放り投げ出したい。どこかに逃げて行きたい。なんで私だけ、こんな思いしなければいけないの?』  頭の中がゴチャゴチャ。私もまた、疲労でパニックと恐怖の中にいた。もうショートステイを使って楽になりたいと思った。」(一部改変)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第527回『尿と便の困りごと―施設入所で夜間頻尿改善のケース(上)』(2014年6月22日公開)
具体的な対応策を見つけることがなかなか困難であるのが夜間頻尿ではないでしょうか。しかしながら、ひどい夜間頻尿が施設入所をきっかけにして一気に改善したケースも私は経験しております。『ひょっとして認知症? Part1』の第507回『家族が疲れ果てる夜間頻尿(その1)─意外な対策があるものだ』のコメント欄においてご紹介したケースです。
 2012年8月下旬にかかりつけ医から紹介を受け、私の外来を受診された80歳代後半の女性患者さんは、おむつの中では排尿ができず2カ月程前より夜間は30分毎にトイレに行き(昼間は1時間毎)、また同時期より幻覚・妄想、焦燥が目立つようになってきたとの経過でした。既に要介護4の介護認定を受けておられました。
 幻視、誤認、パーキンソン症状などから、レビー小体型認知症(DLB)と診断しました。東邦大学医療センター佐倉病院神経内科の榊原隆次准教授らの報告によると、DLBにおいては86.7%(26/30例)において夜間頻尿が認められたそうです(2012年2月2日号Medical Tribune Vol.45 No.5 11)。日中頻尿の頻度は33.3%ですから顕著に夜間の頻尿が目立つようです。榊原隆次准教授らは、「排尿筋過活動(DO)・最大尿意量(MDV)減少の責任病巣としては大脳基底核が考えられ、前頭葉皮質の可能性も考えられる」と考察しております。
 さて、このご家族は、「家で看たい!」という想いと介護疲れが交錯している状況でした。介護者が30分置きに夜間起こされてしまう状況では在宅介護は長続きしません。さりげなく私が今後のケアに関するご意向をご家族に尋ねてみますと、同居している娘さんは、「レスパイト(休息)目的の入院も検討し始めたところです」と意向を話されました。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第528回『尿と便の困りごと―施設入所で夜間頻尿改善のケース(下)』(2014年6月23日公開)
 私は「在宅介護の限界」と感じ、医療ソーシャルワーカー(Medical Social Worker;MSW)に連絡を取り、入所可能なサービス付き高齢者専用賃貸住宅(高専賃)をご紹介致しました。
 投薬に関しては、「強迫性の頻尿」に対してSSRI型の抗うつ薬をごく少量(具体的には、パキシル[レジスタードトレードマーク]10mg)だけ投薬しました。また、眠らない時に用いる薬として抗不安薬を頓服で処方しておきました。
 これまでに何度かご紹介しましたように、セロトニンは情動と行動を制御する重要な神経伝達物質であり、セロトニンの異常はうつ・強迫性障害・攻撃性などに関連します。脳のセロトニンを増加させる薬物療法(SSRI型の抗うつ薬)がこれらの状態の治療に用いられることがあるのです。
 さて、この患者さんは5日後に高専賃に入居することができ、その翌々日(初診から1週間後)私の外来を再診されました。
 2日連続の当直勤務をされました高専賃の施設長さんのお話によりますと、入居当日は抗不安薬を服薬しても夜間3回の排尿があったようです。しかし、入居2日目には抗不安薬の効果なのか夜間一度も起きずに朝までぐっすり眠られたそうです。
 入居することにより、昼間しっかりと覚醒していたことが功を奏したのか、SSRIが効果を発揮したのか、抗不安薬が効いたのか評価は難しいところです。しかし、いずれにしても家族が困惑した頻回の夜間頻尿が短期間で、ものの見事に解消した事例です。
 高専賃の施設長さんは幸いにも認知症ケアにたいへんご理解のある方でしたので、私も安心して委ねることができました。
 通常、物忘れ外来においては抗うつ薬と抗不安薬を同時に処方開始するケースは稀です。一種類ずつ順次試してみて、どちらの薬剤がより効果を発揮するのか見極めることが基本となります。しかしこの事例においては、既に介護破綻を起こしている状況であり、早急な症状の改善が最優先課題でしたので、効果の期待できそうな薬剤を同時に開始した次第です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第529回『尿と便の困りごと―写経ではなく、お茶会だったケース』(2014年6月24日公開)
 「認知症の行動・心理症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)の中でも、睡眠障害(特に、夜間の不眠)は最も大きな問題です。また、頻回の尿意もBPSDの誘発要因となります。
 頻尿ケアおよび日中の覚醒レベルの向上という面において、過去の趣味・職業に基づいたアクティビティケアが功を奏した事例も報告されています(堤 雅恵、留畑寿美江、野垣 宏 他:超高齢の認知症事例の背景を生かしたアクティビティケアの効果. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.5 238-246 2012)。
 報告によりますと、90歳代の認知症女性において、長年の日課であった写経をケアに採り入れたものの、頻回の尿意や睡眠・覚醒パターン障害の改善は認められなかったそうです。しかしながら、家族から聴取された過去に茶道を教えていたという情報を元に、従来の写経に加えて「お茶会」を催したところ、排尿および睡眠・覚醒パターンの改善が認められたそうです。
 話が脇道にそれますが、アクティビティケアについて説明しておきましょう。アクティビティケアとは、レクリエーションなどのアクティビティを用いて、脳の機能や感覚運動など身体的な機能の維持・向上を図る援助活動です。
 ちょうどよい機会ですので、アクティビティケアを実践していくうえでの留意点についてもご紹介しておきましょう。
 「認知症ライフパートナーとは、認知症の人に対して、これまでの人生や生き方、価値観を尊重し、日常の生活をその人らしく暮らしていけるように、本人や家族に寄り添い、サポートできる人です。また、その人の『できること』を活かすために、アクティビティを用いたプログラムを活用しながら支援することのできる人です。
 アクティビティ・プログラムの実施にあたっては、その人が今どのような状態にあるのか、その人の状態やニーズを探るための事前調査(アセスメント)を行います。アセスメントに必要な情報は、在宅においては、ケアマネジャー(介護支援専門員)やかかりつけ医、家族などから確認できます。施設の場合には、入所時にケアマネジャーなど介護職によってアセスメントが行われています。
 アクティビティに関するアセスメントシートについて、現状においては統一された基準はなく、入所時のアセスメントを参考に施設等の判断で行われているのが現状です。また、在宅においてはアクティビティ・プログラムは、十分に活用されているとはいえないのが現状です。
 アクティビティ・プログラム本来の効果を引き出すためには、生活歴、家族関係、職業歴、習慣、趣味・嗜好、価値観、人生観など、その人の全人的な視点に立った計画が必要です。また、その人の身体状態、判断力、理解力、好きなこと、興味をもつことなどに合わせて、五感の刺激、創造性、継続性、非日常の楽しさなどの視点から個人やグループに合ったプログラムを選択する必要があります。」(日本認知症コミュニケーション協議会発行:認知症ライフパートナー検定試験[レジスタードトレードマーク] 基礎検定公式テキスト・第2版 中央法規, 東京, 2013, pp8-10)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第530回『尿と便の困りごと―母と義母で夜は寝かせてくれず』(2014年6月25日公開)
 松本診療所ものわすれクリニックの松本一生院長(元大阪人間科学大学教授)は、「昼夜逆転」は介護破綻に繋がりかねない危機的な状況となりうると指摘しています。
 「幻覚・妄想だけにとどまらず、昼夜逆転や興奮などの行動障害が加わるとき、介護者の負担は頂点に達する。筆者のこれまでの経験から得たイメージでは、介護者が認知症の人の昼夜逆転と向き合うことでケアが破綻してしまうのにかかる時間は1週間ほどである。場合によっては2~3日で在宅ケアが破綻してしまうこともある。介護者が寝られないなかでケアをしなければならない状況は、それほどまでに介護者を追い詰める。介護者支援が最も緊急性を帯びてくるのはこの時期である。」(朝田 隆編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, pp128-129)
 ですから、昼夜逆転、夜間頻尿という訴えが家族から聞かれた場合には、家族の心情に配慮したきめ細やかな介護者ケアが必要な時期であることを肝に銘じて、認知症の診療に取り組む必要があります。
 朝日新聞社の連載「認知症とわたしたち」第1部「気づきのとき・3─母も義母も同時に介護」(2013年1月5日)においても、睡眠不足になりながらもケアする介護者(真佐子さん・63歳)の現状が報道されましたね。一部改変して以下にご紹介します。
 「2人の母は夜、寝かせてくれなかった。
 喜代子さん(義母)は、家の中を歩き回った。喜代子さんの部屋のドアノブに鈴をつけた。暗闇にチリンチリンと鳴るたびに起きて連れ戻した。増江さん(実母)は一晩に二十数回トイレに立った。
 真佐子さんの姉や、近くに住む長女(39)、長男(38)が通院の付き添いや買い物などを協力してくれた。それでも、2人の介護の負担は生半可ではなかった。漏らした尿や便の始末。ベッドから起こすときの肩や腰の痛み。『なんでこんなふうになっちゃったの』
 同居から1年後、まずは喜代子さんが入れる施設を探し始めた。増江さんのほうは、脳梗塞で入院したあと、特養を探した。」
 皆さんは、以上のような状況で在宅介護を続けていく自信はありますか? ほとんどの方は、「困難」と感じるのではないでしょうか。その最大の要因は、介護者の睡眠不足に起因する身体的・精神的な負担の大きさではないでしょうか。
 余談にはなりますが、私自身も「眠れない」ことの辛さは身に染みております。30歳代までは脳神経外科医として急性期医療に従事しましたので夜間の緊急手術も多く、徹夜で手術した翌日も通常の業務をするということが日常茶飯事でした。
 眠れない辛さを長年に渡って味わってきたトラウマのためか今では、入眠しやすいよう毎晩お酒をしっかりと飲んで眠りについている状況です。しかしこの飲酒習慣は、「当直」をする際には大きな問題となります。当直ではお酒が飲めないことに加えて枕の違いも加わり、私はなかなか寝付くことができません。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第531回『尿と便の困りごと― 一番強い欲求とは何か?』(2014年6月26日公開)
 さて、「不眠と介護破綻」という話からは少々外れますが、「欲求」について興味深い話をご紹介しましょう。
 要求は、生命維持のための個体保存欲求(食欲、口渇、睡眠、排泄、呼吸、活動など)や種族保存欲求(性欲、母性本能など)などを含めた一次的要求(primary need)と呼ばれるものと、自我的欲求(安全、愛情、自己承認など)、社会的欲求(自己顕示、集団帰属、独立など)を含む社会生活に関わる二次的要求(secondary need)に分類されます。
 ところで皆さん、「探求」「母性」「性欲」「飢餓」「渇」という5つの欲求のうちどの欲求が一番強いと思われますか? 私はこのことを大学1年生の時に心理学の授業で習いました。心理学の教授からこの設問を問いかけられた際に、私はおそらく、「渇」か「母性」ではないかと直感的に思いました。もう30年以上も前の授業ですから、心理学講義のノートは残っておりません。この原稿を書いている時にふと心理学の授業のことを思い出しましたので、関連資料がないか調べてみました。
 ネットで検索してみますと、「福田典雍:学習心理学の名著、及びその周辺(大正大學研究紀要 第九十四輯)」という資料を見つけることができました。その資料に、私の知りたかった正解が記載されておりました。
 では正解をご紹介しましょう。結果は、「母性、渇、飢餓、性、探求」という順番だったそうです。特に初産の雌では、母性の強度が際だって強かったそうです。
 残念ながら「睡眠」はこの実験には含まれておりませんが、介護破綻に繋がりかねない重大な問題であることを考えますと、少なくとも性欲よりは上位にランクされるような気がしますね。もしそのような研究報告が既に存在しておりましたら、Facebookコメント欄においてご紹介頂けますと幸いです。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第532回『尿と便の困りごと―認知症カフェへの期待』(2014年6月27日公開)
 繰り返しとなりますが、昼夜逆転、夜間頻尿などといった相談が家族から寄せられた際には、きめ細やかな介護者ケアが必要な時期であることを念頭に置いてアドバイスする必要があります。
 介護者ケアという視点からしますと、認知症カフェにもその期待が寄せられております。認知症カフェにつきましては、シリーズ第69回「幼老統合ケア 家族や友人、近隣住民、ボランティアのサポートが必要」においてもご紹介したことがありますね。
 2013年12月7日付朝日新聞・生活「認知症とわたしたち」は、2013年12月1日に開催されました「フォーラム 認知症カフェを考える2013」の様子を伝えております。認知症カフェは、認知症の人やその家族の居場所作りや支援が目的であり、全国に数十カ所あります(2013年時点)。フォーラムにおきましては3カ所の認知症カフェの様子が紹介されたそうです。そのうちの一つが京都大学医学部附属病院老年内科診療科長の武地一講師が中心となって週1回開催している「オレンジカフェ今出川」でした。「オレンジカフェ今出川」の特徴は、常駐のケアマネジャーなど介護の専門職が家族の悩みを聞くことであり、武地一医師は「認知症になっても社会と関わり、介護家族の葛藤を和らげる環境が必要だ」と指摘しております。

Facebookコメント
 「認知症の人と家族の会(以下、家族の会)では2012年度に、老人保健健康増進等事業として認知症カフェおよびそれに類する場について調査した。すでに実践している事例が各地にあったが、全国的に調査を行うのはこの報告が国内で初めてである。この調査では、家族の会からの情報によって選定したカフェ28か所に調査票を配布し、うち11か所は調査員が実際に認知症カフェに出向いて聞き取りを行った。筆者もその委員に加わっていたので、ここではその結果に基づく報告書の内容と、筆者自身のフィールドワークによる知見を総合して、認知症カフェを概観したものを示す。
 とくにこの報告書でカフェの類型化を試みて明らかになったことは、現在のカフェのあり方の多くが、1979年から家族の会が行ってきた『つどい』と呼ばれる取組みに影響を受けている点である。『つどい』そのものは、家族の会の都道府県支部ごとに、さまざまな形式に発展している。たとえば現在京都においては、①だれでも参加できる一般のつどい、②男性介護者のつどい、③若年期に発症した介護家族のつどい、④本人同士のつどい(比較的軽度で言葉でコミュニケーションのとれる人中心、言葉でやりとりできない人と支援者)へと分化している。このような場を模範としながら各地域で根づき、その一部が認知症カフェとして自治体のモデル事業や市町のオレンジプランの後押しを得て、さらに多様な変化を見せ始めている。報告書では要素と特徴としてまとめられたものを、認知症カフェがもつ機能として外すことのできない条件と、条件を満たしたうえでカフェの特色を決める特徴として整理した(表3)。
 また、認知症の人、家族、市民・ボランティア、専門職からみた認知症カフェの効果について調査票の自由記載や聞き取り結果をおおまかにとらえたものを表4に示す。」(中村春基、苅山和生:作業療法士の立場―認知症カフェと生活行為向上マネジメントの研究を通して―. 老年精神医学雑誌 Vol.25 280-287 2014)

P.S.
 表3・4の元となった資料はウェブサイト(http://www.alzheimer.or.jp/webfile/cafe-web_0001.pdf)において閲覧可能です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第533回『尿と便の困りごと―「問題行動」は、患者の「適応行動」』(2014年6月28日公開)
 1995年に46歳で若年性認知症と診断されたクリスティーンさんは、「認知症の行動・心理症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)が発生してしまう要因について以下のように語っています(一部改変)。  「講演の後、『朝になっても本人がパジャマを脱ぎたがらない時は、どうしたらよいでしょう?』と聞かれたことが何度かある。私はたいてい、こう答える。  『あなたは日曜日の朝はどうされますか? いつもちゃんと服を着ますか? また寝たいなと思う時はありませんか? あるいはパジャマ姿で家のまわりをうろうろすることはありませんか? いつまでもパジャマ姿でいることがそんなに問題でしょうか?』  世界は私たちのテンポよりもずっと速く、目の回るようなスピードで動いているというのに、私たちは、やれこれをしろ、早く答えろ、ゲームをしろ、グループ活動に参加しろと言われている。あまりにもスピードが速すぎるので、本当は、向こうへ行ってほしい、もっとゆっくりやってほしい、私にかまわないでほしい、とにかくあっちへ行ってほしい、と言いたいのだ。私たちが扱いにくくて協力的でなくなるのは、たぶんそういう時かもしれない。  これは『問題行動』と呼ばれている。だが私に言わせれば、これは自分の介護環境に適応しようとしている『適応行動』である。あなたを押しのけるのは、無理やりシャワーを浴びさせようとするからだし、食べ物を吐き出すのはそれが嫌いだからだ。間違ったところで用を足そうとするのはトイレの場所を忘れてしまったからだし、別の人の部屋へ入っていくのは自分の部屋がどこか忘れてしまったからだ。どうか私たちがいつもそうしている時間にシャワーを浴びさせ、お風呂に入れてほしい。どんな食べ物が好きか知っていてほしい。トイレの場所がはっきり見えるようにしておいてほしい。」(クリスティーン・ブライデン:私は私になっていく─痴呆とダンスを 馬籠久美子・桧垣陽子訳, クリエイツかもがわ, 2004, p171)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第534回『尿と便の困りごと―入浴拒否に対するアプローチ』(2014年6月29日公開)
 こうした「整容拒否」と呼ばれる問題についてもう少し考えてみましょう。
 筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学の朝田隆教授は、整容拒否に関して次のように報告しております(朝田 隆編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, pp169-170)。
 「男性の髭剃りも問題が多い。剃りやすいところだけ一点集中となりがちなので、左右どちらか、しかも特定の部位に偏ってしまう。顎の下は特に難しいようで、やろうとしない人も多い。指示や鏡を渡されても駄目で、前と同様にできるところだけやるのが常である。それだけに対応では、介護者が剃るべき顔の部分に髭剃り器をあてて指示することになる。」
 「入浴には多くのプロセスがある。脱衣だけで大変である。また浴槽に脚を入れるという動作、またぐという動作がわからない。特にシャワーを浴びる、洗体する動作に際して保続が出やすいのではないかという介護者もいる。
 多くの患者は、シャンプーを一番嫌がる。これに対して家族介護者は、『シャンプーキャップを使えば楽々です。水やシャンプーが目や耳に入らなくなるので、本人の抵抗がずっと減ります』と答える。あるいは『メロディをつけて流れ作業でやっています。“はい今度は手を挙げて、手が終わったら足あげて、足が終われば、シャンプーだ”という感じ』。乗りやすいリズムで、にぎやかに楽しそうにやること、そして協力してもらえたら褒めてあげるのがコツだそうだ。」(一部改変)
 認知症ケアアドバイザーの五島シズさん(全国高齢者ケア協会監事、認知症介護研究・研修東京センター客員上級研究員)が2013年1月10日に来津され、第10回中勢認知症集談会において、「身近な人に認知症が始まったら」というタイトルでご講演されました。フロアーからの「入浴拒否に対するアプローチについて教えて下さい」という質問に対して、五島シズさんは、「私の場合は、足から攻めていく」と回答されました。浴室で足を洗い、気分がよくなった頃を見計らって連続性を持って入浴に移行していくとうまく行くことが多いので、浴室で足を洗うことがポイントだと指摘されておりました。そして、「どうしても服を脱いでくれませんでしたので、野球拳しながら服を脱がせた方もいらっしゃいましたよ。色仕掛けは効きますよ」と過去に実践されたケアを回顧されておりました。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第535回『尿と便の困りごと―社長より偉いのは会長さん』(2014年6月30日公開)
 五島シズさんは入浴拒否に対するアプローチとして、著書において、「会長は社長よりも偉い」という一節を紹介しております。
 「食事も、入浴も拒否するCさんは、勤めていた会社で社長だった方です。そのことに目をつけた介護者は、Cさんに、『この方は○○さんという会長さんなんですよ』と紹介しました。会長は社長より偉い地位にありますから、Cさんは立ち上がって挨拶をされました。会長といっても、町内会の会長なのですが、会長には違いありません。その会長さんは、何回か入所され、介護者ともなじみの間柄で、協力的です。食事を拒否するCさんに『おい、飯なしでどうするんだ、体が資本だろ』と会長さんが言うと、『はあ』と言って全部平らげてしまいました。お風呂の場合も、『入らなきゃだめだ、一緒に入ろう』と勧めてくださって、それからは会長さんの後をついて歩き、拒否もなくなったのです。」(五島シズ:“なぜ”から始まる認知症ケア 中央法規, 東京, 2007, p189)
 社会の上下関係が身に染みついた日本男性の場合には、権力のある人からのひと言には簡単に従ってしまいやすいという特性を利用した実践的ケアと言えるのでしょうね。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第536回『尿と便の困りごと―患者の心のペースを読み取る』(2014年7月1日公開)
 国立病院機構菊池病院の木村武実臨床研究部長は、入浴介助においては患者さんのペースやレベルに合わせることが大切であると指摘しており、それによって入浴拒否も軽減できると述べています。
 「介護施設では、入浴を拒否する患者さんで困っているところが多いようです。患者さんの入浴を決められた時間に済ませようとすると、患者さんをわからないまま浴室に連れ出し、全介助で行ってしまうことになります。患者さんには拒絶、興奮がみられ、もの盗られ妄想やいじめられ妄想が起こり、一方で患者さんの衣服の着脱、身体洗いの能力まで低下してしまいます。そこで、入浴時間を1日中にして、患者さんの気が向いた時に入り、着脱衣や洗いもできるだけ本人にやってもらったところ、拒絶、興奮、妄想などはなくなり、入浴を楽しまれるようになりました。この入浴状況の改善を通して言えることは、前の入浴のさせ方が介護者のペース、つまり自分たちの業務ペースを優先していたということです。しかし、その後の入浴のさせ方は、患者さんが納得し安心して、少しでも自分でやり、入浴しているということで、患者さんの心のペースに合わせているわけです。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p75)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第537回『尿と便の困りごと―その人らしさを尊重するケア(上)』(2014年7月2日公開)
 イギリスの臨床心理学者である故トム・キットウッド教授は、従来より行われてきた医学的な対応を中心としたケアから脱却し、パーソンフッド(personhood=その人らしさ)を大切にするケアという新しい概念すなわちパーソンセンタードケア(person-centered care)を提唱しました。
 パーソンセンタードケアは直訳すれば、「人中心のケア」ということになります。すなわち、認知症高齢者としっかり向き合い、認知症となっても「その人らしさ」を尊重するケアなのです。
 国立病院機構菊池病院の木村武実臨床研究部長は、パーソンセンタードケアについて説明し、「その人らしさ」を尊重するケアの実践により入浴拒否を解消できた事例を紹介しています(一部改変)。
 「Tom Kitwoodは、D=P×B×H×NI×SP(D:認知症症状、P:性格、B:生活史、H:身体状態、NI:神経学的障害、SP:社会心理的要因)の公式を提唱し、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)の発症および増悪の要因に関して、すべて神経病理学的過程によって起こるとは考えられず、心理社会的要因も関与していることを強調しています。
 Gさんは79歳の女性です。被害妄想、昼間ボーっとしていること、誤嚥性肺炎の反復などがあるため受診されました。幻視、パーキンソン症状、認知機能の動揺などが認められ、レビー小体型認知症と診断されました。投与されていた抗精神病薬を漸減・中止して、少量のセディール(比較的副作用の少ない抗不安薬)を投与することにより、昼間の眠気と肺炎は消失して施設に入所されました。初日は入浴に応じられましたが、その後は頑なに入浴を拒否されました。施設のスタッフが困惑して相談に来られました。患者さんには『服をはぎ盗られる』『頭からお湯をかけられる』などという被害妄想があるとスタッフは言いました。そこで、Gさんの生育歴を、ご本人の語りとご家族の話から明らかにしました。Gさんは、裕福な家庭で養育され、女学校を卒業し花嫁修業をして、21歳の時に30歳の実業家と結婚しました。結婚後も、家政婦が2人いるような自宅に居住し、華道と日本舞踊が趣味で、当時は珍しい外車に乗って通っていました。成人後は、入浴中に洗髪したことはなく、いつも美容室で洗髪してもらっていました。施設では、男性介護士が入浴介助に加わり、服を脱がせたことが分かりました。そこで、①男性は入浴介助につかない、②女性介護士が脱衣を促し安心感を与える、③入浴時には洗髪せずに、自ら身体を洗うよう促すなどの改善策を講じたところ、Gさんは少しずつ入浴されるようになりました。
 入浴時は洗髪すると考えるのが一般的ですが、そうではない方もいらっしゃるのです。したがって、患者さんの性格、教育歴、生活史、最近の生活状況(Kitwoodの公式のP:性格、B:生活史、SP:社会心理的要因)などを聴取して、患者さんの個々の生き方を十分に理解する必要があります。この理解が、BPSDを解決するヒントを治療者側に提供し、患者さんがBPSDを介して何を訴えているのかが自ずとわかってきます。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, pp79,84)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第538回『尿と便の困りごと―その人らしさを尊重するケア(下)』(2014年7月3日公開)
 「この患者さんは、家事・雑用は家政婦に任せ、いつも美容室で洗髪し、華道や日本舞踊を趣味として、外車を乗り回すなど、非常に裕福な生活になじんでいる、プライドが高い奥様だったわけです。それを施設のスタッフは理解せずに、施設に入所していきなり衣服を男性介護士に脱がされ、浴室に連れて行かれ、洗髪のためにお湯を頭からかけてしまいました。患者さんが『服をはぎ盗られる』『頭からお湯をかけられる』などと言って入浴を拒否されるのは至極当然なことなのです。やはり、患者さんの語りに耳を傾け、患者さんがこれまでどのように生きてこられたかを物語のようにとらえて、患者さんの心理社会的背景を十分理解して、個々に合ったテーラーメイドの対応が必要なのです。これが、認知症におけるナラティブケア(narrative care)なのです。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, pp79,84)

