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朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第229回『注目される自動車運転の問題─事故率高い認知症患者の自動車運転』(2013年8月16日公開)
 認知症の運転者は、健常者に比べて2.5~4.7倍の高い事故率を有することが報告されています(http://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/sinkei_degl_2010_04.pdf)。詳細は、pdfファイルの77頁をご参照下さい。
 これまでにも認知症患者における自動車運転の問題は、『ひょっとして認知症? Part1』の第23回『高齢の親の運転免許証、どうする?』、第182回『認知症を生きるということ(その6)』、第371回『過疎地における認知症高齢者と車(その1)車を擦ったら要注意!』など(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hyottoshite23-182-371-374.pdf)において取り上げてきた問題ですね。
 わが国の運転免許保有者数に占める高齢者の割合は一貫して上昇しています。中でも70歳以上の免許保有者が占める割合は、1982年までは1%にも満たなかったのですが、現在は約9%にまで増加しております。認知症の最大の危険因子が「加齢」であることを考えると、今後益々「認知症と自動車運転」の問題は重要なテーマとなってきます。
 『Geriatric Medicine(老年医学)』が2012年2月号(Vol.50 No.2)において、「高齢者の運転をめぐって」という特集を組みました。また、『Dementia Japan(日本認知症学会誌)』が2013年(Vol.27 No.2)において「認知症と自動車運転」という特集を組みました。今回はその中から私が注目した論文をいくつかご紹介しつつ認知症と自動車運転の問題について検討してみたいと思います。

 さて、認知症の人は、なぜ運転に支障が出てくるのでしょうか。
 筑波大学大学院人間総合科学研究科・生涯発達科学の飯島節教授は、「認知症患者においては、視空間認知、判断力、記憶障害、運動機能、情緒の不安定性などが自動車の運転が困難になる要因として挙げられる」(飯島 節:認知症患者に自動車運転リハビリテーションは有効でしょうか? Geriatric Medicine Vol.50 183-185 2012)と指摘しています。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第230回『注目される自動車運転の問題─認知症では見え方も変わってくる』(2013年8月17日公開)
 視空間認知障害があるといったいどのような状況になるのでしょうか。その様子を具体的に綴り、しかも対策にまで言及した素晴らしい本があります。その本のタイトルは、『アルツハイマーのための新しいケア─語られなかった言葉を探して』(阿保順子監訳 誠信書房 2007)です。この本は翻訳書であり、原題は、『LEARNING TO SPEAK ALZHEIMER'S』というタイトルです。著者はジョアン・コーニグ・コステさんというアメリカ人の女性です。
 長野県看護大学の阿保順子学長は、この著書の中には目から鱗が落ちるほどに納得した環境改善に関する記載があったと述べています(編著/阿保順子、編著/池田光穂、西川 勝、西村ユミ:認知症ケアの創造─その人らしさの看護へ 雲母書房, 東京, 2010, pp175-196)。以下にその部分を一部改変してご紹介しましょう。
 「著書の冒頭では、著者であるジョアンが夫のおかしな行動に気づき、若年性アルツハイマーという診断名が付され、それを夫婦で受け入れていくまでの悪戦苦闘が述べられる。夫の状態や行動に対する具体策と、それを導き出すまでのジョアン自身の心や感情の構えが、日常的な情景を通して語られている。
 ジョアンはそのプロセスを経て、リ・ハビリテーションではなく、『ハビリテーション』という考え方に行き着く。ハビリテートという言葉は元来『服を着せる』という意味であるが、ジョアンはもっと古い語源である『できるようにする』という意味でこの言葉を使っている。認知症でハビリテーションしている人たちは、精神的、感情的、知能的にも最大限の力を駆使して生活しているということなのである。
 そのハビリテーションの五つの鍵とは、『環境改善』、『コミュニケーションは可能だということを肝に銘じる』、『残された能力に目を向ける』、『患者の世界に生きる』、『患者の人生を豊かにする』というものである。
 一つ目の環境改善以外のことについては、解釈の多少の違いはあっても私自身が見てきたことと一致することが多いのだが、環境改善に関しては、在宅でのケアに焦点を当てた本というせいもあって、目から鱗が落ちるほどに納得のいくものであった。
 ジョアンは、次のようなことを想像してみてくださいと言う。『階段を見下ろしても、一枚の壁のようにしか見えない』、『鏡を前にして、その中に誰か他人が立っている』、『椅子がないのに、人に座りなさいと言われる』。
 患者の世界に生きるというと抽象的に捉えられがちであるが、患者さんに生物学的な変化が起こっているのは事実である。その変化によって、周囲の世界がどのように見えてくるのかを冷静に理解できなくては、患者の世界に生きることを実践することは不可能である。
 ジョアンは、今記述したような変化に対して次のような事例を挙げて、その工夫を紹介している。暖かな日差しに包まれて上機嫌であったスティーブが、階段を下りようとして転落してしまったという事例である。スティーブはアルツハイマーの初期段階であることから、奥行きとコントラストの感覚が鈍くなっており、階段の空間がうまく認識できなくなっていたのが原因であった。認知症の初期から中期にかけて、視覚認知に変化が起こってくる。スティーブのように、物の奥行きがうまくつかめなくなるのである。私たちが片目を覆って、もう片方の目だけで風景を見るときと同じである。遠近感がでてこない。それと同じようなことが実際に起こってくる。
 彼の息子は、階段の片側の壁伝いにクリスマス用の小さな白い電球を一段ずつ取り付け、階段の上には大きな電灯も取り付ける。さらに、彼は、階段を黄色に塗り、階段の白い壁と対照的になるようにもした。彼は父親のスティーブが慣れ親しんだ二階の寝室を一階に移すとか、あるいは子どものために作られてある安全柵を階段に取り付けるようなまねをせずに、父親を危険から守ったというのである。
 こういった工夫がいくつも具体的に挙げられている。浴室は、壁・湯船・床の区別がつくように明るい色で、かつ対比できるような色に塗り替えることトイレはふたと便座自体の区別がつくようにすること、洋服の着替えは着る順番に並べておくこと、食卓では必要のない調味料は片づけておくことといった、生活行動の一つ一つにまでその留意点が挙げられている。」

Facebookコメント
梨木さんへ
 今朝出勤しまして、梨木さんからの郵便物を受け取りました。
 興味深い本(『シルバー川柳2 「アーンして」 むかしラブラブ いま介護』【ポプラ社発行】)をお贈り頂きましてありがとうございます。
 『ひょっとして認知症─Part1』からの繋がりが今も梨木さんとまるタンさんとは続いており、とっても幸福な気持ちになれます。
 梨木さん、確かに身に沁みる川柳が多いですね。
 この中から、「私が選んだ優秀作品」をピックアップしてみますね。
 定年で 田舎戻れば まだ若手(安松文次さん) p17
 妬ましや 妻の犬への 言葉がけ(西岡 博さん) p20
 アイドルの 還暦を見て 老を知る(二瓶博美さん) p32
 老人会 ハイカイ王子が また一人(原峻一郎さん) p34
 ひたすらに 歩く日課に 犬もバテ(清水雅之さん) p55
 ばあちゃんの 勝負肌着の 診察日(鈴木りえこさん) p90
 オーイお茶 ハーイと缶が 転がされ(山本隆荘さん) p109

 「ひたすらに 歩く日課に 犬もバテ」を読んで思い出したのは、かつて私が診察していた患者さんで、「散歩したことを忘れてまた犬を連れて散歩にいくため犬がへとへとです」と介護者の方がこぼしていたことです。
 「徘徊」の問題については、近日、『ひょっとして認知症?─Part2』でも取り上げたいと思います。

 そして以上の中から「私が選んだ最優秀作品」は、以下です。
 妬ましや 妻の犬への 言葉がけ
 何だかとっても身につまされましたので最優秀作とさせて頂きました。

 せっかくの機会ですので私も一句。
 消費税 医療機関は 負担増
 PEG嫌い 増え続けてる 経鼻管
 アイドルが 娘たちより 若くなり

 まあ、解説するまでもないのですが、医療機関は消費税で大きな損をしており、まさに青色吐息ですね。医療機関が購入する薬品・診療材料は非課税にして欲しいですよね。
 胃瘻造設(PEG)を忌み嫌い拒否した結果、経鼻カテーテルを選択してしまうという笑えない事態が生じてきております。
 AKB、モモクロといったアイドル世代が、自分の娘たちよりも年下になってきたことに、自分の「老い」を感じる今日この頃です。年老いた愛犬を介護しながら、行く夏をほんわか過ごしております。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第231回『注目される自動車運転の問題─視野が次第に狭くなる』(2013年8月18日公開)
 『アルツハイマーのための新しいケア─語られなかった言葉を探して』(阿保順子監訳 誠信書房 2007)を読みますと、著者のジョアン・コーニグ・コステさんと夫(40歳代で発症し、1976年死去)の「認知症の世界への旅立ちは、サポートグループもなければマニュアルや指標一つなかった1971年に始まった」(同書p4)と書かれています。全米アルツハイマー病協会が設立(1980年)される約10年も前のことです。
 指南書の類が全くなかった時代に、細やかな観察力から「ハビリテーションの五つの鍵」を独自に考案し実践した行動力は本当に驚きです。
 「五つの鍵」の4番目である「患者の世界に生きる」とはどういうことでしょうか。「言い返したり叱咤せず、患者の視点で物事をみる。患者の今いる『場所』と『時』を共有し、そのなかでお互いに喜びを見いだす」(同書p9)ことです。多くの介護本が広く出回っている今日でさえ、介護者が「叱らない介護」に到達するまでには長い年月を要する現状を思えば、ジョアンさんの感性の鋭さは容易に窺い知ることができますね。

