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前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD) ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) [前頭側頭型認知症]

前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)・まとめ


 朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第36~43回『前頭側頭葉変性症』(2013年1月28日~2月4日公開)、「ひょっとして認知症-PartⅡ」第444~459回『ぼくが前を向いて歩く理由』(2014年3月25日~4月9日公開)を以下に再掲致します。
 参考になりましたら幸いです。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第36回 『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 前頭側頭葉変性症とは』(2013年1月28日公開)
 さて今回は、変性型認知症のなかの前頭側頭葉変性症(FTLD)についてご紹介しましょう。
 FTLDには以下の3型があります。
1. 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)
 前頭葉変性型(FLD type)
 ピック型(Pick type)
 運動ニューロン疾患型(MND type)
2. 進行性非流暢性失語(PA)
3. 語義(意味性)認知症(SD)

 前頭側頭葉変性症の代表が前頭側頭型認知症で、前頭側頭型認知症の代表がピック型です。Pickという方が最初に報告した症例で、前頭葉・側頭葉の萎縮を呈し、特異な言語症状および精神症状を示す疾患がピック病と名付けられました。
 FTLDは、欧米では30~50%と高い家族歴が認められますが、わが国ではほとんどが弧発性です。またFTLDの3臨床分類のうち、わが国では欧米に比してFTDの頻度が低く、SDの頻度が高い(横田 修:認知症診療の実践テクニック─患者・家族にどう向き合うか 医学書院, 東京, 2011, p96)とされております。
 SD、PAの初発症状は言語障害ですが、進行するとFTDでみられる性格変化や行動障害をきたします(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p30)。

 前頭側頭葉変性症(FTLD)の中で最も代表的な前頭側頭型認知症(FTD)を中心としてお話していきたいと思います。
 FTDは病理学的には、前頭葉変性型(FLD type)、ピック型(Pick type)、運動ニューロン疾患型(MND type)の3型に分類されています。
 またFTDは、脳に異常蓄積するタンパクの種類によっても大別されます。すなわち、アルツハイマー病でも溜まるタウタンパクが神経細胞に蓄積するタイプ(ピック病など)と、2006年に新たに発見されたTDP-43というタンパクが神経細胞に蓄積するタイプです。
 群馬大学大学院保健学研究科の山口晴保教授は、著書(認知症予防 ─読めば納得! 脳を守るライフスタイルの秘訣─ 協同医書出版社発行, 東京, 2010, p48)の中で、「現時点ではFTDの根本的治療法は見つかっていませんが、蓄積するタンパクが判明したので、いずれは治療法が開発されるようになることが期待されます。」と述べています。

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運動ニューロン病を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-MND)
 「運動ニューロン疾患を伴う認知症という名前で呼ばれていた疾患である。初老期に発症し、前頭側頭葉変性症でみられる症状や精神症状が出現したのち、多くは1年以内に運動ニューロン疾患(上肢の遠位筋に筋攣縮を伴う神経原性の筋萎縮、球麻痺がみられる)がみられるようになる。大脳の前頭葉・側頭葉の変性が認知症の原因となる。」(三好功峰:認知症─正しい理解と診断技法 中山書店, 東京, 2014, p124)

前頭側頭葉変性症とはどのような疾患か
 「前頭側頭葉変性症frontotemporal lobar degeneration(FTLD)のうち最も古くから知られていたのはピック病Pick diseaseである。大脳の側頭葉や前頭葉に萎縮・変性がみられる疾患は、長い間このピック病だけであると考えられてきた。
 1987年になってスウェーデンのグスタフソンGustafsonが、ピック病以外にもこのような病変がみられる神経変性疾患があることを報告した。彼は脳器質性障害による認知症患者の13%において、前頭・側頭葉に限って血流の障害が現れる神経変性疾患があるとして、“非アルツハイマー型前頭葉変性症(FLD)”と名づけた。
 その後、英国マンチェスターのニアリーNearyなどの研究グループは、“前頭葉型認知症(DFL)”はアルツハイマー病の約1/4程度の頻度で現れるとして注目をあびた。実際にはこれらの報告の頻度は少し高すぎるような印象があるが、それでもこれまでこのような前頭葉・側頭葉に病変が強調されるタイプの初老期認知症はピック病しか知られていなかったので、衝撃的であった
 そのうちに、それまですでに知られていた“運動ニューロン疾患を伴う認知症”も、この前頭葉・側頭葉の変性が原因であることが明らかとなり、さらには、第17染色体異常が原因となりパーキンソン症状を伴う認知症が発見されて、“第17染色体に関連しパーキンソニズムを伴う前頭側頭葉認知症(FTDP-17)”と呼ばれるようになった。
 今日ではこれらの疾患すべてを(ピック病を含めて)“前頭側頭葉変性症(FTLD)”、それによって出現する認知症を「前頭側頭型認知症(FTD)」と呼ぶようになっている。」(三好功峰:認知症─正しい理解と診断技法 中山書店, 東京, 2014, p117)



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第37回 『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 ピック病のチェックリスト』(2013年1月29日公開)
 「ひょっとして前頭側頭型認知症(FTD)かな?」と疑うきっかけとして、南魚沼市立ゆきぐに大和病院の宮永和夫院長(元群馬大学医学部神経精神医学教室)が作成されたピック病チェックリスト(http://www.ninchisho.jp/kind/04-02.html)が非常に有用です。
 ピック病は、人格・行動・感情面での障害が主体であり、記憶や見当識は末期まで比較的よく保たれます。
 特に人格変化が著しく、病識がなく、無反省、自己中心的、非協力的で接触性、疎通性が非常に不良です。大食・多量飲酒もみられます。温和だった人が、怒りっぽくなることがあります。逆に気難しかった人が、理由もなく常にニコニコしている人に変わることもあります。また、子どもっぽくなり、悪ふざけをするようになる人もいます(數井裕光:認知症 知って安心!症状別対応ガイド メディカルレビュー社, 2012, p162)。人格が非常に顕著に変化することから、介護者や友人がしばしば「配偶者や親が別人になってしまった」とか「赤の他人になってしまった」と評するほどです。
 国立病院機構菊池病院の木村武実臨床研究部長は、「FTLDでは物忘れが出てくる前から行動障害が起きるため、家族は病気とも気付かず高齢のせいと考え、医療機関を受診しないことが多いようです。さらに、FTLDの患者さんは病識がないことも多いので、行動障害で家族が困っていても、医療機関の受診を拒否します。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p31)と指摘しています。
 国立病院機構菊池病院のホームページ(http://www.kikuchi-nhp.jp/)には、前頭側頭型認知症(http://www.kikuchi-nhp.jp/pdf/monowasure_gairai/monowasure_gairai201206.pdf)のケアのポイントを記載したパンフレットがアップロードされておりますのでご参照下さい。

 若年性認知症を患ったクリスティーンさん(オーストラリア)は、脱抑制について、自身の著書の中で以下のように語っています(一部改変)。
 「DASNI(国際認知症啓発支援ネットワーク)のリン・ジャクソン(カナダ)とメールですばらしい『会話』をした。彼女も前頭側頭型認知症と診断されている人だ。彼女はこう言ってきた。『ときどき本当に無気力になって、何もしたくなくなる日があるの。あなたもそう?』
 私はこう返事した。『その通りよ。何もかもがあまりに複雑で難しく思えて、どうしたらいいかわからなくなるの。だからただぼんやりしてうろうろしてるのよ』
 私たちの『会話』はさらに続いた。私は言った。『驚くかもしれないけど、私もまったくあなたの言う通りなのよ!! 調子のいい日はまるでエネルギーの塊みたいで、てきぱきと動き回って(たいていは午前中だけだけど)、どんどん仕事を片づけられるの。ものすごい躁状態になって、何もかも今すぐやってしまいたくて、やめることができなくなるの! そうやってクルクル走り回っていると、そのうち頭痛がしてきて、午後にはすっかり疲れているわけ。夜になる頃には、もうただじっと座って、寝る時間を待つことしかできないのよ!』
 リンはこう返事してきた。『それ、ホントに私のことだわ。さっきからずっと頭痛がしているの…。昔は頭痛とは無縁だったのに、今ではしょっちゅうよ』
 どれだけ私がひとつのことに執着してしまうか、そのよい例が、夜中に家を掃除したくなった時のことだ。翌日まで待てなかったのだ。とにかくその時にやってしまわないと気がすまない。もう眠るどころの騒ぎではなかった。仕方なくポールは掃除機を出してきて、私が家中を掃除するのを辛抱強く手伝ってくれた。ようやく午前二時頃になって私たちは床に入った。私はすっかり満足していた。だが同時に、自分が明らかにそういう欲求や衝動を抑えることができなくなっていることにも苦悩しながら…。」(クリスティーン・ブライデン:私は私になっていく─痴呆とダンスを 馬籠久美子・桧垣陽子訳, クリエイツかもがわ, 2004, pp150-151)

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宮永和夫先生の現在の所属先:
 南魚沼市立ゆきぐに大和病院・宮永和夫院長



