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D7 認知症当事者からの発信   当事者 認知症 Run伴 認知症ネットワークフォーラム in 三重  [認知症]

RUN Tomo-rrow MIE ─ 「D7~認知症当事者からの発信~」
 https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1722290838045231&id=1638195443121438

認知症ネットワークフォーラム in 三重    「D7~認知症当事者からの発信~」
D7パンフレット.JPG
日 時:2016年7月9日(土)
 開場13:00 開演13:30 終了15:45
場 所:アスト津4階アストホール(多目的ホール)
 〒514-0009 三重県津市羽所町700 
 TEL:059-222-2525(津駅下車徒歩2分)
定員
 定員270名【先着順】
内容
 D7~認知症当事者からの発信~
 ①RUN伴のご紹介
 ②認知症当事者7名のパネリストによる討議
 *座長:樋口直美さん(座長アシスタント:笠間 睦)
 *登壇者:佐藤雅彦さん(埼玉)、佐野光孝さん(静岡県富士宮市)、山田真由美さん(愛知)、中川誠治さん(三重)、曽根勝一道さん(大阪)、橋本佐千子さん(奈良)、井之坂友廣さん(大阪)

主催:認知症フレンドシップクラブ、RUN伴2016関西実行委員会
後援:三重県、津市


※たくさんの思い出をありがとう。感謝!!
①D7前夜祭
 坊主バーでウッチーこと竹内さんと再会
D7前夜祭.JPG
②D7の朝
 ウッチー、榊原白鳳病院3階病棟を視察 → その後、榊原温泉へ
 D7の朝.JPG

 マル秘!=日本三大名湯“榊原温泉”にもつかりました。
 榊原温泉.JPG

③D7開演直前
 総合司会を務められた樋口直美さんと記念撮影しました
D7司会者.JPG

D7の講演会の様子(動画
https://note.mu/hiiguchinaomi/n/nf9d1494604ae
 撮影者:笠間 睦
②こちらは、主催者撮影の動画です(音質は、こちらの方がいいです。RUN伴のPV付)。
 https://www.youtube.com/watch?v=m36RncncPy4

④閉幕
集合写真.JPG
⑤D7・2次会
 バカ騒ぎしました! とてつもない盛り上がり!!
 D7二次会.JPG
⑥2016年7月11日付中日新聞で報道されました。
 D7中日新聞記事.JPG

P.S.
 2016年7月9日に津市でのD7を企画運営して下さった佐藤博美さんの息子さんの個展です。
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1133164990111227&set=a.341954965898904.80363.100002532109112&type=3&theater

睡眠障害─まとめ [睡眠障害]

「腰椎椎間板ヘルニアはすべて悪である」と思うな!
 私は、うつ病後に残存しておりました「入眠障害」が腰椎椎間板ヘルニアで治りました。まあ偶然の産物ではあるのですが・・。
 痛みが強烈で夜中に寝返りしたときなどに目が覚めてしまうため、入眠障害(←うつ病による)+中途覚醒(←腰椎椎間板ヘルニアによる)という状態に陥り、あまりの眠気に昼間、国道を走っていて信号待ちの時に熟睡してしまい・・。本当にご迷惑をおかけいたしました。
 ただ、その強烈な眠気は私を「睡眠障害」から解放してくれました。
 まさに災い転じて福となる!でした。

詳細は↓
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-04-05-6


その睡眠薬必要ですか?
 【2016年4月10日付日本経済新聞・日曜に考える】

私の感想:
 私がうつ病を患い睡眠障害に陥った際に服薬していたのは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のマイスリーです。正確には、マイスリーの後発品を服薬しておりました。
 抗うつ薬は私の場合効果があまり感じられませんでしたが、睡眠薬は効果を実感できましたので依存症になってしまいました。飲まないと眠れない!
 うつ病が治っても、入眠障害は続いており「一生の付き合いかな・・」と諦めかけていたとき救ってくれたのが腰部椎間板ヘルニアの痛みによる中途覚醒でしたね。

詳細は↓
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-04-11-3


https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/585984924904524
私がうつ病を患った理由

詳細は↓
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-05-18-1


……2013年1月11日 ぶり返し

 1月9日から以前の不調をぶり返している。昨日は、殺される悪夢を見て、助けてと叫んだ。夜は寝付けず、夜中に3回ほど目覚め、早朝覚醒。
 9日から急に体重が減っている。9月の体調不良と体重減少も同時に起こっている。
 【樋口直美:私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活. ブックマン社, 東京, 2015, p63】

私の感想:
 眠れないのは本当に辛いです。
 私も、うつ病は治ったのに「不眠症」からは解放されず、マイスリー依存症になっておりました。
 その依存症から私を救ってくれたのは、何度もFacebookで書きましたように、腰部椎間板ヘルニアの発症でした。これもあり得ない展開でしたね。
 あまりの痛みに、マイスリーが効かなくなり、極度の睡眠不足になり、限界を超えたときにそれは起きました。国道の信号待ちで瞬時に眠ってしまうというあり得ない状況! これは皆さんから批判されましたね! まあ当然ですよね。
 しかし、この“どこでも眠れる病”が私の睡眠リズムさえもリセットしてしまい、私は睡眠障害から解放されました。

 まさに どこの教科書にも書かれていない睡眠障害治療法です
 しかし、この治療を行うためには腰部ヘルニアを起こし、しかも手術せずに痛みに耐える必要がありますので、試そうと思って試せる治療法じゃないんですよね・・。ラッキーというか表現がむつかしい・・。

詳細は↓
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/591608627675487?comment_id=591614917674858¬if_t=feed_comment¬if_id=1464729529990057


睡眠障害からの脱却に関して

刺激制御療法
1 眠くなったときのみ寝床へ行く
2 寝床で本を読んだり、テレビを観たりしない
3 眠れなければ寝床から出る
4 毎朝同じ時間に起きる(休日も)
5 昼寝はしない(ただし、健康な人は昼寝して構わない)

詳細は↓
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-06-01


パーキンソン病における不眠の原因と治療法

 不眠を含む睡眠障害は、パーキンソン病の非運動障害として、患者のQOLにも大きく影響します。パーキンソン病では入眠までの時間が延長し,総睡眠時間が短縮して睡眠効率が低下し,睡眠が分断化することから,不眠の訴えは高頻度にみられます。その原因としては,睡眠・覚醒機構に関連するニューロンの変性や,パーキンソン病症状に関連する睡眠の障害,抑うつや幻覚・妄想に伴う不眠,パーキンソン病に合併した睡眠障害による不眠があり,それぞれ対処法が異なります。
 全般的な不眠治療としては,まず睡眠環境・睡眠衛生改善を中心とした非薬物治療を行います。良好な夜間の睡眠には,日中の一定以上の覚醒と活動が必要であり(恒常性維持機構),日中は寝床で過ごさず十分な活動をするよう心がけ,特に長時間の昼寝を避けることが重要です。昼寝で深い睡眠をとらないようにして,長くても30分以内にとどめ,特に夕方以降には寝ないように注意します。また,睡眠覚醒のリズムを一定に保つことも重要であり(体内時計機構),就床・起床時刻はできるだけ毎日そろえ,朝~午前中には十分な光を浴びるようにします。日光の入る窓辺で過ごしたり,朝に散歩をするのも有効です。また,年齢とともに睡眠時間は減少する傾向があり,長時間寝床で過ごしすぎると,入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒を増強し,熟眠感が得られない原因となります。薬物治療としては不眠症治療薬を用いますが,ふらつき・転倒リスクや持ち越し効果を考慮する必要があり,持続時間の短い非ベンゾジアゼピン系薬剤や,筋弛緩作用のないメラトニン受容体アゴニストやオレキシン受容体拮抗薬から処方を開始し,同系統の多剤併用は避けるようにします。(以下省略)
 (回答者:岡 靖哲 愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センター長)
 【2016.7.16日号日本医事新報No.4812・質疑応答 プロからプロへ p58】


名大など「オレキシン」役割解明
 脳中枢で痛み止め
 【2016年7月29日付中日新聞・総合】

私の感想:
 DLBの「認知機能(注意・集中)の変動」の要因に、ドーパミンじゃなくってオレキシンが関与してるってことはまさかないよね・・。

詳細は↓
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/616630618506621


繰り返す質問(Repetitive questioning;Godot症候群) [アルツハイマー病]

認知症、ケンカの理由~異なる事実~
 https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160916-OYTET50014/?catname=column_kinoshita%3Ffrom%3Dfb

 「おそらく、二通りの解決方法があります。ただし、効率的な選択肢ではありません。

 その1.まず、なぜその事実争いが起きたのか。なぜ、泰子さんが何度も曜日を夫に尋ねるのか、に着目します。

 おそらく、いつも曜日を気にするということは、なにか曜日にちなんだ用事が泰子さんの生活のリズムを作っている可能性があります。遅刻できないし、うっかり休むこともできない。聞いてみると、やはり趣味のサークルが週2回月、木曜日にある、といいます。緊張と楽しみが折り重なった気持ちなのでしょう。泰子さんには大切なイベント。今日の曜日がわからないと、不安になるのも当たり前です。別の手段で、大きな日付と曜日付き電子時計が部屋の真ん中にあれば、夫に繰り返し曜日を繰り返し尋ねることはなくなります。洞察が正しければ。」


繰り返す質問(Repetitive questioning;Godot症候群)

 繰り返す質問(Repetitive questioning;Godot症候群)への対応に関してはアピタルにおいても二度ほどご紹介したことがあります。
 不安への対応が基本となりますね。
 それと、認知症の人は「今」この時を刹那に生きているので、「先の話をすることは絶対に控えること!」という留意点でしょうか。
 

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第191回『認知症と長寿社会(笑顔のままで)─介護者の介護負担をどうみるか』(2013年7月9日公開)
 2011年1月30日付朝日新聞朝刊の「読書」欄において、信濃毎日新聞取材班が77回にわたって連載したルポルタージュをまとめた一冊『認知症と長寿社会─笑顔のままで』(講談社現代新書)が紹介されました。
 「介護者の介護負担」を評価するには、数字化しないと客観的に比較できないため、学術的にはZaritなどの指標(メモ1参照)が用いられます。しかし、現場で起きている介護者の苦悩を正確に捉えることはなかなか困難です。信濃毎日新聞取材班のルポ記事は、その捉えにくい部分を見事に表現しています。

メモ1:介護者の介護負担を評価する尺度
 認知症患者さんの介護者の介護負担を評価する尺度としては、ZaritらによるZarit Caregiver Burden Interview(ZBI)が代表的な指標です。
 原法は29項目の質問から構成されています。神戸学院大学大学院人文学部人間心理学科の博野信次教授(神経内科医)らは22項目からなる日本語短縮版を作成し、日本語版ZBIが介護者のburden(負担)の評価に有用であったことを報告しています。
 22項目の質問に関して、介護者の反応が5段階(0~4点)で評価され、点数が高いほど負担感が強いということになります。
 今までの研究では、妄想・幻覚、不安・うつ、攻撃的行動がburdenに深く関連し、見当識障害、記憶障害は関連しないことなどが報告されています(博野信次:痴呆症患者の介護者の負担─日本語版ZBIによる検討─ 脳神経 Vol.50 561-567 1998)。

 なお、不安を基盤として強迫症状が出現することもあります。そのことを非常に興味深く紹介している記述がありますので以下にご紹介しましょう(一部改変)。
 「アルツハイマー病(AD)における精神症状・行動異常の中で頻度が高いのは、抑うつとアパシーだが、その次に多いのが不安である。
 認知症に伴う不安症状の現れ方はさまざまであり、パニック障害、身体表現性障害(心気症など)は、臨床場面においてしばしば遭遇する。その他に、予定が入っていることを何度も繰り返して聞く『Godot症候群』や、独りで残されたときに何度も電話をかけて家人を困らせるような状態もよくみられる。これらの状態は家人の介護困難感を増大させる大きな要因となりうる。軽度認知障害レベルの症例でGodot症候群を伴うと、ADへの移行率が高いとの報告がある。一方で、このような不安症状は、認知機能が中等度以上に低下するにつれて次第に軽減ないし、消退していくようである。」(編集/朝田 隆 著者/服部英幸:誤診症例から学ぶ 認知症とその他の疾患の鑑別. 医学書院, 東京, 2013, p93)

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第743回『「つきまとい(シャドーイング)」への対応─作業療法もケアの一つ』(2015年1月24日公開)
 さて、話題を再び「つきまとい」に戻しましょう。
 独立行政法人国立長寿医療研究センターの服部英幸・行動心理療法部長は、「まとわりつき(つきまとい)の出現頻度は、軽度から中等度の認知症患者のうち67%に認められたという報告がある。不安を和らげる接し方の工夫をしたり、他の興味ある事柄(作業療法・レクリエーションなど)に参加してもらう」(服部英幸編集:BPSD初期対応ガイドライン ライフ・サイエンス, 東京, 2012, pp71-72,133)ことなどが直ちにできるケアであると報告しています。作業療法は、「つきまとい」だけではなく、繰り返す質問(Repetitive questioning;Godot症候群)にも効果があることが報告されております。
 服部英幸先生は、2012年10月4日に三重県津市に講演(第9回中勢認知症集談会)に来て下さいました。
 服部英幸先生が編集された著書『BPSD初期対応ガイドライン』においては、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)に関して対応方法などが具体的に紹介されております。
 服部英幸先生は、著書のなかで、「行動異常」に対しては薬剤の効果が乏しいと述べております。以下にその部分をご紹介します。
 「BPSDはその名の通り精神症状と行動異常の2つの状態が混在している。この2つは単独で出現することも、複数が同時に出現することもある。精神症状にはみえないものがみえる、聞こえないはずのものが聞こえる、検査で異常がみつからない身体の痛みや異常な感覚などの幻覚や、真実でないことを真実であると思い込み、説得に応じない妄想などが含まれている。そのほかにうつ気分、易怒性など気分の変調も精神症状である。一方の行動異常には徘徊、常同行為のほかに、物をあてもなく集める濫集(らんしゅう)、便をつかむ弄便などが含まれている。この2つの違いは対応にも関連している。一般に、精神症状に属するものは薬物の効果が期待できるが、行動異常では効果が乏しく、非薬物療法が中心になる。」(服部英幸:BPSD初期対応ガイドライン ライフ・サイエンス, 東京, 2012, p28)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第139回『認知症のケア 家族でもフルネームで呼んでみよう』(2013年5月13日公開)
 認知症ケアアドバイザーの五島シズさん(全国高齢者ケア協会監事、認知症介護研究・研修東京センター客員上級研究員)が2013年1月10日に来津され、第10回中勢認知症集談会において、「身近な人に認知症が始まったら」というタイトルでご講演されました。
 講演の中で紹介された、「好ましい接し方」というスライドは印象的な内容でした。
 五島シズさんは、「好ましい接し方」として10のポイントを挙げられておりました。
1 自尊心を傷つけない
2 近づいて話す
3 情報は簡潔に伝える
4 納得のいくように話す
5 わかる言葉を話す(方言などを利用する)
6 相手の話に合わせる
7 感情に働きかける
8 フルネームで呼ぶ
9 現実を知らせる
10 昔話をする
 2の「近づいて話す」に関しては、アイコンタクトは大切だが、排泄のケアをするときには、羞恥心に配慮し、目を見ないほうがよいと説明されておりました。そして、女性の排泄介助の際には、エプロンをするなどして覆ってあげると恥ずかしがらず排尿しやすくなると説明されておりました。
 8の「フルネームで呼ぶ」に関連して、子どもの前で呼び合っていた「お父さん」「お母さん」という呼び方で話し掛けると、話しかけた相手が配偶者であっても、そうだと気づかないケースがあります。ところが、きちんとフルネームで呼びかけると、相手が妻だと(夫だと)分かってくれることはしばしばありますよとお話されておりました。
 そして、認知症の人は「今」この時を刹那に生きているので、「先の話をすることは絶対に控えること!」とお話されました。例えば、次の日曜日に本人が会うのを楽しみに待っている娘さんが来る予定になっていた場合に、喜ばせようと思って「今度の日曜日に娘さんが来ますからね」と伝えてしまうと、急に玄関の方を気にするようになり、部屋と玄関を行き来しソワソワして落ち着かなくなってしまい認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)が誘発されてしまうといったケースは実に多いですから注意して下さいねと強調されておりました。
 さて皆さん、10の昔話を聞く際に、決して言ってはいけない2つの禁句があるのですがそれが何か分かりますか?
 それは、「今ならこうよね」「私ならこうするわ」という反応なのです。この2つの言葉は、認知症の人が昔話に浸っている状況を現実へと連れ戻し、認知症の人が主役であるという一番重要なポイントへの配慮を欠いた発言であると五島シズさんは述べておられました。