 シリーズ第138回『認知症のケア どうしたらもっとうまく意思疎通できるのか』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013050200010.html)においてご紹介しましたように、人間の視野は上下150度、左右200度の範囲に及びますが、私たちは物を注視するとき、網膜の黄斑部のなかにある直径1.85mmの中心窩でほとんどの情報を得ています。この視神経が集中している中心窩を用いて、多くの情報が得られるのは、視野の中心から5度の視野の範囲だといわれています。視野の中心から10度になると情報量は5分の1に、20度に広がると情報量は10分の1にまで低下します。進行した認知症の方では、なおさら視野の真ん中に必要な情報がないと感知することができない(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, p28)のでしたね。
 運転能力に特に大きく関与するのが「有効視野」とされています。「自動車運転の場合に限らず、視覚認知は周辺視によって次の注視すべき対象を検出した後、それを中心視で詳しく確認し、また次の対象物を検出するという作業の繰り返しである。この周辺視のうち、認知に寄与する部分が有効視野に該当する。有効視野という概念はMackworthにより、『ある視覚課題の遂行中に、注視点の周りで情報が瞬間的に蓄えられ、読み出される部分』と定義されている。視力、視野、コントラスト感度、有効視野、認知機能などと事故との関連を検討した結果、交通事故を予測する上で最も予測力が高いものは有効視野であった。」(一部改変)と報告されています(藤田佳男:有効視野を用いた運転能力評価法について教えてください. Geriatric Medicine Vol.50 179-181 2012)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第232回『注目される自動車運転の問題─競馬馬の目隠しをつけてトンネルをのぞく感じ』(2013年8月19日公開)
 「有効視野」と聞きますと、私は、眼球運動異常とアルツハイマー病との関係を研究した報告(http://lib.nagaokaut.ac.jp/kiyou/data/study/k24/K24_8.pdf)を思い出します。
 特定のターゲットの探索に関与しているのは、前頭眼野という部位です(ダーリア・W・ザイデル:芸術的才能と脳の不思議─神経心理学からの考察 河内十郎監訳,河内薫訳 医学書院, 2010, p189)。
 若年性認知症を患ったクリスティーンさんは、視野の制限について以下のように語っています。
 「競馬馬の目隠しをつけてトンネルをのぞいているような感じだ。周辺視野は狭くなり、まわりではっきりとした動きがあると、私はすぐにビクッと驚いてしまい、それまでの行動をじゃまされてしまう。まるでウインカーが点滅し続けているみたいだ。」(クリスティーン・ブライデン:私は私になっていく─痴呆とダンスを 馬籠久美子・桧垣陽子訳, クリエイツかもがわ, 2004, p132)
 また、クリスティーンさんは、車を運転することの難しさについても言及しております(一部改変)。
 「あなたに認知症があって、まだ車の運転をしているならば、いつまでそんなふうに人に頼らずにやっていけるのかと考えるだろう。ちょっと車が接触しただけでも、みんなから認知症のせいにされないだろうかと心配になる。車の運転をあきらめることは、認知症の人とその家族にとって、深い心の傷になる。現在、私は緊急時だけ運転することにしているが、我が家のある静かな田舎でも、家から二つ三つ通りを行くだけで私はとても不安になる。不測の事態に対して絶対に素早く反応できないと思うし、目先の道路に焦点を定めて集中するのはとても難しい。さらには、すべてのペダル、レバー、文字盤、ライトを覚えて、それらがどう動くのか、何のためのものか、そして自分が次にすべきことは何なのか、覚えておかなくてはならないのは大変なことなのだ。」(クリスティーン・ブライデン:私は私になっていく─痴呆とダンスを 馬籠久美子・桧垣陽子訳, クリエイツかもがわ, 2004, pp133-134)
 では、有効視野が低下してくるとどのような交通事故を起こしやすくなってくるのでしょうか。
 「通常、我々は運転中、視線を向けて網膜の中心で事物を捉える中心視とその周辺の情報にも注意を配る周辺視との両者を同時並行している。有効視野(Useful Field of View;UFOV)検査では、中心視と同時に意識でき、すばやい課題反応に活かされる周辺視野の範囲(有効視野)を評価する。Clayらによるメタ分析では、UFOV検査と否定的な運転行動の生起との関連が十分な効果量をもって(Cohen's d=0.95)示されている。高齢者では若齢者に比べて、放射方向へ周辺距離が増すにつれてUFOV課題の成績が低下する有効視野の狭隘が生じる。こうした有効視野の狭隘を本質とした視空的注意の障害は、交差点で出会い頭に衝突する事故が多いとされる高齢運転者一般の危険運転をよく説明するものであり、エビデンスも蓄積されている。」(河野直子:認知機能低下と運転適性:一般及び軽度認知障害の高齢運転者を対象とした研究動向. Dementia Japan Vol.27 191-198 2013)

メモ:Cohen's d
 2グループの平均値の差を比較するt検定という手法があります。この手法では、効果量(Effect Size)として、dという指標を使います。dが0.2より大きいとき効果量は小さい(small)と言い、dが0.5より大きいとき効果量は中くらい(medium)と言い、dが0.8より大きいとき効果量は大きい(large)と言います(http://www.mizumot.com/method/mizumoto-takeuchi.pdf)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第233回『注目される自動車運転の問題─「注意障害」が運転に与える影響』(2013年8月20日公開)
 なお、「注意障害」が運転能力に及ぼす影響も大きいと思われます。
 筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学の朝田隆教授は、著書の中で認知症の人の運転特性について次のように述べています(朝田 隆編集:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, p173)。
 「当初は注意不足や道を忘れたことに起因するトラブルである。あまり知られてないが、運転中にセンターラインに寄っていくという運転パターンは認知症の人では結構あるようである。注意すればしばらくの間は訂正できる。また1車線の道路では本人にとっての仮想センターラインがあるらしい。そこで次第に道路の左に寄っていくため側溝に落ちそうになるという話も家族介護者からよく聞く。」
 センターラインに寄っていく場合も、道路外側に寄っていく場合もあるようですね。私がよく見かけるのは、片側2車線の道路で左車線を走っている車が、右車線にはみ出してくるケースです。そのような時に運転者の方を確認しますと、ほとんどの場合、かなりご高齢の方です。おそらく何らかの認知機能障害と関連しているのではないかと思っております。
 余談ですが、私の運転特性は、片側2車線の道路で右車線を走っていて、左車線に寄り気味になることが多いですね。私の利き目(http://www.cladsetim.com/kikime/)は右眼ですので、それと何か関連があるのかも知れません。また私は、左側の障害物に車をこすってしまうことが多いです。ひょっとすると、無意識のうちに「利き目偏重運転」(http://www.think-sp.com/2012/11/08/tw-kikime/)になっているのかも知れませんね。

 ちょうど良い機会ですので、注意障害についてもう少し詳しくお話しておきましょう。
 注意障害っていったい何でしょうか。主な注意機能には、「持続性注意」「選択的注意」「注意の配分」の3つがあり(藤田郁代、関啓子/編集 大槻美佳/著 標準言語聴覚障害学・高次脳機能障害学 医学書院, 東京, 2009, p134)、いずれも前頭葉が関与する機能とされています。
1 持続性注意
 継時的に注意を持続させる能力。
 関与する部位としては、右前頭葉という報告が多いです。
2 選択的注意
 複数の刺激の中から、目標とする刺激を選択して注意を向ける機能。
 この機能も右前頭葉が関与するとされています。
3 注意の配分
 複数の作業を同時に行う場合に、うまく進めるのに最適な注意の配分を采配する能力。
 言語性の課題では左前頭葉が、非言語性の課題では右前頭葉が関与するとされています。

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 「Sustained attention(持続性注意)とは、注意を一定時間維持することである。この障害によって同じ作業量の処理時間が長くなり、単位時間でこなせる業務量が減る。
 Selective attention(選択性注意)は本来の標的と無関係の外的ノイズ(周囲の会話、聞こえてくるテレビ・ラジオの音声など)や内的ノイズ(自分の心に浮かぶ心配事や関心事など)に気をとられず、本来の標的に注意を向けることを指す。この機能に障害があると不要な刺激にすぐ注意が逸れてしまう。
 Alternating attention(転換性注意)は2つの作業を交互に行うことで、一方の作業中は他方を中断する(例:文書作成中に電話がかかってきたら、ワープロ業務をいったん中断して電話対応のみ行う)。処理プロセスの切り替えが必要となる。
 Divided attention(分配性注意、分割的注意など、ここでは前者)は複数課題を同時進行で行う(先の例では書類作成を続けながら電話対応する)機能である。」(豊倉 穣:注意とその障害. 精神科 Vol.23 152-162 2013)
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注意障害を疑う症状・所見(豊倉 穣:注意とその障害. 精神科 Vol.23 152-162 2013)
・物事に注意を集中できない、落ち着きがない
・物事を継続するのに促しが必要
・経過とともに作業の効率が低下する、ミスが目立つようになる
・同じことを何度も聞き返す
・作業が長く続けられない
・騒々しく気が散る場面では作業がはかどらない
・グループでの討論についてゆけない
・反応や応答が遅く、行動や動作がゆっくり
・「すぐ疲れる、眠い、だるい」などの訴え
・活気がなくボーとしている
・すぐ注意が他のものに逸れてしまう
・2つの事柄を同時に処理、実行できない
・不注意によるミスがある
・物事の重要な部分を見落とす

