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賢い医者のかかり方①─診療明細書 [医療情報公開]

賢い医者のかかり方① ─ 「一物一価」でない理由知ろう

 医療機関で払う医療費に「あれっ?」と思ったことはありませんか。支払いの根拠などは、患者にはわかりにくいものです。立ち止まって、整理して考えてみることが、賢い患者への一歩になるかもしれません。
 
金太郎(かねたろう)
 隣のおじさんが高血圧で倒れて病院に運ばれたんだけど、いい薬のおかげで退院できたって。いまの通院も、入院していた病院じゃなくて、近所の診療所でよくなったんだ。
得子(とくこ)
 よかったわね。

 それがいいことばかりじゃないらしいんだ。

 どうして?

 入院した病院に通院していた頃は、1回の診察で払うのは500円でおつりが来た。なのに、近所の診療所だと、2480円も請求されるんだって。診療内容は同じなのに。

 いいところに気づいたわね。医療費って「一物一価」と思われているけど、医療機関の規模などで異なる場合が多いの。
 高血圧のような生活習慣病は、食事や運動といった生活全般を見直す必要があるでしょ。指導にかかる費用を、月1回の診療で「生活習慣病管理料」として検査や其の処方とまとめて定額請求する方式があるの。お隣さんはこれね。診療所だけが使えて、大病院にはこうした上乗せはないの。

 そうなんだ。

 多くの診療所は「高額だと患者が離れる」と、慢性疾患に適用される「特定疾患療養管理料」の上乗せにとどめていると聞くわ。この上乗せはベッド数200床未満の中小病院も使える。検査などは別料金だけれど、こっちの「管理料」なら安いからよ。

 結局、大病院を受診した方が得ってこと?

 そう言うつもりはないわ。「医療の機能分化」ってわかる? 大病院は救急や重症者に専念し、比較的安定した患者は、診療所などが受け持つという考え方。同じ診療行為でも値段に差がつけられているのは、それを促すためよ。
 紹介状なしで大学病院などの特定機能病院や500床以上の地域医療支援病院を受診すると、初診料のほかに最低5千円払うようになったのも同じ理由から。

 聞いた覚えがある。

 私はこう割り切ることにしているの。近所に普段から相談できる、ちゃんとしたかかりつけ医を持てば、いざというとき、必要に応じた大病院につないでもらえる。割高に見える医療費は、そのための「保険」のようなものだと。

 なるほどね。

 取材協力・山口育子さん(ささえあい医療人権センターCOML理事長)
 (構成・鈴木淑子)=全5回
 【2017年2月4日付朝日新聞・知っ得なっ得】

私の感想
 (大半の病院で)診療明細書の無料発行が義務付けられたのは2010年4月です。
 私はこの制度にも猛反発しましたね。
 なぜだか分かりますか?
 明細書には「病名」が書いてあるんですよ。
 しかし、認知症の告知は進んでなかった! なので、「告知されていない本人が読んだらビックリするからもっとじっくり議論して!」って反対してたんです。
 2010年3月10日に中日新聞(http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20100310142018071)が取りあげてくれました際に私は以下のような私見を述べています。
 診療明細書20100310.jpg
 「笠間さんは『明細書発行の義務化を、開かれた医療に結び付けたい』と話している。」
 「診療明細書は受診した際、領収書よりも細かく医療費の内訳が記される。患者が請求ミスを知る端緒にもなりうるが、専門的で一般の患者が判読するのは難しい」から、それを読み解くための解説書を作成して外来窓口に置いたんですね。
 診療明細書解説パンフレットp1.jpg
 診療明細書解説パンフレットp2.jpg  

P.S.
 私が榊原白鳳病院に就職したのは2010.1.16日です(7年が過ぎましたね)。赴任して最初に取り組んだ課題は認知症ではなく、私のもう一つの生涯テーマである「医療情報公開」絡みだったんですよー。

診療現場において大切なことは、医師が話しやすい雰囲気を醸し出すこと [医療情報公開]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第361回『「正確な医療情報を知りたい」に共鳴して―元日に寄せて』(2014年1月1日公開)
 

 皆様、新年明けましておめでとうございます。
 本日は、私がずっと実践してきました医療情報の普及に対する取り組みについてご紹介したいと思います。

 2013年1月29日に東京都内で「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」(主催:東京都医学総合研究所)が開催されました。
 シンポジウムにおいては、認知症の人が、その人らしく生きていけるよう地域で支えていくためには何が必要なのか、6カ国(イギリスフランス、オーストラリア、デンマーク、オランダ、日本)の政策担当者や非営利団体の幹部、経済学者らが参加して活発な議論が交わされました。
 そのシンポジウムにおいては、「本人だけでなく、介護者のケアも必要だ」との意見も相次ぎ、オーストラリアの保健高齢化省の担当者は、「認知症の人が自宅で生活を続けるには、本人だけでなく介護者である家族に対し、カウンセリングや休養などのケアが欠かせない」と話しました。

 フランスにおける「患者と介護者のQOLを高めるための施策」についてご紹介しましょう(濵田拓男:リポート─海外でも広がる地域で支える認知症施策. COMMUNITY CARE Vol.15 56-59 2013)。
1. 「デイケア」「一時入所施設」を設置し介護者にレスパイトケアを提供する
2. 「研修」で介護者にスキルや情報の提供を行う
3. 総合病院内のリハビリ部門に設置された「認知行動ユニット」が危機的な状況にある人に介入し自宅へ帰る支援を行う
4. 介護施設内に、行動障害のある人のための専用ユニット「UHR」を設置し、BPSD(認知症の行動・心理症状)に対応する
5. 医師・看護師・ケアワーカーが認知症に対処するために、ケア専門職向けのスキル・研修を開発しトレーニングを受ける
6. 「電話相談窓口」を設置する

 私自身もカウンセリングとまではいきませんが、私が認知症診療に携わるようになってからずっと続けてきた一つの取り組みがあります。それは毎月1回、患者さんおよび介護者の方に、「もの忘れニュース」という一枚の文書を渡していることです。第1回のもの忘れニュースは、1998年の1月に配布したものであり、それから16年に渡ってこの取り組みを継続しており、2014年1月号にて通巻193号となっております。継続は力なり!と信じて、粘り強く続けております。
 アピタルの「ひょっとして認知症?」も Part1の最終回が第530回『100歳の美しい脳(その11)─たくさん本を読んで、手紙も書いて』でしたので、Part2が第470回を迎えますと延べ1000回となります。今年の4月下旬辺りでしょうかね。

 認知症に関する知識が何もない暗闇の中では、「情報」という一筋の光はひときわ大きな力を発揮します。私自身、患者さん・ご家族の「正確な医療情報を知りたい」という気持ちはごくごく普通に共感できますので、医療情報公開というライフワークに精力的に取り組んできました。
 医療情報普及のためには、インターネットは極めて大きな力を発揮します。私が自身のHPを開設したのは1996年6月23日のことです。1996年8月23日付朝日新聞・家庭面においては、「インターネットで気軽に痴ほう症診断」というタイトルで私のHPが写真入りで紹介されております。私の取り組みが全国紙朝刊で紹介されましたのはこの時が初めてです。
 インターネットを活用して医療について分かりやすく情報提供していくことは非常に大切なことだと私は考えております。そして、診療現場において大切なことは、医師が話しやすい雰囲気を醸し出すことです。
 私が皆さんにお勧めすることは、診察室で「メモを取る」ことです。メモを自宅で読み返して疑問点が出てきたら、インターネットを活用して調べます。そして次回診察の折に医師に質問して、自分自身の理解が間違っていないかどうかを確認し、病気に関する理解を深めていくのです。

 2010年9月28日より「ひょっとして認知症?」の連載を続けてきましたが今秋辺りでひとまず卒業かなとは思っております。卒業の日まで、皆さん今しばらくおつき合いのほどよろしくお願いいたします。

インターネットで痴ほう外来を [医療情報公開]

著書.jpg

 榊原白鳳病院の病棟看護師さんから、私の書いた本を読みたいと言われましたので、一冊だけ病棟に置くことにしました。
 私の手持ちも、もうわずか3~4冊だけになってしまいましたし、発行してから10年以上経っておりますので著作権も関係ないかな・・なんて思ったりしますので、ここに全文公開することにしました。
 もし興味がありましたらお読みください。
 私が33歳から45歳頃に取り組んだ課題などが書かれております。

 ただし、so-netブログの上限は10万文字ですので、公開はその範囲にとどめさせて頂きます。



インターネットで痴ほう外来を    笠間 睦 

【はじめに】
 高齢化社会を迎え、痴ほう症の増加がたいへん大きな社会問題となってきています。現在でも痴ほう患者数は130万人、80歳以上の5人に1人は痴ほう症という状況です。
 「痴ほう症」というと皆さんどんなイメージを持たれますか。徘徊して便をいじくったりするイメージを思い浮かべるかたが多いのではないでしょうか。しかしこのような問題行動が多い痴ほう症はごくわずかなのです。しかし、進行例では家族の顔さえわからなくなるというたいへんおそろしい病気です。
 そんなおそろしい痴ほう症をなんとか早期診断できないか。そんな目的で私は1996年7月に全国初の痴呆予防ドックを開設いたしました。痴ほう症の代表は「アルツハイマー病」と「脳血管性痴呆」です。両者ともに治療の困難な痴ほう症です。しかし痴ほう症の20%は治療可能です。そのような痴ほう症を早期診断・早期治療するとともに、治療困難な痴ほう症患者さんには介護の道筋を示すことが痴呆予防ドックの大きな役割です(1998年4月8日、おもいッきりテレビでも紹介されました)。その後、もの忘れドックなどを経て、現在は「もの忘れ外来」で痴ほう症の診療を続けております。
 痴ほう症のおそろしさが種々のメディアで取り上げられるためか、「アルツハイマー病ノイローゼ」と思われるようなかたも実に多くお見受けします。本書は痴ほう症に関して、とにかくわかりやすくまとめるということに主眼をおいて書き上げました。本書を読んで、痴ほう症に関する正しい医学知識を身につけ、アルツハイマー病ノイローゼを吹き飛ばしていただければ幸いです。
 さて本書では、痴ほう症に関する話題以外にも、広く医療一般、医療問題に関する最新情報を提供致します。すなわち、医療に関する基本的な知識・問題点を整理することで情報武装して頂き、読者の方の今後の健康増進に寄与できればと考えているからです。
 あなたは高コレステロール血症の治療基準をご存じですか? 放置するとどうなりますか? この答えを実に多くの高コレステロール患者さんがご存じないのです。医者任せのかたがたいへん多いのです。医療現場は長い間閉鎖性の強い社会でした。医師には気軽に質問すらできない風潮が当たり前のごとく受け入れられていました。また質問したら「そんなことは患者は知らなくていい」と怒られたものです。
 先ほどの答えを言いましょう。高コレステロール血症は自覚症状は何もありません。しかし放置しておくと心筋梗塞などの危険性が増大するため、予防的に治療が行われているのです。さて治療が勧められる根拠は以下の研究結果によります。まだ動脈硬化性疾患を発症していない高脂血症患者さん(45~65歳男性)に対する一次予防試験の結果、プラセボ(偽薬)との二重盲検試験において有用性が確認された(総死亡率が22%低下)のです。食事・運動療法を3~6か月間試みてもなおコレステロール値が240以上のかたは、薬物療法の開始を検討していただきたいのです(二重盲検試験に関しては、ЕВМの項の【統計学的用語の説明】を参照)。
 このようなことをしっかりご存じのかたばかりなら、医療情報公開などあえて声を大にして叫ばなくとも、日々医療情報の入手に心がけておられるので我々も安心です。しかし現実にはこのようなかたはたいへん稀で、もっと基本的なことから説明しなければならないのが現状です。6年前、私は医学用語の理解度調査を行いました。この結果は多くの全国紙で取り上げられました(1997年1月19日付読売新聞など)が、たとえば狭心症とは「心臓が小さくなる」と理解されていたかたもおられましたし、抗生物質を「抗がん剤」と考えていたかたもおられました。医療情報の普及が必要なゆえんです。
 私は、医療情報が幅広く公開されていくことを願っています。それは情報不足によって本来受ける必要がない検査・治療を受けるケースがあるからです。たいへん注目されている脳ドックを例にとって具体例をあげましょう。脳ドックの最大の目的は破裂する前に脳動脈瘤を発見して予防手術を受けて、くも膜下出血を未然に防ぐことにあります。しかし時折80歳位のかたが、ぼけを心配して脳ドックを受けられるようなケースが後を絶ちません。脳ドックでは基本的にはぼけ(痴ほう症)を診断する目的で検査内容は設定されておりません。また、脳動脈瘤の予防的手術の上限は、現状では70歳程度です。
 脳ドックのガイドライン2003は、下記サイトで公開されています。
 http://www.snh.or.jp/jsbd/gaido.html
 P47の記載を抜粋すると、『もしリスクが15%であるとすれば手術が見合うためには平均余命15年が必要で、生命表から年齢の上限は男69歳、女74歳となる』と書かれています。すなわち、75歳以上のかたが脳ドックを受けてもほとんどメリットはないのです。
 このような情報を広く普及させていくため、私自身は以前よりインターネットホームページを利用した医療情報普及に努めています。私のサイトは、数多くのメディアで紹介されており、痴ほう症の社会啓発や医療情報の公開を目指したサイトとして注目されています(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/)。
 ホームページは難しいから!と思っておられませんか。実はパソコンは、慣れたかたにマンツーマンで教えてもらえば意外と簡単なのです。私は70歳を過ぎたパソコン初心者の父が、インターネットを使えるようにするのに正味数日しか要しませんでした。
 最近ではホームページを開設する医療機関がたいへん多くなっています。患者サービスの一環ととらえているのです。しかしあまりの情報過多のため、どのサイトの情報を信じてよいのか分からないという問題点も生じてきています。
 また、情報というのはどの分野でもそうですが、決して普遍的なものではありません。医療も例外ではありません。今まで当たり前に行っていた治療でも、実は厳密に見直しした結果まちがいであったということが時折あります。皆さんの記憶に新しいところでは、痴ほう症治療に有効であるとして長年使われてきた脳代謝改善薬の多くが1998年春その姿を消しました。また、脳梗塞には当たり前のように「抗血小板剤」と呼ばれる再発予防剤が使われてきましたが、小さな脳梗塞では抗血小板剤はかえって弊害が多いという報告も発表されています。詳しくは、「脳卒中治療ガイドライン2004」(下記サイト)に記載されております。
 http://www.jsts.gr.jp/jss08.html
 P78の記載を抜粋すると、『ラクナ梗塞の再発予防に対してエビデンスを持つ抗血小板薬は現時点では本邦で開発されたシロスタゾールのみである』と記載されております。
 医師の多くは医療情報をあまり公開したがりません。その理由として「むやみに情報を公開すると、患者さんが混乱するから」という人が多いようです。先程高コレステロール血症の治療の大切さを述べましたが、一方では「男性35歳以下、女性45歳以下では、コレステロール検査の必要なし」というアメリカからの報告もあります。素人には判断できないから医師にまかせたいというのも結構ですが、患者さんが医師と情報を共有し議論したうえで最良と思う治療を選択するのが、これからの医療のあるべき姿なのです。また医療情報を詳しく公開すると、医療経営上好ましくないため、情報公開を避ける傾向もあるようです。私が担当していた脳ドックでも、事前の情報公開を綿密にやりますと受診希望者が減少します(少なくとも75歳以上のかたは、事前の説明を聞いて脳ドックの予約をキャンセルされます)。医療情報公開の推進は、医療費削減という効果ももたらすのです。
 また、あまり恐いことを事前に話しては前向きに闘病できないのではないかと懸念して、恐い合併症でも頻度が少ないものについては、医師は情報提供を避ける傾向にあります。私は1998年4月に全身麻酔下で腰痛手術を受けました。その時、手術そのものよりも麻酔合併症の発生を恐ろしく感じました。それは、私が医師ゆえに、1万例に1例の麻酔による心停止の合併症発生率を熟知していたからであります。このようなまれな合併症を、どこまで情報提供するか、議論の分かれるところです。しかし、手術、検査をする・しないも含めて検討したい場合には、このような合併症発生率の数字というのはたいへん大きな意味を持つ数字となります。情報公開の普及が望ましいと思うゆえんであります。
 「インフォームド・コンセント(IC)」という用語をよく新聞で見るようになってきたと思いますが、さてこのICっていったい何なのでしょうか。ICはかつては「説明と同意」と訳されていました。その後「十分な説明による同意」と訳されていましたが、ごく最近では「医師による説明と、患者の理解・選択にもとづく同意、拒否」と訳されるようになりました。すなわち説明を聞いて、患者さんが自分で選択・意思決定することが大切であるのだという認識が高まってきているのです。このようにいろいろな説明を受けて自分が納得できる治療方法を選択することをインフォームド・チョイスといいます。
 さて、説明を受けて納得できない場合どうすればいいのでしょうか。別の医師に聞くという方法があります。医師の考え方が違えば治療方針が違うケースが多々あるからです。これをセカンド・オピニオン(主治医以外の第二の医師の意見)といいます。
 さてセカンド・オピニオンを得るには、第二の医師に診療情報を伝えることが不可欠となります。そこで必要になるのがカルテの開示なのです。私は1998年12月7日より外来カルテ開示を開始致しました。この取り組みは一般病院の外来としては全国初のことでありたいへん注目されました。本書ではこのカルテ開示問題、レセプト開示問題などについても解説いたします。
 医療情報は医療関係者以外にはたいへん分かりにくいですね。その理由は簡単です。同じ病気でも、Α医師とB医師の治療に対する考え方・言うことが違うからです。具体的に分かりやすい例を示せば、西洋医学を行うか、東洋医学を行うかということでも随分治療方針は異なってきます。
 医師の考え方が違えば、治療方針が違ってくるのは当然です。しかし担当医師の情報不足によって不適切な治療を受けるとなってくるとことは重大です。ですからセカンド・オピニオンが重要なのです。
 セカンド・オピニオンの先進国アメリカの現状はどうなのでしょうか。がん治療ではアメリカNO1と自他ともに認めるニューヨークのスローンケタリング記念がんセンターには、この「第二の意見」を求める患者が全米からやってくるそうです。担当のスチーブン・ビーチ医師によると、まず、患者から送られてくるカルテやエックス線写真、顕微鏡写真などを見て、必要なら検査を追加し、その上で患者と一時間あまり話し合い、結論は文書にまとめ、患者と主治医の両方に送るシステムをとっているそうです。ビーチ医師の相談料は500ドル(約6万円)で、病理医が顕微鏡写真を見て意見を述べた場合は別に300ドル(約3万6千円)必要ですが、原則としてセカンド・オピニオンには保険が適用されるそうです(1997年2月16日付朝日新聞、日曜版)。
 そもそもこのセカンド・オピニオンの制度は、アメリカで80年代に医療費高騰に音を上げた保険会社が、過剰診療を防ぐ目的で導入したものなのです。
 百年余の歴史を誇るアメリカメイヨークリニックの精神科部長でメイヨー医大教授の丸田俊彦医師は、日米の違いの一端をこう評価しています。「アメリカでは、私とあなたは意見が違うということを許容できる。ところが、日本人には正しい意見は一つだけだという思い込みがあるようで、正しいのはどっちかだとなってしまう。だから日本の医師は別の医師の意見で自分の判断が間違いだと分かるのではと不安なのです」。
 さてセカンド・オピニオンを受ける前に是非一読をお勧めしたい本があります。がん・Informed Decisions(保健同人社、細谷亮太監訳、1998年発行)という本です。医学専門書並みの医療情報が記載された本が今や一般書店に並んでいるのです。
 著書の中では、各種がんの5年生存率も記載されています。また私自身も「え!」と驚くようなことも記載されており、たいへん勉強になりました。その一部を紹介すると、P38には「パップスメア(子宮頸部細胞診)でがんの疑いなしと告げられた女性100人のうち、1?40人は偽陰性である(第五章5節参照)」という驚くべき記載があります。またP67には「化粧品には金属粒子を含むものがあるので、MRI検査の折りには一切施さない」という意外なことも書かれておりとても参考になる本です。
 「法の下に眠るものを法は救わず」という言葉がありますね。人間の「性善説」をすべての医師が貫いているのなら、あえて医療情報武装する必要もないと思います。しかし現実には、下記のような質問も新聞の読書欄に寄せられるのです。
 「薬だけでも再診料必要?」という質問内容です(2004年4月11日付読売新聞)。記事内容から抜粋すると、『医師法20条には、診察なしに診断書や処方せんを交付してはならないと定められています。やむを得ない事情で、家族が薬をもらいに来る場合も、医師はその家族に会って病状を聞く必要があります。再診料は、診察の上で薬を処方したという前提で、徴収しているわけです。』という内容です。
 薬だけでも再診料を算定するのは公然の事実になっていますが、実はもっと商売熱心な医療機関が多々あるという指摘もあります。薬だけの依頼であるのに、再診料のみならず種々の「指導管理料」も算定しているのです。本来「指導管理料」は、主に医師等が行う疾患に対する療養指導や計画的な治療管理を評価し算定するものです。薬だけの再診で指導管理料も算定するというのは、「医師法20条」の存在を逆手にとった手法でもあります。私はこの際、「投薬だけ」というケースも念頭に置いて法改正し、「医師の了解のうえでの薬だけの再診料」という項目が新設されることも、検討項目に入れるべきではないかと思っています。すなわち、これだけ発展した日本社会ですから、「自分で自分の治療を決定し管理するシステム」を模索しても良いのではないかと考えているのです。また、「幽霊指導料算定」がなくなることにより、医療費削減にも繋がると期待されます。




目次

第1章 インターネットと病気の診断・治療
 (1)私とパソコン、インターネット
 (2)医療情報公開、セカンド・オピニオン
 (3)カルテ開示、レセプト開示問題
 (4)ЕВМ(科学的根拠に基づく医療)


第2章 痴ほう症とインターネット
 (1)痴ほう症について
 (2)痴ほう症治療成績
 (3)痴呆予防ドック、もの忘れドックの開設
 (4)ホームページ開設
 (5)痴ほう症情報の探し方
 (6)痴ほう症名医の見分け方


第3章 痴ほう症インターネット相談室
 (1)痴ほう症全般にわたる相談
  メール1  病院を受診すべきでしょうか?
  メール2  痴ほう症と混同されやすいもの
  メール3  急速に痴ほう症が出現
  メール4  投薬後、痴ほう症状が悪化
  メール5  アルツハイマー病の経過は?
  メール6  犬の痴ほう症
  メール7  クロイツフェルト・ヤコブ病? ウェルニッケ脳症?
  メール8  心因性痴ほう?
  メール9  記憶力が低下、アルツハイマー病?
  メール10 医療機関を紹介してください
  メール11 母がアルツハイマー病?
  メール12 痴ほうは遺伝するのでしょうか? 財産管理について
  メール13 若年性アルツハイマー病?
  メール14 うつ病?
  メール15 本人は受診したがらないが、診察を受けたい
  メール16 アルツハイマー病か水頭症か?
  メール17 義母を前にして症状をお話しにくいです
 (2)痴ほう症の予防について
  メール1  座禅は痴ほうを予防するか?
  メール2  女性ホルモンはアルツハイマー病を予防しますか?
  メール3  アルツハイマー病予防にビタミンEが有効?
  メール4  ぼけと喫煙の関係は?
  メール5  昼寝とアルツハイマー病予防の関係は?
  メール6  脳をよく使うと痴ほう症になりにくいのですか?
  メール7  脳梗塞後の痴ほう症がとても心配!
  メール8  混合型痴ほう?
 (3)痴ほう症の治療について
  メール1  アルツハイマー病の治療について教えて
  メール2  通院患者さんのご家族より質問
  メール3  インターネットでセカンド・オピニオン
  メール4  くも膜下出血後の水頭症による痴ほう症、手術適応は?
  メール5  未破裂脳動脈瘤の手術後の健忘。訴訟の対象になりますか?
  メール6  アリセプト10mgはどうですか?(カナダよりのメール)
 (4)痴ほう症患者の介護について
  メール1  中期アルツハイマー病、今後のアドバイスを希望
  メール2  同じことを何度も言うので疲れます
  メール3  早期受診のメリットは?
  メール4  介護と痴ほう症の進行は?
  メール5  在宅看護支援センターを教えて
  メール6  これぞ究極の介護!
 (5)その他(痴ほう症以外の相談例)
  メール1  至急、肺がんの名医教えて!
  メール2  ハワイの現状
  メール3  植物状態からの回復の可能性は?
  メール4  不老不死について
  メール5  抗がん剤の効果は?
  メール6  都内の病院で、頭痛治療でお勧めの病院は?
  メール7  健康食品についてどう思いますか?
  メール8  腰痛です。手術すべきでしょうか?


