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アルツハイマー病(AD)発症率の低下との関連が認められた介入法は次のうちどれか? [認知症予防]

アルツハイマー病発症率低下と関連が認められた介入法は? 【m3クイズ

問題
 調整済みおよび未調整モデルのいずれにおいても、アルツハイマー病(AD)発症率の低下との関連が認められた介入法は次のうちどれか。【「SmartestDoc米国版」より出題】

A 2年間の運動療法

B 複数のサプリメントを3年間摂取(n-3多価不飽和脂肪酸、イチョウ葉エキス、リコピン含有カプセルを摂取)

C どちらも正しい


正解
 クイズ正解.JPG

100歳の美しい脳 [認知症予防]

認知症予防へ大型調査
 精神・神経センター
 生活習慣、まず8000人

 認知症予防に役立てるため、40歳以上の健康な人にインターネットで登録してもらい、定期的なアンケートを通じて発症に関わる生活習慣のリスクを探る研究を始めると国立精神・神経医療研究センターなどが22日、発表した。
 本年度は8千人、5年間で数万人の登録を計画しており、患者ではない人を対象とした初の大規模研究。7月5日からホームページで登録を受け付ける。
 認知症の多くは、長期間かけて軽度認知障害などを経て発症し、予防や超早期の発見が課題。食事や運動などの生活習慣が発症に関わる可能性も指摘されている。
 希望者は氏名や性別、学歴などの基本情報を登録し、病歴や睡眠、食生活、日常の認知機能などに関する約160項目のアンケートに答える。その後、電話で単語の記憶を確かめる検査も受ける。アンケートと検査は半年ごとに繰り返す。
 研究チームは大量に集めたデータを分析。記憶力の低下につながる生活習慣の要因を調べ、発症の予防に役立てることを目指す。
 登録者には、認知症に関する最新の医療などの情報が提供され、希望すれば開発中の治療薬や予防薬の治験に参加するための案内も届く。
 【2016.6.23日付日本経済新聞・社会】

私の感想
 朝日新聞は、このニュースに関して以下のように伝えております。
 
 登録システムを使うことで、例えば、運動プログラムに参加する人としない人に分けて認知機能の変化を長期間追跡するといった大規模な比較研究が可能になるという。
 アルツハイマー病の治療薬を開発するための臨床試験(治験)への活用も想定。
アルツ八イマl病は今後急増することが予想されているが、症状が進むと根本的に治酪できる薬が今のところない。′欧米では、発症前や軽度認知障害(MCI)、発症早期の各段階で治験が進んでおり、日本でも取り組む必要があるという。
 希望者は登録サイト(iroop.jp)から軒し込む。 (瀬川茂子)

 すごく短い登録アドレスですね。
 jp除くと5文字とは。確かにこれだけの入力でウェブサイト(http://iroop.jp/WWW)にリンクしました。

 研究の意義は感じるのです・・。
 どうせ大掛かりな検討をするのなら、あの歴史的成果(「20歳代前半という、非常に若い時期の言語能力、特に文章作成能力を調べることで、約60年後の認知症の発症を予想できる」?!)の検証もして欲しいものですね。


第526回 ■100歳の美しい脳(その7) 若い時の文章作成能力が将来を決める
 東北大学加齢医学研究所脳科学研究部門老年医学分野の古川勝敏准教授は、前述のJAMAの論文(Vol.275 528-532 1996)について以下のように解説しています(古川勝敏:Nun研究 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 607-610 2011)。
 「この論文では『93人の修道女を調査し、20歳代前半で書かれた自叙伝における“grammatical complexity:文法の複雑さ”と“idea density:意味密度”が、晩年期(70-90歳代)の“認知機能”、および“アルツハイマー病の発症”と有意な相関がある』という結果を報告している。すなわち20歳代前半という、非常に若い時期の言語能力、特に文章作成能力を調べることで、約60年後の認知症の発症を予想できるという驚愕に値する知見である。年齢、教育歴を補正し、認知症のスクリーニング検査であるMini-Mental State Examination(MMSE)が低値になるリスクについて調べた場合、言語能力の低値者の高値者に対するオッズ比は30.8と極めて高い値を示していた。ちなみに文法の複雑さと意味密度を比較した場合は意味密度の方が認知機能低下に対する相関が強いようである。」
 オッズ比については、下記メモ3をご参照下さい。