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作業記憶と並列処理能力は老化の影響を受けやすい
 「並列処理能力とは、1度に2つのことを同時に行う能力のことです。これは、注意をうまく配分することや分割することと同じことを指していると思われます。例えば、電話で話しながらメールを読んだり、会議中に買い物のリストをつくったりすることです。どの年齢であっても、1度に2つのことを行うことは、1度に1つのことを行うよりも難しく感じると思います。並列処理をすることは危険が伴う場合もあるでしょう。例えば、運転中に携帯電話を使うことを想像してみてください。ハンズフリーであろうとなかろうと、携帯電話で話しながら運転した場合、そうでない場合に比べ、事故の確率は4倍になります。これは、飲酒運転と同じくらいリスクがあることを示しています。
 並列処理能力は、年齢を重ねるにつれて顕著に衰えていきます。60歳以上になると、2つの課題を同時にこなすのに、若い人の2倍の時間がかかるようになります。さらに、2人に1人は、2つの課題を同時にはうまくこなすことができなくなります。」(監訳/山中克夫 著/ダグラス・パウエル:脳の老化を防ぐ生活習慣─認知症予防と豊かに老いるヒント 中央法規, 東京, 2014, pp42-45)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第234回『注目される自動車運転の問題─多人数の会話で「誰が何を言ったか」検査』(2013年8月21日公開)
 以上述べました3つの注意機能について、昭和大学横浜市北部病院の福井俊哉教授(神経内科)が詳しく解説しておりますのでご紹介しましょう(一部改変)。
 「持続的注意は、ある一定の間、課題に対して持続的に注意を払い続ける能力を言う。評価には、ターゲットではない多くの刺激の中から、希少なターゲット刺激を見出す際のスピードと正確さをみる課題を用いる。外界からの刺激を受容する感度を保つという点で、alertness(覚醒度)と同様な意味を共有する
 選択的注意とその切り替えとは、視覚性注意の場合、(1)それまで注意を払っていた空間から注意を外す過程(後部頭頂葉の機能)、(2)新しい空間に注意を転ずる過程(上丘)、(3)新たな指標に注意を固定する過程(視床)から成り立っている。早期のアルツハイマー病(AD)では、注意を指標から離脱させて、新たな指標へ転ずることが障害されている。
 分割注意は二つの意味を有する。一つは単一刺激に関する複数の付帯情報に対して注意を払うこと、他方は複数刺激に対して注意を払うことである。二重課題(dual task)は分割注意を良好に反映する。AD症例が多人数の会話の中で話についていけない現象も、分割注意障害に基づく。多人数の会話を収録したビデオを見て、『誰が何を言ったか』課題も、分割注意障害を検出するために有効な検査法である。分割注意課題において、軽度ADは正常コントロールと同様な反応を示すことから、分割注意障害が明らかになる時期は中等度AD以降と考えられる。」(福井俊哉:アリセプトRの臨床的特徴を再考する─Attentionの観点から. CLINICIAN Vol.60 No.618 381-390 2013)
 なお、ドネペジル(商品名:アリセプトR)は注意機能を改善させることから、ドネペジルの自動車運転能力に及ぼす効果についても検討されておりますが、健常高齢者においてはその有用性は確認されておりません。
 「健常高齢者の自動車運転能力に対するドネペジルの効果を検討する目的で、平均72歳の高齢者をランダムに2群に割り付け、ドネペジル5mgまたはプラセボを2週間投与した。投与前後で注意・実行機能、全般的知能、模擬運転能力が検討された。模擬運転能力には、スピード変動、進路のふらつき、突風に対する反応時間、および衝突回数が含まれる。両群間で注意・実行機能と衝突回数には差がなかった。予想に反して、プラセボ群はドネペジル群よりも突風に対して0.5秒早く反応し、進路のふらつきも少ない傾向にあった。この結果から、高齢者の運転を補助する目的でドネペジルを投与する妥当性は支持されなかった。ドネペジル群が低成績を示した理由として、アセチルコリン(Ach)低下のない健常高齢者において、ドネペジルがAch系を亢進させた結果、ドパミン系との均衡を崩して運動機能を低下させた可能性が推測されている(Rapoport MJ, Weaver B, Kiss A et al:The effects of donepezil on computer-simulated driving ability among healthy older adults : a pilot study. J Clin Psychopharmacol Vol.31 587-592 2011)」(福井俊哉:アリセプトRの臨床的特徴を再考する─Attentionの観点から. CLINICIAN Vol.60 No.618 381-390 2013)。
 CLINICIANの上記論文はウェブサイト(http://www.aricept.jp/alzheimer/e-clinician/vol60/no618/pdf/clinician618.pdf)においても閲覧可能です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第235回『注目される自動車運転の問題─数字の逆唱できますか?』(2013年8月22日公開)
 アルツハイマー病の患者さんでは、注意障害(特にdual taskにおける注意分配能の低下が顕著)を背景とした課題遂行能力の低下が認められます(認知症患者にみられる失語・失認・失行. MEDICAL REHABILITATION No.127 39-44 2011)。
 これらの注意障害は、臨床の現場では、「抹消課題」などの検査で評価されます。抹消課題とは、たくさんの文字や記号の中から、特定の文字や記号のみを選択抹消する検査です(リハビリナース、PT、OT、STのための患者さんの行動から理解する高次脳機能障害 メディカ出版, 大阪, 2010, pp154-163)。
 大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の武田雅俊教授は、臨床場面で注意機能を簡便に評価する方法について言及しております。
 「注意機能はすべての高次脳機能の基礎となり、記憶や言語機能、視空間認知機能などさまざま高次脳機能に影響を与える。このため、注意障害の有無をみることは重要である。臨床場面で注意機能を評価するには、数唱課題が簡便でよい。数唱には順唱と逆唱とがあり、ともにいくつかの数字を1秒に1数字ずつのスピードで単調に聴覚的に提示して、同じ順序で繰り返させる(順唱)、あるいは逆の順序で繰り返させる(逆唱:例えば2-8-3と教示すれば3-8-2と答えさせる)。少ない桁数から初め、徐々に桁数を増やしていく。順唱が5桁あるいは逆唱3桁ができなければ注意障害があると考えてよいが、逆唱のほうが障害に鋭敏である。」(武田雅俊:Treatable dementia. 綜合臨牀 Vol.60 1869-1874 2011)
 この数字の順唱5桁あるいは逆唱3桁は、最近注目されているモントリオール認知評価検査(Montreal Cognitive Assessment;MoCA)においても、注意機能の課題として採り入れられております(http://www.mocatest.org/pdf_files/test/MoCA-Test-Japanese_2010.pdf)。
 MoCAは、HDS-R(改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト)やMMSE(ミニメンタルテスト)と同様に30点満点で10分以内に実施可能です。実行系の課題も入っており、記憶よりも遂行機能の低下が問題となる血管性認知症(VaD)のみならず、各種原因による軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)の検出に有用とされております。30点満点で、正常値は26点以上です。MoCAは、軽度アルツハイマー型認知症のスクリーニング検査として感度が高く、MoCA25点をカットオフ値とした場合の感度は100%と報告(Nasreddine ZS et al:The Montreal Cognitive Assessment, MoCA: a brief screening tool for mild cognitive impairment. J Am Geriatr Soc 2005;53:695-699)されております。
 日本で幅広く使用されているHDS-Rにも数字の逆唱という課題がありましたね。HDS-Rの作成に携わった東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科の加藤伸司教授は、数字の逆唱に関して、「作業記憶の課題でもある」(http://ninchisyoucareplus.com/plus/pdf/070421%E5%8A%A0%E8%97%A4%E6%8A%84%E9%8C%B2.pdf)と述べています。
 また、Trail Making Test Bが運転成績を予測する(河野直子:認知機能低下と運転適性:一般及び軽度認知障害の高齢運転者を対象とした研究動向. Dementia Japan Vol.27 191-198 2013)ことも指摘されております。トレイルメイキング(Trail Making Test;TMT)に関しては、シリーズ第39回『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 バナナとミルクばかり食べる女性』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013012800007.html)のメモ2をご参照下さいね。
 なお余談ではありますが、メマンチン(商品名:メマリーR)の中核症状に対する効果としては、中等度から高度のアルツハイマー型認知症患者432例の検討(国内第Ⅲ相試験-IE3501)において、注意、実行、視空間能力、言語(名前を書く、曜日、文章理解、会話理解、物品呼称および自由会話などで評価)の4つの領域で有意な改善を認めております(http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/430574_1190018F1023_1_me5_1F.pdf)。詳細は、pdfファイルの20~23頁を参照下さい。ここでいう注意機能は、桁数範囲、聴力範囲、視覚範囲にて評価されております。
 先にご紹介しましたMoCAは、多領域の認知機能(注意機能、集中力、実行機能、記憶、言語、視空間認知、概念的思考、計算、見当識)について、約10分という短い時間で評価することが可能であり、メマンチンによる中核症状に対する効果の判定などにも幅広く活用できると私は考えています(笠間 睦:メマンチンによるアルツハイマー病の中核症状に対する効果判定の試み─MoCA-Jを用いて─. Geriatric Medicine Vol.51 723-727 2013)。

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 海外では、SIB-Lスコアの変化量を指標(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/MemantineFerrisSIB-L.jpg)として、メマンチンが言語機能の悪化を有意に抑制する報告(Ferris S, Ihl R, Robert P et al:Treatment effects of Memantine on language in moderate to severe Alzheimer's disease patients. Alzheimers Dement Vol.5 369-374 2009)がされております。
 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19751915