認知症患者への告知および「人生の最終段階における医療」に関する意識調査・第二報 [認知症の告知]

認知症患者への告知および「人生の最終段階における医療」に関する意識調査・第二報
  榊原白鳳病院  笠間 睦

 『認知症サミット in Mie』のポスターセッションにて報告予定
 2016.10.15(土曜) 13:10~14:00の4分間
 四日市都ホテル

 4分間=約1,200字
 ※現状、まだ2700文字ありますのでこれからさらに絞り込みます。

【前置き】
 私は12年前に(2004年7~8月)、アルツハイマー病患者さんの介護者39名を対象として告知に関する意識調査を実施しております。
 結果は39名中34名の方が、「自分自身が認知症になった場合に告知を希望する」と回答しました。しかし、患者さん本人に告知されているケースは34名中8名に過ぎませんでした。この数字は、当時の朝日新聞・生活面において紹介されました。
 この調査では、もう1点注目すべき結果が出ています。
 告知を希望した34名(常に告知を希望する:27名、初期の場合だけ告知を希望する:7名)の方には、告知を希望する理由をお伺いしております。この調査結果は、2010年4月17日にグランドプリンスホテル新高輪において開催されましたアルツハイマー病研究会第11回学術シンポジウムの「認知症の経済被害、損失とその支援を考える」というセッションにおいて住田裕子弁護士が紹介して下さいました(住田裕子:認知症の告知の問題. 老年精神医学雑誌 Vol.22 138-142 2011)。
 では告知を希望する理由っていったいどのような理由だったのでしょうか。

 告知希望者34名が告知を希望する理由(複数選択可)
1 純粋に病名は正しく知りたいから:9名
2 判断力が残されているうちに遺書など残したい:12名
3 進行性に悪化するだけなら、自分の最期を考えたいので:3名
4 その他(自由記載):0名
5 1&2:6名
6 1&3:1名
7 1&2&3:3名

 「告知を希望する理由」として、実に34名中7名(20.6%)の方は、「進行性に悪化するだけなら、自分の最期を考えたいので」という3番の回答を選択しておりますね。この20.6%という数字は、アルツハイマー病患者さんの介護家族の“辛さ”を反映する数字なのかも知れません。いずれにせよ私は、この数字を知り、その後長く、告知に積極的に踏み出せなくなってしまいました


【目的・方法】
 認知症の告知に関しては、海外の報告においても賛否両論で意見が分かれている現状が報告されています。
 「ケンブリッジ市の一般開業医に質問紙法で実施した認知症および末期がん患者への告知状況に関する調査では、末期がん患者に対し『必ず』告知しているが27.0%、『しばしば』告知しているが67.6%に対して、認知症患者には『必ず』告知しているが5.0%、『しばしば』告知しているが34.2%であり、認知症患者への告知は、がん患者への告知と比較して開業医が躊跨している現状です。

 さて、終末期医療に本人の意向を反映することはとても重要な課題だと思います。ただ、それには「告知」が避けて通れない課題となります。
 しかしながら、告知に積極的な医師はまだまだ少なく(=首都大学東京の繁田雅弘先生の調査報告では、「本人に告げられなかった(告知を受けなかった)」のは過半数の53.9%です)、ましてや認知症初期の段階で終末期医療に関して説明している医師は極めて例外的です。繁田先生の調査報告(http://www.repository.lib.tmu.ac.jp/dspace/bitstream/10748/4316/14/10280-011.pdf)によりますと、告知に際して終末期医療に関する説明(=家族に対して)がされているのは11.5%に過ぎません。
 私は2年前に、アルツハイマー病の通院患者さん全員に対して「マイルドな告知」を実施し、終末期医療に対する意識調査を実施しました。調査の結果、ご本人が終末期医療として経腸栄養を希望したのは皆無であったことを、一昨年の第33回日本認知症学会学術集会において第一報として報告(http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-03-06-1)し、神崎恒一先生が編集をされました文光堂の『入院高齢者診療マニュアル』に寄稿しております。
 は当時の私は、“うつ病”を患っており、この論文は脳が機能しない状態で必死に書き上げた論文なのです。  認知症の人ときちんと正面から向き合うことができずうつ病に陥っていった私が気力を取り戻せたのは、告知問題を通して認知症の人と正面から向き合う姿勢を徐々に取り戻していったからでもあります。


【方法および結果 1】
 本年2月~4月、第一報の対象者の中からアルツハイマー病患者を抽出し再調査を実施し、意向に変化があるのかどうかを調べました。
 本人が希望する終末期医療の意向は、2年前と大きく変化することはなく(2016年5月23日付朝日新聞フォーラム)、前回調査と同様、本人が経腸栄養を希望したケースは皆無でした。


【考察 1】
 再調査の意向に大きな変化がなかったことより、認知機能の低下が進んでも、人間としてのコア(核)となる部分には変化が乏しいのではないかと推察されました。

【方法および結果 2】
 本年4月18日より6月15日の期間、榊原白鳳病院もの忘れ外来において、認知症の新患全例を対象として、告知に関する意向調査を実施しました。
 告知希望者に対しては、予後についても知りたいかを尋ね、予後告知希望者に対しては、マイルドな告知に基づき、終末期医療に対する意向調査も実施しました。
 上記期間におけるもの忘れ外来の新患数は14名でした。「異常なし」と「妄想性障害」の2名を除く12名を今回の集計対象としました。
 12名の内訳は、半数の6例が改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)21点以上であった。
 診断は、アルツハイマー型認知症8例、血管性認知症2例、レビー小体型認知症1例、その他1例であった。

 本人が告知を希望したのは6名(半数)であり、6名中3名が予後告知を望みました。
 その3名を対象として、経口摂取が困難となった場合に望む医療を確認すると、以下の回答であった。
 末梢点滴:      1例
 医師に任せる:    1例
 その他:       1例
  ※その他:「食べられなくなった時のことを考えたことがない」

【考察 2】
 比較的初期の段階において、終末期医療で実施される種々の治療の長所・短所について説明すると、経腸栄養を希望したケースはなかった


【結語】
 新オレンジプランにおいては、「人生の最終段階を支える医療・介護等の連携」を新たに設けました。ここでは延命処置などについて、多職種協働によりあらかじめ本人の意思決定の支援を行う取り組みを推進することを掲げています。
 私は、それを実現するためには、告知問題が避けては通れない課題と考えております。
 今後も、本人と家族が終末期医療について話し合うためのきっかけづくりになるよう、早期の段階での意向調査と啓蒙活動に積極的に取り組んでいく所存です。

高次脳機能障害 [高次脳機能障害]

高次脳機能障害

朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第72回『シリーズ・高次脳機能障害を学ぶ その1』
 高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)という言葉を聞いてイメージが湧きますか?
 あまり聞き慣れない言葉ですよね。

 2011年4月15日付朝日新聞・生活に、『失語症の被災者 ケアを』というタイトルの記事が紹介されました。
 実は、この「失語症」は、高次脳機能障害の代表的な症状の一つなのです。

 高次脳機能障害に関しては、なかなか平易に説明するのが難しい分野ですので、専門的な用語がどうしても多くなってしまいますが、認知症の症候学を勉強するうえでも大切な基礎知識となりますので、断片的で結構ですので頭の片隅に残して頂ければ幸いです。

 高次脳機能障害とは、脳損傷に起因する認知障害全般を示すものであり、脳の損傷部位によって症状は異なります。具体的な症状としては、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、失語症などがあります。
 発症原因としては、脳血管障害(主として脳出血と脳梗塞)と脳外傷が主な疾患で、脳外傷としては交通事故によるものが最多です。脳腫瘍によって起きる場合もあります。

 症状の中でいくつかのものは既に説明しておりますが覚えておられますか?
 シリーズ第5回の「萎縮がないのにアルツハイマー病?」においてアルツハイマー病(AD)の診断基準を説明した際にお話しております。良い機会ですから復習しておきましょうね。
 ADの診断基準では、記憶障害以外に、4つの認知障害(失語、失行、失認、実行機能の障害)のうち少なくとも1つが存在することが診断の基準になっています。記憶障害だけでは、アルツハイマー病とは診断されないわけです。
 失語とは言語障害、失行とは運動機能は正常でも運動を遂行できないこと、失認とは感覚機能は正常でも対象の認識等ができないこと、実行機能障害(遂行機能障害)とは、作業を順序立てて効率よく行うことができなくなることでしたね。
 アルツハイマー病においては、「健忘失語」という、物の名前が出てこないというタイプの失語が多いです。
 実行機能(遂行機能)とは、「目標設定」、「計画立案」、「目標に向けての計画の実行」、「効果的行動」からなり、これらの機能が障害される遂行機能障害においては、目的をもった行動や動作の遂行が困難な状態となります。平たく言えば、料理・掃除・仕事・後片付けなどの「段取り」が悪くなります。テレビのリモコンやタイマーのスイッチが取り扱えなくなるなどの道具使用障害も遂行機能に関連した障害です。
 『バナナ・レディ(前頭側頭型認知症をめぐる19のエピソード)』(Andrew Kertesz著 河村満・監訳 医学書院発行, 東京, 2010)という著書のエピソード16では、遂行機能(エグゼクティブ・ファンクション)に関して言及されております。
 「行動を『遂行』するのに必須の脳内の要素は『ワーキングメモリ』であり、言い換えれば、適切な行動を決定するために、直前に起こったことを頭にとどめつつ過去の経験と照らし合わせる過程である。遂行機能はアルツハイマー病や脳卒中など、前頭側頭型認知症(FTD)以外にも多くの神経疾患や精神疾患で障害される。また、健常者でも加齢に伴い遂行機能は低下する。遂行機能の障害は特異性は低くても、FTDの初期にも感度が高く、最初に現れる症状となりうる。」
 『バナナ・レディ』に関しては、後日詳しくご紹介致します。

 遂行機能の障害って簡単に分かるの?

 遂行機能(前頭葉機能)を特別な道具などは使用せずにベッドサイドで簡単に評価するためのスクリーニング検査として、ファブ(Frontal Assessment Battery at bedside;FAB)という検査があります。
 18点満点で、16点以下で障害が疑われます。
 FABのカットオフ値(疾患の有無を決定するための値)は、報告によって若干異なります。前島らは12/13点としています(前島伸一郎:高齢者におけるFABの臨床的意義について. 脳神経 Vol.58 145-149 2006)。しかし前頭側頭型認知症(FTD)の診断においては、FABのカットオフ値は9/10点と厳しく設定すべきという意見もあります。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第73回『シリーズ・高次脳機能障害を学ぶ その2』
 高次脳機能障害の症状で頻度が高い症状は、記憶障害、人格情動障害(感情障害とも言い、行動障害と情動障害が含まれます)、注意障害、遂行機能障害が挙げられ、失語・失行・失認といった古典的高次脳機能障害の頻度は比較的少ないことが指摘されています(橋本圭司:高次脳機能障害リハビリテーション. J Rehabil Med Vol.47 856-861 2010)。
 橋本圭司先生は、「高次脳機能障害は、時に認知症と診断されることがあります。しかし、認知症は、まずは記憶障害の存在が確認されている必要がありますし、元々の定義が異なります。しかし、左大脳半球が広く損傷された脳卒中患者さんの場合、記憶障害に加え、失語、失行、失認、遂行機能障害のすべてをきたすことがあります。そうなると認知症と診断されてしまう可能性があります。」(高次脳機能障害 PHP新書, 東京, 2010, pp35-40)と述べています。
 住友病院副院長の宇高不可思先生も、「主幹動脈の閉塞により失語・失行・失認などの複数の認知機能が障害されている場合は、広義には認知症の定義を満たすが、脳血管性認知症というよりはむしろ『脳梗塞による後遺障害』とすべきである」(Clinical Neuroscience Vol.29 307-310 2011)と述べています。
 厚生労働省が定義する診断報酬上の高次脳機能障害の診断基準においても、進行性疾患であるアルツハイマー型の認知症や先天性疾患は除外されています(渡邉修:高次脳機能障害のリハビリテーション. 日本医師会雑誌 Vol.140 30 2011)。

 また橋本圭司先生は、患者さん自身が病識の欠如により自分自身の障害を認識していないという問題点を指摘し、高次脳機能障害の問診に際して、「チェックリスト」を患者さんだけではなく家族にも渡して、「本人と周囲の認識のギャップ」を正確に描出することが大切であると述べています。
 使い勝手の良いチェックリストですが著作権の関係がありご紹介できるのはごく一部ですので、全文は原著(橋本圭司:高次脳機能障害がわかる本. 法研,東京,2007)をご参照下さい。
 高次脳機能障害のチェックリスト
1)前頭葉
 相手の気持ちを思いやることができない
 注意・集中力がない
 やる気が起こらない
2)側頭葉
 人の話を聞いても理解できないことがある
 人との約束を忘れることがある
3)頭頂葉
 いま自分がいる場所がわからなくなることがある
 服をうまく着ることができないことがある


 (臨時シリーズのため中断)


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第78回『シリーズ・高次脳機能障害を学ぶ その3』
 4つの認知障害(失語、失行、失認、実行機能の障害)のうち実行機能障害に関しては既に詳しく説明しましたので、残りの認知障害に関してもう少し詳しくお話しておきます。
 失語は大きく分けて2つのタイプがあります。運動性失語と感覚性失語です。
 左前頭葉には運動性言語中枢があり、この部位が障害されると運動性失語(ブローカ失語)が起きます。言葉の表出面が強く障害されるタイプの言語障害で、話し言葉の理解面は比較的保たれています。「めがね」とか「時計」などの単語が出ず(喚語困難)、「あれ」とか「それ」と言います。一般的には、漢字より仮名を書くことが困難となります。
 左側頭葉には感覚性言語中枢があり、この部位が障害されると感覚性失語(ウェルニッケ失語)が起きます。聴覚理解が強く障害されるタイプの言語障害で、流暢に話すことは可能ですが実際の名称と異なった名称を言う(錯語)ことが多く「めがね」のことを「時計」などと言いますので、「言語明瞭・意味不明」と表現されます。理解が強く障害されていますので、例えば「おいくつですか?」と質問しても、「はい、佐藤太郎です。」などと答えます。
 『失語症の被災者 ケアを』(2011年4月15日付朝日新聞・生活)においては、「NPO法人コミュニケーション・アシスト・ネットワーク(CAN)がサイト(http://www.we-can.or.jp/)に支援方法をまとめ、失語症の人には『はい(うなずき)』か『いいえ(首振り)』で答えられる質問をする」といった具体的な方法を紹介しています。
 失語症のリハビリテーションにおいても、このYes/No反応から徐々にコミュニケーションを拡げていくという手法はよく用いられるものなのです。