【資料】
 (1)痴ほう症関連のサイト
 (2)患者の権利を尊重することが期待される医療機関のサイト
 (3)主な医療相談のサイト
 (4)インターネット医科大学ガイド
 (5)病院でもらった脳の薬ガイド
 

【あとがき】




第1章 インターネットと病気の診断・治療
(1)私とパソコン、インターネット
 長い間医療は「医師まかせ」が常識でした。インフォームド・コンセント(十分な説明による同意)ということが叫ばれてきたのはまだつい最近のことです。最近では更に「カルテの開示」への要望も高まってきています。さてそれは何故なのでしょうか。答えは簡単です。根底に「医療不信」があるからです。しかし患者さんの「プライバシーの問題」、「医学知識の乏しい患者に詳しく説明しても混乱するだけ」という理由を掲げ、多くの医師は医療情報の公開に非積極的です。何か患者さんが手軽に医療情報を入手する方法はないのでしょうか。そこでたいへん大きな威力を発揮するのが、インターネットなのです。
 私が読んだ本で、たいへん感動した本があります。埴岡健一さんというかたが書かれた本に、『インターネットを使ってガンと闘おう(中央公論社発行)』という本があります。著者夫婦が渡米中に、奥様が白血病に罹られ、奥さんにとってより好ましい治療方法を探し出すために、著者がインターネットを通じて詳細な情報を得て、がんと闘かった記録が記されています。
 はっきり申し上げて、医学書並みの詳しい医学的記述が多々記載されており、素人には読みづらい本かもしれません。しかしこのレベルの本を素人が書けたということがたいへんすばらしいことなのです。インターネットはそんな夢を実現してくれるものなのです。
 このように最新医療情報の普及・正しい知識の啓蒙に、インターネットのホームページはたいへん大きな威力を発揮いたします。私のサイトではこういったことを目的にして最新医学情報(特に痴ほう症に関する最新情報)を頻回に更新していますのでご参照下さい(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/)。


(2)医療情報公開、セカンド・オピニオン
 私は1998年12月7日より、病院としては全国初の外来カルテ開示を始動しています。この項ではカルテを含めた診療情報公開のもたらす意義、カルテ開示後の反響などを報告します。
 インフォームド・コンセント(IC)は、ごく最近普及してきた概念のように感じられるかたが多いのですが、その歴史は古く、1957年のサルゴ裁判で初めてICという用語は登場しました。ICは、当初は「説明と同意」と訳されていました。その後「十分な説明による同意」と訳されていましたが、ごく最近では「医師による説明と、患者の理解・選択にもとづく同意、拒否」と訳されるようになりました。すなわち説明を聞いて、患者さんが自分で選択・意思決定することが大切であるのだという認識が高まってきているのです。説明を受けて納得できない場合には、別の医師に聞くという方法があります。医師の考え方が違えば治療方針が違うケースが多々あるからです。これがセカンド・オピニオン(主治医以外の第二の医師の意見)です。
 セカンド・オピニオンはアメリカではたいへん普及してきていますが、日本では患者さんが気兼ねするためか普及していないのが現状です。1998年6月、名古屋市に「セカンド・オピニオンを推進させる会」が発足しました。患者さんから電話相談を受けると、同会と協力関係にある医師を有料(6000円)で紹介するシステムでたいへん注目されています(TEL:052-760-0868、受付時間は平日の午前10時から午後6時)。
 セカンド・オピニオンが普及しないのは、「患者さんが気兼ねして医師に申し出ることをしないから」という理由だけではありません。医師側にも責任があります。患者さんが担当医に、「紹介してほしい」と頼んでも、患者さんを奪われるのではないか(となると患者数減少=経営悪化につながる)という懸念から、紹介することに抵抗の強い医師が多いのです。
 医師過剰時代を迎えています。紹介を希望するかたは気兼ねなく申し出るようにしましょう。必ずあなたの希望に合致する医師がどこか近くにいるはずです。きちんと紹介を受けられること、セカンド・オピニオンは、患者さんの基本的な権利の1つになってきています。あなたの主治医が、その権利・申し出に対して、不愉快な態度を示すようなら、あなたは早めに主治医を変えた方がよいと思います。
 さて、セカンド・オピニオンが機能していくためには、科学的な根拠に基づいた診療の標準化が欠かせないことが指摘されています。すなわちA医師に「がん検診は無効」と言われ、検診を受けるかどうか判断に苦しみ、セカンド・オピニオンをB医師に求めたところ、「そんな意見は暴論だ」と一言でかたづけられ、さらにC医師に相談したら「まだ結論は出ていないが、検診の国からの補助金はカットされてきた」と言われたら、素人である患者さんは、いったいどの意見を信じてよいのかわからなくなってしまいます。ですから標準化が欠かせないわけなのですが、医師の裁量権にも関係してくる大きな問題であり、たいへん難しい課題なのです。
 しかしこの難しい課題にも動きが出てきました。1998年9月13日の、「胃がん治療統一基準作り」と大きく見出された朝日新聞の記事によれば、アメリカではすでにがん治療の統一基準がインターネットなどで公開されていますが、日本ではまだ統一基準もなく、病院ごとに治療方法が異なるのが現状でした。しかし日本胃癌学会は9月12日、標準治療検討委員会を発足させました。そして1999年夏までに治療法の基準の素案をまとめるという記事内容でした。これを契機に各分野で統一基準作成の動きは活発化していくと思われ、医療の大きな転機が訪れようとしています。その後、2001年には、新聞などのメディアを通じて、胃がん治療のガイドラインは公開されました。自分が受けている治療が、ガイドラインと照らし合わせて妥当なものであるかどうかなど、自分自身で確認可能な時代に突入してきているのです。種々のガイドラインが次々と公開されてきている背景には、医療の透明性が求められ、公開できないものは切れ捨てられるという流れが加速してきているからです。
 検診を受ける前に検診に関する諸情報を知る権利も、今後はたいへん重要なことであると私は考えています。何故なら検診の精度も実にさまざまです。説明をよく聞いて、納得できる検診を選択することも、インフォームド・チョイスの観念からすれば当然のことであるからです。がん検診を例にあげて問題点について述べましょう。1998年4月、「従来から行われてきたがん検診のうち、有効性の証明がされたのは、大腸がんと子宮頚がんの検診だけであった。胃がん検診についても有効と考えてよさそうであるが、肺がん検診と乳がん検診については有効性の根拠が十分でない」と新聞各社が報道し、多くの医療関係者に衝撃が走りました。1998年3月に発表された厚生省「がん検診の有効性評価に関する研究班報告書」によれば、「有効と考えてよさそう」と評価された胃エックス線検査による胃がん検診では、10~40%の偽陰性と、10~25%の偽陽性が報告されています(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/GANKENSINgimonMatome.html)。この検査の限界に関する十分な説明を、事前に十分に行う必要があるのですが、がん検診が有効か無効かということばかりに関心が集中し、有効と評価された内容の情報公開が不十分であると私は思います。
 「無効」とレッテルを貼られた肺がん検診ですが、およそ1年後の1999年4月、大きな動きがありました。肺がん検診を毎年受けると、受けない場合よりも肺がんによる死亡の危険度が4~6割減って有効という研究結果を厚生省の研究班がまとめ、4月2日に日本医学会総会で発表されたと1999年4月3日付朝日新聞が1面で報道しました。記事によれば、宮城県では肺がんで亡くなった382人と、そうではない一般の1886人について、エックス線撮影を基本にして、痰の細胞検査も行う肺がん検診受診歴を調べたそうです。その結果、検診を毎年受けた場合には、肺がんによる死亡の危険度が46%減ることがわかったというものです。
 がん検診の有効性評価をまとめた、厚生労働省の研究班による最新の報告書は、2001年12月19日に公表されたものです。 この報告書は、久道茂東北大学教授(公衆衛生学)を班長とする、厚生労働省の研究班がまとめたものです。
 詳細は、下記のサイトに記載されています。
 http://www.pbhealth.med.tohoku.ac.jp/top.html
 研究班は、各種がん検診の有効性について、死亡率減少効果を中心に、内外の文献を批判的に吟味して評価しました。その上で、共通の基準を用いて有効性の判定を行いました。報告書の中で、最高ランクのI - a:「検診による死亡率減少効果があるとする、十分な根拠がある」とランクされたものは、以下の3つの検診だけです。
 a)擦過細胞診による子宮頚がん検診
 b)視触診とマンモグラフィの併用による乳がん検診(50歳以上)
 c)便潜血検査による大腸がん検診
 一般的によく実施されている視触診だけの乳がん検診の有効性というものは、基本的に確認されていませんので、これだけで安心することはできないのです。
 すなわち、視触診単独による乳がん検診は、I - c:「検診による死亡率減少効果がないとする、相応の根拠がある」というランクなのです。 ただし今回、最高ランクのI - aと評価された「視触診とマンモグラフィの併用による乳がん検診」ですが、米国立がん研究所は、マンモグラフィー(乳房エックス線撮影検査)が乳がんによる死亡を抑制している、という従来の見解を見直し、マンモグラフィーの効果を裏付ける十分な証拠はないという発表を2002年2月に行いました。
 検診では、直腸診による前立腺がん検診を受けられるかたも多いのですが、これもI - cにランクされており、直腸診だけの検診は積極的にはお勧めできません。
 なお先に述べた、胸部エックス線検査と高危険群に対する喀痰細胞診の併用による肺がん検診は、I - b:「検診による死亡率減少効果があるとする、相応の根拠がある」という2番目のランクです。
 肺がん検診として最も期待されてい?、らせんCTと高危険群に対する喀痰細胞診の併用による肺がん検診は、II 群:「検診による死亡率減少効果を判定する適切な根拠となる研究や報告が、現時点で見られないもの」という位置づけです。

 1999年6月24?25日、第8回日本脳ドック学会総会が大阪で開催されました。主題の1つは、脳ドックにおけるICでした。私が以前勤務していた津生協病院では、1995年より脳ドック、1996年より痴呆予防ドック(痴ほう専門ドック)を開始しており2000年12月まで私が担当いたしました。開設当初より検診前のICに留意してきましたが、1998年6月からは検診前に検診の詳細を記載した文書を郵送してきました。それ以前はほとんど検診のキャンセルはありませんでしたが文書郵送後、脳ドックで22.2%(27件中6件)、痴呆予防ドックでは46.6%(174件中81件)ものキャンセルがありました。
 現在の脳神経外科手術の技術レベルより考えると、未破裂脳動脈瘤の予防的手術の年齢的な上限ラインは70歳とされています。逆に言うと70歳を超えて脳ドックを受けて脳動脈瘤を発見されても、予防的手術の適応からはずれ、精神的ストレスを味わうだけですから、脳ドックは積極的にお勧めできないわけです。しかしながら実に多くの70歳以上のかたが、脳ドックを受診されているのが現状です。検診の限界に関する事前の説明が不十分であるからです。このように医療情報公開は医療経営に影響します。しかし積極的な情報公開は、医療訴訟の防止の面でもたいへん重要であるとともに、患者さんからの厚い信頼を得るために不可欠であると私は考えています。詳しくは、メール5「未破裂脳動脈瘤の手術後の健忘。訴訟の対象になりますか?」を参照ください。
 医師の多くは医療情報の公開(カルテの開示も含めて)にあまり積極的でありません。その理由としてむやみに公開すると、患者さんが混乱するからという理由をあげる人が多いようです。情報公開の医療における特殊性として、医師と患者間の大きな情報格差の問題が指摘されています。しかしそれがどの程度なのかということは意外と調査されておりません。私は1996年、医学用語の理解度調査を行いました。詳細は私の著者「ぼける前に読むぼけの本(技術評論社発行)」に記載していますが、「炎症」、「抗生物質」、「高脂血症」などの身近な医学用語なのですが、正しく理解されていた比率はいずれも50%前後と低率でした。
 多くの医師、医療関係者たちはこの正解率の低さをみて驚かれたことと思います。患者さんに真に理解してもらうことがいかに困難なことであるかは、この数字を見れば一目瞭然です。医療の内容を真に伝えるつもりならば、相当の努力を覚悟しなければならないのです。
 一方で、過剰な情報の押しつけは、患者さんにとって決して有益なものではないという点が、IC先進国のアメリカでも報告され出しています。患者さんの価値観も考慮しながら、必要と思われる情報を選択して提供する姿勢も非常に大切なことなのです。あまり恐いことを事前に話しては前向きに闘病できないのではないかと懸念して、恐い合併症でも頻度が少ないものについては、医師は情報提供を避ける傾向にあります。私は1998年4月に全身麻酔下で腰痛手術を受けました。その時、手術そのものよりも麻酔合併症の発生を恐ろしく感じました。それは、私が医師ゆえに、一万例に一例の麻酔による心停止の合併症発生率を熟知していたからであります。
 私は1998年9~11月、以前勤務していた津生協病院内科外来で通院患者さんを対象にアンケート調査を行いました。アンケートの目的は、我々医師には常識的な医学知識でも、患者さんは意外と理解されていないかたが多いのではないかということを調査し、IC、セカンド・オピニオンの重要性を再認識していただき、普及につながればと考えて行ったものです。また同時にカルテ開示の希望率もアンケート調査いたしました。
 アンケートは325人に配布し、267人(回収率:82.2%)から回答を得ています(有効回答は265人)。アンケート回答者の年齢分布は、30代3名、40代16名、50代32名、60代89名、70代95名、80代23名、90代1名、無回答6名です。
 アンケートの一部を紹介すると、「心肺蘇生を1人で行う場合、人工呼吸と心臓マッサージの割合は?」というような設問です(計5問)。これを4者択一方式で回答していただきました(表1)。
 一問目の「風邪をひいた時の注射って何に効くのか?」ですが、この設問の正解は「脱水を改善したり、熱を下げたりする」です。医療関係者には常識ですが、患者さんの正解率は、36.6%とかなり低い成績でした。この問題を正解するには、風邪の原因が何かということを知る必要があります。風邪の病原体の90%はウイルスで、抗生物質は効果がありません。残り10%がウイルス以外の病原体(細菌など)が原因で、抗生物質の必要な風邪です。両者の見分け方ですが、診察だけでは医師でも困難であることが多いというのが正直なところです。一つの目安として、粘膜の発赤・腫脹(はれ)が強い場合、高熱の場合、白血球の増加が著しい場合などは細菌感染が疑われますので、抗生物質が必要とされております。
 ウイルスと細菌の違いを簡単に説明します。どちらも微生物という名前で総称されます。バクテリア(細菌)はウイルスよりも大きいのですが、その大きさはまちまちで、寄生的に動物細胞の中で生きるものや1ミリ位の長さに達する(普通の細菌は1ミクロン位)ものまであります。細菌は遺伝子、細胞膜、代謝器官を有する微生物で、細胞分裂によって自ら増えることもできるし、代謝(栄養分を取り込んで、生物活動すること)が可能です。代謝の仕方は、生物によって特徴があるので、この生物の代謝だけを妨害するような薬を作って投与すれば、その細菌は代謝ができなくなって死滅します。細菌には病原性をもつものもたくさんいますが、その殆どが口・鼻を通して感染します。食中毒や肺炎などがその代表例です。
 ウイルスは増えるためのプログラムを記録している遺伝子とこれを包むタンパクからなる構造をしていて、最も物質に近い生物です。自ら増えることはできませんし、栄養分を消化することもできません。ウイルス自体には代謝する機能がないから、ウイルスは小さいのです。しかし、宿主となる細胞(人体細胞など)に取り付くと、その遺伝子を宿主の遺伝子の中にコピーしてしまいます。すると、宿主細胞がウイルスを産みだし、増やしてしまうのです。いったん取り付くと、宿主細胞そのものを破壊しないと治療しがたいのです。ウイルス感染症の代表が、インフルエンザ、水痘、風疹、麻疹などです。
 1929年青カビの中から最初の抗生物質ペニシリンが発見されました。ペニシリンは、人類が長い間苦しめられた細菌による感染症の治療に革命をもたらしました。抗生物質を飲んでも、風邪の主要因であるウイルスは減らないのだということを皆さんはこの機会に覚えて下さい。風邪のウイルスを直接殺す抗ウイルス剤は未だ存在しないのです。
 ではなぜ医療機関では、風邪の時にウイルスには効果のない抗生物質を投与するのでしょうか。それは、ウイルス感染に伴う2次細菌感染の予防又は治療です。しかし風邪には抗生物質を使用しない医師が多数います。本当に2次感染しているのか、そして予防治療の意義が必ずしも確立されていないという背景があるので、風邪の際の抗生物質投与の是非がいまだに議論されているのです。風邪に限らず、種々の疾患に抗生物質を安易に使いすぎるため、耐性菌の出現を招き抗生物質の寿命を短くしていることは大きな問題です。
 私はこのアンケート結果で、「風邪のウイルスを減らして、より早く風邪を治すことができる」と回答した方があまりにも多く閉口いたしました。しかし一方で、何故風邪の患者さんがよく、「注射をしてほしい」と希望するのかその理由がよく理解できるようになりました。
次の問題の「人工呼吸2回に対し心臓マッサージ15回」という正解を選択されるかたは、4択問題にも関わらずわずか28%で、「心臓が停止しているのだから、とにかく心臓マッサージだけを優先する」という回答の割合も正解者とほぼ同数で愕然といたしました。アメリカの心肺蘇生法のガイドラインでは、救命には心停止後4分以内に心肺蘇生(現場の心肺蘇生)を行うことが重要とされています。現在の日本の現状では、心停止が起きてから119番通報までに約10分、救急車が現場に到着するまでに約6分かかっています。4択での正解率24%では現場の心肺蘇生は期待できそうもありません。積極的に医学知識を身につけていただきたいと思うゆえんです。
 なおこの「人工呼吸2回に対し心臓マッサージ15回」に関しては、2001年6月6日に救急蘇生法の新たな統一指針が報告された際に、「心臓マッサージと人工呼吸の比率は、救助者の数によらず15:2」とする(旧指針:2人で心臓マッサージと人工呼吸を行うときは5:1で行う)と変更されましたので、留意しておく必要があります。
 この他の主な変更点としては、心臓マッサージは1分間に100回とする(旧:心臓マッサージは1分間に80~100回とする)、息を吹き込む量は500~800mlとする(旧:800~1200ml)などです。
 脳ドックの正解に関しては、メール5の「未破裂脳動脈瘤の手術後の健忘。訴訟の対象になりますか?」に詳しく解説しております。
 高コレステロール血症治療の問題に関しては、まえがき部分とЕВМの項に正解と解説を記載しております。なお、高コレステロール血症の診断基準は従来は、総コレステロール値で220mg/dl以上でしたが、2001年に基準値の見直しがされ、240mg/dl以上に緩和される(220~239は境界値)方針でまとまりかかりましたが、「動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版」では結局従来通り、総コレステロール値で220mg/dl以上(高LDLコレステロール血症:140mg/dl以上)が高脂血症の診断基準ということで決着致しました。
 なお、血液検査の「正常値」というものに関して、理解を深めておく必要があります。血液検査の正常値とは、「平均値±2SD」で決められています。平均値±2SDの範囲にはデータの約95%が含まれます。したがって健常者の5%は基準外の検査値を呈し、「異常」と判断されてしまいます。異常と判断されても5%はまったく問題ないわけですから、自己判断して心配せずに医療機関を受診して相談することが大切です。
 また、健診の基準値というものは、30、40歳代など健康な若い世代の平均値を基に設定されていますので、高齢になるほど基準値から外れてくる検査項目があることも知っておく必要があります。具体的には、血圧・空腹時血糖・腎機能の指標の尿素窒素、貧血の指標のヘモグロビンなどです。老眼が病気でないのと同じことなのですね。
 1998年度の人間ドック全国集計成績によれば、人間ドックを受診した人のうち「異常なし」と診断されるのはわずか15.8%で、8割以上の受診者に何らかの異常が認められたことが報告されているのです。
 がんに関しては、がん検診をしないと早期発見は不可能です。採血すれば早期発見できると考えているかたが多数おられますが、基本的には、採血で発見できるがんは進行がんと考えておいてください。なお、1998年に(旧)厚生省は、「がん検診の有効性評価に関する研究班報告書」を発表しています。われわれ医療関係者にとっては大変重大な発表でしたが、患者さんからはがん検診に関する疑問の声はあまり聞かれなかったように記憶しています。
 さて「研究班報告書」によれば、従来から行われてきたがん検診のうち、現段階で有効と証明されているのは子宮頚がんと大腸がん、有効と考えてよさそうなのが胃がん、有効と考える根拠に乏しいのが肺がんと乳がんとされておりますので、がん検診の持つ意義に関してしっかりと勉強されてから受けられることをお勧めいたします。
 一例をあげておきます。研究班報告書で「有効と考えてよさそう」と評価された胃エックス線検査による胃がん検診では、10~40%の偽陰性(本当は胃がんが存在するのに「なし」と診断される率で、見逃され放置されることになります)と、10~25%の偽陽性(本当は胃がんが存在しないのに「あり」と診断される率で、その結果本来は必要のない胃カメラ等による精密検査を受けることになります)が報告されています。この検査の限界に関する説明を事前に十分に行う必要があるのですが、皆さんもご存知のように、検診前にこの数字の説明を受けられた方はほとんどおられないと思います。なお、上記の胃がん検診の偽陰性・偽陽性の数字は、バス検診などで行われる間接エックス線撮影における数字です。診療所、病院などで実施される直接エックス線撮影においては、偽陰性・偽陽性は稀です。
 医療機関に勤務する職員の健診受診率という興味深いデータがありますのでご紹介します。
 ある病院の統計によると、医療従事者を事務系、看護婦以外のパラメディカルスタッフ(薬剤師、放射線技師、検査技師、リハビリ療法士など)、看護婦、医師の4群に分類した場合、前2者の受診率が比較的高い(78%)のに対し、看護婦の受診率が低く(50%)、それに輪をかけるように医師の受診率が低率(34%)であると報告されています(1997年4月5日号、日本医事新報)。
 一般の企業では職場の定期健診はすっかり定着しており、特に35歳以上の職員の定期健診受診率はほぼ100%に達しています。治療より予防が大切であることはいまさら言うまでもないのですが、医師の受診率の低さはいったい何が原因なのでしょうか。私は、そこに「検査の限界」が大きく影響していると思っています。すなわち、医師は検査の限界を一番熟知しております。「なぜ検診を受けないのですか?」と直接医師に尋ねても、そのことは否定する方が多いでしょうが、やはり数字に表れていると言わざるを得ないと思います。
 健康保険組合連合会による意識調査の結果では、「患者の7割がカルテを見たいと思っている」という結果が出ています(この調査は、1997年9月に医療機関に入院または外来受診した2391人を対象に実施されたものです。回答した1212人のうち、カルテを「見たいと思う」は入院患者で37.6%、外来患者では34.9%。「多少見たいと思う」を加えると、入院患者の69.2%、外来患者の64.5%に達したという結果です)。
 このようなデータはすでにあるのですが、約3割のかたが、なぜカルテを見たくないのかという点に関しての考察がされておらず、カルテを開示するうえで何が問題なのかということが十分に検討されていませんでした。そのため今回は、見たくない理由を調査する目的で、カルテ開示アンケートも付随して行ったのです。アンケート結果から考えれば、誤解しないような表現でカルテが書かれており、しかも全ての病気が告知されており、見ても驚かないような内容であるならば、ほぼすべてのかたが「カルテの開示に賛成」であることが分かり(表2)、1998年12月7日より外来カルテ開示を始動したのでした。
 「カルテを見たい」と回答されたかたの比率は、104/265=39.2%という数字で、私の予想よりかなり低い数字でした。東京都政策報道室が、都民を対象に実施した「保健医療に関する世論調査」の結果によれば、カルテの内容を知りたい、治療法を自分で選びたいという患者の意識が比較的高い(記載内容を「どんな場合でも知りたい」が53.1%、「病名や症状による」は33.6%。逆に「どんな場合でも知りたくない」は9.3%)ことがうかがえます。しかし、こうした意識は30歳代、40歳代といった現役世代で高い半面、70歳以上の高齢者では、治療法を医師にまかせたいという意見のほうが多く、年齢層で意識の違いがあることも浮き彫りになっています。したがってアンケートの対象が若年層であれば、カルテ開示希望率はもっと高率になると思われます。実際に私がインターネット上で調査していたカルテ開示希望率の調査によれば、カルテ開示希望率は97.4%と非常に高率でした。
 「セカンド・オピニオンを推進させる会」が発足したことは冒頭で述べましたが、セカンド・オピニオン普及にはまだまだほど遠いのが現状です。そこで何かもっと手軽にセカンド・オピニオンを得る方法はないのか。実はインターネットがここで非常に大きな威力を発揮してくるのです。筆者のサイト(アドレス:http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/)では、最新の医学情報(特に痴ほう症に関する最新情報)を頻回に情報更新しています。毎日約300~500件程度のアクセスがあり、また月間50通の医療相談の電子メールが全国か?寄せられおり、個人のサイトとしては類を見ない大きな成果を上げています。
 さて、セカンド・オピニオンを得るには、第二の医師に診療情報を伝えることが不可欠となります。そこで必要になるのがカルテの開示なのです。私は、1998年より外来でのカルテ開示を始動しました。病院外来としては全国初のことで、1998年12月10日付朝日新聞(名古屋本社版・夕刊)が1面トップニュースで報道しました(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/KaruteKaijiAsahi981210.html)。
 私が行ったカルテ開示の方法は、その日の診療記録を携帯型コピー機を使いコピーし、直接患者さんに手渡すというものでした。京都大学総合診療部の福井次矢教授の調査によると、外来診療後10~80分経った段階で、患者さんは伝えられた情報の40%しか思い出せず、6割の人が聞いた内容を誤って理解しているそうです。その日の診療録をコピーして渡せば、こうした問題も解消されると思われます。
 カルテ開示に伴う弊害として、開示を前提としてカルテを記載すると、本当に必要な情報が隠れてしまうことが懸念されています。そこで当初私は「普段着のカルテ開示」と題して、従来通り英語・日本語・略語の混在したカルテのコピーを手渡していました。
 最後に、カルテ開示・レセプト開示において避けては通れない大きな問題点について述べなければなりません。その問題点とは、「がん」の告知問題です。
 開示を請求する以上、そこには予期しなかったような病名が目に飛び込んでくるような危険性もあります。100%告知されていればそのような問題は生じないのですが、少なくとも日本のがん告知率はまだまだ低いのが現状です。欧米特にアメリカでは、進行がんであれ、また小児であれ、ほぼ100%の告知率です。しかし日本では、がん告知賛成医師は早期がんで67%(がん告知希望患者86%)、進行がんで16%(同71%)という現状です。この現状の中で医療情報の開示が無秩序に行われるといったいどうなるか。その点を懸念して、医療者側の判断で開示をお断りするケースもありうることを患者さんにご理解いただきたいと思います。
 最近私は市民講座の折りに、「がん告知」に関するアンケート調査を行いました。設問は、「あなたは「がん」告知を望みますか?」で、以下の5つの選択肢から回答していただきました(回答者60名)。
□ すべてのがん(進行がん&早期がん)の告知を希望する
□ 早期がんの時だけ、がん告知を希望する
□ がん告知をいっさい希望しない
□ 家族の判断にまかせる
□ その他
 結果は、「全てのがんの告知を望む」が36名、「早期がんの場合だけ告知を望む」が19名、「告知してほしくない」は0名、「家族の判断に委ねる」が4名、その他が1名で、1名のかたは現時点では判断しがたいと回答されています。知りたくない権利を保障することも、たいへん重要な課題です。早期がん告知しか望まないかたに、進行がん告知をする権利は医師にはないと思われます。


(3)カルテ開示、レセプト開示問題
 前項でも述べましたように、私は1998年12月から、病院としては全国初の外来カルテ開示を開始してきました。外来患者さんにカルテのコピーを手渡し、専門用語を解説した「外来カルテの読み方」も添えています。医療関係者が、患者さんと医療情報を共有して、患者さんが自分で自分の治療法を選択できる時代が早く来ることを願ってのものです。
 カルテ開示については、厚生労働省が法制化を検討しており、日本医師会は、独自の指針を出してこれに反対しています。権利意識の強いアメリカでは、カルテ開示請求権が、半数以上の州法で保障されています。医療も情報公開の例外ではないと、私は考えています。
 さて、カルテ開示に対する患者さんの客観的な評価を得るために、開示後の意識調査(表3)も行いました。141名のかたから回答をいただきました(アンケート配布総数:233人、回収率は60.5%でした)。回答者の年代は、30代6名、40代9名、50代15名、60代49名、70代51名、80代7名、90代1名、不明3名です。半数以上が今回のカルテ開示に「満足」、しかし31名が「不満」と回答しています。不満の最大の理由は「読みにくいから」でした。この回答結果を受けて、私はカルテ記載を1999年2月19日よりほとんど日本語で行うことにしました。
 カルテ開示後アンケート調査の折りには、レセプト開示希望率も調査いたしました。141名のかたのレセプト(診療報酬明細書)の開示に関してのご意見は、開示希望が63名(レセプト開示希望率は63/141=44.7%で、カルテ開示の希望率よりも高い傾向にありました)、どちらでもよい=22名、開示非希望=56名でした。開示非希望の56名の主たる非希望理由は「病院を信頼しているから」でした。
 しかし、日本医事新報という医師向け医学雑誌の1999年2月20日号には、「虚偽および過剰請求による支払いは、日米ともに全支払い額の30%前後と推定されており、この点の指導は、医療費削減には有効である」という文章が掲載されています(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/KaruteKaizanRitu.html)。本当に30%も虚偽・過剰請求がなされているとすれば、たいへん大きな問題です。27兆円の保険医療費の30%、約9兆円が正当な理由で削減できることになりますので。
 国民の医療不信を払拭するためには、勇気を持って情報開示を推進していく必要があると思います。レセプト開示の実態についての調査では、全国の市町村の41%がレセプト開示に対応しているそうです。しかし患者さんの多くはレセプトを見ることができる権利が保障されつつある現状をほとんどご存じありません。詳細は、「レセプトを見れば医療がわかる(主婦の友社、勝村久司著)」という本をお読み下さい。
詳しいことは、「医療情報の公開・開示を求める市民の会」のサイトがとても参考になると思います。
 http://homepage1.nifty.com/hkr/
 日本経済は危機に瀕しています。「日本経済の現況(経済企画庁調査局編)」という本(平成11年度版、P103)によれば、社会保障基金は2025年までに底をつくと記載されています。徹底的な情報開示(ディスクロージャー)が各分野で実践されれば、日本経済は必ず早期に再生すると私は信じています。但しそのためには大きな痛みを伴います。医療界を例にあげれば、9兆円の総医療費削減が実践されることになるかもしれません。しかし各分野で徹底した無駄の削減が実践されなければ、日本経済再生ははるか遠くに霞んだままです。情報公開はやる気さえあれば、すぐに明日からでも実現可能です。カルテ開示の法制化が懸案として上がっていますが、医療界だけに情報開示を義務づけると反発は当然強くなります。日本経済再生のために、行政自ら先導を切って情報公開に強い姿勢を見せていただきたいと思います。
情報は自ら開示してこそ大きな意義があると思います。全国初の病院外来カルテ開示など、私は医療情報公開には積極的に情熱を注いでいます。そんな私の夢の1つに、医療の抜本的改革があげられます。すなわち、医療情報を積極的にそして自主的に開示して、患者さんと医療情報を共有し、患者さんが安心して医療を受けられる時代が早期に来ることを強く熱望しているのです。

  