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第38回 『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 大人の万引きにピック病の疑い』(2013年1月30日公開)
 では、代表的な症状の一つである「常同行動」とは、いったいどんな症状なのでしょうか。常同行動の一例を挙げましょう。あるピック病患者さんは、毎日決まったコースを同じような時間に歩きます。一定のコースにこだわりますので、コースの途中に障害物があると排除します。時折その途中で、賽銭泥棒をしたり花や果物を盗ってくるといった軽犯罪を起こし、しばしば社会的な問題となります。
 私も複数のピック病患者さんの診療経験があり、実に多種多様な常同行動がありました。毎日同じ時間に同じコースを辿って神社に出掛ける方もいましたし、毎日同じ寿司屋に決まった時間に行く患者さんもおられました。
 次のようなニュース、皆さんの記憶に残っていませんか? スーパーで万引をしたとして公務員が懲戒免職となった。しかしその後、「ピック病」と診断され、復職が認められたというニュースです(http://www.asahi.com/jinmyakuki/TKY201209260368.html)。ですから、日頃犯罪とは無縁の方が軽犯罪を犯してしまったような場合には、「ひょっとしてピック病?」と疑うことも必要なのです。この一件の当事者である中村成信さんは、「ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)」(中央法規)という著書を書かれております(http://www.chuohoki.jp/ebooks/commodity_param/shc/0/cmc/3587)。
中村成信.jpg
 国立病院機構菊池病院の木村武実臨床研究部長は著書において、「働き盛りの50代の方が、ピック病という変性疾患による万引きのために職場を追われ、社会的な信用も失っています。40歳以上の万引きの20%はピック病が原因といわれています。したがって、中年以降の方でまじめに働いてきた人が万引きをした場合は、一度はピック病を疑ってください。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p122)と述べています。

 認知症に伴う問題行動で、介護者を悩ませる行動障害の代表が徘徊ですね。ピック病に伴う徘徊は、常同行動によるものであり常同的周遊(周徊)と呼ばれます。アルツハイマー病における徘徊とは違い、病状が相当進行するまで道に迷うことはありませんので、周遊するコースの安全性が確認されていれば介護者が付き添う必要はありません。このような特徴をご家族に説明すれば、ご家族の精神的・肉体的負担も少しは軽減させることができます。

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 「ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)」、久しぶりに感動した一冊でした。
 また後日、ご紹介しますね。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第39回 『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 バナナとミルクばかり食べる女性』(2013年1月31日公開)
 群馬大学脳神経内科学の岡本幸市教授がバナナ・レディという著書の紹介を専門誌においてされました。
 「エピソード1では、本書のタイトルになっている女性の症状が詳細に述べられている。口数の減少、悲哀感のない抑うつで発症し、次第に脱抑制的な異常行動、特に過剰にミルクとバナナを摂取するようになったが、診察では知能や記銘力は驚くほど正確であった。9年の経過で死亡され、剖検所見も記載されている。FTDの典型的な症例の全経過を理解するのに有用な症例であり、なぜ患者がバナナを過剰に摂取するのかについても合理的に説明されている。」(岡本幸市:バナナ・レディ─前頭側頭型認知症をめぐる19のエピソード. Clinical Neuroscience Vol.29 352 2011)
 岡本幸市教授が書評で紹介したepisode1(バナナ・レディ、偏食)の冒頭は次のような記載で始まります。
 「牧師であるヘンリーの妻ドーンは、病気になる前は有能で社会的に洗練され、音楽の才能にも恵まれており、教会の受付として働いていた。彼女はヘンリーが受けもつ教区で重要な役割を演じており、イギリス女王がカナダを訪れた際にもてなしたこともある。ドーンが奇妙な行動をとり始めたのは50代後半のことであった。彼女は教会に集まった人々の隅で、誰とも話さず立っているようになり、行事の間中、2階に上がってピアノを弾いていることもあった。彼女は客のもてなしや教区の仕事をしなくなり、ある日は、何の説明もなく、1時間も早く仕事から家に帰ってしまった。…(中略)…症状が始まってから2年後に神経学的診察を受けることになった。…(中略)…真夜中に起きて、眠るための運動としてよく街へ出かけた。不眠対策の一つとして、主にスコッチで『寝酒』を始めたので、ヘンリーは彼女の見えないところにボトルを隠さなければならなかった。かかりつけ医が睡眠促進に、酒ではなくホットミルクとバナナをとることを勧めたのをきっかけに、ドーンは一度に5~6本のバナナを食べ始めた。その後、他の食物は胃を悪くすると言い張って、1日3~4リットルのミルクと数束のバナナによる食事療法を始めた。彼女は教区事務所にいるヘンリーに一日に何度も電話してきて、自分のための十分なミルクとバナナがあることを確認した。彼は、ドーンに新たな問題、すなわち夜尿症が生じたため、夜にミルクを飲むことを制限した。しかし、彼女は通りを歩きながら、ミルクをもらいトイレを使わせてもらうために、隣近所のドアを叩いてまわった。…(中略)…私が最初にドーンに会ったとき、彼女は快活で、話好きで、見当識も正常で、『認知症』的なところは全くなかった。しかし彼女の話は幾分まとまりに欠け、本題から離れやすく、的はずれな部分があった。やや躁的にもみえたが、無関心で洞察を欠いているところもあった。神経心理学者は常同性と集中力欠如に気づいたが、知能や記銘力は驚くほど正常であった。彼女はトレイルメイキング(数と文字とを交互に結んでいくテストで、注意と集中力を必要とする)を除けば、通常の前頭葉検査は良好な成績であった。…(中略)…ドーンの病気は悪化したが、徘徊や過度のミルクとバナナの摂取はトラゾドンの服用によってやや改善していた。しかしその後、頻繁で強迫的なトイレ使用といった新たな症状が加わった。」

メモ2:トレイルメイキング(Trail Making Test;TMT)
 TMTには、「1~25」までの数字をつなぐpartAと、「1-あ-2-い-3-う」のように数字と平仮名をつなぐpartBがあります(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/TMT.jpg)。
 TMTの検査方法は、被験者には紙から鉛筆を離さないでできるだけ早く線で結ぶよう指示します。間違いはその都度指摘し、課題終了までの時間をストップウォッチを用いて測定します。
 TMTは注意、視覚検索、眼球と手の共同運動の速度、情報処理の速度などが関与する検査であり、特にPartBはセットの切り替え(遂行機能)を評価できる検査として前頭葉機能障害に鋭敏(安部光代、森 悦朗、山鳥 重 他:前頭葉機能検査における中高年健常日本人データの検討─ Trail Making Test、語列挙、ウイスコンシンカード分類検査(慶応版)─. 脳神経 Vol.56 567-574 2004)とされています。TMTは、欧米においては、前頭葉の「遂行機能」の指標として用いられてきました。
 PartAは、精神運動速度と視覚性探索能力に依存し、PartBはさらに、分配性注意と転換、反応抑制を必要とします。DLBでは、PartAでも有意な遅延が認められます(辻 省次 総編集:認知症─神経心理学的アプローチ 中山書店, 東京, 2012, p74)。

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 FTDの症状を、1.前頭葉そのものの機能低下による症状、2.後方連合野への抑制障害による症状、3.辺縁系への抑制障害による症状、4.大脳基底核への抑制障害による症状に分けて述べる。

1. 前頭葉そのものの機能低下による症状
1)病識の欠如
 病識は病初期より欠如しており、病感すら全く失われていると感じられることが多い。さらに、自己を意識させるだけでなく、社会的環境のなかでの自己の位置を認知させる能力、すなわち“自己”を主観的意識を保持しながら比較的客観的な観点から認識する能力(self-awareness)が障害されている。このような障害を「心の理論」から説明しようという試みもある。心の理論は、自己および他者の動きを類推する、すなわち他者の心的状態、思考や感情を類推する機能と定義される。FTDの臨床診断基準(表)でも重視されている、社会的対人行動の障害、自己行動の統制障害、情意鈍麻、病識の欠如の背景にある共通の心的機構を心の理論の障害として捉える研究がある。
2)自発性の低下

2. 後方連合野への抑制障害による症状
1) 被影響性の亢進ないし環境依存症候群
 FTDでみられる被影響性の亢進ないし環境依存症侯群environmental dependency syndromeは、前方連合野が障害され後方連合野への抑制が外れ、後方連合野が本来有している状況依存性が解放された結果、すなわち外的刺激あるいは内的要求に対する被刺激閾値が低下し、その処理は短絡的で反射的、無反省になったものと理解できる。日常生活場面では、介護者が首をかしげるのをみて同じように首をかしげる反響ないし模倣行為、相手の言葉をそのままおうむ返しにこたえる(反響言語)、何かの文句につられて即座に歌を歌いだす、他患への質問に先んじて応じる、視覚に入った看板の文字をいちいち読み上げる(強迫的音読)、といった行為であらわれる。
2)転導性の亢進、維持困難
 ある行為を持続して続けることができないという症状である。これも、後方連合野が本来有している状況依存性が解放された結果、注意障害あるいは注意の維持困難が出現したものと考えられる。