 次に、失行の代表例をいくつかご紹介しましょう。
 観念運動(性)失行は、例えば手で「キツネ」の形を構成するのが困難となるものです。近年普及しつつある山口式キツネ・ハト模倣テスト(Yamaguchi fox-pigeon imitation test)の第一段階のテストがキツネですね。テスト方法は、「私の手をよく見て同じ形を作って下さい」と一度だけ指示し、キツネ次いでハトで実施します。10秒間提示し、この間にできれば合格です。
 観念(性)失行とは、運動能力には問題がないのに物品を正しく操作できない状態です。例えば、歯ブラシを目の前に置いて「これを使って下さい」と指示しても、使い方が分からず間違った使い方をするものです。
 観念運動(性)失行および観念(性)失行は、左頭頂葉を中心とする病変において観察されることがあります。
 着衣失行は衣服の着脱の障害です。右頭頂葉原因説が有力です。認知症の人は、しばしば衣服を逆様(後前)に着ます。軽度認知症の人は着衣失行にショックを受けますので、前後のない単純な衣服を使い本人のプライドを傷つけないように配慮することも大切です。
 
 最後に、失認の代表的なものをご紹介します。
 相貌失認は、よく知っているはずの人物を顔によって同定できず、時には鏡に映っている自分の顔さえも分からなくなるものです。右ないしは両側の側頭葉・後頭葉原因説が有力です。
 病態失認とは、明確な意識障害がないにも関わらず自分自身の麻痺に気づかず、またその存在をも否定する症状です。右頭頂葉原因説が有力です。しかし、右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞あるいは右被殻出血などでしばしば認められることから、右頭頂葉だけではなく基底核病変なども関与している可能性があります。

朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第79回『シリーズ・高次脳機能障害を学ぶ その4』
 ADにおける「病識欠如」は有名ですね。お困りの症状は何ですか?と尋ねても、「困っている症状はありません」と病識を欠くことがしばしばです。病識欠如・自発性低下は、前頭葉障害によるものです。
 昭和大学横浜市北部病院内科の福井俊哉准教授は、著書『症例から学ぶ戦略的認知症診断』(南山堂発行, 東京, 2011, p2)の中で以下のように述べています(一部改変)。
 「病識は、『ある』・『ない』と二分できるものではありません。初期段階では、ある程度の病識は残っています。しかし進行して病識が障害された認知症の方に受診理由を聞くと、高齢者のよく遭遇する身体的愁訴(『腰・膝が痛い』・『目が悪い』など)に置き換わり、場合によっては、『自分はどこも悪くないが家族に連れてこられた』といった責任転嫁とも聞こえる病識欠如もある。」
 ADよりもさらに病識欠如が顕著であるのは、シリーズ第22回で紹介したピック病です。前頭側頭型認知症(FTD)の代表がピック病でしたね。ピック病では前頭葉と側頭葉底部が主として障害されます。群馬大学脳神経内科学の岡本幸市教授は、「前頭葉穹隆面の障害では無欲型(自発性低下・無関心など)となり、前頭葉底面と側頭葉の障害では脱抑制型の症状が主体である」と述べています(Clinical Neuroscience Vol.29 332-333 2011)。すなわち、脳前方領域の障害により抑制が解除され、大脳辺縁系(メモ参照)や大脳基底核の機能が解放されたために、「わが道を行く(脱抑制)行動」は引き起こされるのではないかと推察されています。
 認知症における病識の有無を評価する方法としては、數井裕光医師らが邦訳改変した「日本版生活健忘チェックリスト」などがよく用いられます(Dementia Japan Vol.21 205-214 2007)。
 病態失認とADにおける病識欠如は、そもそもの概念が違いますので混同しないで下さいね。病態失認とは、狭義には脳損傷による自分自身の運動麻痺の症状を否定するものです。

メモ:大脳辺縁系
 大脳新皮質の内側にあり、海馬、扁桃体、帯状回などの部位が大脳辺縁系に属します。大脳辺縁系は、側坐核と相互に結合しています。側坐核は「やる気」を担当しています。側坐核に関しては、後日詳しくお話します。
 大脳辺縁系は大脳の古い皮質であり、人間が動物として生きて行くために必要な機能を司っている部位と捉えられています。怒り・悲しみ・恐怖などの情動と密接に関係している領域です。
 帯状回は、意欲・活動性を司っている部位です。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第80回『シリーズ・高次脳機能障害を学ぶ その5』
 さて、高次脳機能障害において頻度が高い症状の一つに「注意障害」が挙げられることを前述しましたね。
 注意障害っていったい何でしょうか。主な注意機能は以下の3つです(標準言語聴覚障害学・高次脳機能障害学 医学書院, 東京, 2009, p134)。
1 持続性注意
 継時的に注意を持続させる能力。
 関与する部位としては、右前頭葉という報告が多いです。
2 選択的注意
 複数の刺激の中から、目標とする刺激を選択して注意を向ける機能。
 この機能も右前頭葉が関与するとされています。
3 注意の配分
 複数の作業を同時に行う場合に、うまく進めるのに最適な注意の配分を采配する能力。
 言語性の課題では左前頭葉が、非言語性の課題では右前頭葉が関与するとされています。

 これらの注意障害は、臨床の現場では、「抹消課題」などの検査で評価されます。抹消課題とは、たくさんの文字や記号の中から、特定の文字や記号のみを選択抹消する検査です(リハビリナース、PT、OT、STのための患者さんの行動から理解する高次脳機能障害 メディカ出版, 大阪, 2010, pp154-163)。

 脳外傷による高次脳機能障害に関しては、益澤秀明先生(脳神経外科医)が詳しく報告しています(脳神経 Vol.55 933-945 2003)。
 臨床症状は、認知障害と情動障害・人格変化(人格情動障害)です。
 認知障害は、物忘れ(今しがた見聞きしたことを記憶できない)や判断力の低下、遂行機能障害、自己洞察力の低下(自分の能力低下に対する自覚が欠如し、周囲との軋轢をきたす)などです。
 人格情動障害としては、感情易変、不機嫌、易怒性、攻撃性(=若年者ほど目立つ)、暴言・暴力、幼稚、羞恥心の低下、自発性の低下、病的嫉妬、被害妄想、人付き合いが悪い、わがまま、すぐキレる、反社会性などであり、外傷前には優しかった人でも人柄が変わったようになります。軽症の場合は、次第に落ち着きを取り戻して元の穏やかな人格に戻っていきます。しかし重症例では、回復が遅れ後遺症として残る場合もあります。
 認知障害は検査で客観的に評価できても、人格・性格変化は検査で測定できないため見逃されやすいという問題点を益澤秀明先生は指摘しています。

 2001年度から2005年度までの5年間、高次脳機能障害支援モデル事業が実施されました。厚生労働省はモデル事業の実施により、高次脳機能障害の診断基準・標準的訓練プログラム・標準的支援プログラムを作成しました。また障害者自立支援法の施行により、高次脳機能障害支援普及事業として各都道府県に支援拠点機関を設けました。
 「高次脳機能障害.net」(http://koujinou.net/)には、診断基準、症状の解説、都道府県別の支援拠点機関などの情報が掲載されておりますので、相談先が分からないときには先ずはこのサイトで情報入手されると良いと思います。

終末期医療を巡る諸問題―定義、法律、現状・・ [終末期医療]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第110回『終末期への対応 アルツハイマー型「末期」は、どこからか』(2013年4月14日公開)
 それでは平原佐斗司医師が実施している嚥下反射の客観的評価方法についてご紹介しましょう。
 「われわれは、簡易嚥下誘発試験(Simple Swallowing Provocation Test:S-SPT)や3cc水のみテスト、頸部聴診法などを組み合わせて用いることで、嚥下反射の有無を判断しています。これらの方法は簡便で、ほとんどの患者に苦痛なく実施することができます。
 S-SPTは口腔内清拭後、臥位にて施行します。細径のエキステンションチューブを中央で切り5ccシリンジと接続し、内部に水道水を充填します。チューブ先端を中咽頭に挿入し、0.4cc、1cc、2ccの順に水を注入し、注入から嚥下反射誘発までの時間を測定します。健常者では0.4ccの少量の水の注入で嚥下反射が誘発されます。一方、2ccの水の注入で、潜時(注入から嚥下反射誘発までの時間)が3秒以上あるいは嚥下反射がみられない場合、嚥下反射の極度の低下あるいは消失と考えられ、経口摂取は困難であると考えられます。」(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, pp297-298)
 一方で、FAST7d,e,fを「末期」とする考え方もあります。この辺りがきちんと統一されておりません。
 東京大学大学院医学系研究科医療倫理学分野の箕岡真子医師は、「アルツハイマー病単独の場合には、FAST分類7(d)(e)(f)であれば終末期と判断してもよいと思われる。またアルツハイマー病そのものが終末期でない場合でも、何らかの身体的衰弱や摂食不良をきたす他の疾患の合併がある場合には終末期と判断される可能性もあり、個別のケースごとに担当医師の適切な診断が必要となる。とくに、延命治療を差し控えたり中止したりする場合には、倫理的には2人以上の医師による適切な判断が求められる。」(箕岡真子:認知症の終末期ケアにおける倫理的視点. 日本認知症ケア学会誌 Vol.11 448-454 2012)と指摘しています。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第119回『終末期への対応 米国のある医療倫理に関する模擬問題』(2013年4月23日公開)
 さてここで皆さんにクイズを出題しましょう。アメリカの医師国家試験(アメリカでは州単位なので厳密にいえば州の資格試験)において出題された医療倫理に関する模擬問題です。正解が1つありますので、a~eの中から正解を選んでみて下さい(樋口範雄:終末期医療と法の考え方. 老年精神医学雑誌 Vol.24 増刊号-Ⅰ 139-143 2013)。
 「84歳の女性が腹痛で入院した。入院2日目に彼女は、腸穿孔による熱、重度の低血圧、頻脈状態になった。患者は、自分の病状を理解する能力のまったくない状態であった。その後48時間にわたって抗生物質、水分、ドーパミンを投与したが、効果はなく、重度の無酸素性脳症の徴候がみられた。医療代理人(healthcare proxy)は指名されていなかったが、患者が自分で話すことができたならば自身のために希望したであろうことについて、家族間で一致した合意があった。家族の指示により止めることができないものは、以下のうちのいずれか。
 a. 人工呼吸器
 b. 血液検査
 c. ドーパミン
 d. 水分および栄養補給
 e. なにもない(つまり、すべて中止することができる)」

 東京大学大学院法学政治学研究科の樋口範雄教授がこの問題の正解について端的に解説しておりますので以下にご紹介しましょう(樋口範雄:終末期医療と法の考え方. 老年精神医学雑誌 Vol.24 増刊号-Ⅰ 139-143 2013)。
 「正解は最後のeである。そこには『困惑』はない。明らかな医療倫理上の正解が存在すると考えられている。もちろんそこに法の出番はない。裁判所に行く必要もなければ、水分や人工呼吸器を外したことで警察が介入することもない。
 なぜか。それは、患者サイドでは終末期医療における『自己決定』を尊重することがまさに医療倫理と考えられていること、さらに、医療サイドでは、無理な延命は、医療倫理に反することであり、医療にも一定の限界がある(それを越えた医療はfutility=無益)と考えられているからである。」
 自己決定が最優先されることに関しては、「ひょっとして認知症? Part1─改めて尊厳死、平穏死を考える(第325~337回)」において詳しくお話しました。リンク先のファイルの冒頭に記載しておりますように、「自己決定権の尊重という、医療倫理上もっとも重要な原則に照らす限り、患者本人の意思が明瞭に示されている場合に延命治療の中止を認めるかどうかが議論の対象となることはありえない。議論の対象になるとすれば、それは、昏睡患者などで、患者本人に意思を表明することができない場合だが、その場合でも、米国の判例は『昏睡患者などで本人に意思を表明することができない状況においても、その自己決定権の行使を保証する』という立場をとり、近しい家族による本人の意思の推定を、きわめて合理的な手段として受け入れている。」のが米国の現状でしたね。
 一方で、筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達科学の飯島節教授は、自己決定原則の限界についても言及しておりますので以下にご紹介します(飯島 節:高齢者医療に必要な法律的知識. 2013.3.23発行日本医事新報No.4639 42-45)。
 「いずれのガイドラインにおいても、それが現在のものであるか病前のものであるかにかかわらず、患者自身の自己決定を最優先している。しかし、和を尊び自己主張を抑制することを美徳とする我が国の高齢者には、自己決定を避けて、信頼できる誰かに決定を委ねようとする傾向もある。米国においても、ほとんどの患者は自己決定権を行使したいとは思っていないという指摘もあり、自己決定に頼りすぎることの弊害も説かれている(マーシャ・ギャリソン:ケース・スタディ生命倫理と法 第2版, 樋口範雄 編著, 有斐閣, 2012, p377)。」

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 皆さん、2013年4月3日に放送されましたクローズアップ現代・No.3328『“凛とした最期”迎えたい~本人の希望をかなえるには~』(http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3328.html)観られましたか?
 放送においては、治る見込みがなく死期が迫っている(6ヶ月程度あるいはそれより短い期間を想定)と告げられた場合の延命医療について、37.1%の人が「延命治療を希望しない」と回答したことが紹介されており、国谷裕子キャスターは、「延命治療(主に、人工呼吸器、人工栄養、心肺蘇生)を希望しない人は、10年間で2倍に増えた。」と解説しておりましたね。
 「治る見込みがない場合の延命医療について」の調査結果(平成20年厚生労働省調べ)の詳細はウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000vj79-att/2r9852000000vkcw.pdf)において閲覧可能です。pdfファイルp17(図19)をご参照下さい。
 そしてその放送の中でスタジオコメンテーターとして出演された日本臨床倫理学会理事長の新田國夫医師のコメントは印象的でした。
 「『家族に迷惑をかけたくない』と意思表示される方が確かに増えています。しかしながら、それが本当に自分の生き方なのか、家族をおもんぱかってなのか(その判断は)非常に難しいのですが…。」


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第120回『終末期への対応 慢性疾患の終末期の定義化は難しい』(2013年4月24日公開)
 終末期の定義に関して、日本老年医学会の「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン─人工的水分・栄養補給の導入を中心として」作成に深く関わってきた東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター 上廣死生学・応用倫理講座の会田薫子特任准教授(論文執筆当時の肩書きは、東京大学大学院人文社会系研究科グローバルCOE「死生学の展開と組織化」特任研究員)が書かれた印象的な記述がありますので以下にご紹介しましょう。
 「終末期医療の調査研究にあたる者にとって、終末期をどう定義するかは仕事の第一歩である。研究対象について焦点を絞ることと研究にかかわる概念を明確化することなしには、研究計画すら立てることができない。そのようなわけで、終末期医療の研究者としては、研究対象の定義化にはそれなりに時間を使ってきた。
 しかし、悪性疾患と異なり、慢性疾患の終末期の定義化は困難であり、数値で表現することは不可能かつ不適切との指摘もある。そこで、数値を使わずに疾患の進行段階で示すこともある。例えば、認知症の終末期の定義は、それがアルツハイマー型であればFASTの7-(d)の『座位維持能力の喪失』以降というのが海外学術誌上では標準的とみられる。一方、脳血管疾患型認知症の進行は様々なので、終末期の定義は非常に難しく、頭を悩ませる
 しかし、先日、ある事例検討セミナーで会った看護師の一言にハッとさせられた。それは、脳梗塞を繰り返し、意思疎通困難・摂食嚥下困難で、概ね寝たきりで経鼻経管栄養法を受けていた患者の例であった。
 患者は経鼻経管を嫌がり、毎日引き抜いてしまう。主治医は予後は半年以上とみて、患者の家族に胃ろう造設を勧めたが、家族は反対した。この患者への人工的水分・栄養補給をどうするか。この患者は終末期にあるとみて終末期対応をするのが適切かどうか、どのようにしてそれを判断するのか、私は医療者のディスカッションを聞いていた。その中で、この看護師は言った。『終末期かどうかということよりも、この患者さんのために何が最善なのか、それを考えましょう』。
 患者にとって、今、何をするのが最善なのかを検討するためには、医学的判断と併せて、患者本人がどのような人なのかを知ることが非常に重要である。それなしには、このような場面で本人がどのような価値判断をするのか、どういう意向を示すのかを推察することは困難である。
 家族らとのコミュニケーションを通じ、本人にとって何が大切なのかを知ろうとする。そうして本人像に迫ることによって、患者本人にとっての最善を探り、それを実現しようと努力することは、予後予測によって終末期対応の是非を探ることとはまったく異なるアプローチである。
 終末期医療をめぐる議論では常にその定義が問題とされてきた。そして、慢性疾患においては定義化が困難なので、終末期医療の議論も論理的に進めることができないという指摘もあった。冒頭に述べたように、私も定義化に汲々としてきた。本末転倒ではなかったか。定義は重要だが、そもそも何のための定義なのか。当たり前のことをしっかり認識させていただいた。」(会田薫子:終末期医療を考えるということ. 2011年3月19日発行日本医事新報No.4534 1 2011)

