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サヴァン症候群 [脳科学]

朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第127回 認知症にリハビリの効果は期待できるか?(7) 驚異の才能』(2011年6月13日公開)
 前頭側頭葉変性症の発症後に芸術的能力を開花させたケースが報告されており、獲得性Savant症候群として注目されています。昭和大学医学部内科学講座神経内科学部門の河村満教授は、「獲得性Savant症候群の多くの例では、左大脳半球の障害が能力開花のきっかけとなっている。つまり、左大脳半球の活動抑制によって右頭頂葉の機能が亢進した現象とも考えられる」と述べています(診断と治療 Vol.99 467-474 2011)。
 では、右頭頂葉の機能が低下すると、それまで持っていた芸術的能力が衰えるのでしょうか? 実は私はそう考えていました。しかし、ダーリア・W・ザイデルの著書『芸術的才能と脳の不思議-神経心理学からの考察』(河内十郎監訳,河内薫訳,医学書院,2010,pp38-43)には、右頭頂葉損傷後も芸術的技能に変化を認めなかった複数の画家・芸術家・彫刻家のケースが紹介されております。2次元の絵における空間の奥行きの表現は右頭頂葉の働きによる(同書 ,p47)ことを考えるととっても興味深い事実ですよね。
 Savant(サヴァン)という言葉はあまり聞き慣れない用語だと思います。ソニー・コンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャーの茂木健一郎博士は、著書(奇跡の脳の物語-キング・オブ・サヴァンと驚異の復活脳. 廣済堂新書, 東京, 2011, pp14-17)の中で、「サヴァン」という言葉の由来を紹介しています。
 「1887年、ダウン症候群の研究者として知られるJ・ラングドン・ダウンが興味深い報告を残している。自身が院長を務めていた精神病院の患者のなかに、驚異の才能をもった人々がいると。このときのダウン博士のレポートは、精神的な障害とサヴァン症候群との間に、何らかの関連性があることを示した最初の報告だった。またダウン教授が、こうした特異な症状を『サヴァン』という言葉を使って表現した最初の人物でもあった。当初は『イディオ・サヴァン(白痴の賢者)』といわれていたが、今では単に『サヴァン』と呼ぶようになっている。」
 
 茂木健一郎さんの著書の第2章「百年の友情」(奇跡の脳の物語-キング・オブ・サヴァンと驚異の復活脳. 廣済堂新書, 東京, 2011, pp57-97)においては、超未熟児で生まれ、脳の深刻なダメージによって重度の発達障害と学習障害があり、成長しても人とコミュニケーションをとることはまずできないだろうと医師から生後まもなく悲痛な宣告をされたデレクの奇跡の物語が紹介されています。
 デレクは、早産のため肺機能が十分に発達していなかったため、高濃度酸素治療が行われました。1979年当時は、未熟児に高濃度酸素を長時間投与すると網膜剥離を引き起こしてしまう危険性が熟知されておらず、治療により命は救われましたが、その代わりデレクは視力を失ってしまいます。
 重度の自閉症で、ピアノのレッスン以前に、人とコミュニケーションをとることがきわめて難しいデレクがその後、盲目の天才ピアニストと成長していきます。
 デレクの才能の注目される点は、創造性を有するサヴァン症候群であったという部分です。
 この点に関して茂木健一郎さんは次のように述べています。
 「サヴァン症候群の人々には、側頭連合野に膨大なデータを収納して、それをそのまま引き出してくることに長けている人は多い。一方、そのデータの配列を変えてアレンジするには、前頭葉の指令が必要となる。つまり脳に『意欲』のようなものがないかぎり、創造性というものは生まれないのだ。だから、創造的になるためには、まず、この『意欲』をいかに引き出すのかが、いちばん大切になってくる。ここで、ピアノをいつも一緒に弾いていたアダムの存在はとても大きかったのではないだろうか。…(中略)…言葉による会話が苦手なデレクは、アダムとのピアノの連弾ではじめて、自分の感情を表現し、それを誰かに受けとめてもらうという喜びを知ったのではないか。音楽こそが自分と人々を結びつけてくれる。…(中略)…音楽を自由に操って自分の感情をもっと表現して、もっともっと人とつながりたい。そんな欲求が創造性を育んできたのではないだろうか。」


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第150回 出そろった4種類の認知症治療薬(4) 珍しい副作用のケースに遭遇』
 私が最近経験した極めて稀な副作用の一例をご紹介しましょう(以下、個人情報の特定を防ぐために事実関係に若干の改変を加えています)。
 患者さんは、80代後半の女性です。
【既往歴】
 高血圧症にて月1回、近くの病院で投薬加療中。
【主訴】
 物忘れ
【認知機能検査】
 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R):26/30
 リバーミード行動記憶検査(日本版/RBMT)
  標準プロフィール点(24点満点):6/24
  スクリーニング点(12点満点):1/12
 ※アルツハイマー病では、標準プロフィール点が5点以下、スクリーニング点が1点以下まで低下することが多いです。