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第236回『注目される自動車運転の問題─「75歳すぎたらハンドルを手離すべき」といったプロ運転手』(2013年8月23日公開)
 高齢者の自動車運転に関する、あるタクシードライバーのコメントをご紹介しましょう。
 「運転することを職業としているタクシードライバーにも聞いてみたところ、高速道路逆走やブレーキとアクセルの判断ミスなどによる高齢者の事故の悲惨さを教えてくれたあと、『ベテランのタクシードライバーでも、75歳をすぎたらハンドルを手離すべきだね。運転技術にどんなに優れていたとしても、どうしても鈍ってくる』と話してくれた。」(岡 瑞紀:認知症の人の運転に関する法律と制度. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.4 159-166 2011)
 慶應義塾大学医学部精神神経科の岡瑞紀医師は、「交通事故を予測するうえでもっとも予測力が高いものは有効視野であった。…(中略)…6か月ごとに実車テストを行うと、3年間にわたって認知症ドライバーの事故率を正常高齢者のレベルに引き下げられた」という内容の論文を紹介し、「繰り返して路上テストをすることは現時点ではコストの面でも現実的ではないため、同じ効果が得られるようなプログラムの開発が急がれる」と指摘しています(岡 瑞紀:認知症の人の運転に関する法律と制度. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.4 159-166 2011)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第237回『注目される自動車運転の問題─実車テストの代わりになるパソコン版テスト』(2013年8月24日公開)
 私が「路上テスト(実車テスト)」の代わりに使えるのではないかと考えている前頭葉機能検査として、Wisconsin card sorting testパソコン版(WCST-KFS version)があります。同じ種類に属する図形を選び出していく検査で、パソコン版の方は約10分程度と短時間で検査可能です。この検査では視線を動かすことも求められますので「有効視野」も反映するのではないかと私は考えています。パソコン版を開発されたのは、島根大学医学部第三内科の先代教授である小林祥泰先生です。
 登録は必要ですが医療関係の方でしたらWisconsin card sorting testパソコン版(http://cvddb.med.shimane-u.ac.jp/cvddb/user/wisconsin.htm)をウェブサイトからダウンロードすることができます。検査の要領は、「反応カード」と形・色・数のいずれかのカテゴリーが一致する刺激カードを選び、マウスでその刺激カードをクリックします。正解が、形なのか色なのか数なのかは当初は被験者には分かりません。形が一致するものをクリックしてパソコンに「間違いです」と言われたら、色か数が一致するものを選びなおして正解を探っていくわけです。ただし、正解カテゴリーは何回か同じカテゴリーが続いたあとで変更されます。「間違いです」と言われた時点で新しい正解カテゴリーを探り直すわけです。文字で説明するとややこしい検査のように感じられるかも知れませんが、実際に画面を見ながら説明すると実に簡単に実施できる検査です。
 私も、以前勤務しておりました病院で実施しておりました「もの忘れドック」においては、WCST-KFS versionも採り入れておりました。現在、榊原白鳳病院において実施中の「もの忘れ検診」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2012122500013.html)においては、リバーミード行動記憶検査(http://apital.asahi.com/article/kasama/2012122500016.html)など検査に時間を要するものが多いため、WCST-KFS versionは省略しております。
 WCST-KFS versionの検査終了後に表示される「CA(categories achieved;達成カテゴリー数)」が結果判定の一つの目安となります。4点以上なら心配ありませんが3点以下でしたら詳しく調べてもらった方が良いかも知れませんね。ただし、運転の可否の目安となる基準値は設定されておりません。
 筑波大学大学院人間総合科学研究科精神病態医学の水上勝義准教授は、Wisconsin Card Sorting Test(WCST)について、「新しい情報を照合しながら、できるだけ少ない試行錯誤で新しいセットに転換する検査で、ワーキングメモリーが必要である。WCSTは前頭葉背外側部の機能と関連すると考えられている。」と述べています(水上勝義:遂行機能障害. 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 359-362 2011)。
 なお、前頭葉背外側部の損傷によって、WCSTにおける保続的誤りが増加することが報告されています。東京大学医学系研究科統合整理学教室の小西清貴准教授は、「WCSTでは、課題施行中に正解のカテゴリが被験者に予告されず変更される。その際、いままで正解であったカテゴリを選択することを抑制しなければならない。」(小西清貴:前頭葉と抑制機能. BRAIN and NERVE Vol.63 1346-1351 2011)と述べており、WCSTで必要とされる抑制機能に関する神経心理学的知見には、前頭葉腹外側部や背外側部が責任病巣とされるなどバラツキがあることが指摘されております。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第238回『注目される自動車運転の問題─運転は認知機能を総動員する複雑な作業』(2013年8月25日公開)
 Regerらのメタ分析が示すように(Reger MA, Welsh RK, Watson GS et al:The relationship between neuropsychological functioning and driving ability in dementia:a meta-analysis. Neuropsychology Vol.18 85-93 2004)、視空間認知機能および注意集中機能の低下が認知症の運転者における危険走行と関連する可能性が高いものの、具体的な課題項目として単独で十分な感度・特異度が得られる方法は知られていない(河野直子:認知機能低下と運転適性:一般及び軽度認知障害の高齢運転者を対象とした研究動向. Dementia Japan Vol.27 191-198 2013)のが現状です。
 すなわち、運転行為は人間のあらゆる認知能力が総動員される複雑な作業なので、運転と認知機能の関係性を証明することは難しいと考えられているのです。具体的に運転行為に用いる認知能力としては、視空間認知などの感覚情報の処理、注意と集中による情報選択、作業記憶による選択された情報の操作、長期記憶からの情報検索、思考による問題解決や推論などがあげられます。このように、運転に係る能力は非常に複雑であるため、認知機能検査等では、自動車の運転能力の適否を判断できないと考えられており、海外では、①実車によるon-roadテスト、②シミュレーションテスト、③事故報告や介護者からの報告などによって運転能力評価が行われています(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, pp170-171)。
 認知症疾患治療ガイドライン2010においても、「認知機能検査から認知症者の運転適性をを予測できるほど、両者の関連は明確なものではない。さらに、検査結果から安全なドライバーか否かを判定するカットオフ得点を示した研究はほとんどなく、今後の研究が待たれる」(認知症疾患治療ガイドライン2010 医学書院発行, 日本神経学会監修, 東京, 2010, pp152-153)と記載されております。詳細(全文)はウェブサイト上のファイル(http://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/sinkei_degl_2010_04.pdf)のpp152-153にて閲覧可能です。
 名古屋大学医学部附属病院老年内科の梅垣宏行助教は、「認知症のどの段階で運転を中止すべきかに関しては、必ずしも一致した見解があるとはいえない状況である」と前置きした上で、「米国精神医学会の治療ガイドラインでは、CDR2以上の場合には運転中止を勧告すべき」としていることを紹介しております(梅垣宏行:もの忘れ外来における運転指導. Geriatric Medicine Vol.50 155-158 2012)。
 では、CDRとはいったいどのようなものでしょうか。
 Clinical Dementia Rating(CDR)は臨床認知症尺度と呼ばれ、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会活動、家庭生活および趣味・関心、介護状況の6項目から構成され、それぞれの項目について患者およびその家族などから聞き取り調査を行い、5段階で重症度を判定します。
 CDR0(正常)、CDR0.5(軽度認知障害Mild Cognitive Impairment;MCI)、CDR1(軽度認知症)、CDR2(中等度認知症)、CDR3(重度認知症)の5段階に分けられます。詳細は、シリーズ第73回『軽度認知障害 軽度認知障害から認知症への進展』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013030600003.html)のメモ1をご参照ください。
 ですから、CDR2(中等度認知症)以上の場合には運転中止を勧告すべきということですね。
 では、その1つ前の段階のCDR1(軽度認知症)であれば、安全に運転ができるのでしょうか。
 その点に関しても、梅垣宏行助教は論文を引用して以下のように述べております。
 「Duchekらは、運転適性のいわばゴールドスタンダードである実走行試験によって、高齢者の運転技能を前向きに検討しているが、この研究によれば、登録時点においてCDR1であったもののうち、登録時点でその41%が運転不適と判断され、登録時点では運転適性があると判断された者も1年以内におよそ7割以上が不適と判断されるに至った(Duchek JM et al:Longitudinal driving performance in early-stage dementia of the Alzheimer type. J Am Geriatr Soc Vol.51 1342-1347 2003)と報告している。」
 この論文の要旨(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14511152)はウェブサイトにおいても閲覧可能です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第239回『注目される自動車運転の問題─運転のできるできないは判定が難しい』(2013年8月26日公開)
 MMSE(Mini-Mental State Examination)と運転能力の相関についても報告されています。
 「認知症ガイドラインは、軽度の認知症の場合、運転が可能か否かを明確に判定することはできないとしている。精神測定検査は認知機能障害の客観化には有用であるが、その結果と運転能力との相関は低く、MMSEとの相関係数は0.4~0.6にすぎない。臨床認知症尺度(Clinical Dementia Rating;CDR)の方が信頼性は高いが、検査に30~45分かかるため、診療所での実施には向かない。」(家庭医による運転適性の評価では認知機能の検査が鍵. 2012年3月15日号Medical Tribune Vol.45 No.11 50 2012)。
 ですから、改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)やMMSEといった簡易な認知機能検査では、運転能力の有無を判定することは困難ということになりますね。
 ただ、一方では以下のような指摘もありますので(一部改変)、MMSEの実施も一応の目安にはなりそうです。
 「CDR2以上ではきわめて危険であり、運転中止を強く勧告すべきであるとしている。一方、CDR0.5から1の段階では、他の危険因子の有無によって危険の程度は異なり、その中で最も重要なのは介護者(同乗者)による危険性の指摘であるとしている。その他の危険因子としては、違反歴、事故歴、走行距離の短縮、夜間などの運転回避、攻撃性や衝動性、MMSE24点以下などがあげられている。」(飯島 節:認知症と運転免許. Medical Practice Vol.29 795-798 2012)

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 2014年5月某日の物忘れ外来には、「講習予備検査(認知機能の検査)」で判断力や記憶力が低いと評価され、物忘れ外来を受診するように言われた患者さんが他院よりの紹介にて来院されました。
 シリーズ第239回「注目される自動車運転の問題─運転のできるできないは判定が難しい」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081400010.html)において述べましたように、「CDR2以上ではきわめて危険であり、運転中止を強く勧告すべきであるとしている。一方、CDR0.5から1の段階では、他の危険因子の有無によって危険の程度は異なり、その中で最も重要なのは介護者(同乗者)による危険性の指摘であるとしている。その他の危険因子としては、違反歴、事故歴、走行距離の短縮、夜間などの運転回避、攻撃性や衝動性、MMSE24点以下などがあげられている。」(飯島 節:認知症と運転免許. Medical Practice Vol.29 795-798 2012)と報告されておりますので、CDR(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013030600003.html)などを施行致しました。

私がご本人およびご家族に説明した内容は以下です。
 HDS-R(http://apital.asahi.com/article/kasama/2012122500015.html)がカットオフ値以下であり、MRIで脳萎縮を認めます。症状と合わせて総合的に判断しますと、「初期のアルツハイマー型認知症」と思われます。薬を開始して、少しでも進行を遅らせるようにしましょう。
 CDRは、現段階では「1」と評価されます。車の運転は、自分だけの問題ではありませんので、運転免許の自主的な返納をされた方が良いと私は思います。
 以上の説明をした上で、アピタルシリーズ第239回「注目される自動車運転の問題─運転のできるできないは判定が難しい」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081400010.html)をコピーしたものも参考資料としてお渡ししました。

P.S.
 ご家族のお話では、運転免許更新手続きの2日後に,運転免許センターからTELが入り、「更新は可能ですが、一度、きちんと検査してもらった方が良いですよ」と言われたものの診断書をもらってくるようにとは言われていないそうです。
 シリーズ第243回「注目される自動車運転の問題─75歳以上に課せられた認知機能検査」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081500012.html)にてご紹介しましたように、「講習予備検査」の検査結果によって、受験者は第1分類(認知症のおそれがある者)、第2分類(認知機能が低下しているおそれがある者)、第3分類(以上のおそれがない者)に区分され、その場で書面にて本人に通知されます。
 第1分類に該当する者のうち、免許期間満了日までの1年間に信号無視・一時不停止などの基準行為をしていた場合や、更新後に基準行為をした場合は、臨時適性検査と呼ばれる専門医による診断か主治医の診断書の提出が求められます。臨時適性検査により、認知症と判明すれば、免許の取り消し・停止が行われます。
 この方は追突事故を最近起こしてはいるものの、基準行為は犯しておりませんので、「講習予備検査」の結果が第1分類であったのか第2分類だったのかは不明です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第240回『注目される自動車運転の問題─ドライブシミュレーターで何がわかるか?』(2013年8月27日公開)
 高齢者講習(http://www.unten-menkyo.com/2008/08/70.html)においては、運転適性診断が実施されております。なお、高齢者講習は、講義・運転適性診断・運転の指導等を行うものであり、試験ではありません(http://www.pref.ibaraki.jp/kenkei/a03_license/lecture/senior.html)。運転適性検査(http://www.police.pref.nagasaki.jp/a44unmen/b01tetuzuki/oldunten.htm)では、ペーパー検査(作業に対する取り組み方を検出することにより、自動車を運転する場面で出やすい安全運転上好ましくないクセや、運転に向いている素質が分かる)、CRT検査(緊急場面反応、注意の集中・配分機能、ハンドル操作に関する検査等から、状況の認知・処理能力・動作の機敏性・正確性等の検査がコンピューターにより、個人ごとの診断結果として作成される)、シミュレーター検査(コンピューター映像に合わせて運転操作を行い、交通の場面に応じた適切な運転行動が取れるかどうかを診断)が行われます。
 ドライビングシミュレーター(Driving Simulator;DS)の現状について報告している論文がありますのでご紹介しましょう。
 「行動レベルの運転適性検査として、反応時間やハンドル操作等を評価するタイプの運転適性検査が開発されてきている。その中で、警察庁が作成した基準にもとづき運転適性検査が開発され、更新時講習や運転免許センターにおいて使用されている。現在はPCベースの運転適性検査器が用いられている。この検査には、アクセル操作による単純反応時間測定、アクセル・ブレーキ操作による選択反応時間測定、ハンドル操作による追従課題、そしてそれらを同時に行う複合検査の4種から構成されている。
 これらの運転シミュレーターによる評価結果は、あくまでもブレーキ反応時間とハンドル操作課題の組み合わせによる運転適性検査の評価であり、直接的に交通事故発生の予測を行うことはできていない。」(堀川悦夫:認知症患者の運転適性評価に関する科学的アプローチ. Dementia Japan Vol.27 173-182 2013)

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 本日(2013.8.27)の讀賣新聞社会面においても、「高齢者講習」の問題が取り上げられておりますね。
 記事によると、2012年に医師の診断を経て、免許取り消しや停止となったのは106人と記載されておりますね。
 警察庁幹部のコメントにもありますように、「講習予備検査(認知機能の検査)」で判断力や記憶力が低いと評価されても、「取得した免許は権利であり、すぐに免許の取り消しや停止にはならない」のが現状なのです。