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 記事公開から丸一日過ぎましたので、2013年4月23日付中日新聞・生活面の記事内容の一部(私が関連する部分)をご紹介致します。

シリーズ・終末期を考える
 認知症に「末期」の定義─尊厳死協会が提案
 「延命措置」議論の材料に
 「治療中止を」「親不孝だ」 家族や医師で認識すれ違う

 認知症となった高齢者の「末期」判断をめぐり、日本尊厳死協会(東京、会員約十二万五千人)は新たな定義を示した。重度の認知症で、生命に直結するほど重い身体症状を併発した場合を「末期」とし、延命措置の是非を検討する必要があると提案。現在、認知症患者の末期や延命措置中止などの基準はない。現場に判断が任され、医師や家族が苦悩する中、議論の材料となりそうだ。【山本真嗣】

 榊原白鳳病院(津市)の医師、笠間睦さん(五四)は昨年九月、脳血管障害型の重度認知症で入院する八十代女性の家族から、鼻の経管栄養を中止してほしいとの意向を聞いた。本人の事前の意思表示はないが、家族は「本人がかわいそう」という。だが、女性は医師の呼び掛けに右手を上げたり、季節を答えたりすることもできる。時折肺炎を起こすが、抗生物質で改善する。
 笠間さんは「末期ではないし、本人の意思も分からない」と断り、治療を続ける。笠間さんによると、米国では認知症や合併症の状態を数値化し、半年後の死亡率を算出する研究もされている。「日本でも客観的に全身状態を判断できる指標が必要」と話す。

P.S.
 記事においては文字数に制限があり紙面公開されませんでしたが、私は、客観的な指標として、ごく最近は「ADEPT」という指標を用いて予後予測を説明するように心掛けつつあります。
 全米ホスピス緩和ケア協会(National Hospice and Palliative Care Organization;NHPCO)によるアルツハイマー病(AD)末期の定義、MRI(mortality risk index)、ADEPT(advanced dementia prognostic tool)などの予後予測指標については、このシリーズの終盤にてご紹介する予定です。

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終末期①─厳密な規定は難しい
 「交通事故や脳出血などによって一瞬で命を奪われるケースを除き、多くの人が心身とも衰え、死が避けられそうもない『終末期』の状態を経験します。しかし、一言に終末期といっても、亡くなる日時まで正確に予知することはできません。その意味で、いっから終末期として厳密に規定するのかは難しいです。
 その中で、日本人の死因トップであるがんは病気の進行と亡くなる時期が比較的はっきりしています。患者の状態が急激に悪くなるのは通常、亡くなる約2週間前です。がんではこの時期が終末期といえます。実は終末期といぅ言葉は、がんの場合に使われ始めました。今でもがんが連想されます。
 終末期に対するもう一つの関心は、回復の見込みがない植物状態になった場合における延命医療のあり方でした。こちらは法律家などが関心を持っていました。終末期という名称が初めてついた国の検討会でも、これら2つの分野が課題でした。
 その後、脳卒中後遺症や認知症の末期などにおける医療にも対象が拡大しました。問題は、がん以外では先に述べたように終末期の開始時期が明確でなく、末期が何年にも及んでいると捉えることもできます。こうした状況で、生命の尊厳を守りながら、本人や家族の意向をどのように反映きせて医療を提供するかが課題となっています。(池上直己・慶応義塾大学医学部教授)」
【2014年7月27日付日本経済新聞・健康 知っ得ワード】


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第121回『終末期への対応 終末期はいつから―法的な問題も』(2013年4月25日公開)
 しかしながら医療現場では、終末期であることが確定されない状況では、延命措置を中止・差し控えることにより法的責任を問われるのではないかと懸念する声が根強くあるという状況にあります。
 この点に関して弁護士法人龍馬ぐんま事務所の小此木清弁護士は、「終末期の判断が確定されない状況では、延命医療の中止・差し控えに関して支援できないのではないか。たとえば、高齢者が、脳梗塞等を発症し経口摂取が困難な状況になった場合、ただちに終末期として延命医療の問題とすることはできないはずである。ましてや、人工的水分・栄養補給法(artificial hydration and nutrition;AHN)導入の開始・不開始をめぐり、医師と本人・家族との意思の不合致が存する事例に遭遇したとき、終末期であることを棚上げし、医療の現場にガイドラインによる延命医療の中止・差し控えを委ねることはできないというべきである。」(小此木 清:高齢者の終末期医療をめぐる法的諸問題 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン─人工的水分・栄養補給の導入を中心として. 老年精神医学雑誌 Vol.23 1218-1224 2012)と述べています。
 高齢者の終末期に関して筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達科学飯島節教授は、「終末期医療について論ずるには、まず終末期についての共通理解が必要であるが、残念ながらその定義は確立されていない。とくに、高齢者は複数の疾病や障害を併せ持つことが多く、また心理・社会的影響も受けやすいために、死に至る過程は、一般成人の場合に比して多様かつ複雑であり、臨死期に至るまでは余命の予測が困難であることが多い。そこで、『立場表明2012』においては『終末期』を具体的な期間で規定することはせずに、『病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な限りの治療によっても病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、近い将来の死が不可避となった状態』としている。」(飯島 節:高齢者の終末期医療およびケア─日本老年医学会の立場から. 老年精神医学雑誌 Vol.23 1225-1231 2012)と述べております。この定義は、2001年6月13日に報告された立場表明での定義と概ね同様の内容となっており、「その時代に可能な最善の治療」が「その時代に可能な限りの治療」と若干の変更がなされております。
 さて、小此木清弁護士は前述の論文の最後を、「現時点においては、高齢者本人の自己決定権による事前指示が存する場合を除いて、ガイドラインの意思決定プロセスを経たとしても、AHN中止・差し控えにより死をもたらすことは、立法的解決がなされない限り許されないと考える。」という言葉で締め括っており、事前指示書の存在の重要性を改めて強調しております。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第122回『終末期への対応 「終末期にしないで」と「生かし続けないで」』(2013年4月26日公開)
 最近、延命措置を差し控えたり中止を希望する意向をお聞きする機会が増えてきたように感じております。新聞などで終末期医療に関する話題が取り上げられる機会が多くなり、啓蒙が徐々に進んでいるためではないでしょうか。
 例えばこんな事例がありました。患者さんは高齢女性(80歳代後半)であり、2012年3月に発症した脳梗塞により左半身麻痺となり寝たきりの状態です。また、脳梗塞による嚥下障害のため経鼻経管栄養を実施しております。しかし、言語機能は保たれており、「おはよう」としっかり返事してくれます。
 2012年8月に肺炎を併発し抗生物質による治療を施行した際の話し合いの中で、ご家族より経管栄養の継続を中止してほしいとの意向をお聞きしました。
 私の立場は小此木清弁護士と同様に、「高齢者が、脳梗塞等を発症し経口摂取が困難な状況になった場合、ただちに終末期として延命医療の問題とすることはできないはずである。」という考えに立っております。すなわち、脳梗塞による嚥下障害は、仮に病状が「不可逆的」な状態(病状固定)に陥っていたとしても、決して「進行性」ではありません。経管栄養を継続すれば、「進行の阻止」は可能な状況です。すなわち、終末期とは考えられないわけです。私はご家族に、「終末期ではないので経管栄養は中止できません」とその理由を説明致しました。この患者さんは今も榊原白鳳病院に入院中であり、毎朝私に「おはよう」と返事してくれます。
 ではもしこの事例の基礎疾患がアルツハイマー病であった場合はどうでしょうか。FAST分類7d(着座能力の喪失)で嚥下障害がありますので、海外学術誌の定義に照らし合わせれば、「終末期」と判断されます。
 そして事前指示書があれば、本人の意向に沿って治療が差し控えられることもあるかも知れません。事前指示書がなければ、代行判断(患者意思の推定)がされることになります。
 代行判断に際しては、「本人以外の家族などとの話し合いにおいては、家族が常に正当な代理人であるとは限らないので、家族自身の希望と患者の意向の代弁とを明確に区別する必要がある。」(飯島 節:高齢者の終末期医療およびケア─日本老年医学会の立場から. 老年精神医学雑誌 Vol.23 1225-1231 2012)ことに留意する必要があります。それは、「家族の意向を尊重するにしても、家族には経済的・精神的負担という思惑が入り込む危険性があるので、あくまでも高齢者本人の尊厳に十分配慮することが重要となる。」(小此木 清:高齢者の終末期医療をめぐる法的諸問題 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン─人工的水分・栄養補給の導入を中心として. 老年精神医学雑誌 Vol.23 1218-1224 2012)からです。
 代行判断も困難であれば、代理人を含めた関係者において最善の利益判断が実施されることになります。その場合には、病棟スタッフだけの判断ではなく、終末期の医療やケアについて議論する倫理委員会またはそれに相当する委員会を設置することも求められるでしょう。
 なお、「法的には『家族の定義』も定まったものではない。したがって、ただ、家族だからといって、当然には代理判断ができるわけではない」(箕岡真子:認知症高齢者の終末期医療における倫理的課題. Geriatric Medicine Vol.50 1407-1410 2012)という点にも留意しておく必要があります。
 ですから、延命措置を差し控えたり中止を行う場合には、かなり多くの行程を求められております。日本老年医学会の「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン─人工的水分・栄養補給の導入を中心として」が発表され、プロセスが明確にされたことで大きな一歩は踏み出されました。しかし、そのプロセスを遵守するあまり、阿吽の呼吸による「静かな最期」が困難になってしまったと感じている医師は多いのかも知れませんね。そして、私もその一人のような気がします。
 私の脳裏には、患者さんの「勝手に終末期にしないでくれ!」という声と、「勝手に生かし続けないでくれ!」という二つの心の声が響いており、今でも葛藤が続いております。

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 過日ご紹介しました2013年4月21日放送のNHKスペシャル「家で親を看取る」(http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20130421)において、「最善の利益判断」を話し合う場面が映し出されましたね。
 ご家族、在宅医の沖田将人医師を中心として、関係者11人が集まって話し合った場面です。
 こういった情景が映像として流されたのは、私の知り限りにおいては初めてのことだと思います。

乾燥ショウガ AGEs  終末糖化産物 アルツハイマー病 3型糖尿病  [アルツハイマー病]

乾燥ショウガ
ショウガ.JPG

 トンプソン真理子さんの記述読まれましたか?
 AGEs (終末糖化産物)絡みの話から、アルツハイマー病に話が及んでますよ。

 以下に、トンプソン真理子さんの記述(https://www.facebook.com/photo.php?fbid=771537026288257&set=a.139310916177541.26849.100002958992997&type=3&theater)を抜粋しますね。

 「糖化」は「酸化」ほど有名ではありませんが、酸化と同じ、いやそれ以上に老化を進めるものだと思ってください。
 糖化は、実は酸化どころじゃない怖さがあります。糖化が進んでいくと、AGEs (終末糖化産物)という、いわゆる体の老廃物が生まれます。それが肌に溜まると、しみ・しわ・たるみに、毛髪に溜まると白髪やうす毛、関節にたまると関節痛、目にくると白内障、骨にくると骨粗しょう症、脳にくるとアルツハイマー認知症など、体のあちこちに老化を促進していきます。
 糖化とは、「体内にあるたんぱく質と、食事で摂取した糖が結びつくことで、糖化したたんぱく質が作られて体内に蓄積されること」です。糖化が進むと、肌の老化なども怖いですが、糖尿病などの病気にまで繋がるとされてます。体の内と外、どちらも老化させるのですね。
 このことから、医療界では「酸化」よりも「糖化」のほうが美容と健康に大敵と言われてます。

 まずは、以下の項目にどれだけ当てはまるかチェックしていって下さい。
-------------------------------------
・甘いものを間食としてよく食べる
・加工食品をよく食べる
・味付けの濃い料理が好き
・お菓子を常に側においている
・ペットボトルの清涼飲料水をよく飲む
・丼物がすき
・ご飯や麺類などの炭水化物が好き
・野菜や豆類はあまり食べない
・ついつい夜食を食べてしまう
・運動不足
・早食い傾向にある
・喫煙習慣がある
--------------------------------------
 いくつ当てはまりましたか?
 チェックが入る項目が多ければ多いほど、糖化が進んでいる可能性大です。
 ええ~、、、と青ざめた人、今から何とかできないの?!と思った人のために、抗糖化作用ナンバー1食品を調べました。

すると抗糖化ナンバー1食品とは・・
 ずばり「しょうが」でした!
 その糖化阻止率は、なんと93%!!

 しょうがは、美肌を損なう三大要因である「酸化」・「糖化」・「炎症」のすべてを抑える作用を持ってるんです。その上、糖尿病の合併症の予防や進展を食い止めるのに役立つと考えられています。アンチエイジングと健康、どちらにも効果があるんですよ。
 さぁ、これから毎日「しょうが湯」を飲みましょう(笑)
 もちろん糖質食品も控えながら・・


私の感想
 AGEs (終末糖化産物)に関しては、アピタルにおいて言及したことが何度もあります。
 以下にその代表作をご紹介しますね。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第189回『アルツハイマー病を治す薬への道 アルツハイマー病は「3型糖尿病」』(2013年7月7日公開)
 なお、中部大応用生物学部の津田孝範准教授(食品機能学)らの研究によって、クルクミンにはインスリンの分泌を促進させるホルモン(GLP-1)の分泌を促してインスリン濃度を高める作用があることが最近突き止められました(2013年5月24日付中日新聞社会面)。アルツハイマー病は「3型糖尿病」(メモ5参照)とも呼ばれており、クルクミンとアルツハイマー病との関連に関する詳しい機序の解明が待ち望まれるところです。
 杉本八郎先生は、PE859はレンバーの改良型だと述べておられました。
 玄米にカレーをかけて食べるとより効果的かも知れません。玄米の有用性については、認知症介護研究・研修東京センター研究部長であり浴風会病院診療部長の須貝佑一医師が著書の中で言及しております。一部改変して以下にご紹介しましょう。
 「玄米を精米した白米は、さまざまな栄養素が含まれた種皮や胚芽の部分があらかじめ取り除かれています。種皮や胚芽にはビタミンB1・B2・B6・E、パントテン酸、フィチン酸、ナイアシン、葉酸などの貴重な栄養素が豊富に含まれており、玄米はそれだけで完全食品であると言われるほど、栄養的に優れた食べ物なのです。そのため、主食に関しては白米ではなくこの玄米を食べるようにすると、ボケ予防の効果を見込めます。」(須貝佑一:朝夕15分 死ぬまでボケない頭をつくる! すばる舎, 東京, 2012, p174)

メモ5:3型糖尿病
 アルツハイマー病は「3型糖尿病」と言ったのは米ペンシルバニア大学医学部精神医学・神経学のスティーブン・アーノルド教授です。アーノルド教授らの研究チームが糖尿病ではないアルツハイマー病患者の脳の海馬を調べたところ、糖尿病ではないのに脳内のインスリンの効きが悪く、神経細胞がグルコース(ブドウ糖)を使えなくなっていることがわかったのです。すなわち、「脳の糖尿病」といって差し支えない状態でした(白澤卓二:アルツハイマーは「第三の糖尿病」. 文藝春秋第91巻第6号 pp304-306 2013)。