メモ3:オッズ比
 オッズ比とは、オッズ(Odds)の比のことです。
 ある事象の起きる確率(P)と起きない確率(1-P)の比であるP/(1-P)がオッズです。
 例えば、ある事象が起きる確率が80%(0.8)だったとすると、事象の起きない確率は20%(1-0.8)であり、オッズは、0.8/(1-0.8)すなわち4です。これは起きる確率は、起きない確率の4倍であることを意味します。
 オッズ比は、ある条件におけるオッズと別の条件におけるオッズの比です。
 例えば、投薬群において、事象の起きる確率が50%(0.5)だとすると、起きない確率は50%(1-0.5)となりますのでオッズは1です。
 非投薬群において、事象の起きる確率が80%(0.8)だとすると、起きない確率は20%(1-0.8)となります。オッズは4です(0.8/0.2)。
 事象が起きる確率は、投薬群のオッズが1、非投薬群のオッズが4です。このときの比がオッズ比になります。つまり、投薬群に対して非投薬群のオッズは4倍(オッズ比:4)になり、非投薬群のほうが投薬群よりも4倍事象が起きやすいことになります。
 このように、オッズ比が1より大きい時は、疾患に罹りやすいことを意味します。逆に、オッズ比が1より小さい時は、疾患に罹りにくいことを意味します。


第527回 ■100歳の美しい脳(その8) 病気発症のリスク情報は諸刃の剣
 群馬大学大学院保健学研究科の山口晴保教授は、著書(認知症予防 ─読めば納得! 脳を守るライフスタイルの秘訣─ 協同医書出版社発行, 東京, 2010, p28)の中で、リスク比とオッズ比に関して分かりやすく解説しております。以下にご紹介します。
 「コホート研究では、一定の住民集団(コホート)を長期間にわたり追跡・観察して、その間に病気を発症した方と発症しなかった方の因子を比較します。具体例で説明しましょう。ある町に住む1,000名の高齢者集団を、10年間経過観察します。そして、この10年間の調査期間中にアルツハイマー病を発症した方と発症しなかった方で、調査項目(血圧、食事や運動、内服薬、歯の数、肥満など)にどのような差があるかを検討します。例えば、運動をしていた方ではアルツハイマー病が4%に発症し、運動をしなかった方では12%に発症したとすると、運動でアルツハイマー病のリスクが4/12=1/3(0.33)に低下するとわかります(リスク比0.33となります)。このように、コホート研究は、調査を開始した時点の生活状況と、スタートから未来に向かう調査期間中の発病との関係を研究するので、前向き研究といわれます。コホート研究は信頼性が高いのですが、観察期間中の発病をみるので、5年とか10年先にならないと結果が出ないという難点があります。
 一方、症例対照研究(ケースコントロール研究)は、例えば、ある病院の外来で診療を受けているアルツハイマー病の患者100名と、年齢や性別などを一致させた健常な対照群100名を選び、両群の間で過去の生活歴などを比較します。すると、例えば、魚の摂取量が多いとアルツハイマー病のリスクが減るといったような結果が出てきます。症例対照研究では、リスクの程度がオッズ比で示されます。症例対照研究は過去の状況(ライフスタイル)を調べるので、後ろ向き研究といわれます。利点は短時間で結果が出ることです。」

 東北大学加齢医学研究所脳科学研究部門老年医学分野の古川勝敏准教授は、前述のJAMAの論文(Vol.275 528-532 1996)の後日談も紹介しています(古川勝敏:Nun研究 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 607-610 2011)。
 「この論文の発表後、若い頃の文章能力で晩年のアルツハイマー病の発症を予測できるということで、Dr.Snowdonのところには各方面から種々の問い合わせが殺到した。例えば保険会社から『アルツハイマー病になりやすいかどうかを調べるために、ペンと紙で文章を書かせる検査を標準化してほしい』という依頼があったようである。彼はもちろんその依頼を断ったが、彼は遺伝子情報も含むこうした疾病発症リスクの情報は『諸刃の剣』だと警告する。それらの情報は我々の行く先を照らしてくれる明りであろうが、ひとつ使い方を間違えれば我々の生活を真っ暗にすることもあるのだ、と彼は訴える。」