メモ2:ナラティブ・ベイスド・メディスン
 ナラティブ・ベイスド・メディスンとは、「物語に基づく医療」という意味であり、患者特有の苦しみや生活体験を把握するための考え方です(日総研グループ編集:認知症ケア専門士 認定1次試験対策─完全攻略予想問題集 日総研出版, 名古屋, 2012, p6)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第539回『尿と便の困りごと―プライドの尊重は大切』(2014年7月4日公開)
 東北大学大学院医学系研究科高齢者高次脳医学講座の目黒謙一教授が排泄物にまみれて過ごしていた女性に対して、パーソンセンタードケアに配慮した作業療法を訓練に取り入れたところ、顕著に症状が改善した事例があったことを報告しておりますのでご紹介しましょう。
 「元理容師さんの独居女性は、アルツハイマー病発病後、身だしなみにも気を使わなくなり、排泄物にまみれて家にいたため、介護老人保健施設(老健)に入所となった。入所後、他の入所者ともあまり話をせずにひとりで過ごすことが多く、グループワークにも乗りにくかったため、個人的介入に切り替えた。生活歴を詳細に調べた結果、結婚の翌年に夫が戦死し、その後ずっと独身で理容店を経営していた彼女にとって、理容師はまさに『プライド』そのものであると考えられた。それで、老健の作業療法士と相談してヘアマネキンを準備し、カットの練習をしてもらった。すると見違える様に『本人らしさ』を取り戻し、作業療法場面の記憶(セラピストの顔や、訓練場所等)も向上し、他の入所者の身だしなみにも気を配る様になった。この様なアプローチはPerson-centered careとも称されるが、患者本人の生活歴、特に『プライド』を尊重することの重要性が窺われた症例であった。」(目黒謙一:認知症医療学 自治体における認知症対策のために─田尻プロジェクトからの提言 新興医学出版社, 東京, 2011, p33)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第540回『尿と便の困りごと―女性には“同性介護”』(2014年7月5日公開)
 女性患者の入浴介助に男性ヘルパーが携わることに関しては、『ひょっとして認知症? Part1』の第214回『医療機関の対応能力向上も必要』のコメント欄において、夕日さんより解消すべき問題点の一つとしてご指摘を受けました。
 その際に私は、「多くの医療機関に男性ヘルパーさんはいます。そして、女性ヘルパーさんだけが対応に当たった方がよいと思われるケースがあることも事実です。ただ、入院当初から、すべての女性患者さんの入浴介助に女性ヘルパーさんだけが対応することを周知徹底している医療機関は少ないように思います。何らかの問題が生じてから、対応に乗り出すのが現状ではないでしょうか。」という旨の返信をしております。
 2012年10月28日発行の週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号では、情報公開に積極的な1721ホームから回答を得て、「有料老人ホーム ベストランキング」を特集しており、8つの指標から評価し、31都道府県にある介護付き有料老人ホームを合計得点(100点満点)の高い順に紹介しております。たいへん有益な資料だと思います。
 その特集において、大牟田スヌーグル(セーヌ大牟田)が合計得点92点で福岡県の介護型有料老人ホーム第1位(全国ランキング6位)として取り上げられています。以下に一部改変してご紹介しましょう。
 「新会社の社名である“スヌーグル”はフランス語で“寄り添う”という意味だ。入居者に寄り添い、入居者が望むサービスを実現していく決意が込められている。入居者に寄り添うサービスとはどのようなものか、その一例を大牟田スヌーグル代表取締役社長の川崎春次氏は語る。『私たちは、女性には“同性介護”を厳守しています。女性にとっては、ケアしてくれる職員が同性であることは大きな安心感につながります。“究極のサービス業”だというポリシーから、私たちはそうしています』
 また、月に一度、離れて暮らす家族の元に『介護記録』を送付(郵送・メール)するのも寄り添うサービスのひとつだ。」(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 pp66-67)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第541回『尿と便の困りごと―有料老人ホームのお値段』(2014年7月6日公開)
 余談にはなりますが、私は「有料老人ホーム ベストランキング」において三重県内第4位(合計得点57点)に入居されている認知症の方を外来診療していたことがあり、ご家族からこの施設における認知症ケアの実践状況についてお聞きしたことがあります。やはり入居者に寄り添うサービスという視点はとっても大切にされておりました。
 ただそれなりに費用は高額なものとなります。資料によれば、三重県内第4位(合計得点57点)の施設の5年間の総費用は1,395万円です(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 p109)。
 合計得点92点で福岡県の介護型有料老人ホーム第1位(全国ランキング6位)のセーヌ大牟田の5年間の総費用は1,760万円です(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 p118)。
 グループホーム(認知症対応型共同生活介護)においても月額利用料が20万円程度の施設はざらにありますから、そうすると5年間の総費用は1,200万円(20×12×5)となります。そのような観点から考えれば、上述の素晴らしい2施設の利用料金は、概ね妥当な利用料金と言えるのかも知れませんね。いずれにしても相当な額の蓄えがないと、民間型の施設で長年に渡って過ごすことは困難と言えます。
 なお首都圏で全国ランキングトップ10に入っている有料老人ホームには、5年間の総費用が4,000万円を超える施設が多くあります。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第542回『尿と便の困りごと―重ね着対策のノウハウ』(2014年7月7日公開)
 話が脇道にそれてしまいましたが、最後に「重ね着」への対応についてお話しましょう。
 アルツハイマー病患者さんにおいて下着を重ね着していることはちょくちょく見かけします。着衣失行が影響しているのでしょうか…。
 筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学の朝田隆教授は、著書の中で「重ね着」に関して以下のように言及しております(朝田 隆編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, p168)。
 「夏に大汗をかいているのに、重ね着、セーターの上にシャツをまとうなど、『TPOがわかっていない』着衣もきわめてありふれた現象である。多くの場合、脱がせてもいつの間にかまた着てしまう。なぜ認知症の人は重ね着をするのか? 誰にも納得のいく説明は難しいだろうが、以下のようなことが言われる。『沢山着込むと安心できる』『防衛になる』と思っているのか、あるいは着るという行為に固執して、一種の仕事になっているようなケースもある。
 対応としては、衣類はできるだけ本人の目につかないところに置いて隠す、家族が言っても駄目だが、デイケアのスタッフに忠告してもらうと素直に受け入れるという人もいる。認知症がかなり進んでも、他人の目は結構気になるものである。人前では繕いたいという心理はかなり残る。このような『社会性』が残存している場合には、ここに注目した対応が結構有効である。重ね着ばかりでなく、ほかの場面でも応用できるだろう。
 あるいは着たいものに好みがあるような人もいる。そこで本人の好きな衣類は隠して、嫌いなものだけを残しておいたら、重ね着の程度は軽くなったという経験談もある。」


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第543回『尿と便の困りごと―「きょうも暑いですねえ」の声掛けが効く』(2014年7月8日公開)
 認知症ケアに精力的に取り組まれた元岩手医科大学神経内科・老年科准教授の高橋智先生(故人)が着替えに関する事例報告をしておりますので以下にご紹介します(別冊NHKきょうの健康『認知症 よりよい治療と介護のために』 2011年3月25日NHK出版発行 p95)。
 ケーススタディ:夏に下着を4~5枚着て、厚着をするKさん(80歳代後半、女性)
 「Kさんは、4年前にアルツハイマー病と診断されました。7月だというのに、下着を4~5枚も重ね着をし、その上に毎日同じ上着を着ます。汗をかいているKさんを見て、息子の妻が『それでは暑いでしょう』と言っても、『これでも寒いくらいよ』と言います。
 そこで息子の妻は、季節に合った着やすい衣類を準備し、Kさんが起きる前に枕もとに着る順番に並べて『お気に入りの肌着を用意しましたよ』と声をかけるようにしました。また、『きょうも暑いですねえ』などと、季節に関する話題も増やすと、『きょうはシャツ1枚でいいかな』と、少しずつ薄着をするようになりました。」
 このように着る順番に並べたり、介護者が一枚ずつ手渡すことで、きちんと自分で着ることができるようになるケースも多いのです。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第544回『尿と便の困りごと―認知症患者は代名詞が苦手』(2014年7月9日公開)
 認知症介護の現場においては、「対応方法の正解は1つではない!」とよく指摘されます。生活環境や本人の性格によっても対応方法を工夫する必要があります。
 介護の基本はしっかりと理解したうえで、想像力を働かせて臨機応変に対応することが求められるのです。
 アルツハイマー病においては、「健忘失語」というタイプの失語が多いです。「めがね」とか「時計」などの単語が出ず(喚語困難)、「あれ」とか「それ」と言います。
 なお余談ですが、認知症の人と話をする際には、代名詞を減らす配慮が必要であると九州保健福祉大学保健科学部言語聴覚療法学科(現職:志學館大学人間関係学部心理臨床学科)の飯干紀代子教授は指摘しております。
 「1990年、アルモー先生が『代名詞を使ってすっきりさせた文章』と『代名詞を使わずに、いちいち言葉を繰り返した文章』を、健常な高齢者と認知症の人に読ませる実験を行いました。
 健常な高齢者は『代名詞を使ってすっきりさせた文章』のほうが理解は早かったですが、認知症の人は『代名詞』を使われると文章の意味が理解しにくく、『代名詞』を使わずに言葉を繰り返した文章のほうがよく理解できたのです。
 認知症の人はワーキングメモリー(メモ3参照)が低下していることが多く、話の流れについていけないため、言葉を繰り返して伝える必要があります。」(飯干紀代子:基礎から学ぶ介護シリーズ・今日から実践 認知症の人とのコミュニケーション─感情と行動を理解するためのアプローチ 中央法規, 東京, 2011, pp60-61)
 私は、認知症の人と話す機会が多いためか、介護者の方から、「先生、この人の言いたいことがよく分かりますね」と時々言われます。ちょっとだけ「想像力」が豊かなのかも知れませんね。多分これが言いたいのかな…と感じ取れたら、ヒントを出してみると、出てこなかった単語が導き出されることはしばしば経験されます。
 認知症のケアを学ぶ講習会が普及してきております。しかし、“基礎”を身につけた後には、想像力・洞察力といった研修では決して身につかないスキルが求められます。「感性」を高めることは困難な課題です。人生において苦労することが、感性を高める一番の近道ではないかと私は思っています。

メモ3:ワーキングメモリー(ワーキングメモリ)
 ワーキングメモリ(作業記憶・作動記憶)とは、短期記憶の概念を拡大し、課題を遂行するための処理機能の役割を含む概念がワーキングメモリ(ワーキングメモリー)です。作業中の何かを一時的に覚えておく記憶であり(例:電話をかけるために、電話帳を見て番号を覚える)、主として前頭葉の前頭前野(概ね前頭葉の前半部分)が司っています。

人形が現れて一緒に勉強をしたり遊んだりする [自閉症スペクトラム障害]

問題
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/662259137277102

■解説
 http://medical.nikkeibp.co.jp/mem/doctors/mediquiz/answer.jsp

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 「人形が現れて一緒に勉強をしたり遊んだりする」という訴えからは、幻聴や幻視の可能性が考えられる。
 思春期の小児が幻聴を訴えた場合に最初に鑑別に挙げるべき疾患は、統合失調症である。統合失調症の症状は、急性期に起こる妄想や幻覚といった陽性症状と、消耗期に生じる活動低下、会話の鈍化、社会的引きこもり、自傷行為といった陰性症状の大きく2つに分けられる。妄想や幻聴は「悪口を言われている」「死ねという声が聞こえた」のように自分が攻撃されている内容が多い。
 心的外傷後ストレス傷害(PTSD)は命が脅かされるような出来事、戦争、天災、事故、犯罪、虐待などの経験の後に幻覚や幻視(フラッシュバック)を来す。フラッシュバックでは外傷を来したときの体験や目撃した内容を追体験することがある。
 後頭葉てんかんでは、光が見えるといった視覚発作が見られる。また薬物中毒でも幻覚、幻聴が認められる。
 本患者は幼児期から強いこだわりがあり、小学校入学後も1人になることが多く、医師の話を遮って自分の好きな恐竜について一方的に話すなど、発達の偏りがある点から、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー障害)が強く疑われた。アスペルガー障害を生じた患児は、社会にうまく適応できないときなどに二次的に幻覚・妄想様の症状を訴えることがある。だが、その多くは現実の厳しさから逃避し、願望を充足するような内容である。
 本症例も、友達が少ないことに加え、小学校5年生時に学習面の壁に突き当たり、成績が低下したころから症状が表れていた。加えて、幻覚・妄想の内容が「一緒に勉強をしてくれる」「遊んでくれる」など、患児自身の願望を満たすものであることからアスペルガー障害による幻覚・妄想様状態と考えられた。
 アスペルガー障害に伴う二次的な幻覚・妄想様状態であれば、まず児が何に不適応を起こしているのか、何をストレスに感じているのかを探ることが先決である。その上で、児や家族がその症状に困っていなければ、投薬なしで経過を観察することが可能である。症状を苦痛に感じている場合は、少量の抗うつ薬や抗精神病薬の投与を行うことで改善が見込まれるケースが多い。
 非定型抗精神病薬のリスペリドンとアリピプラゾールは2016年、「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」への適応が承認された。ただし、これらの薬剤の対象年齢は原則として、リスパダールは「5歳以上18歳未満」、エビリファイは「6歳以上18歳未満」。また、リスパダールは「15kg以上20kg未満の患者」と「20kg以上の患者」で投与量が異なることに注意が必要となる。本症例でもまずはこれらの薬剤を投与した。
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、二次的なうつ気分や社会不安障害を来している場合、そして強迫的症状がある例で使用する。幻覚・妄想様状態にはリスペリドンやオランザピンといった非定型抗精神病薬の少量投与が有効である。ベンゾジアゼピン(BZ)系薬は不安症状に用い、カルバマゼピンとバルプロ酸は気分の高揚や落ち込みといった気分障害に用いる。
 なお、これまでアスペルガー障害、自閉性障害、レット障害、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害は、広汎性発達障害のサブカテゴリーとして分類されていたが、米国精神医学会による最新の診断基準(DSM-5)では、レット障害を除く全ての障害名を自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)とし、知的障害を伴い、言葉のない児から対人間のニュアンスの取りづらい従来のアスペルガー障害までを含む広い概念として提唱している。
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向精神薬―専門医レベルの知識がないと優良誤認してしまう [向精神薬]

向精神薬に関する製薬企業パンフレットの読み方

ポイント
●新薬の有効性と安全性だけを強調する,実態と合わない精神薬理用語による分類がある.
うつ病自然寛解率や不眠症治療薬のプラセボ効果を知らないと,薬効を過大評価してしまう.
●治験の心理検査で出た瑣末な結果を,さも重大なことのように見せかけるパンフレットがある.
●専門医レベルの知識がないと優良誤認してしまうため,多くの内科医にとって,向精神薬に関する製薬企業パンフレットは有害無益である.

 …(中略)…

自然経過を示さずに治療前後を比較
 うつ病の,治療なしでの寛解率は2年で80~90%である.主な治療は休息であり,場合によっては抗うつ薬を使う.このように,うつ病はあまりにも自然回復しやすいので,臨床試験において実薬群とプラセボ群の間に有意差が出にくい疾患である.ゆえに製薬会社が医師向けパンフレットを作る際には,自然経過のデータをできるだけ隠すのが定石になる.うつ病の自然寛解率を知らない医師なら,薬物使用後に生じた改善をもっぱら薬によるものと誤認してくれるからである.典型的手口は,抗うつ薬による治療前と治療後をそのまま直接比較する図である.参考までに2011年に発売されたSSRIであるエスシタロプラムの国内治験データを表1に示す.プラセボ群,実薬群ともうつ病の重症度が同じように改善しているのがわかる.
 また,不眠症治療においてプラセボ効果が存在することは広く知られている.ゆえにここでもプラセボ群のデータをできるだけ隠すのが定石になる.例えばメラトニン受容体作動薬であるラメルテオンの国内第Ⅲ相試験において,プラセボ群,実薬群ともに自覚的睡眠潜時の改善がみられ,プラセボ群と実薬群の間に生じた差は2.36分だった.言い換えるとラメルテオンに期待できる効能は寝つきが142秒良くなることである.実薬群だけの成績を示したパンフレットでは,この数字が見えない.

瑣末な結果を重大なことのように表示
 抗認知症薬の国内治験における主要評価項目は,多くの場合ADAS(Alzheimer Disease Assessment Scale)とCIBIC(Clinician's Interview Based Impression of Change)の2つである.前者は認知機能を,後者は全般臨床症状を評価する.治験はこのADASとCIBICの両方でプラセボへの優越性がみられた場合のみ,薬の有効性が証明できるというデザインになっているため,この2つに有意差がなければ,ほかの評価項目で有意差がみられても,それは瑣末な結果に過ぎない.しかし,p値が0.05を下回っている項目があると,それが何であっても重大な結果であるかのように表示するのがパンフレットの典型的手口である.
 例えば,日常生活動作を評価するDAD(Disability Assessment for Dementia)はCIBICの下位尺度の1つである.プラセボ群と実薬群の間でCIBICに差はなかったが,DADでのみp<0.05が出た臨床試験を題材に,DADの成績だけを図表化しCIBICについては一切出さなかったパンフレットがある.何が主要評価項目で何が下位尺度に過ぎないのかは,パンフレットだけでは区別がつかない.

おわりに
 以上で明らかなように,向精神薬に関する製薬企業パンフレットは優良誤認させる表現にあふれている.読者に専門医レベルの精神科の知識がない限り,優良誤認させられるのは必至なので,多くの内科医にとって向精神薬に関する製薬企業パンフレットは有害無益であり,受け取らずにそのまま製薬企業に返すのが唯一の正解である.必要最低限の情報は添付文書に書いてある.不眠症,うつ,認知症の領域では実薬の効果はプラセボと大差なく,無理に薬を使う根拠はどこにもない.
 【小田陽彦:向精神薬に関する製薬企業パンフレットの読み方. medicina Vol.53 1996-1998 2016】
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私の感想
 何とも凄い論文ですね。
 私も認知症は専門領域ですし、うつ病は自分が患った病気ですので薬効などに関してはかなり詳しい方です。ただ、統計学的な専門知識に欠けているところがあるので、正確に認識していない部分もあるように思います。
 ドネペジル(商品名:アリセプト[レジスタードトレードマーク])のプラセボ効果に関しては、アピタルにおいて何度も紹介しましたね。
 そのうちの一つを以下にご紹介します。
 
朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第608回『役割と生きがいの賦与―ドネペジルの効果の特徴』(2014年9月11日公開)
 メマンチンは認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSDにおいては、興奮/攻撃性、妄想、怒りっぽさ(易刺激性)/情緒不安定といった項目(症状)において特に有効性が高く、また、試験開始時には上記の症状を認めなかった患者群においてもメマンチン療法により、後の症状発現率が有意に低下したことが注目されております。一方、ドネペジル(商品名:アリセプト[レジスタードトレードマーク])においては、アパシー、不安、抑うつといったBPSDに対して効果が高い(Gauthier S, Feldman H, Hecker J et al:Efficacy of donepezil on behavioral symptoms in patients with moderate to severe Alzheimer's disease. Int Psychogeriatr Vol.14 389-404 2002)という違いがあります。
 ちょうどよい機会ですので、ドネペジルの中核症状に対する効果についても言及しておきましょう。
 シリーズ第98回『アルツハイマー病の治療薬 医療を支えるわずかな望み――ドネペジル(その3)』におきまして、ドネペジルの有効率は、「最終全般臨床症状評価において5mg群はプラセボ群と比較して有意に優れていた。『改善』以上の割合は5mg群17%、プラセボ群13%、『軽度悪化』以下の割合は5mg群17%、プラセボ群43%であった。」という添付文書のデータをご紹介しました。
 MMSE(Mini-Mental State Examination)が12~24点の軽度および中等度アルツハイマー病を対象として(連続112例の検討)、ドネペジルの効果を評価した報告があります(Shimizu S, Hanyu H, Sakurai H et al:Cognitive profiles and response to donepezil treatment in Alzheimer's disease patients. Geriatr Gerontol Int Vol.6 20-24 2006)。MMSEで4点以上改善した場合をresponder(レスポンダー)、それ以外をnon-responder(ノンレスポンダー)と判定した場合、ドネペジル療法のresponderは34例(30%)、non-responderは78例(70%)であったそうです。なお、MMSEのサブスケール別にみると、「場所見当識」、「注意力・計算力」、「言語機能」の3領域が有意な改善したことがわかったそうです。
 なお、「全般的認知機能検査Mini-Mental State Examination(MMSE)では、通常、MMSEが3点以上増加した場合、『有効』と判定する。」(目黒謙一:心理社会的介入と薬物療法によるアプローチ─問題提起─. 老年精神医学雑誌 第24巻増刊号-Ⅰ 98-102 2013)という意見もあり、MMSEが何点以上の改善をもってして有効と判断するのかは明確には統一されておりません。

DLB:アリセプトの投与が錐体外路症状の出現率を高めるか? [レビー小体型認知症]

【森 悦朗, Ikeda M, Nakagawa M, Miyagishi H, Yamaguchi H, Kosaka K: Effects of ドネペジル on Extrapyramidal Symptoms in Patients with Dementia with Lewy Bodies - A Secondary Pooled Analysis of Two Randomized-Controlled and Two Open-Label Long-Term Extension Studies. Dement Geriatr Cogn Disord, 40 (3-4), 186-198 (2015)】

Abstract
 Background/Aims: The aim of this study was to clarify the effects of donepezil on extrapyramidal symptoms in patients with dementia with Lewy bodies (DLB). Methods: Using pooled datasets from phase 2 and 3, 12-week randomized, placebo-controlled trials (RCT, n = 281) and 52-week open-label long-term extension trials (OLE, n = 241) of donepezil in DLB, the effects of donepezil on the incidence of extrapyramidal adverse events (AEs) and on the Unified Parkinson's Disease Rating Scale (UPDRS) part III were assessed, and potential baseline factors affecting the AEs were explored. Results: The RCT analysis did not show significant differences between the placebo and active (3, 5, and 10 mg donepezil) groups in extrapyramidal AE incidence (3.8 and 6.5%, p = 0.569) and change in the UPDRS (mean ± SD: -0.2 ± 4.3 and -0.6 ± 6.5, p = 0.562). In the OLE analysis (5 and 10 mg donepezil), the incidence did not increase chronologically; all AEs leading to a dose reduction or discontinuation except one were relieved. The UPDRS was unchanged for 52 weeks. An exploratory multivariate logistic regression analysis of the RCTs revealed that donepezil treatment was not a significant factor affecting the AEs. Baseline severity of parkinsonism was a predisposing factor for worsening of parkinsonism without significant interactions between donepezil and baseline severity. Conclusion: DLB can safely be treated with donepezil without relevant worsening of extrapyramidal symptoms, but treatment requires careful attention to symptom progression when administered to patients with relatively severe parkinsonism.