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 2013年8月27日付讀賣新聞1面トップニュース:『「認知症に優しい街」推進 11省庁、総合政策へ連携』(http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130826-OYT1T01445.htm
 「認知症高齢者の急増を受け、政府は、認知症の人と家族が安心して暮らせる街づくりに乗り出す。
 関係11省庁による連絡会議を設置して、9月に初会合を開く。認知症の対策は、医療や介護だけでなく、消費者保護や交通機関の整備など多岐にわたるため、省庁横断で情報を共有し、総合的に推進するのが狙いだ。
 厚労省では、認知症になっても在宅で暮らせるための医療・介護の新施策を今年度から始めているが、認知症の人にとって優しい街づくりは、1省だけで推進することはできない。
 認知症が疑われる高齢者の自動車運転事故が目立つようになったことから、免許更新時の対応(所管は警察庁)や、運転せずに暮らせる公共交通機関の整備(国土交通省)などが課題になっている。」


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第241回『注目される自動車運転の問題─ドライブ・レコーダーの活用』(2013年8月28日公開)
 以上述べましたように、現在までのDSでは認知症ドライバーの運転能力を適正に評価することができないのが現状です。これは、認知症ドライバーをスクリーニングするための基準が確立されておらず、高齢者講習などで用いられる既存のDSで評価していることが1つの理由となっております。そこで、日常の運転からドライバーの特性を検証する方法として、ドライブレコーダー(Drive Recorder;DR)を活用することも模索されております(http://www.dcnet.gr.jp/cms/contents/data/39/74/DETAIL_PDF_1.pdf)。
 あさひが丘ホスピタル(愛知県春日井市)の柴山漠人名誉院長らは、認知症患者の自動車運転の様子をドライブ・レコーダーによって観察しており、その特徴を以下のように報告しております。
 「認知症の人の自動車運転のチェック法として、2週間自家用車にドライブ・レコーダーをつけてもらい、その間の運転のようすを全部録画し、終了後その結果を詳細に検討するという実用的な研究を実施し、その評価を共同研究の成果としてアメリカ老年医学会雑誌(Watanabe T, Konagaya Y, Yanagi T, Miyao M, Mukai M, Shibayama H:Study of daily driving characteristics of individuals with dementia using video-recording driving recorders. Journal of the American Geriatrics Society Vol.60 1381-1383 2012)で報告した。その概要として、認知症の人(主としてAD)の運転は認知症ではない高齢者と比較して『赤信号で停まらない、信号標識をネグレクトする、注意散漫、など』が有意に多いことを紹介している。
 この報告にはないが、FTD(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013012800010.html)の人では、危険な運転が多く、『前方走向の車をあおる、ウインカーを出さずに車線変更する、高速道路を逆走する、歩道を走る、など』の状況判断なく自己中心的な運転をすることが多い。しかも現在の公安委員会のテストは記憶に焦点がおかれ、ほぼフリーパスである。」(柴山漠人:認知症ケアの体験的今昔. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.5 324-332 2012)
 2013年1月26日付朝日新聞生活面は、認知症高齢者の自動車運転について報道しており(http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201301250627.html)、「逆走」については、「警察庁によると、2010年9月から2012年8月までの高速道路での逆走(447件)を調べたところ、約7割の302件が65歳以上の運転者で、このうち、認知症だったり、疑われたりしたケースが半数以上あった。」と記事は伝えております。
 高齢者の逆走のうち、認知症だったり、認知症の疑いがあったりしたのは159件(52.6%)です。しかし一方で、忘れ物や落とし物をした(携帯電話を拾いに戻った)という理由で逆走する若者も一定数いることが分かったそうです。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第242回『注目される自動車運転の問題─運転する認知症患者は6人に1人が事故を起こす』(2013年8月29日公開)
 初期の認知症患者の約半数が運転を継続している実態が報告されています。物忘れ外来における運転行動の分析によれば、都市部よりは郊外で運転率が高く、多くの場合一人でそして殆ど日常的に運転が行われています。なお、運転中止に至った例では、安全性の低下が75%を占め、その決定は家族が36%、医師が33%を占めていることが報告されています(堀川悦夫:認知症患者の運転適性評価に関する科学的アプローチ. Dementia Japan Vol.27 173-182 2013)。
 高知大学医学部神経精神科学教室の上村直人講師は、運転免許を保持する認知症の人83人(男性63人、女性20人)を対象に、認知症の原因疾患別の交通事故内容を調査しております。対象者の平均年齢は70.7±9.7歳で、臨床診断は、アルツハイマー型認知症(AD)41人、血管性認知症(VaD)20人、前頭側頭葉変性症(FTLD)22人です。
 調査結果をお伝えする前に、用語の整理をしておきましょう。前頭側頭葉変性症(Frontotemporal lobar degeneration;FTLD)の代表が前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)で、前頭側頭型認知症の代表がピック型です。なおつけ加えておきますと、臨床的にはFTLDという用語の代わりにFTDを用い、FTLDの下位分類であったFTDをbehavioural variant of frontotemporal dementia(bvFTD:前頭側頭型認知症行動バリアント)と記載することが海外では一般的となっております。
 調査の結果、83人中34人(41.0%)が交通事故を起こしていることが分かりました。認知症の原因疾患別では、AD患者は39.0%(41人中16人)が事故を起こし、行き先を忘れてしまう迷子運転や、駐車場で車庫入れを行う際の枠入れがうまくできず接触事故を起こすことが運転行動・事故特徴として認められました。VaD患者においては20.0%(20人中4人)が事故を起こし、ハンドル操作やギアチェンジミス、速度維持困難が要因と考えられました。FTLD患者では63.6%(22人中14人)と最も高率に事故を起こしており、その特徴として信号無視や注意維持困難、わき見運転による追突事故が多くみられたことが報告されています(上村直人:認知症の人の自動車運転の実態. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.4 151-158 2011)。
 また、上村直人講師は、1995~2005年に高知大学医学部附属病院を受診し、認知症と診断され、かつ運転免許を保持していた患者101人を対象に運転継続および中止理由について調査をしており、「主治医もしくは家族から運転中止勧告をされていた人は86.1%(101人中87人)であった。101人中運転中止に至った人は8.9%(9人)、勧告や助言をしても運転を継続していた人は70.3%(71人)であった。運転中止の勧告後も運転をやめない理由としては、認知症の人本人の拒否が69.0%(71人中49人)、生活のためやめられないが11.3%(8人)、運転が趣味・生きがいであるが14.0%(10人)であった。」(一部改変)と報告しています。
 なお上村直人講師は別の論文において、認知症の人における自動車運転の問題は、もはや地方だけの稀な問題ではないと指摘しております。
 「我が国で認知症の運転の実態についてはじめて大規模に行われた2008年の老年精神医学会の調査(2008年1~3月に診断された認知症患者7329人分のデータ分析。全国各地の医師368人の参加)でも、運転している認知症患者の6人に1人が交通事故を起こし、事故を起こした患者の約半数は75歳未満であった。また患者の11%が運転を継続しており、そのうち16%に当たる134人が運転中に事故を起こしていた。このように我が国でも認知症患者の自動車運転の問題は地方だけの稀な問題ではなく、すでに認知症診療においてどこでも遭遇する問題となっている。」(上村直人、福島章恵:認知症と自動車運転. Jpn J Rehabil Med Vol.50 87-92 2013)

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第243回『注目される自動車運転の問題─75歳以上に課せられた認知機能検査』(2013年8月30日公開)
 70歳以上の方は、免許更新時に運転適性検査を実施する高齢者講習(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/kousin/kousin05.htm)が義務づけられています。また、75歳以上の方が運転免許証を更新する際には、2009年6月から「講習予備検査」と呼ばれる認知機能検査を受けることが義務づけられました。
 「講習予備検査(認知機能の検査)」の内容については、警視庁のサイト(http://www.npa.go.jp/annai/license_renewal/ninti/)に詳しく紹介されています。
 講習予備検査には、以下の3つの検査項目があります。
1 時間の見当識
 検査時における年月日、曜日及び時間を回答します。
2 手がかり再生
 一定のイラストを記憶し、採点には関係しない課題を行った後、記憶しているイラストをヒントなしに回答し、さらにヒントをもとに回答します。
3 時計描画
 時計の文字盤を描き、さらに、その文字盤に指定された時刻を表す針を描きます。

 「講習予備検査」の一つとして採用されている時計描画テスト(Clock Drawing Test:CDT)に関して、名古屋大学医学部附属病院老年内科の梅垣宏行助教は、「わが国の講習予備検査でもCDTが採用されている。しかしながら、運転の不適格性を見分けるための検査成績の明確なカットオフ値は明らかにされておらず、運転能力の評価のためには、患者の運転の状況などについて、家族などから詳細な情報収集を行うことが欠かせない。」(梅垣宏行:もの忘れ外来における運転指導. Geriatric Medicine Vol.50 155-158 2012)と述べており、検査結果の評価基準がきちんと定められていない現状を報告しております。
 さて、「講習予備検査」の検査結果によって、受験者は第1分類(認知症のおそれがある者)、第2分類(認知機能が低下しているおそれがある者)、第3分類(以上のおそれがない者)に区分され、その場で書面にて本人に通知されます。
 第1分類に該当する者のうち、免許期間満了日までの1年間に信号無視・一時不停止などの基準行為をしていた場合や、更新後に基準行為をした場合は、臨時適性検査と呼ばれる専門医による診断か主治医の診断書の提出が求められます。臨時適性検査により、認知症と判明すれば、免許の取り消し・停止が行われます。
 講習予備検査・臨時適性検査に関して、筑波大学大学院人間総合科学研究科・生涯発達科学の飯島節教授が重要な視点を述べておりますのでご紹介しましょう(一部改変)。
 「第1分類、第2分類、第3分類、いずれの分類でも免許更新は可能であり、ただちに免許が取り消されることはない。…(中略)…専門医に求められいることは認知症の診断であって、運転適性の判断ではないことにも留意する必要がある。…(中略)…ある地方では、高齢者が集まって講習予備検査受検に備えた練習を行っていると聞く。彼らにとって運転免許の更新には文字通り生活がかかっているのである。」(飯島 節:認知症と運転免許. Medical Practice Vol.29 795-798 2012)

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 2013年12月20日付朝日新聞「認知症とわたしたち─車の運転・下」においては、運転免許証の更新制度の現状・問題点・今後の展望が伝えられました。一部改変して以下にご紹介しましょう。
 「2012年に講習予備検査を受けたのは、約133万2千人で最も結果がよくない『第1分類』と判定された人は約1万7千人。その後、違反を起こしたのは、506件あったが、最終的な取り消し件数は106件にとどまる。
 警察庁は『講習予備検査は認知症の診断をするものではないので、検査の結果のみをもって免許を取り消すことはできない』(広報室)と説明する。
 6月に公布された改正道路交通法では、運転免許を持つ認知症などの患者について、医師が任意で診察結果を都道府県の公安委員会に届け出られる仕組みが盛り込まれた。医師の守秘義務違反の例外とされ、公安委は本人に臨時適性検査を受けるよう通知できる。来年に施行予定だ。
 認知症の人の運転に詳しい、高知大の上村直人講師(精神医学)は、違反があってから取り消す現在の制度では事故のリスク回避が不十分だ、と指摘する。『高齢者の運転能力を客観的に測る検査や制度を新たに導入して、免許の更新の可否を判断すべきだ。新たに始まる医師の情報提供制度を含め、チェック機能や法整備を考えていかないといけない』と話している。」【畑山敦子、立松真文】