3. 辺縁系への抑制障害による症状
1)脱抑制、「我が道を行く行動」
 反社会的あるいは脱抑制的といわれる本能のおもむくままの行動は、前方連合野から辺縁系への抑制がはずれた結果と理解できる。店頭に並んだ駄菓子を堂々と万引きする、あるいは検査の取り組みに真剣さがみられず(考え不精)自分の気持ちのままに答える、診察中に鼻歌を歌う、関心がなくなると診察室や検査室から勝手に出て行く(立ち去り行動)などの表現をとる。社会的な関係や周囲への配慮がまったくみられず、あやまちを指摘されても悪びれた様子がなく(患者本人に悪気はない)、あっけらかんとしている。

4. 大脳基底核への抑制障害による症状
1)常同行動
 自発性の低下や無関心が前景に立つ前にほぼ全例で認められる。ADとの鑑別にも重要な症状である。日常生活では、常同的周遊(roaming)や常同的食行動異常が目立つことが多い。
 絶えず膝を手でこすり続けたり、手をパチパチと叩いたりするような反復行動がみられることもある。
2)食行動異常
 FTDにおいては、食欲や食習慣、食の嗜好の変化が顕著である。特に初期のうちからみられるのは、食欲の亢進と嗜好の変化である。嗜好の変化としては、チョコレートやジュースなど甘いものを毎日大量に食べる行動がしばしばみられる。続いて、十分に咀嚼せずに嚥下するため食事速度が早くなるといった食習慣の変化や、決まった少品目の食品や料理に固執する常同的な食習慣が出現する。
【福原竜治、池田 学:前頭側頭型認知症の精神症状. 精神科治療学 Vol.28 1615-1619 2013】



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第40回 『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 「彼女はもう彼女ではない」』(2013年2月1日公開)
 episode2(大食漢の一人前、過食症)には以下のような記載があります。
 「セロトニンは情動と行動を制御する重要な神経伝達物質である。セロトニンの異常はうつ、強迫性障害、攻撃性、および摂食障害と関連しており、脳のセロトニンを増加させる薬物療法(SSRI型の抗うつ薬)がこれらの状態の治療に用いられる。」

 episode19(彼女はもう彼女ではなくなってしまった)では、「個性の喪失」に関して言及されています。
 「人格の変化はFTDの核となる症状である。人格が非常に顕著に変化することから、介護者や友人がしばしば『配偶者や親が別人になってしまった』『赤の他人になってしまった』と評するほどである。無関心、冷たさ、興味のなさ、アパシー、社会的交流の欠如、奇妙な強迫行動を伴う脱抑制、保続、常同行動のすべてがこのような印象を与える原因になっている。人格の変化はしばしば乱暴さ、幼稚さ、分別のなさなどの形で現れる。」
 認知症においては、「人格変化」が症状の一つとして象徴的に指摘されますが、人格変化が顕著に目立つのはこのFTDなのです。
 そして、この人格変化のために、FTDはしばしば「パーソナリティ障害」と誤診される場合があります。

 前頭側頭型認知症(FTD)では性格・行動変化が特徴ですが、てんかんにおいても性格や行動の変化をきたす場合があります。
 てんかん発作による記憶障害は、①一過性てんかん性健忘(Transient epileptic amnesia;TEA)、②長期的な前向性健忘、③限局性焦点性逆向性健忘に分類されています。
 側頭葉の微小放電は、海馬および神経ネットワークを介して遠隔部位(前頭葉・頭頂葉)の機能障害をもたらし、多彩な認知障害を呈すると推察されています。性格・行動の変化であるゲシュウィント症候群は、側頭葉てんかんの発作間欠期の症状からまとめられた概念です。ゲシュウィントが提唱し、弟子のBensonが3つの項目に整理しました。①迂遠ともいわれる粘着性の気質(物事へのこだわりなど)や書字過多、②性的関心の低下、③宗教性や哲学的なことへの関心の高まりの3項目です。(杉本あずさ、河村 満 他:てんかんと認知症. BRAIN and NERVE Vol.64 1399-1404 2012)。この論文においては、抗てんかん薬の服用により、行動・性格面においても改善した事例が紹介されております。物忘れおよび性格・行動変化といった症状から、FTDと安易に決めつけるのではなく、「てんかん性の側頭葉機能障害」が引き起こしている性格・行動変化である可能性も念頭におき、慎重に鑑別診断を進めていくことで有効な治療法に結びつく可能性もあると指摘されています。
 ゲシュウィント症候群について昭和大学医学部内科学講座神経内科学部門・河村満教授は、「ドストエフスキーが最も有名で典型的ですが、大量に文章を書いてしまうハイパーライティングになり、宗教心が非常に増し、そして性的欲求の低下が起こる。それが3徴ですが、そこでは、宗教観にまで辺縁系が関係しているだろうと考えられています。」(福武敏夫、河村 満:対談・辺縁系をめぐって. BRAIN and NERVE Vol.64 1091-1096,1131-1138 2012)と述べています。

 語義(意味性)認知症(semantic dementia;SD)についても簡単に触れておきましょう。
 「FTDは従来の前頭葉優位型ピック病に相当し、SDがほぼ側頭葉優位型ピック病に相当する」(岩田 誠、河村 満・編集:ノンバーバルコミュニケーションと脳─自己と他者をつなぐもの. 医学書院発行, 東京, 2010, p168)と考えられています。
 「SDでは語義失語が前景となり、FTDのような反社会的と呼ばれるような障害は目立たないものの、進行とともに時刻表的生活(clock watch symptom)に代表される毎日決まった時間に決まった日課を行う常同行動が顕著となる。またこうした行動の中で、次第に他を顧みない危険な運転や、過度に規則を重視して周りの流れに臨機応変に対応できない行動が認められるようになる。」(岩田 誠、河村 満・編集:ノンバーバルコミュニケーションと脳─自己と他者をつなぐもの. 医学書院発行, 東京, 2010, p169)ことが報告されています。

 「語義失語」って聞いてもイメージが湧きませんよね。例えば、意味性認知症の患者さんに、「利き手はどちらですか?」と聞くと、「何ですか、利き手って? 書くことですか?」というような返事が返ってきます。すなわち、利き手という言葉の持つ意味が分からなくなるのですね。

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 「AD(アルツハイマー病)では記銘力、空間認知、構成機能が障害されやすいのに対し、FTD(前頭側頭型認知症)ではこれらの機能は初期には通常保たれ、日常生活上で明らかな健忘症状があればFTDはまず否定的である。
 臨床場面では、SD(意味性認知症)では語義失語や相貌認知障害を『物の名前を忘れた、顔を覚えられない』などと訴えることも多く、これを記銘力の低下と捉えられてADと誤診される場合も多い。さらにSDではADと同じく65歳以降での発症がまれではないことや、画像的に側頭葉前部からの萎縮をADの側頭葉内側面の萎縮と見誤りやすく、注意を要する。」(中村憲道、吉良潤一:前頭側頭型認知症の身体症状と認知症状. Modern Physician Vol.33 89-94 2013)



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第41回 『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 受診やデイサービスが難しくなる』(2013年2月2日公開)
 さて、ほとんどの認知症で病識は次第に低下していきますね。しかしながら、前頭側頭型認知症(FTD)では、病気の初期より病識が欠如するため、しばしば受診やデイサービスの利用が困難となります(池田 学:認知症 中公新書 p132)。
 常同行動を利用し、早期からの介護サービス利用を常同行動(そしてその延長線上にある「時刻表的生活」)に組み入れておくと、病期が進行した後もデイサービスや入浴の拒否を回避することができ、在宅ケアの継続が可能となります。
 早期に常同行動に組み入れることができなかった場合には、「馴染みの関係」を構築することが大切であると国立病院機構菊池病院の木村武実臨床研究部長は指摘します(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p80)。
 「いきなり通所介護(デイサービス)と通所リハビリテーション(デイケア)を導入しようとすると、強い抵抗に遭います。それで、まず訪問介護・看護をお願いして、訪問者となじみの関係を構築し、そのなじみの人が本人に勧めて通所介護・通所リハビリに連れ出すと強い抵抗はなくなります。本来なら、毎日の通所が理想的ですが、経済的な面、介護度の問題、施設側の都合などにより困難なことが多いので、曜日を決めて習慣化を図ればよいと思います。
 環境設定もワンパターンにする必要があります。例えば、通所できるようになった場合、対応するスタッフ、過ごす場所、活動の場などが毎日変わると、患者さんは動揺して、通所されなくなります。それから、集団活動にはなかなかなじみにくいので、対応スタッフをある程度一定にした一対一の関係での活動が基本となります。また、患者さんは注意の転動性が高いため、いろいろな刺激があると注意がそれてしまいます。活動場面でテレビの音がしたり、厨房の近くで料理のにおいがしたりすると、活動を中断して音やにおいのする方に立ち去ってしまいます。したがって、このような刺激を最小限にとどめなければなりません。
 前頭側頭葉変性症の患者さんでは、記憶障害よりも性格変化、常同行動、アパシーなどの症状が早く出現するので、ある程度進んでもエピソード記憶は保持されています。それで、患者さんは担当者や活動場所を覚えていますので、それらを固定することで、担当者や場所がなじみのものになり、患者さんには心地よい拠り所になります。」(一部改変)