Introduction
 Dementia with Lewy bodies (DLB) is the second most common form of senile dementia following Alzheimer's disease (AD) [1]. The core clinical features of DLB include neuropsychiatric symptoms and parkinsonism as well as cognitive impairment characterized by deficits in attention, executive function, and visual perception [2]. The cholinergic loss and a choline acetyltransferase activity deficit with preserved postsynaptic cortical muscarinic and nicotinic receptors [3,4,5] rationalizes the use of cholinesterase inhibitors (ChEIs) in DLB. The favorable potential of ChEls such as galantamine, rivastigmine, and donepezil has been demonstrated in previous studies [6,7,8,9,10,11]. The phase 2 and 3 trials of donepezil in patients with DLB have added to the accumulating evidence of the efficacy and safety of donepezil in terms of cognitive, behavioral, and global function in DLB, even for long durations, without increasing the risk of clinically significant safety events [12,13,14,15].
 It has been reported that 25-50% of patients with DLB have parkinsonism at the time of diagnosis and that 75-80% of such patients eventually develop it [16], although the exact proportion is still controversial. In a natural course, the symptoms could worsen with a speed comparable to Parkinson's disease (PD) [17]. The cholinergic interneurons synapse on the GABAergic striatal neurons that project to the globus pallidus. The cholinergic actions inhibit striatal cells of the direct pathway and excite striatal cells of the indirect pathway. Thus, ChEIs augment cholinergic function, which may oppose the effects of dopamine on the direct and indirect pathways exacerbating parkinsonism in DLB, in which nigrostriatal dopaminergic neurons have been lost [18,19,20,21]. On purely theoretical grounds, ChEI administration targeting cognitive impairment and behavioral symptoms may exacerbate parkinsonism. Despite studies showing that ChEIs did not affect parkinsonism and which did not replicate the possible untoward effects in patients with DLB or PD dementia (PDD) [22,23], concerns over a possible influence on the extrapyramidal symptoms still linger due to a shortage of evidence from large-scale, placebo-controlled, or long-term studies especially in DLB and require further confirmation.
 As in diseases like DLB treatment for one symptom may precipitate others [24] and the combination or severity of the associated multiple, multi-dimensional symptoms varies by patient, a large-scale comprehensive study is essential. Our trials of donepezil in patients with DLB consist of two randomized, double-blind, placebo-controlled trials (RCT) and two open-label long-term extension studies (OLE) and enrolled a large group of patients that may embody patients with diverse demographic characteristics and clinical symptom manifestations, which the current diagnosis of probable DLB may encompass. We therefore developed two types of comprehensive pooled datasets from two RCTs and two OLEs of donepezil for DLB. RCTs provide information with minimized bias, while OLEs involve more patient-years of exposure to donepezil and may thus disclose adverse effects which are not observed in the parent RCTs. Using these datasets of the largest scale ever in DLB, we analyzed the effect of donepezil on the occurrence and worsening of extrapyramidal symptoms in patients with DLB.

Methods
Design of the Phase 2 and 3 Studies
 This analysis pooled the data from the phase 2 and 3 studies of donepezil for DLB conducted in Japan. The phase 2 studies, consisting of a RCT (clinicaltrials.gov reference: NCT00543855) and a subsequent OLE (clinicaltrials.gov reference: NCT00598650), were conducted as two sequential protocols. A 12-week randomized, double-blind, placebo-controlled exploratory study (phase 2 RCT) was first conducted to investigate the efficacy and safety of donepezil at 3, 5, and 10 mg/day starting in 2007 (fig. 1a) [12]. In the patients who completed this RCT, the safety and efficacy of long-term administration at 5 mg were further investigated in the following 52-week OLE (phase 2 OLE) (fig. 1b) [13]. The phase 3 study (clinicaltrials.gov reference: NCT01278407) was conducted as a single protocol consisting of an RCT phase and a subsequent OLE phase. A 16-week randomized, double-blind, placebo-controlled comparative study consisting of a 12-week confirmatory phase (phase 3 RCT) (fig. 1a) [14] and a 4-week transition period and a subsequent 36-week OLE phase were conducted starting in 2011 for a total duration of 52 weeks (phase 3 OLE) (fig. 1b) [15]. The aim was to confirm the superiority of donepezil at 5 and 10 mg/day for 12 weeks over placebo with regard to both cognitive function and behavioral symptoms and to evaluate the safety and efficacy of long-term administration of 10 mg/day for 52 weeks. Each study was conducted in accordance with the principles of the Declaration of Helsinki. The protocols were approved by the institutional review board at each participating center.
Fig.1.JPG

Patients
 The inclusion and exclusion criteria were the same in both RCTs. The inclusion criteria were patients aged ≥50 years with probable DLB fulfilling the consensus diagnostic criteria [2], with mild to moderate-severe dementia [10-26 points on the Mini-Mental State Examination (MMSE) and Clinical Dementia Rating ≥0.5], behavioral symptoms or cognitive fluctuation [Neuropsychiatric Inventory (NPI)-plus ≥8 (rated on 12 items: original 10 NPI items + sleep [25,26] + Cognitive Fluctuation Inventory [27,28])], and with caregivers who could routinely stay with the patients, provide information for this study, assist with treatment compliance, and escort them to required visits.
 The exclusion criteria included PD that was diagnosed at least 1 year prior to the onset of dementia; focal vascular lesions on an MRI or CT that might cause cognitive impairment; other neurological or psychiatric diseases; complications or a history of severe gastrointestinal ulcers, severe asthma, or obstructive pulmonary disease; systolic hypotension (<90 mm Hg); bradycardia (<50 bpm); sick sinus syndrome; atrial or atrioventricular conduction block; QT interval prolongation (≥450 ms); severe parkinsonism (Hoehn and Yahr stage ≥4) [29], and treatment with ChEIs or any investigational drug within 3 months prior to screening. ChEIs, antipsychotics, and anti-Parkinson drugs were not allowed during the study, except for levodopa and dopamine agonists, of which only stable doses were allowed during the RCTs.
 Written informed consent was obtained from the patient (if at all possible) and his/her primary family member before initiating the study procedures.

Donepezil Administration
 In the phase 2 RCT, the patients were randomized to placebo, 3, 5, or 10 mg/day of donepezil (placebo, 3-, 5-, and 10-mg groups) (fig. 1a). In the subsequent phase 2 OLE, all patients received donepezil at 5 mg/day (fig. 1b). Donepezil administration in the 5- and 10-mg groups started with a 2-week titration period with a 3-mg dose, which was applied in all of the studies.
 In the phase 3 RCT, the patients were randomized to placebo, 5, or 10 mg/day (placebo, 5-, or 10-mg group) (fig. 1a). Since the phase 3 study incorporated the RCT and OLE phases, the duration of donepezil administration in the phase 3 OLE differed by treatment group: 52 weeks for the 5- and 10-mg groups (10 mg administration from week 24 and 6, respectively) with a 12-week overlap with the phase 3 RCT, and 36 weeks for the placebo group (3 mg titration from week 16, 5 mg administration from week 18, and 10 mg from week 24) (fig. 1b).
 In the OLEs, a dose reduction to 3 mg in the phase 2 OLE or to 5 mg after week 24 in the phase 3 OLE was allowed upon emergence of a safety concern.

Summary of the Results of the Phase 2 and 3 Studies
 The results of the phase 2 and 3 studies are reported in detail elsewhere [12,13,14,15]. Briefly, in phase 2, the RCT showed that donepezil significantly improved cognitive, behavioral, and global functions with good tolerability, and the OLE demonstrated that administration was well tolerated even for a long duration and that the effect on cognitive and behavioral impairment was maintained for up to 52 weeks. In phase 3, although the RCT failed to confirm a superiority concerning the behavioral symptoms over placebo, it confirmed the efficacy concerning cognitive function (one of the co-primary endpoints) without serious safety concerns. The OLE demonstrated a lasting improvement in cognitive function for up to 52 weeks, without increasing the risk of clinically significant safety events.

Datasets
 The safety data regarding extrapyramidal symptoms derived from these studies were pooled in two ways: RCT and OLE (fig. 1). The datasets of the two RCTs were pooled and analyzed according to allocated treatment during the 12-week period: placebo, 3-, 5-, or 10-mg groups (n = 281) (fig. 1a). The dataset derived from all patients receiving donepezil via long-term administration [i.e. phase 2 OLE and phase 3 OLE (whole period of phase 3: RCT + OLE)] was pooled and analyzed (n = 241) (fig. 1b).

Assessment of Extrapyramidal Symptoms
 The influence on extrapyramidal symptoms was evaluated according to the incidence of extrapyramidal adverse events (AEs) and the Unified Parkinson's Disease Rating Scale (UPDRS) part III [30]. To reduce interrater and intrarater variability, an advanced rater training was conducted, a fixed rater was involved in the assessment of each patient in principle, and an elaborate monitoring was made throughout the study period. Of all the AEs which occurred during the studies (coded according to the Preferred Terms of the Medical Dictionary for Regulatory Activities), the following were identified as extrapyramidal AEs after discussion by the central committee: parkinsonism, rigidity, tremor, camptocormia, gait difficulty, and akinesia. The UPDRS part III was conducted every 12 weeks in the phase 2 RCT and in phase 3, and every 24 weeks in the phase 2 OLE.

Statistical Analysis
 This secondary analysis was based on the safety analysis set of each study, which comprised all patients who received at least one dose of donepezil and had safety assessment data. For the analysis of the RCTs, the incidence of extrapyramidal AEs was summarized by treatment group and compared between the placebo and each active group using Fisher's exact test. The change in the UPDRS part III total and subscale score from baseline was compared between the placebo and each treatment group using analysis of covariance (ANCOVA) with the baseline values as covariates. Subscales were predefined as the following four symptoms: tremor, akinesia, rigidity, and postural instability and gait difficulty, with score ranges of 0-28, 0-36, 0-20, and 0-16, respectively [31,32]. For the analysis of OLEs, the incidence of extrapyramidal AEs was calculated. The UPDRS part III scores were analyzed using Student's paired t test.
 To identify any potential baseline factors that may contribute to the extrapyramidal AEs, the incidence was calculated for subgroups stratified by the potential factors, and univariate and multivariate logistic regression analyses were subsequently conducted. Potential factors included endogenous factors (sex, age, and body weight) and symptom-related factors [UPDRS part III score, Hoehn and Yahr stage (≤2 or 3), and use of anti-Parkinson drugs (use or nonuse)]. In multivariate analyses, either the UPDRS part III score or the Hoehn and Yahr stage was included in the model because of the high correlation between them. In the analysis of the RCTs, the interaction between the treatment groups and factors was tested for each symptom-related factor using a logistic regression analysis. Each interaction was to be included in the model when significance was detected.
 Values of the UPDRS part III score at the final evaluation were imputed using a last observation carried forward (LOCF) method. All analyses were made using SAS version 9.3 (SAS institute, Cary, N.C., USA).

Results
Baseline Characteristics
 The demographic and baseline characteristics of the patients included in this analysis are summarized in table 1. The phase 2 RCT enrolled 140 patients. Of 123 patients who completed the RCT, 108 patients were enrolled in the phase 2 OLE, 81 of whom completed the study. The phase 3 study enrolled 142 patients; the RCT and OLE were completed by 111 and 100 patients, respectively.
Table 1.JPG
 Of the patients included in the RCT analyses, females accounted for 60.9%. The mean age was 78.3 (range 57-95) years; all but 2 patients were 65 years or older. Anti-Parkinson drugs (levodopa or dopamine agonists) were used by 20.3% (57/281) with the mean ± standard deviation (SD) levodopa equivalent dose [33] of 262.0 ± 179.8 mg/day at baseline, and the dosages were not changed during the RCTs. No patients were on antipsychotics. The mean scores for the MMSE and UPDRS part III at baseline were 20.0 and 19.8 points, respectively. The characteristics in the OLE analysis were similar. During the OLEs, levodopa or dopamine agonists were started by 9.1% of patients (22/241), with the dose being increased in 6.6% (16/241) and decreased in 1.2% (3/241).

Analysis of RCTs
Incidence of Extrapyramidal AEs
 The incidence of extrapyramidal AEs was 3.8% (3/80), 5.7% (2/35), 7.5% (6/80), and 5.8% (5/86) in the placebo, 3-, 5-, and 10-mg groups, respectively, and 6.5% (13/201) in the combined donepezil group, with no significant difference from the placebo group (p = 0.639, 0.495, 0.721, and 0.569 in the 3-, 5-, and 10-mg and combined donepezil group, respectively) (table 2). Most of the extrapyramidal AEs were reported as parkinsonism, the incidence of which was somewhat higher in the combined donepezil group [5.0% (10/201)] than in the placebo group [2.5% (2/80)], but the difference was not significant (p = 0.519). Severity was mild or moderate in all cases, and none were serious. Extrapyramidal AEs that led to discontinuation were reported in 3 patients as parkinsonism and were relieved after discontinuation: 2 patients in the 5-mg group (1 patient while receiving 3 mg) and 1 patient in the 10-mg group while receiving 3 mg.
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UPDRS Part III Score
 The mean ± SD change in the UPDRS part III total score at week 12 (LOCF) was -0.2 ± 4.3, -0.5 ± 7.4, -1.2 ± 6.8, and -0.1 ± 5.9 in the placebo, 3-, 5-, and 10-mg groups, respectively, and -0.6 ± 6.5 in the combined donepezil group (table 3). The score was rather decreased in each treatment group from baseline, with no significant differences between the placebo and any active groups. Data at the final evaluation prior to week 12 from 30 patients were imputed using the LOCF method, but the results at week 12 of the observed case analysis were very similar to the results of the LOCF analysis (data not shown). Among the UPDRS part III subscales, the mean ± SD score decrease in rigidity was significantly larger in the 5-mg group (-0.8 ± 2.2) than in the placebo group (-0.2 ± 2.0, p = 0.030), although significant differences were not found in the 3- and 10-mg groups for either this or other items (table 4).
Table 3.JPG
Table 4.JPG

Analysis of Long-Term Administration
Incidence of Extrapyramidal AEs
 Extrapyramidal AEs were reported by 12.4% (30/241) of patients (table 2). The incidence did not change over time for 52 weeks; the incidence in weeks 0-12, >12-24, >24-36, and >36-52 was 4.4% (9/204), 2.3% (4/173), 3.1% (5/161), and 6.4% (10/157), respectively (note that the placebo group during the phase 3 RCT was excluded from this calculation due to a difference in the administration period).
 One severe AE was reported by 1 patient as parkinsonism, and all other AEs were mild or moderate in severity. No serious AEs were reported. AEs that led to discontinuation were reported in 4 patients as parkinsonism. AEs that led to a dose reduction were reported in 4 patients: 3 as parkinsonism and 1 as akinesia. All of these AEs recovered or were relieved after dose reduction or discontinuation, except for the single case of parkinsonism which led to discontinuation after dose reduction in the phase 2 OLE. Most of the extrapyramidal AEs that led to neither discontinuation nor dose reduction of the study drug were treated by start or dose increment of anti-Parkinson drugs [72.7% (16/22)].
UPDRS Part III Score
 The mean ± SD change in the UPDRS part III total score from baseline was -0.7 ± 6.5, -0.2 ± 8.6, and 0.1 ± 8.4 at weeks 24, 52, and 52 (LOCF, n = 197, 179, and 227), respectively. The absolute magnitude of the mean change was small, ranging from -0.7 to 0.1, with no significant difference from baseline at any of the evaluation points (p = 0.145, 0.768, and 0.794, respectively).

Exploration for Potential Factors Affecting Extrapyramidal Symptoms
RCT Analysis
 The incidence of extrapyramidal AEs did not differ according to the potential endogenous factors (table 5). Calculated by symptom-related factors, the incidence tended to be higher in the subgroups of the 5- and 10-mg groups with a UPDRS part III score above or equal to the median, a Hoehn and Yahr stage of 3, and use of anti-Parkinson drugs, relative to the incidence in the same subgroups of the placebo group and their respective counterparts in the 5- and 10-mg groups, even with an overall small incidence. The results of the univariate logistic regression analysis are shown in table 6. No significant interactions were detected between the treatment group and the symptom-related factors (UPDRS part III score, Hoehn and Yahr stage of 3, and use of anti-Parkinson drugs: p = 0.920, 0.949, and 0.354, respectively). The UPDRS part III score [odds ratio (OR): 1.087, p < 0.001], Hoehn and Yahr stage of 3 (OR: 5.228, p = 0.005), and use of anti-Parkinson drugs (OR: 4.612, p = 0.003) were the significant factors contributing to the extrapyramidal AEs. In the multivariate logistic regression analysis, the UPDRS part III score was the significant factor (OR: 1.071, p = 0.005) (table 7). In the model including the Hoehn and Yahr stage instead of the UPDRS part III score, a Hoehn and Yahr stage of 3 was significant (OR: 4.857, p = 0.014). In the subgroups of the active drug groups with use of anti-Parkinson drugs, the mean levodopa equivalent doses were comparable between patients with and without extrapyramidal AEs (228.6 and 262.9 mg, respectively; p = 0.679).
Table 5.JPG
Table 6.JPG
Table 7.JPG

Long-Term Studies
 The incidence of the extrapyramidal AEs did not differ greatly by the endogenous factors (table 5). Among the symptom-related factors, the incidence tended to be higher in the subgroups with a UPDRS part III score above or equal to the median, a Hoehn and Yahr stage of 3, and use of anti-Parkinson drugs. In the univariate logistic regression analysis, the UPDRS part III score [OR: 1.052, 95% confidence interval (CI): 1.019-1.087, p = 0.002], a Hoehn and Yahr stage of 3 (OR: 5.126, 95% CI: 2.228-11.794, p < 0.001), use of anti-Parkinson drugs (OR: 4.125, 95% CI: 1.831-9.293, p < 0.001), and age (OR: 0.931, 95% CI: 0.872-0.993, p = 0.030) were the significant factors. In the multivariate logistic regression analysis, the UPDRS part III score (OR: 1.043, 95% CI: 1.007-1.080, p = 0.020) and use of anti-Parkinson drugs (OR: 2.581, 95% CI: 1.058-6.298, p = 0.037) were the significant factors. In the model including the Hoehn and Yahr stage instead of the UPDRS part III score, a Hoehn and Yahr stage of 3 (OR: 5.561, 95% CI: 2.179-14.192, p < 0.001) and age (OR: 0.904, 95% CI: 0.834-0.980, p = 0.014) were significant. In the subgroups with use of anti-Parkinson drugs, the mean levodopa equivalent doses were comparable between patients with and without extrapyramidal AEs (265.4 and 271.5 mg, respectively; p = 0.925).