記事を読んでの私の感想:
 「2012年に講習予備検査を受けたのは、約133万2千人で最も結果がよくない第1分類と判定された人は約1万7千人。その後、違反を起こしたのは、506件あったが、最終的な取り消し件数は106件にとどまる」
 詳しい最新情報を知ることができました。
 第1分類でなおかつ違反を起こしても、免許取り消しとなるのは106/506=20.9%と少ない現状を知ることができました。
 「医師が任意で診察結果を都道府県の公安委員会に届け出られる仕組みが盛り込まれた。医師の守秘義務違反の例外とされ、公安委は本人に臨時適性検査を受けるよう通知できる」制度が来年から施行予定となると、診察室でご本人に、「診察結果を都道府県の公安委員会に届けますがよろしいですか?(よろしいですね!)」と意思確認する場面が出てきそうですね。
 「そんなことするならもう診察に来ません」と言い出す患者さんも出てきそうな気がします。本人にとっては医師が自分の味方から「車を奪う敵」になるわけですからね。

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 2013年8月27日付の讀賣新聞社会面において、「高齢者講習」の問題が取り上げられております。
 記事によりますと、2012年に医師の診断を経て、免許取り消しや停止となったのは106人と記載されております。
 警察庁幹部のコメントにもありますように、「講習予備検査(認知機能の検査)」で判断力や記憶力が低いと評価されても、「取得した免許は権利であり、すぐに免許の取り消しや停止にはならない」のが現状なのです。

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 「約8149万人の運転免許保有者のうち、65歳以上は12年末で約1421万人。前年から102万人増えた。ただ、検査で判断力や記憶力が低いと評価されても、『取得した免許は権利であり、すぐに免許の取り消しや停止にはならない』(警察庁幹部)。
 75歳以上で判断力が低いと評価された人は、更新前の1年間か更新後に一時停止などの違反があると医師の診察を受ける必要があり、認知症と診断されれば免許取り消しや停止となる。
 だが診断を経て取り消しや停止となったのは12年で106人。家族らからの相談も含め認知症を理由に取り消しなどになった人は計501人だった。
 各地の警察では今、運転に不安を感じる高齢者らに免許証の自主返納を促すことに力を入れる。返納後に受け取ることができる『運転経歴証明書』が身分証明書として幅広く使えるようになり、全国の自主返納件数は12年、11万7613件と前年の1.6倍に増えた。
 だが、特に地方では、買い物や病院通いなど、車は生活に欠かせない面がある。当事者には深刻な問題だ。免許を失うのを恐れ、かかりつけ医に認知症と診断しないよう懇願するようなケースもあるという。
 『バス運賃を無料にする』(愛知県知立市)など、自主返納者の自立した暮らしを支援する自治体は増えているが、公共バスが自宅に迎えに釆てくれるわけではない。サービスはまだ限定的だ。」(読売新聞「認知症」取材班:認知症 明日へのヒント─800万人時代を共に生きる 中央公論新社, 東京, 2014, pp70-71)

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平成26年6月1日改正道路交通法施行
 http://www.pref.nagano.lg.jp/police/menkyo/etc/kaisei140601.html

一定の病気等に関する質問制度、虚偽記載の場合の罰則を新設
 公安委員会は運転免許を取得しようとする方や免許を更新される方などに対して、病気の症状に関する必要な質問ができるようになります。

一定の病気等に係る質問について
 回答は、申請時に交付する「質問票」で、以下の質問にあてはまるかどうかを「はい」か「いいえ」を選択していただきます。

医師による任意の届出制度の新設
 一定の病気等に該当する免許保有者を診断した医師は、任意で診断結果を公安委員会に届け出ることができるようになります。

免許の効力暫定停止制度の新設
 交通事故を起こし、又は医師の判断で一定の病気等に該当すると疑われる方について、免許の効力を3ヵ月を超えない範囲で停止することができるようになります。一定の病気等に該当しないことが明らかになった場合は処分が解除されます。

一定の病気を理由に免許を取り消された後、3年以内に再取得する際の試験の一部免除制度の新設
 一定の病気に該当することを理由に免許を取り消された場合、免許を取り消された日から3年以内に病状が回復し、免許を再取得することができる状態になった場合には、技能試験及び学科試験が免除されます。

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わが国における運転免許証に係る認知症等の診断の届出ガイドライン

認知症の運転、公安委員会届出の指針を発表
 関連5学会が方針を示す
 http://www.m3.com/clinical/news/article/228203/?portalId=mailmag&mmp=EZ140627&mc.l=48685636

 日本神経学会は2014年6月24日、「わが国における運転免許証に係る認知症等の診断の届出ガイドライン」とそのQ&A集を発表した。6月14日に公布された改正道路交通法で、運転免許を持つ認知症患者について、医師が公安委員会に任意で届け出られる制度が新設されたことを受け、対応を示したもの。日本神経治療学会、日本認知症学会、日本老年医学会、日本老年精神医学会と合同で作成した。
 指針では、認知症と診断した患者が自動車運転をしていると分かった場合、まず患者や家族、介護者に自動車運転の中止と免許証の返納を説明し、診療録に記載する。公安委員会への届け出をする際には、事前に患者や家族の同意を得て、写しを渡す。また、家族や介護者から患者の運転を止めさせる相談を受けたら、本人の同意を得るのが難しい場合でも、医師が状況を総合的に勘案し、届け出るかどうかを判断すると定めている。
 Q&A集では、「届け出前の本人や家族の同意は必須か」という質問に対し、「必須ではないが、できるだけ同意を得る」と回答。患者の多くは病識がなく同意を得るのが難しいが、家族や介護者の同意はなるべく得るようにと説明している。

資料
1)わが国における運転免許証に係る認知症等の診断の届出ガイドライン
 http://www.neurology-jp.org/news/pdf/news_20140624_01_01.pdf

2)届出を行う場合に使用する特定の様式
 http://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20140410.pdf
 様式第1(届出用)=pdfファイルp33

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【運転免許証に係る認知症の診断の届出ガイドライン】
 http://dementia.umin.jp/GL_2014.pdf
【運転免許証に係る認知症の診断の届出ガイドライン Q&A, 2014.6.1】
 http://dementia.umin.jp/GL_QA_140601.pdf


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第244回『注目される自動車運転の問題─悩ましい一人暮らしの運転する患者』(2013年8月31日公開)
 さ~て、ここで悩ましい問題となってくるのは、一人暮らしの認知症患者さんの自動車運転に関わる問題です。例えば、介護に携わるスタッフから以下のような相談を受けたことがあります。
 「80歳代後半の認知症患者さん(要介護認定を受けている)が自損事故を起こし、車は大破し廃車となった。ちょくちょく自損事故を繰り返していたのでこの機会に運転をやめてもらおうと運転免許の自主返納を勧めた。しかし、本人には自主返納をする気はなく、また、自損事故であり『基準行為』に該当するわけでもなく、結局、すぐに新しく車を購入してしまった。家族はおらず、成年後見制度も申請していない。本人に車の運転を断念させるにはどうすればよいでしょうか?」
 おそらく、こうした認知症ドライバーの自損事故は表に数字となって出てこないだけで、実際には随分と多いのだろうと私は思っております。しかもご家族がいない方の場合には、自動車運転の危険性について早い段階で気づくことが困難ですので、自損事故を何度も繰り返して初めて周囲が心配する状況になりますね。
 こういったケースにおいては、医療機関において認知症と診断され治療を受けているのであれば、担当医師からきちんと運転不可であることをご本人に説明してもらうことが肝要となります。
 あるいは、本人の同意が得られれば(「後見」においては同意は不要)、成年後見制度の申し立てをすることも可能です。詳しくはウェブサイト(http://www.seinen-kouken.cc/pages/faq.htm)の質問18をご参照下さいね。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第245回『注目される自動車運転の問題─「運転は生きがい」の高齢者に与えるべきもの』(2013年9月1日公開)
 「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル(荒井由美子医師監修)」(http://www.ncgg.go.jp/department/dgp/index-dgp-j.htmよりダウンロード可能)において紹介されているBさんの事例紹介では、医師からの運転中止勧告に対して、「運転は生きがい。運転できないなら死んだ方がいい」と頑なに運転中止を拒否するシーンがあります。
 荒井由美子医師は、「自動車の運転は、単なる移動手段ではなく、『生きがい』であると回答した割合が、高齢者層において、有意に高いことが示された」と述べています(水野洋子、荒井由美子:認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための「介護者支援マニュアル」の概要及び社会支援の現況. Geriatric Medicine Vol.50 159-163 2012)。
 どうしても自動車の運転がやめられない認知症の人では、いったん施設に入所することによりうまく解決した事例もあるようです(本間 昭、六角僚子:認知症介護─介護困難症状別ベストケア50 小学館, 東京, 2007, pp60-61)。
 「運転は生きがい」と感じている高齢者の方に対しては、自動車の代わりとなるような移動手段を検討することが重要な課題となりますね。
 国立障害者リハビリテーション研究所福祉機器開発部(http://www.rehab.go.jp/ri/kaihatsu/papero_html/index.html)の井上剛伸氏は、ハンドル形電動三輪車の安定性の問題(転倒事故)に言及し、おそらく、これからの高齢者の自動車に替わる移動手段の第一候補は「パーソナルモビリティー」になるのではないかと述べています(井上剛伸:自動車に替わる移動手段の現状と展望. Geriatric Medicine Vol.50 171-174 2012)。そして、「パーソナルモビリティー」は、自動車の替わりに乗るもので、特に障害のあるなしにかかわらず利用される乗り物であり、その実例としてはトヨタ自動車株式会社が開発を進めているi-REAL(http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/personal_mobility/i-real.html)があると述べています。i-REALはホイールベースが変化し、狭い場所での移動と屋外などでの高速移動に対応可能であり実用化が期待されている状況です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第246回『注目される自動車運転の問題─買い物弱者対策も重要です』(2013年9月2日公開)
 「運転能力を向上させるようなトレーニング方法は今のところ存在しない」(飯島 節:認知症患者に自動車運転リハビリテーションは有効でしょうか? Geriatric Medicine Vol.50 183-185 2012)のが現状ですので、やはり、自動車運転中止後に移動・外出を支援する体制作りが最も重要な課題となります。
 その支援する体制作りの根底をなす考え方は、「支え合う」ということではないでしょうか。「支え合い」を実践している自治体の取り組みをご紹介し、本稿を閉じたいと思います。
 経済産業省によれば、「買い物弱者(買い物難民)」は約600万人程度と推計されております。
 「買い物弱者(買い物難民)応援マニュアル(第2版) 」(http://www.meti.go.jp/press/2011/05/20110530002/20110530002.pdf)には、買い物弱者問題を解決する4つの新事例が紹介されております。
① 身近な場所に「店を作ろう」
 やまとフレンドリーショップ(山梨県甲府市)
② 家まで「商品を届けよう」
1)まごころ宅急便(岩手県:西和賀町社会福祉協議会)
 社会福祉協議会、地元スーパー、宅配業者の協力により生まれたサービス。
 利用者からの電話注文を社会福祉協議会が受注、地元スーパーに発注し、ヤマト運輸が配達・代引きを行う。
2)宅配スーパー事業(エブリデイ・ドット・コム)
 九州の過疎地で21年に渡り宅配スーパーを直営。プッシュフォンを使って低コストでの注文受付を可能にしている。
③ 家から「出かけやすくしよう」
 デマンドバス(北杜市:東京大学):行政と大学の支援により誕生したバスサービス。バスが乗客の希望する時間・場所に合わせて運行。柔軟なルート設定が可能。