第528回 ■100歳の美しい脳(その9) ♪ 火曜生まれはおしとやか
 シスター・ドロシー(86歳)が、20歳のとき(1928年)に書いた自伝を以下にご紹介します。
 「教会に行くたびに、私は殉教を願って祈りました。教会に日参し、聖心に気持ちを捧げていれば、イエスの御心は私の願いを快く聞きいれてくださると思います。修道女になることは、一種の殉教なのですから。」(David Snowdon:100歳の美しい脳 藤井留美訳 DHC, 2004, p137)
 「シスター・ドロシーは1997年11月3日、89歳でこの世を去った。死因は心臓病だった。精神検査を何度受けても、知的機能にまったく問題は見られず、看護師たちの話によると、死んだ当日も頭ははっきりしていたという。彼女の脳を解剖したところ、海馬にほんのわずかな神経原線維変化が見られたものの、新皮質には皆無だった。シスター・ドロシーが、最期まで言葉の力を保ちつづけ、そこからさまざまな喜びを得ていたと知って、私はとてもうれしかった。」(David Snowdon:100歳の美しい脳 藤井留美訳 DHC, 2004, p156)
 余談になりますが、京都大学名誉教授の久保田競先生は、「文章を書く行為は、脳の記憶の中枢を担う海馬や前頭前野の活性化に役立つ」ことを紹介し(夢21 わかさ出版 p35-36 2011年5月号)、「未来日記」を書くことを勧めておられます。

 さてその後、1999年になって自伝への関心が二人の研究者(デボラ・ダナー、ウォレス・フリーセン)の検討によって再び高まりました。180名の修道女が平均22歳で書いた自伝を詳細に分析したところ、「前向きな感情表現」の豊富さは、60年以上先に健在であるかどうかをはっきりと予見していたのです。
 以下にご紹介しますのは、自伝にポジティブな表現をちりばめており最も長寿グループに属していたシスター・ジュネヴィーヴが書いた自伝の冒頭です。

 「生まれて最初に見たのが火曜日正午の光だったという話を聞いて、すぐ頭に浮かんだのは、生まれた曜日で将来がわかるという古い童謡でした。その童謡はこんな風に歌っています。
 月曜生まれの子どもは色白になり、
 火曜生まれはおしとやか─
 物心ついたときから修道女になることを夢見ていたなどと、もっともらしいことは書きたくありませんが、少なくともそれは私にとって良い励みとなり、めざすべき理想でもありました。」

 さて皆さん、このシスター・ジュネヴィーヴの自伝のどの部分が「前向きな感情表現」なのか分かりますか? 今すぐに知りたい方は、『100歳の美しい脳』の第11章(感謝の思い)をお読み下さいね。正解はp243に記載されています。
 とは言いましても、超人気図書である『100歳の美しい脳』を入手されることはなかなか困難だと思われます。
 『ひょっとして認知症?』Part1はまもなく終了致しますが、『ひょっとして認知症?』Part2のなかで正解をきちんとお伝えしたいと思っております。今しばらくお待ち下さいね。