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第42回 『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 「ここから出せ」と叫ぶ患者』(2013年2月3日公開)
 前頭側頭葉変性症の患者さんでは、被影響性が亢進しております。
 熊本大学大学院生命科学研究部脳機能病態学分野の池田学教授らは、被影響性の亢進を利用するなどして隔離室使用が不要となった67歳男性の事例を報告しておりますので以下にご紹介しましょう(本田和揮、橋本 衛、池田 学:前頭側頭型認知症─薬物治療と非薬物治療. Clinical Neuroscience Vol.29 338-340 2011)。
 「入院後も不機嫌さが目立ち、『ここから出せ』と叫んだり、自室の手すりを壁から引きはがしたり、病棟のドアが開くとドアに突進し出て行こうとしたり、行動を制止する看護師を足蹴りしたりするなどの粗暴行為を繰り返したため、隔離室対応が必要であった。フルボキサミン(SSRI)やクエチアピン(非定型抗精神病薬)を増量し、さらに抑肝散を追加したが効果はほとんどみられなかった。あまりにも興奮が強いため、やむを得ず鎮静目的でハロペリドール(定型抗精神病薬)の筋肉注射も行ったが薬剤性パーキンソニズムのため転倒を繰り返し、誤嚥性肺炎も引きおこした。
 安定した病棟内生活を営むためには薬物療法だけでなく非薬物療法が必要と思われた。そこで、病棟内に適応する安定した常同行動の形成を試みた。午後3時に時間を固定した看護師3名同伴の院内散歩を開始した。徐々に興奮は減り午後3時近くになると散歩の用意をして待つようになった。
 病棟のドアが開くたびに脱出しようとする行動に対しては、被影響性の亢進症状を利用し、ドアが開く際には飲み物の入ったコップを本人に渡して注意をそらせることによってドアへの突進を回避した。これらの治療の導入後は病棟内でも次第に落ち着いて過ごせるようになり、隔離室は使用しなくなった。
 被影響性の亢進は、外的刺激に対して熟考することなく反射的に処理、反応してしまう症状で、日常生活場面では、介護者が首をかしげるのを見て同じように首をかしげる反響ないし模倣行為や、何かの文句につられて即座に歌を歌い出す、目に入る文字をすべて読み上げる、といった行為で表れる。この症状が目立つ患者の近くに目を引きそうな物を置いておくと、そちらに興味を示すことがある。具体的には、提示症例のように飲み物の入ったコップを用いてドアへの突進を回避したり、作業を持続できず途中で立ち去ろうとする患者に、患者の両側にスタッフを配置し、立ち去りかけたらすばやく道具を手渡すことで作業の導入や継続を図ったりする。」(一部改変)
 国立病院機構菊池病院の木村武実臨床研究部長も、被影響性亢進を利用してケアに活用できたことを著書の中で紹介しています。
 「患者さんの手続き記憶を利用した作業をいくつか用意し、それに必要な道具をセットにして、毎回そのセットで作業を繰り返します。そうすると、作業導入時はもちろんのこと『家に帰る』と言って落ち着かない時も、道具セットを渡すと自動的に作業を始められます。カラオケが得意な方の場合は、落ち着かなかったり興奮がみられたりしても、十八番のイントロを流すと歌い始められます。その後は、作業や歌が終わってもだいたい落ち着いていらっしゃいます。患者さんのなかには、食べ物を口に入れたまま、飲み込まない方がいます。これは、誤嚥のリスクや口腔内の衛生面で問題です。前頭側頭葉変性症の患者さんは、口元にものを近づけるとそれを吸おうとする使用行為という症状があります。また、一般的には甘いものが好きです。そこで、嚥下しない患者さんの口元にジュースを少し入れたコップ、あるいはジャムをすくったスプーンを近づけると、まず口の中のものを嚥下して、ジュースやジャムを飲食しようとされます。全員がこれで解決するわけではありませんが、試してみる価値はあると思います。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p81)



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第43回 『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 問題行動を別の行動に導く』(2013年2月4日公開)
 また、木村武実臨床研究部長は、問題となる常同行動を適応的な常同行動へと変換することも前頭側頭葉変性症患者さんにおけるケアのポイントとなることを事例を紹介して説明しています。
 「Eさんは前頭側頭葉変性症の女性患者さんです。常同的な散歩があり、雨天、炎天にかかわらず、1日2回(10時、15時)、1回40分、同じコースを回っていました。8月のある暑い日の15時、散歩に出かけたまま定刻になっても帰って来られませんでした。心配していたご家族に、総合病院の救急外来から『Eさんが道路脇に倒れていたところを通りがかりの人に発見され、救急車で搬送されてきました。身体的には特に問題はなく、おそらく熱中症だと思います』と連絡がありました。Eさんは3日後に元気になって退院されました。ご家族はEさんに、しばらく暑いから散歩には出ないように言いましたが、Eさんは相変わらず散歩に出て行かれました。そこで、ご家族は居宅介護の限界と考え、ご本人を介護老人保健施設に入所させました。しかし、施設でも10時と15時に施設外に出て行こうとされ、それを引き留めると大声を出して興奮されました。そこで、認知症治療病棟のある精神科病院に入院となりました。入院後は閉鎖病棟であったため、外に出ることができず、10時と15時になると各部屋のドアを叩いて回り、他の患者さんとトラブルになることもありました。Eさんが着物の縫製をやっていたことがわかったため、担当の看護師が10時と15時に雑巾縫製を試みると上手に縫われました。徐々にぞうきんの枚数を増やして5枚ずつにすると、だんだんと部屋めぐりも漸減して消失しました。退院後も、雑巾縫製を継続し、常同的な散歩はなくなりました。このように、不適応な常同行動は短期入院で適応的な常同行動に変換することができます。そのためにも、患者さんの生活歴の聴取、手続き記憶の同定は必須です。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p81)

 以上述べましたように、前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)のケアにおいては、ちょっと特殊な手法が必要となります。
 FTD(その代表はピック病)患者さんの在宅介護を続けていくためには、担当ケアマネジャーおよびご家族の方に、診断がFTDであること、そしてFTDの特徴的な症状・対応方法を理解してもらうことが大切な鍵を握ることになります。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第444回『ぼくが前を向いて歩く理由―まじめな中年の万引きは病気の疑い』(2014年3月25日公開)
 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)を患っておられます方が一冊の本を出版されています。
 前頭側頭型認知症につきましては、復習シリーズ第36~43回において詳しくご紹介しました。前頭側頭葉変性症(Frontotemporal lobar degeneration;FTLD)の代表が前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)で、前頭側頭型認知症の代表がピック型でしたね。
 臨床的にはFTLDという用語の代わりに前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)を用い、FTLDの下位分類であったFTDをbehavioural variant of frontotemporal dementia(bvFTD:前頭側頭型認知症行動バリアント)と記載することが海外では一般的となっております。
 さて、復習シリーズ第38回「認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 大人の万引きにピック病の疑い」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013012800006.html)におきましては、スーパーで万引をしたとして公務員が懲戒免職となったものの、その後、「ピック病」と診断され、復職が認められたというニュース(http://www.asahi.com/jinmyakuki/TKY201209260368.html)をご紹介しましたね。そして、「働き盛りの50代の方が、ピック病という変性疾患による万引きのために職場を追われ、社会的な信用も失っています。40歳以上の万引きの20%はピック病が原因といわれています。したがって、中年以降の方でまじめに働いてきた人が万引きをした場合は、一度はピック病を疑ってください。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p122)というデータもご紹介しました。
 なお、このニュースの当事者である中村成信さんが「ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)」(中央法規)という著書を書かれております(http://www.chuohoki.jp/ebooks/commodity_param/shc/0/cmc/3587)。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第445回『ぼくが前を向いて歩く理由―前頭葉タイプ・アルツハイマー病』(2014年3月26日公開)
 少々専門的な話にはなりますが、実はアルツハイマー病(AD)には、いくつかの亜型があることが知られています。
 典型的アルツハイマー病(Typical Alzheimer's Disease;Typical AD)と前頭葉タイプ・アルツハイマー病(Frontal Variant of Alzheimer's Disease;Frontal AD)、それに視覚変異型ADがあります。
 視覚変異型ADは、後部皮質萎縮症(Posterior cortical atrophy;PCA)の概念の中に含まれております(小阪憲司、田邉敬貴:トーク 認知症─臨床と病理 医学書院, 東京, 2007, pp52-54)。
 後部皮質萎縮症は、視空間機能の障害を主徴とした変性疾患の総称であり、臨床的には、若年発症で、女性に多く、病初期から視空間認識の障害、構成失行を認め、後頭葉の萎縮が目立つ(http://184.73.219.23/rounen-s/J-senyou/D_gakkai_koenkai/25th/koutou1-2.htm)とされております。末期になるまで記憶、判断力、病識が比較的保たれる(シリーズ総編集/辻 省次 専門編集/河村 満:アクチュアル脳・神経疾患の臨床─認知症・神経心理学的アプローチ 中山書店, 東京, 2012, pp137-138,167-168,174-177,308)ことも特徴の一つです。
 前頭葉タイプ・アルツハイマー病は、臨床的にはかなり前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)に類似しております。あさひが丘ホスピタル(愛知県春日井市)の柴山漠人名誉院長が前頭葉タイプ・アルツハイマー病の特徴について詳しく報告しております。
 「記憶障害もあるが、実行機能障害、言語障害、行動障害が前景にあり、そのためBPSDもFTDに酷似し、ケアが大変であり、介護家族は苦労することが多い。たとえば、認知機能が軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)レベルの早期から服薬管理・金銭管理ができないことも多く、さらにデイサービスをいやがる、易怒性や興奮・暴言・暴力などがよくある、電化製品の操作ができない、などである。画像的(CT、MRI)にも前頭葉の萎縮が強いし、SPECTでは前頭葉の脳血流の低下もみられるが、一方で海馬の萎縮もある。病理的には、もちろんADの病理所見であるが、神経原線維変化(Neurofibrillary Tangle;NFT)が前頭葉にTypical ADの8倍もあり、嗅内野に少ない。この前頭葉タイプの頻度は、AD全体の17~34%である(報告により差がある)。ちなみにFTDでは、初期には海馬の萎縮はない。」(柴山漠人:認知症ケアの体験的今昔. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.5 324-332 2012)