Discussion
 This study explored the presence of any possible influence of DLB treatment with donepezil on extrapyramidal symptoms using two pooled datasets. In the RCT analysis, the difference in the incidence of extrapyramidal AEs between the active and placebo groups was minimal, and there was no tendency for a dose-dependent increase in the incidence. In the OLE analysis, none of the extrapyramidal AEs were serious. AEs that led to discontinuation or dose reduction were reported only in 8 patients (3.3%), all of which except for one case of parkinsonism recovered or were relieved after discontinuation or dose reduction. Moreover, the possibility of delayed onset or worsening of extrapyramidal AEs with long-term treatment appears low. In contrast to the concern based on the classical dopaminergic-cholinergic imbalance theory about worsening of extrapyramidal symptoms by cholinergic enhancement, these results suggest that patients with DLB can benefit from donepezil, which has a well-established efficacy on cognitive and psychiatric functions [12,13,14,15], with a minimal risk for extrapyramidal symptoms. The absence of an influence of ChEIs, including donepezil, on parkinsonism has been reported in previous studies, along with improvement in a few of these studies, which reinforces the interpretations drawn from this analysis [7,10,11,22,34]. Our finding is also in accordance with accumulating evidence of cholinergic involvement in PD; degeneration of multiple cholinergic projection systems occurs early in PD [35], cholinergic degeneration plays a role in some aspects of motor symptoms including postural control [36] and gait [37], and treatment with donepezil produces reductions in the number of falls in frequently falling patients with PD [38].
 In contrast to our study, a worsening of parkinsonism after ChEI administration has been reported in some studies [18,19,20,21]. Moreover, compared with AD, extrapyramidal symptoms are considered to occur more frequently in patients with DLB. In a 24-week RCT and a 52-week OLE of donepezil in patients with severe AD in Japan, parkinsonism was reported with less than a 5.0% incidence [39,40]. The incidence in the present study is seemingly higher, although the events cannot necessarily be attributed to donepezil but to disease progression.
 In the present study, baseline severity of parkinsonism (i.e. the UPDRS part III score, a Hoehn and Yahr stage of 3, and use of anti-Parkinson drugs) was identified as a predisposing factor for worsening of parkinsonism. Donepezil was not a contributing factor. There was no significant interaction between donepezil and baseline severity. These results suggest that extrapyramidal AEs can mostly be attributed to progression in the relatively severe stage.
 Studies of ChEIs for patients with PDD, which is in the same spectrum of Lewy body disease as DLB, reported a slightly higher incidence of extrapyramidal AEs in the active than in the placebo group (tremor: 3.9 and 10.2% in the placebo and rivastigmine groups, respectively [41]; PD: 6.9, 10.8, and 10.4%, and tremor: 2.9, 7.2, and 7.1% in the placebo and donepezil 5- and 10-mg groups, respectively [42]), although both studies concluded that the active treatment was well tolerated. These studies may enable us to delineate the similar safety profile of ChEIs in patients with DLB manifesting relatively severe extrapyramidal symptoms and in those with PDD.
 In any case, careful attention is certainly required in treating DLB with donepezil. Particular attention should be placed on patients who manifest extrapyramidal symptoms that restrict their daily living activities and who require pharmacological treatment. Nevertheless, even after the occurrence or worsening of these symptoms, dose reduction or discontinuation, or addition of anti-Parkinson drugs may prevent further worsening and lead to recovery or relief.
 An interpretation of this analysis may require consideration of several points. First, the present analysis may not encompass all of the possible factors that may affect the symptoms in treatment with donepezil. Second, the analysis is based on the data obtained under a clinical trial setting where the strict inclusion and exclusion criteria employed may have curtailed the variety of patient characteristics which may be encountered in a real-life setting. Third, patients with very severe parkinsonism of a Hoehn and Yahr stage ≥4 were not included, and thus the present findings cannot be extrapolated to those patients. Finally, the recording of extrapyramidal AEs and UPDRS part III scoring might be confounded due to interrater variability in the assessments in multicenter studies where both neurologists and psychiatrists participated, although a rater training and elaborate monitoring were conducted to reduce the concern. Future studies which overcome all of these possible limitations may be warranted.
 In conclusion, donepezil can treat DLB effectively and safely without relevant worsening of extrapyramidal symptoms. However, its administration to patients whose daily living activities are restricted and for whom pharmacotherapy is required due to parkinsonism necessitates care regarding symptom progression. In case of the occurrence or progression of symptoms, a dose reduction or discontinuation, or addition of anti-Parkinson drugs is considered as an effective approach.

Acknowledgments
 We thank all patients and caregivers for their participation in the study; all investigators and their site staff for their contributions; Clinical Study Support, Inc., for their editorial assistance in preparing this manuscript, and the Eisai study team for their assistance. The studies and analyses were sponsored by Eisai Co., Ltd. (Tokyo, Japan). The sponsor was involved in the study designing, the collection and analysis of data, and review of the manuscript.

Disclosure Statement
 E.M. received personal fees from Eisai during the conduct of the studies; grants and personal fees from Eisai, Daiichi Sankyo, and FUJIFILM RI, and personal fees from Janssen, Johnson and Johnson, Lundbeck, Novartis, Ono Pharmaceutical, Nihon Medi-Physics, and Medtronic outside the submitted work. All grants were for his department, and he received them as the director of the department. M.I. received personal fees from Eisai during the conduct of the studies; grants and personal fees from Daiichi Sankyo, Eisai, FUJIFILM RI, Janssen, Nihon Medi-Physics, Novartis, Pfizer, Takeda, and Tsumura, and personal fees from MSD and Ono Pharmaceutical outside the submitted work. All grants were for his department, and he received them as the director of the department. M.N., H.M., and H.Y. are employees of Eisai. K.K. received personal fees from Eisai during the conduct of the studies and personal fees from Tsumura, Eisai, Janssen, FUJIFILM RI, Novartis, Nihon Medi-Physics, Daiichi Sankyo, Ono Pharmaceutical, Otsuka, and Dainippon Sumitomo outside the submitted work.

References
 (省略)

食事を食べない患者さん [拒食]

食べない原因によっては薬剤が有効なこともある
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 「毒が盛られている」という発言から,食べない原因は妄想の可能性が考えられました.内服への拒否が強かったためハロペリドール(セレネース[レジスタードトレードマーク])5mg/回の筋注を連日開始したところ,奏効し食事摂取が可能となりました.クエチアピン(セロクエル[レジスタードトレードマーク])1回12.5mg,1日2回の内服に切り替えましたが妄想の再燃なく,食事はセッティングすれば自己摂取ができ,精神的にも穏やかな状態まで回復して自宅退院となりました.
 【洪 英在、竹村洋典:食事を食べない患者さん. Gノート Vol.3 No.6(増刊) 959-964 2016】

私の感想
 拒食への対応は本当に悩みますね。
 新聞で食欲が回復するケースなんてなかなか想像できないですよね。

 アピタルで紹介した「拒食」関連の記述を一気にご紹介しますね。
 

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第757回『摂食障害と模倣―正面に座って食べる』(2015年2月7日公開)
 重度認知症患者さんの介護者の方から時折聞かれることに、「認知症が進行してから食べることを忘れるようになってきたのですがどうすればよいでしょうか?」といった質問があります。
 食事を拒んでいるのではありません。食べようとしない状況です。
 こんな時にまず最初に行われる方法は、意外と基本的なことですが言われないと案外気づかないことです。それは、患者さんの正面に座り、患者さんに見えるように食べるということです。目の前の人が食べている姿を見ると、模倣するかのように食べることを思い出してくれるのです。

 「ミラーニューロンの発見『物まね細胞』が明かす驚きの脳科学」という本にとっても興味深い記述がありますのでご紹介しましょう。
 「大人が赤ん坊の真似をすれば、赤ん坊は喜ぶ。もし私が友人宅での集まりに出かけていって、その家に赤ん坊がいたなら、私は真っ先にその赤ん坊のすることを真似してみせる。するといきなり、私はその子の一番の注目株になる(もちろん両親を除いて)。赤ん坊は模倣ごっこをするのが大好きなのだ。また、親と赤ん坊がしょっちゅうお互いに真似をしあうのは誰もが知るところだろう。実際、このときの模倣(と親和力)は発達中の脳にあるミラーニューロンを強化する主要形成因子の一つなのかもしれない。…(中略)…まだ話し方を知らない幼児どうしがいっしょに遊ぶときは、たいてい模倣ごっこをする。そして模倣ごっこを熱心にやる幼児ほど、一年から二年後に、言葉を多く使うようになるのだ。」(マルコ・イアコボーニ:ミラーニューロンの発見「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 塩原通緒訳, 早川書房発行, 東京, 2011, pp68-70)
 ミラーニューロンの果たす興味深い役割については、また後日ご紹介する予定ですが、ミラーニューロンシステムを活用して認知症高齢者のコミュニケーション能力の向上を図ろうという試みもありますので若干その研究についてご紹介しておきましょう。
 「Nonverbal Communication Rehabiltation(NCR)療法は、ミラーニューロンシステムの機能をリハによりさらに活性化すれば、認知症高齢者のコミュニケーション能力の向上、特に感情や好意等の心の内面を含めた意思疎通の向上を図ることができ、『心の通った』看護・介護の実現に役立てるために開発された。また、これにより、社会性が向上すれば、他のリハプログラムに対する積極性も増し、認知機能やADL・QOLの向上につながっていくことも期待されるものである。このなかで、介護において訓練しやすいプログラムとして組み立てられたものが、『にこにこリハ』である。」(長屋政博:認知症に対するリハビリテーション. 診断と治療 Vol.102 349-354 2014)

 ただし、「模倣」は使い方を間違うと、精神の発達に悪影響を及ぼしうることも知られていますので注意して下さい。
 マルコ・イアコボーニは、幼少期のメディア暴力の視聴が及ぼすその後の攻撃性・反社会的行動・犯罪性との関係について以下のように言及しています(一部改変)。
 「1960年代にニューヨーク州にて、約1,000人の子どもを対象として実施された調査において、もともとの攻撃性や、教育や社会階級などの主要な変数を調整した上で、メディア暴力を幼少期に目にすることが約10年後にあたる高校卒業後の攻撃性や反社会的行動と相関関係にあることが実証された。この結果だけでも充分に注目に値するものだが、続きはまだある。同じ少年たちをさらに10年、つまり最初の調査から合計22年にわたって追跡調査したところ、結果はまたも明確だった。幼少期のメディア暴力の視聴と幼少期の攻撃行動は、30歳時の犯罪性と相関関係にあったのである!」(マルコ・イアコボーニ:ミラーニューロンの発見「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 塩原通緒訳, 早川書房発行, 東京, 2011, pp251-252)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第758回『摂食障害と模倣―何を「食事」と認識するか』(2015年2月8日公開)
 さて、摂食障害への対応に話を戻しましょう。
 埼玉社会保険病院の福光由希子認知症看護認定看護師は、食事の最中に席を離れ、他人の食事に手を伸ばしてしまったCさん(70歳代、女性)の事例を紹介しています(福光由希子:状況別・やるべきこと、やってはいけないこと─食事. Nursing Today Vol.27 24-26 2012)。一部改変して以下にご紹介します。
 Cさんは、高度の認知機能低下があり、攻撃的になる等の症状が出現し治療目的で入院しました。時々むせ込みがあるためペースト食に変更されました。すると、主食に果物を混ぜたり、途中で席を立ったり、他人の食事に手を伸ばしトラブルに発展してしまいました。
 スタッフはCさんの様子を観察し、種々の工夫を検討していきます。
 Cさんは自分で食事を口に運ぶ能力は残っていて、食欲もあり、介助を受ければ毎食ほぼ全量摂取できていました。そこでスタッフは、「白い器に白いご飯」だと認識ができず途中で残してしまうのではないかと考え、見分けがつきやすいように器の色を赤色に変更しました。
 また、Cさんの様子を観察していると、おやつや家族が持ち込むものは普通の形態のものでもむせ込むことなく摂取できていました。スタッフは、ペースト食が「食事」と認識できず、いろいろな物を混ぜてしまったのではないかと考えました。そして、他人の食事に手を伸ばしてしまったのは、それがCさんにとって「食事」「自分が食べたいもの」と認識されたためだと考え、「食事形態の変更」を試みました。主治医や栄養士と相談し、少しずつ食事の形態をアップし数週間後には常食(副食は「刻み」)を摂取できるようになりました。
 また、食事の途中で席を立ってしまったときのCさんの表情は眉間にシワが寄った険しい表情であり、何らかのストレスを感じていることが伺えました。自分の思いを他者に伝えることができまないCさんにとって食堂のざわついた雰囲気や耳から入ってくる音がストレスになり、食事に集中できる環境ではなかったのではないかと考え、スタッフが数名配置されている介助席から、一人で落ち着いて食べられる席に変更してみました。
 これらの対応によりCさんは途中で席を立つことなく自力で全量摂取ができるようになりました。常食になってからは、お膳ごと提供しても食事を混ぜることもなくなり、発語が限られていたCさんから笑顔で「おいしい」という言葉も聞けるようになったそうです。
 なお余談ですが、私は大学卒業後1年目後半から2年目前半の研修医時代を埼玉社会保険病院で過ごしました。私が勤務していたのは1983年(昭和58年)12月から1984年7月までの8か月間です。当時の名称は、「社会保険埼玉中央病院」でした。脳神経外科病棟は6階北病棟でした。救急当番日以外の日は、ほとんど毎晩のように飲屋街に出掛けていたことが懐かしく思い出されます。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第759回『摂食障害と模倣―食事に集中できる環境を』(2015年2月9日公開)
 精神科医の小澤勲さん(故人)は著書の中で、クリスティーンさん(メモ1参照)が語った言葉を紹介し、認知症の人においては自分にとって意味のある感覚だけを取捨選択する機能に障害が起こっていると指摘しています。
 「クリスティーンさんは『ショッピングセンター、診療所、デイケアのようなところに行くと、ラジオやテレビの音、電話の鳴る音、人の話し声などの雑音があり、人の往き来が激しい。それはまるで泡立て器のように、頭のなかをかき混ぜてしまう』と言う。そこで『耳栓をして行くことにした』とも書いておられる。
 これは単なる感覚過敏ではない。自分にとって意味ある刺激だけを選択し、あとは無視する機能の障害である。感覚のスクリーニング機能の障害とよんでおこう。彼女は『脳のフィルターがなくなってしまったような感じ』と表現している。
 これを注意の障害(メモ2参照)と考えることもあながち無理ではない。
 刺激が氾濫する時間帯が多く、感覚のスクリーニングがうまく機能しない人は『うるさい』と感じる。その結果、混乱し、いらいらして行動にまとまりがなくなってしまう人は確かにいる。
 この感覚のスクリーニング障害は、アルツハイマー型認知症より血管性認知症の人あるいは若年発症のアルツハイマー病者に多くみられるようである。」(小澤 勲:認知症とは何か 岩波新書出版, 東京, 2005, pp123-126)

メモ1:クリスティーン
 1995年に46歳の若さでアルツハイマー病と診断されたクリスティーン・ボーデンさんは、自らの心の旅路を書きつづり、診断を受けた3年後に一冊目の本を出版しました(邦訳:私は誰になっていくの?─アルツハイマー病者からみた世界 桧垣陽子訳, クリエイツかもがわ, 2003)。
 本を書き上げたクリスティーンさんは、結婚相談所に登録し元外交官のポール・ブライデンさんと知り合い、1999年に再婚しクリスティーン・ブライデンとなりました。
 ところで、クリスティーン・ブライデンさんの病名に関しては、実は1998年に前頭側頭型痴呆症と再診断されております。前頭側頭型痴呆症であることに関しては、クリスティーン・ブライデンさん自身が著書「私は誰になっていくの?─アルツハイマー病者からみた世界」の続編「私は私になっていく─痴呆とダンスを」において、「私が前頭側頭型痴呆症と診断されたのは46歳の時でした(診断当初はアルツハイマー病だと思われていました)」(一部改変)と述べております(クリスティーン・ブライデン:私は私になっていく─痴呆とダンスを 馬籠久美子・桧垣陽子訳, クリエイツかもがわ, 2004, p248)。

メモ2:主な注意機能は以下の3つです(藤田郁代/関啓子編集 大槻美佳著 標準言語聴覚障害学・高次脳機能障害学 医学書院, 東京, 2009, p134)。
1 持続性注意
 継時的に注意を持続させる能力。
 関与する部位としては、右前頭葉という報告が多いです。
2 選択的注意
 複数の刺激の中から、目標とする刺激を選択して注意を向ける機能。
 この機能も右前頭葉が関与するとされています。
3 注意の配分
 複数の作業を同時に行う場合に、うまく進めるのに最適な注意の配分を采配する能力。

 のぞみメモリークリニック(http://nozomi-mem.jp/)の木之下徹院長は、「階段を上がる、平らでないところを歩くには、そのことに集中する必要がある。話しながら階段を上がることは同時にできないし、チューイングガムをかみながら歩くこともできない」というクリスティーン・ボーデンさんの言葉を紹介し、「『認知症の人』の苦悩は記憶力の低下だけととられがちですが、実はそれだけではありません。特徴的なのは、とても疲れやすく、注意力の低下が見られることです。例えば、それまで同時にできていたことができなくなり、気が散る環境で話しかけられても集中できなくなると言うのです。」(木之下 徹:「支援を受ける人」の立場から退院支援を考える. Nursing Today Vol.27 66-69 2012)と指摘しています。
 ですから、食事に集中できる環境を整備するという視点はたいへん重要なことですね。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第760回『摂食障害と模倣―薬を混ぜるときの工夫』(2015年2月10日公開)
 では摂食障害・拒食の原因にはどのようなものがあるのでしょうか。認知症ケアアドバイザーの五島シズさん(全国高齢者ケア協会監事、認知症介護研究・研修東京センター客員上級研究員)は、摂食障害・拒食の原因と対応について次のように述べております。
 「拒食の原因としては、体調を崩しているとき、便秘、義歯が合わない、口腔内のトラブル、嚥下障害(水分がむせやすい、食事中にひどく咳き込むなど)見た目の好くない食事、うつ状態や不安、落ち着かない気分など、精神的なストレス、他のことに心を奪われている、食べものであることが認識できない、食べ方を忘れている、既に食事を済ませたと思っている、急激な環境の変化、食事の勧め方が適切でない、配膳が適切でない、など多様です。客観的な観察で原因を知り、対策を立て実行することが大切です。
 拒食への援助は、拒食の原因が口腔内異常、身体疾患などが疑われる場合は、早期に医療につなげる必要があります。
 食事を勧めても食べようとしない人には、『お茶だけでもどうぞ』と勧めて、ようすを見ます。」(五島シズ:愛をこめて─認知症のケア 看護の科学社, 東京, 2008, p61)
 入院後拒食になった方に対して、息子さんに自宅で使用していたお盆と食器一式を届けてもらい、その食器にご飯を移し、「息子さんが届けましたよ」と声を掛けることで拒食が解消した事例もあったそうです(五島シズ:愛をこめて─認知症のケア 看護の科学社, 東京, 2008, pp110-111)。
 なお、「拒食」を未然に防ぐという観点から、念頭においておくべき注意点があります。それは、ご飯に混ぜて服薬してもらう行為です。これにより食事の味が落ちてしまい、拒食に繋がることがあるのです。服薬困難な場合においても、ご飯に混ぜるのではなく、食後のゼリーなどに混ぜる方が好ましいと思われます。
 五島シズさんは、「薬は、飲む時間が指定されています。薬を吐き出してしまうお年寄りには、食後30分に服用させるものであれば、食事の終わりころにお年寄りの好きなかぼちゃ、芋類、ヨーグルト、アイスクリームなどの少量を、小皿にわけて薬を混ぜ、『薬ですよ』と説明しないでお年寄りの口の中に入れます。間を置かず、口直しに、薬の入っていないかぼちゃやヨーグルトを与えます。薬を拒否するからといって、食事全体にまぶしたりすると、食事を拒否することにつながるので避けましょう。」(五島シズ:“なぜ”から始まる認知症ケア 中央法規, 東京, 2007, p187)と述べておられます。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第761回『摂食障害と模倣―できない部分見極めアシスト』(2015年2月11日公開)
 2011年11月12日、筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学/元教授の朝田隆先生(http://www.tsukuba-psychiatry.com/)は、第30回日本認知症学会学術集会のランチョンセミナーにおいて、摂食困難事例への対策には細かな観察・評価が欠かせないことを報告しました。その講演内容の要旨を2012年1月30日発行の「Dementia Support」が伝えておりますので以下にご紹介しましょう(Dementia Support 2012・Winter 26-27)。
 「『食事』という行為は、『食べる場所に行く(歩行・移動)』『食べるのに適した位置に座る』『食物を認識する(食物だとわかる)』『食物を操作する(箸やスプーンなどを適切に使う)』『食物を口まで運ぶ』『口を開けて食物を受ける(茶碗を持つ、茶碗を口に近づける)』『食物を噛む(咀嚼)』『飲み込む(嚥下)』といった一連の動作ができて初めて完結する。認知症の人は、これらすべてができないのではなく、例えば箸の使い方がわからないなど、この中のどこかで障害が起こると食事が困難になってしまう。
 どこができないのかを、『認識できるか』『認知できるか』『順番がわかるか』など行動を場面ごとに分析すると、本人がどこで困っているのかが見えてくる。見えてきたらできない部分をアシストすれば、本人は食事する一連の行為を完結できるようになる。そうなれば再び本人も食事を楽しむことができるようになる。だが、そのためには評価をしていく必要がある。『食品をまんべんなく摂取するか』『左右の手の協調技術はどうか(茶碗や皿からこぼさない、協調した効率的な動作、手前に引き寄せるなど)』『手づかみ、犬食いなどはないか』『熱いものを吹くなど食物の温度に対応が可能か』など、一点ずつ評価を行わなくてはわからない。朝田氏はこうした細かい分析が必要なことを、実際に何かの動作を行う場合に脳の電位部位がどのように変化するのかを示す波状の線が刻々と変化していく画像を紹介しながら解説した。」
 脳機能の評価には、機能的磁気共鳴画像(functional Magnetic Resonance Imaging;fMRI)や脳磁図などが用いられました。
 なぜ手づかみでの食事摂取になるかと言いますと、食具の使い方が分からない(失行)ために手でつかんで食べてしまうわけですね。

 また朝田隆教授は、著書において「一点集中食い」という問題について言及しております(朝田 隆編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, pp164-165)。以下のその部分をご紹介します(一部改変)。
 「多くの介護者が気づかれるのが、満遍なく食べられない、箸をつけるものとつけないもの偏りが大きいということである。どうも全体が見渡せない、個々の認識ができないらしい。自分に近いところから一つひとつ平らげていく。指示された食物を探すがみつけられないこともあり、まさに灯台下暗し、のように直下がみえない。目の前にお皿が4つ並んでいても、例えばおつゆならおつゆ、ご飯ならご飯と、1つに目がいったら、大抵はそれを持ってそればかりを食べる。普通は、ご飯を食べ、おかずをとり、ときにおつゆを吸って、満遍なく進行するのだが、それが一点集中食いというパターンになってしまう。周囲はお皿が見えないのではないかと感じる。せっかく考えた料理も何の役にも立たないので残さず食べさせるためにはどうしたらよいのか?と悩む。
 介護者の方からいただいた回答にはこういうものがあった。
 『これは、1つの丼にご飯とおかずを入れて、混ぜてしまえば完食できます。食べられれば、大きな器で1つでも、いくつかの小さな食器でも同じことです。きれいに4つ並べても、それがわかってもらえないなら、大きな器で1つのほうがよいのです。要は見た目をきれいに盛り付けるか、中身を重視し、栄養バランスを考えるかの違いです。どうしても食べさせたい、完食をさせたい場合は、1つの井に入れて混ぜる方法をお勧めします』。実に現実的でよいアイデアだと思う。」
 お膳の上はなるべく単純にして、認知症の人の混乱を避けるということがポイントとなるわけですね。

P.S.
朝田 隆先生の現在の所属先
メモリークリニックお茶の水院長(東京医科歯科大学 特任教授)
 http://memory-cl.jp/


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第762回『摂食障害と模倣―温かいもの、冷たいものを交互に』(2015年2月12日公開)
 北海道医療大学看護福祉学部看護学科・地域保健看護学講座老年看護学の山田律子教授は、「認知症の人の摂食・嚥下障害については、大きく『摂食開始困難』『摂食中断』『食べ方の乱れ』の3つに分類するとケアの方向性が見出しやすい」と指摘しており、アルツハイマー病中期における「摂食開始困難」に関して以下のように述べております。
 「配膳されたすべての食器を認知できないことや、食器数が多いと混乱して食べ始めることができないこともある。このような時には、フレンチのコース料理のように1品ずつ配膳したり、丼や弁当箱などワンプレートにすることで食べられることも多い。失行や視空間認知障害により開始できない場合には、食具の持ち方や使い方を支援したり、日本人の文化的習性にならって茶碗と箸を持つ食の構えを支援すると、スイッチが入ったかのように食べ始める人もいる。」(山田律子:認知症の原因疾患別に見た摂食・嚥下障害の特徴とケア 日本医事新報No.4604・学術 75-79 2012)