第529回 ■100歳の美しい脳(その10) 高い教育が認知症を防ぐか
 高い教育水準がアルツハイマー型認知症を予防するのかどうかは未解明の大きな研究テーマです。
 アルツハイマー型認知症と教育の関係についての議論をまとめた論文があります。論文は、東京慈恵会医科大学精神医学講座の品川俊一郎医師と首都大学東京健康福祉学部の繁田雅弘教授の共著です(品川俊一郎、繁田雅弘:アルツハイマー型痴呆と教育 老年精神医学雑誌 Vol.16 461-465 2005)。一部改変して以下にご紹介します。
 「疫学調査を中心として、アルツハイマー型認知症(AD)と教育についての報告は数多い。教育水準が低いとADの発症率や有病率が高くなるという報告が多い一方、関連に懐疑的なものもある。このような不一致の背景には、認知機能検査の得点が教育水準の影響を受けるといったスクリーニングの問題や、教育水準は単に教育年数という単一因子のみならず、その後の職業や社会経済状況、ライフスタイルに関連するといった交絡因子の問題が存在する。
 交絡因子が大きい場合、教育歴そのものの影響を議論することが困難なことも問題になる。たとえば高い教育を受けた者は仕事や生活でより高い認知機能を行使していると考えられ、それらが複合的に作用して認知症発症の危険をさげているとも考えられる。
 見解の一致をみていないなかで、比較的信頼性の高いデータとして、オランダのRotterdam study、デンマークのOdense研究、フランスのPAQUID、イギリスのMRC-ALPHAといったコホート研究をメタアナリシスで解析したEURODEM(European Studies of Dementia)研究がある。これによると、教育歴が低いほうがADになりやすく、8年以下の教育歴の人は、11年以上の人の約2倍の相対危険率をもったという。性別と教育歴との関連で比較すると、とくに女性においてその差が強くなり、女性においては相対危険率が4.5倍となったという。低学歴はとくに女性においてADの発症リスクを有意に高くするとした結論であった。
 教育歴との交絡因子の問題に対して、職業や社会経済状況、生活環境がほぼ均一であると考えられる修道女をフィールドとして用いた調査もある。Snowdonらは修道女を対象とした調査で、若年での言語能力が老年期の認知機能や認知症発症に影響していると報告した。この結果は、教育水準が環境要因による影響を受けず、ADの危険因子であることを支持している。
 教育歴がAD発症に影響する機序として広く受け入れられている意見は、高い教育歴を有するものは知的な刺激により大脳シナプスの密度が増加し、神経ネットワークが密になり、ADの症状発現に対する防御効果を有するようになるのではないかというものである。Katzmanはこの予防効果を強調して大脳予備能(brain reserve)という概念を提唱した。これは、たとえADの病理変化による神経細胞死が起こっても、予備能の容量が大きければ臨床的な認知症が顕在化しにくく、高い教育歴が認知症発症の閾値を高くするという考え方である。」


第530回 ■100歳の美しい脳(その11) たくさん本を読んで、手紙も書いて
 Katzmanによる研究データは、シリーズ第57回『高齢シスターの脳は明せきだった・その1』において紹介しておりますのでご参照下さい。
 大脳予備能(brain reserve)の話は、シリーズ第302回『確実に認知症を予防できる方法はまだない』のコメント欄においてもご紹介しております。

 高教育歴がアルツハイマー病(AD)の症状発現に対する防御効果を有するということは、取りも直さず、高教育歴はADの「発症遅延」に関連するということになりますね。実際にそのような報告もされております(Roe CM et al:Cerebrospinal fluid biomarkers, education, brain volume, and future cognition. Arch Neurol Vol.68 1145-1151 2011)。この論文は、ネット上においても閲覧可能です(http://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?volume=68&issue=9&page=1145)。
 このように、認知予備能力(cognitive reserve;CR)が高い人ではADの発症が遅れることになります。
 しかしながら、教育レベルや読み書きのレベルが高いと、いったんADになったときには進行が速いことが知られております。例えば、「若年発症、高教育歴、高血圧合併例では進行が速い」(Hirofumi Sakurai, Haruo Hanyu et al:Vascular risk factors and progression in Alzheimer's disease. Geriatrics and Gerontology International Vol.11 211-214 2011)という報告がされております。
 2012年7月12日に三重県津市で開催された認知症学術講演会において、東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授が上記報告に関するスライドを提示され、「高教育歴は発症を遅らせるが、発症した時点では既に病理病変はかなり進行しているため、いったん発症するとその進行は速い。」と説明されました。

 2012年8月3日付『やさしい医学リポート』において坪野吉孝先生は、「『生きる目的』が強い高齢者では、アルツハイマー病に特徴的な脳の病理学的変化が進んでいても、物忘れなどの認知機能の低下が少ない」ということが報告されている論文をご紹介されましたね。
 私もこの論文には強い関心を持ちました。「人生に大きな目標をもっている人は、目標の少ない人に比べて、認知力低下の速度が30%遅かった。」と記載されていたことがとても印象に残っています。
 シリーズ第58回『高齢シスターの脳は明せきだった(その2)』において私は、「生きがい尺度の高得点者は、低得点者よりもアルツハイマー病を発症せずにすむ可能性がおよそ2.4倍高かった」(Patricia AB et al:Effect of a Purpose in Life on Risk of Incident Alzheimer Disease and Mild Cognitive Impairment in Community-Dwelling Older Persons. Arch General Psychiatry Vol.67 304-310 2010)というデータもご紹介しております。この論文はウェブサイト(http://archpsyc.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=210648)において閲覧可能です。
 高齢者の生きがいを高めるために介入を加えることは、認知症予防にも繋がるわけですから、しっかりと取り組む必要がある課題ですね。