(4)ЕВМ
 科学的根拠に基づく医療(ЕВМ:Evidence-Based Medicine)という考え方が注目されています。ЕВМという用語は1992年に作られました。わかりやすくЕВМを説明すれば、近年せっかく情報処理産業が発達してきたのだから、信頼度の高い最新論文をどんどん臨床に応用して、患者さんの治療に応用しようということです。最近発行された論文によれば、アメリカ政府が管掌する老人医療保険(メディケア)や貧困者保険(メディケイド)の患者に対して、手術前のルーチン検査(胸部レントゲンや採血・検尿検査)を行った場合、政府はその支払いには応じないという方針が、全米の医療機関に通達されたそうです。
 アメリカの医療界では今、ЕВМの考え方に基づき、「しなくてすむことはいっさいしない」という診療姿勢が浸透しつつあり、医療費削減に拍車がかかっています。
 ЕВМと並んで、今後重視されていくと思われる概念に、NNT(number needed to treat=治療必要人数)という概念があります。NNTは、絶対リスク減少率の逆数で表されます。従来の治療法で救えなかった患者を1人救うためにこの治療法を何人の患者に実施しなくてはいけないかを示す数字です。糖尿病治療と高脂血症治療を例にあげて、NNTに関して説明いたします。
 1999年3&4月号の糖尿病医療スタッフのためのPRACTICEという医学雑誌で、市立札幌病院内分泌代謝内科の吉岡成人医師は以下のように報告しています。
 1993年に1441人のIDDM(インスリン依存性糖尿病)を対象としたDCCT(Diabetes Control and Complication Trial:N.Engl.J. Med.:329.977-986、1993)の報告は血糖コントロールが糖尿病の細小血管症の発症、進展阻止に有用であることを証明した非常にすばらしい研究です。DCCTにおいて網膜症の発症(一次予防)に対する相対リスク減少率は76%,進展阻止(二次予防)に対する相対リスク減少率は54%でした。
 DCCTにおける網膜症の一次予防調査によると、強化インスリン療法群で網膜症を発症する確率は約56%、通常のインスリン療法では約15%でリスクの差は約50%(0.5)となります。つまり、NNTは2です。相対リスク減少率が76%ということは、リスクが76%減少するということではなく、強化インスリン療法を約10年にわたって行っても2人の患者のうち1人は網膜症を発症するということなのです。
 次に高脂血症の治療に関して説明します。高脂血症を放置すると、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の危険率が高まるため、治療が勧められています。さて治療が勧められる根拠ですが、1995年11月に米国心臓協会学術集会で発表されたWOS study(ワォス スタディー)という研究が大変有名ですのでご紹介いたします。なぜ有名かというと、それまではこのような冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞など)に対する1次予防試験は存在しなかったからです。すなわち冠動脈疾患を既に発症した患者さんに対しての高コレステロール血症治療の有用性はわかっていたのですが、冠動脈疾患を発症していない人に対しての予防投薬の有効性は証明されていなかったのです。
 まだ冠動脈疾患を発症していない高コレステロール血症患者に対する1次予防試験であるWOS studyは、中年男性6595例の高脂血症患者を対象に(対象患者は45~65歳で、コレステロール値は272±23mg/dlでした)、スタチン(=現在汎用されている高コレステロール治療薬です)と偽薬を用いた二重盲検試験(観察期間は4.9年間)です。検討結果によると、治療によりコレステロールは20%の低下を示し、その結果総死亡率は22%の低下を示しました。
 高脂血症治療の第一歩は食事療法です。食事療法を3~6か月試みても、コレステロール値が240mg/dl以上の方は、薬物治療が行われるべきなのです。その薬物療法の効果がわずか22%の低下なのかとがっかりされた方に、もっと驚くべき数字をご紹介いたしましょう。
 5年間で死亡率が22%減少したとされますが、これはあくまで相対的なリスク減少で、死亡率は4.1%から3.2%に減少したに過ぎず、絶対リスク減少は0.89%で、NNTは112でした。このNNTは、欧米における虚血性心疾患の発症予防、死亡率低下に対するスタチン(日本でも、高コレステロール血症のほとんどの患者さんが、この薬剤で治療されています)のデータなのですが、日本人においてはNNTは、500~1000とも報告されています。
 虚血性心疾患のNNTが500~1000であるということは、500~1000人治療して1人救えるということで、治療する意義が大変問題になってきます。私は今まで患者さんに、「22%ぐらいは危険性が低下するから」と説明して治療を勧めてきましたが、これからもし「500~1000人治療してやっと1人救えるのです」と説明するとなると、高コレステロール血症の治療を希望する方はほとんどいなくなるかもしれませんね。
 日本でも総医療費の削減が大きな問題となってきています。誰しも最高の医療を受けたいという願いは共通です。しかしその願いと医療費削減問題は相反する問題なのです。もちろん不正請求などは論外ですので、レセプト開示は必要と思いますが、今後はЕВМに基づく医療費削減は、たいへん大きな課題と思われます。
 ЕВМをもっと詳しく知りたいかたは、http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/public_health/ebm/をご参照下さい。
【統計学的用語の説明】
a)症例対照研究(case-control study )=後向き調査(retrospeCTive study):わが国のがん検診の有効性はこの手法によって導かれています。例えば肺がんで亡くなった人(ケース)と、年齢・住所などの条件が近い肺がんに罹っていない人(コントロール)を選び、両者の喫煙率を比較する方法で、比較的簡単にできる研究であるが、さまざまな偏りが入ってくるため、信頼性は低い検討方法です。
 症例対照研究では、複数の時期や地域を違えた研究で同じ傾向の結果が得られたときに、信頼性は高くなると考えられています。
b)前向き調査(prospeCTive study):因果関係を検討するための疫学調査法の一つで、現時点での原因への曝露の有無・程度別にいくつかの集団を設定し、将来にわたって追跡調査して結果の発生状況を比較する方法です。例えば喫煙群と非喫煙群について、数十年後の肺がん発生率を比較するようなものです。
 後向き調査と前向き調査を比較すると、いずれも疾患の危険因子や原因を探るために使うことができますが、一般的にはよくデザインされた前向き調査の方が優れています。
c)RCT:信頼度の高い検討方法が、無作為割付比較対照試験(Randomized Controlled Trial:RCT)です。多数の健常な人を集めてくじを引き(くじ引き法)、検査するグループと放置するグループに無作為に振り分けて、有効性を検討する研究方法です。
 症例対照研究に比べて、相当な人手と経費を要し。結果が出るまでにかなりの年月を要します。
 日本でがん検診のRCTが行われなかったのは、既にがん検診が普及して有効性が確立されているのに、RCTでの再評価はできなかったという現状があります。
d)メタアナリシス:既に報告されたいくつかの独立した研究報告を、同じような登録条件の症例を全体としてまとめて統計学的な手法で再解析する方法です。登録条件が異なっている場合、誤解を招く結論が導かれることがある検討方法です。
 複数のRCTを世界規模でメタアナリシスする検討方法は、最も信頼性が高い検討方法ということになります。
e)治験:新薬の製造承認を得るための臨床試験で、第一相試験(第一フェーズ)から最終の第三相試験まであります。
 簡単に述べると、第一相試験は少数の健康な人を対象に、主に安全性をチェックするものです。第二相試験は、少数の患者で効き目の目安をつけるものです。第三相は従来の薬より優れているかどうかを調べる最終的な試験です。
 この第三相と第二相の多くで必要なのが、厳密な手続きの比較試験です。したがって患者さんは実薬を使うグループと、対照となる薬を使うグループに分かれるわけです。その手続きの基本が前述のくじ引き法です。
 対照となる薬は理想的には偽薬(プラセボ)ですが、既存の薬を使う場合もあります。医師が自信ありげに偽薬を薬と言って渡せば、患者さんの三割程度は症状が軽快する(プラセボ効果)と言われているため、偽薬を対照としての検討が望ましいわけです。
 更に効果や副作用の判定にひいき目が入らないようにするため、実薬が使われたのか、対照となる薬が使われたのかを患者にも医師にも分からないように目隠しする手法(二重目隠し法=二重盲検試験)で検討は行われます。




第2章 痴ほう症とインターネット
(1)痴ほう症について
 65歳以上の人の6パーセント、85歳以上では4人に1人という痴呆(ちほう)症。その半数とも、一説では三分の二以上ともいわれるアルツハイマー病は、原因不明で決め手となる治療法もまだ見つかっていません。しかし、その多くが数年から十年かけてじわじわと進行することから、脳の細胞が壊れ始めた早期に診断がつけば、生活改善や服薬などで進行を遅らせることができるかもしれないと言われています。
 アルツハイマー病は、1906年にドイツの精神科医アルツハイマー氏が新しい病気として発表したものです。患者は51歳の女性で、もの忘れがひどく、場所や時間も分からず、異常な行動が目立ち、幻覚もあり、発症してから4年6か月で死亡しています。
 その脳を解剖すると、強く萎縮(いしゅく)し、しみのような斑点が広がり、神経細胞がもつれて無数の小さな玉のようになっていました。この「脳の萎縮」、「老人斑」、「神経原線維変化」の三つの特徴を併せもつ痴呆をアルツハイマー病と呼ぶことになりました。その後の研究から、まずアミロイドという特殊なタンパク質の沈着によって老人斑ができ始め、その後に神経細胞のもつれが起き、神経細胞が急速に減り始めて痴呆症状が出てくることが分かりました。脳が萎縮し始めるのは、痴呆症状が出た後です。
 痴呆(俗称:ぼけ)は、「知的機能の障害により、日常生活や社会生活が営めなくなった状態」と定義されます。食事をしたこと自体を忘れて「嫁がご飯を食べさせてくれない」と言ったり、自分でしまい込んだのを忘れて「お金をとられた」と騒いだりするため、家族や近隣の人々とのトラブルに発展することも多いのです。 
 痴呆と混同されやすいものに、加齢による「良性老人性もの忘れ」がありますが、こちらは「なかなか覚えられない」とか、「なかなか思い起こせない」といったもので、知能の障害は認められません。痴呆では、記憶力の低下に加えて、計算力、判断力といった知能障害が起こるため、日常生活に支障をきたしてきます。生活習慣の改善などで予防可能であるのは、この老化に伴う「良性老人性もの忘れ」です。具体的には、適度な運動をし、日記をつけることから始めて予防を心掛けてください。
 しかし、アルツハイマー病の初期症状も健忘(もの忘れ)なのです。したがって、もの忘れがひどくなると、本人も周囲も「痴呆」ではないかと心配になるのです。単なるもの忘れだけでは痴呆症とは言わないことは先程述べましたが、それが「良性老人性もの忘れ」なのか、痴呆症の初期症状なのかの見極めが必要になってきます。そこで生まれてきたのが「痴呆予防ドック」、「もの忘れ外来」などの試みなのです。
 アメリカでは、「痴呆症の2割は治る。軽症例ほど治療効果は高く、そのためには早期診断、早期治療が大事だ」と報告されています。この文面を読んで誤解しないでほしいのは、アルツハイマーの2割が治るという意味ではないことです。うつ病性仮性痴呆、アルコール性痴呆、水頭症などの治る痴呆症が全体の2割程度あるということなのです。アルツハイマー病では、進行を遅らせることはできても、現状では根治は不可能なのです。

(2)痴ほう症治療成績
 さてアルツハイマー病診断後の治療ですが、1999年11月に国内初のアルツハイマー病治療薬が承認されました。塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)という薬です。アリセプト承認時の臨床試験では、軽度ないし中等度のアルツハイマー病で症状が改善したと報告されています。「著明改善」はごくわずかですが、「軽度改善」を含めると約半数が改善しています。ただしその効果は、「進行を9か月程度遅らせる」ことが現状での限界なのです。 
 私も1999年から2002年までに76例の投薬加療を行いました。約2割弱のかたにおいて明確な治療効果が認められ、また比較的重度の24例でも4例(16.7%)に治療効果が確認されました。副作用も少ないことから、一度は使用し効果が出るかどうかを確認することが必要だと考えています。
 76例(2002年1月21日現在)の治療成績の詳細を報告します。76例中5例が副作用で脱落しました(嘔気:3例、易怒性:1例、興奮:1例)。この5例を除く71例の治療成績を重症度別に検討してみると、初期アルツハイマー病では有効率11.8%、中等度症例では23.3%、やや高度のアルツハイマー病では16.7%で、全体での有効率は、18.3%でした(表4)。

【アルツハイマー病予防として期待されている治療法】
(a)ワクチン療法の現状
 マウスを使った実験で、アルツハイマー病にワクチンを投与することで、アルツハイマー病の原因であるアミロイド斑沈着が99%も減少し、進行遅延や発症予防などの効果が確認されています。欧米ではかつて、臨床試験が行われました。
 とても期待されていた発症予防の治療方法だったのですが、2001年9月から欧米の計5か国で行われていたアルツハイマー病ワクチン(AN?1792)のフェーズIIの臨床試験の中止が、2002年3月1日に臨床試験を実施していたエラン社(アイルランド)より発表となりました。治験患者さんの約6%において、重篤な急性髄膜脳炎の副作用が出現したためです。
 しかしその後、副作用の少ないワクチン療法が、日本の医療機関より発表されました。国立長寿医療センターの田平武医師らのグループが発表したものです。ヒトでの臨床試験は、H17年に開始できる見込みで、アルツハイマー病の根治療法に繋がるものとして大変大きな期待が寄せられております。

(b)スタチンでアルツハイマー病が予防できる可能性が、大規模な臨床試験で証明。
 コレステロール値が約250mg/dl以上だと、それ以下の人に比べ、アルツハイマー病になる確率が2.2倍高いことが判明いたしました。
 そして、高脂血症と診断されたが無治療、高脂血症治療薬(スタチンなど)を投与されている、高脂血症と診断されたことがない、のいずれかに該当する50~89歳の1364人を抽出し、これらをアルツハイマー病と診断されたか否かで2群に分け、それぞれの患者背景から、アルツハイマー病の発症リスクを推定しました。健常者群を1.0とすると、高脂血症と診断された無治療群の相対発症リスクは0.72で、統計学的に有意な差は確認できませんでした。しかし、スタチン投与群ではこの値が0.29で有意に低く、アルツハイマー病の予防として高脂血症の治療が大切であることが、アメリカのボストン大学より2000年11月に報告されました。

 …(中略)…

(3)痴呆予防ドックの開設
第1節 痴呆予防ドックの誕生まで
 1993年アメリカで、世界初の抗痴ほう薬「タクリン」という薬が発売されました。アルツハイマー病患者およびその家族にとってはまさに福音でありました。アルツハイマー病患者では、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンが減少することが知られています。タクリンを含めて現在発売されている抗痴ほう薬は、このアセチルコリンの合成を増やしたり、働きを促進したり、逆に分解しないようにすることを目指しているものが大半です。その治療成績を見て私が気づいたのは、軽症例ほど治療効果が高いということでありました。
 折しもそのころ、アルツハイマー病を診断するためのいくつかの客観的マーカーが登場したのです。1993年にアポリポ蛋白、1994年に点眼試験という侵襲の少ない検査方法が実用段階となりました。しかも1994年の11月、あのレーガン元大統領が、「私はアルツハイマー病に侵された」と自ら宣言し、アルツハイマー病早期診断への関心が一気に高まりました。こんないくつかの出来事が重なって、1996年7月全国初の痴呆予防ドックを津生協病院において開設したのです。

第2節 痴呆予防ドック、もの忘れドックの現状
 2001年1月に勤務先を、津生協病院から倉本内科病院に変更した際に、検査内容にパソコンテストも加え、より早期のアルツハイマー病を診断できるようにしました。そして、もの忘れを心配するかたが受診しやすいように配慮する目的もあり、名称を痴ほう予防ドックからもの忘れドックに変更いたしました。
 1996年7月から2000年12月末までに、455名が痴呆予防ドックを受診しました(関東よりの受診者:65名、関西よりの受診者:75名)。
 2001年1月より2002年3月までに、29名がもの忘れドックを受診しました。最近のもの忘れドックの予約状況ですが、インターネットで情報を入手して受診される方が急速に増加してきております。なんと29名中14名(48.3%)が、インターネットによる情報入手が、受診の動機となっております。
 481人中アルツハイマー病患者さんは175名で、うち約半数の81名は診断が難しいとされる初期アルツハイマー病患者さんでした。全く痴ほう症の心配なしと診断できたかたは134名でした。
 痴呆予防ドックには、もの忘れが痴ほう症の初期症状ではないかと心配して受診するかた、既に診療は受けているが明確な診断名を聞いていないため診断希望で受診されるかた、今後の介護を考える上で予後見通しを知りたいと受診されるかたなど、多彩な受診動機の患者さんが訪れます。
 アルツハイマー病の早期診断とともに、もの忘れを心配する人の不安を解消することももの忘れドックの大きな狙いなのです。
 2003年4月からは、より安価で診察時間を短縮した「もの忘れ外来」にて痴ほう症の診療を実施しており、もの忘れドックの受診者は現在ではほとんどありません。倉本内科で実施中のもの忘れ外来の予約先は、電話059-227-6711です。

第3節  もの忘れドックの検査内容
 もの忘れドックでは、痴ほう症があるかどうか、またその程度はどうかを判断するテストとして、改訂長谷川式簡易知能評価スケール・かなひろいテストというペーパーテスト、パソコンを用いた前頭葉の検査(Wisconsin Card Sorting Test、慶應 F-S Version)、一般採血検査、アポリポ蛋白採血検査、CTの4つの検査が行われます。採血検査の結果を除き、受診日当日に結果を説明しています。最終結果はアポリポ蛋白採血検査の結果が出る約2~4週間後に郵送しています。
1. ペーパーテスト(神経心理学的検査)
a. 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDSーR)
 聖マリアンナ医科大学・長谷川和夫学長、加藤伸司医師らが1991年老年精神医学雑誌という医学雑誌に報告したテストです。このテストは、年齢、計算力、記銘力などを問う9項目の質問からなるテストで、慣れればどなたでも可能なテストです。
 9項目の質問内容を具体的に言いましょう。気になるかたはぜひテストされてみて、基準点以下ならば受診をご検討下さい。
質問
(1)年齢はいくつですか?(2歳までの誤差は正解とする)
 正解すると1点。
(2)今日が平成何年の何月何日か? 何曜日か?
 年・月・日・曜日正解1つにつき1点で、4つとも正解なら4点。
(3)今いるところはどこか?
 自発的に答えられれば2点。
 自発的に回答がなければ、「家ですか?病院ですか?施設ですか?」と聞いて正解すれば1点。それでも回答がなければ0点。
(4)これから言う3つの言葉をすぐに言ってみて下さい。
 梅・犬・自動車という3つの言葉を言ってすぐに復唱してもらいます。
  3つとも言えれば3点
  2つなら2点。
  1つなら1点。
  1つも答えられなければ0点。
 後で聞きますから覚えておいて下さいねと言っての問題をする。
※実施にあたっての注意:3回まで繰り返して打ち切り、覚えられなかった言葉は、3つの言葉の想起(遅延再生=質問7)の項目から削除します。
(5)100-7は?
 正解すれば1点。答えられなければここでこのテストは終了です(0点)。
 93と答えられれば、93-7は?と聞いて86と答えられればまた1点(計2点)。
(6)今から言う数字を逆から言って下さい。
 6・8・2を逆唱して2・8・6と答えられれば正解で1点。答えられなければこのテストはここで終了です(0点)。
 3桁が正解できた場合には4桁の問題に移る。
 3・5・2・9を逆唱して9・2・5・3と言えれば正解でまた1点(計2点)。
(7)先ほど覚えておいて下さいと言った3つの言葉を、もう一度言って下さい。
 梅・犬・自動車という言葉が自発的に出てくれば各2点(計6点)。
 自発的に出てこない言葉に対しては、ヒントを与えます。
 植物というヒントを言って、梅と思い出せば1点。
 動物というヒントを言って、犬と思い出せば1点。
 乗り物というヒントを言って、自動車を思い出せば1点。
 ヒントを言っても思い出せなければ0点です。
(8)5つの物を見せて、その後それを隠します。隠した後で何があったかを答えてもらって下さい(5つの物は、鉛筆と消しゴムのように関係が深いものでなく、相互に無関係なものを選ぶこと。たとえば時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など)。
 5個とも言えれば5点。
 4個なら4点。
 3個なら3点。
 2個なら2点。
 1個なら1点。
 0個なら0点。
(9)野菜の名前をできるだけ多く言ってみて下さい(10秒間回答につまった場合はそこで終了)。
 5個までは0点、6個言えれば1点、7個で2点、8個で3点、9個で4点、10個で5点(重複した野菜の名前を言った場合は点数に加えない)。
※実施にあたっての注意:野菜の名前が重複した場合は、採点に加えません。

 以上9項目の合計点で評価しますが、満点は30点で20点以下は痴ほう症の疑いありとされるテストなんです。
 内容から分かるように質問内容は非常に簡単な内容ですから、皆さん25点以上はまず取れたと思います。
 点数が高いほど良好で、低いほど重度の痴ほう症ということになります。
 軽度痴ほう  :19.10±5.04
 中等度痴ほう :15.43±3.64
 やや高度痴ほう:10.73±5.40
 高度痴ほう  :4.04±2.62
 HDSーR 20点以下は痴ほう症の可能性があるが、15点以上あれば軽~中等度痴ほうであり、10点以下、ことに1桁の得点はまずまちがいなく高度の痴ほう症です。

b. かなひろいテスト
 かなひろいテストは、浜松医療センター金子満雄医師らにより開発された検査で、質問用紙上に並んだひらがなだけの文章の中から、制限時間(2分間)内に「あ・い・う・え・お」の文字をいくつ拾い出せるかというテストです。人が持っている最高次機能(前頭前野機能)の状態を判断するテストとされています。
 長期記憶は大脳に保存されます。その中でも特に重要な部分が、前頭前野(概ね前頭葉の前半部)と呼ばれる部分です。前頭前野は、人間だけが持つ、創造性、発想力、機転、注意集中力、トンチ、ユーモア、高次複雑な記憶、感動などを司る部分とされており、かなひろいテストは軽度の痴ほう症を発見するのにすぐれた検査方法とされています。

2. パソコンを用いた前頭葉の検査(Wisconsin Card Sorting Test、慶應 F-S Version)
 かなひろいテストよりさらに鋭敏な、前頭前野機能検査です。
 パソコン画面上で、類似した図形を抽出していくことで検査します。カテゴリー数と呼ばれる指標が合否の一つの目安になりますが、6点満点で、4点以上が合格、3点以下が不合格です。

3. 一般採血検査について
 内科疾患が原因となり、痴ほう症を発症する場合があります。代表的な疾患として、甲状腺機能低下症という病気があります。これらの疾患を診断する目的で、一般採血検査が実施されるのです。
 
4. アポリポ蛋白採血検査について
 アポリポ蛋白E4 というのは、アルツハイマー病危険因子として、たいへん注目されている採血検査です(現状では保険適応となっておりませんので、自費で1万円必要です。最近では医療機関によっては、2000円程度で調べてくれるところもあります)。
 アポリポ蛋白E4 の遺伝子検査に取り組んでいる植木彰・自治医科大学助教授(大宮医療センター)によれば、アルツハイマー病疑いの81人中49人(61%)がアポE4 の遺伝子を1個ないしは2個持つことが分かりました。一方、痴ほう症状がない952人では、アポリポ蛋白E4 保有率は165人(17.3%)と低く、決してこの検査だけでアルツハイマー病と決定できるものではないが、他の検査と併用すれば診断の重要な根拠となることが示されています。
 偽陽性(異常がないのに検査上は異常ありと出ること)も偽陰性(異常があるのに、検査上は異常なしと出ること)もありますので(がん検診などでもこの偽陽性・偽陰性の問題があります)、陽性だから確実にアルツハイマー病(になる)というわけではありません。逆に陰性だからアルツハイマー病にはならないということも言いきれないのです。
 アポリポ蛋白E4 は、現在アルツハイマー病の最大の危険因子と考えられています。アポリポ蛋白にはE2、E3、E4 の3種類があります。それを各人2つずつ持っていますので、アポЕアイソフォームには、E2/E2、E2/E3、E3/E3、E2/E4、E3/E4、E4/E4 の6とおりの組み合わせがあるわけです。両親より1つずつ形質を引き継ぐわけです。E2 は善玉で、E4 が悪玉です。ですからE4/E4 のかたが最も悪いタイプで、そのかたの子供は必ずE4 を1つは引き継ぐわけです。 
 同胞にアルツハイマー病のかたがいる場合、アポE とアルツハイマー病発症の関係を調べてみると、75歳でのアルツハイマー病発症は、E4 を持たない場合は24%、E4 を1つ持つ場合は61%、E4 を2つ持つ場合は86%。また平均発症年齢は、E4 を持たない場合は84.3歳、E4 を1つ持つ場合は75.5歳、E4 を2つ持つ場合は68.4歳と発症年齢も若年化していくことが知られています。

5. CT、MRI(磁気共鳴画像診断)について
 アルツハイマー病では脳の萎縮が認めらますが、ごく初期には萎縮は認められません。脳血管性痴呆は脳梗塞などの脳卒中が原因でおこりますので、CT、MRI で脳梗塞が認められなければ、脳血管性痴呆は一応否定される(例外もある)わけです。MRIはCTよりも詳しい脳の断層撮影であり、放射線被曝の心配もない検査です。
 側頭葉内側の萎縮はアルツハイマー病を早期に診断する特に重要な所見です。しかし、CT 、MRI を多数例実施すると、なかにはなんら症状はないのに、脳に萎縮が認められる人がいます。これを無症候性脳萎縮と呼びます。CT、MRI所見だけで判断すると、アルツハイマー病と誤診することにもなりかねません。症状、問診テストを基本にして、MRIで萎縮所見の確認・脳血管性痴呆等の除外診断をし、更に客観的マーカーで確認するという総合的な診断方法が、最もアルツハイマー病を正しく診断できるのです。
 1996年7月から2002年3月までの総受診者481名の中には、4名の無症候性脳萎縮のかたがいました。他の病院で診察を受けていたら、アルツハイマー病の危険性があると驚かされて不安な日々を過ごすことになったかも知れませんが、私は「心配ありませんよ」と説明し、安心して帰宅していただきました。
 近年電磁波の体に及ぼす影響も問題にされてきています。MRIは磁気を利用した画像診断装置ですから、電磁波が発生します。しかし、約20分程度の検査中に発生する電磁波はわずか数秒程度で、国際規格による安全管理上もまったく問題ありません。
 痴呆予防ドックに次ぐアルツハイマー病早期診断・早期治療の動きとしては、1999年4月から順天堂大学医学部精神医学教室の新井平伊教授が、中年の働き盛りに発症し、勤務先や家族への影響が深刻な若年性アルツハイマー病を対象とした、アルツハイマー病専門外来を国内で初めて開設いたしました。新井教授は専門外来を開設する理由として(1)患者は男性だと中間管理職で住宅ローンなども抱え、女性は子育ての途中で本人はもちろん周囲のダメージも大きい(2)早期診断で進行の早いもの、遅いものなど多様なパターンに応じた対応がとれる(3)患者や家族の状況を見ながら、本人への告知も検討できる、などを挙げている。判断能力のある間に財産分与などを行うことも重要な問題と述べています(1999年2月13日付毎日新聞夕刊)。専門外来は毎週金曜日の午後(予約制)で、申し込みはファクス(03-3813-9057)で行います。
 現在、痴ほう症に深く関わる多くの医療機関が、「もの忘れ外来」などを開設して、痴ほう症の初期診療にあたっているのが現状です。


(4)ホームページ開設
 長い間医療は「医師まかせ」が常識でした。インフォームド・コンセント(十分な説明による同意)ということが叫ばれてきたのはまだつい最近のことです。最近では更にカルテの開示への要望も高まってきています。さてそれはなぜなのでしょうか。答えは簡単です。根底に「医療不信」があるからです。しかし「患者さんのプライバシーの問題」、「医学知識の乏しい患者に詳しく説明しても混乱するだけ」という理由を掲げ多くの医師は医療情報の公開に非積極的です。
 日本医事新報という医師向け医学雑誌の1999年2月20日号には、「虚偽および過剰請求による支払いは、日米ともに全支払い額の30%前後と推定されており、この点の指導は、医療費削減には有効である」という文章が掲載されています。
 こんな批判をマスコミから指摘されないためにも、広く医療の情報公開を推進する必要があると思います。しかしこの30%という数字の根拠はあまり明確にされているとは言い難く、社会保険診療報酬支払基金の1998年度の査定率は、1.581%と報告されています(第3909号日本医事新報P84より)。
 1999年4月10の中日新聞発言欄に掲載された私の投稿記事をご紹介いたします。
 カルテ開示の法制化が検討されています。日本医師会は反対の立場を表明していますが、相次ぐ医療ミスで、深く根づいた国民の医療不信を払拭するためには、積極的に情報開示(ディスクロージャー)を推進していく必要があると思います。
 医療界だけに情報開示を義務づけると、当然反発は強くなります。行政自ら先頭に立ち、情報公開に強い姿勢を見せていただきたいと思います。各分野での徹底的な情報開示で、日本経済は必ず早期に再生すると私は信じています。(以上、記事より抜粋)
 今後も私は積極的で自主的な医療情報公開に努め、日本経済の再生に少しでも寄与したいと考えています。
 さて、最新医療情報の普及・正しい知識の啓蒙にインターネットホームページはたいへん大きな威力を発揮いたします。但し医療機関のサイトも乱立しており、どのサイトの情報を信じてよいのか判断に迷う状況も生じてきています。
 私のサイト(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/)は、痴ほう症・医療情報公開のサイトとして数多くの新聞・雑誌で紹介されています。私がホームページを開設した目的は、医学知識を少しでもわかりやすくそして客観的に伝えようということが最大の狙いです。客観的に伝えることも大きな目的ですので、自らの首を絞めるような記載事項も多々登場いたします。私のサイトにアクセスしていただくと、冒頭に「このホームページは、痴ほう症・医療情報などに関しての、正直な情報をわかりやすく提供することを目的に開設されたホームページです」と設立の目的を掲げています。
 ホームページは、1996年6月23日に開設しました。私が初めてパソコンに触れて約2年後のことでした。最新の医学情報(特に痴ほう症に関する最新情報)を頻回に情報更新していますので幅広くご利用いただけると思います。最新医療情報は、http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hothot.htmlでごらんいただけます。
 ホームページには毎日約300~500件程度のアクセスがあり、また月間約50通の医療相談の電子メールが全国から寄せられおり、個人のサイトとしては類を見ない大きな成果を上げています。正直言いますと、たいへんなボランティア業務になりつつあるため、時にはやめたくなることもあります。しかし、「国民が分かりやすく医療情報に接する」という私の人生目標と深く関連しており、大きな意義を感じておりますので今後もできる限り頑張りたいと考えています。