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意味性認知症(SD)バリアント
 アルツハイマー型認知症(AD)には意味性認知症(semantic dementia;SD)の症状を強く示す「SDバリアント」ともいうべき症例がある。既往歴で「蕁麻疹などアレルギー症状はありませんか?」と聞くと、「ジンマシン? ジンマシンって何ですか」と言う。エンピツを見せて「これは何ですか?」と聞くと答えられず、ヒントとして「エンピ」というと「ああ、エンピですか」と言う。FTLDと異なり患者のコンタクトはよく、礼節も保たれている。画像上も優位半球の側頭葉前端部の萎縮が強く、その部位の血流低下が著しいが、側頭・頭頂葉の低下もあり、アミロイドイメージングではアミロイド沈着陽性である。
【田平 武:かかりつけ医のための認知症診療テキスト─実践と基礎 診断と治療社, 東京, 2014, p122】



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第446回『ぼくが前を向いて歩く理由―ピック病を超えて生きる』(2014年3月27公開)
 さて、中村成信さんの著書「ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)─事件、ピック病を超えて、いまを生きる─」(中央法規)の帯には、以下のような文言が綴られております。
 「サザンビーチちがさき」の命名者であり、2000年夏の「サザンオールスターズ茅ヶ崎ライブ」開催に奔走し活躍した一人の行政マンを襲った突然の悲劇。万引きによる現行犯逮捕、それは若年認知症(ピック病)の症状によるものだった。混乱、苦悩、偏見…、そのなかで家族はどのように再生を果たしていったのか。感動の手記。
 ピック病(前頭側頭型認知症)とは…。前頭葉や側頭葉が限局的に萎縮する認知症疾患。意欲低下や性格変化などを生じる前頭葉症状と、言語の障害などが起こる側頭葉症状がみられる。初期の時期には記憶障害がみられないため、アルツハイマー病とは症状の内容が大きく異なる疾患といえる。

 当時、茅ヶ崎市文化推進課長であった中村成信(しげのぶ)さんは、2006年2月11日にスーパーでカップめんとチョコレートを万引きしたとして現行犯逮捕され、わずか二週間余りで38年間勤めてきた職場を懲戒免職となったそうです(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, p1)。その当時、中村成信さんは56歳であり、画像検査などにより、発症はその2年ほど前の54歳頃と考えられています。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第447回『ぼくが前を向いて歩く理由―何リットルものミルクと数束のバナナを食べた』(2014年3月28日公開)
 「ひょっとして前頭側頭型認知症(FTD)かな?」と疑うきっかけとして、南魚沼市立ゆきぐに大和病院の宮永和夫院長(元群馬大学医学部神経精神医学教室)が作成されたピック病チェックリスト(http://www.ninchisho.jp/kind/04-02.html)が非常に有用です。
 このチェックリストに記載されている「食べ物へのこだわり─毎日同じもの(特に甘いもの)しか食べない。際限なく食べる場合がある。」とは、いったいどのような症状なのでしょうか。
 著書『バナナ・レディ』のepisode1(バナナ・レディ─偏食)に具体的な状況が記載されておりますのでご紹介しましょう(一部改変)。
 「牧師であるヘンリーの妻ドーンは、病気になる前は有能で社会的に洗練され、音楽の才能にも恵まれており、教会の受付として働いていた。彼女はヘンリーが受けもつ教区で重要な役割を演じており、イギリス女王がカナダを訪れた際にもてなしたこともある。ドーンが奇妙な行動をとり始めたのは50代後半のことであった。彼女は教会に集まった人々の隅で、誰とも話さず立っているようになり、行事の間中、2階に上がってピアノを弾いていることもあった。彼女は客のもてなしや教区の仕事をしなくなり、ある日は、何の説明もなく、1時間も早く仕事から家に帰ってしまった。
 真夜中に起きて、眠るための運動としてよく街へ出かけた。不眠対策の一つとして、主にスコッチで『寝酒』を始めたので、ヘンリーは彼女の見えないところにボトルを隠さなければならなかった。かかりつけ医が睡眠促進に、酒ではなくホットミルクとバナナをとることを勧めたのをきっかけに、ドーンは一度に5~6本のバナナを食べ始めた。その後、他の食物は胃を悪くすると言い張って、1日3~4リットルのミルクと数束のバナナによる食事療法を始めた。彼女は教区事務所にいるヘンリーに一日に何度も電話してきて、自分のための十分なミルクとバナナがあることを確認した。彼は、ドーンに新たな問題、すなわち夜尿症が生じたため、夜にミルクを飲むことを制限した。しかし、彼女は通りを歩きながら、ミルクをもらいトイレを使わせてもらうために、隣近所のドアを叩いてまわった。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第448回『ぼくが前を向いて歩く理由―食べ物へのこだわりの背景に深刻な悩み』(2014年3月29日公開)
 症状が始まってから2年後に神経学的診察を受けることになった。
 私が最初にドーンに会ったとき、彼女は快活で、話好きで、見当識も正常で、『認知症』的なところは全くなかった。しかし彼女の話は幾分まとまりに欠け、本題から離れやすく、的はずれな部分があった。やや躁的にもみえたが、無関心で洞察を欠いているところもあった。神経心理学者は常同性と集中力欠如に気づいたが、知能や記銘力は驚くほど正常であった。彼女はトレイルメイキング(数と文字とを交互に結んでいくテストで、注意と集中力を必要とする)を除けば、通常の前頭葉検査は良好な成績であった。
 ドーンの病気は悪化したが、徘徊や過度のミルクとバナナの摂取はトラゾドンの服用によってやや改善していた。しかしその後、頻繁で強迫的なトイレ使用といった新たな症状が加わった。」(Andrew Kertesz著 河村満・監訳:バナナ・レディ─前頭側頭型認知症をめぐる19のエピソード 医学書院発行, 東京, 2010 pp7-13)
 著書「ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)─事件、ピック病を超えて、いまを生きる─」の序文を書かれた南魚沼市立ゆきぐに大和病院の宮永和夫院長(元群馬大学医学部神経精神医学教室)は、「食べ物へのこだわり」について大変興味深い見解を提示されております(一部改変)。
 「たとえば、病識をもてない(もたない)という診断的特徴がありますが、実際の患者さんたちは、一部の例外を除き、自分の変化に対して深刻に悩んでいます。また、同じ食べ物を毎食とり続ける常同症状の患者さんが、『その言葉しか浮かばないからその食べ物を食べている』などと、行動障害や精神症状の意味を教えてくれる場面が多々ありました。
 私が目の前で話を聞く患者さんたちは、診断基準にみられる解釈や言葉とはまったく異なる意味や内容を教えてくれたのです。」(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, p4)