 群馬大学大学院保健学研究科の山口晴保教授は著書の中で、「教育歴」に関する重要な提言をされております。山口晴保教授の言葉を最後にご紹介して『ひょっとして認知症?』をひとまず閉じたいと思います。
 「教育歴については、いくつかの疫学研究で、教育歴が長いほど認知症リスクが低減することが知られています。例えば、中年期の肥満や高血圧のリスクを示したスウェーデンの疫学研究では、教育歴が1年長くなるごとに認知症のリスクが0.86倍と少し低くなることを示しています。ただ、例えば、教育歴が短いほど肥満の割合が高いとか、健康への配慮が少ないなど、背景にある別の因子が関与しているのかもしれません。教育歴は過去のことですから、こんなことを今さら言われても…となってしまいます。筆者の言いたいことは、教育歴の短い人ほどたくさん本を読んで下さい、手紙を書いて下さいということです。教育歴の長い方が認知症になりにくいのは、認知機能が比較的高いところから落ちていくので低くなるまでに時間がかかると解釈されます。はじめの位置が比較的低いほうにあると思われる方は、年々落ちていくスピードを緩める努力が必要です。それには、たくさん本を読んで知識を増やし、新しいことにどんどん挑戦して能力を伸ばすことが大切だと思います。」(認知症予防 ─読めば納得! 脳を守るライフスタイルの秘訣─ 協同医書出版社発行, 東京, 2010, p192)

認知症予防は筋トレと昼寝─八つの予兆を見逃さずに対策を [認知症予防]

認知症予防は筋トレと昼寝─八つの予兆を見逃さずに対策を
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 私のクリニック(メモリークリニックお茶の水)は認知症の早期発見と早期治療を専門とし、昨年九月の開業以来、認知症ではないかと心配する方が多数来院されています。
 次のような兆候があれば、MCI(軽度認知障害)の可能性が高いと思われます。
最近の出来事が思い出せない
 本人と家族が最も気づきやすいのが物忘れです。物忘れといっても、外出時に財布を置き忘れた、腕時計をどこに置いたか思い出せないなどは単なる不注意が原因でしょう。
 MCIに特徴的な物忘れとは、例えば一週間前に親戚の結婚式に出席したことを思い出せない、というような、エピソード記憶の欠落です。これが頻繁になると、要注意です。
テレビドラマが理解できない
薬を飲んだか分からない
会議の流れが理解できない
 働いている人では、会議中の、議論についていけないということが起こります。最終的に結論が出ても、なぜそうなったのか理解できません。初期段階では、同僚に難聴を疑われるのですが、声は聞こえていても会話の中身についていけないのです。
通い慣れた道で迷子になる
料理が苦手になる
 料理が得意だった人が急に苦手になるケースは女性によく見られます。料理のレパートリーが狭くなり、味は濃くなるのが特徴です。料理は高度な知的作業ですから、認知機能が低下すると段取りができなくなり、簡単な料理でも時間が以前の何倍もかかります。
財布が千円札で膨らんでいる
 お財布の中身から認知障害がチェックできます。例えば代金が三千七百円なら、ぴったりその金額がなければ、普通は四千円を払い、お釣りをもらう。その計算が出来なくなると、やたらと一万円札を出してお釣りをもらうようになります。結果、財布の中は千円札と小銭でいっぱいになるのです。
長年の趣味をやめてしまう
 MCIの患者さんで、長年の趣味を急にやめた方は珍しくありません。例えば茶道、華道を四十年以上つづけ、弟子が数十人いた方が「面白くなくなった」とやめてしまう。何に対しても「億劫だから」というようになり、生活の意欲や主体性を失ってしまいます。友人と旅行を計画しても、ドタキャンすることが増えます。当日が近づくと「あの人と一緒なのは面倒だ」などとネガティブな気分になるからです。意欲の喪失は、MCIの兆候といえます。
 ではMCIを予防するには、どうすればよいのか。基本的には食事、運動、睡眠が大切になります。
 食事面から見ていきましょう。例えば、「認知症予防にブロッコリー」という話をよく聞きます。誤りでないのですが、何より大切なのは栄養のバランス。魚介、野菜、果物を中心に一日二十~三十品目を食べるのが目標です。そのうえで意識的に摂るなら抗酸化物質を多く含む食べ物がおすすめです。抗酸化物質は、老化の原因とされるフリーラジカルの発生を抑える効果があり、ビタミンACEなどはその代表です。中でも注目したいのはサバ、イワシなどの青魚やアマニ油、エゴマ油(シソ油)に多く含まれている不飽和脂肪酸のオメガ3です。私たちの脳みそは約六〇%が脂質で、それがオメガ3です。
 以下省略
 【朝田 隆:認知症予防は筋トレと昼寝. 文藝春秋第九十四巻第七号 293-297 2016】