(5)痴ほう症情報の探し方
 痴ほう症に関する情報は、私のサイト上の、最新医療情報のページで紹介しますので、時折アクセスしていただければ重要な情報を見逃すことはないと思います。
 私は多くの医学雑誌とともに、朝日新聞・読売新聞・毎日新聞・中日(東京)新聞など多くの新聞に目を通しています。
 もちろん多くの健康雑誌にも目を通します。ご存知のように医師の多くは健康雑誌の情報には耳を傾けません。そのことを知らない患者さんもたいへん多く、医師に「あの健康雑誌の例の薬はいかがか?」というような質問を平気でされるかたがいます。医師は「そんな情報あてにならないから!」の一言でかたづけることが多いと思いますが、私は違います。やはり健康食品に対しても客観的な自分自身の評価を患者さんに伝え、患者さんの医学知識の啓蒙にあたる必要があると思っています。
 日経メディカルという医師向け雑誌の1998年8月号に以下のような記載があります。たいへん興味あるデータなので紹介します。
 「人口の高齢化が一層進む21世紀は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病や、各種の慢性病が増加することは明らかだ。こうした疾患には、細菌感染症に対する抗生物質のような特効薬は存在しない。医師は患者と二人三脚となり、患者が主体的に治療に取り組むのを援助する役割だ。そのためには正確な情報提供が欠かせない。富山医科薬科大第一内科の平井康子氏らが、同科外来を受診する患者を対象に調査したところ、7割近くの患者が民間療法を行っていた。内訳は、クロレラやどくだみのような食品・民間薬から、祈祷や断食までさまざま。しかし実際には、糖尿病を治せる民間療法はない。患者の治りたいという思いは受けとめる必要があるだろうが、誤った情報は治療にも悪影響を与える」という報告です。
 私はこの記事を読んでたいへん大きな衝撃を受けました。医療機関を受診しつつ7割もの患者さんが民間療法を併用しているという衝撃的な事実が記載されていたからです。この記事を読んでからはますます健康食品などの情報も積極的に勉強するようになりました。
 私の著作の1つに「ぼける前に読むぼけの本」(技術評論社発行)という本がありますが、健康食品を客観的に評価したいという考えもあり、卵黄コリン・イチョウ葉エキス・DHA(ドコサヘキサエン酸)という3つの代表的な痴ほう症健康食品に対する私の客観的な評価を述べていますのでご参照下さい。
 さて私は外来通院患者さんおよびご家族のかたに、毎月1回「もの忘れニュース」というパンフレットを配布しています。これは1997年11月より発行しているものです。私の外来の通院患者さんが皆さん私のサイトを見ることができるのでしたら、このような啓蒙目的のパンフレットは配布する必要はないのですが、まだまだインターネットを使いこなしている人は限られています。そこでどうしても伝えたい厳選情報を、配布しているのです。
 一例としてもの忘れニュース第6号(1998年6月号)の、アルツハイマー型痴ほう患者の施設入所に影響を与えるデイケアの効果についてという資料をご紹介いたしましょう。兵庫県立高齢者脳機能研究センター臨床研究科の博野信次医師の論文より抜粋したものです(精神医学1998年1月号のP71~75)。
 欧米ではデイケアの利用は痴ほう患者の施設入所を遅らせることが繰り返し報告されている。今回の我々の結果から本邦においてもデイケアの利用は、年齢・性別・痴ほうの重症度・主介護者の同居状態・介護介助者の有無および他の在宅介護支援の利用状況を統制した後にも、アルツハイマー型痴ほう患者の施設入所などの危険率を有意に減少させることが示された。この理由としては患者自身の認知機能や行動異常、精神症状を改善させることによるとも考えられるが、むしろ介護者の負担を減少させることによるとする考えが有力である。Panellaらは、デイケアの利用は施設への入所を遅らせるが、知的機能の進行速度を変えなかったことを報告しているし、Wimoらは、55例のデイケア利用痴ほう患者と44例の非利用痴ほう患者を1年間追跡し、デイケア利用群は非利用群に比し施設入所が有意に少なかったが、認知機能、日常生活活動、行動異常では有意な差がなかったことを報告し、施設入所の減少は介護者の負担を減少させることによると考察している。
 抜粋は以上です。読んでいただいて分かりますように、デイケアを導入してアルツハイマー病の進行を予防しようというようなことを謳い文句にしている医療機関は、経営至上主義で真実に正面から向かい合う姿勢に欠けているのかもしれません。あるいは単なる勉強不足で、悪意はないのかもしれません。

(6)痴ほう症名医の見分け方
 患者さん、ご家族のかたにとって、名医にめぐり会えるかどうかはたいへん大きな問題です。ただし名医にもいろいろあります。手術技術は抜群であるが、患者さんの話はほとんど聞かない名医(多忙すぎて話を聞く時間がない場合が多いのが実情かも知れません)もいます。このような名医も、技術を必要とする患者さんにとっては名医であることに違いありません。
 私は1992年、週刊現代が7月25日号、8月1日号、8月8日号の3週連続特集した「日本の名医200人」に最年少(当時33歳、藤田保健衛生大学脳神経外科講師)で選考されましたが、この時の「成人病の名医70人」の選考基準のポイントは、(1)患者の話をよく聞いてくれる、(2)病気を臓器別に診ず、多臓器にわたって人間を丸ごと診てくれる、(3)医療情報が豊富である、(4)自分の手に負えない患者はすぐ他院へ紹介してくれる(患者離れがよい)の4項目でした。今もこの4項目は実践していますが、医療は当時よりもさらに細分化が進み(専門化が進んだ)、多臓器にわたって丸ごと診ることはなかなか困難な状況となってきています。それだけに(4)の「自分の手に負えない患者はすぐ他院へ紹介してくれる(患者離れがよい)」ということがよりいっそう重要性を増してきているのです。

 さて痴ほう症の名医ですが、私が医学雑誌等で入手した情報をもとに、「私が選んだ痴ほう症の名医」を列記したいと思いますので、病院・医師選びの参考になれば幸いです。やはり根治的治療方法が確立されていない痴ほう症という分野においては、患者さん・ご家族の話はしっかりと聞いてくれることが最低限の条件になります。
 また、早期診断できる医療技術も必要とされます。早期診断し、少しでも進行を遅らせることができるように最新治療成績など治療の道筋を示し、患者さん・ご家族に安心して治療に臨めるようにすることも大切です。
 そして介護も重要な位置を占める病気ですから、治療面だけではなく必要な介護サービスに関して指針を下さるような先生が痴ほう症の名医ということになります。


【私が選んだ痴ほう症の名医】
 所属         名前         専門分野
 聖マリアンナ大    長谷川和夫      全般

 …(中略)…


第3章 痴ほう症インターネット相談室
 痴ほう症に関する相談はいったいどこにすればいいのか。アルツハイマー病の介護に関する相談で困窮されたときには、「ぼけ老人を抱える家族の会」という会があります(TEL:075-811-8195)ので、このサイト(http://www.alzheimer.or.jp/)にアクセスし、地域の担当者を聞くこともできます。
 また電話で相談に対応してくれるところもあります。
【痴ほう症電話相談】
(1)「ぼけ電話相談110番」
 毎週月曜日~金曜日(10:00~15:00、祝日を除く)に専門相談員による介護相談が行われています。
 TEL:0120-294-456(フリーダイアル)
(2)「ぼけ老人てれほん相談」
 火・金曜日、午前10時~午後4時
 TEL:03-3269-4167

 しかし、まだまだ痴ほう症に関する相談窓口などが充実していないという状況もあり、私のインターネットの電子メール(kasamie@po.inetmie.or.jp)には非常に多数の電子メールでの相談が寄せられています。特に1998年12月17日、インターネット医科大学痴ほう症科教授に就任してからは、更に電子メールでの問い合わせが増えました。筆者のサイト(アドレス:http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/)では、最新の医学情報(特に痴ほう症に関する最新情報)をたびたび情報更新しています。毎日約300~500件程度のアクセスがあり、また月間約50通の医療相談の電子メールが全国から寄せられ、個人のホームページとしては類を見ない大きな成果を上げています。
 私は自宅でホームページを管理運営しています。毎日帰宅後にメールボックスをチェックして、急用のメールがないかどうかを確認しています。なるべく家族との会話時間を大切にしたいので、帰宅後パソコンに向かう時間は短時間にしています。早寝早起きですので、子供たちと同じような時間に寝て、朝はいつも5時頃には起きます。そして1~2時間電子メールへの返事、ホームページの情報更新、新聞投稿などを行うのが私の朝の日課です。運動療法は自ら実践しております。特にテニスに関しては、テニス肘になるほど打ち込んでおります。
 さて、今までに私に寄せられた電子メール相談の中から、特に頻度が高くしかも重要な質問事項を、ジャンル別に皆さんにご紹介しましょう。最近届いた電子メールで、送受信の日付の分かるものはなるべく日付も記載いたします。この日付を見ていただけるとわかりますが、学会出張時を除き必ず2~3日以内に返事を書いています。
 最初の項の「痴ほう症全般にわたる相談」メールでは、痴ほう症全般に関する基本的な知識を得るために有用な電子メールを紹介します。

(1)痴ほう症全般にわたる相談
メール1 病院を受診すべきでしょうか?
質問(1999.2.1 I○a○a○a○i@m○.biglobe.ne.jp):初めまして。お忙しいところ申し訳ないのですが、実は母のことでご相談したいことがあります。
 私の母は、現在56歳です。3年くらい前から母の様子がおかしいのです。現在の症状を書きますと、時間が不規則になり、夜中の1時ごろから食事をとり、それから風呂に入り、朝方まで台所で洗い物をしています。それからうとうとと夕方まで過ごし、夜9時ごろになると買い物に出かけます。
 その買い物も毎日同じ物ばかり買ってきては、部屋に置きっ放しです。最近は、カップラーメンと菓子パンばかり買ってきます。冷蔵庫には賞味期間切れの肉や豆腐など入っていて、実家に帰るたびに処分しています。
 病院に連れて行こうとしましたが、子供のようになってしまい連れて行くこともできません。メールでは、詳しく説明できませんが、テレビとかで見る痴ほう症の症状に似ています。どのような、対応をしていけばよいのでしょうか。引っ張ってでも病院に行ったほうがいいのでしょうか。
 母と離れて住んでいるのでとても不安です。何かよいアドバイスがあればお願いします。
回答(1999.2.1):メールで拝見する限り、アルツハイマー病の可能性が高いと思います。
 対応ですが、先ずは正しく診断することが第一歩になります。アルツハイマー病のように思われても、検査すると違う結果が出ることもあります。
 痴ほう症診療は、世界中どこの国でもたいへん立ち遅れています。それは「治らない」と諦めてしまい受診しないケースがたいへん多いからです。しかし痴ほう症の全てが治らないわけではありません。
 治療可能であるのに、治らないと誤診されるケースが20%もあるとアメリカでは報告されています。治療可能なのに治らないと誤診される痴ほう症の代表は、うつ病、アルコール依存症、薬物の影響による痴ほう症などです。また慢性硬膜下血腫、水頭症といって手術によりたいへんよくなる痴ほう症もあります。アルツハイマー病では早期診断し早期治療に入ることで、根治はできないにしても進行抑制効果が上がることが報告されています。これら治療可能な痴ほう症をきちんと診断することは、とても重要なことであります。

メール2 痴ほう症と混同されやすいもの
質問 (1999.3.2 ○a○@○i○h○n.co.jp):父、80歳のことについてご相談いたします。
 病歴は、心臓病による不整脈により、約6年前よりペースメーカーをつけています。去年12月に電池交換した折り、2週間ほど入院したのですが、入院中痴ほう症状が現れ、退院後も元に戻りません。症状は、昼と夜とまちがえるとか、さっき言ったこと、聞いたことを忘れるとかですが、昼間自分がどこを散歩したか、昼食を食べたかどうかなども覚えていません。
 寝起きなどには、会社へ行くとか変なことを言う場合もあります。
 日常生活は、昼間散歩をして家にいる時は寝るか、テレビを見ています。読書家だったのですが、目が弱って、今では新聞をときどき見ているくらいになりました。高学歴、大会社勤務、しかしエリートでない真面目な小心者(本人がそう言います)でして、社交家ではありません。母は3年前に亡くなり、末娘の私と二人暮らし。私は仕事で夜7時半に帰って、夕飯の支度をするくらいがせいぜいです。
 なんとかこの生活を維持できるとよいのですが。進行させない手だてはないものでしょうか。
 こと細かに書きまして、お忙しいところ誠に恐縮ですが、お返事いただけると幸いです。
回答(1999.3.2):お送りいただくメールの内容だけで、病名・進行度が判断できるケースは多々ありますが、今回お送りいただいた文面だけでは、アルツハイマー病であるのか、良性健忘であるのか、はたまたその中間(=軽症認知障害)であるのか判断困難ですが、まずは投薬効果が出るかどうか試してみるという方針でもよいかと思います。といいますのは、痴ほう症が疑われた場合に使用する薬剤は、あまり副作用はないからです。
 ちょっと専門的ですが、以下の文章もご参照下さい。

【痴呆の定義に関して】
 「痴呆」とは医学用語であり、俗語で「ぼけ」と表現されます。「痴呆」とは、知的機能の障害により日常生活や社会生活が営めなくなった状態と定義されています。
 「痴呆」の定義をもう少し詳しく述べると、痴呆とは、いったん正常に発達した高次の精神機能(認知、記憶、判断、言語、感情、性格など)が、後天的な脳の器質障害により持続的に低下し、その人の日常生活や社会生活に明らかに支障をきたすようになった状態です。
 痴ほう症では、症状として記憶障害(健忘)が必ず見られます。そして記憶障害に加え、他の何らかの知的機能障害が見られるのです。つまり、判断力、理解力、計算力、見当識、言語能力などの多くの障害を伴います。最近は、こうした障害を認知障害と呼びます。痴ほうという臨床診断を下す場合には、記憶障害に加えてこうした認知機能の障害の存在を確認する必要があります。

【痴ほうと混同されやすいもの】
 痴ほうと混同されやすいものに生理的老化によるもの忘れがあります。これは、加齢とともにおこってきた軽度の記憶力障害で、「良性老人性もの忘れ(benign senescent forgetfulness)」とも呼ばれており、きわめて徐々にしか進行しません。すなわち同じもの忘れでも、「良性のもの忘れ」(加齢による生理的変化)と、「悪性のもの忘れ」(痴呆によるぼけ)とは全く違うということです。
 記憶力は、脳の側頭葉の内側にある「海馬」という場所になんらかの障害がおきると低下します。海馬は、新しい情報を脳の倉庫にしまい込む際の関所のような部位です。その一部に故障が起こると、記憶力が低下します。この海馬機能の衰えによるもの忘れを「海馬性健忘」(健忘とは忘れっぽいこと)と言いますが、これはぼけとは無関係です。ごくまれに明らかに異常に記憶力が低下している人が見つかることがあります。なかには、約15秒後にはほとんど何も覚えていないような人もいます。それでも、痴ほうではないことがあるのです(参考文献:1998年10月号 ゆほびかP110~111)。
 最近の研究によると、記憶の中でも特に20秒以内の記憶と作業に関する記憶は年齢とともに衰えていくと考えられています。
 普通のもの忘れ(良性老人性もの忘れ)と痴ほう症によるもの忘れ(悪性健忘)のいちばんの違いは、本人がはっきり自覚しているかどうかです。すなわち、ものを忘れたという自覚が「本人」にあるのか、あるいは本人には自覚がないが家族が「もの忘れが目立つと思う」のかどうかという点が重要であり、後者は痴ほうによるもの忘れの可能性が高いのです。また「日時・場所などの見当識障害」の有無も重要な鑑別点です。
 良性老人性もの忘れと悪性健忘の中間に位置するものとして、MCI(Mild Cognitive Impairment=軽症認知障害)という概念があります。
 その診断基準は、1)自覚的な記憶障害の訴えと家族によるその確認、2)年齢に比し異常な記憶力低下(記憶検査では平均値から1.5SD以上の低下)、3)記憶以外の認知機能は正常、4)運転や家計などの日常生活の能力は保たれている、5)痴呆はない、である。 MCIと診断された患者を追跡すると1年でその12%、4年ではおよそ半分がアルツハイマー病に進行したとされています。MCIは、以前isolated memory impairmentと呼ばれていたものに相当する概念です。すなわち、「純粋なもの忘れ」だから、ほとんど進行しないだろうと短絡的に考えるのは危険で、経過観察が重要であることが示唆しされているのです。
 では、MCIと診断されたら、経過観察するしか仕方がないのでしょうか。日本ではMCIに対するアリセプトの保険適応はないのですが、欧米では臨床試験が行われています。
 米国でのMCI患者270例を対象とした多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験では、プラセボ投与群に比しアリセプト投与群で24週後のADAS-Cogのスコア(アルツハイマー病評価尺度のうち認知に関する尺度)が有意に改善することが示されました。また、患者の全般評価においても悪化例はプラセボ群に多く、アリセプト投与群では改善例が多いという結果が2003年に「Neurology」という権威ある雑誌で報告されています。アルツハイマー病と同様にMCIでもアリセプトは有効であり、早期診断・早期治療の有用性が確認されてきているのです。

メール3 急速に痴ほう症が出現
質問: 父がパーキンソン病と診断され、病院での治療を開始しました。1か月後に再診して下さいと言われていますが、薬を飲んで数日してから、天井に蟻(あり)がたくさんいるとか、母が夜枕元に立っているなどと言います。母はもう5年前に亡くなっています。
 アルツハイマー病なのでしょうか。
回答:急性アルツハイマー病という病気はありません。症状が急速に出現する場合は、アルツハイマー病は考えにくいので、何か他に原因があるのではないかと考えなければなりません。
 急速におこる痴ほう症の原因の代表は、薬物性痴ほう(精神安定剤などを服用し始めた)です。慢性硬膜下血腫(この病気は手術すると非常によくなります)なども比較的急速に症状が出現します。
 よく「痴ほう症が治った」という話を聞くことがあると思いますが、その場合は痴ほう症ではなく「せん妄」であったと考えて下さい。せん妄とは熱発による脱水、肺炎などの感染症、薬によるもの、心不全・骨折・配偶者の死などの急速な環境変化により、急速に混乱した状態に陥るもので、身近な方が付き添い安心感を与える必要があります。
 せん妄の原因に薬剤によるものがあることを述べましたが、その代表的な薬剤をあげておきます。

【せん妄の原因薬剤】
1 パーキンソン病の薬
2 睡眠剤
3 精神安定剤
4 うつ病の薬
5 てんかんの薬
6 脳代謝賦活薬(脳の機能を改善させる薬が逆に脳機能を低下させることがありうるわけです。)
7 胃潰瘍の薬(H2 受容体拮抗薬)
8 血圧の薬(αメチルドパなど)
9 制吐薬(メトクロプラミド)

【痴ほう症の種類について】
 痴ほう症は、アルツハイマー病と、脳梗塞(こうそく)など脳卒中が原因の脳血管性痴呆に大別され、この両者で痴ほう症全体の約9割を占めます。
 ほんの10年前までは圧倒的に脳血管性痴呆の方が多かったのですが、1996年についにこの比率は逆転しました。東京都では7~8年ごとに在宅老人調査を行っていますが、1996年の調査結果では、アルツハイマー病が脳血管性痴呆を抜いて痴ほう症の原因疾患第一位となったのです。現在、痴ほう症全体の約6割をアルツハイマー病が占めるとされています。脳血管性痴呆が約3割で、残りが1割です。
 アルツハイマー病の定義を簡単に述べますと、「記憶障害および認知機能障害があり、進行性の悪化を認め、痴ほう症をきたす他の全身的あるいは脳の疾患による精神障害ではないことが確認されていること」となります。認知機能障害とは、学習能力・問題解決能力、適応能力、判断力、批判力、創造力などの障害のことです。脳の検査であるCT、MRIなどをすれば、脳の縮み(脳萎縮)が確認されます。
 さてアルツハイマー病ですが、若年発症(64歳以下)の初老期発症タイプと高齢発症(65歳以上)の老年期発症型に分けられます。若年性は全体の一割程度とされています。
 アルツハイマー病では、病初期から本人は、自分が痴ほう症であるという病識を欠いていることが多いとされています。そのため、がん告知とは違った意味で、医師は「告知」に対し慎重になっています。しかし私が経験した18名の若年性アルツハイマー病の検討では、初診時に7名は何らかの自覚症状を持っておりました。アルツハイマー病初期の患者さんには、告知を受けとめる力はないと医療関係者が独断で決めつけてはいけないようです。

 さて、痴ほう症には多くの種類があり、すべてあげると数十種類にもなるので比較的高頻度のものだけ列挙します。
1 アルツハイマー病(簡単に定義を述べると、「記憶障害および認知機能障害があり、進行性の悪化を認め、痴ほう症をきたす他の全身的あるいは脳の疾患による精神障害が除外診断されていること)
2 脳血管性痴呆(脳梗塞・脳出血などの脳卒中が原因で生じる痴ほう症)
3 混合型痴呆(1と2の混合型)
4 ピック病
5 クロイツフェルト・ヤコブ病
6 正常圧水頭症(脳の中の水=髄液が多量にたまってくるもので、手術により改善することが多い)
7 慢性硬膜下血腫(軽い頭部打撲後3週間以降に、徐々に出血がたまってきて、急速にぼけが進行したようにみえるもの。手術で非常によくなります)
8 脳腫瘍
9 びまん性Lewy小体病
10 外傷性痴ほう(ボクサーが繰り返し脳にダメージを受け、何十年もしてから痴ほう症をおこす例が報告されている)
11 アルコール性痴ほう
12 甲状腺機能低下症(内科的な病気が痴ほう症の原因となることがあり、この代表が甲状腺機能低下症です)
13 てんかん(てんかん発作がコントロール困難な例では、痴ほう症をおこしてくることがあります)

 びまん性Lewy小体病(レビー小体型痴ほう)は新しい概念の疾患ですので、少し詳しくご紹介しておきましょう。
 本症は、アルツハイマー病に似た進行性痴ほうを呈しながら、早期から幻視やせん妄を生じ、自律神経症状やパーキンソン症状が出現します。従来はパーキンソン病あるいはアルツハイマー病と診断されていましたが、実は「びまん性Lewy小体病」という病気ということが近年報告されました。
 本症の治療上の問題点として、抗精神病薬に過敏に反応して著しい運動機能低下を起こしやすいこと、逆にパーキンソン病治療薬により幻覚やせん妄をおこしやすいことが指摘されています。びまん性レビー小体病では、病変がパーキンソン病よりも広範に及ぶこともあって、パーキンソン病ほどL-Dopa製剤などのパーキンソン病治療薬に対する治療効果がよくないことが指摘されています。びまん性レビー小体病では、必ずしもパーキンソン病治療薬により幻覚やせん妄が起こりやすいということはありませんが、びまん性レビー小体病そのもので幻覚、特に幻視やせん妄を含む一過性の意識障害がおこりやすいということがありますので、パーキンソン病治療薬の投与に際しては慎重であるべきです。少量から初めて、少しずつ増量すべきですが、パーキンソン病で使用するほどの量は使用しないほうがよいと考えられています。また、幻覚やせん妄が出現した場合には、その減量が必要です。一方、びまん性レビー小体病では、しばしば抗精神病薬に過敏で、少量の抗精神病薬でパーキンソン症状が悪化することが少なからず報告されています。一般の抗精神病薬ではその副作用としてパーキンソン症候群が出現しやすいので、パーキンソン病変を有するびまん性レビー小体病では、そのような抗精神病薬がパーキンソン症状をさらに悪化させることは当然のことなのです。びまん性レビー小体病に見られる幻視は特有で、人が何人か出てくるといった内容が多く、気味が悪いとはいうものの、それが自分にしか見えないことを自覚していることが多く、また自分に害を与えることはないことも自覚していることも少なくないので、必ずしも無理してそれを消そうとする必要はありません。したがって、ご家族に「安心感を与えるよう話して下さい」と指導することが肝要になります。
 本症を含めた痴ほう症の頻度を報告した最近の統計によれば、痴ほう性疾患の頻度は、
  1位:アルツハイマー病・・・2/3またはそれ以上
  2位:DLB(レビー小体に関連する痴ほう)剖検では25%を占める
  3位:脳血管性痴呆・・・約15%
 となるそうで、びまん性Lewy小体病がアルツハイマー病に次いで第2の痴ほう症に位置するとのことであります。

 痴ほう症診療は全世界ともに立ち遅れています。それは「治らない」とあきらめてしまい受診しないケースが多いからです。事実痴ほう症の大部分を占めるアルツハイマー病、脳血管性痴呆ともたいへん治療が困難な痴ほう症です。しかし痴ほう症の全てが治らないわけではありません。
 治療可能であるのに、治らないと誤診されるケースが20%もあるとアメリカでは報告されています。治療可能なのに、治らないと誤診される痴ほう症の代表は、うつ病、アルコール依存症、薬物の影響による痴ほう症などです。また慢性硬膜下血腫、水頭症といって手術によりたいへんよくなる痴ほう症もあります。これらの治る痴ほう症を的確に診断すること、また早期診断により治療効果が高くなる「初期アルツハイマー病」を、少しでも早期に診断することが、もの忘れドックの大きな目的なのです。
また、痴ほう症ではないのですが痴ほう症と混同されているものに、生理的老化によるもの忘れがあります。これは、加齢とともに起こってきた軽度の記憶力障害で、「良性老人性もの忘れ(benign senescent forgetfulness)」とも呼ばれています。良性老人性もの忘れは「なかなか覚えられない」とか「なかなか思い出せない」というものであって、知能の障害は認められません。要するにもの忘れの頻度が増えるだけで、日常生活には何の支障もないのです。良性もの忘れは、五十歳以上の30~40%程度に認められます。良性もの忘れは、痴ほう症には移行しません。この良性老人性もの忘れは、デイケアなど日常生活に刺激と活性化を加える試みによく反応して改善することが多いものです。痴ほう症が治ったと報告されている資料には、実はこの「良性老人性もの忘れ」が多数含まれていることがありますので、医療関係者はこのあたりを読みとることが必要になります。

メール4 投薬後、痴ほう症状が悪化
質問(2002.3.20 ◯u◯a◯@◯l◯l◯.or.jp):何年か前に、一度質問をさせていただいたことがあります◯◯と申します。父がアルツハイマーと診断されて6年になりますが、2002年2月までに要介護度3程度となりました。2月中旬に、新設の特別養護老人センターに入所が決まり、われわれ家族としても喜んで入所させました。「完全個室で拘束しない自由な環境」がうたい文句の施設です。
 ところが、2月中に面会に行った時には、まだ歩行できたし、おむつも当てていなかったのですが、3月に入ってから面会に行きましたら、施設内で暴力をふるったということで投薬がなされおむつをし、発熱し(38度以上)寝たきりになっていました。その後も投薬は続き、熱は37度程度に下がったものの、全く自力では動けなくなり、ご飯も自力で食べられなくなりました。
 投薬を止めて欲しいとお願いしましたが、医師の判断でないと止められないということで、3月20日現在まで続いています。投薬内容は以下です。
 パナルジン、シンメトレル、グラマリール(50mg)3錠、セレネース(0.75mg)3錠などです。
 施設入所を続けるには、興奮症状を抑えないと仕方がないのかもしれませんが、家族としてはたいへん辛いものがあります。
 17日間も連続して飲ませる必要がある薬なのでしょうか。意識ももうろうとしていて、食事も満足にできません。日に日に体力が衰えていくように見えます。
 複数の薬の相性とか、素人なので全くわかりません。また、預かっていただいているので、思うように介護についての話し合いができずにいますが、どうしたらよいのでしょうか。入所してほんの1か月の間にまるで別人のようになってしまいました。現在の状況では、介護度は5でしょう。納得の行く介護の為には、やはり家族で介護をしなければならないのでしょうか。
 先生にお尋ねする内容ではないのかもしれませんが、相談するところも分からずに、家族は心を痛めております。お忙しいところ大変申し訳ありませんが、ご指導いただけますとありがたいです。
回答(2002.3.20):メール拝見いたしました。辛い状況をお察しいたします。率直に「気持ち」を伝えないと、担当の医師には全くご家族の気持ちが伝わらないかもしれませんよ。
 「施設に入れてもらっているから」ということを「負い目」と感じていると、それで終わってしまうような気がします。やはり気になること、そして主張すべきことは言うべきですよ。
 主治医の医師は、安易に興奮症状を抑える薬であるグラマリールとセレネースを出しているかも知れません。これらの薬は、いつから1日3錠になったのですか? もしかして開始時より3錠なのではないですよね? 本来これらの薬は、徐々に様子をみながら増やしていく必要のある薬です。でないと、急に動けなくなる患者さんもおられます。
 その注意を怠っているのならば、広義の「医療事故」に入る可能性もあります。
 そんな気持ちを率直に伝えてみましょう。私からのメール(返信)を、施設の方に見ていただいても全く構いませんよ。
 「気持ちが通じ合う医療」のために、医師も患者さんもご家族も、かなりの努力が必要だと感じています。またお困りのことがありましたら、メールをお送り下さい。
回答への返信(2002.3.21):お返事ありがとうございました。迅速な回答を頂き、とても感激しております。
 信頼できる主治医がいないことや、今回のことで施設への不信感もつのり、それが私どもを窮地に追いやっているような気がします。
 さてお薬の件ですが、処方された当初よりグラマリール、セレネースともに3錠でした。すっかり動けなくなった時点でも、まだ投薬が続けられていました。やはり、父の現在の状態は投薬の影響ですよね。
 これらの薬を止めた場合には、ある程度症状が改善するのでしょうか。せめて自力で食事を取れるほどに回復して欲しいと願っています。
アルツハイマー患者の介護の仕方などについて、参考になるHPなどご存知でしたら、ご教授ください。
本当に感謝しています。ありがとうございました。