 高血糖になると糖が非特異的かつ非酵素的に蛋白に結合し、終末糖化産物(advanced glycation endproduct;AGE)となります(里 直行:生活習慣病と認知症─糖尿病・インスリン抵抗性. MEDICINAL Vol.2 No.9 64-70 2012)。RAGE(receptor for AGE)は、AGEの受容体です。
 昭和大学横浜市北部病院の福井俊哉教授(神経内科)がRAGE阻害薬のアルツハイマー病(AD)治療薬としての可能性に関して言及しております(福井俊哉:アルツハイマー病治療の今昔物語. 認知神経科学 Vol.13 110-117 2011)。ちょっと難解な話になりますが要点を以下に抜粋してご紹介します。
 RAGEはAGEと呼ばれる構造体に対する受容体で免疫グロブリンの構造を有し、神経細胞、ミクログリア(メモ6参照)、血管内皮などに発現します。
 RAGEが血管壁に発現すると、脳血管関門を通して血中から脳内へAβの移送を促進し脳内Aβ沈着を助長します。ミクログリアに発現するRAGEは、サイトカイン(cytokine)などの炎症惹起物質を誘導して、AD病理の特徴である局所脳内炎症を生じます。

メモ6:ミクログリア
 「神経細胞が死んだり、弱まったりすると『掃除屋細胞』のミクログリアが異常なまでにグルタミン酸を放出する。過剰なグルタミン酸は神経細胞を傷つけ、アルツハイマー病やALSの原因になると考えられてきた。」(2011年6月22日付朝日新聞社会面)

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 ファイザー株式会社クリニカル・リサーチ統括部の藤本陽子部長が現在(2013年4月現在)開発中のアルツハイマー病・疾患修飾薬(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032900005.html)について最新の情報を論文にて報告しております(藤本陽子:疾患修飾薬の臨床試験の現状と将来. からだの科学=http://www.nippyo.co.jp/magazine/maga_karada.html 通巻278号 156-160 2013)。
 その報告によりますと、臨床試験第Ⅲ相まで進んでいるのは以下の5薬剤です。
 BACE阻害─MK-8931(Merck社)
 抗Aβモノクローナル抗体─Solanezumab(Eli Lilly社)
 抗Aβモノクローナル抗体─Gantenerumab(Roche社)
 ポリクローナル抗体─Gammagard(Baxter社)
 タウ凝集阻害─Rember 2nd(TauRx Therapeutics社)
以上のうち、MK-8931とSolanezumabに関しては、国際共同試験として日本国内においても臨床試験第Ⅲ相が施行されております。
 BACEに関しては、シリーズ185回『アルツハイマー病を治す薬への道 カレーは予防に効果があるの?』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013070100010.html)、Solanezumab(ソラネズマブ)に関してはシリーズ95回『アルツハイマー病の治療薬 アルツハイマー病根本治療薬の姿』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032900005.html)、Rember 2ndに関してはシリーズ187回『アルツハイマー病を治す薬への道 期待されるレンバー』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013070300004.html)をご参照下さいね。
 なお、藤本陽子部長は国際共同試験の重要性について以下のように語っています(藤本陽子:疾患修飾薬の臨床試験の現状と将来. からだの科学通巻278号 156-160 2013)。
 「アルツハイマー病の疾患修飾薬の検証試験には通常、数千例を超える多くの症例と、最短でも1年半の治療期間が必要です。このような大規模治験を短期間で実施し、試験結果の信頼性や利用価値を上げるためには、国際共同治験の実施が重要と考えられています。
 アルツハイマー病の症候改善薬では、顕著なドラッグ・ラグの存在がかつて大きな問題となりました。2011年に国内で三つの症状改善薬(ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン)が薬事承認されましたが、これは欧米諸国に10年近い遅れをとってのことでした。このようなドラッグ・ラグを繰り返さないためには、国際共同治験に参加し、国内のアルツハイマー病臨床の状況を加味したうえで、国際標準に合わせた臨床試験を実施することが求められています。
このような国際共同治験を実施し成功させるために、臨床試験に携わるさまざまな人びとの協力体制の強化が今後の重要な課題です。」

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 2013年7月25日付朝日新聞・科学(http://apital.asahi.com/article/story/2013072500003.html)においても、糖尿病とアルツハイマー病の関連について報告がなされました。記事より興味深い部分を抜粋し、以下にご紹介したいと思います。
 「『アルツハイマー病患者の脳では、インスリンをつくったり利用したりするしくみが壊れている』
 九州大の中別府雄作・主幹教授(分子生物学)たちのチームは2013年5月、専門誌にそんな報告をした。
 (中略)
 認知症では、直前にご飯を食べたこと自体を忘れてしまうこともある。中別府さんは「インスリンをつくるのにかかわり、食欲を抑える作用もある遺伝子の働きが落ちているせいではないか」とみている。
 (中略)
 大阪大の里直行准教授(老年医学)は、高血糖が続くと脳にAβがたまりやすくなるほか、タウという別のたんぱく質にも異変が起きて神経細胞が壊れやすくなる、とみる。
 (中略)
 脳に「糖尿病治療」のようなことをしてアルツハイマー病に対処しようという取り組みも始まっている。その例の一つが、糖尿病の治療に使われるインスリン薬をアルツハイマー病や軽度認知障害の人たちに試みる臨床研究だ。
 米ワシントン大のチームがアルツハイマー病と軽度認知障害の計104人を対象に4カ月間実施した。一般的な注射ではなく鼻からインスリンを注入して、特殊な経路で脳に直接届くようにした。2012年発表された報告によれば、インスリンを使った人たちで症状の進行が抑えられたという。
 患者の脳で弱ったインスリンの働きが、注入で補われたとみられる。ただ、チームは『効果はあったが、度合いは小さい』という。より長期的な効果などはわかっていない。」(編集委員・田村建二)

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 「昼食に麺類や丼ものなどの炭水化物をお腹いっぱい詰め込んだとき、食べて1時間くらい経ったころから、激しい睡魔に襲われたといった経験をしたことはないでしょうか。こんな現象も、糖の代謝と深く関係していると考えられています。
 炭水化物を多く含んだ食事は、食後の血糖を急上昇させます。血糖が高くなればなるほど、それを通常の状態に戻そうとして、膵臓から大量のインスリンが分泌されます。インスリンが働き始めて、高血糖から一気に低血糖の状態になると、集中力が低下して、眠気なども引き起こされる可能性があるというわけです。
 ちなみに、血糖値が下がると、無気力、倦怠感、我慢できないほどの空腹感、発汗、動悸などの症状が出てきて、最終的には意識消失や昏睡状態に陥ってしまうこともあります。低血糖症もこわい病気なのです。
 また、血糖値が上がりやすい食品と上がりにくい食品があることも覚えておくとよいでしょう。その際に指標になるのが、食品の『血糖値の上昇率』を表すGI値(グリセミック・インデックス)です。同じ量の糖質を含んでいても、食品によっては血糖値の上がりかたに差があります。
 GI値が高い食品としては、精白米、もち、うどん、食パン、菓子パン、バナナ、スイカなどがあり、GI値が低い食品としては、玄米、全粒粉のパン、そば、リンゴ、牛乳、ヨーグルトなどがあります。」(白澤卓二:食べ物を変えれば認知症は防げる 宝島社, 東京, 2014, pp31-33)

 「インスリンの働きを手助けして、消化器系の負担を軽くしてくれる働きを持つのが、納豆や長いも、海藻類などの『ネバネバヌルヌル食品』です。メニューのなかにこれらの食品を一品加えることで、一緒に摂取した炭水化物などの糖質をネバネバヌルヌル成分がコーティングし、インスリンが分泌されるまでの時間を稼いでくれます。
 インスリンは加齢に伴って分泌量が減っていきます。インスリンの分泌量には当然ながら限りがあり、しかも加齢とともに分泌量は減少していくわけですから、血糖値が急激に上がって、インスリンを分泌する膵臓がフル稼働になるような事態は避けなければなりません。年齢を重ねたにもかかわらず、若いころと同じような食事を続けていると、分泌量が減ったインスリンでは対応しきれず、高血糖、さらには糖尿病へと進行してしまうおそれがあります。
 日本で昔から食べられてきたネバネバヌルヌル食品は、そんな人たちの心強い味方になってくれるはずです。

インスリンの分泌を助けてくれるスグレモノ
 たびたび登場する納豆は発酵食品であると同時に、ネバネバヌルヌル食品でもあります。
 この納豆のほか、オクラ、長いもなどに含まれているネバネバ成分が、ムチンと呼ばれるものです。
 ムチンは、糖質にからみついて糖質が分解されるのを抑える働きがあります。ムチンが糖質をコーティングしたような状態になり、小腸までそれが分解されることがありません。
 このため、糖質の吸収に時間がかかり、血液中のブドウ糖が一気にふえることがなくなります。当然インスリンの分泌もゆっくりになって、血糖値の急上昇と急降下を防ぐことができるわけです。
 ネバネバヌルヌル食品は、発酵食品と同様に、代謝の際の体の負担を軽くしてくれるスグレモノといえるでしょう。」(白澤卓二:食べ物を変えれば認知症は防げる 宝島社, 東京, 2014, pp62-65)

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 2014年7月20日に放送されましたNHKスペシャル・認知症をくい止めろ!(http://www.nhk.or.jp/special/detail/2014/0720/)におきましては、発症の約15年程前より、頭頂葉近傍における糖の取り込みが低下している様子が画像で紹介され、アルツハイマー病では脳全体がエネルギー不足に陥っていることが紹介されました。
 九州大学生体防御医学研究所の中別府雄作教授は、「脳の中で起こっているのは、脳の細胞が血液中の糖を取り込めないという状態、そういう意味で言えば糖尿病と言ってもいいと思います」と解説されました。
 そして、ウェイク フォレスト大学(アメリカ ウィンストンセーラム)のスザンヌ クラフト教授らによる鼻インスリン(鼻に入れて20秒噴霧)による臨床試験の結果が紹介されました。
 患者104人の試験結果では、経鼻にてインスリンを投与した群では、認知機能の低下(Δlog ADAS-cog)が抑えられていたそうです。
 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/20140720NHK-insulin.jpg
 番組にゲスト出演されました群馬大学医学部保健学科の山口晴保教授は、「鼻の奥の嗅粘膜には脳の出店が来ています。嗅神経からインスリンが吸収され海馬に近いところへ効率よくインスリンが入っていきます」と分かりやすく説明されておりました。

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 AGE(Advanced Glycation End-products;終末糖化産物)対策の一番手は、体への侵入を阻止すること。そのためには、AGEを含む食品に注意する必要があります。
 以下に、AGEを多く含む食品を紹介します。Kuは「Kiro Unit」の略で、AGEの含有量を示す基本的な単位です。
主食(パスタ、コーンフレーク、パンケーキ、ワッフル):
 炊いたご飯(100g)9Ku、トーストしたパン(30g)25Kuに対して、8分間茄でたパスタ(100g)112Ku。コーンフレーク(30g)70Ku、トーストしたパンケーキ(30g)679Ku、トーストしたワッフル(30g)861Ku。
 ワッフルはご飯の95倍以上、食パンの34倍以上のAGEを含みます。
 肉類は魚介類よりひとケタ多くなります。
 …(中略)…
 AGEを摂取する際の大きなポイントは調理法です。
 「AGE含有量は、『焼く』『炒める』『揚げる』などの高温調理で爆発的に増加します」(東京都中央区 AGE牧田クリニック・牧田善二院長)
 たとえば生の鶏胸肉と揚げたものを比べると、AGEは10倍近く増えます。ジャガイモでは、25分茹でて17Kuですが、自家製のフライドポテトで694Ku、高温で揚げる外食産業のフライドポテトは1522Kuに達します。
 「AGE対策としては、できるだけ生の状態で食べたほうがいいのですが、細菌対策のため火を通す必要のある食材もあります。その場合は、『焼く』『炒める』『揚げる』という高温調理を避けて、『茹でる』『煮る』『蒸す』といった調理法がお勧めです。電子レンジを使うのもいいですね。
 魚介類を中心としたメニューにして、肉類を食べるときは高温調理をできるだけ控える。ステーキやとんかつよりしゃぶしゃぶ、から揚げや焼き鶏より蒸し鶏を選ぶようにしましょう(牧田院長)」
【伊藤隼也:ボケない「長寿脳」の作り方 宝島社, 東京, 2014, pp135-143】

詳細は以下サイトをご参照下さい。
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/634733296696353?pnref=story

A4(Anti-Amyloid Treatment in Asymptomatic AD Trial) [A4(Anti-Amyloid Treatmen]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第228回『親がアルツハイマー病、私の将来はどうかな!─予防的治療薬を与える大規模な研究』(2013年8月15日公開)
 アルツハイマー病の原因遺伝子を保有するキャリアに対して、未発症の段階から早期介入または予防的治療薬投与を試みる大規模な研究が進められており、東北大学加齢医学研究所老年医学分野の荒井啓行教授がその概略について言及しております(岩坪 威、荒井啓行、井原康夫:座談会─アルツハイマー病. Current Therapy Vol.30 360-368 2012)。その概要と今後の展望についてご紹介し本稿を閉じたいと思います。
 「Alzheimer's Prevention Initiative(API)による臨床研究は、南米のコロンビアにあるアンティオキアという町を舞台にした介入研究の計画です。そこに、あるファウンダー(創始者)から発したと思われるPS-1遺伝子変異の非常に大きな家系があります。その家系の現存者1,235名のうち、480名がミューテーション(変異)をもちながら、まだ発症していないキャリアであり、ミューテーション陽性者の平均発症年齢は48歳であることがわかっています。このキャリアの方を対象に、おそらく20代、30代あたりから、疾患修飾薬による治療を脳脊髄液のAβやアミロイドPETなどのバイオマーカーを用いて追跡しながら行うのです。つまり、アミロイドの蓄積を一度リセットし、アミロイドの全くない脳に戻したときに、はたして発症年齢をどれだけ遅らせることができるかを検討する壮大な研究計画です。」(一部改変)
 筑波大学臨床医学系精神医学の朝田隆教授はこの研究について、「Alzheimer's Prevention Initiativeによる臨床研究では、ADを早期に発症する希少な遺伝子変異をもつ大家族で、Genentech社による治療薬crenezumabの効果が試されています。ここでは300名の未発症に人において、従来は避けられなかった認知機能低下に歯止めをかけられるか否か、また発症を遅くすることができるか否かが、5年間の追跡調査により調べられます(Miller G:Alzheimer's research. Stopping Alzheimer's before it starts. Science Vol.337 790-792 2012)。」(朝田 隆:アルツハイマー病の発症予防法の開発. からだの科学通巻278号 161-165 2013)と述べております。
 そして、APIの他にも、DIAN(Dominantly Inherited Alzheimer Network)、A4(Anti-Amyloid Treatment in Asymptomatic AD Trial)といった研究組織が有望な検討を模索しております(http://211.144.68.84:9998/91keshi/Public/File/41/337-6096/pdf/790.full.pdf)。
 DIANは、既知3タイプのAD原因遺伝子によって生じる早発性ADを研究するために2008年に設立された組織です。
 なお、A4の研究対象は、70歳以上でPETによるアミロイドイメージングにて陽性であるが認知機能は正常な人(preclinical AD)であり、Aβを減少させることにより後続する神経細胞死へと至る流れに歯止めをかけられるか否かを検証することを主目的としており、DIANとは異なり、遺伝性ではない弧発性のアルツハイマー病の病理進行に注目して治療介入を目指すものです
 なお、A4研究(http://www.alzforum.org/new/detail.asp?id=3379)におきましては、シリーズ第189回『アルツハイマー病を治す薬への道─アルツハイマー病は3型糖尿病』のコメント欄およびシリーズ第95回『アルツハイマー病の治療薬─アルツハイマー病根本治療薬の姿』においてご紹介しましたsolanezumab(ソラネズマブ)の効果が試されます。