 豊島区口腔保健センターあぜりあ歯科診療所(http://www.azeriashika.com/)の枝広あや子歯科医師は、「重度アルツハイマー病では『姿勢の維持ができなくなる』『食事中の注意力が継続しなくなり、食事中に眠ってしまう』ことや『食事と無関係な体動』が増え、『飲み込むのに時間がかかる』『いつまでも咀嚼し続ける』『口腔内に食べ物をためる』『口が開かない』といった口腔失行が出現するようになる。また、口腔の失行や筋力低下により一般の食物を咀嚼し食塊形成し移送することが困難になってくるので、食形態の調整が必要になる。」と話しています(枝広あや子:認知症の摂食・嚥下障害─原因疾患別の特徴とアプローチ アルツハイマー型認知症. 地域リハビリテーション Vol.7 447-452 2012)。
 枝広あや子歯科医師は嚥下の工夫についても言及し、ゼリーなどの喉ごしの良いものとおかずの交互嚥下にすることで喉の通りが良くなる場合もあると話しています。また、口腔内の食べ物が溜め込みによって体温と同じになってしまうと、食べ物が入っていることの認知ができにくくなるので、温かいものと冷たいものの交互嚥下も有効であると指摘しています。
 なお、枝広あや子歯科医師は食形態の調整については、注意散漫な状態の時に食べ物であると視覚認知しにくいペースト食が提供されてしまうと、「低下している注意力では食べ物であることがわからない可能性もあり、目の前の食事に興味がわかず、食べ始めることができないかもしれない。またスプーンの使い方や食べ方がわからず、ペースト食を粘土遊びのように手指でこねてしまうかもしれない。隣の人が食べている通常の食事のほうがおいしそうに見えて、隣の人の皿に手を伸ばしてしまうかもしれない。」と注意を喚起しております。
 口腔失行が起きるメカニズムについて、東京ふれあい医療生協梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司医師が言及しておりますのでご紹介しましょう。
 「重度アルツハイマー型認知症の時期になると、口腔顔面失行(bucco facial disability)が出現することもあります。口腔顔面失行は、左・優位半球障害、特に左シルビウス溝周囲の上半部の損傷によって生じる症状であり、口頭で指示を受けたり模倣しようとしても、口腔と顔面の習慣的運動ができない状態で、しばしば認知症高齢者が食べられない原因となり、適切な観察とサポートが必要になります。」(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, p27)
 では、口腔失行が生じている認知症の人に対しては、どのようなことに留意しサポートすれば良いのでしょうか。
 「認知症の人へ食事介助をしても口を開かない、顔を背ける、口に入れたものを吐き出すなどの行為がみられた際、単純に『食事を食べたがっていない』と判断してはいないでしょうか?
 脳卒中でよくみられる麻痺による『摂食・嚥下機能障害』がなくても、こういったケースでは、食物を処理できなくなる『口腔失行』状態の場合も少なくありません。口腔失行では、処理できていない食物が口腔内にある場合に口を開けない、口から吐き出す、という行為が起こり得ます。この場合は顎下・頸部のマッサージなどで嚥下を促し、口に入っているものを嚥下し終わったことを確認してから次の一口を運ぶなどの介助が必要です。」(平野浩彦、枝広あや子:拒食・異食・嚥下障害をどうする?─認知症に伴う“食べる障害”を支えるケア. Expert Nurse Vol.29 22-27 2013)

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第763回『摂食障害と模倣―「三角食べ」しなくても』(2015年2月13日公開)
 豊島区口腔保健センターあぜりあ歯科診療所の枝広あや子歯科医師がアルツハイマー型認知症(AD)における障害部位別の摂食障害の特徴とその支援の方法について言及しておりますので以下にご紹介しましょう。
 「たとえば、食事を前にしてどうしたらよいか分からなくなって、困ったようにキョロキョロまわりを見渡していたり、食具をさかさに使う等、使用方法が分からないようすがうかがえたりしたならば、見当識障害や失行・失認等の困難が推察される。また、食事中にほかのなにかに気をとられてしまう、中断中に食事で遊んでしまう等の困難があれば、注意の維持が困難であると推察される。一方、食事を配膳されたときに、食事の時間であることを認識できていない場合や、食卓周囲の別のなにかに気をとられていたり、食事に対して注意を向ける(移す)ことが困難であったりする場合、注意の分割・転導の困難を疑う。ADでは、初期からとくに注意の分割と転導が障害されるといわれている(Perry RJ, Hodges JR:Attention and executive deficits in Alzheimer's diseae. A critical review. Brain Vol.122 383-404 1999)。
 また、ADでは社会性があるために『取り繕い』をしてしまうため、困っていることを表現するのではなく、何とか周囲の人の模倣をして問題なくみえるように振る舞うことも見受けられる。もちろん、まわりを見渡し、うまく模倣して食事が始まればそのままでかまわないが、始められない場合は、介助者が声かけによって誘導したり、食具を正しく持つように支援したりして適切な動きのきっかけを支援する必要がある。また、ジェスチャーで食べる動作を示すことで、模倣により食事が始められるケースも少なくない。」(枝広あや子:変性性認知症高齢者への食支援. 日本認知症ケア学会誌 Vol.12 671-681 2014)

 先に述べた「一点集中食い」に関しては、以前の生活習慣に根づいた行動パターンなのではないかと捉える方もおられます。
 民俗研究者である六車由実さん(元・東北芸術工科大学芸術学部准教授 現在は有限会社ユニット・デイサービス「すまいるほーむ」管理者兼生活相談員)は、「認知症の進んだ利用者ほど、ご飯とおかずを一緒に食べないことが多い。まずご飯を全部食べた後に、次におかずの皿に箸を伸ばして平らげていくといった順番だ。けれど、ご飯とおかずと汁物を交互に食べていき全部を一緒に食べ終わるいわゆる『三角食べ』を小学校時代に徹底的に教育されてきた私などからすると、ご飯だけ食べる、おかずだけ食べるという食べ方がとても不自然な光景に見えてしまう。それで思わず、おかずの皿をご飯の近くに置きなおして、『ほら、お魚もおいしそうだから一緒に食べてくださいね』と声を掛けてしまったりするのだ。
 しかしよく考えてみたら、『三角食べ』のほうが、ある時期の学校教育のなかで強制された特殊な食べ方なのである。ましてやご飯が何よりものおかずだった時代を生きた利用者たちにとっては、ご飯からまず平らげるというのは自然なのであり、身体の深くにある記憶なのだと言えるだろう。」と述べています(六車由実:驚きの介護民俗学 医学書院, 東京, 2012, pp67-68)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第764回『摂食障害と模倣―ヘルパー復帰で食欲も戻った』(2015年2月14日公開)
 松本診療所ものわすれクリニックの松本一生院長(元大阪人間科学大学教授)は著書の中で、担当ヘルパーの調整によって食欲不振が改善した事例を報告しています(松本一生:喜怒哀楽でわかる認知症の人のこころ 中央法規, 東京, 2010, pp135-140)。息子さんの観察力が問題解決への糸口となったケースでもあり全文ご紹介したいような素晴らしい事例ですが、著作権の関係がありますので、抜粋して以下にご紹介し(一部改変)、本シリーズを終えたいと思います。
 「吉村健吾さん(仮名 74歳・男性)は一昨年の冬に脳梗塞の発作を起こして入院しました。それまでにも血管性認知症は少しずつ進行しており、ベースには糖尿病がありました。50代後半に発病した糖尿病は一進一退を繰り返し、網膜症とともに認知症を引き起こしました。
 同居する息子とその妻が日中仕事に出るため、吉村さんは『昼間独居』の生活を送っていましたが、なかなか社会資源の活用には至りませんでした。脳血管障害のある人に起こりがちな性格変化によって、何度か利用しようとしたデイサービスの利用者の人たちと馴染むことは簡単にはできませんでした。
 試しにデイサービスを利用した日にもムッツリして表情を変えず、1日中何も話さないので、吉村さんの周囲には誰も近づきませんでした。その日の終わりに職員が声をかけたとたん、彼は金切り声を上げてしまいました。
 結局、『デイサービスは無理だろう』という見解になり、在宅で家族がケアをしながら、必要に応じてショートステイの利用を組みこんでいくという方針になりました。
 3か月ほど経過して、女性ホームヘルパーから疑問が投げかけられました。『私たちは本当に吉村さんの役に立っているのだろうか。彼は何の反応も示さない。むしろ嫌がっているのではないか』と。また数日前に息子が何気なく『介護保険はお金がかかるから大変…』と漏らしていたことも気にかかっていました。
 それを聞いたケアマネジャーはサービス担当者会議の時間を設けました。しかし出席した主治医、訪問看護師、ホームヘルパー、家族は皆、会議の途中で言葉に詰まってしまいました。誰1人として、なぜ今の吉村さんにこれだけのサービス提供が必要なのかをはっきりと理解していなかったからです。ケアマネジャーは金銭的にゆとりのない家族のことを考えて、訪問看護を続けるかわりに訪問介護を減らして様子を見ることにしました。これによって男性ホームヘルパーがケアプランから外れることになりました。
 それから2週間後のことです。ケアマネジャーのもとに息子から電話がかかってきて、『父がほとんど食事をしないんです』と悲壮な声で状況を伝えてきました。ここ数日、看護師やホームヘルパーからも吉村さんの食事量が減っているという報告がケアマネジャーのもとにありました。主治医も往診しましたが、脳梗塞や糖尿病の悪化は認められません。電話口で息子はこう言いました。
 『思えば私たちがあの(男性の)ホームヘルパーさんがもう来ないと話した時から、食事の量が減ってきたように思います』
 いったい男性ホームヘルパーはどのようなかかわりを吉村さんにしていたのでしょうか。ケアマネジャーは呼び出して聞いてみました。すると男性ホームヘルパーは申し訳なさそうに話し始めました。
 『私は定年を過ぎてから第二の人生を考えてホームヘルパーになりました。けれど研修中も働き始めてからも、自分が当事者に向き合ったときに何をしてあげればよいのかわかりませんでした。そこで毎日、吉村さんのお宅に行くたびに新聞を読むことにしたのです。はじめは適当な時間つぶしのつもりでしたが、そのうち不思議なことに気づきました。私が新聞を読み始めると、それまで知らん顔をしていた吉村さんが少しずつこちらに向いてきたのです』
 その話を聞いた息子は驚いてケアマネジャーに言いました。『そういえば父は元気なころ、毎日の出来事でこころに残った記事を新聞から切り抜いてスクラップ帳に貼っていました。家には“今年の記録”として何冊も残っています。それが父の趣味だったのかもしれません
 男性ホームヘルパーはかかわり方にさぞ苦労したことでしょう。しかし何をすればよいかわからず苦し紛れにとった行動は、しっかりと吉村さんに受け入れられていました。新聞を読んでもらうことが吉村さんにとって何よりの『楽しさ』になり、つらい状況を補う力になっていました。
 男性ホームヘルパーが吉村さんの担当に復帰したことで、食欲は急速に改善しました。彼にとって日々のニュースはどんな料理よりも大切な『生きる糧』だったのです。」

幼老統合ケア むく 看護小規模多機能型居宅介護 ママハタ 赤ちゃん先生 佐伯美智子 唐津    [幼老統合ケア]

ミニ講演会 in 福岡─ママハタの目指すもの【2016.9.30】

キャプチャ.JPG
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/videos/vb.100004790640447/645469438956072/?type=2&theater
 佐伯美智子さんが「赤ちゃん先生プロジェクト」について熱く語ってくれました。
 

 Yuutube動画は↓
 https://youtu.be/fYDYvLdGCi4

 ママハタは↓
 https://www.mamahata.net/
 取材の依頼先は、ママハタ・唐津の佐伯美智子さんです。
 https://www.facebook.com/michiko.saiki?fref=pb&hc_location=friends_tab&pnref=friends.all 

P.S.
 みっちゃんが運営する看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)『むく』(https://www.facebook.com/shoukibomuku/?pnref=lhc)は、2017年4月1日オープンです。
 むく.jpg
 みっちゃんの長年の夢「幼老統合ケア」がいよいよ動き始めます。
 みっちゃんの目標は、「あおいけあ」に追いつけ追い越せかな・・。
 http://www.aoicare.com/



アピタル連載より
朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第57回『幼老統合ケア 赤ん坊のぬいぐるみが効く』(2013年2月18日公開)
 復習シリーズを続けてきましたが、年度が替わる前にお伝えしておきたい話題がありますので、いったん復習シリーズをお休みします。

 『ひょっとして認知症? Part1』の第158回『高齢者に対する虐待とストレス』において、音とリズムさんから「思いやりの気持ちや態度を養うカリキュラムを幼稚園の時から実施」という提起がありました。
 その際私は、「『幼老統合ケア』という試みを実践している施設があります。私も本で読んだだけの知識しか持ち合わせておらず実際の現場は見ていないのですが・・。いずれ『ひょっとして認知症?』においてご紹介します。」とお返事しました。
 今回は、「幼老統合ケア」に関連した話題をいくつかご紹介します。

 認知症高齢者においては、赤ん坊のぬいぐるみをとっても大切そうに抱きかかえている状況がしばしば見受けられます。認知症の人が怒ったりした際に、ぬいぐるみを渡すと落ち着きを取り戻すこともあります。このような方に対しては、「幼老統合ケア」が向いているのではないかと私は考えています。
 認知症ケアにおいて非常に大きな問題である「認知症の行動・心理症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)に対して、赤ちゃんの人形の子守りするという「役割」を担ってもらうことにより、BPSDが軽快した事例が報告されておりますので一部改変して以下にご紹介しましょう(髙尾千香子、上城憲司、岩谷清一 他:人形介在介入によって役割を獲得し、BPSDが減少した事例. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.5 258-265 2012)。
 「人形介在介入後の変化点を以下に述べる。
①徘徊
 ロビーで人形と一緒に過ごすことが多くなりほぼ消失した。
②ゆがんだ解釈
 以前は入浴やトイレ動作を促すことに労力と時間をかけていたが、『赤ちゃんのために、お母さんもお風呂に入りましょうか』『赤ちゃんと一緒にトイレに行きませんか』などと声かけをすると、拒否なく導入できるようになった。
③もの隠し・収集癖
 ②のような声かけを行うことで、自室の床頭台の中やシルバーカーの中に入れた、汚れた尿取りパットを嫌がらず処理させてくれるようになった。
④無意味な作業
 徘徊がなくなったことで、他の患者の部屋に入って物を触ることはなくなった。
⑤対人トラブル
 毎晩共有スペースで寝てしまうことにより発生していたが、自室ベッドで『赤ちゃんと添い寝してもらえますか』と促すと、起床時間まで眠ることができるようになったため、ほとんどみられなくなった。
⑥介入前の不潔行為
 尿意不良で失禁していることが多く、紙パンツ交換の拒否も多かった。また、自らトイレに行き尿取りパットを便器に流して詰まらせてしまうことや、自分で片付けようとして汚してしまう場面もたびたびみられた。
 介入後は、前述のように徘徊や拒否が少なくなったため、時間誘導がスムーズに進み失禁も減った。」
 この事例においては、スタッフが人形について、「こちらの方とはどのようなご関係ですか」と質問したところ、「家族よ」とはっきりと答えたそうです。
 認知症を患った高齢女性にドールセラピーを行うと、子育てという「役割」の賦与による効果なのかBPSDが顕著に改善することはしばしば経験されます。特に、人形を自分の子どもであると誤認するようなケースにおいては、ドールセラピーは著効する可能性があるのかも知れませんね。

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 理学療法士の三好春樹さんが『認知症介護─現場からの見方と関わり方(雲母書房)』という本を2014年5月15日に出版されました。この本は2003年に『痴呆論』として世に出され、その後、「認知症」という呼称が広がりつつあった2009年にあえて『痴呆論』のままで<増補版>として刊行されたものを、新たな題と本文中の「痴呆」の「認知症」への書き換え、および巻頭への新たな章の書きおろしを加えて、改訂新刊として刊行されたものです。
 私は、『痴呆論』は読んだことがありませんが『認知症介護─現場からの見方と関わり方』を読みました。その中に「役割」の賦与を応用した非常に印象深いケア方法が記載してありましたので以下にご紹介したいと思います。

「子ども」になって泣いてみる
 「介護アドバイザーの青山幸広に、彼がアドバイザーをしているグループホームのスタッフから電話がかかってくる。『どうしても家に帰ると言ってきかないんです。いろいろやってみたんだけど、今日だけは効果がありません。どうしたらいいでしょう』と。グループホームの夜勤は1人だけだから、いっしょに散歩してくるわけにもいかず、電話の向こうで弱り切っている。
 『泣け!』と青山幸広。『えっ?』と受話器の向こうで驚いている声が聞こえる。『しやがみこんで、えーん、えーんと大げさに泣いてみろ!』。
 果たして、『帰る』と言い張っていた認知症の入所者は、驚いて『泣かなくてもいいよ、どうしたんだい』とやさしく声をかけてきたという。母親になっているのだ。家に帰らなくても、目の前に自分の役割が現われたのである。
 青山と同じく介護アドバイザーをしている高口光子も、やはりこの手を使う。困り果てると、突然子どものように泣き出すのだ。困らせていた老人が彼女をあやし始め、すっかり母親のようになってしまったら、『なんちゃって』と泣くのを止める。すると老人は、その展開にはついていけず、どうしていいかわからなくなるという。そこで、みんなで『バンザイ』を三唱する。すると、最初の問題が何だかわからないままお開きになって、老人は部屋に帰っていくという。ここまでくると、介護を知らない人にはまるでシュールな世界に見えるに違いない。
 家族が誘っても風呂に入りたがらない女性がいた。他人のほうがいいのでは、とヘルパーが週に2回訪問して、家の風呂に誘うことになった。しかし、説得すればするほど拒否が強くなり、家族は『これならヘルパーに来てもらわなくても』と言い始めた。
 困ったヘルパーはある日、子どもになってみることにした。子どもが小さかったころの話を、喜んですることに気づいたからだ。『お風呂に入りたいんですけど、一人じゃ入れないんで、いっしょに入ってもらえませんでしょうか』と言うと、『困った子だねえ』と言って、脱衣室に行って自ら服を脱いだという。それ以降、ほぼ毎回、この方法で成功している。」(三好春樹:認知症介護─現場からの見方と関わり方 雲母書房, 東京, 2014, pp156-158)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第58回『幼老統合ケア 子どもの顔を見たとたんに笑顔』(2013年2月19日公開)
 信濃毎日新聞の飯島裕一編集委員と佐古泰司文化部記者が書かれた著書(認知症の正体 PHP研究所発行, 2011, pp257-262)においては、認知症のお年寄りが暮らすグループホームに、学童保育の子どもたちが日常的に訪れて一緒に過ごす「幼老統合ケア」を実施している洛和グループホーム山科小山(京都市山科区)の取り組みが紹介されており、怒りっぽかった高齢者が子どもたちとの触れ合いを通じて笑顔を取り戻していく様子が報告されています。
 『ルポ 認知症ケア最前線』(佐藤幹夫:岩波新書, 東京, 2011, pp52-76)においては、地域のなかにあって、障害者も高齢者も児童も受け入れてケアをする共生スタイルの「富山型デイサービス」について紹介されています。そして代表的な「富山型デイサービス」であるデイケアハウス「にぎやか」(阪井由佳子代表)の様子が詳細に報告されています。「にぎやか」は、富山市の新興住宅街の一角にあり外見は普通の民家です。「にぎやか」では基本的に見学は受けていないそうです。しかし、ボランティアとして一緒に活動してくれるのは構わないそうです。スタッフばかりか、お年寄りたちも入れ替わり立ち替わり赤ん坊に声をかけ、冗談を言い、笑い声が絶えない「にぎやか」の様子が紹介されています。
 前述の著書『ルポ 認知症ケア最前線』第4章のタイトルは、「幼児たちの介護力」です。大阪府堺市の複合型福祉施設「ベルタウン」が取り上げられています。「ベルタウン」も「幼老統合ケア」を実践しています。「ベルタウン」内の特別養護老人ホーム「ベルライブ」の白川美保子施設長の言葉をご紹介しましょう。
 「普段はまったく会話をしないお年寄りや、職員に話しかけられても芳しい反応が見られない認知症のお年寄りたちにあっても、子どもたちの顔を見たとたんに表情が一変する。なかには子どもたちに自分から話しかけるようになったり、ほとんど笑顔を見せない人が、ゼロ歳児がワゴン車に乗って遊びにやってきた姿を見るだけで、笑顔があふれたりする。」
 このように、子どもたちの存在は、認知症の人(メモ1参照)に笑顔をもたらしたのです。