メール5 アルツハイマー病の経過は?
質問:67歳になる母親のことで相談にのってください。母がアルツハイマー病と診断されて、はや1年経過いたしました。当初は改訂長谷川式簡易知能評価スケールは22点でしたが、今年は18点でした。今までに2回道に迷い、警察のお世話になっています。このままどんどん進行するとどのような経過をたどるのでしょうか。また、現在妻が介護にあたっていますが、あと何年くらいこの介護生活は続くものなのでしょうか。
回答:アルツハイマー病の発症後の平均余命に関する検討結果によれば、平均余命は一般的には4~8年と言われておりましたが、最近は治療・介護技術の進歩で6~10年(平均6.8年)と延長しています。ただし生命予後が伸びただけ、ケア(介護)の必要な期間が延びただけであるという指摘もされています。

【アルツハイマー病の一般的な経過】
アルツハイマー病第一期(発症1~3年目)
 健忘症状、場所がわからなくなる、多動
アルツハイマー病第二期(発症2~10年目)
 高度の知的障害、発語力の低下(失語)、行動がしにくくなる(失行)、妄想(もの盗られ妄想、他人が侵入してくる妄想)
アルツハイマー病第三期(発症8~12年目)
 さらに知的障害が進む。しばしば痙攣(けいれん)・失禁、過食、反復運動、錯語なども見られる。

 以上が典型的な経過なのですが、第一期(初期)は報告者によっては、2~5年とも報告されています。
 改訂長谷川式簡易知能評価スケール18点というのは、確かに点数評価としては軽度痴ほうということになります。
  軽度痴ほう  :19.10±5.04
  中等度痴ほう :15.43±3.64
  やや高度痴ほう:10.73±5.40
  高度痴ほう  :4.04±2.62  
 
 テストというものはどんなテストでもそうなのですが、余裕を持って満点を取るかたもいれば、ぎりぎり満点を取るかたもいるわけです。ですからもともと知的レベルが高いかたで、余裕を持って改訂長谷川式簡易知能評価スケールで満点を取っていたような人の場合、18点という点数はかなり低下しているというようなケースもありうるわけです。
 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの詳細については、『改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDSーR)の作成』という文献(著者:加藤伸司、長谷川和夫)をご参照下さい。掲載誌は老年精神医学雑誌(P1339-1347、1991年)です。改訂長谷川式簡易知能評価スケールでは、20点以下は「痴ほう症」とされています。しかしどんなテストにもグレーゾーンというものがあります。20点というラインで明確に痴ほうと正常の線引きができるわけではないのです。改訂長谷川式簡易知能評価スケールの場合specificity、sensitivity から考えると(specificity=特異度とは、痴ほう症でない人を「痴ほう症でない」と判定できる%のこと。sensitivity=感度とは、痴ほうの人を「痴ほう症」と判定できる%のことである。長谷川テストは、cut-off point を20/21点に設定した場合に弁別力が最も高いが、sensitivity は90%である)、痴ほう症の10%は見逃されることになり、改訂長谷川式簡易知能評価スケールだけで診断すると多少は誤診例が出てくるということになります。  
 今後の進行に関しては、東京大学・精神科教授の松下正明先生が以下のようなデータを発表しています。アルツハイマー病の自然経過を検討してみると、当初緩徐に進行していても中期以降急速に進行するものが12%ある。またアルツハイマー病の中には進行停止型のものも認められる(17%)。軽症アルツハイマー病では、改訂長谷川式簡易知能評価尺度改訂版(HDSーR)の点数は、年間2.5点程度悪化すると報告されています。

 次にアルツハイマー病の死因に関して述べます。従来アルツハイマー病の患者さんの多くは、進行し寝たきりとなって肺炎などを併発して死亡するという経過をたどることが多いのではないかと言われておりましたが、アルツハイマー病の死因は心臓死が最も多いと最近報告されました。この理由ですが、実はアルツハイマー病危険因子であるアポリポ蛋白E4が、虚血性心疾患の危険因子でもあるからです。
 私の患者さんも、最近少し元気がないなと思っていたら、ある日急に心臓が止まって亡くなったということがけっこう多く、上記の死因に関する報告は正しいという印象を私は持っています。ただこのような最期を遂げられた患者さんのご家族の多くは、「苦しまず、比較的元気に最期まで過ごさせていただけて、こんなよい死に方はないと思います」と喜んでおられます。
 アルツハイマー病患者さんも、がんで死亡されることがありますが、アルツハイマー病患者さんでは病気に対する認識も低下しているためがんの恐怖・死の恐怖を自ら訴えることはありません。その点に関してはたいへん幸せだと思います。

メール6 犬の痴ほう症
質問:動物にも痴ほう症があるのでしょうか?
回答:1999年1月6日の毎日新聞・夕刊は次のような記事を伝えています。米食品医薬品局(FDA)は5日、老化に伴っておきやすくなる犬の認識不全症候群(CDS)に対する治療薬と、犬の孤独不安症の治療薬の発売を認可した。犬の情緒障害や「老人性痴ほう」の治療薬が認可されたのはアメリカでも初めてである。
 FDAによると、CDSは人間のアルツハイマー型痴ほうに似た症状で、認識障害から方向感覚を喪失したり、行動力の減退や睡眠障害、排泄異常などを招く。この治療薬にはファイザー・アニマル・へルス社のアニプリルという錠剤が認可された。人間のパーキンソン病治療に開発された薬だが、実験ではCDSになった犬の約70%に症状改善をもたらした。
 日本では人のアルツハイマー病薬も承認されていないのに、アメリカでは犬の抗アルツハイマー病薬が承認されたようです。 

メール7 クロイツフェルト・ヤコブ病? ウェルニッケ脳症?
質問(◯盛 ○郎):初めまして、○盛と申します。
 突然のメールをお許し下さい。ホームページで先生のコメントを拝見し、メールいたしました。
 10月30日ごろより、私の父(59才)が突然痴ほうにかかりました。症状は知能レベルの減退(算数、時刻がわからない、ときどき字が読めない)、タバコの吸い方がわからなくなる、夢を見ているようなことを言い出す(ときどきはまともに返事する)等です。
 突然と申しましても、この1か月ほど少し集中力に欠けていたり、食欲が減退していたり、酒量が増えたりといくつかの変化はあったようです。
 中小企業の社長ということで常日ごろよりストレスも多く、また先日叔母の葬儀を取り仕切るにあたってかなり常軌を逸した多忙なスケジュールだったとのことです。
 また9月上旬の深夜、外出(理由不明)時に頭部を打撲し、本人に怪我をした記憶がなかったためCTをとっています。CTには異常がありませんでした。
 上記に関して、いずれかが原因または痴ほう症による結果なのかわからず、現在県立◯◯病院にて検査中です。MRIで血栓のようなものは見当たらないことから、現在クロイツフェルト・ヤコブ病のようなものを考慮に入れた検査を行っています。
 患者の家族としては、決して県立◯◯病院を疑っているわけではないのですが、先生自身がクロイツフェルト・ヤコブ病やウェルニッケ脳症のような特殊なケースに対してはあまり経験がないこともあり、またもし治る可能性がある場合には早期診断と治療が好ましかろうとの思いもあり、この分野に詳しい先生のアドバイスを伺いたいと存じます。
 もちろんこのメールだけで診断できるなどとは思っておりません。つい先日もあまりにストレスの多い生活を見て、引退を勧めていた矢先で、とにかく、59才まで仕事一筋で自分の好きなこともあまりやってこなかった父のために最善と思える医療を受けさせてやりたいとの一心であります。
 お忙しい中とは存じますが、先生の痴呆予防ドックでの検診の可能性も含め、ぜひアドバイス下さいますようよろしくお願い申し上げます。 
回答(1998.11.7):メール拝見いたしました。
 「知能レベルの減退(算数、時刻がわからない、ときどき字が読めない)、タバコの吸い方がわからなくなる」の症状は、左の側頭~頭頂葉あたりの病変が疑わしい症状です。
 アルツハイマー病に代表される痴ほう症状とはかなり樣相が違います。アルツハイマー病では脳の全般的な機能の低下が見られますし、こんなに急に発症するということはありません。
 クロイツフェルト・ヤコブ病やウェルニッケ脳症に関しては、非常にまれな病気ですから、先ずは一般的な病気を考えて検査すべきであると思います(クロイツフェルト・ヤコブ病もこんなに急に症状が出ることはありません。また、今まで普通に生活していたかたが急にウェルニッケ脳症になるということもありません)。
 MRIで異常がなくても、脳血流量が低下しているということもあります。今受診中の科が精神科であるのなら、一度脳外科あるいは神経内科で相談すべきです。
 そして「脳梗塞のなりかけ」をきちんと否定したうえで、心配されておられるような特殊な病気の検討をするという手順がいいと思います。
 ウェルニッケ脳症については、患者さんのご家族が作成されたサイト(脳症にさせられた患者のページ:http://plaza7.mbn.or.jp/~soyano/)がたいへん参考になります。このサイトにも記載されていますが、ウェルニッケ脳症は脳の脚気(かっけ)ともいわれ、記憶障害、眼球運動障害、歩行障害が主な症状で、発見が遅れた場合、死に至ります。原因はビタミンB1の極端な不足による栄養障害です。ビタミンB1は体内に予備量が少なく、約18日間摂取しないと枯渇するといわれています。
【クロイツフェルト・ヤコブ病】
 初老期痴呆とは64歳以下の痴呆で、代表的には以下の3つがあります。
(1)アルツハイマー病 ::平均発症年齢は52歳
(2)ピック病 ::40~50歳代(平均49歳)にピーク
(3)クロイツフェルト・ヤコブ病(プリオン病)
 クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、急速に進行する痴呆、ミオクローヌスを特徴とし、平均発症年齢は55.7歳です。CT、MRI では進行性大脳萎縮を特徴とし、脳波所見ではPSD(周期性同期性放電)を認めます。発症件数は国内では年間約数十人程度で極めて少ないのですが、発症すると予後は極めて不良で、多くは1~2年以内に感染症を併発し死亡します。
 クロイツフェルト・ヤコブ病の原因である「プリオン」と呼ばれるたんぱく質の型が、狂牛病(BSE)のプリオンの型と一致していることが、ロンドン大学のジョン・コリンジ博士より発表され、全世界を恐怖の渦に巻込んだことはまだ記憶に新しいですね。
 1994年頃から、それまでは認められなかった若年発症のCJDが相次いで英国で報告され(10歳代から30歳代の患者さん10名が報告された)、その感染経路究明が急がれていたのですが、確定はされていませんでした。しかしジョン・コリンジ博士の研究結果は、狂牛病が人に感染する恐れがあることを示唆する有力な状況証拠と考えられ、英国で感染牛から牛、牛から人への感染が起こりえることが証明され、狂牛病の牛が焼かれるなどして大量に処分された映像はまだ目に焼き付いています。
【変異型クロイツフェルト・ヤコブ病】
 牛海綿状脳症(BSE)いわゆる狂牛病の牛から人への感染で発症する変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は、非常に特異的な臨床症状を呈します。従来のクロイツフェルト・ヤコブ病(=弧発型CJD)と比較して変異型CJDは、発症年齢が若い、生存期間が長い、精神症状(うつ等)で発症する、MRIでpulvinar sign(視床枕の高信号)が認められるなどの特徴を持つことが報告されています。
 しかし、英国では74歳の患者が出たという報告もありますから、必ずしも年齢だけでは判断できません。平均発症年齢は、29歳です。
 弧発型CJDの場合、発症するといわゆるぼけ症状が出たり、身体がビクついたりしますが、変異型の場合は先に手足の痺れ(しびれ)が出るとされます。また、鬱(うつ)状態や精神異常が出現することも変異型の特徴で、症状の進行は弧発型よりやや遅いのですが、それでも発症してから死亡までの平均期間は14か月です。英国ではこれまでに116人の患者が出て、うち106人が亡くなっています。
 狂牛病の潜伏期間は、数年といわれています。変異型CJDの潜伏期間については、まだ数年以上としかいえません(長い場合、数十年とも指摘されています)が、狂牛病よりも長い可能性が非常に高いのです。そのため今後の患者の発生予測は困難ですが、英国保健省の報告では将来、患者数が最悪10万人に達するという予測もしています。
 また、診断面での問題もあります。変異型CJDかもしれないという患者さんがいても、死後解剖して脳の組織検査をしないときちんとした病名をつけられないのが現実です。
 2001年10月20日号週刊現代で、私も診断面での懸念をコメントしています。
 「日本で数少ない通常型ヤコブ病の診断を手がけた、倉本内科病院(三重県津市)の笠間睦副院長も、同じ不安を訴える。『CJDの診断は非常に難しい。患者数は極端に少なく、診察する機会が少ないため、CJDだと診断できる医師が果たして何人いるか。そうなると、本当はCJD病だったのに、実際の診断は違っていた、という可能性だってあり得るということです』」。                     
 日本国内での変異型CJDの発症例は、まだ報告されていません。

メール8 心因性痴ほう?
質問(◯村◯子):初めまして。私はアメリカに住む37歳の日本女性ですが、日本に住む64歳の父の痴ほうが進み、何とか治す方法を探しています。病状は似ているものの、アルツハイマー病ではなく、心因性の痴ほう症と診断されました。
 とても生真面目で、やさしい父です。家族、商売への心配が高じた結果で、精神、神経的な改善がなされれば病状は改善するものと信じています。本人も心から改善を願っています。 
 貴クリニックまたは地元の大阪で家族的なカウンセリングができるクリニックを紹介していただけたらこれに勝ることはありません。わたしも一時帰国し、つき添うつもりです。唐突なお願いではありますが、どうぞよろしくお願いします。
 不便な日本語ソフト使用もあり、乱筆乱文をお許しください。
回答(1998.11.9):心因性痴ほうであれば、「心療内科」が最も望ましいのではないでしょうか。
 関西には「心療内科」で全国トップレベルの、「関西医科大学・心療内科」があります。私も実際に診療の現場を見たわけではありませんので、どのようなカウンセリングが受けられるのかはよく知りませんが、一度相談してみてはいかがでしょうか。

メール9 記憶力が低下、アルツハイマー病?
質問(1999.1.10 ○a○u○s○t○u○i Ind.USA):アメリカ在住の47歳の女性です。
 最近記銘力が衰えたように感じ、不安を持っています。もともと記憶力はいいほうではなく、特に数字やスペリングは覚えにくかったのですが、夏以後、集中せずにした会話、行動の記憶が直後に空白になるようになりました。たとえば夫との会話を覚えていなかったり、駐車した場所が思い出せなかったり、本屋で買おうと思った本をトイレから帰ったら忘れていたりします。自分の現在の住所の番号(数字のみ)も思い出せないことがあります。日にち、曜日もよく忘れ、映画の登場人物の名前も覚えられません。いったん意識して記憶しようとすると覚えていられるのですが・・・。こちらのファミリー・ドクターに相談した時には、更年期のせいだろうと言われたのですがいかがでしょうか。血圧は正常より低いようで、海外生活に伴うストレスは大きいのですが、持病はありません。
 既婚、子供が二人います。この状態が続いた場合、どのような専門のお医者様にかかったらよいのでしょうか? アドバイスをいただければ幸いです。
回答(1999.1.10):メール拝見いたしました。
 痴ほう症のかたが「もの忘れ」を自覚することは通常ありません(ごく初期に、一時期自覚しているケースもありますが)ので、まずは心配ありません。
 どうしても心配でしたら、「記憶力検査」をしていただき、「記憶が正常」であることを確認すれば安心できるのではないでしょうか。記憶力検査は、日本では「神経内科」あるいは「精神神経科」で行われています。日本に帰られたときに受けられればいいのではないでしょうか(急ぐ必要はないと思いますので)。
 ◯◯さんの記憶力低下は、海外生活からくるストレスが主因ではないかと思いますが、ストレスをかなり感じているのではありませんか?
 記憶するときに集中するようにして、メモも取るようにしましょう。
 私のサイト上の最新医療情報(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hothot.html)の中に記載している以下のファイルを一度お読み下さい。
最新医療情報P17(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hothot17.html
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/STRESStihouSTEROID.html
 ストレス・ステロイドと痴ほうの関係は?(1997・11月号 CLINICAL NEUROSCIENCE)
最新医療情報P25(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hothot25.html
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/BokeKanekoYuhobika.html
 年をとれば記憶力は衰えて当たり前(平成10年10月号 ゆほびかP110~111)
 15秒前のことをすぐ忘れてもぼけではない場合が多い!?
最新医療情報P26(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hothot26.html
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/TihouSyokujiRyouhou.html
 痴ほう症の食事療法(平成10年9月号 臨床栄養=臨時増刊号 p528~530)
 普通のもの忘れと痴ほう症によるもの忘れのいちばんの違いは、本人の自覚である。
最新医療情報P28(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hothot28.html
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/TihouKanekoAndante.html
 ぼけなんか怖くない!(1998年・夏・あんだんて 1998.10.27 アップロード)
 「あんだんて」特派員による、浜松医療センター・ぼけチェック体験記!
 「老化・廃用性のぼけを防ぐのに効果のある趣味・あまり効果のない趣味」
回答への返信:笠睦先生、お返事ありがとうございました。こんなに早くご返事がいただけるとは思っていませんでしたので、感激いたしました。
 海外に長くいますと(20年近くになります)、本当の意味ではこちらのコミュニティーの一員にはなれないことが自覚されてまいりますし、日本とのつながりは弱くなります。英語の世界で、新しい状況に立ち向かうのがだんだん重荷にもなってまいります。おそらくそういう状況がストレスの原因なのだと思います。それだけに私のような人間にとって、日本語で日本からのサポートがいただけるインターネット医科大学はまさに大きな福音です。
 先生のホームページをこれから拝見させていただきます。お忙しいお仕事に加えて、ボランティア活動として質問に答えて下さる先生がたの、ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

…(中略)…

メール12 痴ほうは遺伝するのでしょうか? 財産管理について 
質問(1999.11.3 ○u○i○o ○a○a):私の母(76歳)がこの病気にかかって今入院しています。どの程度の確率で遺伝するのでしょうか。私も検査すべきなのでしょうか。もし発症の確率が高いのなら、財産分与のことも考えておきたいのですが、何かアドバイスいただければ幸いです。
回答(1999.11.4):遺伝性・家族性アルツハイマー病は、アルツハイマー病全体の約5%とされておりまれです。
 家族性アルツハイマー病というのは、1家系に2名以上のアルツハイマー病患者さんが出現する場合をいい、多くは遺伝性であります。家族性アルツハイマー病遺伝子には、その遺伝子を親から受け継ぐことによりきわめて高率にアルツハイマー病を発症する場合(例:第14番染色体上のプレセニリン-1変異によるものが代表で、若年発症家族性アルツハイマー病の大部分を占める)と、その遺伝子を受け継ぐことによりアルツハイマー病発症の危険性が高くなるもの(アポリポ蛋白E4 がこの代表)の2タイプがあるのです。
 アポリポ蛋白E4 の遺伝によるアルツハイマー病も家族性アルツハイマー病に含めて比率を検討した欧米の検討結果では、アルツハイマー病全体の約半数が家族性で、その約1/3 がアポリポ蛋白異常によるもので、次いで多かったのがプレセニリン-1変異によるものでした。ですからアルツハイマー病全体の約半数が弧発性で原因がはっきりしないタイプなのです。
 アポリポ蛋白E4の素因は、採血だけで簡単に調べられます。ただし素因を知ったところで根治方法のない病気ではありますので、調べるのはよく考えてからにすべきです。素因を知って落ち込んでもらっては、何のために検査したのかわからなくなります。
 アポリポ蛋白E4 保有率と一生涯にアルツハイマー病を発症する確率を調べたアメリカの研究(家族歴のない場合)では、アポリポ蛋白E4 を持てば29%、アポリポ蛋白E4 を持たなくても9%がアルツハイマー病を発症しました。素因がすべてではありませんので、以上の数字を自分なりによく吟味しご検討下さい。
 また、以下のような報告もあります。
  『ギーセン大学ヒト遺伝学研究所のUlrich Muller教授は、アルツハイマー病の遺伝子検査の恩恵を受けられる者が果たしているのかと検査の意義に疑問を投げかけている。アルツハイマー病患者の大半は遺伝によるものではなく、孤発性に発症する。優性遺伝するのは約10%足らずで、しかも原因遺伝子は約3分の1しか同定されていない。現在、その遺伝子がコードする蛋白質として知られているのはプレセニリン1、プレセニリン2、アミロイド前駆体蛋白質、アポリポ蛋白質である。アルツハイマー病患者が原因遺伝子陽性の場合には、その親族が希望すれば検査の相談に応じる。まず、検査結果の意味を説明したうえで、今のところ治療法がないことを十分に理解させる。さらに、最低6週間の熟慮期間を置さ、再度面談の機会を設け、その時点でもなお検査を希望している場合に限り、実際に採血に踏み切る。次回の面談時には、信頼でさる人または心理学者同伴で来るように指示し、こうした条件が満たされた場合にのみ検査結果を伝える。同研究所では、これまでのところ、このような条件を満たして実際に検査を受けたのはAD患者だけで、健常者は皆無である。』(平成14年12月19日付Medical Tribune)
回答への返信(1999.11.7):お忙しいのに早速に丁寧なお返事ありがとうございました。とてもよくわかりました。わからないままでいるのと、自分でも納得して介護するのではたいへん大きな違いがあります。またアドバイスをいただきたい時にはメールを送らせていただきたいと思いますので、そのときはどうぞよろしくお願いいたします。本当にありがとうございました。電子メールの素晴らしさも実感しました。

【権利擁護センターすてっぷ】
 痴ほうにより財産管理ができなくなったり、不利な契約を締結させられたりといった権利侵害に対して、相談を受けています。具体的な法的手続きが必要な場合には、弁護士紹介も行っています。
 来所の面接相談(電話予約)が原則です。
  住所:〒162-0823 東京都新宿区神楽河岸1-1 セントラルプラザ11階
  電話番号&受付時間:03-3268-1133
     祝日除く月~金曜日・第3日曜日、9時~17時

【社団法人 成年後見センター・リーガルサポート】
 http://www.legal-support.or.jp/
 いろいろなことを契約をするには、自分の行為の結果がどのようになるか判断できる能力が必要となります。判断能力が不十分な場合、そのことによって不利益を被ってしまうおそれがあります。そうならないように支援するための制度が成年後見制度です。
 通常、後見人は個人が担いますが、対象者がフーテンの寅さんのように全国を渡り歩くような人の場合とか、老人をターゲットにして高額商品を売りつけるような組織犯行に対抗するには、個人の力では不十分です。そのような中で生まれたのが、グループとして後見人の役割を果たすリーガルサポートです。

メール13 若年性アルツハイマー病?
質問(2002.3.3 ○a○i○o○u ○i○o):29歳の会社員です。実は自分が痴ほう症なのではないかという不安にかられています。
 つい先ほどのことさえも記憶できない状態であり、物事は必ずメモしておかないと頭にはとどめておくことができません。それで仕事に支障をきたし、まわりに迷惑を及ぼしています。
 かつては鮮明に残っておりました子供時代の記憶も、最近少しずつ欠落しつつあります。またごく簡単な事柄さえも理解できないといったふうに理解力も著しく低下してきました。
 学生時代の成績は、比較的よかったです。成績がいいからといって必ずしも頭がいいとは限らないことは重々承知しています。大学は現役で京都大学の◯学部に合格しました。
この歳にして痴ほう症かと思い悩んでいるのですが、若年性の痴ほう症もあるのでしょうか? もしよければ何か情報を提供していただければと思いますし、一度もの忘れドックも受けてみたいと思っているのですがいかがでしょうか。
回答(2002.3.3):若年性痴ほう症(最も頻度が高いのは、アルツハイマー病です)は、基本的には40歳以降の病気です(ただし、文献上最も若いアルツハイマー病のかたの発症時の年齢は、28歳です)。
 さて、私のもの忘れもけっこうひどいほうです。20歳を過ぎると、人の神経細胞は1日10万個ずつ減少していきます。年とともに記憶力が低下するのは当然のことだと考えてください。しかし極端に低下する場合には確かに心配になりますね。若年者の記憶力低下の主な原因は、ストレス・うつ状態などで、原因が解消されればまたよくなってきます。
 もの忘れドックの受診に関してですが、電子メールを書けるようなかたが受けられる必要はないと思います。またお悩みでしたら、気軽にメールを送ってください。
 もの忘れを気にせず、前向きに明るくがんばってください。
追記
 2001年7月10日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、「若年性健忘症」の話題が取り上げられていました。若年性健忘症は前頭葉46野の機能低下により、側頭葉に蓄えられた記憶が引き出せなくなる状態で、機能の低下だけなのでMRIなどの脳検査を実施しても異常は検出されないことが報道されていました。
 原因は、電卓などに頼りすぎて計算をしなくなった(脳を使わなくなった)生活、人と接触する機会の減少(周囲の人の動き・行動にてきぱきと反応する習慣の少ない生活をしていると、46野の機能も低下する)、テレビゲームなどのし過ぎ(=テレビゲームは脳をあまり使わないので)が原因として考えられるそうです。
 第3北品川病院(築山節医師)では、このような若年性健忘症に対するリハビリとして、以下の3点を実施しています。
(1)毎日10分間新聞のコラムをノートに書き写して、2週間に一度そのコラムの内容を思い出す訓練をする(誰かにノートの内容を質問してもらう)。
(2)毎日最低3人、家族以外の人と話すようにする(緊張感を持って話す必要がある人になるべく話すように心がける)。
(3)毎日20分間、周囲に気を配りながら(=季節の変化などを感じながら&人に挨拶などの気配りをしながら)外を散歩するようにする。

【若年性アルツハイマー病】
 若年性痴呆患者数(45歳~64歳)は、1996年の厚生省研究班の調査では、2万3千人と報告されています。若年性痴呆の代表はアルツハイマー病ですが、老年発症のアルツハイマー病よりも問題行動が多く、介護におけるご家族の苦労は並々ならぬものです。
 家族の方・ご自身は、どのような症状を心配して、もの忘れの外来を受診するのでしょうか。私が実際にご家族の方から聞いた代表的な症状を下記に列記いたします。もの忘れ以外に以下のような症状が出現したら要注意と考えて下さいね。
(1)家計簿がつけられなくなる
(2)料理の味付けが変わる(=料理の手順を忘れる)
(3)仕事上のミスが多くなる
(4)買い物で計算ができない(=レジで1万円札ばかり出す)
(5)家電製品の使い方がわからなくなる

メール14 うつ病?
質問(2001.12.09):47歳男性です。最近もの忘れが強くなり、仕事にも支障をきたしております。仕事が上手くいかないため、家庭でも怒りっぽくなり、ついついお酒の量が増えています。営業成績を上げて給与は多少増えても、住宅ローンの支払いに追われる状況で、何のために仕事しているのか自信もなくしがちです。
 朝もなかなか起きられません。休日前、休日には元気になるのですが、日曜日の夜になると、とっても気分が落ち込んできます。痴ほう症の初期症状なのではと心配しているのですが、どうしたらいいのでしょうか。
回答(2001.12.10):メール拝見致しました。まず最初に言っておきたいことは、電子メールが可能な痴ほう症の方という話は聞いたことがありませんので、痴ほう症を心配される必要は基本的にありません。
 現在のストレス社会、会社構造の変化などの不安定要素から、うつ状態に陥っている方は相当数います。メール内容を拝見する限り、軽いうつ状態と思われます。うつ状態が続くと、集中力の低下などから、記憶力にも影響が出てくるのです。うつ状態の解消のため、ストレス発散が必要だと思います。
私は元は脳神経外科医ですので、うつ病などの「心の病」は専門外です。ただし、自分自身もうつ状態で長く悩んだ経験がありますので、その領域の医学情報にも強い関心を持っています。
メール内容を拝見しても、「何のために仕事しているのか分からない」という部分が一番の問題点のように思います。
下記のサイトをご覧下さい。
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hothot50.html
 上記は、私のホームページの「最新医療情報」の第50ページです。この50ページ目を書いていた頃は、私自身も「うつ」で悩んでいた時期で、書く気力も大変衰えていた時期でした。そのページの中でうつ病に関連した2つの資料を紹介しております。何かの参考になるかもしれません。
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/JisatuTakahashi.html
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/NayamiNomura000222.html
自分自身の経験を通して考えてみても、うつ病の解消には「普遍的な生きる目的」を確立することが一番大切なことなのだと思っています。「普遍的な生きる目的」を確立している人は、輝いていますし強いですね。ただしこれが、並大抵の努力では確立しないことも皆さんご承知のとおりです。人生いくつになってもやはり迷うものですね。
 頑張ってください。「励ますのは良くない」と言われますが、敢えて私は励まさせていただきたいと思います。
P.S
 偉そうなことを書きましたが、私も「医療情報を分かりやすく市民に伝える」という小さな人生目標を持って奮闘しているだけです。失礼致しました。