 奈良県の葛城市においては、タブレット端末を利用してネットスーパーに注文する買い物支援の試みも始められていることが報道されましたね(http://apital.asahi.com/article/news/2013062600006.html)。
 私の住む三重県でも幾つかの取り組みが始まっております。
 その代表は、いがまち地区の「お買物無料送迎バス」(http://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/2011120198.htm)です。マックスバリュの経費および三重県の地域支え合い体制づくり事業の補助金もあって実現しているようです。
 「財源」の問題は、極めて大きな課題であると思います。しかし、少子高齢化により今後も買い物弱者(買い物難民)は増加の一途を辿ると思われます。迅速に買い物支援対策に取り組まなければ、認知症高齢者による自動車運転の問題解決は望めないと思われます。

認知症と自動車運転 [認知症と自動車運転]

認知症と自動車運転

 「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル[コピーライト]」(国立長寿医療研究センター・長寿政策科学研究部)の第二版が2016年4月1日に公開されました。
 http://www.ncgg.go.jp/department/dgp/index-dgp-j.htm

 ここに記載されております事例8(「血管性認知症のKさん」)が「運転をやめないケースにおける解決に向けての具体的な道筋」を示してくれているかな・・と思いますので以下にご紹介しましょう。
 なお前置きとして、「以下の事例は、法律の上では望ましくありませんが、認知症とわかってもすぐに運転を中止出来なかった、実際の例として示しました。」と注意書きされておりますので、それを念頭に置いてお読みくださいね。
運転.JPG
 

P.S.
75歳以上の高齢運転者への臨時認知機能検査などの実施─平成29年(2017年)6月16日までに施行
 http://www.think-sp.com/2015/06/17/dokoho-kaisei-kohu-2015-6-17/
キャプチャ.JPG

 75歳以上の高齢運転者が認知機能が低下したときに起こしやすい違反行為をした場合は、「臨時認知機能検査」を行うことになります。対象となる違反行為については別途政令で定められます。
 そして臨時検査の結果、認知機能が低下している恐れがあると判断された高齢者に対しては、「臨時高齢者講習」が実施されます。
 講習は個別指導等により、認知機能の低下を自覚させ本人の状況に応じた安全な運転行動を指導するものです。
 また、認知症の恐れがあると判断された運転者に対して公安委員会は臨時適性検査(専門医による診断)を行うか、医師の診断書の提出を命じることができるようになります。専門医による診断等で認知症が認められた場合は、免許の取消しか停止が行われます。
 なお、高齢運転者が上記の臨時機能検査や臨時高齢者講習を受けなかった場合も、免許の取消し又は免許の効力停止処分が実施されます。


※私が危惧していること=認知症の専門外来がパンクする!
 以下は私の予想する「認知症外来─未来予想図Ⅱ」です。

 2015年6月に改正道路交通法が成立しており、75歳以上の人が3年に一度の免許更新時に受ける認知機能検査において、記憶力・判断力が低い(1分類:3.7%)と判定されたすべての人に医師の診断が義務づけられ、認知症と分かれば、免許は停止か取り消しになります(=改正法成立から2年以内にスタートする!)。
 現行法では、1分類で特定の違反(道路の逆走信号無視)をした人に診断の義務づけが限定されておりました。

75歳以上の運転免許保有者数(平成25年末)
 https://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/pdf/h25_main.pdf
 2,562,486+1,256,003+429,345=4,247,834
 4,247,834÷81,860,012=5.19%
 
 4,247,834×0.037÷3=52,389
 1年間に、約5万人の方が認知症の診断のために受診することになりますね。
 52,389÷1,500(専門医数)=34,9人

『かかりつけ医のための認知症診療テキスト─実践と基礎』・まえがき
 わが国の認知症患者数は、1970年代終わりから1980年代初めにかけての調査に基づき、65歳以上の高齢者の6.7%と推計されてきた。そして、それをもとに推計された2013年時点の認知症患者数は約185万人であった。しかし、2013年6月に厚生労働省から発表された「認知症有病率等調査」の結果は「高齢者の約15%, 推計462万人」というものであり、驚かれた方も多いと思われる。 それに比して、2013年12月時点の日本認知症学会の認知症認定専門医は840名、日本老年精神医学会の高齢者のこころの病と認知症に関する認定専門医は880名であり、合計l,720名に過ぎない。そして、この一部は重複するため、実際には1,500名程度であろう。これは、専門医1人につき3,000人あまりの認知症患者を担当する計算になる。また、これとは別に軽度認知障害(MCI)の人が約400万人いると推計されている。これを含めると、専門医1人につき5,700人あまりを担当しなくてはならない。仮に1人の専門医が月曜日から金曜日まで毎日10人の新患を診たとしても、全員を診るのに2年以上かかる計算になり、現実には不可能な数字である。したがって、今後は「かかりつけ医」、「認知症サポート医」が果たす役割が極めて重要になる。
【田平 武:かかりつけ医のための認知症診療テキスト─実践と基礎 診断と治療社, 東京, 2014】

 75歳以上の記憶力・判断力が低い(1分類:3.7%)方が全員、運転免許更新のために医療機関を受診するとなると、専門医一人あたり、1年間で約34,9人の鑑別診断が必要という計算になります。

認知症と自動車運転 [認知症と自動車運転]

認知症と自動車運転
 以前、この問題についてご紹介しました。
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-02-10-2

 本日の中日新聞(http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-04-27)で軽度認知障害の話題が取り上げられ、自動車運転の可否に関する問い合わせも榊原白鳳病院の方に入っておりますので、自動車運転と絡む部分の問題点を整理しておきましょう。

 警察庁は、平成27年参議院内閣委員会において、CDR(臨床認知症評価法)1の評価結果については、免許の拒否、取消しに該当すると答弁しています。
 http://www.hcd-japan.com/drive/2016ninchishou.htm
 従いまして、CDR0.5に該当する軽度認知障害(MCI)に関しては、「免許の取り消し」には該当しません
 ただし、以下に留意する必要があります。
 
軽度認知障害(MCI)への対応
 認知症ではないが認知機能の低下がみられ今後認知症となるおそれがある場合医師が「軽度の認知機能の低下が認められる」「境界状態にある」「認知症の疑いがある」等の診断を行った場合には、その後認知症となる可能性があることから、6ヵ月後に臨時適性検査を行うこととする。なお、医師の診断結果を踏まえて、より長い期間や短い期間を定めることも可能である。(ただし、長期の場合は最長1年とする。
警察庁通達「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」(H27/8/3より)
 このように、軽度認知障害の場合の臨時適性検査では、免許は有効のまま、6ヵ月後の再検査となる可能性があります。

CDR0.5
 認知症疑い,もしくは軽度認知障害(MCI)。軽い物忘れがあり,それが毎週,もしくは毎月のように,一貫して認められる。“家族で旅行に行った”などの「出来事の枠組み」は保たれており,旅行に行ったこと自体を忘れるわけではない。したがって,生活に支障をきたすほどではない。自分で物忘れを自覚しているとは限らないが,家族に物忘れを指摘されて,憂うつになっていることもある。「年のせい」と思われていることがほとんどである。自分では,家電製品の使い方が不得手になったり,地域における行動範囲が狭くなったりする自覚がある。しかし,何とかひとりで生活することができる。
CDR1
 軽度認知症。物忘れがあり,「出来事の枠組み」が障害され,家族で旅行に行ったこと自体を忘れてしまう。「財布を嫁が盗った」などの物盗られ妄想や,話を作って取り繕うことがみられる場合もある。したがって,生活に支障をきたすほどの物忘れがある。今日の日付が不確かで,たまに道に迷うこともある。家庭生活は,明らかに以前に比べて低下しており,ひとりで生活することができない。地域の老人会にも,ひとりで参加することができない。しかし,久しぶりに会った遠い親戚には,異常を気づかれないこともある。家族に連れられて,物忘れ外来を受診するレベル。
 【目黒謙一:認知症早期発見のためのCDR判定ハンドブック. 医学書院, 東京, 2008, pp21-22】

P.S.
 少々古い論文にはなりますが、CLINICIAN Vol.53 no.548 2006年4月号(http://www.e-clinician.net/vol53/no548/)にも「認知症患者の自動車運転をどのように考えるべきですか」というタイトルの記述があり参考になると思いますのでご紹介しておきましょう。
 認知機能障害における自動車運転可否の厳重化には、「告知」問題も深く絡んでいるということを念頭に置いておく必要があります。

かかりつけ医のための認知症Q&A―問題となる認知症患者への対応
 http://www.e-clinician.net/vol53/no548/pdf/sp_548_04.pdf

Q:
 認知症患者の自動車運転をどのように考えるべきですか
A
 回答者:上村直人

はじめに
認知症患者の自動車運転の実態と問題点

主治医提出の運転能力に関する診断書について
 改正道交法第103条第1項の規定により公安委員会は表①に示すような診断書を主治医に対して提出させて免許更新の是非の判断を行う。すなわち、医師は何らかの形で患者の自動車運転能力の評価に関わるようになった。その診断書で記載に必要な事項の主な点は、病名、病歴、現在症、重症度などの医学的判断に加え、自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断、または操作に関する現時点での病状に関する意見と、現時点での病状を踏まえた今後の見通しについての意見を検討し、診断書に記載しなければならない。認知症患者の本診断書提出に医師が関わることの問題点について筆者はこれまでにも指摘したが、これまで認知症患者の運転能力について医学的に十分検討されているとはいえず、現在の病状についての評価は困難である。また今後の見通しについては認知症の場合は基本的に慢性進行性の疾患であるため、免許保留もしくは停止条件を満たすが、認知症の運転能力の予後予測とはなっていない。そのため、認知症患者に関する運転能力の診断書提出を求められた場合は運転能力よりも、認知症の現在の状態や重症度を詳細に記載することが現実的な対応といえる。さらなる課題は診断書提出後、公安委員会は警察庁の通達により、アルツハイマー病と血管性痴呆と診断された場合、免許停止と判断することになっている。つまり診断書では運転能力の評価を医師に求めながら、実際の免許停止などは病名で行われている。これらの問題点についてもまだまだ検討が必要であるが、現在最も懸念されることは、認知症から話題がそれてしまうが、このような運転免許行政に医師が関わるようになったこと自体をほとんどの臨床医が知らないことである。