 2006年2月11日現行犯逮捕後に中村成信さんが辿った経緯を簡単にご紹介しましょう(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp32-40)。
 「社会の反応は、想像以上に早かった。
 事件の翌日から、茅ヶ崎警察署の記者発表を受けて、マスコミがいっせいに事件を報じた。実名も公表された。
 『バレンタインチョコ万引き 茅ヶ崎市課長を逮捕』(共同通信・2月12日配信)
 『茅ヶ崎市の課長、チョコ窃盗容疑“買った”と否認』(朝日新聞・2月14日付)
 万引きは窃盗罪にあたり、決して軽んじることはできない。しかし、初犯であり反省が得られれば逮捕されることは少なく、また、逮捕されても、成信さんのように検察で起訴猶予となる場合が多い。報道でも通常、実名は伏せられる傾向にあるが、教師、議員、会社経営者といった社会的影響力のある人の場合は実名報道されることもある。現職の公務員であった成信さんは、朝日新聞では『A容疑者』と匿名になったが、実名報道する新聞もあった。なかには、事件がバレンタインデー直前であったため、おもしろおかしく取り上げるメディアもみられた。
 茅ヶ崎市役所からも早々に処分が下った。まず2月13日付けで、文化推進課課長から、職員課付主幹への異動の処分を受けた。さらに、その2週間後の2月27日には、懲戒免職という重大な処分が発令された。市の処分は予想以上に早く、そして重いものだった。
 釈放の翌日、初めて心療内科で診察を受け、成信さんは『急性ストレス反応の疑い』と診断された。診断書には書かれなかったが、心療内科では早い時点で『認知症の疑いがある』とも指摘され、脳のMRI検査を受けるようにすすめられた。心療内科の紹介で、北里大学東病院を受診。認知機能を調べる改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)、脳波などの検査を受けた後、耳慣れない病名を聞かされた。診断名は、前頭側頭型認知症。事件から約1か月後の3月14日のことだった。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第449回『ぼくが前を向いて歩く理由―「今のあなたじゃなくなるかもしれない」』(2014年3月30日公開)
 そのときの医師の説明は、さらに信じられないものでした。
 『中村さん、あなたはあと5年、10年したら、今の中村さんじゃなくなるかもしれないから、今のうちに、できることをやっておいたほうがいいです』
 この言葉は、今でも鮮明に覚えていて、忘れることができません。ぼくにとってはとても受け入れられるものではありませんでした。もう絶対に病院なんか行くものかと無性に腹が立ちました。
 わずか1か月の間に、事件があり、懲戒免職となり、そのうえ、認知症だなんて。こんな三重苦ともいえる状態が、いっペんに自分の身に降りかかってくるなんて、とても信じられませんでした。医師から告げられた病名は、聞いたこともありませんでした。きっと何かの間違いだ、間違いであってくれ。そんな思いを抱きながら、ぼくと病気の付き合いがスタートしたのです。」(一部改変)
 中村成信さんは、「もう絶対に病院なんか行くものかと無性に腹が立ちました」と述べておりますね。
 しかし、この時に医師が説明した内容は、「前頭側頭型認知症」と判断したのであれば、決して間違った説明ではないように思われます。しかも、「今の中村さんじゃなくなるかもしれないから」と明確に断言することを避ける配慮も示しており、この説明ですら受診拒否に繋がるのであれば、告知に対して慎重な立場の私としてはますます告知を躊躇してしまいます。
 なお現在、榊原白鳳病院の物忘れ外来におきましては、告知を前提とした2014診療報酬改定緊急アンケート調査(http://apital.asahi.com/article/kasama/2014022600008.html)を実施しており、結果の速報版(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/SinryouHousyuuH26enquete.pdf)も閲覧可能としてあります。

 著書『ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)』にも記述されておりますので(同書 p49)、前頭側頭型認知症(FTD)の中核症状についてご紹介しておきましょう(Neary D et al:Frontotemporal lobar degeneration : a consensus on clinical diagnostic criteria. Neurology Vol.51 1546-1554 1998)。
 ①発症は潜在的で、ゆっくりと進行する
 ②早期から対人関係の障害がみられる
 ③自分の行動を調節(統制)することが難しくなる
 ④早期からの感情鈍麻
 ⑤早期からの病識(自己洞察)欠如



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第450回『ぼくが前を向いて歩く理由―連日、トイレットペーパーを買い続ける』(2014年3月31日)
 中村成信さんが前頭側頭型認知症(FTD)を発病したのは、現行犯逮捕の2年程前の54歳頃と考えられていますが当初はどのような症状があったのでしょうか。一部改変して以下にご紹介しましょう(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp56-58)。
 「ある日、成信さんがトイレットペーパーの12ロール入りを両手に下げて帰宅した。『安かったから』と言う。
 消耗品だから、安いときに買いだめをしても損はない。
 だが、成信さんは、翌日も、その翌日もトイレットペーパーを買ってきた。
 同じものばかり買ってくる成信さんに妻の敏子さんが理由を訊ねると、『安かったから』『うちにないと思った』などと言う。
 置き場所がないほどトイレットペーパーがあふれているのに、成信さんの行動はいっこうにおさまらない。
『もう納戸に入りきらないから、買ってこないで』
 敏子さんが強く言うと、成信さんは怒り出し、たびたび口論になった。
 そのうち、成信さんは買ってきたものをガレージのバイクの上に置くなど、家の中に持ち込まず、買い物をした事実を隠すようにもなった。
 成信さんが買ってくるのは、トイレットペーパーだけではなかった。納戸やタンスの中に、たくさんの新品のネクタイや靴があることを発見し、敏子さんは愕然とする。」
 常同行動とは、「特定の行為、行動を繰り返す状態」を指し、FTDにおいて高頻度にみられる症状です。繰り返し膝をこすったり、パチパチと手を叩くような単純な運動を繰り返す症状から、「いつも同じ服を着たがる」「デイルームの決まった椅子に座りたがる」のような比較的まとまった行動まで幅広く、常同行動が時間軸上に展開した場合、「時刻表的生活」となります。
 「同じものばかり買ってくる」という問題は実に多いのが現状です。これに対してはどのような対応がよいのでしょうか。
 東京ふれあい医療生協梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司医師は、「買い物の際、買うものをメモしていても、不要なものを買ってしまう人については、『メモの左に買うものをメモして、右に買わなくてもよい(家にたくさんある)ものを書くようにしましょう』とアドバイスすると、余分なものを買わなくなるようになります。」と述べております(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, p131)。
 私も上記の方法を実践してみたことは幾度となくあります。しかし、たとえ軽度のアルツハイマー型認知症の患者さんであっても、メモをどこにしまったか思い出せずメモが活用できないといった事例が多く、なかなか一筋縄ではいかないようです。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第451回『ぼくが前を向いて歩く理由―信号無視は認知症かも?』(2014年4月1日公開)
 前頭側頭型認知症(FTD)の自動車運転における特徴は、シリーズ第242回『注目される自動車運転の問題─運転する認知症患者は6人に1人が事故を起こす』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081400013.html)においてお話しましたように、信号無視や注意維持困難、わき見運転による追突事故が多くみられたのでしたね。成信さんも信号無視は目立ったようです。
 「敏子さんは、成信さんの車の運転でヒヤリとしたことがあった。成信さんが信号無視をしたのだ。
 信号無視は、敏子さんが気づいただけでも何度もあった。黄色信号で交差点に駆け込み侵入するというのではなく、信号自体が見えていないかのように、平然と赤信号の交差点に進入したのだ。そのことを指摘すると、本人は『そうだった?』とまったく気づいていない。
 さいわい交通量が少ない時間帯だったので、ほかの車に迷惑をかけることはなかったが、助手席の敏子さんは『生きた心地がしなかった』と言う。
 運転中、突然、怒り出したこともあった。声を荒げ、助手席の敏子さんに『運転を代われ』と怒鳴る。
 『こんな道、運転したことないから、運転できない』
 運転に自信のない敏子さんはそう断ったが、成信さんは有無を言わさない。さっさと運転席から降り、『眠いから寝る』と言って寝てしまったという。」(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp60-61)
 「さっさと運転席から降り、『眠いから寝る』と言って寝てしまった」というような行動は、「わが道を行く行動」と呼ばれており、前頭側頭型認知症(FTD)の特徴の一つです。
 著書においては、前頭側頭型認知症(FTD)の症状の現れ方には三つのタイプ(「脱抑制型」「無欲型」「常同型」)があることが紹介されており、それぞれのタイプの特徴についても言及されております(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp79-85)。
 「無欲」傾向が目立つ場合には、当初は「うつ病」と誤診される場合もありますね。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第452回『ぼくが前を向いて歩く理由―家族だからこそ早期発見は難しい』(2014年4月2日公開)
 さてここで、南魚沼市立ゆきぐに大和病院の宮永和夫院長(元群馬大学医学部神経精神医学教室)が作成されたピック病チェックリスト(http://www.ninchisho.jp/kind/04-02.html)をもう一度見てみましょう。
 発症の時期とされる2004年ごろの成信さんを、敏子さんの目でチェックした場合、1(状況に合わない行動)、5(時刻表的行動、繰り返し行動)が当てはまります。また、成信さん自身は、「何となく意欲がわかない、疲れがとれない」と訴えていることから、2(意欲減退)が該当します(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, p67)
 しかしながら宮永和夫医師は、家族だからこそ気づきにくいこともあると早期発見の難しさを指摘しております(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, p64)。
 「病気を発見するとき、家族の役割は大きい。身近な存在である家族だからこそ、『何となくいつもと違う』という微妙な異変にも気づく可能性がある。しかし、もともと家庭では習慣で行動していることが多いため、脳の働きがある程度低下しても、症状が現れにくい傾向があります。たとえ家族が小さな異変に気づいていても、病気であってほしくないという感情的なバイアスがかかり、症状があっても楽観的に解釈してしまう傾向があります。これは、家族としては無理のないことなのです。
 病気がわかってから、多くの家族が、どうして早く発見できなかったのかと自分を責めますが、身近な存在である家族だからこそ、早期発見しにくいと言えるのです。」(一部改変)