メモ1:認知症の人
 医療法人社団こだま会こだまクリニックの木之下徹院長は、「イギリスの医療やケアの国家的ガイドラインには、『OUTPATIENTS(外来患者)』『INPATIENTS(入院患者)』などの例外を除き、『PATIENTS(患者)』が削除されている。またオーストラリアの『アルツハイマーズ オーストラリア』という組織では、この点においてはもっと先進的に、用語の規定集についても公表されている。また同国の認知症関連の医学論文でも、『患者』という言葉が『人』になっている」ことを紹介しています(医師へフィードバックすべき情報. 薬局 Vol.61 3641-3645 2010)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第59回『幼老統合ケア 子どもたちも元気になる』(2013年2月20日公開)
 笑う頻度と認知機能低下との関連を調べた研究があります(大平哲也:笑い・ユーモア療法による認知症の予防と改善. 老年精神医学雑誌 Vol.22 32-38 2011)。
 笑いの頻度が少ないと認知機能低下が有意に高いことが報告されています。「幼老統合ケア」の意義はこんなところにあるのかも知れませんね。
 さらに、「幼老統合ケア」においては、子どもたちがエンパワーメントされるという可能性も秘めています。
 『認知症ケアは地域革命!』という著書の第三章「子どもたちと育んだマインド」(牧坂秀敏:現代書館, 東京, 2010, pp144-181)では、認知症高齢者との触れ合いを通して成長していく子どもたちの様子が描かれています。
 2007年の夏休みに、認知症対応型デイサービス「地域福祉館・藤井さん家」を二人の小学生が「ボランティア体験」として訪れます。
 高齢者は子どもたちとの触れ合いによって、子どもの名前を覚えたり、明るくなったり、動きが良くなったりしていきます。
 子どもたちは、藤井さん家の人たちと、ゆったりした空間でゆっくりとした時間を過ごすなかで、心が満たされていき優しくなっていきます。
 ある先生はそんな子どもたちの様子を以下のように考察したそうです。
 「藤井さん家は、学校と異なり時間がゆっくり流れている。だから、学校で救われない子どもが藤井さん家で救われるだろう」と。
 人権を守ろうとする「藤井さん家」の文化に子どもたちが出会うことで、子どもたちがエンパワーメントされたのです。
 第三章は以下の言葉で締めくくられています。
 「ここでいうエンパワーメントとは、だれでもが潜在的にもっている力や個性をいきいきと発揮することである。それは、人と人との間にいきいきとした出会い、関係があってはじめて可能となる。」
 日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科の今井幸充教授は、「判断能力を失った者の支援活動では、一方的な情報提供や助言をするのではなく、彼らが自立し、自ら問題を解決していくパワーを発揮できる能力を高める方向に導くことが重要で、このような支援行為をエンパワメント(エンパワーメント)という。このエンパワメント実践に重要なことは、認知症患者やその家族の自己決定権を擁護(権利擁護)、すなわち、アドボカシー(advocacy)であり、患者アドボカシーとは『患者の味方になってその利益・権利のために闘うこと』である。」と述べています(今井幸充:認知症患者に薬物療法を始める際の病名告知について. 治療 Vol.93 1830-1834 2011)。
 特定非営利活動法人宮城福祉オンブズネット「エール」理事の内田幸雄さんは、「『おせっかい』という言葉がある。必ずしもよい表現として使われない言葉である。しかし、地域における高齢者の権利擁護を推進するには、この『おせっかい』という視点が重要であると考える。隣近所に対して地域がまったく『無関心』になったとき、そこでは社会的弱者に対する権利擁護の視点が失われることになるからである。」(内田幸雄:地域における権利擁護. 日本認知症ケア学会誌 Vol.10 440-446 2012)と指摘しています。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第60回『幼老統合ケア 子どもとの交流で変わる』(2013年2月21日公開)
 さて、グループホーム「ふぁみりえ」ホーム長の大谷るみ子さんは、運営推進会議(メモ2参照)の場で、認知症の人と子どもたちを交流させてみてはどうかという意見が出された経緯を以下のように紹介しています(大谷るみ子:人生の舞台は今、グループホームから地域へ─豊かな人生を支援する. 現代のエスプリ通巻507号 ぎょうせい発行, 東京, 2009, pp132-145)。
 「ハツミさんは、入居してしばらく『私はどうしてここにおるとね?』『まだ自分で暮らせる自信があるのに』と繰り返されていた。娘さんともあらためて本人への向き合い方を相談し、『ものわすれによって一人で暮らすことが難しいことが増えたこと』『おかあさんが一人だと心配でたまらない、ここは家からも近く安心して住めるところなので、ここでおかあさんに暮らしてほしい』と伝えることになった。『そんなこと言われても』と最初は少し寂しそうにされていたが、その後『私はどうしてここに?』という質問は少なくなられた。
 それからしばらくして、『私は職安に行きたい』とハツミさん。『働きたい』『託児所もしたい』と。そこでそんなハツミさんの希望を、『運営推進会議』の場で話し合うことにした。『託児所はすぐにはできないけど、孫を連れて遊びに来ますよ』と委員の小野さん。『近くの幼稚園の子どもたちと交流してみては』などの意見が出た。近くの保育園に時々通ったり、月に一回『ママ&赤ちゃんの会』をすることになった。また月に二回、敷地内に開設した地域交流センターを活用し、ハツミさんを中心として『ささやかカレーの店』をすることになった。メニューきめ、買物、料理、会場セッティング、食券販売、給仕、おもてなしなど、入居者の皆さんが役割を分担され、職員も一緒にやり始めて二年目である。」

メモ2:運営推進会議
 2006年(平成18年)4月の介護保険法改正により、グループホーム(制度上の正式名称:認知症対応型共同生活介護)が地域密着型サービスの1つに位置づけられました。同時に、地域住民を交えてグループホームの運営課題や地域交流を進める鍵として、「運営推進会議」の設置・運営が義務付けられました。民生委員、自治会長、消防団、行政や地域包括支援センターなど、さまざまな顔ぶれの会議です。認知症の人に対する理解を深め、地域全体で支え合うための地域づくりとして、またグループホームの中だけで支えるのではなく、入居者の暮らし方や支援の実際・課題などを取り上げ協議したり、何より本人の希望を聴き、本人・家族、施設と地域住民の交流の場としても意義深い制度です。
 厚生労働省は2012年6月18日に、「認知症施策の方向性」(http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/dl/houkousei-02.pdf)について提示しました。独立行政法人国立長寿医療研究センター脳機能診療部第二脳機能診療科の武田章敬医長はこれに関連して、「『今後の認知症施策の方向性について』報告書においては、認知症グループホーム事業所が地域の認知症ケアの拠点としての活動を行うことが求められ、具体的には認知症対応型通所介護やショートステイといったサービスの提供や、在宅で生活する認知症の人や家族への相談や支援を行うとされている。」(武田章敬:わが国の認知症施策. 月刊薬事 Vol.54 1596-1600 2012)と報告しております。
 認知症グループホームにおける運営推進会議の実態に関する調査結果もウェブサイト上にて公開(http://ghkyo.or.jp/home/pdf/chousakenkyuujigyouhoukoku-20100520.pdf)されておりますのでご参照下さい。

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 「幼老統合ケアは、大牟田の大谷るみ子さんたちによって始められ、全国に広がりを見せている。認知症の問題解決を早めるためにも、小学生の頃から認知症を意識させることには意義がある。」(中村重信:私たちは認知症にどう立ち向かっていけばよいのだろうか. 南山堂, 東京, 2013, p221)

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 「サロンづくり」とひと言で言ってしまえば簡単なことのように感じられるかも知れませんが、立ち上げの大変さ&維持することの大変さ…など並々ならぬ努力が求められます。
 そんな大変さを垣間見ることができる論文がありますので、抜粋して以下にご紹介しましょう(有馬みき、青木明美:地域住民と協働したサロンづくりとその活動─過疎高齢化の小さな田舎町「A町」の将来をになう人材が生まれることを願って. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.6 253-262 2013)。

【論文抄録】
 A町は、深刻な少子高齢化、過疎化、就労の場の減少など、多くの問題を抱えている。そこでB認知症対応型通所介護(Bデイサービス)では、施設内だけでなくA町の問題点にも向き合い、将来を見据えた活動を行う必要があると考え、制度にはない資源づくりを住民と協働して行った。本事例報告では、その過程を紹介するとともに、その活動の場が、将来をになう次世代の人づくりの場になることを目指して行われている取り組みについて報告する。

【論文本文】
はじめに
 A町の人口は約24,500人、年少人口(14歳以下の人口)は約2,400人、高齢化率は約34%である(200X年12月時点)。人口の推移予測は、2035年には人口が約13,500人、年少人口は約950人へと減少し、高齢化率は50%を超える見込みであり、深刻な過疎、少子高齢化の問題を抱えている。また、農業や水産業が低迷し、新規採用を行っている地元企業はほとんどない状況で、就労の場が大幅に減少しているため、高校を卒業する時点でA町外へ就職、進学する若者がほとんどである。

サロンのオープンから地域へのよびかけ;小学生にどう声をかけたか
 200X-1年4月にサロンをオープンし、回覧板や広報で周知を促した。また、いっしょに立ち上げてきた住民に、精力的に口コミで宣伝をしてもらうように頼んだ。しかし、お茶のみ場やギャラリーでの利用を中心に交流が始まったということもへあり、比較的年齢が高い人たちの利用は増えても、目的としていた子どもたちには思うように利用してもらえなかった。
 職員は、どうすれば「子どもたちが保護者や先生に見守られながらも、ルールに縛られず楽しくすごせ、かつ、世代間交流ができるようなサロン」になるかについて考えた結果、「宿題をする場所」としてサロンを提僕することを思いついた。そして、200X-1年7月に「夏休みにお友だちとサロンで宿題をしませんか?」とよびかけるチラシを作成して、小学生に配布した。小学生が堅苦しく感じず、来るのが楽しみになるように、かき氷を自由につくれることや、あめや飲み物を無料で提供することをチラシに盛り込んだ。そうすると、それまでの状況がうそのように小学生が集まり始め、宿題をするだけでなく、いつの間にかルールを守りながらも通信型のゲームやカードバトルゲームをしたり、さまざまな楽しみ方をしたりするようになった(図)。そのことが、より多くの子どもたちが集まるきっかけになっていった。

サロンとBデイサービスの位置関係にこだわった理由
 そして、サロンは「場所」のみでは成り立たず、「人」が重要であると考えた。
 職員が、Bデイサービスをオープンな空間にして、サロンからだれもがいつでも入って来やすい雰囲気づくりを行ったところ、徐々に小学生が「Bデイサービスではなにをしているのだろう」と興味をもち始めたようであった。そこで、「高齢者がレクリエーションを楽しむために人手が足りないから手を貸して」と小学生に伝えると、恥ずかしそうにしながらも、レクリエーションに参加してくれるようになった。最初は恐る恐る入ってきていた小学生が、いつの間にか慣れて、自然と高齢者や職員と交流を深めることができるようになった。

考察・課題
 当初は小学生の利用はなく、子どもが高齢者とかかわることをいやがっているのではないかとさえ思っていた。しかし、環境の提供ときっかけづくりをていねいに行うことで小学生自身が自ら考え、行動し、日常的に交流を楽しむことができることが分かった。好奇心旺盛な小学生が、自分の力で新たな人や場所とつながることに楽しさや喜びを感じたことで、Bデイサービスやサロンに訪れる頻度が多くなり、職員だけでなく、高齢者にも興味をもち始めたと考える。その姿に職員は勇気づけられ、高齢者が元気になることも再確認した。
 当初、Bデイサービスやサロンでは、福祉をになう人材づくりしかできないと考えていた。しかし、認知症の人は、福祉サービスのみで支えられるはずもなく、町のなかのさまざまな人に支えられ、はじめて安心して生活することができる。将来、小学生たちが福祉の仕事に携わらなくても、地域の生活のなかで重要な役割を果たしていくに違いない。サロンの活動を通じて、大人だけでなく、小学生のときから「人は年老いて死んでいくこと」を身近に感じてもらうことは「認知症になっても安心して暮らせる町づくり」に直結する。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第61回『幼老統合ケア 住み慣れた地域で密着型サービスの模索』(2013年2月22日公開)
 認知症グループホームについてご紹介しましたので、小規模多機能型居宅介護についてもお話しておきましょう。
 厚生労働省は、「地域密着・小規模化」を掲げ、在宅療養への移行を推進しています。しかしながら、特別養護老人ホームの入所申込者は42.1万人もいることが報告されており(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000003byd.html)、現状では施設志向が依然として強いのが現状です。それは、在宅療養においては、介護サービスを受けている時間を除く大半の時間、介護者が介護に携わる必要があり、主たる介護者の精神的な負担が強いことが大きな要因として挙げられています。
 2006年(平成18年)4月の介護保険制度改正により、今後増加が見込まれる認知症高齢者が、できる限り住み慣れた地域での生活が継続できるように、新たなサービス体系として地域密着型サービスが創設されました。
 「地域密着型サービス」に属するサービスの中で、小規模多機能型居宅介護は、「通い(デイサービス)」を中心として、要介護者の様態や希望に応じて、随時「訪問(訪問介護)」や「泊まり(ショートステイ)」を組み合わせてサービスを提供します。「通い」「訪問」「泊まり」の3つの機能を兼ね備えた小規模多機能型居宅介護は、自宅を拠点として生活したいと願う人にとって使い勝手のよいサービスとして注目されております。
 このサービスが創設される前は、「通い」、「訪問」と「泊まり」などの介護サービスをそれぞれ別の施設で受けることにより、それぞれの場面で利用者に対応するスタッフが異なるために馴染みの関係やケアの連続性が保たれないといった問題がありました。
 小規模多機能型居宅介護が主に担っている役割は、中等度・重度となっても在宅での生活が継続できるように支援することです。
 小規模多機能型居宅介護には利用定員が定められており、1つの事業所あたり25人以下の登録制となっています。1日に利用できる通所サービスの定員は15人以下、泊まりは9人以下となっています。
 小規模多機能型居宅介護の「泊まり」機能の充実が今後ますます期待されていくように思われますね。

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特養入居待ち―参入拡大に知恵を絞れ【2014年4月5日付朝日新聞・社説】
 「住み慣れた自宅で暮らせる在宅介護は望ましい。ただ、施設の役割も大きい。今後の高齢化を考えれば、施設運営への参入規制を見直し、特に都市部での供給を増やすべきだ。
 特別養護老人ホーム(特養)への『入居待ち』が約52万人にのぼり、4年前の前回調査より10万人増えたことが厚生労働省の集計でわかった。
 特養は、比較的安い費用で介護を含めた生活の面倒をみてくれる。市町村が施設を割り当てていた時代と違い、介護保険のもとで入居の申し込みは自由にできる。
 政府は『地域包括ケア』という考え方のもと、自宅で最後まで暮らすことを目標に、在宅介護を推進する。
 52万人のなかには、今は必要ないが将来への不安からとりあえず申し込んだ高齢者もいる。そうした人ができるだけ長く自宅で過ごせるよう、サービスを充実させることは大切だ。
 ただ、それには時間がかかるし、地域によってばらつきもある。『在宅重視』のかけ声だけでは、暮らしが行き詰まるお年寄りに対応しきれない。頼れる家族が近くにおらず、地域とのつながりも薄い高齢者は、特に首都圏で急増する。
 地価が高く施設が足りないため、こうした高齢者を抱えきれず地方に送り込もうとする動きが強まる懸念もある。
 都市部を中心に、特養の整備を進めていくべきだ。
 それには、地方自治体が施設の増加による財政負担の拡大を恐れて設けている総量規制を見直すとともに、参入規制を緩めていく必要がある。
 現在、特養をつくれるのは、地方公共団体のほかは、社会福祉法人に限られる。低所得の人にも『終のすみか』を提供する公益性が理由とされる。
 だが、介護保険のもと、契約に基づき特養のサービスを提供して報酬を受け取るだけなら、運営を社会福祉法人に限定する理由はない。
 多様な事業者が参入すれば、都市部でネックになっている土地の確保や資金調達でも新たな知恵が出てくる可能性がある。競争を通じたサービスの質の向上も期待できる。
 人員配置など入居者保護の規制は緩めるべきではない。営利法人から『これではもうからない』と緩和を要求されて介護の質を落とせば、『うば捨て山』をつくるだけだ。
 在宅介護で暮らしを支えつつも、『最後のとりで』として特養がある。そんな地域づくりが現実的なのではないか。」


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第62回『幼老統合ケア 期待される小規模多機能型居宅介護』(2013年2月23日公開)
 小規模多機能型居宅介護は非常に期待されているサービスなのですが、事業者側からみると制度上の問題点もあるようです。
 高齢者総合ケアセンターこぶし園の小山剛総合施設長は、「本制度の利点は通い・泊まり・訪問に対応するばかりではなく、それまでの介護保険3施設と認知症対応型共同生活介護のように1か月の利用額を定額にしたことで、利用回数に一律的な制限を受けないことから、そのときの必要量に合わせた柔軟な使い方ができることにある。ただし介護報酬の設定は重症度が中等度~重度用に設計されているため、軽度の認知症の段階から連続的な使用が行われると事業者の負担が増加するというジレンマも内在している。」と指摘しています(小山 剛:福祉施設ケアと精神科入院治療の現状と課題. 老年精神医学雑誌 Vol.23 572-577 2012)。
 介護保険三施設とは、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム;特養)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設の3施設を指します。
 小規模多機能型居宅介護の利用料金例は、NAGOYAかいごネットのウェブサイトをご参照下さい。この表を見ても分かりますように、要介護2以下と要介護3以上では報酬単位にかなりの開きがありますから、認知症患者さんが早い段階から連続的に利用していくには、事業者側に資金的な余力がないとサービス利用が困難という状況になってしまいますね。

 小規模多機能型居宅介護の利用料金をNAGOYAかいごネットのウェブサイトで見てみますと、要介護5では28,120単位と記載されておりますね。すなわち、2万8120円(1割の自己負担分)を基本料金として、それ以外に、食事代・宿泊費(首都圏で一泊三千円前後)・おむつ代などが別途かかることになるわけです(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 p9)。
 2012年10月28日発行の週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号では、情報公開に積極的な1721ホームから回答を得て、「有料老人ホーム ベストランキング」を特集しており、8つの指標から評価し、31都道府県にある介護付き有料老人ホームを合計得点(100点満点)の高い順に紹介しております。たいへん興味深い資料だと思います。
 なお、2012年10月28日発行の週刊ダイヤモンド臨時増刊(通巻4454号)においては、小規模多機能型居宅介護の特徴が分かりやすくまとめられておりますので抜粋してご紹介しましょう(一部改変)。
 「小規模多機能型居宅介護は、かつては『宅老所』といわれた仕組みを2006年度から制度化したものだ。通所事業所に通い、食事や入浴、機能訓練などを受ける『デイサービス(通所介護)』、施設に短期間宿泊して、食事や入浴などの生活介護を受ける『ショートステイ(短期入所)』、これに訪問介護を加えた三つのサービスを提供する事業所だ。2012年4月からはこれに訪問看護を加え、四つの機能が一体化した『複合サービス』が新たに始まった。医療的な措置を必要とする要介護者を抱える家族にとっては、朗報といえよう。
 使う際は、まず、自宅近くの小規模多機能型居宅介護の事業者に登録する。その上で、必要に応じて上記四つのサービスを利用する。
 例えば、共働き世帯の方で、急な残業などで帰りが遅くなっても、職員が自宅に利用者を迎えに行って、(小規模多機能施設に)宿泊させることができる。柔軟性のあるサービスのために、家族からは喜ばれることが多い。
 いずれも要介護度に応じた定額料金となっている。どれだけ介護サービスを受けても、出来高払いと違い支払額が大きく膨らむ心配はないから安心して利用できる“懐”に優しいサービスといえる。
 小規模多機能型居宅介護を利用する場合、介護保険のルール上、サービス内容が重複する他の介護サービス(デイサービス、ショートステイ、訪問介護)と併用はできないので注意が必要だ。
 このため、デイサービスの単独利用から、小規模多機能型居宅介護に変えようと思っても、デイサービスのケアマネジャーが、顧客を手放すことを嫌って承諾しないことがある。利用者本人もデイサービスに親しい職員や仲間がいると、離れるのを嫌がって拒むという事態がしばしば発生する。
 また、小規模多機能型居宅介護の事業者は、デイサービス、ショートステイ、訪問介護の三つ(訪問看護を含めると四つ)を等しくこなせることが原則だが、人手不足の地域や住宅が分散している地域では訪問介護が十分に行えない事業者も少なくない。
 中には意図的に、経営面で効率的なデイサービスやショートステイだけしかやらない事業者もいるから注意したい。」(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 pp24-25)
 さて、実際にはどのようにして小規模多機能型居宅介護の施設を探せばよいのでしょうか。
 「かいごDB」のウェブサイト(http://kaigodb.com/)におきましては、小規模多機能型居宅介護を実施している施設を都道府県別に閲覧できますのでご参照下さい(http://kaigodb.com/kaigo_service/200/)。施設数が少ないのがネックとなっており、なかなか該当施設が見つけられないのが現状ではないでしょうか。なお、地域密着型サービスは、市区町村が施設事業者を指定しており、原則として事業所所在地に居住する被保険者のみが利用できるサービスです。

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 「小規模多機能型居宅介護を利用する場合、介護保険のルール上、サービス内容が重複する他の介護サービス(デイサービス、ショートステイ、訪問介護)と併用はできないので注意が必要だ。」と記載しておりますが、2013年12月17日付中日新聞に「複合型サービス」に関する記事がありましたので以下にご紹介しましょう。

看護や介護で在宅支える・「複合型」じわり普及─医療行為OK、みとりも対応
 小規模多機能型居宅介護サービスに、看護機能を強化した「複合型サービス」が少しずつ増えている。看護師が多いので、退院直後の不安定な状況や終末期にも対応しやすいという。静岡市清水区にある施設「複合型ナーシングケアもも」での取り組みを紹介する。【佐橋 大】
            
 清水区の住宅街にある施設「複合型ナーシングケアもも」。今年二月に「小規模多機能型居宅介護事業所」から転換した。高齢者約二十人が利用登録をしている。登録すれば「通い」「泊まり」「訪問介護」「訪問看護」の四サービスを、泊まりの実費負担などを除き、月単位の定額で受けられる。従来との違いは職員の四割(常勤換算)が看護師と、看護職員の割合が高い点だ。
 運営会社の地域包括ケアサービス部長、高井由美子さんは「小規模多機能のときなら、ちゅうちょする人も受け入れられるようになった」と話す。例えば肺炎を繰り返し、しばしば抗生剤の点滴が必要になる人。規制のため、看護師が付き添っていても小規模多機能のサービスの中では、医療行為である点滴はできない。
 医療機関に通えない人には、訪問看護のサービスで、看護師が自宅を訪れ、抗生剤を点滴するしかなかった。点滴は通常二時間以上かかるため、多忙な訪問看護で付き添うのは難しいという。複合型サービスでは、日中は看護師の常駐を義務付ける代わりに、医師の指示を受けて、点滴などの医療行為ができるようになった。

定額で訪問看護
 複合型サービスは2012年四月の介護保険法の改正で、医療依存度の高い人が、地域で暮らし続けるのを支えるために導入。定員は最大二十五人。グループホームや小規模多機能型と同様、利用者は事業所のある市町村の住民に限る。
 小規模多機能型との違いは、訪問看護が定額サービスの中で受けられること。その分、小規模多機能型より月額の利用料が少し高い。例えば要介護3なら、本体部分の一割負担が、小規模多機能型の月二万三千円余に対し、複合型サービスは月二万五千円余り。
 厚生労働省のまとめでは六月末現荏、全国で七十三事業所が指定を受けている。中部地方では名古屋市三、福井県坂井地区広域連合(あわら市、坂井市)二、静岡市一。その後、愛知県豊橋市でも事業所が指定を受けた。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第63回『幼老統合ケア 認知症初期集中支援チームへの期待』(2013年2月24日公開)
 厚生労働省は2012年6月18日に、今後の認知症施策の方向性について提示しました。それに関して2012年6月19日の朝日新聞は、以下のように報道しております(一部改変)。
 「厚生労働省は6月18日、高齢化で増える認知症の新たな対策をまとめた。専門職の支援チームが患者の自宅を訪問するなど、症状の初期段階で集中的に在宅での対応を支えるのが柱。症状が悪化して精神科病院に入院するのを防ぐねらいだ。来年度から実施する。
 対策の柱は、地域介護の拠点である地域包括支援センター約4200カ所などに設置する『認知症初期集中支援チーム』。看護師や保健師、作業療法士らが本人や家族から生活状況を聞き取り、症状進行の見通しを説明するほか、生活全般についても助言する。
 また、このチームやかかりつけ医と連携し、認知症の専門医が早期診断する『身近型認知症疾患医療センター』も医療機関に新設。専門医は一般病院や介護施設も訪問し、地域医療を後押しする。厚労省は今回の対策を具体化した5カ年計画をつくる方針だ。」