私の感想:
 さすが、私が尊敬する恩師! ①~⑧がコンパクトによくまとめられております。
 ⑧の「長年の趣味をやめてしまう」について若干補足しておきたいと思います。
 朝田 隆先生(元筑波大学精神神経科教授)は、多くの読者が医療関係者以外であることを想定して「意欲の喪失」と表現しておりますが「アパシー」のことを言っておられますね。


 アパシーおよび「MCIとADの境界」に関しては、朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第31回 『認知症の代表的疾患─レビー小体型認知症 もの忘れを自覚することの多いレビー小体型』(2013年1月14日公開)が参考になると思いますので以下にご紹介いたします。

《31》認知症の代表的疾患─レビー小体型認知症 もの忘れを自覚することの多いレビー小体型
 もの忘れに関しても、DLBにおいては内省できることが多いことが報告されています。
 アルツハイマー病では、初期ですらもの忘れを自覚していないケースが多いです。一方、DLBでは、初期においてはもの忘れを自覚しているケースが多いのです。
 東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授は、疾患別の病識の有無について検討しており、「有意な認知機能障害を認めない老年者コントロールの病識低下度の平均+2標準偏差を超えるものを病識低下ありと定義すると、AD(アルツハイマー病)群の65%、MCI(軽度認知障害)群の34%、DLB(レビー小体型認知症)群の6%、VaD(血管性認知症)群の36%が該当し、AD群が最も多く、DLB群は最も少なかった。」(羽生春夫:老年期認知症患者の病識―生活健忘チェックリストを用い、介護者を対照とした研究―. 日本老年医学会雑誌 Vol.44 No.4 463-469 2007)と報告しております。

メモ:内省
 「記憶、見当識、思考、言葉や数の抽象化機能などは、日常生活を送っていく上でそれぞれがとても大切な機能である。しかし、暮らしのなかでは、これらの機能一つひとつがバラバラに役立っているわけではない。複数の知的道具あるいは要素的知能を組み合わせて使いこなす『何か』がなけれはならないはずである。それを知的主体あるいは知的『私』とよぶことにすると、そこに障害が及ぶのである。だから、認知症を病む人は、いろいろなことができなくなるという以上に、『私が壊れる!』と正しく感じとるのである。
 知的主体などという硬い言葉ではなく、もう少しうまい言葉が見つかればよいのだが、学者も苦労してこの『何か』を『内省能力』(ツット)、『本来の知能』(ヤスパース)、『知的人格』『知的スーパーバイザー』(室伏)などと名づけている。どれもが、個別の、記憶、見当識、言葉、数といった道具的、要素的知能を統括する、より上位の知的機能を何とか言い表そうと苦労しているのである。」(小澤 勲:認知症とは何か 岩波新書出版, 東京, 2005, pp141-143)