 記憶障害以外に、息子がもう一人家の中にいるような誤認や昨年死んだ犬が今も生きているような言動も確認されましたので、軽度アルツハイマー型認知症と診断し、2010年11月よりドネペジル(商品名:アリセプト)を開始しました。
 2011年6月の診察の際にご家族から、「この2~3か月ほど、首の前屈が目立ってきました」という訴えがあり、「ひょっとして副作用?」と疑い、ドネペジルを中止してみることにしました。
 と言いますのは、非常にな副作用ですが、「首下がり」に関する文献をごく最近、医学書店で立ち読みした記憶がかすかにあり、頸部前屈(首下がり症候群)という珍しい副作用をふと思い出したのです。
 私は物忘れがかなり多い方です。特に楽しかった飲み会におけるある時点以降の記憶はほとんど飛んでしまう方です。もし私に「タイムマシンのような記憶力」(メモ参照)があったら記載されていた雑誌を思い起こしてすぐに調べられるのにと残念に思いました。2011年春先の「神経内科」雑誌だったようにおぼろげには記憶していましたので、榊原白鳳病院神経内科医師に相談しました。するとすぐに掲載雑誌を持ってきてくれました。

メモ:タイムマシンのような記憶力
 ソニー・コンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャーの茂木健一郎博士が書かれた著書には、「超記憶症候群」のリック・バロンさんの詳細が紹介されています(奇跡の脳の物語-キング・オブ・サヴァンと驚異の復活脳. 廣済堂新書, 東京, 2011, pp99-117)。
 リック・バロンさんは、世界でたった四人しかいないとされる超記憶症候群の一人だそうです。
 著書によれば、超記憶症候群とは、「通常、時間ととともに薄れてゆく幼い頃に体験した出来事などを、細部に至るまですべて正確に覚えている能力」と言われています。
 リックは、「十三歳から現在にいたるまで、およそ四十年以上にわたって、自分に起きた出来事を正確に記憶している」そうです。

 皆さん、リックの家にないものって分かりますか?

 「リックの家には、カレンダーも、電話帳も本もメモ用紙もない」そうです。一度見たものはすべて覚えてしまうため、そのような類のものは必要ないようです。
 メモ魔の私にとっては、羨ましい限りの才能です。毎晩意識が遠のくまで深酒をして、おそらく海馬が萎縮して記憶力が低下している私にとっては・・。


重複記憶錯誤
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/08/06 12:40
 このケースの診断は、「軽度アルツハイマー型認知症」と記載しておりますが、実は、レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)も疑わしい状況です。
 DLBの概略は、シリーズ第20回『幻視が特徴の認知症とは』にて復習して下さいね。
 さて本例のどこが「DLBらしさ」かというと、「息子がもう一人家の中にいるような誤認」という部分です。この症状は、専門的には「重複記憶錯誤」と呼ばれます。

 DLBでは他にも、「幻の同居人」とか「カプグラ症候群(Capgras syndrome)」などの奇異な症状も時折認められます。これらの症状に関しては、後日また別の機会に詳しく説明致します。


超記憶症候群
投稿者:シャトー 投稿日時:11/08/06 18:17
 稗田阿礼もそうだったのでしょうか。

Re:超記憶症候群
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/08/07 05:13
シャトーさんへ
 かなり古い時代の方ですから、詳細な記録は残っていないのでは・・。
 まともな回答になっていなくて申し訳ないです。


認知症の治療に疎い私に教えて下さい
投稿者:音とリズム 投稿日時:11/08/07 03:46
 この方の認知症治療の目標は何になるのですか? 治療薬によって、正しい記憶をよみがえらせる事? それともそれ以上の進行を阻止する事? 自分にあった治療薬を探すのも大変ですが、治療薬を用いると家族が決断する時も大変ですよね。

 私もメモ魔ですが、メモするの大好き。メモするのは、自分の記憶が頼りにならないからですが、メモする過程に新たな学習の喜びがあります。

認知症治療の目標
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/08/07 05:14
音とリズムさんへ
 コメント拝見しました。
 とっても重要な質問だと思います。「認知症治療の意義」に関しては、以前から議論されている話題です。
 シリーズ第83回『早期診断・早期治療が重要である理由』において、「認知症診療において早期診断・早期治療が重要であるのは、端的に言えば『認知症の進行を遅らせることができるから』です。」と私は述べております。
 さらにもっと早期の段階(=軽度認知障害;MCI)で受診することの意義に関しても、シリーズ第4回『認知症検診の誕生秘話』のコメント(=『今、受診することの意義』)において、「正確な診断のために」と説明しました。
 幻視に対して不安を感じておられる方でしたら、それに対するケアの指導なども認知症外来では求められます。
 軽度から重度に至るまで共通の治療目標は、「家族が穏やかに介護していけるように」という視点ではないかと私は考えています。

 また、「治療の意義」を論ずるうえでは、「費用対効果」の問題を考える必要が出てきます。
 認知症の進行を遅らせることは、「一時的でわずかな認知機能の改善に過ぎないのなら、認知症による問題行動に振り回されてきた介護者にとっては、その辛いプロセスを長く続けることになってしまう」という指摘もされております。そのような意見に対して、真摯に耳を傾けることも必要だと思います。
 「費用対効果」の問題は、また改めて詳しくお話させて頂きます。


ありがとうございます
投稿者:音とリズム 投稿日時:11/08/07 13:12
 Dr. 笠間、わかりやすく説明していただきありがとうございます。最近ブログを読み始めたので過去に書かれたリポートは拝見していませんでした。失礼しました。
 認知症の進行を遅らせることと、その引き換えに介護が長期化する事のジレンマは重要な問題ですね。また、費用の事も重要な問題です。「費用対効果」のお話し楽しみにしています。また、どんどん進む高齢化社会で、ますます多くなる認知症の患者さんの研究をなさり、我々の医療に貢献くださりありがとうございます。
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