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第453回『ぼくが前を向いて歩く理由―自己中心的な車の運転』(2014年4月3日公開)
 ここで、認知症の人の運転特性について復習しておきましょう。
 あさひが丘ホスピタル(愛知県春日井市)の柴山漠人名誉院長らは、認知症患者の自動車運転の様子をドライブ・レコーダーによって観察し(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081400012.html)、その特徴について以下のように報告しております(一部改変)。
 「認知症の人(主としてアルツハイマー病)の運転は、認知症ではない高齢者と比較して、『赤信号で停まらない、信号標識をネグレクトする、注意散漫』などが有意に多い。
 FTDの人では、危険な運転が多く、『前方走向の車をあおる、ウインカーを出さずに車線変更する、高速道路を逆走する、歩道を走る』などの状況判断なく自己中心的な運転をすることが多い。」(柴山漠人:認知症ケアの体験的今昔. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.5 324-332 2012)
 一方、高知大学医学部神経精神科学教室の上村直人講師は、運転免許を保持する認知症の人83人(男性63人、女性20人)を対象に、認知症の原因疾患別の交通事故内容を調査しております。対象者の平均年齢は70.7±9.7歳で、臨床診断は、アルツハイマー型認知症(AD)41人、血管性認知症(VaD)20人、前頭側頭葉変性症(FTLD)22人です。
 調査(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081400013.html)の結果、83人中34人(41.0%)が交通事故を起こしていることが分かりました。認知症の原因疾患別では、AD患者は39.0%(41人中16人)が事故を起こし、行き先を忘れてしまう迷子運転や、駐車場で車庫入れを行う際の枠入れがうまくできず接触事故を起こすことが運転行動・事故特徴として認められました。VaD患者では20.0%(20人中4人)が事故を起こし、ハンドル操作やギアチェンジミス、速度維持困難が要因と考えられました。FTLD患者では63.6%(22人中14人)と最も高率に事故を起こしており、その特徴として信号無視や注意維持困難、わき見運転による追突事故が多くみられたことが報告されています(上村直人:認知症の人の自動車運転の実態. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.4 151-158 2011)。

 信号無視については、アルツハイマー病(AD)の特徴とする意見と、前頭側頭葉変性症(FTLD)・前頭側頭型認知症(FTD)の特徴であるとする立場に分かれましたね。
 私自身はこれまで、FTDにおける信号無視は「わが道を行く行動」と捉えておりましたが、敏子さんの記述には、「黄色信号で交差点に駆け込み侵入するというのではなく、信号自体が見えていないかのように、平然と赤信号の交差点に進入したのだ。そのことを指摘すると、本人は『そうだった?』とまったく気づいていない」様子が描かれており、注意障害(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013081200009.html)が信号無視の主因なのかなと考えさせられました。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第454回『ぼくが前を向いて歩く理由―カレンダーに書かれた予定は実行する』(2014年4月4日公開)
 「もう病院には行かない」と言って怒り、処方された薬の袋を「こんな薬なんて、いらない」と車の中で投げつけたりすることが受診のたびにあったようです。しかし意外なことに、成信さんは次回の診察日になると、これといって抵抗するわけでもなく診察を受けたそうです。投げ捨てた薬も、敏子さんのさりげないすすめに応じ、処方どおりに飲んだそうです。
 そんな様子を見ていて敏子さんは、「あんなに嫌がっていたのに、なぜだろう」と不思議に感じていたようです。そして、ある朝、成信さんの行動をみていて、その理由に気づいたそうです。
 「食卓の横にはカレンダーが張ってある。そのカレンダーに書き込まれた予定を、成信さんは一つひとつ確認し、予定にあることは実行しようとしているのに気づいたのだ。
 反対に、予定にないことは、なかなか行動しようとしなかった。『なぜ、それをぼくがしなければならないのか』『どうして今なのか』と敏子さんを質問責めにし、しまいには怒り出してしまうこともあった。
 実は、この『予定どおりに行動する』という行動パターンは、前頭側頭型認知症でしばしばみられる特性でもあった。敏子さんは、そのことを後になって、本やインターネットで知った。」(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp74-76)
 常同行動を利用し、早期からの介護サービス利用を常同行動(そしてその延長線上にある「時刻表的生活」)に組み入れておくと、病期が進行した後もデイサービスや入浴の拒否を回避することができ、在宅ケアの継続が可能となることは、シリーズ第41回『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 受診やデイサービスが難しくなる』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013012800012.html)において説明しましたね。

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読んでみたい本
 私が今読みかけている本が『認知症介護が楽になる本』(三好春樹、多賀洋子:認知症介護が楽になる本─介護職と家族が見つけた関わり方のコツ 講談社, 東京, 2014)という本です。
 本日の中日新聞においてこの本の内容が紹介されておりました。
 「『いろいろあったけど、よう、つきあってくれてるなあ』。認知症の夫を介護し、みとった体験を『認知症介護が楽になる本』(講談社)につづった津市の多賀洋子さん(71)。亡くなる半年前、そう言った夫に驚いたというくだりを読み、認識しているつもりだった認知症の実態を、実は何も知らない自分に気付いた。
 口論と重苦しさに彩られた初期の段階を経て、診断後は『自分を変えねば』と笑顔を絶やさないよう努めた多賀さん。症状の進行とともに『ありがとう』と口にするようになった夫。それを可能にしたのは、夫婦の心の絆にほかならない。
 国の研究班の調査は六十五歳以上の15%は認知症と推計する。『大半の患者さんは周りを思いやる優しさと他人の役に立ちたいという気持ちを持っている』。多賀さんの指摘は、ややもすると患者と家族の間に立ちはだかる『壁』を取り払ってくれる。(相馬 敬)」(2014年4月4日付中日新聞・三重総合 波の詩―認知症介護)

 多賀洋子さんの前作『認知症介護に行き詰まる前に読む本』(講談社, 東京, 2011)は、「ひょっとして認知症」第291回『難しい早期診断と告知─任意後見制度を有効に使えるか?』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013101600008.html)において簡単にご紹介しましたね。
 多賀洋子さんの新作『認知症介護が楽になる本』はこれから週末にかけて読みたいと思っております。

 私には、もう一冊どうしても読んでみたい本があります。その本とは、2014年3月28日付朝日新聞「認知症とわたしたち」の最終回「認知症とわたしたち―エピローグ・下」(http://apital.asahi.com/article/dementia/2014033100023.html)において紹介されておりました姫野カオルコさんの書かれた『風のささやき 介護する人への13の話』という文庫本です。
 出版社に在庫はなく、全国書店にも何店か問い合わせしましたが入手不可! 中古の出展はあるのですが「7,800円より」(http://www.amazon.co.jp/%E9%A2%A8%E3%81%AE%E3%81%95%E3%81%95%E3%82%84%E3%81%8D-%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E3%81%99%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%81%B8%E3%81%AE%EF%BC%91%EF%BC%93%E3%81%AE%E8%A9%B1-%E8%A7%92%E5%B7%9D%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%A7%AB%E9%87%8E-%E3%82%AB%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%82%B3/dp/404183516X)という状況になっていてちょっと手が出せません。

 どなたか『風のささやき 介護する人への13の話』をお持ちでしたらお貸し頂けませんでしょうか。ご検討よろしくお願い致します。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第455回『ぼくが前を向いて歩く理由―まるで人が変わったよう』(2014年4月5日公開)
 「しかし、診断から約1か月後、とうとうそれが起きた。
 『初めてそれを見たとき、私(敏子さん)は恐怖で身動きできず、涙が止まりませんでした。突然、人が変わったように主人が怒り出したのです』
 自宅で、なにげない会話をしていたときのことだった。具体的にどんな会話だったのか、敏子さんは覚えていない。それほど、なにげなく、日常的な会話だったのだ。
 『これまでの30年の結婚生活で、こんな主人の姿を見たことはありませんでした。基本的に、子どもを大事にし、だれにでもやさしい人なのです。市役所では労働組合の活動に奔走し、人のために汗を流す人なのです。そんなやさしい人が、自分がわからなくなるほどに怒るなんて』」(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp76-78)
 シリーズ第37回「認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 ピック病のチェックリスト」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013012800003.html)において述べましたように、前頭側頭型認知症(FTD)においては、人格・行動・感情面での障害が顕著であり、記憶や見当識は末期まで比較的よく保たれます。
 特に人格変化が著しく、病識がなく、無反省、自己中心的、非協力的で接触性、疎通性が非常に不良です。大食・多量飲酒もみられます。温和だった人が、怒りっぽくなることがあります。逆に気難しかった人が、理由もなく常にニコニコしている人に変わることもあります。また、子どもっぽくなり、悪ふざけをするようになる人もいます(數井裕光:認知症 知って安心!症状別対応ガイド メディカルレビュー社, 2012, p162)。人格が非常に顕著に変化することから、介護者や友人がしばしば「配偶者や親が別人になってしまった」とか「赤の他人になってしまった」と評するほどです。
 急に怒ってしまうことに関して成信さん自身は、「ただ、だれかれかまわずというわけではありません。初めて合う人やある程度こちらが緊張感をもって接している人に対しては、突然、怒鳴ったりということはしないと思います。いちばん多いのは家内で、あとは兄とか、気を許せる身内だけだと思っています。
 それも、怒鳴ったり、モノを壊したり、というのはあると思いますが、直接的な暴カはふるったことはありません。」と冷静に自己分析されております(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, p91)