認知症ドライバーに関する医学的ガイドラインと研究動向
 近年、認知症の自動車運転に関しては欧米を中心に医学的ガイドラインが作成され邦訳もされている。しかしながら表②に示すように神経学会と精神医学会でも内容は多少異なっている。
認知症患者の自動車運転.jpg
 例えば両者とも認知症の重症度評価であるClinical Dementia Rating(CDR)を判断基準としているが、医師の運転中断勧告はCDR1の軽度レベルか、CDR2の中等度レベルかでも対応が異なっている。またCDRでは評価しにくい前頭側頭葉変性症やレビー小体型認知症などではどのように運転能力を評価すべきかが今後の課題といえる。認知症患者の運転に関する研究面ではRegerらは認知症患者の運転能力の予測は、頭頂葉機能が最も優れているなどのメタアナリシスを報告しているが、O'Nellが指摘しているように運転の問題を医学的視点で行うこと自体が研究として注目されてこなかった歴史が、現在の対応の遅れを及ぼしているとも考えられるため、今後わが国でも症例の積み重ねが必要であろう。

現状と今後の課題:認知症ドライバーに対して今できることと今後の対策
 現時点では、認知症患者の運転免許をどのように考えるかの臨床的な指針やガイドラインは不十分であるといわざるをえない。その要因は、認知症と運転の関連性という問題が医学、免許行政、交通安全など多領域にまたがるため、それぞれの専門領域の連携と協力体制が十分構築されてこなかったことがある。しかしながら、これからも臨床家の目の前にはますます多くの運転免許を保持した認知症患者が現れ、運転についての判断を求められる機会が増えていく。そして、主治医やかかりつけ医が認知症を診断し、その告知を行い、運転免許を持っている患者に対して中断勧告を行えば、法的に医師はその役割りを終えるかもしれない。しかしながら告知を受け、運転を止めなければならないと宣告された患者本人や家族には運転を中断すると通院できない、生活必需品を購入できなくなる、都市部に引越しするかどうかなど、その後の生活を考えていかねばならない現実的な問題も残されている。すなわち、臨床医にとっては病気の告知などの説明、運転に関する注意義務を行ったあと、認知症の患者や家族の生活を支援し、指導していくガイドラインが必要不可欠である。そこで、まずかかりつけ医や臨床医が取り組むべき対応・方法として、①正確な認知症の診断・認知症の原因疾患を特定し、疾患自体の治療を検討する。②認知症の疾患特性と運転行動の評価を行い、その内容をカルテに記載しておく。③医学的生活指導の検討のため、認知症の告知について検討し、④その上で運転上問題が生じている場合は、免許センターへの高齢者適性相談を勧める。これは各都道府県に設置されており、専門の係官が相談窓口となっている。⑤運転適性検査の実施の検討:患者本人の同意が必要となるが、都道府県免許センターでは臨時適性検査など、実際にセンター内において実車テストを行い、専門官からの評価を受けることができる。

おわりに
 これまで本邦では、認知症患者の運転問題は医学的にも注目されてこなかった。しかし2002年の改正道交法施行後、主治医やかかりつけ医が何らかの形で関わらざるをえない状況になった。そのため、今後は認知症ドライバーの実証研究の積み重ねと、医学、警察、行政の連携や協力体制の構築が喫緊に必要である。 (高知大学医学部附属病院 神経科精神科)

文献
 (省略)
 【上村直人:認知症患者の自動車運転をどのように考えるべきですか. CLINICIAN Vol.53 no.548 2006年4月号 pp15-21】

認知症と自動車運転 [認知症と自動車運転]

 警察庁によると、七十五歳以上の人が起こした死亡事故は、2014年に471件発生。このうち181件で、免許更新時の検査で認知症の疑いがあるか、認知症の前段階である認知機能低下の恐れがあるとされた。七十五歳未満は統計自体がないが、事故を起こす危険性はあるとみられる。【2016年2月10日付中日新聞】

関連記事
http://www.osaka-ikuseikai.or.jp/titititi/titititi/titititi2501.pdf
社説:認知症と運転/公共交通の整備も必要だ【神戸新聞2015年6月18日】
 年を取るにつれ判断力や記憶力は低下する。誰もが避けては通れない道だ。車を運転する場合、ハンドル操作やブレーキの遅れが重大事故につながりかねない。
 改正道交法が成立し、75歳以上の高齢ドライバーに対する認知機能検査の強化が打ち出された。
 認知症が疑われる高齢者の交通事故が、検査を導入した2009年以降も後を絶たない実態がある。検査の強化はやむを得ないだろう。
 警察庁によると、交通事故による死者は昨年まで14年連続で減少している。ところが昨年、75歳以上のドライバーが起こした死亡事故は471件を数え、前年を13件上回った。うち181件は、免許更新時の検査で認知症、もしくは認知機能低下の恐れを指摘されたドライバーが起こした事故である。
 最近は、高速道路の逆走による事故が相次ぐなど深刻化している。
 改正法は、検査で認知症の恐れがあると判定された全ての人に、医師の診断書の提出を義務付ける。発症していたら運転免許の停止か、取り消しとなる。
 「認知症の恐れあり」とされても、過去1年間に信号無視などの違反がなければ、医師の診断なしで免許が更新できる現行制度に比べ、格段に厳しい基準と言える。
 認知症という特定の病名を挙げての免許制限を「差別」と批判する専門家もいる。ただ、惨事を防ぐには、ドライバーの自覚とともに危険な兆候を見落とさない、厳格なチェックシステムは必要だ。
 一方、タクシーや路線バスのない地域では、運転の機会を奪われれば、買い物や通院など日常生活にたちまち多大な影響が及ぶ。
 厚生労働省によると、25年には65歳以上の5人に1人が認知症と推計される。こうした高齢者の暮らしを支えるには、免許やマイカーがなくても自由に移動ができる公共交通機関の整備が欠かせない。
 兵庫県内では豊岡市が、路線バスの廃止された地域に、低料金の乗り合いタクシーを導入、住民の足として利用されている。都市部で検討されている次世代型路面電車(LRT)も整備を進めたい。
 利便性を損なわずに安全性を高めるには何を優先すべきか。高齢化、人口減少社会における公共交通の在り方を問い直す機会としたい。



 参考資料として、2013年8月26日に公開されました朝日新聞社・医療ブログ『ひょっとして認知症?』の第239回『注目される自動車運転の問題─運転のできるできないは判定が難しい』を以下にご紹介しましょう。

 MMSE(Mini-Mental State Examination)と運転能力の相関についても報告されています。
 「認知症ガイドラインは、軽度の認知症の場合、運転が可能か否かを明確に判定することはできないとしている。精神測定検査は認知機能障害の客観化には有用であるが、その結果と運転能力との相関は低く、MMSEとの相関係数は0.4~0.6にすぎない。臨床認知症尺度(Clinical Dementia Rating;CDR)の方が信頼性は高いが、検査に30~45分かかるため、診療所での実施には向かない。」(家庭医による運転適性の評価では認知機能の検査が鍵. 2012年3月15日号Medical Tribune Vol.45 No.11 50 2012)。
 ですから、改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)やMMSEといった簡易な認知機能検査では、運転能力の有無を判定することは困難ということになりますね。
 ただ、一方では以下のような指摘もありますので(一部改変)、MMSEの実施も一応の目安にはなりそうです。
 「CDR2以上ではきわめて危険であり、運転中止を強く勧告すべきであるとしている。一方、CDR0.5から1の段階では、他の危険因子の有無によって危険の程度は異なり、その中で最も重要なのは介護者(同乗者)による危険性の指摘であるとしている。その他の危険因子としては、違反歴、事故歴、走行距離の短縮、夜間などの運転回避、攻撃性や衝動性、MMSE24点以下などがあげられている。」(飯島 節:認知症と運転免許. Medical Practice Vol.29 795-798 2012)

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 2014年5月某日の物忘れ外来には、「講習予備検査(認知機能の検査)」で判断力や記憶力が低いと評価され、物忘れ外来を受診するように言われた患者さんが他院よりの紹介にて来院されました。
 シリーズ第239回「注目される自動車運転の問題─運転のできるできないは判定が難しい」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081400010.html)において述べましたように、「CDR2以上ではきわめて危険であり、運転中止を強く勧告すべきであるとしている。一方、CDR0.5から1の段階では、他の危険因子の有無によって危険の程度は異なり、その中で最も重要なのは介護者(同乗者)による危険性の指摘であるとしている。その他の危険因子としては、違反歴、事故歴、走行距離の短縮、夜間などの運転回避、攻撃性や衝動性、MMSE24点以下などがあげられている。」(飯島 節:認知症と運転免許. Medical Practice Vol.29 795-798 2012)と報告されておりますので、CDR(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013030600003.html)などを施行致しました。

私がご本人およびご家族に説明した内容は以下です。
 HDS-R(http://apital.asahi.com/article/kasama/2012122500015.html)がカットオフ値以下であり、MRIで脳萎縮を認めます。症状と合わせて総合的に判断しますと、「初期のアルツハイマー型認知症」と思われます。薬を開始して、少しでも進行を遅らせるようにしましょう。
 CDRは、現段階では「1」と評価されます。車の運転は、自分だけの問題ではありませんので、運転免許の自主的な返納をされた方が良いと私は思います。
 以上の説明をした上で、アピタルシリーズ第239回『注目される自動車運転の問題─運転のできるできないは判定が難しい』をコピーしたものも参考資料としてお渡ししました。

P.S.
 ご家族のお話では、運転免許更新手続きの2日後に,運転免許センターからTELが入り、「更新は可能ですが、一度、きちんと検査してもらった方が良いですよ」と言われたものの診断書をもらってくるようにとは言われていないそうです。
 シリーズ第243回「注目される自動車運転の問題─75歳以上に課せられた認知機能検査」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081500012.html)にてご紹介しましたように、「講習予備検査」の検査結果によって、受験者は第1分類(認知症のおそれがある者)、第2分類(認知機能が低下しているおそれがある者)、第3分類(以上のおそれがない者)に区分され、その場で書面にて本人に通知されます。
 第1分類に該当する者のうち、免許期間満了日までの1年間に信号無視・一時不停止などの基準行為をしていた場合や、更新後に基準行為をした場合は、臨時適性検査と呼ばれる専門医による診断か主治医の診断書の提出が求められます。臨時適性検査により、認知症と判明すれば、免許の取り消し・停止が行われます。
 この方は追突事故を最近起こしてはいるものの、基準行為は犯しておりませんので、「講習予備検査」の結果が第1分類であったのか第2分類だったのかは不明です。
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