メール15 本人は受診したがらないが、診察を受けたい
質問(2002.1.21 ○i◯o◯h◯ ◯e◯a):私は◯◯大学薬学部に勤務する◯◯と申します。先生のサイトを拝見し、ぜひ祖母を診察していただきたくメールを差し上げました。
 祖母は現在85歳です。数年前より、会話中に用語を忘れるようになり、「あれ」「それ」で代用することが多くなってきています。また、曜日の感覚が薄れてきて、「今日は何曜日」と聞くことが多くなりました。もともと、曜日に左右されて生活しているわけではないので、これらは老化の範疇に入ると思っていました。
 ところが1年ほど前から、私の妹(祖母にとっては孫)の名前を、祖母の妹の名前とまちがって呼ぶことが目立つようになってきました。また、先月末に数時間1人で留守番をさせたのをきっかけに、自分の住まい特に20年程前に改築した洋風の部屋が、自分の家であることがわからなくなりました。祖母が生まれ育った地域のある別のお宅へお邪魔しているような感覚に陥り、「今日は泊まるのか」「トイレはどこか」などの言動があります。
 以上の症状より、祖母の症状はアルツハイマー病の初期症状であることが示唆されるのか、そしてアリセプトの対象となるのかなどを診察していただきたく、倉本内科を受診したいと思います。
回答(2002.1.22):メール拝見致しました。
 症状から判断すると、やはり初期のアルツハイマー病が疑われます。
受診当日、CTと記憶力の検査を実施いたします。本人が診察を嫌がる場合に関しては、「もの忘れの検査」「心配ないことを確認するため」という説明にして、「痴ほう症の検査」と言わなければ、本人も嫌がらないのではないかと思います。
 お電話で外来の予約をして頂いてから来院していただけると幸いです。予約先は、TEL:059-227-6711です。
 アリセプトの効果があるかどうかを判定したいと思いますので、通院に支障がなければ3か月間は通院していただけると幸いです。困難でしたら、診断だけ明確にしてお近くの医師に紹介状を書かせていただきます。
なお、高齢ですしあえて病名を告知する必要はないように思いますので、アリセプトを処方する際には、「もの忘れの進行を予防するための薬です」と本人へ説明するつもりです。

…(中略)…

メール17 義母を前にして症状をお話しにくいです
 笠間先生、三重県在住の○○(○○in@int○○.ne.jp)と申します。
 夫が明日の15時に外来予約を入れましたので義母を連れて伺います。
 アルツハイマーのお父さんの介護をしている友人から、「この病気は診断が難しいので、今まで気になった行動を詳しく担当医の医師に情報提供すると診断に役立つ」と教えてもらいました。義母の前で言いづらいですし、また夫はまだ自分の母親の今の状態を受け入れられないところがあるようですので、先にメールでお知らせしたいと思います。
 義母は、アルコール依存症の義父と二人暮らしです。義父が寝たきりに近い状態のため、義母が身の回りの世話をしています。
 症状の経過を以下に記載します。
 昨年秋頃、夫が義母の近くに出張があるので、実家に泊まると2~3日前に連格してあったにも関わらず、当日忘れていたようで、実家に誰もいませんでした。
 今年のお正月、朝食にパンを焼いて欲しいと頼んだのに、数分後に戻ってきて忘れている様子で、「何を食べるの?」とまた聞きました。孫へのお年玉を何度も「渡したかな?」と確認しました。
 5月2日、近所に住む義弟宅に、「人にもらった」と言って宮城の牛タンを届けました。義弟が5月4日にそれを食べようとしたら、ひどく腐っていたそうです。『解凍後一週間以内にお召し上がり下さい』と書かれた商品を少なくとも常温で1か月以上保管していたようです。
 5月6日、夫が義父を連れて総合病院に行ったときのことですが、義母は診察後にお金を払うため、窓口に用紙を出して夫と義父のところへ戻りました。計算ができて放送で支払いの呼び出しがあったときに、先程行った窓口の場所が分からなくなっておりました。
 以上が今思いつくことです。診察に役立てて頂ければ幸いです。夫は、もしアルツハイマー病であれば、義母にもアルツハイマー病と言ってもらっていいと考えています。
 明日の診察よろしくお願いします(平成16年5月10日)。
回答(2004.5.11):症状・経過からすると、やはりアルツハイマー病の可能性が高いように思われます。
 やはり一度診察して、診断を確認した方が良いと思われます。単なる「老人性の良性健忘」というだけかもしれません。「年齢相応の物忘れ」か「病的な物忘れ」かの決め手は、「半年~1年程度の期間観察していると、確実に進行しているかどうか」です。アルツハイマー病は進行性疾患ですが、「年齢相応の物忘れ」であれば、ほとんど進行しません。
 なお、アルツハイマー病のもの忘れか、年齢相応のもの忘れかの判断が難しく、その境界のタイプ(MCI:軽症認知障害)という概念もあります。軽症認知障害のままでとどまるか、アルツハイマー病に発展するのかの予測は、いかなる専門医でも困難です。
P.S:
 詳細なご報告を頂きましたので、ご本人を前にして嫌なことを聞かなくて済みますし、スムーズに診療にはいることができます。
 ご友人が指摘された、「この病気は診断が難しいので、今まで気になった行動を詳しく担当医の医師に情報提供すると診断に役立つ」というのはまさにその通りです。アルツハイマー病診断には、発症してからの経過というのが早期診断の大きなポイントになります。 





(2)痴ほう症の予防について
メール1 座禅は痴ほうを予防するか?
質問:僧侶には痴ほう症が少ないが、学校の先生は痴ほう症になりやすいという話を聞きました。私は教師をしていますが、この話は本当なのでしょうか。
回答:職業と痴ほうに関する検討では、表現することを職業としている、小説家・作曲家・画家・演奏家・彫刻家・政治家・オーケストラの指揮者などには痴ほう症のかたが少ないとのことです。また老人ホームでの検討では、短歌・俳句の趣味のある老人、ものを書くことの好きな老年者にも痴ほう症の人が少ないようです。
 お経・写経は痴ほう予防によいとされていますが、僧侶に痴ほう症が少ないということは医学的には証明されておらず、座禅が痴ほうを促進するかどうかも未解決の問題です。しかし最近この問題に関したいへん示唆的な報告がありました。アメリカン・ヘルス・フォー・ウイメンという雑誌の1998年7月号に掲載されたカナダのモントリオールのマッギル大学の学者の説なのですが、ストレスホルモンであるcortisolのレベルが慢性的に高い人の場合は、それが脳の海馬の部分を浸食し、記憶力を損なうそうです。 つまり、ストレスが記憶を減退させるということで、それを防ぐには、ストレスホルモンのレベルを下げる必要があり、それには毎日ある程度の時間をかけて、座禅や瞑想あるいはヨガをやるのがてっとり早いということです。
 なお、教師に痴ほう症が多いということも、医学的には証明されておりません。
 厚生省の1996年の調査によると、若年性および初老期(18歳~64歳)の痴ほう患者推定数は、少なくとも約2万6千人。発生率は女性0.022%に対し、男性は0.043%と約2倍。診断名は脳血管性痴呆43.9%、アルツハイマー病16.8%、頭部外傷10.3%、アルコール精神病4.2%など(1998年2月23日付読売新聞・こちら医療情報室)というデータもあります。通常アルツハイマー病は女性のほうが約2.1~3倍発生率が高いのですが、若年性痴ほう症では男性の方が約2倍も多いようです。ストレス社会が若年性アルツハイマー病を増加させるのだとすれば、今後ますます若年性アルツハイマー病は増加するかもしれません。 

…(中略)…

メール5 昼寝とアルツハイマー病予防の関係は?
質問:ある新聞によれば、昼寝がアルツハイマー病を予防すると書いてありますが、本当なのでしょうか?
回答:第17回日本痴ほう学会で国立精神神経センター武蔵病院・精神科朝田隆医長(現職は筑波大臨床医学系教授)は、1日30分以内の短い昼寝が,アルツハイマー病の発症リスクを抑制する可能性のあることを発表しました。
 調査は、アルツハイマー病と診断された患者401人(平均年齢72.6歳)と、その配偶者など痴ほう症状のない315人(平均年齢66.5歳)で、喫煙歴・飲酒歴・趣味の有無と内容など17項目について過去5~10年にさかのぼり回答してもらったそうです。
 その結果、1日30分以内の昼寝を定期的に行っている人では、していない人に比べて、アルツハイマー病発症リスクが0.2と5分の1に低下していたそうです。また、発症リスクを高める因子として知られているアポリポ蛋白E4遺伝子を持つ人も、定期的な昼寝によって、発症リスクは0.1(同:0.0~0.3)に低下していたという報告です。
定期的な30分以下の昼寝習慣にはぼけ抑制の作用があるということのようですが、うたた寝をする老人にはぼけが発生しやすいとも言われています。どちらの説が正しいのでしょうか。それは両者の違いを考えるとよくわかります。うたた寝と昼寝の違いをよく考えてみましょう。昼寝には、本人に寝たいという意思がありますが、うたた寝は無意識に眠りに入るという大きな違いがあります。テレビを見ながらボーとしてうたた寝していくのはよくないようです。時間を決めてしっかりと眠りましょう。
 2002年2月28日、「24時間勤務での仮眠は労働時間」と認定した最高裁の判決結果も出ました。過労の時には、昼寝を活用してぼけ予防に留意することも大切なようですね。
 アポリポ蛋白E4遺伝子を持つ人は適度に昼寝して、適度に煙草を吸って、頭部打撲に気をつけ、ビタミンEを内服してアルツハイマー病を予防に心がけましょうというのが現段階での最終結論ということになるのでしょうか。
 アルツハイマー病の脳の変化を病理学的にみてみると、初期変化として出現してくるのは、老人斑という「しみ」です。この「しみ」にはアミロイドβという特別なタンパク質が沈着しており、これがアルツハイマー病の発症に関わっています。アポリポ蛋白E4 は水溶性のアミロイドを難溶性にして沈着させるものと考えられています。したがってアポリポ蛋白E4 が存在すると、アミロイドβが沈着しやすくなり、アルツハイマー病の発症が促進されるのです。
 この他にアミロイドβの不溶化を促進する因子として、アルミニウムイオン等があげられており、数十年かかる遅発性アルツハイマー病の発症に重要な関わりを持っていると考えられています。宇野正威医師の著書(もの忘れは「ぼけ」の始まりか、PHP研究所発行)によれば、重篤な頭部外傷で二週間以内に亡くなったケースの脳を調べると、アポリポ蛋白E4遺伝子を持つ人では、すでにアミロイドβが沈着しており、このことから、意識をなくすような強い頭部打撲の既往は、アルツハイマー病の大きな危険因子の一つとされています。

メール6 脳をよく使うと痴ほう症になりにくいのですか?
質問:脳をよく使うとぼけにくいという記事を新聞で見たように思うのですが、いかがでしょうか?
回答:これに関しては、1999年1月13日の毎日新聞夕刊の、科学・いま&未来の記事に詳細なデータが載っていますので、引用してご紹介します。
 東京都老人総合研究所の安藤進副所長(神経科学)は「若いころから努力して問題に取り組むことが痴ほう予防につながる」と語る。
 安藤さんらは、生まれたばかりのラットを、遊具を常に与え続けた環境(豊富環境)と、食べることと寝ることしかない環境(標準環境)の二つに分け、「年寄り」に当たる2歳まで育てた。そしてこれら2グループの知能に差があるかどうか迷路を使って調べた。
 迷路は、5本の行き止まりの通路と、ゴールにつながる1本の通路を組み合わせた。正解を発見するにはいったんゴールから遠ざかる方向へ走らなければならない。豊富環境で育ったラットはすぐに正しい通路を覚えたが、楳準環境で育ったラットは何度やってもゴールに近い袋小路に入ってしまい、正しい迂回路が覚えられなかった。
 「豊富環境で育ったラットは、脳の可塑性のせいで高い知能が維持できていた」と安藤さんは説明する。脳の神経細胞(ニューロン)は体のほかの細胞と違って再生しない。しかし学習によって、機能を回復することができる。この働きが脳の可塑性だ。情報が繰り返し伝えられることで伝達効率がよくなったり、欠けた部分を別の経路で補って情報伝達が可能になる。この時、ニューロンとニユーロンの接合部であるシナプスの数は増えていく。
 2群のラットの脳を調べたところ、豊富環境のラットのシナプスの密度は大脳皮質などすべての部位で、標準環境のラットよりも高かった。
 脳の老化を調べる過程で、脳の老化防止につながる成果も表れてきている。脳の血行が低下すると、神経細胞は働きにくくなる。従来、脳の血流の調節に自律神経は関与していないと考えられていた。これに疑問を持った佐藤昭夫・昭和大客員教授(自律神経生理学)らはラットを使って実験した。
 まず、脳の内側の神経核に注目した。この部位はアルツハイマー病の患者などで失われる部位で、自律神経に似た働きを持つ。ここに電気刺激などを与えたところ、感情や学習など高い次元の神経活動をつかさどる大脳皮質や海馬で血流が増えることを発見した。
 他に血流を増加させる仕組みを調べたところ、麻酔をかけたラットの手足をピンセットではさんだり、歩かせた場合でも大脳皮質の血流は増加していた。
 共同研究者の堀田晴美同研究所主任研究員は「血管性痴ほうでもアルツハイマー型痴ほうでも大脳皮質の血流が低下する。寝たきりになると痴ほうの進行が早まるが、これは手足の刺激がなくなってしまうからではないか。症状の軽いうちに手足に刺激を与えて脳の血流を増やせば、重症化するのを防げるかもしれない」と期待する。
 以上の記事内容から明らかなように、若いころから頭をよく使いぼけ予防に努力すること。万一痴ほう症の初期症状が出てきた時も、決して家の中に閉じこもりがちにならないで、積極的に外へ出て運動し手足を動かしていくことが大切なのです。
 なお、2002年1月24日付読売新聞には、以下のような記事が報道されています。
 「『編み物や陶芸など細かな手仕事はぼけ予防にいい』『サバやイワシなど青魚を食べるとぼけない』・・世間で流布している、そんなぼけ予防をめぐる「通説」が本当に正しいかどうか、厚生労働省の研究班が検証に乗り出した。全国の高齢者一万人を対象に調査相手を抽出し、通説どおりの生活をしてもらうなどして、その効果を調べる初の試みだ。MCI(軽度の知能低下=軽症認知障害)と診断された人に焦点を当て、本人や家族に協力を求める。MCIの高齢者は、アメリカの研究では約1割が1年以内に痴ほうに進行するとされる。これらの人たちに、栄養、睡眠、運動、余暇活動の4点にポイントを絞り、ぼけに効果があるとされてきた食事や睡眠、個人に合った有酸素運動やサークル活動などを指導しながら、痴ほうの進行率を数年間追跡する」。

【アルツハイマー病予防の生活習慣】
 数年後には、「通説」の客観的な評価が下されるようですが、何もせず結果が出るまで待つよりは、編み物、日記、軽い運動などに積極的に取り組み、心身ともに健康習慣に心掛けてください。今までに報告されている諸ボケ予防を以下に列記しておきます。
(1)ストレスを最小限にする
(2)適切な運動
(3)脳に好ましい食事:動物性脂肪、高カロリーの食品、炭水化物、カフェインを多く摂りすぎないように注意し、抗酸化作用のある食物摂取が望ましい。食生活に関してまとめると、「お勧めは、1日に魚1回、野菜2回、果物1回」となります。
(4)脳を守るためのライフスタイルの選択:禁煙し、アルコールを控えめにし、十分な睡眠をとることなども大切。
(5)精神活動を活発に保つ:高学歴者はADになりにくい

【カレースパイス成分のクルクミンがアルツハイマーを予防?!】
 ファルマシア(Vol.38, No.9, 891-892 2002)には、東田千尋助手(富山医科薬科大学和漢薬研究所薬効解析センター)の興味深い記載がありますのでご紹介しましょう。 
 『アルツハイマー病(AD)では、脳内のamyloidβ(Aβ)沈着が引き金になり神経細胞の変性・脱落が生じて痴呆にいたる。その進行過程の1つには、Aβがミクログリアを活性化することにより発生するフリーラジカルが関与すると考えられている。しかし、フリーラジカルを捕捉する抗酸化作用を有するビタミンEは、in vitro ではAβ誘発の神経細胞死を抑制するが、AD患者では高用量でしか効果を示さない。
 また、ADでは脳での炎症反応が亢進していることや非ステロイド性抗炎(NSAID)の服用者にAD発病のリスクが少ないことから、NSAIDのADに対する有効性が期待されている。
 Frautschy&Coleのグループは、抗酸化作用と抗炎症作用を併せ持ち、副作用のない薬物としてクルクミンに着目している。ウコン(ターメリック)は、インドでは食品・生薬として豊富に取り入れられているが、インドでの70歳代のAD患者数が米国と比較して4分の1程度であることも、彼らが抗AD薬としてクルクミンに注目する理由の1つである。』
 ウコンの成分であるクルクミン(クルクミンは、クミンまたはカレーとしても知られておりフェノールを多く含む天然香辛料です。フェノールはフリーラジカルによる細胞損傷を予防しうる強力な酸化防止剤です。クルクミンはウコン根茎の抽出物である)の投与でアルツハイマー痴呆を予防できる可能性が示されたわけです。

【運動とボケ予防】
 平成16年2月20日付中日新聞において、フレディ松川(湘南長寿園病院院長)は、以下のような報告をしております。
 『最近、カナダで行われた5年間にわたる調査によると、歩行以外に何も体を動かさなかった人の方が、週3回散歩以上の強い運動を行った人より1.5~1.6倍もボケやすいことが判明しました。これは、軽度の運動を続けることによって、脳に血液がたくさん流れ、血圧は正常化し、それにともなって、脳の代謝がスムーズに行われるからだという分析もなされています。』

メール7 脳梗塞後の痴ほう症がとても心配!
質問(荒木 araki@○.ne.jp): 初めまして。ホームページを拝見させてもらい、痴ほう症に関わる各方面の知識を得ることができました。ありがとうございます。私は医療関係者ではありません。先日(1998年の11月)父親が脳梗塞で入院し、その後遺症としていろいろな言葉で検索した結果、先生のホームページに行き着きました。
 右脳に梗塞が見られ、運動障害(とは言っても、現時点では日常生活にまったく支障がないのですが)があるのですが、私個人があまり病気に詳しくない(と言うか、よくあるパターンの健康に無頓着)ので、いろいろな情報をインターネットで調べている最中です。
 現在の父親の症状は介護の必要なく、独力での歩行が可能です。病院内でもひとりで歩くことができ、端から見ると普通の人と変わらないように思えます。
 先生にお伺いしたいことがあります。文章レベルでお伝えするのでわからない部分があるかと思いますが、今の私は、親父が将来「痴ほう状態」になるのかどうかが心配でたまりません。
 現時点で痴ほうの症状はまったく出ていないのですが、「血管障害による痴ほう」も存在すると知り少し不安になっています。
 お忙しいこととは思いますが、時間の許す時でけっこうです。教えて下さいませんでしょうか。
 日本が世界一の長寿国なのは私もテレビや新聞等で知っています。それは言い換えると「老人国」であるとも言えますね。その国が抱えている「水面下」の問題を解決しなければいけない時期が来ているのかも知れません(この場合の「水面下」は「すべてが決して浮かび上がってこないこと」を言っています)。この問題は、人間として生まれて来た以上は、避けて通れない問題なのかも知れません。だれもが通る道なのかも知れません。その道を、だれもが苦しむことなく通れる日が、いつか来ることを信じています。
 月並みな言葉なのでしょうががんばって下さい。今、自分に専門知識がないことが凄く悔しく思えてなりません。34歳になる私ですが、次に生まれ変わってくることがあったら医療への道を歩もうと思っています。 
回答:メール拝見いたしました。
 「脳梗塞による痴ほう症=脳血管性痴呆」に関しては一般の書店に並ぶ本にはあまり記載がなく、情報が少ないのでたいへん心配であろうと思います。
 さて脳血管性痴呆ですが、いくつかの種類があります。急速に出現するもの、ゆっくりと発症するもの、実にさまざまです。
 急速に出現する場合、かなりの大きさの脳梗塞が引き金になります。あるグループは、脳卒中(=脳出血&脳梗塞&くも膜下出血など)あと、3か月以内に発生する痴ほう症を脳血管性痴呆と定義しています。しかし実際には脳血管性痴呆の41.2%が1年以内に発症するというデータが出ており、1年を経過したあとでも発症することがありうるということが知られています。すなわち、定義上は脳血管障害発症後3か月以内に痴呆が出現することとなっていますが、日常診療の経験からは3か月以内に痴呆が出現する症例は少なく、2~3年以内に出現する例が多いという印象を多くの専門医は持っております。特に、小さな脳梗塞(=ラクナ梗塞と呼ばれます)の多発による脳血管性痴呆では、一つ一つの小さな脳梗塞の発症時期がはっきりしないからという背景もあるのです。小さな脳梗塞でも5個以上になると、痴ほう症を発症しやすいと言われており、脳梗塞の再発予防は非常に大切な課題です。
 脳血管性痴呆の治療薬は、残念ながら現在は存在しません。その経緯につきましては、下記サイトに詳しく記載しています。
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/tihouKUSURImukou1.html
 シンメトレルという薬は、脳梗塞後の意欲低下に多少効果があるといわれており、時折使われます。
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/Aricept0927MedTri.shtml
 上記サイトには、脳血管性痴呆治療の結論的な意見が掲載されていますが、脳血管性痴呆の決め手となる治療は確立されていないのが現状なのです。
 脳梗塞もいったん発症すると後遺症として、麻痺・言語障害・痴ほうなどが残ることがあり、上記で述べましたように決め手となる治療手段がないことからたいへん恐ろしい病気です。そこで軽いうちにこれを発見し脳梗塞を予防しようということが脳ドックの大きな目的の1つになります。
 しかし、そもそも無症候性脳梗塞とはどういう概念のものなのでしょうか。CT・MRIなどで偶然発見される無症候性脳梗塞の頻度は、40歳以下ではまったくなく、40歳代で約5%、50歳代で約9%、60歳代で約20%、70歳代では約29%と報告されています。したがって60歳以上の人がCT・MRIを受ければ、約4人に1人が、「あなたは脳梗塞です」と医師より告げられるわけです。そして再発予防のために、高血圧など基礎疾患のあるかたでは薬物治療が始められることが多いと思います。
 あるグループの7年間の追跡調査によれば、無症候性脳梗塞を有する群からは6.8%の脳卒中発症率で、有しなかった群の0.86%に比べて有意に高い脳卒中発症率が確認されています。
 脳卒中の再発率は30%程度とされています。脳梗塞再発予防の主軸となる抗血小板薬の内服により脳梗塞の再発危険度は約25%減少するとされていますが、どの程度血小板機能・活性化を抑えたら、どの程度脳梗塞の再発予防ができるかを検討した大規模なstudyは存在しないのが現状です。しかし、脳の深部のラクナ梗塞(直径1.5cm 以下の小さな脳梗塞=ラクナ梗塞)に対しては、抗血小板薬は再発予防効果なしと考えられるようになってきました。ラクナ梗塞に対しては抗血小板薬よりも高血圧管理のほうが大切であるとされたわけです。
 高血圧の適切な管理により、脳卒中の発症頻度は半減すると言われています。脳卒中の一次予防として高血圧管理の重要性は確認されているわけです。しかし、再発予防(二次予防)に対する高血圧治療の有効性に関しては、今まで十分なコンセンサスは得られていませんでした。しかし近年ACE阻害剤という降圧剤での脳卒中の二次予防効果が確認されました。
 高血圧の管理不十分で抗血小板薬を内服すると、脳出血を誘発することもあるとされ、現在脳卒中の専門医は、ラクナ梗塞に対して抗血小板薬を使用しなくなりました(ラクナ梗塞に対して抗血小板薬を投与し3年間追跡調査した検討結果では、抗血小板薬服用群では合併症である脳出血発症率が0.8%であったのに対して、抗血小板薬非服用群では0.4%と半分の発症率でした)。将来ラクナ梗塞の予防が確立されれば脳血管性痴呆の予防が確立される可能性もありますが、現状では未解決の問題です(現在は、質問を受けた1998年当時とは状況が違いますので、ラクナ梗塞治療の最新情報は、「病院でもらった脳の薬ガイド」の「シロスタゾール」の項を参照下さい)。
 まとめますと、脳梗塞後の痴ほう症は、いつ発症するかだれにも予測できないというのが正直な話です。しかし脳梗塞発症後2年以内に発症するケースが多く、それを過ぎればその可能性はたいへん少ないということになります。しかし緩徐発症タイプのものもあります。
 とにかくやれることは再発予防に努めることです。大きな脳梗塞であるのならば、抗血小板剤の内服が必要です。ラクナ梗塞であるのならば、高血圧の是正・運動すること・禁煙などが肝要です。少量のアルコール(ビール中ビン1本、日本酒1合)はかまいません。

メール8 混合型痴ほう?
質問(2002.3.14 ○i○e-I○a○@○.ne.jp):初めまして。◯浅◯みといいます。
 最近、貴殿のHPを拝見させてもらっています。素人の私にもわかりやすく、いろいろ勉強になることが多く助けられています。HPに「気軽に質問をお寄せ下さい」と書かれていますので、そのお言葉に甘えてメールさせていただきました。
 私は70歳になる母と二人暮らしをしています。昨年、どうももの忘れが激しい母を気遣い6月の中旬に神経内科を受診し7月にCT検査など受けました。結果は、脳が小さくなっている所見もなく、血管がつまっている所見もなく、心配ありませんので症状が悪化してきたらまた受診して下さいという話だったのです。
 8月に入り母の様子がおかしく、昼に焼いた魚と思われる魚が残っており、帰宅したとき母に「この魚いつ焼いた?」と問うと答えが二転三転し、とうとう頭が痛いと言いだし口から泡を出し倒れたのです。数日前から頭痛を訴えていましたが若い頃からの頭痛持ちの為、特に気にしていませんでした。急いで救急車を呼び病院の救急外来に運ばれました。
 病名は脳出血でした。1か月ほど入院の後に退院したのですが、母の思考はやはり不安定でハッキリせず、担当医より脳の血流を良くする薬ということで、サアミオン錠5mgという薬を服用することになりました。
 その後しばらく落ち着いていたのですが、3月に入ってから、母の言動がまた不安定になってきました。私が友人と昼食に行き戻ってくると、「映画に行ったのに早いね」などと言います。また、東京の兄が仕事で名古屋に来ることになっていたのですが、出先で兄と偶然に会いましたら、「忙しくて今回は家に寄れない」とのことで、その旨を電話で母に伝えましたら、「昼に寄ってくれたと。あんたも居たじゃない」と言いました。いろいろ問いつめると、だんだん言うことが二転三転するため、私は脳神経外科の主治医の先生に母を診察に連れて行きました。
 CTを緊急に撮って診察してくれたのですが、特に脳に問題ないと言われ、「お年もあるからとぼけ予防に薬を飲みますか?」と言われて薬局で受け取った薬がアリセプトだったのです。効能書きに「アルツハイマーの進行を遅らせる薬です」と書かれており私は動揺してしまいました。
 インターネットで薬の名前を検索して、笠間先生のHPに出会えアルツハイマーという病気について勉強させて頂いたのですが、やはり詳しい説明なしにアルツハイマー病の薬をもらったことに対してとても衝撃を受け、主治医の先生に対して少々不満を感じております。
 脳外科の主治医を信じて治療をしていくべきなのでしょうか? 他の先生のご意見を聞ける機会がないものですから、ご意見を拝聴できましたらとメールさせていただきました。兄にも相談したのですが、やはり話になりませんで私任せです。家族として何をしたらいいか? どう治療していくべきなのか? 不躾な長文メールになり申し訳ありませんが、もしお時間がありましたら、ご意見などお聞かせいただけたら有り難く思います。
回答(2002.3.14):メール拝見いたしました。症状からすると、アルツハイマー病を併発した可能性があると思います。ただし、決して典型的なアルツハイマー病の経過ではありませんので、やはり一度は専門の医師に診断を確認してもらった方がいいと思います。単なる「老人性の健忘」だけかもしれません。
「年齢相応のもの忘れ」か「病的なもの忘れ」かの決め手は、半年~1年程度の期間、症状を観察していると、確実に進行してくるかどうかです。アルツハイマー病は進行性の病気ですが、「年齢相応のもの忘れ」であれば、ほとんど進行しません。
 投薬されたアリセプトという薬は、副作用の強い薬ではありませんので、3か月程度は服用してみて効果があるかどうか確認するということも大切だと思います。おそらく脳神経外科の主治医の先生も、診断に多少迷いがある状況のようですし、他に決め手となる薬がないためアリセプトを試しに投薬したのかもしれません。
 サアミオンは、脳梗塞の薬ですので、アルツハイマー病と脳血管性痴呆の混在したタイプの痴ほう症なのかも知れません。
 いずれにしても、典型的なアルツハイマー病の症状ではありませんので、診断は脳神経外科の医師には難しいかも知れません。「神経内科」の医師の方が一般にはアルツハイマー病の診断には慣れております。
【混合型痴ほう】
混合型痴ほうという診断は、痴ほう患者さんの脳に、アルツハイマー病と診断するに十分な老人性変化と脳血管性痴ほうと診断するに十分な血管性変化が共存している場合につけられます。痴ほう症の原因の10~20%を占めているとする報告が多いようです。
 上記が古典的な混合型痴ほうの概念ですが、1992年に発表された米国のカリフォルニア州アルツハイマー病診断治療センターの虚血性脳血管性痴ほうの診断基準によると、混合型痴ほうを、「虚血性脳病変に加えて、他の全身性あるいは脳の疾患が1つ以上あって、それが痴ほうの原因と考えられた場合」と定義しています。つまり、原因疾患をアルツハイマー病と脳血管性痴ほうに限定せず、その他の脳疾患や内科的疾患にまで対象を広げているのです。ですから診断名は、「脳血管性痴ほう十甲状腺機能低下症」などと記載されます。 