 認知症の介護においては、しばしばアパシー(自発性の低下・無関心)の存在が問題となります。
 アパシー(apathy)とは、無気力・無関心・無感動のため、周りがやるようにと促しても、本人は面倒だから、全然動こうとしないし気にもしない状態です。そして、このアパシーの存在ゆえに、認知症がうつ病と誤診されているケースもあります。
 なお、DLBでは、うつ病を有する頻度が比較的高いことも知られております。
 「Ballardら(1999)は病理診断されたDLB、AD各40例を比較し、DLBでは、初診時に幻視、幻聴、妄想、誤認妄想、うつ病を有する頻度がADに比べて高い」と報告しています(長濱康弘:レビー小体型認知症の臨床症候学と病態生理. Dementia Japan Vol.25 145-155 2011)。
 なおこの点に関して筑波大学臨床医学系精神医学の朝田隆教授は、「伝統的な精神科のうつに対する見方では、悲哀感、悲しみをもって『うつ』の本質とし、それに不安ややる気のなさを加えます。DLBの場合、精神科の伝統的なうつというよりは基本的にはアパシーです。周りは困っているが本人は何もしなくて当然とケロッとしているような患者さんが比較的多いですね。」と指摘しています(朝田 隆 et al:座談会─認知症の早期発見・薬物治療・生活上の障害への対策. Geriatric Medicine Vol.50 977-985 2012)。

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 2014年7月30日にホテルグリーンパーク津において開催されました第16回中勢認知症集談会特別講演会には、群馬大学大学院保健学研究科リハビリテーション学講座の山口晴保教授らが講師として来て下さいました。

 山口晴保先生は、「MCIとADの境界は、『病識の有無』だと思っています」と講演で述べられました。そして、SED-11Q(Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire)を用いた病識の評価に関する検討結果についてご紹介して下さいました。
判断基準
 医療機関においてはSED-11Qが11項目中3項目以上で認知症を強く疑い、地域の認知症スクリーニングでは11項目中4項目以上で受診を勧めるというのが目安だそうです。

SED-11Q【認知症初期症状11項目質問票】
①同じことを何回も話したり、尋ねたりする
②出来事の前後関係がわからなくなった
③服装などの身の回りに無頓着になった
④水道栓やドアを閉め忘れたり、後かたづけがきちんとできなくなった
⑤同時に二つの作業を行うと、一つを忘れる
⑥薬を管理してきちんと内服することができなくなった
⑦以前はてきぱきできた家事や作業に手間取るようになった
⑧計画を立てられなくなった
⑨複雑な話を理解できない
⑩興味が薄れ、意欲がなくなり、趣味活動などを止めてしまった
⑪前よりも怒りっぽくなったり、疑い深くなった

※上記の11項目に関して、ご本人は病識が欠如しているため「該当しない」にチェックを入れるものの家族はそれを感じているため「該当する」にチェックを入れ、その差がMCIにおいては乖離しないものの、軽度AD&中等度ADにおいては有意に乖離(p<0.001)しているそうです。
 そして、「その結果を介護者に見せて、本人の自覚が乏しいことを理解してもらい、叱らないように指導することでBPSDを予防しましょう」と講演会で配布されました資料には記載されておりました。
 詳細は論文をご参照下さい。
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q): A brief informant-based screening for dementia. Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 131-142 2013
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Evaluation of Anosognosia in Alzheimer's Disease Using the Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q). Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 351-359 2013

P.S.
MCI段階で留まっているのかADに進展したのかを判断する基準は、「生活自立能力」の有無
 「生活自立能力」については、シリーズ第73回『軽度認知障害─軽度認知障害から認知症への進展』をご参照下さい。

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 認知症初期症状11項目質問票(SED-11Q)の評価用紙は山口晴保研究室のホームページ(http://www.orahoo.com/yamaguchi-h/)からダウンロード可能(山口晴保:認知症の本質を知り、リハビリテーションに活かす. MEDICAL REHABILITATION No.164 1-7 2013)。

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 「ところで、認知症の人には『自分は病気である』という自覚はあるのでしょうか?
 この『自分は病気だ』と自覚することを『病識』といいます。医師の中には、認知症の人には『病識がある』という人もいれば、『ない』という人もいます。
 私は『病識は低下している(一部ある)』という考えです。自分はどんな病気でどのような問題が生じているのかといった自覚は乏しくなっていますが、『何だかいつもと違う』という感覚はあると思っています。これを『病感』といいます。」(山口晴保:認知症にならない、負けない生き方 サンマーク出版, 東京, 2014, p53)