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 「米国は、『2025年までに効果的な予防と治療法の開発を達成する』と国家的に取り組むことを明確に打ち出した。NIA(National Institute for Aging)が主導して、ADGCとADNIが受け皿となってADSP(Alzheimer's Disease Sequencing Project=https://www.niagads.org/adsp)が進行している。家族性AD100家系以上を対象とした全ゲノムシークエンス並びにAD5,000人とその対照群5,000人の全エクソーム解析が、2013年3月に開始され2015年12月に終了する。これらのプロジェクトは、研究成果を共有して効率的な解析を推進すること基本としている。日本も先導的にこれらの国際共同研究に早く参加しなければ、またしても後手にまわり、単に日本人のデータを提供する隷属研究に陥るであろう。」(桑野良三、月江珠緒:アルツハイマー病診断における遺伝子・バイオマーカーの意義. Dementia Japan Vol.27 334-343 2013)

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A4研究:
 「抗アミロイド抗体による加療により、3年後にバイオマーカーにどのような変化が生じるかを検討するのがA4研究である。すなわち上流にあるアミロイド蓄積を抗体療法によって減らすことにより、下流にある神経細胞死や認知機能低下を予防できないか検討する試験である。」(嶋田裕之:DIAN研究. BRAIN and NERVE Vol.65 1179-1184 2013)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第414回『脳をみる検査―アミロイドイメージング』(2014年2月23日公開)
 アミロイドPETの代表が、11C-Pittsburgh compound B(11C-PIB)PET検査です。
 金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科)の山田正仁教授は、「11C-PIBは、AD脳内に蓄積した老人斑に選択的に結合する特性があり、その集積分布は剖検脳におけるアミロイド斑の分布とほぼ一致することが証明されている。Cliffordらは11C-PIB PET検査で健常者の29%、MCIの59%、AD患者のほぼ100%に異常集積がみられると報告しており、ADの診断においては健常高齢者でも11C-PIBの集積がみられることに注意する必要がある。アミロイドイメージングはその診断的有用性を確立するために臨床研究が進行中の検査であり、現時点ではその実施は研究目的となる」と述べています(山田正仁:認知症の診断学. 綜合臨牀 Vol.60 1797-1803 2011)。
 なお、アミロイドPETの実施施設は、ちょっと古い資料ですが、ネット上でも閲覧可能です。下記pdfファイル(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkou/bunka3/dai2/siryou3-2.pdf)の12頁に赤字で表示されています。

 2012年2月18日名古屋で開催された「デメンシアコングレスJAPAN 2012」に東京大学大学院神経病理学の岩坪威教授が来られ講演されました。
 J-ADNI主任研究者である東京大学大学院神経病理学の岩坪威教授は、「MCIではPIB陽性群47例中21例(45%)がADにコンバージョンしたのに対し、陰性群は18例中3例(16.7%)にとどまり、高い進展予測能が示された。」(岩坪 威:ADNIの成果とJ-ADNIの進捗. 最新医学 Vol.66・9月増刊号 2071-2078 2011)と報告しております。
 アルツハイマー病(AD)においては、診断が確定する数年前から軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)と呼ばれる状態が認められ、MCIと診断された患者さんを追跡すると、1年あたり平均12%(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013030600003.html)がADに進展します。コンバートとは、MCIからADなど認知症へと進展することであり、その率がコンバート率でしたね。
 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター(http://www.nirs.go.jp/research/division/mic/)の分子神経イメージング研究プログラムリーダーである須原哲也医師らも、「11C-PIB-PETを用いて軽度認知障害(MCI)患者をフォローアップした研究では、31例のMCI患者のうち11C-PIB-PET陽性者は17例で、その中の14例(82%)は1~3年以内にアルツハイマー病に進行した。11C-PIB-PET陰性の14例の中からアルツハイマー病に進行したのは1例(7%)のみで、これはアミロイド仮説を支持する証拠となるのみならず、アミロイドイメージングがMCIからアルツハイマー病への進行予測においても高い価値があることを示唆している。」と述べています(季 斌、須原哲也:アルツハイマー病のホールマークと神経炎症の分子イメージング. 最新医学 Vol.66 2361-2367 2011)。

 放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターの樋口真人チームリーダーは、アミロイドイメージング最大の恩恵を次のように述べています。
 「現時点における老人斑PETイメージングの最大の利点は、認知障害があってもこの検査で老人斑集積が認められなければ、ADはほぼ否定できるということにある。これにより、現在認可されているAD治療薬や、認可を目指して治験中の薬剤をADでない患者に投与する事態を防ぐことができる。」(樋口真人:画像・バイオマーカーによるアルツハイマー病の早期診断. Current Therapy Vol.30 306-313 2012)
 このようにPIB-PETなどのアミロイドイメージング技術の発達により、老人斑集積が有意に検出されなければ、アルツハイマー病を除外診断できる時代に入ってきているのです。
 しかしながら、アミロイドPETは65歳以上であれば無症状であっても2割程度が陽性となる(Aizenstein HJ, Nebes RD, Saxton JA et al:Frequent amyloid deposition without significant cognitive impairment among the elderly. Arch Neurol Vol.65 1509-1517 2008)ため、発症前診断という倫理的な問題も生じてきます。
 そのため、シリーズ第93回『アルツハイマー病の治療薬 期待される根本治療薬』において説明しましたように、米国核医学分子イメージング学会(SNMMI)と米国アルツハイマー病協会は2013年1月28日、アルツハイマー病の診断技術として注目されているPET(ポジトロン断層法)アミロイドイメージングに関する初めての適正使用指針を発表し、「無症状の人で、認知機能の訴えがあるが臨床的には障害を認められない人」は、「検査の意義のないケース」と位置づけているのです。
 日本におきましても、2013年8月に日本核医学学会が「アミロイドイメージング剤を用いた脳PET撮像の標準的プロトコール・第1版」(http://www.jsnm.org/files/pdf/guideline/2013/脳アミロイド標準検査プロトコル130814.pdf)を公開しております。しかしながら現状におきましては、「適正使用指針」については言及されておりません。
 以上のような背景もあり、これまで認知症に対するアミロイドPETは保険の適用とはされてきませんでした。しかしながら2013年になって、米メディケアメディケイドサービスセンター(Centers for Medicare and Medicaid Services ;CMS)は、条件つきで保険適用を認めました。「エビデンス開発に応じた保険適用(Coverage with evidence development;CED)」プログラムの特定の臨床試験に参加している患者に関しては、アルツハイマー病の除外診断のための陽電子放射断層撮影法(PET)によるアミロイドイメージング1回に対して保険が適用されることとなったのです。これに対して米国核医学分子イメージング学会(Society of Nuclear Medicine and Molecular Imaging ;SNMMI)は2013年9月30日に、アミロイドイメージングの保険適用が特定の臨床試験に参加している患者のみが対象となったことに失望を表明しております(http://interactive.snm.org/index.cfm?PageID=13050)。保険適用の是非はともかくとして、アミロイドPETによりアルツハイマー病を正しく除外診断することにより、本来は服用する必要がないアルツハイマー病治療薬を合理的に中止できるという大きな意義はありますね。

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 シリーズ第228回「親がアルツハイマー病、私の将来はどうかな!─予防的治療薬を与える大規模な研究」のコメント欄において述べましたように、2013年よりJ-ADNI2研究(http://www.j-adni2.org/guide.html)がスタートしております。
 その概要についてJ-ADNI主任研究者である東京大学大学院神経病理学の岩坪威教授が報告しておりますので以下にご紹介しましょう(岩坪 威:脳画像他施設共同研究:J-ADNI1, J-ADNI2. Pharma Medica Vol.32 51-54 2014)。

 J-ADNIl、米国ADNIの進行と並行して、主にAβを標的とする大規模なAD疾患修飾(根本治療)薬の治験が行われた。しかし軽~中等度ADを対象とする第三相試験では、γセクレターゼ阻害薬(セマガセスタット)、抗Aβ抗体医薬(バピネオズマブ、ソラネズマブ)のいずれもが有意な認知機能・生活機能の進行遅延効果を示さず、不成功に終わった。その主因の1つとして、認知症レベルに達した後の時期のADは、病理学的には相当程度に進行しているために、病因の上流に位置するAβなどを標的とする治療薬の対象として、時期的に遅すぎるのではないかという問題が浮上した。このため、第1期において後期MCIから軽症AD期を対象としてきたJ-ADNIにおいても、ADより早期段階に焦点を当てた発展研究が必須な状況となった。
 アミロイドPETなどの、非侵襲的な脳病理学的変化検出法が発展するにつれて、MCI以前に「アミロイドPET陽性もしくは脳脊髄液Aβ(1-42)により検出可能な、ADの病理変化はあるが認知機能は正常な時期」があり、その病期を“前発症期アルツハイマー病(preclinical AD;プレクリニカルAD)”と呼ぶことが2010年の米国国立老化研究所/アルツハイマー病協会の新診断ガイドラインにおいて提唱された。米国では2013年より、プレクリニカルADを対象とした介入的臨床研究(Anti-Amyloid treatment in Asymptomatic AD;A4)も開始されている。そこで、2013年よりJ-ADNI2研究として、早期MCIと後期MCIを含めたMCI研究と、プレクリニカルADの長期縦断観察に焦点を当てた研究を開始することになった。プレクリニカルADについては、65~84歳までのアミロイドPET陽性・認知機能健常高齢者ならびにアミロイド陰性健常高齢者各150名を、約700名のPETスクリーニングにより登録し、3年間に5回の検査を行う。MCI研究に関しては、J-ADNIlと同様の後期MCIと、記憶障害がやや軽度な早期MCIを各100例リクルートする。両研究とも、毎回所定の神経心理検査、3.0テスラMRI、採血・採尿を行い、0、12、36カ月に腰椎穿刺による脳脊髄液検査を行う。12カ月ごとにFDG-PETを行うとともに、スクリーニング時と36カ月時に脳アミロイドPETを施行し、スクリーニングにおいてAPOE遺伝子多型の検査を行う。本研究により、AD発症最初期過程と仮想されるプレクリニカルADの実態をはじめて把握し、それが真のAD前駆段階か否かに決着を与えることが可能と考えられる。米国を中心に開始されている介入研究(A4など)と連携して研究・解析を進めることにより、わが国におけるADの超早期・予防治療の実現が図られるであろう。また、MCI研究においても、J-ADNIlのデータと合わせて、わが国におけるMCIの疾病概念を、縦断データに基づいて確立し、現在開始されつつある疾患修飾薬のグローバル治験を成功に導くことも視野に入るであろう。このなかで、規範的な大規模臨床研究として、臨床研究倫理指針に沿って、データの信頼性を高める管理体制を、クラウドベースの臨床研究システム(CSスクエア)として構築することも期待されている。

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<認知症>アミロイドPET 発症前診断に賛否、続く議論
 毎日新聞2014年6月6日(金)10時2分配信

 アルツハイマー型認知症の早期診断に向けた取り組みが進んでいる。検査技術の進歩で、発症前に脳内の異変が察知できるようになったが、必ず発症するとは限らず、現在は確実な予防法も根本的治療薬もない。このため、不安をあおる可能性があるなどとして、検査の利用を拡大していくかどうかについては慎重な議論が続いている。検査の実際と注意点をまとめた。

◇ガイドライン作成
 アルツハイマー型認知症は、脳内にたんぱく質の一種のアミロイドベータなどが蓄積して神経細胞が死に、認知機能や生活能力が低下する。こうした脳内の変化は、物忘れなどの症状が表面化する前に始まっている。
 現在の技術でも、脳内のアミロイドベータの蓄積状況を画像で診断することは可能だ。ただし現在、医療現場では研究や治験以外の目的で利用できない。将来、認知症を発症する可能性が高いと分かっても、発症を抑えたり根本的に治療したりする薬がなく、症状の進行を遅らせるなどの対処しかできないためだ。
 こうした現状を踏まえ、医療現場での適切な検査技術の利用に向けた取り組みが始まっている。日本神経学会、日本認知症学会、日本核医学会は合同で、どのような場合に画像診断(アミロイドPET)を実施するのが適当かガイドラインをまとめ、一定の基準を示すとともに、検査の有用性を判断したり、画像を診断したりするための資格要件などを定めた。
 ガイドラインでは、アミロイドPETが有用なケースを(1)アルツハイマー型認知症かそれ以外の疾患か区別が難しい場合の鑑別診断(2)若年性認知症の診断…などとし、既に症状が表面化した人を対象としている。
 一方、フォローアップができない▽被験者や家族が結果を受け止められない…など倫理的問題が解決できない場合や、重度▽診断がはっきりしている▽物忘れなどの症状がない--など検査結果がその後の治療に生かせない人への検査は「不適切」とした。
 とりまとめの座長を務めた、東京都健康長寿医療センター研究所の石井賢二研究部長は「画像は診断の決め手になる」とする一方、「根本治療薬がない中で、早期診断によって生活習慣の改善を図り、治療効果や予後改善が期待できるかは今後の検討課題だ。いたずらに不安をあおったり検査結果が不適切に利用されたりすることにもなりかねず、利用には慎重な判断が必要」と指摘する。

◇発症可能性分かる
 ただアミロイドPETの積極的な利用を主張する医師もいる。湘南厚木病院の畑下鎮男副院長(脳神経外科)は「医師として責任ある診断をするためにもアミロイドPETは必要だ」と話す。
 同病院では2007年から希望者に対し、研究目的としてアミロイドPETの検査を行っている。症状や脳の萎縮状況からアルツハイマー型認知症と診断されても、アミロイドPETで診断が覆ったケースもあるという。自覚症状がない人でも2割にアミロイドベータの蓄積がみられ、そのうち約半数が5~6年以内にMCI(軽度認知障害)へ移行した。
 検査前に本人と家族に対して内容や趣旨を説明し、結果もすべて伝える。検査で蓄積が分かった人には、定期的に通院してもらい様子を確認する。規則正しい生活や食事の指導に加え、体操や散歩、趣味や仕事を続けたり他人と接する機会を増やしたりするようアドバイスもする。
 畑下医師は「患者との信頼関係を築けば、不安感だけを与えることにはならない。発症前に可能性が分かれば、自覚して予防のために動くこともできる」と強調する。

◇「心の準備」で自信
 2007年にアミロイドPETを受けてMCIと診断された神奈川県厚木市の男性(74)は「いつか認知症になるなら早く分かって良かった。友人にも(検査を)勧めたい」と話す。娘に説得されて消極的に受けた検査だったが「素人の私でもはっきり分かるカラー画像で説明されれば納得するしかない。覚悟も決まる」
 診断以来、大事なことはメモを残したりカレンダーに書き込んだりしている。夫婦で散歩や小旅行も楽しむ。時間の経過とともに症状の進行を実感する妻(69)も「今まで何とかやってこられたし、今後も何があっても対処できると思う。急に認知症と言われるよりは、心の準備期間があることで前向きに捉える自信がついた」と言う。
 国立長寿医療研究センターが行った2004年に行った意識調査では、将来認知症になった場合に告知を望む人は8割を超えた。65歳以上の4人に1人が認知症かその前段階のMCIとされる中、国は「早期診断・早期対応」を認知症施策の柱に掲げる。しかし本人にとって最適な診断時期についての議論は始まったばかりだ。【中村かさね】

遅発性パラフレニー [遅発性パラフレニー]

遅発性パラフレニー
朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第361回『「正確な医療情報を知りたい」に共鳴して―元日に寄せて』(2014年1月1日公開)
 皆様、新年明けましておめでとうございます。
 本日は、私がずっと実践してきました医療情報の普及に対する取り組みについてご紹介したいと思います。

 2013年1月29日に東京都内で「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」(主催:東京都医学総合研究所)が開催されました。
 シンポジウムにおいては、認知症の人が、その人らしく生きていけるよう地域で支えていくためには何が必要なのか、6カ国(イギリス、フランス、オーストラリア、デンマーク、オランダ、日本)の政策担当者や非営利団体の幹部、経済学者らが参加して活発な議論が交わされました。
 そのシンポジウムにおいては、「本人だけでなく、介護者のケアも必要だ」との意見も相次ぎ、オーストラリアの保健高齢化省の担当者は、「認知症の人が自宅で生活を続けるには、本人だけでなく介護者である家族に対し、カウンセリングや休養などのケアが欠かせない」と話しました。