 痴ほう症の予防について種々のメールの中からいろいろなアドバイスをいたしましたが、最後に非常に重要な点に関して述べておきます。
 生活習慣によるアルツハイマー病の予防手段は確立されたものはないのが現状ですが、脳の老化を防ぐための生活習慣はいろいろと指摘されております。
 平成14年1月24日付読売新聞に、大変興味深い記事も紹介されております。
 『「編み物や陶芸など細かな手仕事はボケ予防にいい」「サバやイワシなど青魚を食べるとボケない」・・・世間で流布している、そんなボケ予防をめぐる「通説」が本当に正しいかどうか、厚生労働省の研究班(主任研究者=朝田隆・筑波大臨床医学系教授)が検証に乗り出した。全国の高齢者一万人を対象に調査相手を抽出し、通説どおりの生活をしてもらうなどして、その効果を調べる初の試みだ。調査は、MCI(軽度の知能低下)と診断された人に焦点を当て、本人や家族に協力を求める。これらの人たちに、「栄養」「睡眠」「運動」「余暇活動」の四点にポイントを絞り、ボケに効果があるとされてきた食事や睡眠、個人に合った有酸素運動やサークル活動などを指導しながら、痴ほうの進行率を数年間、追跡する。』 
 現状では、どのような生活様式がボケの予防に最適であるのかはまだ判明しておりませんので、避けることが可能な危険因子(アルミニウム、煙草、不活発な生活)だけでもなるべく避けるというのが肝要です。
 

  


(3)痴ほう症の治療について
メール1 アルツハイマー病の治療について教えて
質問:68歳になる父がアルツハイマー病と診断されました。まだまだ若いので、何とか少しでも良くできないものかと考えあれこれ雑誌を読んで情報収集していますが、アルツハイマー病の治療について教えて下さい。ある雑誌にアリセプトという薬がよいと書いてあるのですがいかがでしょうか。
回答:アリセプトはたいへん有効性が高く評価されている薬剤で、1999年11月24日より発売開始となりました。国内初の抗アルツハイマー病薬です。評価の高いアリセプトですが、軽度ないし中等度アルツハイマー病において、約2割程度効果を発現します(といっても完全に治るわけではなく、症状が少し軽快することにより病期の進行を遅らせるという効果です)。しかし効果の持続期間は1年程度、悲観的に考える研究者ではせいぜい半年くらい病期の進行を遅らせる効果しかないと報告しています。
 アリセプトはアセチルコリン系を賦活することにより症状の改善を目指す薬ですが、将来的には進行阻止剤の開発が望まれています。進行阻止という点で期待できる薬としてはビタミンE の有効性を報告するデータも散見されますが、効いているのかどうかがよくわからない(薬が効いて進行が抑えられているのか、もともと進行しないタイプなのか判断できないので)というのが私の印象です。

メール2 通院患者さんのご家族より質問
質問( 1999.3.11 ○agai <○h○n○y○@tcp-ip.or.jp):お世話になっています。○○の○井です。
 笠間先生、お世話になっています。父のことで、お尋ねしたいことがありましたので、メールを送らせていただきます。
 ここ4~5日、夜非常に寝つきが悪いのです。隣に母が寝ているのですが、「知らない人が横にいる」とか「いないはずの人が部屋にいる」とか言います(これが症状なのでしょうけれど)。
 いくら説明しても、納得がいかないようで、本人もそのことがすごく気にかかっているようです。
 最初にいただいた薬(寝る前に飲む薬、現在50mgを一錠服用中)を増やしたらよく寝られるのではと思うのですが、いかがでしょうか。神経が高ぶっていて眠れないときだけでも増やしてはいけないのでしょうか? 薬のことですので、勝手なことはできませんので、笠間先生にお尋ねしたくメールを送りました。よろしくお願いします。
回答(1999.3.12):2錠までならかまいません。5~6錠を1日かけて内服しているかたもいますが、1回に飲む量としては、2錠までにしたほうが無難です。
 それでも効果がなければ、他の薬を検討することになります。
 幻覚・妄想・人物誤認はアルツハイマー病に起因する症状ですが、本人にとっては事実・現実ですので、それを否定すると本人は混乱しますので、つらいでしょうが受け流して下さい。
※私のコメント:この患者さんは少し遠方からの通院患者さんです。多くの患者さんは、電話に医師を呼び出して薬のことを尋ねるのは少々気が引けると思われます。特に開業医でなく、大きな病院の場合には。
 しかし、電子メールはかなり気軽な医師と患者さん(ご家族)とのコミュニケーション手段となります。このかたの場合も通常ですと病院を再診し、長時間待って「2錠にしてもいいですか?」と聞かなければならないところを、電子メールで用件をすますことができました。またこの電子メールによるコミュニケーション手段は、医師側にも大きなメリットがあります。次回受診時には、2錠にした後の患者さんの樣子が聞けるわけですから。

メール3 インターネットでセカンド・オピニオン
質問( 1999.3.18 H○r○m○ ○o○h○d○): 初めまして。私は埼玉県浦和市の50才台の女性です。
  無症候性脳梗塞についての情報を探していてこちらにたどりつきました。私は、昨年12月から今年1月にかけて近所の病院の脳神経科で、血液検査、CT、MRIの検査を受け、その結果MRIで小梗塞が無数に見つかり、多発性脳梗塞との診断を受け、現在コメリアン、パナルジン、セルベックスを服用しています。
 これらの薬については、脳梗塞を起こした人がその後1年間に再発する可能性が5%あるところを半分にする効果があるもので、一生飲み続けなくてはならないとの説明を受けました。
 ただし自分では、記憶力が減少したと感じている以外には症状はまったくなく、運動不足である以外は、食生活も含めて生活習慣上も脳梗塞のおこる原因は思い当たりません。担当医も私が無症状であるとの診断です。
 私の回りには脳の病気にかかった人が大勢いて、そのほとんどが亡くなりました。病院へ行ったきっかけは、昨年の秋に、もの忘れがたいへん多くなったと感じているところへ続けて3度むせたためです。むせるのは老化現象の一つと聞いておりましたので、もしかしたら、私の脳の老化現象は異常に早いのではないかと心配になりました。脳ドックも探したのですが、ともかく専門医に相談をと思い、脳神経科を受診しました。現在、80歳前後の両親と同居しています。どうやら彼らはまだまだ長生きしそうな様子ですので、まだこれから少なくとも20年は、小梗塞をたくさんかかえたままの頭と体をなんとかもたせなくてはなりません。それにはまず情報集め、ということで脳関係の書物など読みあさっています。
 無症候性脳梗塞に関して詳しく教えていただけると幸いです。どうかよろしくお願いします。
回答(1999.3.19):無症候性脳梗塞は、この1~2年の間に、その考え方において2点大きな変化がありました。その2点(1点は診断面、もう1点は治療面です)を下記に記載致します。
1. 診断に関して
 従来は、MRIでT2という撮影方法で白く写るものは全て「脳梗塞」と言っておりましたが、それではあまりにも「脳梗塞」の患者さんが増えるため、T1という撮影で黒く写るものでないと脳梗塞とは呼ばなくなりました。
 私の外来にもずいぶん、他の病院で「脳梗塞」と言われたということで心配して受診されますが、前者に該当するようなかたが多く、「最近の新しい基準では脳梗塞とは呼ばなくなりましたので、ご安心下さい」とお話しし帰っていただくかたが多々おられます。
2. 治療について
 これに関しては、まずは私のサイトの、最新医療情報P24(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hothot24.html)の次のファイルを見てください。http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/lacuneMUKOU.html
 無症候性脳梗塞で、1.5センチ以下のものは、ラクナ梗塞と呼ばれますが、これに対しては抗血小板剤が無効なばかりか、かえって弊害が多いという結論に達しました(なお、パナルジンが抗血小板剤です)。このことは、脳専門の医師でもかなり勉強している医師でないとまだ知りません(現在は、質問を受けた1999年当時とは状況が違いますので、ラクナ梗塞治療の最新情報は、「病院でもらった脳の薬ガイド」の「シロスタゾール」の項を参照下さい)。
追伸
 北浦和ですか。懐かしいですね。私も以前、といってももう15年ほど前になりますが、北浦和に住んでいました(埼玉中央病院・脳神経外科に勤務していました)。とてもきれいな町で印象深いです。
 またわからないことがありましたら、気軽にメール送ってください。私にわかる範囲でお答えさせていただきます。
 もし本当に無数の脳梗塞があるのなら、もうすでに痴ほう症を来しているはずですから、電子メールが書けるはずがありませんので、ご安心していただきたいと思います。
 セカンド・オピニオンを聞くことはとても大切です。
 インターネットもその一端を担いますが、やはり最終的には診察が必要です。ただしもしMRIの画像のT1とT2の写真を、電子メールで添付ファイルとして送っていただければ、私がアドバイスすることも可能です。しかし、私も今までそのようなことまではやった経験がありません。
 この電子メールをもって、埼玉中央病院の脳外科部長の◯◯先生に診察していただき、アドバイスを受けると、安心できるのではないでしょうか。
再質問(1999.3.19): ホームページに載せてみました。
 即座にご返事くださいましてありがとうございます。
 インターネットで遊んでいられる時間はないかとは思いますが、私の仕事上のホームページに、コピーして保存しておいたMRIの写真を載せてみました。もちろん公開はしませんが、http://member.nifty.ne.jp/○o○h○h○l/○○.htmを見ていただき、コメントいただけると幸いです。
再回答(1999.3.20):ホームページ上の画像ファイル拝見いたしました。
 まだまだ解像度の面で問題はありますが、およその判断はできました。
 ホームページ上の画像を拝見する限りにおいては、脳梗塞とは言いきれません。その理由は掲示されている画像が、FLAIRという手法のもので、私が以前のメールで指摘したT1という画像ではないためです。
 この画像から言えることは、虚血巣らしき部位(本当に虚血であるのかどうかは、医学会の中でも意見が分かれているのが現状ですが、少なくともこの画像だけで「脳梗塞」と言われたのであれば、その医師は勉強不足であると思います)はあるということです。
 この虚血巣らしき部分は、基本的には治療を必要としないというのが最新医学の考え方ですが、高血圧などがある場合には、高血圧の治療をしっかりと受けて下さい。
※私のコメント:この方は、私が初めてかなり高度なセカンド・オピニオンをインターネットという手段を使って実現した人です。画像情報があれば、かなりのアドバイスが可能です。しかしそのためには、相手の方がある程度のパソコンの使い手でないと困難ではあります。しかし未来の医療の姿の1つが、この電子メールのやり取りに垣間見られると思います。

…(中略)…


(4)痴ほう症患者の介護について
メール1 中期アルツハイマー病、今後のアドバイスを希望
質問(1999.1.31 ◯u◯i@◯o◯.◯i◯o.ne.jp):◯◯という者で、母親がアルツハイマーと言われています。中期とのことです。何かよいアドバイスをください。
回答(1999.2.1):まずは正しく診断することが第一歩です。本当に痴ほう症であるのかどうかも含めて検査することが大切です。しかし初期の痴ほう症の診断は、けっこう難しいことが多く、専門の医療機関でないと正しく診断できません。どの医療機関を受診するかですが、私のサイト上の下記コーナーを参照されてはいかがでしょうか。   
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/tihouMEII.html
 アルツハイマー病の介護に関する相談で困窮されたときには、「ぼけ老人を抱える家族の会」という会があります(TEL:075-811-8195)ので、このサイト(http://www.alzheimer.or.jp/)にアクセスし、地域の担当者を聞くこともできます。

【アルツハイマー病介護の原則】
 アルツハイマー病介護の基本は、否定しないこと(なぜなら、本人は自分がおかしいということに気づいていないことが多いので)、優しく接すること、日常生活の身近な話題を取り上げてなるべく話す機会を多くつくることなどが留意点です。
 なぜなら、信じがたいことかもしれませんが、本人にとっては「ものが盗まれたこと」、「亡くなった配偶者が生きている」のが現実の世界なのですから、それを否定されると混乱するわけです。
 否定せず優しい対応とは、具体的には「ものを盗まれた」というときには、「困ったね、一緒に探そうか」などという姿勢です。毎回この対応を繰り返さなければなりませんので、介護者はイライラしがちになりますが、根気よく続けていくことが大切になります。

メール2 同じことを何度も言うので疲れます
質問:否定してはいけないと指導されているのですけど、どうしても何度も同じことを言わないといけないので、ついつい言葉が荒くなってしまいます。どうすればよいのでしょうか?
回答:私の回答の代わりに、貴重な手記をご紹介しましょう。1998年4月号の文藝春秋P334~341(夫婦が死と向かい合うとき=吉田敏浩著)には、たいへん興味深い記述があります。アルツハイマー病のご主人を介護したある奥さんの手記です。「それまで4年間、主人の痴ほう症を隠してきたのです。でも、介護の悩みを理解してくれる人がいたおかげて、オープンにしてからは孤立感が薄れました。まるで幼児に戻ったような主人には、妻ではなく母親の心で接するのがいいとわかりました。たとえば、洗顔の仕方を忘れた主人の前で、こうやるのよと根気よくやって見せて、うまくできたら手をたたいてほめます。すると、主人ははにかみながら得意顔になるのですよ。何か不安そうなときは、肩を抱き寄せて、大丈夫よ私がいるからと語りかけました。子供がなくて、本当の母親としての体験がありませんから、十九歳のときに亡くした私の母の記憶を呼び起こしては、きっとこんな風にしてくれたにちがいないと思い描いて介護したのです。どこまでできたかはわかりませんけれど…」。
 妻としてではなく、母親の心で介護したほうが患者さんにとってよいというお話です。たいへん参考になる手記だと思います。

メール3 早期受診のメリットは?
質問:早期に治療を始めるために、早期診断が大切であることはわかるのですが、それ以外にも何かメリットはありますか?
回答:この質問に対しては、回答の代わりに、1998年11月25日の朝日新聞「声」欄に掲載された私の投稿文書をお読み下さい。
 先日、若年性アルツハイマー病の初診の患者さんがみえました。発症は1年ほど前とのこと。しかし、近所の目を気にして受診しなかったようです。
 症状は進行しており、火の元の管理が心配で少しでも改善すればと願い、デイケアなども希望されての受診でした。
 アルツハイマー病の患者さんを支える医療制度に、通院医療費公費負担制度、精神障害者保健福祉手帳などがあります。精神障害者保健福祉手帳申請のための診断書は、初診日から6か月以上経過して初めて記載できます。
 その患者さんの場合、発症日から起算すると1年ほど経過しているのですが、初診日から起算すると、まだ6か月を経過しておらず、福祉手帳の申請は断念せざるをえませんでした。
 こういった公的医療制度を速やかに利用していただくためにも、発症後早期の受診が望まれます。
 最近私の外来で、医学常識などについてのアンケート(四択回答)をしました。その問いの1つに、「アルツハイマー病の治療薬は国内に何種類ありますか?」というのがあります。「存在しない」という正解を選択されたかたは、三分の一以下でした。
※コメント:記事掲載当時の1998年では、「アルツハイマー病の治療薬は国内に存在しない」というのが正解でしたが、1999年11月24日より国内初の抗アルツハイマー病薬アリセプトが発売されておりますのでお間違いなく。 

メール4 介護と痴ほう症の進行は?
質問:介護がアルツハイマー病の進行を遅らせることは証明されているのでしょうか?
回答:『JAMA』(日本語版)という医学雑誌(1998年6月号のP84)にこの質問に見事に答えれくれる論文がありますので、ご紹介いたしましょう。
 アルツハイマー病特別ケアユニット(Alzheimer disease special care units:SCU)は、アメリカのナーシングホームにおいて普及が進みつつあるもので、1995年にはナーシングホームの10.4%がSCUを設置しています。ナーシングホームにおけるSCUの設置は、ますます普及してきているが、それが利用者の予後に及ぼす影響についてはほとんど分かっていなかった。そこで、運動能力、移動、排泄行為、食事摂取、着衣などにおける機能低下と総括日常生活動作指数および排尿、排便コントロ一ルに関する機能低下、有意な体重減少の9つの評価項目に関して、SCUの利用者と従来のユニットの利用者との間で比較検討が行われた。しかし結果的には、有意な差は認められなかった。
 SCUは家族や利用者にとってはかり知れない利益をもたらすと思われますが、痴ほうを有する者に関して、その機能低下の進行を遅らせるような効果は見られないことが証明されたのです。
※私のコメント:日本でもグループホームなどを設置する医療機関、市町村が増加しつつありますが、決して痴ほう症の知的機能の進行を遅らせるものではないということは念頭に置いておく必要があります。

【園芸療法】
 植物には、心を癒やす効果のあることが知られています。園芸療法を最初に療法として導入したのは米国です。第2次世界大戦やベトナム戦争で心と体が傷ついた軍人らの社会復帰へ向けた支援策の一つでした。神経内科医の吉良成恭・広島国際大教授は、身体効果では、食欲が増えた(17%)、不眠の改善(9%)、失禁の改善(2%)など、心理的効果では、積極性が出た(33%)、情緒が安定した(15%)、痴呆状態が改善された(6%)と報告しております(平成16年3月29日付朝日新聞・元気)。
 NPO法人・日本園芸福祉普及協会のホームページは下記です。
 http://www.engeifukusi.com

【音楽療法】
 日本医事新報4088号の「質疑応答」コーナーに、宮城大看護学部佐治順子教授の音楽療法に関するコメントが掲載されていますのでご紹介します。
(1)民謡はすべての痴呆性老人に最も好まれる楽曲である。
(2)クラシック音楽の管弦楽曲や、ジャズ音楽への反応は、軽度の痴呆性老人の中で、特に過去に個人的に趣味を持ち合わせていた場合には、反応がある。
(3)残念ながら痴呆性老人用のCDは市販されていないし、おそらく今後も出ないであろう。なぜなら痴呆性老人の音楽療法では、同一曲でもその日の症状によって演奏の速さや調性を微妙に変化させながら関わっていかなければ、「聴こえない音楽」となってコミュニケーションがとれず、療法効果が期待できなくなるからである。

【回想療法】
 回想法(=若い時のことを思い出す高齢者の心理療法)は高齢者の脳の活性化や情緒安定に効果があると言われるが、国立療養所中部病院の遠藤英俊内科医長のグループの研究で初めて科学的に効果が裏付けられたと2003年1月17日付朝日新聞・家庭は報道しておりますので、記事の詳細をご紹介します。
 『愛知県師勝町の回想法センターで65歳以上の人を対象に開かれている「回想法スクール」の参加者26人を対象に、「ふるさとの話」「漬物をつける」などをテーマに作業療法士らが参加者と語り合った(スクールは週1回1時間、計8回)。その結果、軽い物忘れのある人については、スクール参加の前後で2割程度、認知機能の検査の数値がアップした。また、町が参加者の家族に聞き取り調査をしたところ、「笑顔が多くなった」「参加前は感情に波があったが、穏やかになった」「自分から動くようになった」など、家族にも好評だった。』
 介護方法によっては、痴呆の認知力を改善しうることを科学的に証明したデータというのはきわめて稀ですので、それだけに注目されるデータでもあるわけです。
 
メール5 在宅看護支援センターを教えて
質問(1999.2.10 a○i○o ○a○a○i○i):神奈川県相模原市に在住しています。父の痴ほうはまだそれほど悪くないのかもしれませんが、3年前の脳出血による後遺症もあり、父一人を残して外出するのは無理になってきて、この冬から本格的に在宅介護することになりました。私たち夫婦が若いこともあってどこから情報を得たらよいのか皆目見当もつきません。
 仕事仲間には早く老人病院に入れてしまうべきだと言われますが、まだ本人はとんちんかんながらもこの家で生活をしています。素人なので何をどうすればいいのかさっぱりわからないのですが、この相模原市の中で在宅看護の支援をしてくれる施設があったらぜひ紹介してください。 回答(1999.2.11):メール拝見致しました。
 相模原市の在宅介護支援センターを下記に記載致します。
  清新在宅介護支援センター
   TEL:0427-71-3373
  北里大学東病院在宅介護支援センター
   TEL:0427-48-5397

メール6 これぞ究極の介護! 
質問(1999.4.2 ○z○k○@p○.highway.ne.jp=嫁):インターネット医科大学から相談にきました。父◯○○88歳、母○○84歳のことで相談です。
 父の症状は、車でドライブに行くと、「乗り換えるのに切符がない」と電車に乗っているのと勘違いしたり、夕方「そろそろ失礼して・・・」と言い出すことがあります。またデイサービスを利用していますが、「デパートに行って来た」などと混乱します。
 1998年10月に神経内科を受診しました。脳の萎縮が認められるが、年齢的に仕方がないでしょうとのこと。最近、混乱することが多くなったので心配しています。徘徊などはありません。
 母の症状は、たった今やったことも覚えていない。そのために混乱します。また、同じことを何度も何度も聞きます。「明日は何曜日?」など。
 約5年ほど前から、何度も同じものを買ってきましたり、ものを隠すことなどはありました。約2年前に神経内科を受診。脳血管性痴呆と診断されました。
 「財布を持ってきたはずなのに・・・」などと言った時は、「大丈夫よ」と話し相手になってきましたが、最近は混乱して攻撃的になってくるので、娘さんから電話をしてもらうなどして気を紛らせています。ちょっと気がそれると後はもう気にしなくなります。
 前置きが長くなりましたが、父も母もこの2か月ぐらいの間に体力的にも衰えが見られ、混乱することが多くなりました。とにかく安心するように心がけて接しているつもりです。手をつないであげたりすると落ち着くようです。
 が、なにぶんどうしていいのか、どうも対応が後手後手にまわってしまっている気がします。以上のような状況ですが、なにかよいアドバイスがありましたら、お願いします。
回答(1999.4.3):メールで送っていただいた症状から判断すると、脳血管性痴呆ではなくアルツハイマー病が疑わしいと思います。
 アルツハイマー病の詳細は、私の著書及びホームページをご参照下さい。投薬により興奮症状はずいぶんコントロールできます。
 アルツハイマー病介護の基本は、否定しないこと(本人は自分がおかしいということに気づいていないことが多いので)、優しく接すること、日常生活の身近な話題を取り上げてなるべく話す機会を多く作ることなどが留意点です。信じがたいことかもしれませんが、本人にとっては「盗まれてものがなくなった」のが現実の世界なのですから、それを否定されると混乱しますから、否定しないことを念頭において下さい。
回答への返信(1999.4.3):お返事ありがとうございました。
 メールを送ってすぐに返事がいただけてたいへん感謝しています。参考になりました。今日早速本屋さんに行ってきます。
 とにかく父にも母にも安心してもらうことがいちばんと考え、日々接するよう努力しています。何度繰り返し同じことを聞かれても、「スマイル、スマイル!」の気持ちでがんばっています。
 父はしっかりしているので、母に対して「お前は何回同じことを言うのだ」と母の神経を逆なでするようなことを言ってしまうので、後のフォローがたいへんです。しかし今のところ、「仕方ないのよ。年をとると、ある程度みんな同じことを繰り返すものよ」などと言うと、母も自分では何回も言っているという自覚がなくても、責められているという気がしなくなるためか、「そうです、仕方ないんですよね」と言ってくれています。
ただそういう形で母をフォローした後は、母がトイレに行って席をはずしている間に父に対して、「お母さんもの忘れが多くなったけど仕方がないことだから、お父さんもそういうものかなって割り切って相手してあげようね」と父をフォローするようにしています。
 1998年の12月から父と母と2人で週に2回、母はもう一日プラスで週3回、デイサービスを利用しています。グループホームという形で、少人数制で一戸建てで、自宅と同じような雰囲気のところです。
 我々介護者が思った以上に喜んでくれて、父は何をしてきたかうれしそうに話をしてくれて、世界が広がったという感じです。
 母は以前習っていた革細工の教室と間違えたり、作ってきたバックがあったのに・・・と探し回ってしまうということが多々あります。そんな時は娘さんから電話を入れてもらい、ものの5分も世間話しをしてもらうと、バッグを探していたこともきれいに忘れてしまうので、そういう形で気をそらせています。
 最近症状が進行し、医者に連れて行ったほうがよいということになりましたが、実際にはどこへ連れて行けばいいのか悩み、神経内科を受診したものの、家族を含めてのケアからはほど遠い状況で、それではと老人性痴ほう症の専門の病院を探してみましたが、埼玉県に4つしかない状況です。私は車の運転をしないので、とても連れて行かれる距離ではありません。
 呆け老人をかかえる家族の会などにも入りましたので、そちらからも情報をいただきながら、もう一度改めて受診しようと考えています。
 私としましては、在宅でなるべく現状を維持しながら同居を続けたいと思っています。先生には、今後とも相談にのっていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。
※私からのコメント:メールを拝見して、なんとも実践的で理にかなった介護をされているなと感じました。たいへん役に立つ介護ポイントが、このメールに凝縮されているような気がします。





(5)その他(痴ほう症以外の相談例)
メール1 至急、肺がんの名医教えて!
質問(1999.1.3 ○本○祐):知り合いが人間ドックでひっかかり肺がんみたいです。
 四国でどなたか、名医を紹介願います。助けてください。お願いします。時間がありませんので、できるだけ早くお願いします。   
回答(1999.1.3):メール拝見いたしました。
 「肺がん」の名医に関する情報は、私が「脳」の専門医であるため、最新情報はほとんど掌握しておりません。われわれ医師の場合、自分自身が病気になって専門の医師を捜す際には、各科の知り合いの医師に電話してそこから情報を得ることが多いのが現状です。
 インターネットで検索するのであれば、下記のページで、呼吸器内科・呼吸器外科の医師に質問するほうがよいと思います。各分野の専門医がそろったインターネット上の仮想病院とでもいうようなホームページのうち、最も代表的なものを紹介いたします。
インターネット医科大学
 http://health.nifty.com/inet-idai/index.htm
 (私はインターネット医科大学の「痴ほう症科」教授を担当しています)
 詳細は、【資料】の(3)主な医療相談のサイトをご覧下さい。

メール2 ハワイの現状 
質問&感想(ハワイ州 ホノルル、○間○美 看護婦):初めまして。本日、朝日新聞の投稿記事・取材記事をホームページで読ませていただきました。
 私は、4年前からハワイにおいてナースとして働いており、日本の医療のあり方、医療倫理などについて多く気づいた点がありました。それらは、日本にいたころにはまったく気がつかず、日常を当然のように過ごしていたものでした。一歩外に出て他の国へやってくると、今までの当然が当然でなかったことに驚かされました。笠間さんがテーマとしていらっしゃる「情報公開」もその一つでした。日本では、患者から医師へカルテの内容を質問することなど「御法度」に近いものがあったように記憶しています。こちらで働くようになって間もないころ、カルテを記入中に患者さんから内容を見られていることに抵抗を感じたものでした。また、ある患者さんからは、「これは、なんて書いてあるの?」と聞かれ、「言ってもいいのかなぁ・・・」などと戸惑ってしまったこともありました。個人レベルでは笑い話になりますが、これを日本の医療全体の問題と考えると、とても笑ってはいられない状況だと実感しています。
 これからもときどきこのホームページに寄らせていただきたいと考えています。頑張って下さい。私も朝日新聞にはときどき投稿しているのですが、まだ一度も掲載されたことがありません。私も頑張ります。
回答(1999.1.16):メールありがとうございました。アメリカ本土からは何度かメール頂いたことがありますが、ハワイからは初めてですので感激しています。
 私のカルテ開示に対する取り組みは、以下のファイルに詳細を記していますので、参照いただければ幸いです(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/KaruteKaijiAsahi981210.html)。