 「認知症初期集中支援チーム」というあまり聞き慣れない名称が出てきましたね。その役割について、独立行政法人国立長寿医療研究センター脳機能診療部第二脳機能診療科の武田章敬医長が分かりやすく解説しておりますのでご紹介しましょう(一部改変)。
 「『今後の認知症施策の方向性について』報告書において、早期診断・早期対応を促進する観点から、看護職員、作業療法士等の専門家からなる『認知症初期集中支援チーム』を地域包括支援センター等に配置し、認知症が疑われる人の家庭を訪問し、生活状況や認知機能等の情報収集や評価を行い、適切な診断へと結びつけ、本人・家族への支援を行うとしている。また、かかりつけ医の認知症対応能力が向上し、『認知症初期集中支援チーム』の取り組みが普及するまでの間は、主として『身近型認知症疾患医療センター』の医師が『認知症初期集中支援チーム』の一員として関与したり、ケアマネジャー及びかかりつけ医等に対する専門的なアドバイスを行ったりする役割を果たすとされている。」(武田章敬:わが国の認知症施策. 月刊薬事 Vol.54 1596-1600 2012)
 なお、「身近型認知症疾患医療センター」は、5年間で全国300カ所に整備する予定だそうです。
 厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室の勝又浜子氏は、医学雑誌社のインタビューの中で、「認知症初期集中支援チーム」における医師・ケアマネジャーの位置づけについて次のように述べております(一部改変)。
 「認知症初期集中支援チームはイギリスの認知症施策である『メモリーサービス』がモデルになっています。
 メンバーは、看護師や作業療法士等で、必ずしも医師は要件になっていません。チームがかかりつけ医と連携して初期支援を行なっていくことが想定されます。またイギリスでは、このチームにケアマネジャーは入っておらず、チームが関わったあとにケアマネジャーが引き継ぐという仕組みです。日本ではどういうやり方がいいのか、2013年度からのモデル事業で模索していくことになります。必要に応じて医師が入ることもあるでしょうし、他にも精神保健福祉士や介護職、さまざまな職種がチームに入る可能性もあります。
 もちろん『訪問看護師』もメンバーの有力な候補ですね。拠点は『地域包括支援センター等』となっていますが、市町村からの委託を受けた訪問看護ステーションを拠点に地域包括支援センターと連携しながら行なっていくかたちもありえます。」(認知症の「ケアの流れ」をどう変える?─これからの認知症施策の主眼と訪問看護の役割. 訪問看護と介護 Vol.18 16-20 2013)
 訪問看護ステーションと地域包括支援センターが連携しながら取り組む試行例も紹介されておりますので以下にご紹介します(一部改変)。
 「『認知症初期集中支援チーム』のモデル事業が、2013年度から始まる予定だ。これに先立ち、そのスキーム(概型)を検討する試行も、全国3か所で始まっている。そのうち1つは『訪問看護ステーション』を中核に地域包括支援センターと連携しての取り組みである。
 その中心となっているのは、ナースケアステーション(東京都世田谷区)の片山所長だ。認知症初期集中支援チームのメンバーは今のところ、片山所長を中心とする4名の訪問看護スタッフと、ステーション外から作業療法士、連携する在宅療養支援診療所の総合内科医・精神科医である。すでに3事例の『初回アセスメント訪問』を行ない、近く『チーム員会議』を開催する予定だ(2012年12月5日現在)。
 『初回アセスメント訪問』は初期集中支援計画の礎になるものであり、認知症の症状はもちろん、既往歴やその治療と服薬状況、身体状況などの『医療』の視点から、本人のパーソナリティや価値観、生活状況や生活障害、家族背景や経済状態などの『生活』の視点まで多岐にわたる。また居住環境など訪問しなければわからない項目も少なくない。片山所長は、このアセスメントを一度に2~3時間かけて行なっている。」(認知症の「ケアの流れ」をどう変える?─これからの認知症施策の主眼と訪問看護の役割. 訪問看護と介護 Vol.18 31 2013)

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2014年6月9日放送クローズアップ現代「初期認知症と診断されたら… ~どうつくる支援体制~」(http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3510/)の主な放送内容を以下にご紹介しましょう。

1 日本の現状:
 7年前に初期の認知症と診断された藤田和子さん(52歳)。
 総合病院の脳神経内科にて、「アルツハイマー型認知症の疑い」があると告げられたものの、医師からは病名を告げられただけで症状や今後の見通しなど詳しい説明はなかった(by ナレーション)。
 →放送を観ておりますと、診断の根拠としては脳血流検査が決め手の一つとなったようですが、SPECTの偽陽性率を考えますと、「現状では、軽度認知障害(MCI)と思われます。1年後に再診して診断を確認しましょう」という説明が妥当であったかな…と私は感じました。

 その1年後、藤田さんは知人の紹介で認知症専門医の診察を受け(=映像を観ておりますと、その認知症専門医とは、鳥取大学医学部保健学科生体制御学の浦上克哉教授でした)、正式にアルツハイマー型認知症と診断を受け諸アドバイスを受けた。
 しかし、治療は始まったものの、その後の生活を支援する体制がないことで藤田さんは苦悩を深めていきます(by ナレーション)。
 認知症が初期の段階で分かっても、多くの人が不安を増幅させていると言われています(by ナレーション)。
2 認知症の初期集中支援チームは、昨年度よりモデル事業が開始されており、国は2017年度までにすべての市町村で整えようとしています。しかし現場では、初期の認知症の人をなかなか見つけられないという課題に直面しています(by ナレーション)。
3 イギリス・スコットランドの初期認知症への取り組み
 認知症の人の「診断後すぐに医療の知識を持った支援者が欲しかった」という声を反映させた取り組みである「リンクワーカー」という仕組みが4年前から始まっている。
 リンクワーカーは、地元のアルツハイマー協会から派遣される臨床心理士や看護師などが担い手。
 診断を受け混乱しているヘンリー・ランキンさんを救ったのは、診断後まもなく自宅を訪れたリンクワーカーのトレイシー・ギルモアさんだった。
 ギルモアさんがランキンさんに渡したのは、認知症の人たちの活動を収めた映像「私たちの目を通して(スコットランド認知症ワーキンググループ制作)」でした。
4 リンクワーカーは、「認知症カフェ」「当事者や家族の勉強会」を紹介するとともに、「年金・税金など優遇策の紹介」などの支援を1年間無料で提供します。
5 放送の番組のコメンテーターは、東京都健康長寿医療センター研究所の粟田主一部長でした。
 粟田主一部長は、介護保険の課題として、「認知症の初期段階における『生活支援』を調節する役割(仕組み)を日本の中で何とか作り出していかないといけない」と述べるとともに、「現在、日本においてはケアマネが主にその役割を担っているが専門的な知識を持ち合わせていない場合もある。ケアマネ以外には、『認知症コーディネーター』とか『認知症地域支援推進員』という制度が作られつつある」と指摘されておりました。

P.S.
 地域における医療と介護の連携の強化をはかるために、認知症地域支援推進員研修が開始されております。(平成23年以前は認知症連携担当者)認知症地域支援推進員研修は、「市町村認知症施策総合推進事業」を実施する市町村に配置された(もしくは配置予定の)認知症地域支援推進員が、医療機関や介護サービスおよび地域の支援機関をつなぐコーディネーターとしての役割を担える知識・技術を習得することが目的になります。
 詳細は、厚生労働省のウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000133sr-att/2r98520000013459.pdf)をご覧下さい。
 2012年度の受講者は263名が修了して、2年間で530名が修了しました(谷 規久子、本間 昭:病者と家族を支える社会的支援・地域連携. からだの科学通巻278号 128-136 2013)。

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住み慣れた地域で豊かに暮らし続けるために認知症の初期支援を充実(2014年9月21日付朝日新聞・名古屋本社版17面─全面広告【名古屋市】)

 認知症になっても住み慣れた地域で豊かな生活を過ごすためには、早期発見・早期対応が大切です。名古屋市は国の「認知症施策推進5か年計画」に基づき、平成26年度より「認知症初期集中支援チーム」を設置し、モデル事業を展開。医師、社会福祉士、看護師をチーム員として、初期支援の充実を目指しています。

対象者や家族を支援し自立サポートを行う
黒川(認知症初期集中支援チーム/医師 黒川医院院長・黒川豊さん):
 認知症の問題が社会的に認識されるようになったのは、今から25年くらい前です。当時の認知症は発見されてからの余命は平均して4年。現在は約14年と、飛躍的に伸びています。近年になって、認知症の治療が早期発見・早期対応に変化していますが、初期段階から治療を始めることにより症状の進行を遅らせ、家族とよい時間を過ごすことができるようになると思います。
石川(名古屋市 健康福祉局 高齢福祉部 地域ケア推進課 地域支援係主事・石川隼さん):
 黒川先生のお話のように昨今のケアの流れは、早期発見・早期対応へとシフトしています。厚生労働省が平成24年にまとめた今後の目指すべき基本目標において、早期発見により「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることのできる社会」の実現を目指しています。この実現のため、同年に認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)を策定。その柱となるのが「認知症初期集中支援チーム」です。名古屋市でも平成26年度より、千種区東部いきいき支援センターに支援チームを配置して、モデル事業をスタートさせました。
黒川(認知症初期集中支援チーム/医師 黒川医院院長・黒川豊さん):
 今回のモデル事業の認知症初期集中支援チームは、医師、社会福祉士、看護師の3人で構成されています。認知症の人やその疑いのある人、その家族に早期から家庭訪問して関わりを持つ中で、症状の程度の確認や必要なアドバイスを行うことによって早期の診断や治療につなげ、対象者や家族を支援し、自立サポートを行うことを目的としています。
新村(認知症初期集中支援チーム/社会福祉士 名古屋市千種区東部いきいき支援センター・新村小枝子さん):
 地域には認知症の疑いのある一人暮らしの高齢者もいらっしゃいますが、地域の民生委員や住民、ご家族から困っている人がいるという相談があり、私たちの活動が始まります。それぞれの分野の専門家が、違った視点からアプローチすることで、支援の内容も広がっていくと思います。
山岡(認知症初期集中支援チーム/看護師 名古屋市千種区東部いきいき支援センター・山岡美和子さん):
 物忘れなどの認知症症状だけでなく、内側に隠れた低栄養や高血圧など、体の状態をお聞きしながら医師に相談をして、早期受診につなげることも私たちの役割のひとつだと思います。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第64回『幼老統合ケア 認知症300万人時代』(2013年2月25日公開)
 認知症施策検討プロジェクトチームが2012年6月18日にとりまとめた「今後の認知症施策の方向性について」や、同年8月24日に公表した認知症高齢者数の将来推計などに基づいて、「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」が2012年9月に発表されました。
 オレンジプランは、平成25年度から29年度(2013~2017年度)までの認知症施策の数値目標を示したものです。
オレンジプランの詳細は、厚生労働省のウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002j8dh-att/2r9852000002j8ey.pdf)にて閲覧可能です。
 このpdfファイルの4頁には、認知症高齢者数の居場所別内訳が記載されております。認知症高齢者数は、305万人(2012年)から373万人(2017年)に増加すると推計されておりますが、医療機関における認知症高齢者数は38万人で変化がありません。すなわち、増加した分は、在宅介護(149万人→186万人)、居住系サービス(28万人→44万人)、介護施設(89万人→105万人)が受け皿になると想定されているわけです。
 介護施設とは、介護老人福祉施設と介護老人保健施設等(介護療養型医療施設を含む)であり、このうち介護老人福祉施設を居場所とする認知症高齢者数は48万人から58万人に増加することが想定されております。
 なお、介護療養型医療施設については2017年度末(平成30年3月末)に廃止予定となっております。しかしながら、2011年における介護療養型医療施設の平均在院日数は311日であり、5年前の269日から42日も延びており、入院の必要がない高齢者を病院から介護施設に移す政策が進んでおらず、介護療養型医療施設の廃止には程遠い状況にあることを2012年12月3日付日本経済新聞は1面トップニュースとして伝えております。
 指定介護老人福祉施設とは、介護保険制度の施行により、老人福祉法による特別養護老人ホームが介護保険法の指定施設となったものです。すなわち、介護保険法に基づき、都道府県知事から指定を受けることにより「指定介護老人福祉施設」となり、介護保険による施設サービスの対象となります。介護施設の呼称・分類に関しては、ウィキペディア(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E8%80%85%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E)などをご参照下さい。
 さて、介護老人福祉施設における10万人規模の受け皿増加は十分と言えるでしょうか? 2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊が特別養護老人ホーム(特養)の待機者の現状を伝えておりますのでご紹介しましょう。
 「『特別養護老人ホーム(特養)に入ることができれば、介護の負担は大幅に減るのだが…』
 在宅介護が困難になった家族の声は悲痛だ。特養の待機者(申込者)は、全国で実に42万1259人で、定員の41万4668人をも上回る。受け皿を2倍に増やしても、収容し切れない勘定だ。
 なかでも、首都圏の待機者は最大規模。東京都の4万3746人を筆頭に、1都3県で計9万7324人に達している。」(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 pp174-176)
 このように、10万人規模で受け皿を増やしたとしても、現時点での特養待機者の1/4程度の解消にしかならないことは明白です。
 では何故こんなにも特養の待機者が多いのでしょうか。
 「特別養護老人ホーム(特養)に入ることができれば、介護の負担は大幅に減るのだが…」という言葉にもありますように、何と言ってもコストの安さが最大の特徴です。
 2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊によれば、特別養護老人ホームの月額利用料の目安は6万~15万円です。介護型老人保健施設(13~15万円)、サービス付き高齢者向け住宅(12~20万円)、グループホーム(13~20万円)、介護付き有料老人ホーム(15~35万円)に比べるとかなり低額です(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 p9)。
 さらに、所得による負担軽減措置があるため、多床室タイプの特別養護老人ホームに入所する市町村民税非課税の方であれば、上記料金よりもさらに減額され、月額利用料が4~6万円程度となるケースもしばしばです。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第65回『幼老統合ケア 介護のために離職する人は5年で57万人』(2013年2月26日公開)
 厚生労働省は、認知症患者が住み慣れた環境で暮らし続けられる社会の実現を今後の認知症施策の基本目標として提示しております。
 具体例を挙げれば、「認知症初期集中支援チーム」を地域包括支援センター等に配置し、認知症が疑われる人の家庭を訪問し、生活状況や認知機能等の情報収集や評価を行い適切な診断へと結びつけ、本人・家族への支援を行い、在宅療養が少しでも長く継続できるようにと思案しております。
 しかしながら、介護と仕事の両立は決して簡単なことではありません。2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊において、フリーライターの西川敦子さんは「働く人の介護」という原稿を寄せております。抜粋して以下にご紹介します。
 「晩婚化、非婚化が進み、シングルが急増。共働き家庭も増えている。その上、兄弟が少ない、となれば介護負担をもろに背負う確率は男女共に高くなる。
 総務省の『就業構造基本調査』(2007年)によると、介護離職者は2002年10月からの5年間で56万8000人。離職後、無業の状態にある人は40万4000人に上る。『介護失業』は人ごとではない。危機はあなたの足元まで迫っているかもしれないのだ。
 では、ある日突然、親が倒れたら、働く息子や娘はどう対応すべきなのだろうか。
 思い付くのは、会社を長期間休み、介護できる態勢を整えることだが、東京大学大学院情報学環の佐藤博樹教授は『介護休業を利用し、自分で親を介護するのは極力避けるべき』と意外なアドバイスをする。
 1999年に施行された『育児・介護休業法』で定められた介護休業。要介護状態にある家族1人につき通算93日間、仕事を休めることになっている。なお、その間、支給される『介護給付金』は休業前の貸金の40%だ。
 だが、介護の平均期間は55.2カ月間(生命保険文化センター調べ)にも及ぶ。『3カ月間の介護休業を超えて、自ら介護を続けようとすれば、退職しか選択肢がないことになる』(佐藤氏)
 6割減の収入でやりくりした揚げ句、失業。貯金も底を突き、やがて生活保護を受給する─、こんな最悪のシナリオはなんとしても避けたい。
 『だからこそ介護はプロの手に任せるなどし、自らは介護サービスの調整役に徹してほしい』と佐藤氏は言う。
 親が倒れたときは、真っ先に『介護と仕事を両立できる環境づくり』をするべきなのである。」(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 pp12-14)
 そもそも、定年後に必要とされる生活資金3,000万円をこの不況の折りに準備できている家庭は稀な存在ではないでしょうか。「貯金も底を突き、やがて生活保護を受給」ということは、近年の日本社会の動向を見ておりますと、いとも簡単に起きてしまうことのように感じられます。
 フィデリティ退職・投資教育研究所が2010年2月に実施した「サラリーマン1万人アンケート」を見ておりますと、老後難民予備軍の急増が懸念されます。その「サラリーマン1万人アンケート」の結果の一部をご紹介しましょう。
 「現在の公的年金制度では安心できないと考えている人は全体の9割近くいる。それにもかかわらず、老後の生活資金を全く準備していない人が44%もいるのだ。しかも、定年退職後の資産形成を特に何もしていない人が41%に達している。さらに、老後の生活資金準備額が100万円未満(ゼロも含む)の人で、資産形成を特に何もしていない人は84%に上る。」(2012年10月28日発行週刊ダイヤモンド臨時増刊・通巻4454号 pp184-185)
 なお、「定年後に必要とされる生活資金3,000万円」と記載しましたが、この数字は、「サラリーマン1万人アンケート」において、公的年金以外に必要となる退職後の生活資金の総額を聞いたところ、平均で2,989万円であったことに基づく数字です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第66回『幼老統合ケア 「感情労働」という言葉に疑問』(2013年2月27日公開)
 利用者・介護者の立場から考えると、「通い」「訪問」「泊まり」の3つの機能を兼ね備えた小規模多機能型居宅介護はたいへん有意義な施設でしょう。しかしながら、小規模ならではの職員の負担もあるようです。
 「現在の高齢者介護施設における介護方法は、食事や入浴などが管理された巨大な集団生活に基づくものから、家庭的な雰囲気を追求する小規模で親身な方法に転換しつつある。それを体現するシステムとして、グループホームやユニットケアなどが登場してきた。このような介護方法は利用者の人権やケア方法にも配慮した優れたものであると考えられるが、被介護者グループの細分化に伴い、介護スタッフ1人当たりの労働負担が増加せざるをえないという問題がある。さらに、小規模介護実現のためには、より利用者の家族に近いケア対応が要求されることになり、それに伴い、在宅介護に特有な、感情労働としての心理的負担も高まると思われる。」(田辺毅彦:介護ストレスを再考する─在宅および施設介護ストレスの問題点. 認知症ケア事例ジャーナル. Vol.4 378-388 2012)
 感情労働というのは、カナダの社会学者ホックシールドが提唱した概念で、それによると、現在の社会はさまざまなサービス業において、適切な感情の内容や表出の仕方が決められており、その感情ルールに対して有形無形の報酬が与えられます。
 しかしながら、熱心にケアする介護スタッフからしてみると、そういった感情表出を「感情労働」という言葉に置き換えられてしまうと何とも言えない切ない気持ちになってしまうのではないでしょうか。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第67回『幼老統合ケア 「居酒屋に連れてって」をサポート』(2013年2月28日公開)
 さて、宅老所「鴇嶺(ときがね)の家」およびグループホーム・小規模多機能ホーム「五根(ごこん)の家」の増田知子代表は、「通い慣れた居酒屋に行きたいという要望に対し、夜、実際に職員が利用者を居酒屋に連れて行ったこともあります。普通だったら『時間外だから家族に連れて行ってもらえば』となりますが、どうやったらできるかを考えることが大切」と述べており、自身が地域に根づく意気込みが求められ、ある意味利他的な精神が要求されると指摘しています(安西順子編著:基礎から学ぶ介護シリーズ・気づいていますか─認知症ケアの落とし穴 中央法規, 東京, 2012, pp78-87)。
 しかしながら、最近では地域と交流してこなかった世代も多くなってきています。ですから、仕事で「地域と交流しよう」と言われても、頭では理解できても肌で感じていないため、実感が湧かないようです。増田知子代表は、そういった職員はあえて泥臭い場所に連れ回すようにしているそうです。町内会や自治会、地域行事など、何かしら得るものがあると言います。
 さて、先程の居酒屋の件、酒好きの私としては気にかかる話ですので、もう少し詳しくご紹介しましょう。サブタイトルは、「出かければ、地域が変わる」です。
 「『外で一杯やりたいなぁ』とつぶやいたお年寄りがいました。私たちはさっそく、希望があった行きつけの居酒屋に出かけてみました。下見はできるだけ行いたいと思っていますが、昔からある居酒屋の場合、店内がバリアフリーではなく、トイレも和式であることが多いです。しかし、リスクを考え始めるといつまでたっても出かけられません。今までの実践のなかで、うまくいくかどうか悩むのに時間をかけるよりも、覚悟を決めて出かけてしまうほうが道が開けることが多かったという自負がありました。
 お年寄りが店内のトイレや段差をうまく使うことができなかったこともありました。認知症のある人が行くことで、お店の店員を驚かせたこともありました。しかしどの店も、昔から行きつけだった店です。一番輝いていたころを知っている店でもあり、職員が付き添っているので、何が起こっても入店を断られることはありませんでした。
 後日談として、店側がトイレに手すりをつけてくれたり、段差に踏み台を置いてくれた例もありました。『おじいさんに来てもらって、いろいろと気がついた』『お年寄りが使いやすいということは、ほかのお客さんも使いやすいということ』と言ってくれる店もありました。
 このように、私たちが地域に出かけることで、少しずつではあっても地域が変わっていくのです。」(安西順子編著:基礎から学ぶ介護シリーズ・気づいていますか─認知症ケアの落とし穴 中央法規, 東京, 2012, p83)
 一方、宅老所「井戸端げんき」の加藤正裕施設長は、「地域づくりとは、要するに“近所づきあい”。難しい言葉を使うから、何か特別なことをしなければならないと勘違いしてしまうのです。井戸端げんきに集まっていることが地域交流です。地域とは出ていくものではなく、集まるもの、いつの間にかできるものです」と語ります(安西順子編著:基礎から学ぶ介護シリーズ・気づいていますか─認知症ケアの落とし穴 中央法規, 東京, 2012, pp108-117)。そんな「井戸端げんき」には、デイサービスの登録者以外にも、来たい人が来て大勢集まり「すし詰め」状態だそうです。