大特集・最新医療に乗り遅れるな─認知症予防は筋トレと昼寝 [認知症予防]

 文藝春秋、3年連続で春に大々的な医療特集を組みましたね。
 過去2年間も結構インパクトの強い内容でした。
 今年の紙面から、先ずは「認知症」関連の話題をご紹介しましょう。
文藝春秋3年分.JPG

大特集・最新医療に乗り遅れるな─認知症予防は筋トレと昼寝
 厚生労働省の推計によれば、二〇二五年に認知症患者は七百万人に達し、六十五歳以上の五人に一人は認知症という計算になります。
 そもそも「認知症」は病名ではなく症状を指すもので、原因となる疾患は約七十種類もあります。専門医の私でも、三十三年の間に経験していない認知症はいくつもあります。「認知症=アルツハイマー病」と誤解されるように、認知症全体の三分の二を占めるのがアルツハイマー型認知症です。二番目に多いのは脳卒中が原因の血管性認知症、三番目が特殊なたんぱく質の固まりが神経細胞にできるレビー小体型認知症です。これらの「三大認知症」で全体の約八五%を占めます。
 近頃、「治る認知症、治らない認知症」という言い方が聞かれますが、厳密にいえば、現在の医学では根本的には治せないのが認知症です。「治る認知症」とは、一つは“認知症モドキ”だと考えられます。“モドキ”とは、例えば「うつ病仮性認知症」「正常圧水頭症」「ビタミン欠乏性認知症」などです。
 うつ病仮性認知症とは、うつ病が原因で注意力、集中力が低下し、物忘れがひどくなった状態です。高齢者に多いのは、配偶者を亡くしたショックでうつ状態になり、周囲が認知症になったと思い込むケースです。これは精神科で適切な治療を受ければ、改善が期待できます。
 正常圧水頭症は、脳内に水が溜まって循環が悪くなる病気で、ほとんどが外科手術で改善します。
 ビタミン欠乏性認知症は、主にガンで胃を切除してビタミンB12や葉酸が吸収できなくなった人に見られます。これもビタミン剤の服用で改善するものです。
 経験的にいえば、認知症を疑って来院される方の一割近くが、これらの“認知症モドキ”に該当します。「治る認知症」の二つ目が、MCI(軽度認知障害)です。
 MCIとは、原因の疾患に関係なく、軽度の認知障害を指す総称で、まだ生活に大きな支障はないが、物忘れが激しく、無気力になる状態です。放置すれば、四年以内に約半数が認知症を発症する予備軍ですが、治療によって平均二〇%余りの方が健常に戻るとされています。
 私のクリニックは認知症の早期発見と早期治療を専門とし、昨年九月の開業以来、認知症ではないかと心配する方が多数来院されています。
 …(中略)…
 以前は、明け方に夢をみる時間帯の「レム睡眠」で記憶が定着すると考えられていましたが、最新の研究では、寝入りから三十分ほどで訪れる深い眠りの「徐波睡眠」で記憶が定着するとわかってきました。例えば午前中の勉強は、三十分の昼寝で定着するというわけです。
 私の研究では、アルツハイマー病になりやすい遺伝子を持つ人でも、三十分の昼寝を実践すれば認知症のリスクは減るという結果が出ました。ただ、昼寝が一時間以上だと、逆に認知症のリスクは高まるという結果も出ているので注意が必要です。
 この徐波睡眠には個人差があり、運動習慣がある人ほど昼寝の効果は高いという最近の研究結果があります。三十分の昼寝と運動習慣はセットで実践したいところです。
 さらにもう一つ、認知症やMCIに改善効果を生む要因があります。人付き合いなどの社会的交流です。
 以下省略
(朝田 隆:認知症予防は筋トレと昼寝. 文藝春秋第九十四巻第七号 293-297 2016)

P.S.
 朝田先生(元筑波大学精神神経科教授)、ご開業されたのですね。私の恩師の一人であります。
 「メモリークリニックお茶の水」だそうです。
 http://memory-cl.jp/
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