メール3 植物状態からの回復の可能性は?
質問( 1999.2.18  ○o○h○n○r○@○k○t○u):子供(小学校四年)が約一年間植物状態でいた場合、たとえ可能性は薄いとしても回復したとしたら、どのくらいまでの回復が期待できるでしょうか? 復学の可能性は? 学校の土手から落ち、石垣で後頭部を打ちました。その時、堀の水も飲んでいます。
ぶしつけな質問ですみません。教えてください。
回答(1999.2.18):植物状態の人が何%戻るか? というデータに関しては、藤田保健衛生大学脳神経外科の神野哲夫前教授が、7.5%と報告しています(「脳と神経」という医学雑誌の47巻7号のp648 1995年発行です)。
 更に詳細な情報に関しては、藤田保健衛生大学脳神経外科のホームページにお問い合わせ下さい。アドレスは、http://www.fujita-hu.ac.jp/~neuron/index.htmlです。

メール4 不老不死について
質問(1999.3.6 r○u○):医学生ではありませんが、不老不死に興味がありいろいろと意見を交換したいのですが、よかったらメールフレンドになりませんか?
 ちなみにDHEAやメラトニンといったホルモンはどのように思われますか?
 お返事をお待ちしています。
回答1(1999.3.6):メールありがとうございます。
 不老不死研究分野で世界の医学者が最も期待していたのは、早老病研究に不老解明の糸口があるのではないかという点でありました。しかし、1999年1月の『毎日新聞』にそれは期待出来ないという記事が載っており、不老不死研究は今のところ有力な糸口がない状態ではないかと感じています。
 メラトニンは体内リズム調節ホルモンであり、不老不死とは関係ないと思います。アメリカでは、あたかも不老不死薬として重宝されているようですが・・。
 以下に毎日新聞記事(1999年1月20日付毎日新聞・夕刊)を記載します。
DNAの傷を治す遺伝子、早老症遺伝子!
 「生物には傷ついた染色体を修復する『ゲノムの守護天使』がいる。新たにその遺伝子二つが見つかりました」。エイジーン研究所(神奈川県鎌倉市)の古市泰宏所長は、DNAの傷を修復する酵素を作る遺伝子を、病気から体を守る「天使」にたとえた。
 この「天使」はこれまで三つ見つかっていた。1996年にアメリカのグループに発見された、ウェルナー症候群の原因遺伝子もその一つだ。ウェルナー症候群は20代の若さで白髪、皮膚のしわ、しゃがれ声などの老化の特徴が現れる奇病。原因遺伝子を古市さんらが解析したところ、遺伝子に異常があると、特定の臓器が十分に機能しなくなることがわかった。ウェルナー症候群では老化の症状はすい臓や精巣、卵巣などに現れ、糖尿病や不妊になる。しかし脳や心臓は若い状態のままだった。見た目の印象から、若いうちに老化現象が現れたと考えられてきたが、早老病といっても、体全体が老化しているわけではなかった。
 これまでウェルナー症候群の患者を調べることで、ヒトの老化現象の仕組みがわかるのではないかと期待されてきた。しかし研究が進むにつれて、個別の病気の研究にはなっても、老化現象の研究につなげるのは難しいとわかり始めた。
回答2(1999.3.11): 不老不死のページhttp://www.inetmie.or.jp/~kasamie/furoufusi.htmlに新しい情報を本日加えましたので、ご参照下さい。

メール5 抗がん剤の効果は?
質問(1999.3.27 ○a○a○i○o ○a○u○a): 初めまして。実は私の母が、腎臓に悪性の腫瘍ができてしまい手術を受けました。腎臓を覆っている膜が強いため、それほど転移しないということで最初はほっとしていたのですが、実際は膜自体が侵されており、顕微鏡サイズではありますががん細胞が現れていると言われました。そして昨日、医者からインターフェロンの投与についての説明がありました。実際のところ30%程度しか効果は期待できないそうです。しかし投与せずに後から後悔するのもいやなので、確かに高額の薬ではありますが、わずかな可能性もあるのならば・・・といろいろ悩んでいます。
 抗がん剤の効果について、教えていただけるとありがたいです。
回答(1999.3.27):腎臓がんに関しては専門外になります。したがって詳しいコメントはできませんが、抗がん剤関係の一般的な情報に関しては、別冊宝島248の「抗ガン剤は効かない!」の17ページ前後を読まれるといいと思います。あまり腎臓がんが抗がん剤で治ったという話は聞きませんが、顕微鏡レベルの話では、がん細胞が減少するというケースは多々あります。
 専門外の分野ですので、やはり最新の情報には乏しいのが現状です。インターネット医科大学には各科のスペシャリストがそろっていますから、一度そちらで質問されることをお勧め致します。

メール6 都内の病院で、頭痛治療でお勧めの病院は? 
質問(1999.2.28 m○m○@○t○i○j○p○n.com):偏頭痛に関しての質問です。
 初めまして。HP拝見いたしました。質問があります。
 私の友人が偏頭痛で悩んでいます。パソコンで長時間の作業を行った後や、疲れがたまると発作をおこすのですが、決まって目がチカチカしてだんだん視界がきかなくなっていって、ひどい頭痛に襲われるのです。ひどい時は、めまいと吐き気がするそうです。
 東京都内で、いい病院があったら、教えてください。どうかよろしくお願いいたします。
回答(1999.3.1):「頭痛大学」というサイト(http://homepage2.nifty.com/uoh/)を管理運営している間中先生という医師の医院は、頭痛外来を実施しています。
 間中先生は、元は脳神経外科教授で、頭痛に関しては日本で最高ランクの名医の一人です。

メール7 健康食品についてどう思いますか?
質問(1999.3.29  ○a○a○i@○e○v.co.jp):貴サイトを拝見いたしました。ホームページの中で、三石巌の書評を書いておられるのを拝見し興味を引きました。
 私は三石巌の孫に当たる者であり、◯◯◯◯という会社にいます。弊社は三石巌の設立した会社であり、三石巌の処方した栄養補完食品を製造販売する会社です。
 そこでご質問なのですが、医者としてこのような栄養補完食品なるものは興味を持たれているのでしょうか?ご見解をお聞かせ願えれば幸いです。
回答(1999.3.30):患者さんの7割(富山医科薬科大学のデータ)は、健康食品を使用しています(多くのかたは医師に内緒で)。したがって有用性がどうかという点ではなく、患者さんから「健康食品」に関して質問された折、「そんなものは信頼しない!」と頭ごなしに叱る医師にはなりたくないと常々考えており、客観的に自分のその健康食品に対する評価を説明したいと考えています。
 私が治療している痴ほう症患者さんにも、卵黄コリン・イチョウの葉エキスなどの健康食品を使っているかたが多数います(ご家族の少しでも病状をよくしたいという切なる願いです)。それに対しても客観的に評価を述べて、「客観的には、このようなデータですが、それでよければ使ったらどうですか」と言っています。
 すでに治療方法が確立された分野においては健康食品が入り込める余地は少ないのかもしれませんが、それでも高脂血症・高血圧などの分野でも、根治薬はないのが現状ですから、まだまだこの健康食品への期待は続くと思います。

メール8 腰痛です。手術すべきでしょうか?
質問(1999.4.3 ○a○s○g○@aol.com):私は32歳の男性です。
 私は毎日一時間ぐらいジョギングをしていますが、一年ほど前から、右のお尻の部分に張りを感じ始め、そのうちに右足の側面に痛みを感じるようになりました。
 整形外科に行き、MRI検査の結果、「椎間板ヘルニア」と診断されました。当初は痛み止めの薬を飲んでいれば、痛みを感じなくてよかったのですが、今では薬を飲んでも2~3時間しか効かなくなりました。
 医者では薬しか出してもらえず、自分で針やお灸、カイロプラクティックに行きましたが、いっこうに改善しません。
 最近、椎間板ヘルニアは手術しなくてもよくなるという内容の本を読み、骨盤調整の整体に通っています。通ってまだ1か月程度ですが、あまり効果がありません。
 このまましばらく続けたほうがいいのか、あるいはもっと他によい治療法があるのか、やはり手術したほうがいいのかぜひ教えていただけないでしょうか。
回答(1999.4.4):メール拝見しました。私と同じような経過ですね。
 私も手術すべきかどうか長い間悩みましたが、結局痛みに耐えかねて手術しました。手術前には医者でありながら多くの民間療法に手を出しました。多くと言っても2つ程度ですが・・・。だれしも手術はしたくないですものね。
 私の場合は、MRIで症状に一致した明確な病変が存在したこと、また保存療法の期間の上限とされる3か月様子を見て症状の改善が得られなかったため、手術を決断しました(私の手術に関する全経過「私の腰痛闘病記」は、以下をご覧下さい。 
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/youtuuTOUBYOU.html
 以下、椎間板ヘルニアに関する一般論を述べます。以前は椎間板ヘルニアの存在が確認されると、かなり積極的に手術が行われていました。しかし最近、腰椎椎間板ヘルニアの自然消失と保存療法の適応を検討したところ、椎間板ヘルニアの約半数は自然吸収(もしくは著明縮小)されることがMRI(断層撮影の検査)で確認されました。
 MRI上消失が確認されるまでの期間は、2~8週(平均3.7か月)でしたが、症状は2~4週間(平均約3週間)で著明に改善しました。MRI上のヘルニアの吸収・消失の%とは別に、全体の約90%の患者は、6週間の間に徐々に症状が改善していきます。したがって手術を必要とするのは、椎間板ヘルニア症状のある患者のうちのわずか10%だけなのです。椎間板ヘルニアで手術が必要な場合は、画像上はっきりした椎間板ヘルニアが存在し、神経の刺激を示す症状も認められ、手術以外の治療を6週間しても改善しなかった場合なのです。
 以上の文章からわかるように、1年前から症状が出現し、しかも徐々に悪化しているのであれば、なんらかの外科的手術を考えたほうがよいのではないかと思います。一度インターネット医科大学
http://health.nifty.com/inet-idai/index.htm)の整形外科の医師にも質問されてはいかがでしょうか。私から紹介されたとメールに書いていただいてけっこうです。
 



【あとがき】
 1998年4月、「従来から行われてきたがん検診のうち、有効性が証明されたのは、大腸がんと子宮頚がんの検診だけであった。胃がん検診についても有効と考えてよさそうであるが、肺がん検診と乳がん検診については有効性の根拠が十分でない」と新聞各社が報道し、多くの医療関係者に衝撃が走りました。 
 検診を受ける前に検診に関する諸情報を知る権利も、今後はたいへん重要なことであると私は考えています。なぜなら検診の精度も実にさまざまです。説明をよく聞いて、納得できる検診を選択することば患者さんの当然の権利だからです。
 「有効」と評価された大腸がん検診を例にあげて説明しましょう。大腸がん検診の精度については、「20~30%の偽陰性(本当は大腸がんが存在するのに「なし」と誤診される率が20~30%もあるという意味で、見逃されそのまま放置されてしまうわけです)と陽性的中率({大腸がん件数/陽性件数}×100)が3~5%と低く見積もられ、検査の限界に関する説明を事前に行うとともに、精度の改善に向けた取り組みが求められる」と報告されています。これを読んだだけではいったいどういう意味なのかまったく理解できないというかたも多いと思いますので、もう少しわかりやすく解説します。
 大腸がん検診は、以前より有用性が報告されていることもあり、非常に多くのかたが受けられる検診の1つです。1次検診は便の検査です。便に血が混じっているかどうかを調べるもので、痛くもなんともない検査ですので1次検診に関しては苦痛は全くありません。
 しかし「もしこの検査で陽性と判断されたらどうなるのか?」ということを実に多くの検診受診者がご存じないのが現状です。
 2次検診は、大腸の造影検査(肛門より造影剤を入れて、大腸を撮影する)あるいは大腸内視鏡検査(内視鏡という管を肛門より入れて大腸を内部より観察する)で、けっこうたいへんな検査です。
 さてどれくらいのかたが2次検査に回るのか? 40歳以上のかた1万人が大腸がん1次検診(便潜血検査)を受けたとしましょう。陰性(正常)と結果が出るのは9500人でひと安心です。残り500人(5%)が陽性(異常あり)と出ます。ではこの500人全てが大腸がん患者さんなのでしょうか? 500人に対して2次検査が行われますが、この結果「まったく異常なし」と出るのが350人、早期大腸がんが5人、進行大腸がんが5人に見つかります。他は痔核や良性疾患が発見されるのです。
 1次検査で見逃しを避けるため、どうしても厳しく基準を設定しておく必要があります。したがって350人が本来必要がない2次検査を受けることになるわけですが、このことを検診受診者は熟知しておく必要があります。
 このような医療を受けるうえでの心がまえも、ホームページなどを通じて今後も積極的に皆さんに情報公開していきたいと考えています。
 アルツハイマー病は、進行するとやがて家族の顔さえわからなくなるというたいへんつらい病気です。本書ではこのつらいアルツハイマー病という病気の全容に迫り、また今たいへん話題を呼んでいるアルツハイマー病早期診断のための新しい試み「もの忘れドック」についても紹介いたしました。アルツハイマー病早期治療の現状の到達点に関しての理解も深めていただけたと思います。
 また、メール医療相談の急速な発展に関しても紹介いたしました。メール医療相談で圧巻だったのは、何といっても1999年3月18日の埼玉県浦和市の5◯才の女性(H◯r◯m◯ ◯o◯h◯d◯)からの電子メール(「インターネットでセカンド・オピニオン」としてご紹介したメール)です。電子メール、ホームページの威力がまざまざと証明されたケースです。私もこの電子メールのやり取りを通じて、セカンド・オピニオンに電子メールがたいへん有用であるということを確信いたしました。今後も、インターネット医療相談サイト等を通じて、医療情報の普及に積極的に寄与したいと考えています。
 脳卒中後遺症の患者さんから外来でときどき質問を受けます。「先生いつになったらこのしびれはとれるのでしょうか?」。入院中に、「発症してから2~3か月後に残っている症状は、後遺症として永続することが多いですよ」と説明しているつもりなのですが説明不足だったのでしょうか。
 患者さんというのは、医師の診察を受けていれば症状はいつか消えると願っている方が多く、そのような期待感がいつしか「治る」という確信へと変わっていくのだと思います。
 医療機関を受診することの大きな目的は、もちろん病気を治すことです。しかし完全に治る病気はごく一部しかないということはあまり知られておりません。治る病気の代表は感染症、外傷です。具体例をあげると結核や骨折などの病気です。『医者いらず食事法』という著書(原崎勇次著、徳間書店発行)のまえがきには以下のような文章があります。『西洋治療医学では、原因がわからないと治療の方針がたたない。しかし現在の病気のうち、原因のわかっているのはわずかに3分の1だから、残り3分の2の病気は治せないことになる』。この文章は決して大袈裟な文章ではありません。診断技術の進歩によって原因はずいぶん解明されてきたものの、やはり依然として治せない病気が多いというのも現状なのです。代表は、生活習慣病(=従来の成人病:高血圧、高脂血症、糖尿病など)です。治療することにより、それが原因で生じる合併症は減らせますが、薬を服用しても病気自体が治るわけではなく、危険性が減るようにコントロールするのが治療の目的なのです。21世紀の医療は治療よりも予防であると言われているゆえんです。
 整形外科領域の病気で、外傷は治る病気の代表格ですが、腰痛などのように慢性化しやすい病気も多々あります。慢性腰痛に対しては、鎮痛剤・牽引などの治療がよく行われます。しかし、慢性腰痛に対する鎮痛剤・牽引の有効性は科学的に証明されておらず(1999年9月号、総合臨床)、科学的根拠に基づく医療(ЕВМ:Evidence-Based Medicine)を遵守するという立場からは、漫然と痛み止めや牽引を続けることは見直す必要があると思います。
 私も腰痛手術の経験があります。激しい痛みは手術で消失しましたが、慢性腰痛、下肢のしびれ感は残存したままです。しかし医師という職業がら、腰の手術というものは概してそういうものであるということを知っておりますので、後遺症が残ってもそのことを受容しやすく、それにはとらわれず前向きに生きております。
 ところで、ヒトの寿命というものは3大死因である、がん・心疾患・脳血管障害が克服されるとどの程度延びると予測されているかご存じですか? 男性で9.38年、女性で8.81年です(1991年8月24日号、日本医事新報P96)。意外に延びないなと感じられた方が多いのではないでしょうか。しかし実際の医療現場では、この8~9年のために多くの医師が汗を流しているのが現状です。
 ヒトに限らず動物の寿命には、それ以上は越えられないという壁があります。この年齢は「最大寿命」といわれています。最大寿命は種によって違いますが、ヒトでは120歳といわれています。しかし、ヒトが120歳まで生きると、全員が痴ほう症になるのではないかといわれています。
 カルテなどの医療情報の開示が普及しない最大の理由は、医学の力の限界を露呈することになるからという指摘もあります。薬で治る病気・治らない病気、手術で改善が期待できる症状・期待しがたい症状を、一度かかりつけの先生に聞いてみてはいかがでしょうか。自分の病気を見つめ直すいい機会になるかもしれません。
 医療現場では今、患者さんが医師を選ぶ時代に入ってきています。最近私の外来を受診した高齢女性が、「一か月通院しても良くならなかったら、医者の腕が悪いか治らない病気なのかもと考えなさいと亡き外科医の父がいつも口を酸っぱくしていっていました。前の医者に1か月通院しましたがよくならないので来ました」と話されたことが強く印象に残っています。
 私も自分の子供たちに、この老婆の考え方は医療機関を選択する上で、そして病気を理解するうえでとても大切だよと教えました。そして、「1か月通院してもよくならなかったら、医者の腕が悪いか治らない病気かも・・と亡き内科医の父にいわれて育ちましたので病院を変えましたというような端的な表現をしても、笑顔で受けとめてくれる医師なら自分の体をまかせてもいいのじゃないか」と子供たちに伝えていきたいと思います。
 9月21日は世界アルツハイマーデーです(1994年制定)。今年の9月21日は、昨年の9月21日より一歩でもアルツハイマー病治療が発展していることを願い、また医療情報の普及のために良質なインターネット医療相談サイトがさらなる発展を遂げていくこと祈って本書を閉じたいと思います。


著者・略歴
 笠間 睦(かさま あつし)45歳。昭和58年、藤田保健衛生大学卒業(医学博士)。元藤田保健衛生大学脳神経外科講師。平成5年~12年、津生協病院内科医長。平成13年1月より、倉本内科病院・副院長。
 脳神経外科専門医で、脳ドックに携わる中で痴ほう症の早期診断・早期治療の必要性を感じ、平成8年7月全国初の「痴呆予防ドック」を開設。
 初期アルツハイマー病の診断・治療等を研究中。インターネット上で痴ほう症の最新情報の普及にも努めています(インターネット医科大学・痴ほう症科教授をつとめている)。
 平成11年から12年にかけて、朝日新聞三重版の医療連載「みんなで考える医療」の執筆を担当。
 主な著書:『ぼける前に読む「ぼけ」の本』(技術評論社)

専門医の新制度─地域医療に負の影響も [医療情報公開]

専門医の新制度─地域医療に負の影響も

 2017年度から医師の専門医制度が変わる。従来の2年間の初期臨床研修に加え、内科や外科といった基本領域から一つを選び、さらに3年間の研修を受ける。この制度変更で特に影響を受けるのは、内科だと思う。これまでは初期臨床研修を修了したあと、そのまま循環器内科や消化器内科の専門性が高い研修を受けていた。だが今後は、その前に内科全般を3年間かけて研修しなければならない。
 果たして、これは国民にとって良い制度なのだろうか。私は、命にかかわる高度医療を受けられない患者が増えてしまうと考えている。心臓血管カテーテルや内視鏡などの高度な医療技術を身につけるには時間がかかるのに、新制度では循環器内科や呼吸器内科の専門的なトレーニングを始めるのは早くても30歳。研修を終えるのは30代半ば以降になる。一方で医師の引退時期は変わらないのだから、スタートが遅れれば実質的に専門医が減ることになる。
 新制度は、女性医師にとってはさらに厳しい。多くの女性医師は家庭と仕事の両立を希望しており、そのためには出産前に研修を終わらせた方が有利だ。しかし、新制度では研修期間が数年間延びてしまう。
 さらに、新制度は地域医療にも大きな打撃を与える可能性がある。これまで主に大学病院は研究、国公立・民間病院が地域医療を担い、若手医師の多くは後者での研修を希望してきた。ところが新制度では、大学病院などでしか治療していないようなまれな疾患も、全員が経験するよう求められている。
 そのため、民間病院の多くは大学病院と連携することになり、研修を受ける医師は大学病院でも一定期間の勤務を求められる。逆に、大学病院からも地域の病院に医師が派遣されることになるが、地域の病院に直接就職する医師と、大学病院から短期で派遣される医師に同じことは期待できない。大学病院の医師は「お客様」として経験を積むために勤務するのであり、地域の病院の医療スタッフを教育したり、退院した患者を外来で長期間にわたってフォローしたりする役割は担えず、地域医療への影響は避けられない。
 高齢化が進む日本では高血圧、糖尿病、骨粗鬆症など複数の疾病がある患者が増え、在宅医療や地域医療の分野では医師に幅広い知識が求められる。専門医の質も高める必要があるという、新制度導入のお題目は立派だ。だが、急激な全国一律の制度変更は、社会に大きな影響を与えるだろう。本来、その負の側面まで社会に情報を提供し、国民的な合意を形成すべきだ。もう少し慎重な議論が必要だと思う。

 ◆投稿は手紙かsiten@asahi.comへ。電子メディアにも掲載します。
 【2016年3月10日付朝日新聞・オピニオン─私の視点 著/医師・森田 麻里子】


私の感想:
> 本来、その負の側面まで社会に情報を提供し、国民的な合意を形成すべきだ。

 まったく同感ですよね。
 私は長年にわたって初期臨床研修の現場を離れているため、「大学病院の医師は『お客様』として経験を積むために勤務するのであり、地域の病院の医療スタッフを教育したり、退院した患者を外来で長期間にわたってフォローしたりする役割は担えず、地域医療への影響は避けられない。」という負の側面には全く考えが及びませんでした。
 勉強になりました。

AskDoctors(アスクドクターズ) メルクマニュアル・家庭版 [医療情報公開]

アスクドクターズ ─ トゥレット症候群  メルクマニュアル・家庭版

 「トゥレット症候群」に関する質問もありましたので、専門外にはなりますが回答しました。
 https://askdoctors.m3.com/topics?message_id=15371250

 私は脳神経外科医師ですので専門外になりますが、参考になりましたら幸いです。

 トゥレット症候群に限らず、疾患に関する基礎知識は、メルクマニュアル・家庭版にて情報入手することをお勧めします。
 因みに、トゥレット症候群に関する記述は以下です。
 http://merckmanuals.jp/home/%E8%84%B3%E3%80%81%E8%84%8A%E9%AB%84%E3%80%81%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%81%8B%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF.html

「チック症情報室」
 http://kaizen22.com/
 上記サイトには、「トゥレット症候群ガイド」(http://toluretto.kaizen22.com/)というコーナーもあり、そこにはケアに関する記述もあります。
 結論的には、「周りが受け入れて過ごしやすい環境を整えてあげることが大切」ということになりますね。
1)チックは意識的に出しているものではないので、繰り返し注意しても改善しませんし、むしろストレスを与えて悪化してしまう恐れがあります。
2)対処法としては、チック・トゥレットがどういったものなのかをしっかり理解するとともに、本人がすごしやすいような環境を作ってあげることです。
3)そのためには、家族間はもちろん周りの友達や親に対して理解を求めたり、幼稚園や小学校の先生と連携することが重要と言えます。

 ですから、勇気がいることにはなりますが、新しい環境の周囲の方に、「トゥレット症候群」であることをカミングアウトし、理解してもらい、ご本人が前向きに生きることが大切だと思います。


P.S.
 「メルクマニュアル医学百科・家庭版(日本語版)」(http://merckmanuals.jp/home/index.html)は、世界で最も信頼されている医学書の一つである医療専門家向けの「メルクマニュアル」をベースに一般の方向けに書き下ろされたものであり、米国で出版された原書(英語版)を翻訳したものです。

AskDoctors(アスクドクターズ)
 https://askdoctors.m3.com/
 有料サイトにはなりますが、医師に質問でき回答が得られますので有用なサイトです。

歯の矯正、じっくり相談 [医療情報公開]

歯の矯正、じっくり相談
 7歳前後に検診
 「早い=効果」疑問
 第2の意見活用

 矯正歯科専門の開業医でつくる日本臨床矯正歯科医会(東京豊島)は昨年1月、18歳以下の子どもの患者について調査した。
 その結果、2014年中に約6割の医院が他院からの転院を受け入れたり相談を受けたりしていた。うち約56%の患者で「不適切な治療があった」と回答した。
 例えば矯正の診断・治療には顔やあごの骨の状態を正確に知る必要がある。ところが重要な「セファロ」というエックス線検査をしていなかった例が約4割あった。患者が理解できる治療方針をしっかり説明をしていなかったのは約7割にのぼった。
 矯正歯科選びのポイントとして、同会はセファロ検査の有無のほか「転院する場合の手続きや、今後かかる治療費について事前に説明する」「常勤の矯正歯科医がいる」など表にあげたポイントを確認することを勧める。
 歯の矯正20160308.jpg
 富永雪穂会長は「矯正治療は緊急性が高いものではない。矯正医を途中で変えるのはとても大変。セカンドオピニオンなどを活用しながら納得のうえで治療を始めることが大事」と話す。
 【2016年3月8日付日本経済新聞・くらし】

メルクマニュアル [医療情報公開]

 ネット上には玉石混交の医療情報が溢れています。情報が氾濫しており信頼できるサイトかどうかを判断することは素人には困難であるのが現状です。
 莫大な医療情報収集から入ってしまうと、「医療情報の海に溺れる」ことにもなりかねません。
 そんな時に私のお勧めは、先ずは「メルクマニュアル」の活用です。
 メルクマニュアルは、世界の医師のバイブルとして治療に役立てられている本です。しかも幸いにして、無料で閲覧することができます。ただ利用に際しては、「注意事項」(http://merckmanual.jp/mmhe2j/about/front/note.html)はご一読下さいね。
 メルクマニュアル家庭版は、医師向けの「メルクマニュアル」をベースに、分かりやすく書き下ろした家庭向けの医学書です。メルクマニュアル医学百科家庭版のトップページ(↓)において、「検索」のところへ調べたい疾患名などを入力すると、種々の情報を入手することができますのでご活用下さい。
 http://www.merckmanuals.jp/home/index.html

P.S.
 メルクマニュアルにおいて、「肉離れ」をキーワードとして検索してみますと以下の情報などが得られます。
 「運動プログラムを最も安全に始める方法は、選択した運動やスポーツを低い強度で行うことです。低い強度で始めると、適切な筋肉協調を習得する時間的な余裕ができ、トレーニングの強度を上げた時に、けがを予防するのに役立ちます。ひどい肉離れなどの予防にもつながります。手足が痛み出したり、体が重くなってきたら運動をやめます。運動の数分後に筋肉が痛み出すようであれば、それ以上続けてはいけません。フィットネスが増すにつれ、筋肉に痛みを感じることなしに、より長時間運動できるようになります。しかし、筋肉を強く大きくするためには、ある程度の苦しさはつきものです。フィットネスの目標を達成するための運動量(強さや持続時間)は、必要に応じて徐々に増やしていくことができます。」
 「ウオーミングアップ:ウオーミングアップとは文字通り、筋肉を温めるという意味です。筋肉は温まると柔軟になるため、収縮に時間がかかる冷えた筋肉に比べて、肉離れが起こりにくくなります。軽い運動(たとえば、ランニングよりもウオーキング、あるいは軽い重量の使用)から始めると血流量が増え、筋肉の温度が上昇します。したがって、ウオーミングアップは、けがの予防に役立ちます。筋肉の温度を上げない運動には、このような有益性はありません。またウオーミングアップは、より強度の高い運動に対する心の準備としても役立つことから、自信や意欲を高め、より質の高い運動に必要な心と筋肉のつながりを向上させます。」

診療明細書理解へ パンフレット配布 [医療情報公開]

診療明細書理解へパンフレット配布.jpg
 2010年3月10日付の中日新聞です。

 明細書の読み解き方は下記をご参照下さいね。

診療明細書.JPG

アスパラクラブ & アピタル [医療情報公開]

アスパラ・アピタル.jpg

 2010年9月28日~2012年9月19日まで、朝日新聞社・アスパラクラブに延べ530回にわたり寄稿しました(「ひょっとして認知症?─Part1」)。
 2012年12月4日~2015年3月29日まで、朝日新聞社・アピタルに延べ807回にわたり寄稿しました(「ひょっとして認知症?─Part2」)。
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