 フランスにおける「患者と介護者のQOLを高めるための施策」についてご紹介しましょう(濵田拓男:リポート─海外でも広がる地域で支える認知症施策. COMMUNITY CARE Vol.15 56-59 2013)。
1. 「デイケア」「一時入所施設」を設置し介護者にレスパイトケアを提供する
2. 「研修」で介護者にスキルや情報の提供を行う
3. 総合病院内のリハビリ部門に設置された「認知行動ユニット」が危機的な状況にある人に介入し自宅へ帰る支援を行う
4. 介護施設内に、行動障害のある人のための専用ユニット「UHR」を設置し、BPSD(認知症の行動・心理症状)に対応する
5. 医師・看護師・ケアワーカーが認知症に対処するために、ケア専門職向けのスキル・研修を開発しトレーニングを受ける
6. 「電話相談窓口」を設置する

 私自身もカウンセリングとまではいきませんが、私が認知症診療に携わるようになってからずっと続けてきた一つの取り組みがあります。それは毎月1回、患者さんおよび介護者の方に、「もの忘れニュース」という一枚の文書を渡していることです。第1回のもの忘れニュースは、1998年の1月に配布したものであり、それから16年に渡ってこの取り組みを継続しており、2014年1月号にて通巻193号となっております。継続は力なり!と信じて、粘り強く続けております。
 アピタルの「ひょっとして認知症?」も Part1の最終回が第530回『100歳の美しい脳(その11)─たくさん本を読んで、手紙も書いて』でしたので、Part2が第470回を迎えますと延べ1000回となります。今年の4月下旬辺りでしょうかね。

 認知症に関する知識が何もない暗闇の中では、「情報」という一筋の光はひときわ大きな力を発揮します。私自身、患者さん・ご家族の「正確な医療情報を知りたい」という気持ちはごくごく普通に共感できますので、医療情報公開というライフワークに精力的に取り組んできました。
 医療情報普及のためには、インターネットは極めて大きな力を発揮します。私が自身のHPを開設したのは1996年6月23日のことです。1996年8月23日付朝日新聞・家庭面においては、「インターネットで気軽に痴ほう症診断」というタイトルで私のHPが写真入りで紹介されております。私の取り組みが全国紙朝刊で紹介されましたのはこの時が初めてです
 インターネットを活用して医療について分かりやすく情報提供していくことは非常に大切なことだと私は考えております。そして、診療現場において大切なことは、医師が話しやすい雰囲気を醸し出すことです。
 私が皆さんにお勧めすることは、診察室で「メモを取る」ことです。メモを自宅で読み返して疑問点が出てきたら、インターネットを活用して調べます。そして次回診察の折に医師に質問して、自分自身の理解が間違っていないかどうかを確認し、病気に関する理解を深めていくのです。

 2010年9月28日より「ひょっとして認知症?」の連載を続けてきましたが今秋辺りでひとまず卒業かなとは思っております。卒業の日まで、皆さん今しばらくおつき合いのほどよろしくお願いいたします。

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謹賀新年
 明けましておめでとうございます。

 昨晩はPM10時過ぎに床に就き、今朝はほぼいつも通りの時間に目覚めました。
 朝刊を開いて、「朝日賞のみなさん」という記事に目がとまりました。
 レビー小体型認知症(小阪病)を世界で初めて見つけた小阪憲司先生も受賞されましたね。
 発見当時の様子が詳しく報道されておりました。

 「発見のきっかけは新米医師だった1960年代、名古屋市内の病院で認知症の女性を診たときだった。パーキンソン症状が目立ったが、文献に当てはまる説明はない。『アルツハイマー型とは違うのではないか』と疑問を抱いた。  女性は9年後、別の病気で亡くなった。脳を顕微鏡で見ると、大脳皮質に変わった塊があった。調べると、大脳皮質にはできないとされていたレビー小体だった。76年に定説を覆す論文を出した。
 …(中略)…
 今も診察を続けながら、『第2の認知症』の理解を広げるため、全国を回る。【野中良祐】」(2014年1月1日付朝日新聞)

【感想】
 「違うのではないか?」という感性が発見のきっかけとなったようですね。
 ところで、「第2の認知症」という表現に疑問を抱いた読者の方も多かったのではないでしょうか。
 シリーズ第3回「認知症に関する理解を深めましょう─認知症の3大原因」において述べましたように認知症を引き起こす原因疾患の頻度としては、「認知症は、多様な原因で引き起こされます。認知症の3大原因とされているのがアルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)と血管性認知症(Vascular dementia;VaD)とレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)です。アルツハイマー病は認知症全体の5~6割をしめ、認知症の最も代表的な疾患です。
 65歳以上の認知症の原因疾患は、福岡県久山町での疫学調査(828名、1985~2002年)によれば、アルツハイマー型認知症(AD)が66%、血管性認知症(VaD)が17%、レビー小体型認知症(DLB)が11%でした(葛原茂樹:認知症の診かた. medicina Vol.48 1385-1388 2011)。」という数字でしたね。
 ADとDLBは変性型認知症です。変性型認知症の中では、レビー小体型認知症(DLB)は2番目に多い疾患となりますので「第2の認知症」という表現をしたのであろうと思います。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第362回『それって本当に認知症?─遅発性パラフレニー』(2014年1月2日公開)
 続いて、『誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別』の各論─第2章の冒頭に紹介されている「遅発性パラフレニー(paraphrenia)」についてお話しましょう。
 高齢者にみられる、人格と感情反応がよく保たれ、高度に体系化された妄想をRothは遅発性パラフレニー(Roth M:The natural history of mental disorder in old age. J Men Sci Vol.101 281-301 1955)と名づけました。幻聴は伴うことも伴わないこともあります。遅発性パラフレニーにおいては、女性、未婚、高齢、独居または社会的孤立、難聴、統合失調質または妄想的な人格傾向が特徴とされております(監修/松下正明 編著/粟田主一 著/浅野弘毅:日常診療で出会う高齢者精神障害のみかた 中外医学社, 東京, 2011, pp147-151)。
 なお、遅発性パラフレニーと紛らわしいものとして「パラノイア」(メモ7参照)がありますので、パラノイアについて触れている論文をご紹介しておきましょう。
 熊本大学医学部附属病院神経精神科の橋本衛講師らは、レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)において認められる妄想に関して詳細な検討をしており、「妄想はDLBの63%もの患者に認められた。これはADの23%と比較して際立って高い有症率であった。…(中略)…配偶者、恋人が浮気をしていると確信する嫉妬妄想はオセロ症候群とも呼ばれ、認知症のみならず、パラノイア、アルコール依存症など、様々な疾患で出現することが知られている。嫉妬妄想はしばしば薬物治療が奏功せず、妄想から暴力に及ぶことも多く臨床場面では対応に苦慮する妄想である。比較的稀な妄想と考えられてきたが、本研究ではおよそ9%ものDLB患者に嫉妬妄想が認められた。さらに対象を同居の配偶者がいる患者に限定し嫉妬妄想の頻度をDLBとADの間で比較したところ、DLBの14.0%に嫉妬妄想を認めたのに対して、ADでは2.5%に認めるのみでDLBに有意に多い妄想であった。」(橋本 衛、池田 学:レビー小体型認知症のBPSDの特徴と治療. Dementia Japan Vol.26 82-88 2012)と報告しております。
 なおDLBにおいては、幻視の人物を浮気相手と思って嫉妬するため嫉妬妄想の頻度が高いのではないかと推測されています(長濱康弘:幻覚・妄想・誤認. CLINICIAN Vol.59 no.608 374-381 2012)。

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妄想性障害
 妄想を主徴とするが、社会的な人格水準の低下が目立たない慢性の機能性精神障害のことを「妄想性障害」という。しかし、高齢者は脳の加齢性変化を伴っていることが多く、器質性疾患を除外することはむずかしい。妄想の内容は身の回りから発するテーマが多く、もの盗られ妄想や嫉妬妄想、被害妄想などがみられる。ただし、これらは高齢者の器質性認知症疾患でよくみられるため、妄想の内容から認知症と本症を鑑別することはできない。妄想のみがみられ、かつ認知症がないことが本症の診断根拠となるが、高齢者の場合は認知症があっても軽度であり、進行性でないかあるいは進行が極めて緩徐である場合に本症を疑う。治療は統合失調症に準ずる。
 そのほか、高齢者に発症し、やはり妄想を主徴とする病態に「遅発性パラフレニー(late paraphrenia)」がある。圧倒的に女性に多く、単身、独居など社会的に孤立している人に多いとされる。妄想の内容は、被害妄想、色情妄想(○○さんは不倫をしている、△△さんは自分に惚れている等)などありふれたものが多く、難聴を伴うことが多い。しかし、高齢者は脳の加齢性変化を伴っていることが多く、器質性疾患を除外することはむずかしい。
【田平 武:かかりつけ医のための認知症診療テキスト─実践と基礎 診断と治療社, 東京, 2014, pp136-137】

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 「認知症と妄想性障害の鑑別」という非常に興味深い質疑応答内容が日本医事新報において掲載されておりますので以下にご紹介したいと思います(宇野正威:認知症と妄想性障害の鑑別. 2014年11月8日号日本医事新報No.4724・質疑応答 52 2014)。

質問:
 認知症の外来診療において認知機能は比較的良いのに妄想が強い症例に稀に出合いますが、認知症と妄想性障害の鑑別方法について、吉岡リハビリテーションクリニック・宇野正威先生に。【質問者―田平 武(順天堂大学大学院認知症診断・予防・治療学講座客員教授)】

回答:
 認知症は、進行するに伴い、自分を取り巻く状況を正しく理解し、何が求められているかを判断するという基本的な認知機能が衰えます。理解力が低下すると、状況を一方的に思い込み、周囲に対し被害的になりやすくなります。そのため、「認知症の行動と心理症状」の中で妄想の出現頻度は高いのですが、その内容は妄想性障害の妄想とは違いがあります。
(1)認知機能低下のない妄想性障害
 妄想内容は多彩ですが、次の2例は比較的よくみられる症例です。
 症例1:一人暮らし。ドアの外から、「お金がなくなり、そのうち自殺するよ」という、自分を家から追い出そうとする男と女の声が聞こえる、という被害妄想。
 このような症例は、未婚で、一人暮らしの、非社交的な女性に多く、しばしば難聴を伴うという特徴があり、遅発性パラフレニアと呼ばれることもあります。
 症例2:「自分の身体からばい菌が出て、バスの乗客にうつるらしい。周りの人が咳払いして、ばい菌を出そうとしているのでわかる」という、心気・関係妄想。
 これらの妄想の特徴は、対象が身近な人ではなく、社会の不特定の人たちであることです。社会から迫害されるという内容であり、続合失調症の妄想に近い特徴を持っています。
(2)認知症の妄想
 認知機能が比較的良い認知症であっても、妄想内容は体系的でなく、身近な人を対象にすることの多いことが特徴的です。認知症の基礎疾患により多少差はあります。
①アルツハイマー病の“盗られ妄想”
 顕著な近時記憶障害により、自分の持ち物をしまい忘れることが非常に多いことが背景にあります。その物がみつからないと、直ちに「盗られた」と直感し、周囲の特定の人(主に介護者)を責めます。
 対象物が日常的な物であっても、詰(なじ)り方の激しいことが特徴的です。一人暮らしの場合は、「誰かが入って来て、盗って行った」と、警察に繰り返し訴えることがありますが、その単調な内容から、鑑別診断は難しくはありません。
②レビー小体型認知症の幻覚妄想状態
 盗られ妄想は、アルツハイマー病の場合とほぼ同じです。問題になるのは、幻視・幻聴と、時に軽度の意識の変容(注意と明晰性の低下)を伴いながら、統合失調症様の幻覚妄想状態を呈した症例です。
 症例3:「夜中に某宗教団体の人がいろいろな楽器を持ってきて音楽を鳴らすので眠れない」「嫌がらせをされている」「監視されている」という、幻聴と被害妄想。
 症例4:「孫が何か悪いことをしたらしく、警察に追われている」という、被害妄想か作話か判然としない体験。
 幻聴・妄想の内容は、被害的であっても断片的で、体系をつくらず、しばしば空想的です。内容が変わりやすく、妄想なのか作話なのか判然としないことも多くあります。鑑別の難しいときもありますが、基本的には自分と家族への関心にとどまり、対象が広く外の世界へ広がり、体系的な内容に発展することはありません。【回答者―宇野正威(吉岡リハビリテーションクリニック院長)】