 群馬大学大学院保健学研究科の山口晴保教授は著書において、「役割」の持つ重要性に関して言及しております。
 「人間は本来怠け者です。日課を決めて動かないと、ついつい怠けてしまいます。定年退職して毎日家で過ごすようになったら急にボケてきたという方を、しばしば見かけます。すぐに認知症になるわけではありませんが、仕事が人生の目的だった方は、目的を失い意欲の湧かない生活になって、何をするのも面倒と閉じこもりがちになります。こうなると、うつ状態の悪循環に陥り、認知機能も低下してしまいます。脳は使わないでいると機能を失っていくからです。楽しいことがない日が続くと、やる気も失せ、身体活動の低下に伴って記憶も悪くなります。日課を決めて毎日規則的に動くようにすれば、心の平安に役立ちます。役割を果たすことは快をもたらし、脳の活性化に有効です。」(認知症予防 ─読めば納得! 脳を守るライフスタイルの秘訣─ 協同医書出版社発行, 東京, 2010, pp189-190)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第68回『幼老統合ケア 新しいケアシステムが求められている』(2013年3月1日公開)
 2011年の介護保険の改定において、2025年をめどに「地域包括ケア」が目標理念となっています。これは、おおむね30分以内に駆けつけられる圏域において医療と介護サービスが適正に提供されることです(三浦久幸、遠藤英俊:在宅での認知症ケア. 月刊薬事 Vol.54 1732-1736 2012)。
 2010年3月に平成21年度老人保健健康増進事業による「地域包括ケア研究会報告書」(http://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/9600ee3fd4ba9b2c4925774a001e71d9/$FILE/20100622_1shiryou3_1.pdf)が発表されております。これは、2025年に実現すべき地域包括ケアの姿を示すために、2012年度からの介護保険事業計画の骨子を示したものです。
 日本社会事業大学専門職大学院の今井幸充教授(精神科医)は、「『地域包括ケア研究会報告書』の提言は、大きく2つに分けることができる。1つは、地域ケアシステム構築のための国の基本原則と自治体の実施計画ならびに在宅サービスの抜本的な充実のあり方である。国の基本原則としてもっとも強調しているのが、おおむね30分以内の生活圏域で、生活上の安全・安心・健康が24時間365日確保できる地域のサービス体系の構築であり、住み慣れた地域で継続的な生活を可能にすることである。…(中略)…そしてこの報告書のもう1つの大きな提言が、地域包括ケアを支える幅広い介護人材を育成する基盤整備である。」(今井幸充:地域包括ケアシステムに思う. 日本認知症ケア学会誌 Vol.10・巻頭言 8-9 2011)と述べています。
 厚生労働省の私的研究会として設置された高齢者介護研究会による「2015年の高齢者介護」(http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/index.html)の報告においても、主要な柱の一つとして認知症の人々に対する新しいケアモデルの確立が位置づけられています。すなわち、地域包括ケアシステムの確立です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第69回『幼老統合ケア 家族や友人、近隣住民、ボランティアのサポートが必要』(2013年3月2日公開)
 2012年8月27日付日本経済新聞の1面トップニュースは、「在宅医療に地域責任者(副タイトル:病院依存脱却へ)」という見出しの記事でした。記事内容を少しご紹介しましょう。
 「厚生労働省は住み慣れた場所で医療や介護のサービスが受けられる体制を整えるため、中核となる人材を組織化する。平成24年度中に全国で7千人以上の責任者を配置する計画だ。地域の実情に応じた24時間体制の在宅医療や介護を実施する。入院できる患者数が限られる現状を踏まえて病院に頼りすぎる体質を改め、サービスの効率化も狙う。
 現在の医療は病院完結型とも呼ばれ、1950年に80%だった自宅で死亡する人の割合は2010年で12%まで下がった。高齢者の長期入院による施設不足は深刻で、在宅で医療や介護を進めざるを得ない事情もある。
 体制が整えば在宅医療費は膨らむ見通しだが、医療費の4割程度を占める入院医療費の伸びの抑制を期待できる。厚労省は医療費を適正な水準に戻すために長期入院の見直しを重視している。」
 高齢者の長期入院を見直すには、何よりも在宅医療の充実が喫緊の課題となります。
 東京都健康長寿医療センター研究所自立促進と介護予防研究チームの粟田主一研究部長は、「後期高齢者人口の増加、単独・夫婦のみ世帯の増加、認知症高齢者の増加、都市部における急速な高齢化、要介護認定者の増加などを背景にして、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが、日常生活圏域(30分で駆けつけられる圏域)において一体的に提供できる『地域包括ケアシステム』の構築が求められている。これは、近年世界的に活発に議論されているCommunity-based Integrated Careの理念と一致する。Community-based Integrated Careは、Community-based care(地域を基盤としたケア)とIntegrated care(統合型のケア)という2つの独立した概念で構成される。」と述べています(粟田主一:認知症医療ネットワーク構築の現状と課題. 綜合臨牀 Vol.60 1761-1762 2011)。

 ケアマネジメントで活用する社会資源は、介護保険サービスや行政等によるフォーマル・サービス、そして家族や友人、近隣住民、ボランティア等によるインフォーマル・サポートに大きく区分されます。
 地域包括ケアを推進していくためには、フォーマル・サービスだけでなく、インフォーマル・サポートを積極的に活用していくことが重要な視点となります。梨木さんが『ひょっとして認知症? Part1』の第406回のコメント欄「介護保険の変容」において語っていた「縁側カフェ」のアイデアもインフォーマル・サポートに該当するものですね。
 厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室の勝又浜子氏は、医学雑誌社のインタビューの中で、「認知症カフェ」の意義についても言及しております。
 「オレンジプランには、『認知症サポーター』の育成や『認知症カフェ』など、一般市民の啓発にあたる内容も多く含まれています。そうした取り組みを通して、地域住民ぐるみで『気づき』のポイントを早めていこうということです。」(認知症の「ケアの流れ」をどう変える?─これからの認知症施策の主眼と訪問看護の役割. 訪問看護と介護 Vol.18 16-20 2013)
 認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)の詳細は、厚生労働省のウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002j8dh-att/2r9852000002j8ey.pdf)において閲覧可能です。
 朝日新聞社の連載「認知症とわたしたち」第1部「気づきのとき・4─1人で抱え込まないで」(2013.1.6)においては、目黒認知症家族会「たけのこ」の一泊旅行の様子が紹介されましたね。「たけのこ」では、月に2回の交流会を開いており、認知症の人と家族が一緒に参加し認知症の人はボランティアと過ごすため、家族は介護から離れることができると報道されました。
 そして、「たけのこ」の世話人・竹内弘道さんが自宅を開放して開催している談話サロン「ラミヨ」の様子も報道されました。「ラミヨ」においては、介護中の人だけでなく、みとった人、認知症に関心のある人も対象にしており、介護経験を語り合ったりする中で、ベテラン介護者がまだ介護に不慣れな介護者に助言する場面もあることが紹介されました。
 こうしたカフェ・サロンの原点は、藤本クリニック(滋賀県守山市)の「もの忘れカフェ」(http://fujimoto-clinic.net/cafe/index.html)ではないかと思われます。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第70回『幼老統合ケア 「認知症でもだいじょうぶ」町づくり』(2013年3月3日公開)
 認知症の人を支えるまちづくりを考えた場合、「認知症になっても、終の棲家として選択した『我がまち』に住み続けられるまちづくり」と「その人のそれまでの生活・歴史・人間関係を大切にしたまちづくり」の2点が具体的目標となります(http://www.jice.or.jp/jishu/k1/200709_zaitaku_pdf/3-2_ninchisho.pdf)。
 そして、「認知症でもだいじょうぶ」町づくりに向けての具体的な取り組み内容を紹介しているウェブサイト(http://www.dcnet.gr.jp/campaign/)もありますのでご参照下さい。
 2012年1月30日に開催された座談会に於いて、梶原診療所在宅サポートセンターの平原佐斗司医師は、認知症の人を支えるまちづくりという点から考えると、今後は都市部でのコミュニティー作りが大きな課題になるのではないかと指摘しました。以下にその部分をご紹介します。
 「支えるということで私が一つ気になっているのは、これまで過去15年間、高齢化は日本全国一律に起こってきたのですが、今後は都市近郊が中心で、認知症も圧倒的に都市部に増えるという問題があります。埼玉ではこの30年間で3.1倍、千葉・神奈川では2.9倍、東京でも2.4倍です。ですから、認知症の方は首都圏ですごく増えていくのです。都市部では地方と比べるとコミュニティーの力がないですから、地域の力をもう一度つくり直すというプロセスが必要です。そのことが危機的な問題として出てくるのではないかと非常に心配しています。」
 この意見に対して、座談会の司会を務めた北里大学医学部(北里大学東病院)神経内科学の荻野美恵子講師は、「宮崎に『かあさんの家』というのがあって、空いている民家を使って、そこに認知症や高齢者の皆さんに入っていただく。皆さんといっても、そんなに多いわけではなくて5~6人です。その方たちを子育てが終わった世代の女性が世話をしていく。今までの生活に近いような環境で集団生活ができるということで、精神的にもとても落ちついて過ごせるのだそうです。そういう施設が増えるといいのかなと思いますね。とくに都市部は人口が多いですから、雇用創出という面も含めて、できないことではないと思いますが。」と述べております(荻野美恵子 他:座談会・非専門医がどのように認知症に向き合ったらよいか? 内科 Vol.109 847-860 2012)。

 2011年8月20日の朝日新聞・生活では、高齢者、障害者、子育て世代が共に支え合い暮らす現代版「長屋」(広島県東広島市)がコミュニティー再生の一つの手段になるのではないかと紹介されていましたね。
 この現代版「長屋」とも比喩された「C-CORE東広島」(http://communitysystem.web.fc2.com/works/work1-building.html)は2011年3月にオープンした5階建ての賃貸マンションです。このマンションの1階には、子どもの居場所づくりをするボランティアの事務所や、地域住民の要望を受け開設された、障害者の就労支援を目的に気軽に集えるカフェもあるそうです。
 『ひょっとして認知症? Part1』の第181回『認知症を生きるということ(その5)』においても、「幼老統合ケア」を実施している「ベルタウン」をご紹介し、「地域包括ケア研究会報告書」において提言された「おおむね30分以内の生活圏域で、生活上の安全・安心・健康が24時間365日確保できる地域のサービス体系の構築」に先進的に取り組んだ斬新なシステムと言えるのではないかと私は述べました。大阪府堺市の複合型福祉施設「ベルタウン」は、一階が通所リハビリテーションと通所介護サービスなど、二階が保育園ベルキンダー、三~四階が介護老人保健施設ベルアルト、五~七階が特別養護老人ホームベルライブで、建物自体を一つのタウン(街)と捉えていましたね。
 一つのタウンとして捉えつつも、各階ごとに一定のしきりがあれば、多世代共生において大きな支障も生じないのかも知れませんね。しかしながら垣根が低ければ、有料老人ホーム「アクラスタウン」での様子を綴っている今村美都さんが報告されておりますように、「私たち親子が実際に住んでみての率直な感想は、ハード面でもソフト面でも老人ホームに一般の人間が住むのはまだまだハードルが高い」という状況がどうしても生じてしまうのでしょうね。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第71回『幼老統合ケア 認知症の元教育ママが大活躍』(2013年3月4日公開)
 三重県桑名市において取り組まれている託老所と隣接する保育園が共有のスペースを作り、高齢者と子どもが触れ合う活動の様子は、「認知症フォーラム.com」の動画サイトにおいて閲覧できます。
 三重県桑名市にあるウエルネス医療クリニック(http://wellness-medicalclinic.jp/)の多湖光宗院長は、認知症高齢者の役割づくりの具体例として、認知症高齢者の行動障害を逆に活用する試みを紹介しています(苛原 実・編著:認知症の方の在宅医療 南山堂発行, 東京, 2010, pp165-171)。
 「『しつけ』の語源は『しつづける』である。認知症高齢者の行動障害の『繰り返し』が役立つ。普通の大人なら1回か2回でイヤになったりあきらめたりすることを何回もしつこくする。『何回も教える。何回もしかる。何回もほめる』、それも本気でする。この能力を生かすべきだ。以前学童保育『パンの木』の子どもたちを『宿題は無理。学習障害児の集まり』と元教員の指導員らは見放していた。また、『宿題しないのも個性のうち』と親や子どもたちには体裁を繕っていた。認知症の元教育ママたちは、宿題するのは子どもの義務で当たり前と思っており、①騒いでいる子を『本気でしかり』机に座らせる、②机に座って落ち着くまで見守る、③できているかチェックして、できていればほめる、このことを繰り返し行い、子どもたちの宿題習慣をつけるのに大きな貢献をした。なお、子どもはこの繰り返しを通常平気で楽しめる。また十分な時間もお互いにある。」
 ウエルネス医療クリニックの試みは、幼老統合ケアの実践例として「高齢者住宅新聞」(http://www.koureisha-jutaku.com/news2011/news_110805002.html)でも紹介されています。
 多湖光宗院長らは2001年より学童保育を併設するグループホームを設立しており、「認知障害の『トンチンカンさ』が癒しとなり、引きこもりのケア、非行少年の更生などに役立つこともわかってきた。『ひかりの里』でも荒れた子どもが素直になっていくことが体験された。」と報告しています(多湖光宗:能力活用セラピー. 日本臨牀 Vol.69 Suppl10 126-130 2011)。
 また多湖光宗院長は、更正だけではなく「青少年の育成」にも有用であると指摘しています。
 「見て見ぬふりをし、あとで陰口を言う大人の中では子どもたちはうまく育たない。喜怒哀楽が素直で、本気で怒り、心から喜んだり悲しんだりする認知症高齢者たちこそ、子どもたちが表情を読みとる訓練に必要な存在だ。全員から悲しまれるとこれはいけないことと思うし、1人のおばあちゃんからしかられて、ほかは『まあいい』という場合には、あのおばあちゃんに気を付けようと判断するようになり、社会性が身につく。」(多湖光宗:認知症の人の底力を地域に活かす. Dementia Japan Vol.26 28-35 2012)

 パーソンセンタードケアを唱えたトム・キットウッドは、「認知症という病気は、神経障害、全身の健康、生活史、性格や個性、その人を取り巻く家族や地域社会という5つの因子によって形作られる」(水野 裕:DCMをめぐって. 老年精神医学雑誌 Vol.15 1384-1391 2004)と指摘しています。住み慣れた地域・住み慣れた家で少しでも長く過ごせるように、認知症の人を地域から支えていくシステムの構築が喫緊の課題となっております。
 グループホーム「ふぁみりえ」ホーム長の大谷るみ子さんは、子ども目線から見た徘徊について紹介するなかで、認知症の人を地域で支えていくことの大切さについて語っています(大谷るみ子:人生の舞台は今、グループホームから地域へ─豊かな人生を支援する. 現代のエスプリ通巻507号 ぎょうせい発行, 東京, 2009, pp132-145)。そのご意見を紹介し本稿を閉じたいと思います(一部改変)。
 「入居者のひとり、岩花さんは、もと小学校の校長先生。その仕事ぶりが表彰を受けられ、世界一周旅行をした方である。未だに世界一周旅行の話は輝きを放っている。定年退職後は民生委員の会長のお役目を務められ、自分でも放浪癖があったと言われるくらい校長の割には遊び心豊かな方だったようだ。奥さんを亡くされた後、徐々に認知症が目立ち始め、幾度となく放浪癖まがいの徘徊を繰り返され、次第に行方不明のために捜索願を出されることが増え、在宅生活の限界となり、平成十五年九月から入居されている。岩花さんのところには、毎日のように孫のさあやちゃんが通ってきた。ランドセル背負ってまずふぁみりえに『ただいま~』と帰って来る。…(中略)…この岩花さんの物語は、平成十五年度に大牟田市認知症ケア研究会が作成した絵本『いつだって心は生きている~大切なものを見つけよう~』の第三話のモデルとなっている。孫のさあやちゃんが、徘徊で行方不明になったおじいちゃんが、三日目にひょっこり家に帰ってきて『楽しかったあ』と言うのを聞いて、おじいちゃんの徘徊を冒険ととらえるという子どもの目線で描かれている。この絵本を通して、子どもたちに認知症の人の豊かな感情や力、子や孫を思う愛情、認知症でも大切な人ということを伝え、その子どもたちがまた大人や地域を変えてくれることを願っている。」


D7 認知症当事者からの発信   当事者 認知症 Run伴 認知症ネットワークフォーラム in 三重  [認知症]

RUN Tomo-rrow MIE ─ 「D7~認知症当事者からの発信~」
 https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1722290838045231&id=1638195443121438

認知症ネットワークフォーラム in 三重    「D7~認知症当事者からの発信~」
D7パンフレット.JPG
日 時:2016年7月9日(土)
 開場13:00 開演13:30 終了15:45
場 所:アスト津4階アストホール(多目的ホール)
 〒514-0009 三重県津市羽所町700 
 TEL:059-222-2525(津駅下車徒歩2分)
定員
 定員270名【先着順】
内容
 D7~認知症当事者からの発信~
 ①RUN伴のご紹介
 ②認知症当事者7名のパネリストによる討議
 *座長:樋口直美さん(座長アシスタント:笠間 睦)
 *登壇者:佐藤雅彦さん(埼玉)、佐野光孝さん(静岡県富士宮市)、山田真由美さん(愛知)、中川誠治さん(三重)、曽根勝一道さん(大阪)、橋本佐千子さん(奈良)、井之坂友廣さん(大阪)

主催:認知症フレンドシップクラブ、RUN伴2016関西実行委員会
後援:三重県、津市


※たくさんの思い出をありがとう。感謝!!
①D7前夜祭
 坊主バーでウッチーこと竹内さんと再会
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②D7の朝
 ウッチー、榊原白鳳病院3階病棟を視察 → その後、榊原温泉へ
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 マル秘!=日本三大名湯“榊原温泉”にもつかりました。
 榊原温泉.JPG

③D7開演直前
 総合司会を務められた樋口直美さんと記念撮影しました
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D7の講演会の様子(動画
https://note.mu/hiiguchinaomi/n/nf9d1494604ae
 撮影者:笠間 睦
②こちらは、主催者撮影の動画です(音質は、こちらの方がいいです。RUN伴のPV付)。
 https://www.youtube.com/watch?v=m36RncncPy4

④閉幕
集合写真.JPG
⑤D7・2次会
 バカ騒ぎしました! とてつもない盛り上がり!!
 D7二次会.JPG
⑥2016年7月11日付中日新聞で報道されました。
 D7中日新聞記事.JPG

P.S.
 2016年7月9日に津市でのD7を企画運営して下さった佐藤博美さんの息子さんの個展です。
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1133164990111227&set=a.341954965898904.80363.100002532109112&type=3&theater

睡眠障害─まとめ [睡眠障害]

「腰椎椎間板ヘルニアはすべて悪である」と思うな!
 私は、うつ病後に残存しておりました「入眠障害」が腰椎椎間板ヘルニアで治りました。まあ偶然の産物ではあるのですが・・。
 痛みが強烈で夜中に寝返りしたときなどに目が覚めてしまうため、入眠障害(←うつ病による)+中途覚醒(←腰椎椎間板ヘルニアによる)という状態に陥り、あまりの眠気に昼間、国道を走っていて信号待ちの時に熟睡してしまい・・。本当にご迷惑をおかけいたしました。
 ただ、その強烈な眠気は私を「睡眠障害」から解放してくれました。
 まさに災い転じて福となる!でした。

詳細は↓
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-04-05-6


その睡眠薬必要ですか?
 【2016年4月10日付日本経済新聞・日曜に考える】

私の感想:
 私がうつ病を患い睡眠障害に陥った際に服薬していたのは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のマイスリーです。正確には、マイスリーの後発品を服薬しておりました。
 抗うつ薬は私の場合効果があまり感じられませんでしたが、睡眠薬は効果を実感できましたので依存症になってしまいました。飲まないと眠れない!
 うつ病が治っても、入眠障害は続いており「一生の付き合いかな・・」と諦めかけていたとき救ってくれたのが腰部椎間板ヘルニアの痛みによる中途覚醒でしたね。

詳細は↓
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-04-11-3


https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/585984924904524
私がうつ病を患った理由

詳細は↓
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-05-18-1


……2013年1月11日 ぶり返し

 1月9日から以前の不調をぶり返している。昨日は、殺される悪夢を見て、助けてと叫んだ。夜は寝付けず、夜中に3回ほど目覚め、早朝覚醒。
 9日から急に体重が減っている。9月の体調不良と体重減少も同時に起こっている。
 【樋口直美:私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活. ブックマン社, 東京, 2015, p63】

私の感想:
 眠れないのは本当に辛いです。
 私も、うつ病は治ったのに「不眠症」からは解放されず、マイスリー依存症になっておりました。
 その依存症から私を救ってくれたのは、何度もFacebookで書きましたように、腰部椎間板ヘルニアの発症でした。これもあり得ない展開でしたね。
 あまりの痛みに、マイスリーが効かなくなり、極度の睡眠不足になり、限界を超えたときにそれは起きました。国道の信号待ちで瞬時に眠ってしまうというあり得ない状況! これは皆さんから批判されましたね! まあ当然ですよね。
 しかし、この“どこでも眠れる病”が私の睡眠リズムさえもリセットしてしまい、私は睡眠障害から解放されました。

 まさに どこの教科書にも書かれていない睡眠障害治療法です
 しかし、この治療を行うためには腰部ヘルニアを起こし、しかも手術せずに痛みに耐える必要がありますので、試そうと思って試せる治療法じゃないんですよね・・。ラッキーというか表現がむつかしい・・。

詳細は↓
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/591608627675487?comment_id=591614917674858¬if_t=feed_comment¬if_id=1464729529990057


睡眠障害からの脱却に関して

刺激制御療法
1 眠くなったときのみ寝床へ行く
2 寝床で本を読んだり、テレビを観たりしない
3 眠れなければ寝床から出る
4 毎朝同じ時間に起きる(休日も)
5 昼寝はしない(ただし、健康な人は昼寝して構わない)

詳細は↓
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-06-01


パーキンソン病における不眠の原因と治療法

 不眠を含む睡眠障害は、パーキンソン病の非運動障害として、患者のQOLにも大きく影響します。パーキンソン病では入眠までの時間が延長し,総睡眠時間が短縮して睡眠効率が低下し,睡眠が分断化することから,不眠の訴えは高頻度にみられます。その原因としては,睡眠・覚醒機構に関連するニューロンの変性や,パーキンソン病症状に関連する睡眠の障害,抑うつや幻覚・妄想に伴う不眠,パーキンソン病に合併した睡眠障害による不眠があり,それぞれ対処法が異なります。
 全般的な不眠治療としては,まず睡眠環境・睡眠衛生改善を中心とした非薬物治療を行います。良好な夜間の睡眠には,日中の一定以上の覚醒と活動が必要であり(恒常性維持機構),日中は寝床で過ごさず十分な活動をするよう心がけ,特に長時間の昼寝を避けることが重要です。昼寝で深い睡眠をとらないようにして,長くても30分以内にとどめ,特に夕方以降には寝ないように注意します。また,睡眠覚醒のリズムを一定に保つことも重要であり(体内時計機構),就床・起床時刻はできるだけ毎日そろえ,朝~午前中には十分な光を浴びるようにします。日光の入る窓辺で過ごしたり,朝に散歩をするのも有効です。また,年齢とともに睡眠時間は減少する傾向があり,長時間寝床で過ごしすぎると,入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒を増強し,熟眠感が得られない原因となります。薬物治療としては不眠症治療薬を用いますが,ふらつき・転倒リスクや持ち越し効果を考慮する必要があり,持続時間の短い非ベンゾジアゼピン系薬剤や,筋弛緩作用のないメラトニン受容体アゴニストやオレキシン受容体拮抗薬から処方を開始し,同系統の多剤併用は避けるようにします。(以下省略)
 (回答者:岡 靖哲 愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センター長)
 【2016.7.16日号日本医事新報No.4812・質疑応答 プロからプロへ p58】


名大など「オレキシン」役割解明
 脳中枢で痛み止め
 【2016年7月29日付中日新聞・総合】

私の感想:
 DLBの「認知機能(注意・集中)の変動」の要因に、ドーパミンじゃなくってオレキシンが関与してるってことはまさかないよね・・。

詳細は↓
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/616630618506621