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第456回『ぼくが前を向いて歩く理由―やってきた朝日新聞記者』(2014年4月6日公開)
 中村成信さんは懲戒免職当時の状況を、「市役所をクビになったぼくは、病気のことよりも、まず生活をどうするかということのほうが喫緊の問題でした。何しろ、突然、収入がゼロになり、退職金も入らないわけですから、生活のめどがまったく立たなくなったのです。」と振り返ります(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, p112)。
 そんな折り、2007年1月20日に朝日新聞の記者二人が、成信さんを訪ねました。
 「ピック病(前頭側頭型認知症)という若年認知症の原因となる疾患が理解されないために、患者はどのような苦境に立たされるのか、実名を出して取材に応じてくれる人を探しているという。
 『せっかく事件のほとぼりが冷めかかっているのに、また蒸し返して何になるのか』
 親戚からは、取材に応じることをはっきり反対された。どんな書き方をされるかわからない、と心配する声もあった。
 しかし、成信さんの気持ちは決まっていた。
 『ぼくの名前は、事件のときにすでに出てしまっているし、今さら隠しようがありません。むしろ、できるだけ多くの人に病気のことを理解してもらうには、きちんと取材に応じ、丁寧に書いてもらいたいと思いました』
 その取材記事は、朝日新聞の一面と社会面に大きく掲載された。2007年2月26日のことである。『ピック病発症 市元課長・中村さん そんな記憶ないのに まじめ一筋 職失う』という見出しの記事は、成信さんの名誉回復につながる内容だった。
 朝日新聞の記事は、前頭側頭型認知症という病気があることを世間に知らせる大きなアピールにもなりました。公平委員会に訴えてすでに半年以上が経っていましたが、これを機に、ぼくの懲戒免職処分は厳しすぎる、何とかしなきゃいけないという人が何人か出てきてくれたのです。たぶん、あの記事がなかったら、ぼくは孤立無援のまま、苦しい状態から抜け出すことができなかったかもしれません。」と中村成信さんは語っています(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp121-127)。
 2007年2月26日付朝日新聞の記事内容の一部をご紹介しましょう。
 「宮永医師が診断したケースでは、万引きの疑いで逮捕され、懲戒免職となった神奈川県茅ヶ崎市の元文化推進課長、中村成信さん(57)がいる。
 中村さんは昨年2月、白宅近くのスーパーマーケットでチョコレートとカップめんなど7点(計3300円相当)を盗んだとして逮捕された。しかし、釈放後、話のつじつまが合わないなど家族が『おかしい』と気づき、大学病院を受診。
『認知症の疑い』の診断が出た。このため、4月末、市の公平委員会に処分取り消しを求める不服申し立てをした。」
 成信さんらがようやく不服申し立てを申請できたのは、60日以内という期限ぎりぎりの4月25日だったそうです(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, p103)。



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第457回『ぼくが前を向いて歩く理由―「手伝ってくれませんか」という誘い』(2014年4月7日公開)
 2007年6月に中村成信さんは、デイサービス「あすなろ」の理事長から、「うちでは手が足りないので、よろしければ手伝ってくれませんか」と思いがけない誘いを受けました。もう一度働きたいと思っていた中村成信さんは、その時の心境を次のように語っています。
 「ぼくがまず気に入ったことは、デイサービスやスタッフの方たちのあたたかく、ゆったりした雰囲気です。『できる範囲で、無理せずやってください』と言っていただけたことも、じゃあ、やってみようかという気持ちになりました。そのうえ、有償ボランティアとして、いくらかの報酬もいただけるとお聞きしました。
 ふと庭を見ると、夏草が伸び放題でした。スタッフの方は利用者のお世話だけで手いっぱいで、庭の手入れまで手が回らないというのです。それじゃあ、まず草取りから始めましょうとぼくが言うと、それはすごく助かりますという返事でした。
 それから、ぼくは『あすなろ』に行くと、庭の草むしりや花の植えかえなどをするようになりました。
 職員の方からは細かい要望はほとんどなく、好きなようにやらせてもらっています。これが、ぼくにはとてもありがたいのです。やりたいことを止められたりすると、怒りを爆発させてしまう可能性があり、それは、できれば避けたいことでした。
 ずっと庭の手入れをしていると、ぼくなりにこんな花を植えたいというアイデアが浮かんできます。新品種の花や耳慣れない名前の花を植えるのもいいのですが、お年寄りに喜んでもらうには、春にはチューリップやパンジー、夏にはヒマワリなど、すぐに名前がわかるような花を植えたほうが、もっと庭に親しんでもらえるのではないかと考えました。
 スタッフの方に相談して、『いいですね』と言って賛成していただけると、さらに意欲がわいてきます。汗だくになって草ぼうぼうの庭をきれいにし、球根や花の苗を植え、それがきれいな花を咲かせたときには、なんとも言えない満足感があります。
 そして、スタッフやお年寄りたちに『きれいに咲いたね』なんて喜んでもらえたときは、ああ、やってよかったなあと心の底から思えるのです。」(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp174-176)



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第458回『ぼくが前を向いて歩く理由―広がった支援の輪』(2014年4月8日公開)
 「はじめは家族だけでスタートした闘いだったが、鵜飼良昭弁護士、若年認知症家族会『彩星の会(http://www5.ocn.ne.jp/~star2003/)』、地域の人、マスコミ関係者、そして『中村成信さんを支える会』と、支援の輪が広がっていった。
 そのなかで2009年6月、公平委員会は懲戒免職から6か月の停職へと、処分を修正する裁決を発表した。」(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, p132)
 「これを機に、成信さんは少しずつ近所を出歩くようになった。
 敏子さんの実家の畑で農作業をしたり、愛犬の散歩をしたりしていると、近所の人が自然に声をかけてくれる。市役所に勤めていたときは、近所の人と会話をする機会がなかった成信さんだが、すぐに打ち解けた関係になった。
 ある日、散歩から帰宅した成信さんが、手にジュースを持っていた。
 『どうしたの、それ』と敏子さんが訊ねると、『暑いから、どうぞと、近所の人がくれた』のだと言う。
 『さりげない地域の人たちの支えが、こんなにありがたいと感じることはありませんでした』と敏子さん。落ち込みがちだった成信さんも、少しずつ笑顔を見せるようになっていった。」(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp142-143)



朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第459回『ぼくが前を向いて歩く理由―医師の言葉があったからこそ』(2014年4月9日公開)
 2010年6月、中村成信さんは、主治医である吉田芳子医師の勧めもあり、趣味である写真の個展を開きました。展示期間は3週間ほどあり、病院で知り合った人や昔からの友人、医療、福祉関係者など、多くの方が見学に来られたそうです。
 最後に、著書の最終節「ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)」で語られている中村成信さんの今の想いをご紹介し本稿を閉じたいと思います。
 「5年前、ぼくは吉田先生から『5年、10年したら、今の中村さんじゃなくなる可能性がある』と言われ、大きなショックを受け、怒りも感じました。
 しかし、この言葉があったからこそ、『今、自分にできること』を大切にしようともがいてきた5年間でした。そして、今の自分を冷静に振り返ると、まだまだできることは残されているように思います。
 友人は『ますます元気になっていくね』なんて言ってくれますが、もし本当にそうだとすれば、自分であまり『病気だ、病気だ』と思わないようにしているからかもしれません。病気の進行が気にならないといえばウソになりますが、先のことを思い悩んでも仕方ありません。できるだけ今までと同じように生活して、今できることに力を尽くしていきたいと思っています。
 それは、ぼくが生きているという証になるのと同時に、今まで支えてくれた人たちへの恩返しになると思っています。そして、将来、ぼくと同じ病気になった人にも、何かの役に立つことができれば、これほどうれしいことはありません。
 そのためにも、自分の姿をもっと多くの人に見てもらい、認知症になってもできることはあるということを知ってもらいたい。前頭側頭型認知症になることは避けられないかもしれませんが、社会の無理解による不利益はなくすことができるし、なくしていかなければならない。そんな思いを胸に、今後も自分の体験を語る活動をしていきたいと思います。」(中村成信:ぼくが前を向いて歩く理由(わけ) 中央法規, 東京, 2011, pp209-211)

ぼくが前を向いて歩く理由 [前頭側頭型認知症]

ひょっとして認知症?─第444回『ぼくが前を向いて歩く理由―まじめな中年の万引きは病気の疑い』(2014.3.25公開)
 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)を患っておられます方が一冊の本を出版されています。
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 前頭側頭型認知症につきましては、復習シリーズ第36~43回において詳しくご紹介しました。前頭側頭葉変性症(Frontotemporal lobar degeneration;FTLD)の代表が前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)で、前頭側頭型認知症の代表がピック型でしたね。
 臨床的にはFTLDという用語の代わりに前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)を用い、FTLDの下位分類であったFTDをbehavioural variant of frontotemporal dementia(bvFTD:前頭側頭型認知症行動バリアント)と記載することが海外では一般的となっております。
 さて、復習シリーズ第38回「認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 大人の万引きにピック病の疑い」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013012800006.html)におきましては、スーパーで万引をしたとして公務員が懲戒免職となったものの、その後、「ピック病」と診断され、復職が認められたというニュース(http://www.asahi.com/jinmyakuki/TKY201209260368.html)をご紹介しましたね。そして、「働き盛りの50代の方が、ピック病という変性疾患による万引きのために職場を追われ、社会的な信用も失っています。40歳以上の万引きの20%はピック病が原因といわれています。したがって、中年以降の方でまじめに働いてきた人が万引きをした場合は、一度はピック病を疑ってください。」(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p122)というデータもご紹介しました。
 なお、このニュースの当事者である中村成信さんが「ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)」(中央法規)という著書を書かれております(http://www.chuohoki.jp/ebooks/commodity_param/shc/0/cmc/3587)。
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