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第363回『それって本当に認知症?─パラノイア』(2014年1月3日公開)
メモ7:パラノイア
 パラノイアは、自らを特殊な人間であると信じたり、隣人に攻撃を受けている、などといった異常な妄想に囚われるものの、強い妄想を抱いているという点以外では人格や職業能力面において常人と変わらないのが特徴です(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%8F%E5%9F%B7%E7%97%85)。
 高齢患者に妄想性障害が起こった場合、パラフレニーと呼ばれることがあります(http://merckmanual.jp/mmpej/sec15/ch202/ch202c.html?qt=%E5%A6%84%E6%83%B3 %E6%80%A7 %E9%9A%9C%E5%AE%B3 %E5%A6%84%E6%83%B3 %E6%80%A7 %E9%9A%9C%E5%AE%B3 &alt=sh)。
 妄想性障害とパラノイアを厳密に区別して解説することは、議論中の事項でもあり難しい課題ですので、議論の争点について記述している論文を紹介するに留めたいと思います。
 「古典的なパラノイア(paranoia)と、精神疾患カテゴリーとして今日定着している妄想性障害(delusional disorder)について、概念上の連続性と不連続性を文献的に検討した。19世紀からドイツ語圏を中心に発展し、Kraepelinによって練り上げられたパラノイア概念は、早発性痴呆・統合失調症の辺縁病態とみなす見解が優勢になるに従い、疾病学的な存在意義が薄れた。他方、DSM-Ⅲ-Rにおいて、妄想性障害が統合失調症やその他の精神病性障害から切り離された単一のカテゴリーとして位置付けられて以降、その臨床的特徴や疾患単位としての独立性が議論を呼んでいる。DSM-IVが定義する妄想性障害は、人格の保持や特定の妄想主題などに関して古典的なパラノイア概念を受け継いでいる。その一方で、パラノイアでは妄想が人生経験と絡み合いながら徐々に揺るぎない体系を構築していくとしたKraepelinの動的な本質把握が、現代の操作的診断で理解される妄想性障害には欠落している」(中谷陽二:パラノイアから妄想性障害へ―連続と不連続―. 臨床精神医学 Vol.42 5-11 2013)。
 遅発性パラフレニーやパラノイアは、頻度的には認知症に比べるとはるかに少ない疾患です。しかし、認知症患者さんが妄想を抱くことは少なくありませんので、鑑別が必要となります。ご家族も認知症による妄想じゃないかと心配し認知症外来を受診することがしばしばありますので、私も数名程度ですがこうした症状の患者さんを診療した経験があります。
 妄想性障害における妄想は、統合失調症のような「非現実的で不自然な妄想」ではなく、現実的に起こりうる内容です。
 妄想性障害にはいくつかのタイプがあることが知られています(http://merckmanuals.jp/home/%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87%E3%81%A8%E5%A6%84%E6%83%B3%E6%80%A7%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E5%A6%84%E6%83%B3%E6%80%A7%E9%9A%9C%E5%AE%B3.html)。
 病型としては、被害妄想型(自分の料理にだけ毒を盛られている・電話は盗聴されスパイされている・嫌がらせをされているといった妄想)が最も多いタイプです。妄想の対象は具体的でしばしば身近な特定の人です。
 他には、誇大妄想型(自分は極めて優れた才能をもっているという妄想)、色情妄想型(社会的地位が高い人が自分と恋愛関係にあるといった妄想)、嫉妬妄想型(恋人に裏切られる・配偶者が浮気をしているという妄想)、身体妄想型(寄生虫感染などの病気を持っている・体臭があるといった妄想)およびこれらの混在した混合妄想型というタイプがあります。
 余談にはなりますが、前述の「妄想性障害の亜型」は、メルクマニュアル医学百科家庭版の中に収録されている情報です。
 ネット上には玉石混交の医療情報が溢れています。情報が氾濫しており信頼できるサイトかどうかを判断することは素人では困難であるのが現状です。
 莫大な医療情報収集から入ってしまうと、「医療情報の海に溺れる」ことにもなりかねません。そんな時に私のお勧めは、先ずは「メルクマニュアル」(http://www.msd.co.jp/merckmanual/Pages/home.aspx)の活用です。メルクマニュアルは、世界の医師のバイブルとして治療に役立てられている本です。しかも幸いにして、無料で閲覧することができます。ただ利用に際しては、「注意事項」(http://merckmanual.jp/mmhe2j/about/front/note.html)はご一読下さいね。
 メルクマニュアル家庭版は、医師向けの「メルクマニュアル」をベースに、分かりやすく書き下ろした家庭向けの医学書です。メルクマニュアル医学百科家庭版のトップページ(http://www.merckmanuals.jp/home/index.html)において、「検索」のところへ調べたい疾患名などを入力すると、種々の情報を入手することができますのでご活用下さい。
 私自身も認知症についての啓発活動には積極的に取り組んでおります。このブログ『ひょっとして認知症?』もその中心的な活動の一つではありますが、実は私が認知症診療に携わるようになってからずっと続けている一つの取り組みがあります。それは毎月1回、患者さんおよび介護者の方に、「もの忘れニュース」という一枚の文書を渡していることです。第1回のもの忘れニュースは、1998年の1月に配布開始したものであり、それから16年に渡って継続しており、2013年10月号にて通巻190号となっております。
 なお、2013年8月1日にアルツハイマー病に関する諸情報を入手するうえで非常に期待されるウェブサイトが開設されました。それが、『アルツハイマー病情報サイト』(http://adinfo.tri-kobe.org/)です。このサイトにおいては、米国国立加齢研究所アルツハイマー病啓発・情報センター(Alzheimer's Disease Education and Referral Center:ADEAR)が配信するアルツハイマー病に関する最新かつ包括的な情報の日本語版が公開されております。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第364回『それって本当に認知症?─遅発性パラフレニーの事例』(2014年1月4日公開)
 それでは、『誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別』の各論─第2章の冒頭に紹介されている「遅発性パラフレニー」の疑いで入院となった事例を1例だけご紹介しましょう。個人情報保護目的により、差し障りのない範囲で改変を加えてご紹介させて頂きます。
「【症例】
 80歳代前半・女性
 病前性格は非社交的で大人しいほう。精神疾患の既往なし。
 難聴のため補聴器を使用し、白内障がある。夫の死亡後は、子どもの家に同居して問題なく暮らしていた。
【病歴】
 X-1年、『お金がなくなった』『殺される』など被害的なことをいうようになり、自ら希望してアパートに入居し、ひとり暮らしを始めた。当時、日常生活は自立しており、子どもたちには認知症があるようにはみえなかった。
 独居を始めた直後から幻視と幻聴が始まった。最初に起こった幻視は『山のような所に花火のようなきれいな光がみえる』という要素的なものだった。その後、『アパートの四畳間に中学生のような男の子が3人いた。話しかけても返事はなかったが、“仏壇のお水をとってちょうだい”と頼むと、黙ってスーッと音を立てずに置いてくれた』『別のときには部屋に帰ると、女の人が大勢で片付けものをしていた。話しかけても返事はなかった。このようなことは気味が悪いと思ったが、警察を呼ぼうなどとは思わなかった』と表現していた。
 幻視が始まった頃に幻聴も出現しており、最初のうちは『笛の音』や『人の話し声』が聞こえるというものであったが、そのうちに空き家であるはずの隣に人がいて『私の悪口を言う』と被害的な内容となった。次第に幻聴は激しさを増し、『またトイレにいった』など、いちいち行動を指摘されるようになった。
 その後、幻聴の内容に巻き込まれるようになり、激しい興奮、不穏、自殺企図、家族への暴力があり、X年に入院となった。
【入院時診断】
 遅発性パラフレニー
【検査所見】
 HDS-R:24点
 MMSE:28点
【入院後の経過・最終診断】
 入院後、数か月を経ると幻聴は被害的なものから『退院していいと言われた』『面会に来ているのがわかる』『娘の後ろ姿を見た』といった願望充足的なものとなり、次第に消退していった。半年後には精神症状は全く認められなくなったが、不活発で生気がなく、HDS-R20点、MMSE22点と低下していた。
 画像所見などからAD(アルツハイマー病)の初期と診断が変更された。」(編集/朝田 隆 著/池田研二、入谷修司:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, pp49-50)

 『誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別』の各論─第2章の冒頭部分においては、入院時診断は老年期精神病(遅発性パラフレニー)であったものの死亡後の剖検などよりアルツハイマー病(AD)と診断が変更された事例が3例紹介されております。そして、女性においてはADの13%が幻覚妄想で初発していることから診断面において注意するよう指摘されております。
 さらに、脳器質性疾患における幻覚の特徴に関しても言及されております(編集/朝田 隆 著/池田研二、入谷修司:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, pp52-53)。
 「①幻聴よりも幻視であることが多い、②その際の幻視は、閃光や光のようなものがみえるといった要素性幻視であることが多い、③幻聴がある場合でも統合失調症にみられるような会話形式や命令されるような内容のある声といった幻聴はまれであり、ざわめきとかガラガラという音が聞こえるというような要素性幻聴が多い、④天井のシミが人の顔にみえたり、壁や柱に虫やゴミのような黒いものがみえたりといった錯覚から幻覚の境界に位置する体験も器質性幻覚の特徴の1つである。」


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第365回『それって本当に認知症?─鑑別には初発年齢がカギ』(2014年1月5日公開)
 筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学の朝田隆教授は、こうした精神疾患と認知症を鑑別するポイントとして、初発年齢が一つの大きな鍵を握ると指摘しております。朝田隆教授の指摘を最後にご紹介して本稿を閉じたいと思います(一部改変)。
 「初老期以降に初発する精神疾患は少ない。遅発性パラフレニーのような例外的な疾患を除くと、機能性の精神疾患が初老期以降に初発することは比較的稀である。そのようなケースに遭遇したら、『本当に単なる機能性精神疾患でよいのだろうか?』と自省する必要がある。これに関して、最近岡山大学精神科から発表された興味深いデータがある(長尾茂人、横田 修、池田知香子 ほか:中年期から老年期に精神障害を初発した52剖検例における神経変性基盤. 第31回日本認知症学会学術集会プログラム・抄録集, p108, 2012)。中年期から老年期に統合失調症様状態を中心とする精神障害を初発した52剖検例の検討である。結果として、半数近くが非ADの認知症であるレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)、嗜銀顆粒性認知症、CBD、PSPなどの変性疾患であったと報告されている。つまり遅発性の精神疾患なら器質的背景を疑う必要がある。」(朝田 隆編集:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, p19)

アルコール関連認知症 [アルコール関連認知症]

アルコール関連認知症

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第50回『その他の認知症─アルコール関連認知症』(2013年2月11日公開)
アルコール関連認知症
 長期に多量の飲酒を続けることにより認知症を発症することがあり、それをアルコール関連認知症と呼んでいます。
 厚生労働省研究班の2008年の報告によれば、若年性認知症の原因疾患としては、脳血管性認知症(VaD)が最多で39.8%、次いでアルツハイマー型認知症(AD)の25.4%、以下、頭部外傷後遺症(7.7%)、前頭側頭葉変性症(3.7%)、アルコール関連認知症(3.3%)と続きます(池嶋千秋、朝田 隆:若年性認知症はどのくらいの患者数になるのか? 精神科治療学 Vol.25 1281-1287 2010)。
 厚生労働省のウェブサイト上の報告(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html)では、上記論文と若干数値が異なっており、アルコール性認知症(3.5%)と記載されております。

 ところで、アルコール性認知症という診断名は、現代の主な診断基準には存在しておりません(松下幸生:アルコール性認知症とコルサコフ症候群. 日本臨牀 Vol.69 Suppl10 170-175 2011)。
 それは、動物実験ではアルコールの神経毒性を示唆する結果が報告されているものの、ヒトにおいて認知症の直接原因になるという証拠は得られておらず、未解決の問題だからです。そういった背景もあり、アルコール関連認知症という別の基準が提唱されています。

 ウェルニッケ脳症(Wernicke脳症)は、ビタミンB1(チアミン)の欠乏によって生じ、外眼筋麻痺、運動失調、意識障害を三主徴とする急性脳症です。ただし、意識障害のみを示す場合もあります。
 ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏だけでも発症します。しかし、アルコールの多飲やインスタント食品の偏食による栄養の偏りなども発症の引き金となります。
 コルサコフ症候群(Korsakoff症候群)は、アルコール依存症例に合併し、Wernicke脳症後に生じることが多いため、Wernicke-Korsakoff症候群と言われることもあります。

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 「Korsakoff症候群は、アルコール乱用者のWernicke脳症のほぼ80%に続発し、即時記憶が強く障害される一方で、古いエピソード記憶は比較的保たれる。著明な前向性および逆行性健忘とアパシーが特徴的であり、最近の記憶の欠失に関連した作話症を時に認める。注意力や社会的礼節は保たれており、特に違和感なく通常の会話も成立するため、一見正常に見えることもある。」(池田賢一、髙嶋 博:栄養障害(ビタミン欠乏など)に関連する認知障害. Modern Physician Vol.33 27-29 2013)

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 私は、毎晩欠かさずにしっかりと晩酌をしておりますが、アルコール乱用者ではないと思います。
 因みに、胃ろうの患者さんが晩酌をすることもあるようです。
 仙台往診クリニックの川島孝一郎院長によると、「仙台往診クリニックで診療している在宅患者の中には、胃瘻から栄養を取りながら脱脂綿で少しずつ日本酒を口に運び、毎日晩酌をする終末期の患者さんが少なくない」(2013年2月10日発行日経メディカルNo.543 51-59)そうです。
P.S.
 胃ろうの患者さんでも、必要な栄養は胃瘻より摂取し、ごく少量のお楽しみ程度に「経口摂取」をされるという方は結構多いですよ。その辺りが、胃ろうの持つ大きな意義ではないでしょうか(=栄養管理をしたうえで、「お楽しみ」として好きなものをほんの少しだけ味わう!)。
 延命目的の胃ろうと栄養管理目的の胃ろうは、きちんと分けて議論する必要があります

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 興味深い事実もご紹介しましょう。
①アルコールは神経新生を阻害する(He J, Nixon K, Shetty AK et al:Chronic alcohol exposure reduces hippocampal neurogenesis and dendritic growth of newborn neurons. Eur J Neurosci Vol.21 2711-2720 2005)。
②断酒によりアルコールによって阻害されていた神経新生過程が再開することになり脳体積の回復や認知機能の改善をもたらす(Crews FT, Nixon K:Mechanism of neurodeneration and regeneration in alcoholism. Alcohol Alcohol Vo.44 115-127 2009)。
③アルコール関連認知症(alcoholic-related dementia;ARD)は、断酒を継続するかぎり認知症の進行は起きないという点で、ARDとADは大きな相違点がある。
【編集/朝田 隆 著/小宮山徳太郎:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, pp125-139】

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 「典型的で重度のコルサコフ症候群の患者であっても、健忘は、エピソード記憶に選択的であるため、意味記憶や手続き記憶は保たれている。そのため、会話は通常どおり可能で、英語の和訳や調理など、病前に獲得した知識や能力には大きな問題がない。少し話をしただけでは記憶障害の存在はわからないであろう。」(吉益晴夫:記憶. 精神科 Vol.23 147-151 2013)

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 「臨床検査については、血中VB1(正常値20~50mg/ml)の低下を認める。ただし、血中VB1は測定に時間を要し、日常的に検査される項目でないため、VBlを検査するという認識を持つことが重要である。血中VB1値は血液脳関門のため、脳での値を必ずしも反映しておらず、血中VB1が正常範囲内でもWernicke脳症を発症する可能性があり注意が必要である。」
【上野亜佐子、米田 誠:Wernicke脳症に伴うdementia. 神経内科 Vol.80 95-100 2014】

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 「世界的な約四八万人、三〇年間の調査を集計した結果では、適量のアルコール(一日二二グラム。ビールは大瓶一本、日本酒は一合)は二型糖尿病を男性は一三%、女性は四〇%防ぎますが、飲みすぎると(一日六〇グラム以上。ビール大瓶三本、日本酒三合以上)逆効果になることがわかりました。酒は『百薬の長』なのでしょうか。最近、このくらいの量のアルコールを飲む人は、動脈硬化にもなりにくいという調査結果が報告されていますから、適量のアルコールを飲んで、健康に暮らしている人は動脈硬化が起こりにくく、その結果、認知症にもなりにくいということなのでしょう。」(中谷一泰:ストップ!認知症 しくみがわかれば予防ができる! 西村書店, 東京, 2014, pp59-60)

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 「最近マスコミなどでも話題の塩麹(しおこうじ)は、麹に水と塩を加えて発酵させたものです。味は、旨み成分をたっぷり含んだ塩のようなもので、どんな食材、料理にも使え、食材の旨みを引き出してくれます。このようなことから、『魔法の万能調味料』とも呼ばれています。
 また、味だけでなく、幅広い効能も発揮します。
 塩麹からは、発酵の過程でビタミンB1、B2、B6、ビオチン(ビタミンH)、ナイアシン、パントテン酸、イノシトールといったビタミン類が生み出されます。これらには、細胞の新陳代謝を高めたり、栄養素の分解を促進したりする働きがありますから、非常に高い疲労回復効果が期待できるのです。」(白澤卓二:食べ物を変えれば認知症は防げる 宝島社, 東京, 2014, pp59-60)

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7. 飲酒と認知
 まず、飲酒頻度と認知症の関係はApoE ε4の有無により異なる。ε4を有さない場合は月に1回程度の飲酒群において認知症の発症率は最低であるが、ε4を有する場合には飲酒頻度が増えるに従い認知症発症が増加した(Anttila et al., 2004)。
 飲酒量に関しては少量から中等量が認知機能には良いとされている。少量~中等量の飲酒が65歳以上の日系アメリカ人男性(Bond et al., 2001)と白人(Bond et al., 2003)における良好な認知機能と関連することが示された。禁酒者に比べて、数ドリンク(ドリンク数に関しては下記)の飲酒者は認知機能低下が40%少なく、この傾向はApoE ε4陽性者において強かったという(Carmelli et al., 1999)。55~88歳の男性733名と女性1,053名を対象にして飲酒量と認知機能8領域(言語性記憶、記銘、視空間構成、視覚記銘、注意、抽象化、概念形成)にて評価したところ、2~4ドリンクを飲酒する女性と4~8ドリンクを飲酒する男性にて認知機能が良好であった(Elias et al., 1999)。欧米では“one drink”はアルコール換算で約15gであり、適切な飲酒量は1~4drink程度、アルコール換算量で14~52gとされている(Elias et al., 1999)。本邦では“one drink”をアルコール量10gとすることが多い。これに従うと、適切な飲酒量はビール(アルコール含量5%)では欧米280~1,040ml、本邦190~700ml、ワイン(10%)では欧米140~520ml、本邦90~350ml、日本酒(14%)では欧米100~370ml、本邦70~250ml程度となる。

13. 限界と問題点
 以上に述べた方法論を実診療の場面において応用しようとする場合、具体的な血圧や血糖のコントロールレベルが示されていないこと、食事、運動、認知トレーニングを受け入れる許容範囲が個人により大きく異なる可能性があること、推薦される飲酒量の範囲が広いことなどが、今後も引き続き検討されるべき問題点であると思われる。
【福井俊哉:日常生活における認知障害の予防法. Dementia Japan Vol.28 319-328 2014】